上 下
20 / 92
【第2章 理不尽賢者ローズマリーとリガイア共和国】

【理不尽賢者と麦畑Ⅴ】

しおりを挟む
大賢者ローズマリーことあたし時計坂桜は考えることが苦手だ。いや厳密に言うと思い立ったらすぐに体が動いてしまうのだ。いまさら思うに高校までの勉強をきちんとこなしていればなあとしみじみと思う。

 ノバクの街は本当に良い街だ。他人の特攻服を馬鹿にしてくる連中を除いて誰もが穏やかで優しい。先日特攻服を馬鹿にされ店の品の大多数を破壊しいてしまったガラス細工職人の店に頭を下げに行くと「お嬢さんがシンダリアの予言に出てくる大賢者様だとは思わずに失礼を致しました」と店主に言われてしまった。領主に大賢者だというのをバラしたのは一気に街中に広まった。そして顔が怖く腕っぷしが強いことで有名なガラス細工職人をつるし上げたという噂は広まり、街の女性からの恋文が山ほど領主の館に届いた。まあ元いた世界でもそうだったから慣れっこだが……。

 盗賊の襲撃から1週間経つが未だ現れる気配はない。それも仕方ないだろう。エンシェントドラゴンを屠った……自分で言うのもなんだが……英雄がいるのだ。出てこれないだろう。おまけに転移の魔法まで使って見せたのだ。あたしはこの世界のことをより調べる為、また図書館でお子様向けの物語と例の魔法辞典を読んだ。



 錬金術師ホメロンの物語というのを読んでみた。

 なんでも生まれながらにして上級魔法の使い手だったホメロンは女の弟子を取り師弟関係から恋人にまで発展し、魔王軍の襲撃に遭い愛する人を失ったという。

 それからホメロンは恋人の蘇生をする為に魔族のことを狩りまくり、体内で最も魔力が高い心臓を使ってホムンクルスとかいう化け物と化した恋人と狂気の錬金術を開発していくという話だった。

 最後に切なかったのが恋人のホムンクルスは魔力が無くなり動きを止めてしまい。更なる狂気の実験を繰り返し破産し首を吊ったということだ。ちなみにその書籍は今でも大いに活用されているらしい。



 魔法辞典で調べた魔法と秘魔法を自分の手を見て覚えているものを見て見た。どうやら生きとし生けるものが嫌う死霊魔術を自分は習得しているらしかった。また秘魔法は蘇生と空の秘魔法を除いて全て覚えているらしい。原初の炎の魔法エクスプロージョンが自分の中で一番使ってみたい魔法だ。どんな破壊力なのか想像するだけでよだれが出そうだ。おっといけない、最近ファイアボールさえ撃たない状況に置かれている為、闘争本能が抑えられないでいるようだ。

 そしてあたりが暗くなり夕食の時間が近づいている。あたしは司書のおばさんに本を返すと転移の魔法を使いあるところへ移動した。



「ローズマリーの奴遅えなあ」とエンデュミオンがハチミツの塗られた燕麦パンをモシャモシャと食べる。

「エンデュミオン! 口に物を入れながらしゃべるのは汚いわよ」とセレーナ。

「その通りだぞ、相棒。俺を見習うことだな」とフォークとナイフを使ってお上品にパンを食べるルーンベルト。

「けっ。それにしても最近はほんとうに人が変わったかのように図書館通いしているな」

「私は良いことだと思うわよ。それに今夜あたり盗賊を捕まえるかも……」

「え! それは本当ですか⁈」領主が驚く。



 その頃ローズマリーは麦畑に転移した。数百人の男女が麦の刈り取りをしている。その中にガラス細工職人や顔馴染みになった衛兵の姿さえある。そうかそういうことだったのか。



