上 下
76 / 92
【第4章理不尽賢者と魔導皇国グリムズガーデン】

【理不尽賢者と魔剣士Ⅻ】

しおりを挟む
「どうかしら魔力のないただの人間になった気分は? ファイアボールすら使えないのはとても屈辱的でしょうね」

「……るせ」

「何? 聞こえないわよ」

「うる……せえって言ってんだよ! この三下が!」

「よくもまあ、息をするのにも苦しんでるくせに大きな口が叩けるわね……」



 ザンッ、リリスの片腕が切れた。カーヴァイン剣を構えている。リリスの腕はすぐに生え元の状態に戻った。



「カーヴァイン……この子がワタシの物になるのはそんなに嫌なの?」

「貴様は私が倒す!」

「おバカね、ワタシの国の中でワタシに勝てるわけないのに……」

「残像斬!」5人に分身したカーヴァインがリリスを狙う。

「バインド!」

「ぐはっ」リリスの背後から現れたカーヴァインは蛇のように動く縄に縛られた。

「分身は全て囮……真っ向勝負が好きな貴方にしては考えたわね」

「カーヴァイン……を……離せ」



 ローズマリーは一歩ずつリリスに近づいていった。リリスはクスリと笑うと叫んだ。



「ファイアボール! どういつもは燃やす側が燃やされる気分は?」



 ゴワーッ、ローズマリーは紅蓮の炎に包まれた。カーヴァインが何か叫ぼうとするも縄で口を封じられる。

 しかし、ローズマリーは無傷だった。それどころか先ほどより力が回復している。



「何よ? 貴女、本当に人間なの?」

「黙りやがれ! 糞女が!」

「永遠にワタシの可愛いお人形にしてあげようと思ったけどやめにするわ……死になさい! アブソリュートゼロ!」



 一瞬でローズマリーの周りから空気が凍りつく。カーヴァインは氷結魔法最高位の魔法を食らったローズマリーは今度こそ死んだと思った。しかし、氷が砕けてもローズマリーは足を止めない。



「何なの? 貴女、意味が分からないわ! ここはワタシの国、ワタシの体内と同じ……なのに何故立ってられるの?」

 リリスは次々に高位の魔法を繰り出していった。しかし、ローズマリーは歩みを止めない。ダメージも受けていないようだった。



 ローズマリーは拳に力を込めた。魔法を食らって回復した魔力を拳に集中させた。『大賢者の杖』の【魔力吸収】と特攻服の【通常魔法攻撃無効】のおかげで死なずにすんだ。もしも何もしてこなかったら魔力枯渇で衰弱死していただろう。【未来予知】のおかげで何個も重要なセリフをこの腐れアマが言うのを聞き漏らしたがまあそれは良い、こいつを気が済むまでぶん殴れれば。ローズマリーの拳は虹色に光り輝き始めた。

