アカシックレコード

しーたん

文字の大きさ
上 下
88 / 90
最終話 -冥界-

01

しおりを挟む

「本日から無事職場復帰しましたッ」
 びしぃっと敬礼ポーズを決めるケイにパラパラとやる気のない拍手が飛んでくる。
 居酒屋の個室で会社の仲間十数人がガヤガヤと好き勝手に飲んでいる中、ケイの向かいでナナミが烏龍茶を飲みながら笑う。
「治ったばかりなんだから、飲みすぎちゃだめだよ」




「どうだ? どこか違和感はあるか?」
 ベッドの横に立って覗き込むようにこちらを見つめている逆光のアスクレピオスにぼんやりした頭で呟く。
「いや…。全然違和感はないけど…くっついたのか?」
「違和感ないって…嘘だろ。見た目全然違うぞ、お前」

 愕然としているヘラクレスに呼応するようにベッドから起き上がって、くつくつ喉で笑っているアウトリュコスから受け取った鏡で自分の外見を確認する。
「あー…ホントだ。よくよく考えたら俺、元々こんな顔だったわ。今、思い出した」

 ごく自然に言ったつもりだったが、アウトリュコスが今度こそ腹を抱えて笑い出す。ピラムが苦笑して言った。
「ま、今までこっちでも見た目がケイのまんまだったってのがおかしかったんだけどね。自分で自分の顔を忘れてたんじゃ世話ないよ」





「で? 身体の方はもう完璧?」
 透明な液体の入ったグラスを片手に冷ややかな目で笑っている東寺に全力の笑顔で返す。
「おうッ! ギターもちょくちょく触ってるから、今度スタジオ入らねぇ?」
「ああ…いいね。それじゃ、肩慣らしに二人で個人練…」
 言い終える前にビール瓶を片手に持った嵯峨が笑顔で乱入してきた。
「もちろん、僕も一緒でいいよね? ドラムがいないと寂しいでしょ?」




「分離に失敗した…ッ?! それってつまり、まだケイくんは君と記憶を共有してるってこと?」
「まぁな。記憶というより意識がそのままっつーかいい具合に意識が混じっちまった……っつーかなんでお前がここにいんだよッ!」
 しれっと診療所の庭に来ていたアイムに怒鳴る。
「えー…いいじゃん。僕もこの前君にこてんぱにされて大怪我してたからここのお医者さんに診てもらってたの」

「な……ッ、レピオスどんだけお人好しなんだよッ!!」
 ニコニコと屈託なく笑いながらアイムが返す。
「君を今まで通り面倒見てくれるくらいにはお人好しなんじゃない? おかげで僕らも手が出せなくなっちゃったし」

 事実上神界から追放したことで、一旦クー・フーリンを封印しようという動きは収まったらしい。





「それにしてもうちの会社も随分人が減ったよなぁ…」
 飲みながら呟いたケイに、ハルナが笑顔で返す。
「でも、新しく入ってきた人もいるみたいですよ」
「へぇ…そうなんだ。そういえば中途の人が来たってこの前聞いたような…」
 今日が復帰初日のケイは、業務時間中も挨拶と仕事の確認に追われ、新しく入った人とやらには全く会えず仕舞いだった。




「そういや最近、リュコスは俺たちと同じ時間に冥界こっちにいるけど、物理世界の仕事はいいのか?」
 時差があるようなことを以前言っていたような気がするが。
「あーいいのいいの。俺も日本に引っ越したから。それで? お前も結局冥界で俺らと一緒に働くことにしたって?」

 あっさり言ってニヤニヤしながら訊いてくるアウトリュコスに肩をすくめる。
 結局、彼はなんだかんだでジャヒーとは茶飲みデートを続けているらしい。

「もう神界には帰れねぇからな。冥界ここで働くしかねぇだろ。色々教えてくれよ、先輩」
「おー…いいけどその前にお前、冥王府に登録して来いよ。言っとくけど管轄が違うからそれは俺たちじゃ教えられねぇぞ?」

「そっか。んじゃ、俺のとこの冥王府に行かねぇとな…。俺のとこの冥王………って、師匠スカアハになってんじゃねぇかッ!! やっぱ無理だッ!! 今、師匠に会ったら説教じゃ済まねぇッ!!」
「あー…はいはい。とっとと行って怒られて来い」

「無理だってッ!!!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

9(ノナ)! TACTIC部!!

k_i
キャラ文芸
マナシキ学園。世界と世界ならざるところとの狭間に立つこの学園には、特殊な技能を持つ少女達が集められてくる。 その中でも《TACTIC部(タクティック部)》と呼ばれる戦闘に特化した少女たちの集う部。世界ならざるところから現世に具現化しようと溢れてくる、名付け得ぬもの達を撃退する彼女らに与えられる使命である。多感なリビドーを秘めたこの年代の少女の中でも選ばれた者だけがこの使命に立ち向かうことができる。 ……彼女達を、その独自の戦術方式から《9芒星(ノナグラム)の少女達》と呼ぶ―― * 過去、ゲームの企画として考えていた作品です。小説形式とは違いゲームシナリオの形式になります。実際にはバトルパート用に考えていた会話(第1話等)もあるため、その辺は実際のゲーム画面やシステム抜きだと少々わかりにくいかもしれません(ある程度・最小限の補足を加えています)。