「な、何をしに来たんだい? だ、大賢者様」刈り入れの指揮をしているらしい宿屋のオヤジが言った。よく見ると汗をかいている。



「盗賊だ! 盗賊が出たぞ!」かなり遠くから声がした。



「それで盗賊は? あんた達ってことで良いのかい?」

「……そうだ。俺・た・ち・が盗賊だ」

「領主さんを呼んでくれるかい」

「……分かった」



10分後。他の仲間3人を伴って領主が現れた。

「バレてしまいましたか……そう我・々・街・の・人・間・が真・の・盗・賊・なのです」

「刈り入れた麦はそこの粉ひき小屋に集めているのかい?」ローズマリーが詰め寄ると領主は観念したようで真相を話し始めた。



「オルトリン執政官は自分や都に住む権力者のことしか考えておりません。なので塩害によって餓えている他の地域の住民は苦しみ続けています」

「だから盗賊に襲われて仕方なく首都に送る小麦の供給量が減ったということにして、周りの貧しい地域に小麦を配っているんだろ?」

「おっしゃる通りです。オルトリン執政官にお伝えになるようでしたらどうか私が無理やり街の人間を使って私腹を肥やしていたということにしてください」

「……分かったよ」



 他の街の人もがっかりと肩を落とし、泣き始める者さえいた。それはそうだろう。自分たちの善良な領主が恐らくは死刑になってしまうような案件だからだ。

 ローズマリーは天に向かって杖を高らかに上げた。そしてファイアボールとつぶやいた。巨大な業火の球が上空で爆散し一瞬昼間のように明るくなった。



「盗賊は今成敗した。ここにいるのは義賊だ!」ローズマリーは高らかに宣言した。

 領主を含め他街の人間たちや3人の仲間たちさえ驚いている。



「あたしのこの特攻服と名前にかけて誓う。あんたらのことは絶対に秘密にする」

「さ、さすがは大賢者様! 器が大きい」とガラス職人が言った。



すると拍手が起こり始めた。なんだか照れ臭いなとローズマリーは感じた。それにしてもこの街の奴らは皆人が良い。根っからのお人好しどもだ。あたしはこの街の麦畑に結界を張ってやった。街の者しか入れないような複雑な結界だ。これでこのお人好しの街ノバクはこれからもずっと良い街であり続けられるだろう。



「毎日、図書館通いをしていたのは油断を誘う為だったのかよ」エンデュミオンが旅路に再びつくと話しかけてきた。



「あとは、もうすぐに刈り入れの時期が終わるから相手を焦らせたかったのもあるよ」

「私がローズマリーにスキル【盗聴】で刈り入れの日程がいつになるのか調べると良いって助言したのよ」セレーナは得意げに言った。

「ふっ、気持の良い街だったな。またいつか寄ってみたいものだな」ルーンベルトが最近落ち込んでいたメンタルを持ち直したのか溌溂として言った。



 ちなみに馬車を一台買おうかという話になったのだが、エンデュミオンが実は乗り物恐怖症だということが分かり駄目になってしまった。どうやら今まで恥ずかしくて言い出せなかったらしい。



 あたし達一行は和やかな気分で街道を歩いていた。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

最強の魔法使いは転生して後に冒険者パーティーを追放される

白檀
ファンタジー
 長年の研究の末に転生の魔道具を作り出した偉大な魔法使いは、永遠の人生を求めて転生を行った。  しかし、転生先で意識を転生元の少年に奪われてしまう。  偉大な魔法使いは記憶だけの存在となり、その大きな力を手に入れた少年は冒険者を目指す。  大きすぎる力故に、目立たぬよう、目立たぬように初級魔法しか使わなかったのが仇となり、所属していたパーティーを理不尽にも追放されてしまう……初級魔法と言っても少年の初級魔法は上級魔法に匹敵する威力だったのだが……  追放された少年は失意に陥るも彼の実力を看破したパーティーから誘いを受ける。なんと、そのパーティーは女ばかりのパーティーだった。新たなパーティーからは熱烈以上の歓迎を受けることになる。  追放したパーティーは新たに上級魔法を使えるメンバーを迎えるもそのメンバーのせいで没落していく。  少年は新たな仲間と共に冒険を始めるのであった。  これは追放されながらも新たに誘われたパーティーの過剰な接触に困惑しながら、今度こそは本来の実力を認められて成功していく物語である。 この作品は小説家になろう様でも投稿しております。

