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1話 次代の契約者
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「次代の守護獣様の契約者の名は――ミルファ・ヴェンディア。私の命が尽きる前に、彼女をここへお呼びください」
しわだらけになった老婆が、玉座の前で静かにそう告げた。
この場には国王は勿論、王族に連なる者や上位の貴族たちなどが集まっている。
守護獣――それは古くからこの王国に住み着き、結界を張る事でこの国を外敵から護り続けた神の使いとも呼ばれている存在だ。
そして守護獣は自らが指名した人間を契約者として傍に置く。
つまりこの老婆こそが当代の守護獣の契約者であり、その命が尽きかけている事を察した守護獣が次なる契約者を求めてその名を告げたのだ。
しばらくの沈黙を破り、国王がゆっくりと口を開く。
「ミルファ・ヴェンディアか。余の記憶が正しければ、ヴェンディア伯爵家の娘であったと思うのだが、大臣、どうだ」
「はっ、陛下のお言葉の通りヴェンディア伯爵家にはミルファという娘がいたはずでございます」
「そうか、それならば話が早い。すぐに彼女をここへ呼ぶとしよう」
次なる契約者が王国の人間であり、さらに召喚するのに非常に都合がいい貴族令嬢であった事を知った彼らは喜びと安堵の声を上げている。
これで向こう数十年は安泰だと、国王もまた胸を撫でおろしていた。
だがその中でたった一人、国王の第一子である王太子シヴァンだけは冷や汗を流して落ち着きのない様子だった。
「――おおそうだ、シヴァンよ」
「はっ、はいっ!?」
「確かお前はミルファ嬢と親しくしておったな」
「あ、い、いえ、それほど、でも……」
「ちょうどいい。お前の口から彼女にこの事を伝えてもらおう。できるな?」
「うっ、そっ、それは……」
父王の要求を聞いたシヴァンの顔が見る見るうちに青ざめていく。
親しくしていたのならば守護獣の件を伝えてこの場に呼び出すのは難しくはない。
まして彼は王族。しかも王位継承権第一位。
伯爵令嬢であるミルファが断れるはずもない。
「どうした、何か不都合でもあるというのか?」
「い、いえ、そういう訳では……」
そう、親しくしていたのなら何一つ問題はないはずだった。
彼の脳裏に浮かぶのは、膝を落とし深く絶望したミルファの顔。
正式な形ではないものの、いずれ婚約者として迎え入れ生涯愛し続けると誓ったミルファを、彼は裏切ったのだ。
理由は非常に単純で、別のもっと身分が高い女性が好きになってしまったというものだ。
ミルファへの愛が無くなった訳ではないもののその女性と婚約を結ぶ方が遥かに簡単であり、天秤にかけるとシヴァンにとってどちらを選ぶのが良いかと言うのは明白であった。
故につい先日、ミルファに対して婚約の予定を破棄するとを宣言。
さらに秘密裏に婚約していたミルファの存在は不都合いう事で、ありもしない罪をでっちあげて勝手にミルファに対して国外追放を言い渡してしまったのだ。
「何やら顔色が悪いようだが、どうかしたのか?」
「い、いえ、大丈夫です。申し訳ありません……」
「ならばよい。では、頼んだぞ」
「はい……」
急いで探し出して和解しなければ。
破裂しそうな心臓を抑えながら、悟られる前に玉座を背に歩き出したシヴァンだった。
しわだらけになった老婆が、玉座の前で静かにそう告げた。
この場には国王は勿論、王族に連なる者や上位の貴族たちなどが集まっている。
守護獣――それは古くからこの王国に住み着き、結界を張る事でこの国を外敵から護り続けた神の使いとも呼ばれている存在だ。
そして守護獣は自らが指名した人間を契約者として傍に置く。
つまりこの老婆こそが当代の守護獣の契約者であり、その命が尽きかけている事を察した守護獣が次なる契約者を求めてその名を告げたのだ。
しばらくの沈黙を破り、国王がゆっくりと口を開く。
「ミルファ・ヴェンディアか。余の記憶が正しければ、ヴェンディア伯爵家の娘であったと思うのだが、大臣、どうだ」
「はっ、陛下のお言葉の通りヴェンディア伯爵家にはミルファという娘がいたはずでございます」
「そうか、それならば話が早い。すぐに彼女をここへ呼ぶとしよう」
次なる契約者が王国の人間であり、さらに召喚するのに非常に都合がいい貴族令嬢であった事を知った彼らは喜びと安堵の声を上げている。
これで向こう数十年は安泰だと、国王もまた胸を撫でおろしていた。
だがその中でたった一人、国王の第一子である王太子シヴァンだけは冷や汗を流して落ち着きのない様子だった。
「――おおそうだ、シヴァンよ」
「はっ、はいっ!?」
「確かお前はミルファ嬢と親しくしておったな」
「あ、い、いえ、それほど、でも……」
「ちょうどいい。お前の口から彼女にこの事を伝えてもらおう。できるな?」
「うっ、そっ、それは……」
父王の要求を聞いたシヴァンの顔が見る見るうちに青ざめていく。
親しくしていたのならば守護獣の件を伝えてこの場に呼び出すのは難しくはない。
まして彼は王族。しかも王位継承権第一位。
伯爵令嬢であるミルファが断れるはずもない。
「どうした、何か不都合でもあるというのか?」
「い、いえ、そういう訳では……」
そう、親しくしていたのなら何一つ問題はないはずだった。
彼の脳裏に浮かぶのは、膝を落とし深く絶望したミルファの顔。
正式な形ではないものの、いずれ婚約者として迎え入れ生涯愛し続けると誓ったミルファを、彼は裏切ったのだ。
理由は非常に単純で、別のもっと身分が高い女性が好きになってしまったというものだ。
ミルファへの愛が無くなった訳ではないもののその女性と婚約を結ぶ方が遥かに簡単であり、天秤にかけるとシヴァンにとってどちらを選ぶのが良いかと言うのは明白であった。
故につい先日、ミルファに対して婚約の予定を破棄するとを宣言。
さらに秘密裏に婚約していたミルファの存在は不都合いう事で、ありもしない罪をでっちあげて勝手にミルファに対して国外追放を言い渡してしまったのだ。
「何やら顔色が悪いようだが、どうかしたのか?」
「い、いえ、大丈夫です。申し訳ありません……」
「ならばよい。では、頼んだぞ」
「はい……」
急いで探し出して和解しなければ。
破裂しそうな心臓を抑えながら、悟られる前に玉座を背に歩き出したシヴァンだった。
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