最強!最凶?理不尽賢者ローズマリーを夜露死苦!

日置弓弦

文字の大きさ
上 下
80 / 92
【第5章理不尽賢者と新大陸】

【理不尽賢者とドワーフの国Ⅲ】

しおりを挟む
興奮の渦

日曜日の朝、まだ空が白んできたばかりの時間、東京の郊外にある古びた野球場に少年たちの姿があった。ユニフォームに身を包み、目を輝かせる彼らは、今日という日を待ちわびていた。

「今日は絶対に勝とうぜ!」

キャプテンの翔太が声を張り上げ、チームの仲間たちに気合いを入れる。小学校最後の試合。地元のライバルチームとの決戦だ。翔太はバットをしっかりと握りしめ、心の中で何度も自分に言い聞かせた。勝つんだ、絶対に。

ベンチに腰掛け、スパイクの紐を結び直す翔太に、親友の陽介が近づいてきた。彼の顔にも緊張と興奮が入り混じった表情が浮かんでいる。

「翔太、なんかドキドキしてきたな…負けたら終わりなんだよな、今日で。」

翔太は大きく息を吸い込み、陽介の肩をポンと叩いた。「そうだな。でも、俺たち今まで練習してきたじゃん。絶対にやれるさ!」

その言葉に、陽介も力強く頷く。彼らは今までの努力を信じたかった。真冬の寒い日も、真夏の暑い日も、一緒に汗を流し、時には泣き、時には笑いながら、ここまでやってきたのだ。

試合開始のアナウンスが響き、二人はお互いに目を見合わせる。心臓が高鳴る。興奮が全身を駆け巡り、鼓動が速くなる。これまでに感じたことのない、熱いエネルギーが体の中で燃え上がっていた。

彼らの試合が始まった。先発ピッチャーの陽介がマウンドに立つ。彼の投球に合わせ、翔太が声を張り上げる。「いけ、陽介!三振を取れ!」

陽介は深呼吸をし、相手バッターの動きをじっと見つめた。力強く振りかぶり、思い切り腕を振る。白球は鋭い弧を描き、キャッチャーミットに収まる。「ストライク!」審判の声が響き、観客から大きな歓声が上がった。

一球一球が、まるで心臓を鷲掴みにするように感じられた。陽介の腕は緊張でこわばり、汗が滲む。だが、仲間たちの声援が彼の背中を押す。相手バッターも一筋縄ではいかない。フルカウント、全身の力を振り絞って投げた最後の球は、わずかに外れた。

「フォアボール!」

観客席からため息が漏れ、陽介は悔しそうに拳を握りしめた。しかし、翔太はすぐに駆け寄り、彼の肩を叩く。「気にするな、陽介!まだまだこれからだ!」

試合は進み、互いに一歩も譲らない接戦が続いた。翔太の打席、バットを構えながら、心臓が高鳴るのを感じていた。目の前には相手チームのエースピッチャー、剛腕の持ち主だ。

「負けられない…」

その思いが彼の胸を熱くする。全神経を集中させ、目の前の投手を見据えた。剛速球が唸りを上げて翔太のもとに迫る。瞬間、彼は渾身の力でバットを振り抜いた。

カキーン!

快音が響き、ボールは一直線にセンター方向へ飛び去る。スタンドから歓声が上がり、翔太は全力でベースを駆け抜けた。相手チームが必死に追いかけるが、ボールはフェンスを越えた。

「ホームラン!」

翔太は歓声に包まれながら、全力でダイヤモンドを回った。仲間たちが迎えに来て、飛び跳ねながら彼を抱きしめる。「やった、やったぞ、翔太!」

興奮は最高潮に達し、彼らの心を一つにした。その瞬間、疲れも緊張もどこかへ消え去り、ただただ嬉しさと喜びで満たされた。

しかし、試合はまだ終わっていなかった。9回表、相手チームの反撃が始まった。連打で一点を返され、点差はわずかに一つ。満塁のピンチ、陽介の腕は疲労で限界を迎えていた。

「ここで抑えれば、勝てる…」

翔太の声が聞こえる。彼のためにも、チームのためにも、ここで諦めるわけにはいかない。陽介は震える手で最後のボールを握りしめた。

「いけ、陽介!」

仲間たちの声援が背中を押す。彼は全身の力を振り絞り、最後の球を投げた。鋭い直球がバッターのバットをすり抜け、キャッチャーミットに突き刺さる。

「ストライク!ゲームセット!」

その瞬間、球場は大歓声に包まれた。陽介はマウンドに崩れ落ち、涙を流した。翔太は駆け寄り、彼を力強く抱きしめる。

「やった、やったぞ、陽介!俺たち、勝ったんだ!」

涙と汗にまみれながら、彼らは歓喜の渦に巻き込まれた。全力で戦い抜いた喜びと、仲間と共に掴んだ勝利の味。それはこれまでに感じたことのない、心の底から湧き上がる興奮だった。

試合後、彼らは抱き合い、笑い合い、何度も勝利の余韻を噛みしめた。少年たちにとって、この試合は忘れられないものとなった。興奮の渦の中で、彼らは一つのチームとして成長し、絆を深めた。

翔太と陽介は、ベンチに並んで座りながら、夜空を見上げた。星が瞬き、彼らの笑顔を優しく照らしている。今日のこの興奮は、いつまでも彼らの心に刻まれ、これからの人生の大きな力となるだろう。

「俺たち、やったな、翔太。」

「ああ、最高の試合だったよ、陽介。」

二人は静かに頷き合いながら、ゆっくりと目を閉じた。心に残る興奮の余韻を抱きしめながら、これからの未来を夢見ていた。






しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

アイムキャット❕~異世界キャット驚く漫遊記~

ma-no
ファンタジー
 神様のミスで森に住む猫に転生させられた元人間。猫として第二の人生を歩むがこの世界は何かがおかしい。引っ掛かりはあるものの、猫家族と楽しく過ごしていた主人公は、ミスに気付いた神様に詫びの品を受け取る。  その品とは、全世界で使われた魔法が載っている魔法書。元人間の性からか、魔法書で変身魔法を探した主人公は、立って歩く猫へと変身する。  世界でただ一匹の歩く猫は、人間の住む街に行けば騒動勃発。  そして何故かハンターになって、王様に即位!?  この物語りは、歩く猫となった主人公がやらかしながら異世界を自由気ままに生きるドタバタコメディである。 注:イラストはイメージであって、登場猫物と異なります。   R指定は念の為です。   登場人物紹介は「11、15、19章」の手前にあります。   「小説家になろう」「カクヨム」にて、同時掲載しております。   一番最後にも登場人物紹介がありますので、途中でキャラを忘れている方はそちらをお読みください。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

2回目の人生は異世界で

黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

処理中です...