婚約破棄され毒杯処分された悪役令嬢は影から王子の愛と後悔を見届ける

堀 和三盆
恋愛
「クアリフィカ・アートルム公爵令嬢! 貴様との婚約は破棄する」  王太子との結婚を半年後に控え、卒業パーティーで婚約を破棄されてしまったクアリフィカ。目の前でクアリフィカの婚約者に寄り添い、歪んだ嗤いを浮かべているのは異母妹のルシクラージュだ。  クアリフィカは既に王妃教育を終えているため、このタイミングでの婚約破棄は未来を奪われるも同然。こうなるとクアリフィカにとれる選択肢は多くない。  せめてこれまで努力してきた王妃教育の成果を見てもらいたくて。  キレイな姿を婚約者の記憶にとどめてほしくて。  クアリフィカは荒れ狂う感情をしっかりと覆い隠し、この場で最後の公務に臨む。  卒業パーティー会場に響き渡る悲鳴。  目にした惨状にバタバタと倒れるパーティー参加者達。  淑女の鑑とまで言われたクアリフィカの最期の姿は、良くも悪くも多くの者の記憶に刻まれることになる。  そうして――王太子とルシクラージュの、後悔と懺悔の日々が始まった。

小型オンリーテイマーの辺境開拓スローライフ~小さいからって何もできないわけじゃない!~

渡琉兎
ファンタジー
◆『第4回次世代ファンタジーカップ』にて優秀賞受賞! ◆05/22 18:00 ~ 05/28 09:00 HOTランキングで1位になりました!5日間と15時間の維持、皆様の応援のおかげです!ありがとうございます!! 誰もが神から授かったスキルを活かして生活する世界。 スキルを尊重する、という教えなのだが、年々その教えは損なわれていき、いつしかスキルの強弱でその人を判断する者が多くなってきた。 テイマー一家のリドル・ブリードに転生した元日本人の六井吾郎(むついごろう)は、領主として名を馳せているブリード家の嫡男だった。 リドルもブリード家の例に漏れることなくテイマーのスキルを授かったのだが、その特性に問題があった。 小型オンリーテイム。 大型の魔獣が強い、役に立つと言われる時代となり、小型魔獣しかテイムできないリドルは、家族からも、領民からも、侮られる存在になってしまう。 嫡男でありながら次期当主にはなれないと宣言されたリドルは、それだけではなくブリード家の領地の中でも開拓が進んでいない辺境の地を開拓するよう言い渡されてしまう。 しかしリドルに不安はなかった。 「いこうか。レオ、ルナ」 「ガウ!」 「ミー!」 アイスフェンリルの赤ちゃん、レオ。 フレイムパンサーの赤ちゃん、ルナ。 実は伝説級の存在である二匹の赤ちゃん魔獣と共に、リドルは様々な小型魔獣と、前世で得た知識を駆使して、辺境の地を開拓していく!

チート転生~チートって本当にあるものですね~

水魔沙希
ファンタジー
死んでしまった片瀬彼方は、突然異世界に転生してしまう。しかも、赤ちゃん時代からやり直せと!?何げにステータスを見ていたら、何やら面白そうなユニークスキルがあった!! そのスキルが、随分チートな事に気付くのは神の加護を得てからだった。 亀更新で気が向いたら、随時更新しようと思います。ご了承お願いいたします。

【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです

yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~ 旧タイトルに、もどしました。 日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。 まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。 劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。 日々の衣食住にも困る。 幸せ?生まれてこのかた一度もない。 ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・ 目覚めると、真っ白な世界。 目の前には神々しい人。 地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・ 短編→長編に変更しました。 R4.6.20 完結しました。 長らくお読みいただき、ありがとうございました。

師匠はうっかり転生しちゃった伝説の陰陽師!

彩世幻夜
ファンタジー
五月。天気の良いある日の事。 神社の境内に突如雷が落ちた。 境内で読書をしていた筈が、目を開けたら……そこは異世界でした。 転移した先で出会った仲間と冒険したり友情を育んだり恋愛したり。 これは、人生が世界ごと塗り替えられた、〝私〟の物語である。 ※九月中は0時と12時の一日二回更新します! ※ファンタジー小説大賞エントリー中

底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
 40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。  しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。  おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。  漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。  この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

処理中です...