上 下
79 / 92
【第5章理不尽賢者と新大陸】

【理不尽賢者とドワーフの国Ⅱ】

しおりを挟む
「えーと、ミリアのギルドの名前って何だっけ?」

「マグナギアよ、しっかり覚えておいてね」



飛空船を透明化させるとローズマリーはマグナギアの裏庭に船を着陸させた。そして半年を超えて再びリントの街の大地に降り立った。少しばかり感慨深くなった。



「ローズマリー、こっちよ。裏口から入りましょう、騒ぎになったら大変よ」

「了解!」

「お前の今までしでかした、悪行の数々が噂になっていやがるからな」ケラケラと笑うエンデュミオン。

「そんなにまた壁に埋まりたいのかよエンデュミオン?」

「や、やめろ! いくら強くなったとはいえお前には敵わねえぜ」

「ふっ、領主たちから逃げるようにして出奔したからな、懐かしい」



「こんちはーミリアはいるかい?」できるだけひっそりと声を出した。

「はーい、どなたさ、まって! えええ! 大賢者様!」

「ちょっと黙ってくれよ。頼むから!」

「……わ、分かったわ。何か事情があるのね裏庭で話を聞くわ」



……ローズマリーの今までしでかしたことは話に尾ひれがついて広まっていったようだ。オルケイアの話に至っては王子を下僕にして国王にしてオルケイア国を事実上の支配下においたということになっていた。他にもモンスターを一晩で何千万という数を拳1つでぶち殺したとか……。



「大分話がややこしくなっているみたいだな」

「私も最初は嘘だと思っていたけれどエンシェントドラゴンを殴り殺した時のことを思い出して信じてしまったわ」

「で、頼みがある。あたしをマグナギアの正式メンバーにして欲しい」

「それは有り難い話だけれど、何か企んでるんじゃないでしょうね?」

「情報が欲しい。魔王の城への正確な地図が欲しいんだ」

「良いわ、国王様のサインが本当は必要だけれど、後で了承をとるわ。ちょっと待ってってね」



 ミリアは銀髪をたなびかせてマグナギアの建物に入っていった。それから約10分後ミリアは埃まみれになって古い地図を持ってきた。



「これが2年前にとある冒険者が決死隊を編成して作った地図よ。北の大陸モリガルアへの地図よ」

「作成に携わったのはアラム騎士団とか言う連中か?」

「よく知ってるじゃない?」

「クリフトの親父から聞いた」

「クリフトって『あの慈悲の名君』クリフト王? 獣人族と人間族を歴史上初めて公平にしたって言う……あの御方?」

「クリフトは、エンデュミオンやセレーナ、ルーンベルトと同じであたしのダチ公だよ」

「あいつも今じゃ忙しくててんてこ舞いだろうな」

「ふっ、王侯貴族とはただ玉座に座っていれば良いというようなものではないのだ。寝る暇もないだろうに……」

「クリフトにもゴブリッシュ飲ませてあげたかったわね……」



各々クリフトに対する思いは深いようだった。それを見たミリアが言った。



「本当に仲の良い友人だったようね。その人もきっとローズマリー達のことを大事に思っている筈よ」

「そ、そういえばカーヴァインって言う名前を知らないか? ミリア?」

「カーヴァイン! あの人のこと知っていたの? 恥ずかしいわ」

「知り合ったきっかけはキッカ草の花だろう?」

「も―あの人ったら口は堅いように見えたのに……そうよ森の中で20年に一度咲くキッカ草の花をあの人が見ていたの……それで……その格好良くて……私からアプローチしたの」

「来年キッカ草の花をまた来ようって日記に書いてあったぞ。ミリアのことをキッカ草の花に例えていたんだな」色白なミリアは顔を真っ赤にして恥ずかしがっている。

「あいつもあたしのダチ公だよ。えらい目に遭いそうになったけれどね」

「あの人なんでしょう? 私の呪いを解いてくれたのは……ああ早く会いたいわ……カーヴァイン」

「んじゃ、地図はもらっていくよ」

「ま、待って。これからどこに行くのだけ教えて?」

「ドワーフの国だよ。腕が良い鍛冶屋を探しているんだ」

「それならマグナギアのケイネア支店に行くと良いわ、推薦状を書いておくわね」

「ケイネアねえ、腕利きの職人は探してくれるのかね」

「それは神様に祈るしかないわ、雷神トールにね、ちょっと待っててね。推薦状を書いてくるから」



 ミリアの銀の長い髪が揺らいでいく。ローズマリーはそれを目で追っていた。この街の牧歌的な風景だけは守らなければならない。あたしの背中の文字が泣くようなことは絶対に起こさせない。あたしの目的は魔王をぶち倒すことなのだから。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! 本編完結しました! リクエストの更新が終わったら、舞踏会編をはじめる予定ですー!