 後ずさりをし始め震えるリリスそれを正面からローズマリーは見下した。リリスの琥珀色の瞳に無表情なローズマリーが映る。



「怖いか? そりゃそうだよな。こんな外の世界から離れたところで引きこもっていたような奴があたしみたいな化け物に初めて出会うんだからな……」

「ゆ、許してよ、お願い……あの子のお兄さんと幼馴染なら生き返らせてあげるから……この国の生き物から手に入れた魔力があれば何だって……」

「黙れ! 死んだ奴はな……もう生き返らないんだ! どんなに手をつくそうとそれはただ本物に近いだけのただの偽物なんだ!」

「な、なによ! そんなの屁理屈じゃない……格好もそうだけど考え方まで珍妙なのね!」



 バンッ、背後から近づいてきた双子の機械人形を殴り壊した。毒ナイフで攻撃しようとしてきたからだ。



「ひいいっー、ゆ、許してよ。今のはあの子たちが勝手にやったことなの。私は何も悪くはないわ」

「お前は言っちゃいけねーことを言った。もうそれだけで十分だ……」

「カーヴァインのおバカさんも返すから……だからお願い! 痛いのは嫌なの!」



 カーヴァインは縄がほどけて咳をしながら座り込んだ。ローズマリーに助言したいことがあったが息をするだけで手いっぱいだった。

「これで終わりだ……」

ドーンッ、リリスの顔面ギリギリをローズマリーは思いっきり殴った。リリスは恐怖で白目になり泡を吹いて倒れた。よく見れば痙攣して失禁までしている。

「お前なんざ、魔王軍のゴブリンよりも殴る価値が無いぜ……」

「ローズマリー……今だ! 封滅の秘魔法で……」

「まさか、お前……魔力が……無くなったままなのか?」

「どうやら……やり過ぎちまったみたいだ。この国の呪いを解くのに全部使っちまった」

「バカ野郎! お前は魔王やコイツを倒せる唯一の存在だったのだぞ! この国の人間たちが絶え間ない魔力の吸収に脅かされていてたとしても諸悪の根源であるコイツを殺せば済んだはずなのに!」

「コイツは外を知らないただの赤ん坊さ。精々協力してもらうさ」



ローズマリーは莫大な魔力と引き換えにグリムズガーデン皇国の国民を救った。大きな代償を払ってだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】転生したら侯爵令嬢だった~メイベル・ラッシュはかたじけない~

おてんば松尾
恋愛
侯爵令嬢のメイベル・ラッシュは、跡継ぎとして幼少期から厳しい教育を受けて育てられた。 婚約者のレイン・ウィスパーは伯爵家の次男騎士科にいる同級生だ。見目麗しく、学業の成績も良いことから、メイベルの婚約者となる。 しかし、妹のサーシャとレインは互いに愛し合っているようだった。 二人が会っているところを何度もメイベルは見かけていた。 彼は婚約者として自分を大切にしてくれているが、それ以上に妹との仲が良い。 恋人同士のように振舞う彼らとの関係にメイベルは悩まされていた。 ある日、メイベルは窓から落ちる事故に遭い、自分の中の過去の記憶がよみがえった。 それは、この世界ではない別の世界に生きていた時の記憶だった。

小型オンリーテイマーの辺境開拓スローライフ~小さいからって何もできないわけじゃない!~

渡琉兎
ファンタジー
◆『第4回次世代ファンタジーカップ』にて優秀賞受賞! ◆05/22 18:00 ~ 05/28 09:00 HOTランキングで1位になりました!5日間と15時間の維持、皆様の応援のおかげです!ありがとうございます!! 誰もが神から授かったスキルを活かして生活する世界。 スキルを尊重する、という教えなのだが、年々その教えは損なわれていき、いつしかスキルの強弱でその人を判断する者が多くなってきた。 テイマー一家のリドル・ブリードに転生した元日本人の六井吾郎(むついごろう)は、領主として名を馳せているブリード家の嫡男だった。 リドルもブリード家の例に漏れることなくテイマーのスキルを授かったのだが、その特性に問題があった。 小型オンリーテイム。 大型の魔獣が強い、役に立つと言われる時代となり、小型魔獣しかテイムできないリドルは、家族からも、領民からも、侮られる存在になってしまう。 嫡男でありながら次期当主にはなれないと宣言されたリドルは、それだけではなくブリード家の領地の中でも開拓が進んでいない辺境の地を開拓するよう言い渡されてしまう。 しかしリドルに不安はなかった。 「いこうか。レオ、ルナ」 「ガウ!」 「ミー!」 アイスフェンリルの赤ちゃん、レオ。 フレイムパンサーの赤ちゃん、ルナ。 実は伝説級の存在である二匹の赤ちゃん魔獣と共に、リドルは様々な小型魔獣と、前世で得た知識を駆使して、辺境の地を開拓していく!

