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【第3章 理不尽賢者ローズマリーと魔法科学国オルケイア】

【理不尽賢者とその舎弟Ⅶ】

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「「「「王族だって!」」」」クリフトを除く4人は大衆酒場で飲んでいるものを吹き出しそうになった。

「ああ、私いや、僕はオルケイア国第三王子クリフトその人だよ」クリフトは今まで被っていた仮面を外した。

「じゃあこの間の野宿の時は本当に天幕張ってベッドで眠るもんだと本気で思ってたのか?」ローズマリーが容赦なく問いただす。

「はい……その通りです、大賢者様」

「お前があたしに付きまとった理由が知りたい。あれかあたしの力で王様を脅そうとしていたとかか?」

「いえ、僕はこの通りまるで駄目な男なので……助っ人が欲しかったのです。しかしこれだけは信じて欲しいのですがあなた様への愛は確かなものでした」うげ、そこは真実なのかよ。

 王族自ら出向くということはたぶん何かしら厄介ごとがあるのだろう。

 しかし仮にとは言え舎弟にしてしまったのだ。最後まで面倒を見るのが筋ってものだろう。それにこれはあたしの勘だがこいつは良い王様になれる素養はあると思う。



「分かった、最後まで付き合ってやるよ。舎弟の面倒見るのは親分の責任だからな」

「ありがたいお言葉です。しかし1つ……」

「なんだよ? はっきり言えよ」

「ロレンツィオ叔父様を決して怒らせないでほしいのです」

「なんでだよ。多少のことでは感情の起伏が激しくなるタイプには見えなかったぞ?」

「それが実は……」

 ローズマリー一行は全員が覚悟を決めた。



 ロレンツィオの屋敷は運河を挟んで街の南側の大きな丘の上にそびえ立っていた。丘はの中腹は段々畑になっており登りきると大きな庭園があった。門では既にメイドらしき人物が待機して豪奢な馬車を準備していた。



「メイド長のザリナと申します。本日はお客様のお世話をさせていただきます」

「よろしくな」

「俺は馬車には乗らないぞ」そういえばエンデュミオンは乗り物恐怖症だったな。晩餐の時のネタにしてやろう。

「エンデュミオン……あなたったらクリフトの言ったことを忘れたの?今回ばかりは我慢してもらうわよ」

「ふっ、そうだぞ。相棒よ。相手はゆっくりと庭園を見せるために馬車をわざわざ用意したのだから。そうだろ、ザリナとやら?」

「おっしゃる通りでございます」

「僕からもお願いします。エンデュミオン……さん」

「ちっ仕方ねえな」渋々エンデュミオンは了解した。



庭園を堪能したあと屋敷に招かれた。庭園には色とりどりの花とハーブ類が植えてあるのか五感に訴えるような美しさがあった。



「ようこそ!我が屋敷へ、庭園はどうでしたか?」そう言ってロレンツィオは皆と握手を交わした。

「薬草も栽培されているのですね、良い匂いでした」セレーナがあたしの代わりに答えてくれた。正直薬草の知識などまったくないので助かった。

「ふっ、我がベルファイア家のものより格段に素晴らしかったです」

「それは良かった。では晩餐を私自ら振る舞うのでお楽しみに」ロレンツィオは言った。だが皆愛想笑いをするだけだった。



「それはた、楽しみですね、叔父様」とクリフト。

「ロレンツィオ様自らお作りになられるとは楽しみです……」とセレーナ。



そしてクリフトの命運をかけた晩餐が始まった。



 ロレンツィオがコック帽を被り、エプロンを着る。そして水で手を洗い終えると軽快な音をたてながら食べ物を刻んでいく。かなり手慣れた手つきだ。そしてそれを炒め始めた。火はすでにメイドのザリナにつけさせていたようだ。

 そして十数分後料理は完成した。皆緊張から声がでなかった。

 対照的にロレンツィオは陽気だった。



「さあ召し上がれリンデ地鶏のキャロリーヌソースのハーブ蒸し焼きだ、もう数ヶ月は故郷の味を楽しめていないようですから特別に取り寄せました」

 確かに使われている食材は全て一流に見えた。しかし味はと言うと……。



「どうだね? 皆さん美味しいでしょう?」

「た、確かに中々味わえないですね、これは……」セレーナが取り繕った。

「私はね、昔は料理人になりたかったのですよ。彼らは魔法の如く魅惑的な料理を作り出す。残念ながらリリンツェ家の長男であった私は家督を継ぐ羽目になりましたが、こうして賓客には礼を尽くしているのです。皆さんそれはそれは美味しいと答えてくれるのですよ。この前来た首都の高齢の貴族は上手さの為に気絶してしまいましたよ」

「不味い」ローズマリーは呟いた。

「え? 聖女様、何とおっしゃられたのですか?」

「不味いって言ってんだよ、この溝泥料理が!」



……一瞬その場にいたものが全員凍りついた。ローズマリーはなおも続けて言う。

「あんたの作る料理は食べ物に対する愛がこれっぽっちも感じられない。この皿の可哀想な鳥の肉を食ってみろ! 不味くって喰えやしない」 

「き、き、貴様、許さんぞ! 我が至高の料理を馬鹿にしおって」

「じゃあ味見はしたことあるのかよ!」

「する必要がない! 執事やメイドたちは上手いと言ってくれているからな! 貴様の舌がおかしいのだ! 珍妙な服の小娘が!」



 ブチッ! ローズマリーの堪忍袋の緒が切れた。一直線にロレンツィオに近づいていく。

「おい! 止めてくれ! 聖女様!」クリフトが足に縋りつくもなおも足を止めない。



 そしてローズマリーはレビの村で開発した対人用必殺技ビリビリ拳、略してビリケンをロレンツィオの横っ面に食らわせた。

 ロレンツィオは厨房の奥にふっ飛ばされていった。



 こうしてオルケイア国第三王子クリフトは絶望するのであった。
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