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【第2章 理不尽賢者ローズマリーとリガイア共和国】

【理不尽賢者と麦畑Ⅲ】

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昼食は領主のはからいか同じ燕麦パンでも蜂蜜が塗られたものが出た。燕麦パンはえぐ味があり食べるのに難儀するが蜂蜜が塗られたことでまあまあ美味しく食べることができた。でも最近はローズマリーは和食への郷愁が強くなっている。日本人?がいたのではないかと思われるオルケイアには米があるだろうか? そんなことを考えながらローズマリーはセレーナが教えてくれたガラス細工の店に向かった。コップからアクセサリーまで品揃えは豊富だったが、職人がぶっきらぼうにこう言った。



「あんたらは本当に盗賊を捕まえるつもりなのか?」

「本気に決まってんだろ!」

「そんな珍妙な姿の奴がか?」

久しぶりにそのセリフを聞きローズマリーの怒りが爆発した。

パリンパリンとコップやアクセサリー等が次々に割れ、店も音を立てて軋んでいく。

「あ、あんたがやってるのか? 何か怒らせるようなことを言ったのなら悪かった。許してくれ。どうか命ばかりはとらないでくれ」



 ローズマリーは店主の謝罪の言葉を聞き正気を取り戻した。パンピーにまでてを出したらあたしの流儀に反する。これからは気を付けねば……。ローズマリーは店の品を壊した詫びを入れ、受けとるのを嫌がる(というか怖がる)店主に無理やり金貨を握らせて店を出た。



 後は図書館だっけな。小学校の作文の為に利用したのが最後で、人生に無縁の施設だったが、この世界のことを知るには良い機会かもしれない。セレーナ曰く子供から大人まで楽しめる良い図書館らしい。図書館は丘の上にあった。転移の魔法を使えるが、歩いて上るのも良い運動になるだろう。ちなみに転移の魔法は記憶と集中力が必要とされ、さっきいた麦畑やガラス職人の店なら今でも転移できるが記憶がおぼろげになりつつあるリントの街には飛べないようだ。



 坂道を歩いている道中子供が数人遊んでおりこちらに気付くと「変な服」「灰色で地味」「ちんみょうー」とか散々なことを言われあたしは、ガキどもに拳骨を食らわせるだけで我慢した。多分大人だったら半年はベッドの上の状態にしただろう。我慢したあたし偉い。



 それから10分くらいかかって図書館にたどり着いた。領主の屋敷よりしっかりとした威厳のある造りをしていた。図書館の司書のおばさんによると領主は市民に文字や簡単な計算をおぼえさせるために資金を投入しこの地域では一番蔵書の多い図書館なのだとか。試しに歴史書を手に取ったが高校の頃の世界史の教科書を読んでいるようで眠たくなってきた。司書のおばさんに歴史が分かる童話のようなものを頼んだら何冊か出してくれた一番分厚いヤツで50ページ程なので気軽に読めた。

 数千年前この大陸をほぼ全て支配したシンダリア帝国という国家が2000年ほど続き最後は魔王との対決になり原初の炎の魔法を魔王討伐用に開発していたが強すぎる魔力をコントロール出来ず自爆して水上都市シンダリアの蒸発と共に古いエルフ族は死に絶え、大陸の中央にあった海と繋がった大きな湖が今の大塩湖になってしまったと書いてあった。そして魔王はやはり北にいるようで北部の大陸アノールの前にはアノール大瀑布と呼ばれる海にできた大穴に絶えず水が流れ滝ができており船でアノール大陸には近づけないらしい。またこの大陸の宗教はほぼ統一されておりシンダリア教というシンダリア帝国を築いた英雄たちを崇拝しているらしい。中でも雷神トールは進行するものが多く、力と豊穣を司る神として力仕事をする職の人間や農民から厚く信仰されているという。雷神トールくらいならあたしも知っているダチ公の家でゲームをしていたら召喚獣として出てきたからだ。

 あと最後に読んだのが魔法辞典だ。あたしは大まかには魔法の種類は知っているが例えば回復魔法のヒールなどは知らなかった。あとこれはほんの注釈で知ったのだがヒュームやエルフ、ドワーフが忌避する暗黒魔法というのがあるらしい。この魔法は相手を即死させたり状態異常にさせてしまったり便利な気がするのだが由来が魔王軍らしくそこが魔王と長年対峙してきたシンダリアの民には受け入れがたいようだ。

頭を使ったら急に眠くなってきた。ローズマリーはそのまま眠りに就いてしまった。



「お嬢さん? そろそろ起きてください。図書館を締めますよ」と言われ目覚めたあたしは微かな声を聴いた。「盗賊だ!」と言う声だ。

 あたしは集中力を高めると麦畑に転移した。

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