転生幼女はお詫びチートで異世界ごーいんぐまいうぇい

高木コン
ファンタジー
第一巻が発売されました! レンタル実装されました。 初めて読もうとしてくれている方、読み返そうとしてくれている方、大変お待たせ致しました。 書籍化にあたり、内容に一部齟齬が生じておりますことをご了承ください。 改題で〝で〟が取れたとお知らせしましたが、さらに改題となりました。 〝で〟は抜かれたまま、〝お詫びチートで〟と〝転生幼女は〟が入れ替わっております。 初期:【お詫びチートで転生幼女は異世界でごーいんぐまいうぇい】 ↓ 旧:【お詫びチートで転生幼女は異世界ごーいんぐまいうぇい】 ↓ 最新:【転生幼女はお詫びチートで異世界ごーいんぐまいうぇい】 読者の皆様、混乱させてしまい大変申し訳ありません。 ✂︎- - - - - - - -キリトリ- - - - - - - - - - - ――神様達の見栄の張り合いに巻き込まれて異世界へ  どっちが仕事出来るとかどうでもいい!  お詫びにいっぱいチートを貰ってオタクの夢溢れる異世界で楽しむことに。  グータラ三十路干物女から幼女へ転生。  だが目覚めた時状況がおかしい!。  神に会ったなんて記憶はないし、場所は……「森!?」  記憶を取り戻しチート使いつつ権力は拒否!(希望)  過保護な周りに見守られ、お世話されたりしてあげたり……  自ら面倒事に突っ込んでいったり、巻き込まれたり、流されたりといろいろやらかしつつも我が道をひた走る!  異世界で好きに生きていいと神様達から言質ももらい、冒険者を楽しみながらごーいんぐまいうぇい! ____________________ 1/6 hotに取り上げて頂きました! ありがとうございます! *お知らせは近況ボードにて。 *第一部完結済み。 異世界あるあるのよく有るチート物です。 携帯で書いていて、作者も携帯でヨコ読みで見ているため、改行など読みやすくするために頻繁に使っています。 逆に読みにくかったらごめんなさい。 ストーリーはゆっくりめです。 温かい目で見守っていただけると嬉しいです。

転生したら死にそうな孤児だった

佐々木鴻
ファンタジー
過去に四度生まれ変わり、そして五度目の人生に目覚めた少女はある日、生まれたばかりで捨てられたの赤子と出会う。 保護しますか? の選択肢に【はい】と【YES】しかない少女はその子を引き取り妹として育て始める。 やがて美しく育ったその子は、少女と強い因縁があった。 悲劇はありません。難しい人間関係や柵はめんどく(ゲフンゲフン)ありません。 世界は、意外と優しいのです。

だらだら生きるテイマーのお話

めぇ
ファンタジー
自堕落・・・もとい楽して生きたい一人のテイマーのお話。目指すのはスローライフ!

幼馴染の婚約者聖女が勇者パーティー追放されたから、俺も一緒に離脱する事にした。

古森きり
ファンタジー
幼馴染の聖女セレーナは前世の記憶を持つ転生者。 それを打ち明けられた時、それはもう驚いた。 だが、俺の想いは変わらない。ずっと君の側で君を守る。 そう約束した数年後、神託通りに異世界から勇者が召喚されてきた。 しかし召喚されてきたニホンジン、ユイ殿はとんでもない我が儘娘。 なんと、婚約者のいる俺に言い寄ってきた。 拒むとなぜかセレーナをパーティーから追放すると言い出したので、俺も我慢の限界を迎え、セレーナを追ってパーティーを出て行く事にした。 「結婚前の独身最後の旅行にしようか」 「ヤダー、もうライズったらぁー!」 魔王? 知らん。 ※ノベルアップ+さんにえげつない読み直しナッシング書き溜め中。 改稿版は小説家になろう、カクヨム、アルファポリスに掲載予定です。

男爵令嬢が『無能』だなんて一体誰か言ったのか。 〜誰も無視できない小国を作りましょう。〜

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「たかが一男爵家の分際で、一々口を挟むなよ?」  そんな言葉を皮切りに、王太子殿下から色々と言われました。  曰く、「我が家は王族の温情で、辛うじて貴族をやれている」のだとか。  当然の事を言っただけだと思いますが、どうやら『でしゃばるな』という事らしいです。  そうですか。  ならばそのような温情、賜らなくとも結構ですよ?  私達、『領』から『国』になりますね?  これは、そんな感じで始まった異世界領地改革……ならぬ、建国&急成長物語。 ※現在、3日に一回更新です。

異世界複利! 【1000万PV突破感謝致します】 ~日利1%で始める追放生活~

蒼き流星ボトムズ
ファンタジー
クラス転移で異世界に飛ばされた遠市厘(といち りん)が入手したスキルは【複利(日利1%)】だった。 中世レベルの文明度しかない異世界ナーロッパ人からはこのスキルの価値が理解されず、また県内屈指の低偏差値校からの転移であることも幸いして級友にもスキルの正体がバレずに済んでしまう。 役立たずとして追放された厘は、この最強スキルを駆使して異世界無双を開始する。

処理中です...