竹林にて清談に耽る~竹姫さまの異世界生存戦略~

月芝
ファンタジー
庭師であった祖父の薫陶を受けて、立派な竹林好きに育ったヒロイン。 大学院へと進学し、待望の竹の研究に携われることになり、ひゃっほう! 忙しくも充実した毎日を過ごしていたが、そんな日々は唐突に終わってしまう。 で、気がついたら見知らぬ竹林の中にいた。 酔っ払って寝てしまったのかとおもいきや、さにあらず。 異世界にて、タケノコになっちゃった! 「くっ、どうせならカグヤ姫とかになって、ウハウハ逆ハーレムルートがよかった」 いかに竹林好きとて、さすがにこれはちょっと……がっくし。 でも、いつまでもうつむいていたってしょうがない。 というわけで、持ち前のポジティブさでサクっと頭を切り替えたヒロインは、カーボンファイバーのメンタルと豊富な竹知識を武器に、厳しい自然界を成り上がる。 竹の、竹による、竹のための異世界生存戦略。 めざせ! 快適生活と世界征服? 竹林王に、私はなる!

転生幼女は幸せを得る。

泡沫 呉羽
ファンタジー
私は死んだはずだった。だけど何故か赤ちゃんに!? 今度こそ、幸せになろうと誓ったはずなのに、求められてたのは魔法の素質がある跡取りの男の子だった。私は4歳で家を出され、森に捨てられた!?幸せなんてきっと無いんだ。そんな私に幸せをくれたのは王太子だった−−

娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る

ほりとくち
ファンタジー
突然現れた魔法陣が、あの日娘を連れ去った。 異世界に誘拐されてしまったらしい娘を取り戻すため、父は自ら異世界へ渡ることを決意する。 一体誰が、何の目的で娘を連れ去ったのか。 娘とともに再び日本へ戻ることはできるのか。 そもそも父は、異世界へ足を運ぶことができるのか。 異世界召喚の秘密を知る謎多き少年。 娘を失ったショックで、精神が幼児化してしまった妻。 そして父にまったく懐かず、娘と母にだけ甘えるペットの黒猫。 3人と1匹の冒険が、今始まる。 ※小説家になろうでも投稿しています ※フォロー・感想・いいね等頂けると歓喜します!  よろしくお願いします!

元34才独身営業マンの転生日記 〜もらい物のチートスキルと鍛え抜いた処世術が大いに役立ちそうです〜

ちゃぶ台
ファンタジー
彼女いない歴=年齢=34年の近藤涼介は、プライベートでは超奥手だが、ビジネスの世界では無類の強さを発揮するスーパーセールスマンだった。 社内の人間からも取引先の人間からも一目置かれる彼だったが、不運な事故に巻き込まれあっけなく死亡してしまう。 せめて「男」になって死にたかった…… そんなあまりに不憫な近藤に神様らしき男が手を差し伸べ、近藤は異世界にて人生をやり直すことになった! もらい物のチートスキルと持ち前のビジネスセンスで仲間を増やし、今度こそ彼女を作って幸せな人生を送ることを目指した一人の男の挑戦の日々を綴ったお話です!

さようなら竜生、こんにちは人生

永島ひろあき
ファンタジー
 最強最古の竜が、あまりにも長く生き過ぎた為に生きる事に飽き、自分を討伐しに来た勇者たちに討たれて死んだ。  竜はそのまま冥府で永劫の眠りにつくはずであったが、気づいた時、人間の赤子へと生まれ変わっていた。  竜から人間に生まれ変わり、生きる事への活力を取り戻した竜は、人間として生きてゆくことを選ぶ。  辺境の農民の子供として生を受けた竜は、魂の有する莫大な力を隠して生きてきたが、のちにラミアの少女、黒薔薇の妖精との出会いを経て魔法の力を見いだされて魔法学院へと入学する。  かつて竜であったその人間は、魔法学院で過ごす日々の中、美しく強い学友達やかつての友である大地母神や吸血鬼の女王、龍の女皇達との出会いを経て生きる事の喜びと幸福を知ってゆく。 ※お陰様をもちまして2015年3月に書籍化いたしました。書籍化該当箇所はダイジェストと差し替えております。  このダイジェスト化は書籍の出版をしてくださっているアルファポリスさんとの契約に基づくものです。ご容赦のほど、よろしくお願い申し上げます。 ※2016年9月より、ハーメルン様でも合わせて投稿させていただいております。 ※2019年10月28日、完結いたしました。ありがとうございました!

白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます

時岡継美
ファンタジー
 初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。  侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。  しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?  他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。  誤字脱字報告ありがとうございます!

【本編完結】転生令嬢は自覚なしに無双する

ベル
ファンタジー
ふと目を開けると、私は7歳くらいの女の子の姿になっていた。 きらびやかな装飾が施された部屋に、ふかふかのベット。忠実な使用人に溺愛する両親と兄。 私は戸惑いながら鏡に映る顔に驚愕することになる。 この顔って、マルスティア伯爵令嬢の幼少期じゃない? 私さっきまで確か映画館にいたはずなんだけど、どうして見ていた映画の中の脇役になってしまっているの?! 映画化された漫画の物語の中に転生してしまった女の子が、実はとてつもない魔力を隠し持った裏ボスキャラであることを自覚しないまま、どんどん怪物を倒して無双していくお話。 設定はゆるいです

処理中です...