便利屋ブルーヘブン、営業中。~そのお困りごと、大天狗と鬼が解決します~

卯崎瑛珠
キャラ文芸
とあるノスタルジックなアーケード商店街にある、小さな便利屋『ブルーヘブン』。 店主の天さんは、実は天狗だ。 もちろん人間のふりをして生きているが、なぜか問題を抱えた人々が、吸い寄せられるようにやってくる。 「どんな依頼も、断らないのがモットーだからな」と言いつつ、今日も誰かを救うのだ。 神通力に、羽団扇。高下駄に……時々伸びる鼻。 仲間にも、実は大妖怪がいたりして。 コワモテ大天狗、妖怪チート!?で、世直しにいざ参らん! (あ、いえ、ただの便利屋です。) ----------------------------- ほっこり・じんわり大賞奨励賞作品です。 カクヨムとノベプラにも掲載しています。

人外の多いコンビニ

幽零
キャラ文芸
とあるコンビニの一店舗。そこには人外達が集まっているようです。 イラスト 笹魔女 様

視える宮廷女官 ―霊能力で後宮の事件を解決します!―

島崎 紗都子
キャラ文芸
父の手伝いで薬を売るかたわら 生まれ持った霊能力で占いをしながら日々の生活費を稼ぐ蓮花。ある日 突然襲ってきた賊に両親を殺され 自分も命を狙われそうになったところを 景安国の将軍 一颯に助けられ成り行きで後宮の女官に! 持ち前の明るさと霊能力で 後宮の事件を解決していくうちに 蓮花は母の秘密を知ることに――。

虐げられた無能の姉は、あやかし統領に溺愛されています

木村 真理
キャラ文芸
【書籍化、決定しました!発売中です。ありがとうございます! 】←new 【「第6回キャラ文芸大賞」大賞と読者賞をw受賞いたしました。読んでくださった方、応援してくださった方のおかげです。ありがとうございます】 【本編完結しました!ありがとうございます】 初音は、あやかし使いの名門・西園寺家の長女。西園寺家はあやかしを従える術を操ることで、大統国でも有数の名家として名を馳せている。 けれど初音はあやかしを見ることはできるものの、彼らを従えるための術がなにも使えないため「無能」の娘として虐げられていた。優秀な妹・華代とは同じ名門女学校に通うものの、そこでも家での待遇の差が明白であるため、遠巻きにされている。 けれどある日、あやかしたちの統領である高雄が初音の前にあらわれ、彼女に愛をささやくが……。

幽閉された花嫁は地下ノ國の用心棒に食されたい

森原すみれ@薬膳おおかみ①②③刊行
キャラ文芸
【完結・2万8000字前後の物語です】 ──どうせ食べられるなら、美しく凜々しい殿方がよかった── 養父母により望まぬ結婚を強いられた朱莉は、挙式直前に命からがら逃走する。追い詰められた先で身を投げた湖の底には、懐かしくも美しい街並みが広がるあやかしたちの世界があった。 龍海という男に救われた朱莉は、その凛とした美しさに人生初の恋をする。 あやかしの世界唯一の人間らしい龍海は、真っ直ぐな好意を向ける朱莉にも素っ気ない。それでも、あやかしの世界に巻き起こる事件が徐々に彼らの距離を縮めていき──。 世間知らずのお転婆お嬢様と堅物な用心棒の、ノスタルジックな恋の物語。 ※小説家になろう、ノベマ!に同作掲載しております。

その溺愛は伝わりづらい

海野幻創
BL
人好きのする端正な顔立ちを持ち、文武両道でなんでも無難にこなせることのできた生田雅紀(いくたまさき)は、小さい頃から多くの友人に囲まれていた。 しかし他人との付き合いは広く浅くの最小限に留めるタイプで、女性とも身体だけの付き合いしかしてこなかった。 偶然出会った久世透(くぜとおる)は、嫉妬を覚えるほどのスタイルと美貌をもち、引け目を感じるほどの高学歴で、議員の孫であり大企業役員の息子だった。 御曹司であることにふさわしく、スマートに大金を使ってみせるところがありながら、生田の前では捨てられた子犬のようにおどおどして気弱な様子を見せ、そのギャップを生田は面白がっていたのだが……。 これまで他人と深くは関わってこなかったはずなのに、会うたびに違う一面を見せる久世は、いつしか生田にとって離れがたい存在となっていく。 【7/27完結しました。読んでいただいてありがとうございました。】 【続編も8/17完結しました。】 「その溺愛は行き場を彷徨う……気弱なスパダリ御曹司は政略結婚を回避したい」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/962473946/911896785 ↑この続編は、R18の過激描写がありますので、苦手な方はご注意ください。

【完結】ドクロ伯爵の優雅な夜の過ごし方

リオール
キャラ文芸
アルビエン・グロッサム伯爵──通称ドクロ伯爵は読書が好きだ。 だが大好きな読書ができない夜がたまにある。それはドクロになっている間。 彼は満月の夜になると、呪いでドクロになってしまうのだ。ちなみに体はどこかへ消える。 そんなドクロ伯爵の楽しみは、ドクロの時だけできる行為、領地内の人々の様子を見ること。 「ああ、彼女は今夜もまた来ない彼氏を待っているのだな」 「幼い子供が夜更かししてるぞ」 「あそこはまた夫婦喧嘩か、やれやれ」 それをけして覗きと言うなかれ。ドクロ伯爵はそれを高尚な趣味と信じて疑わないのだから。 そして今夜も彼は目にする。ドクロ伯爵はそれを目撃するのだ。 「……また人が死んでいる」 それは連続殺人。殺人鬼による無差別殺人。 全てを見通せるドクロ伯爵の目からすら逃れるその者を……犯人を捜すべく、ドクロ伯爵は今日も目を光らせる。 ──目、無いんですけどね === ※筆者より注意書き※ 本作品はホラーでも推理物でもありません。 あくまでキャラが濃いキャラ文芸、気楽に読めるラノベです。 特別深い話はございません、淡々と話は進みます。 あらかじめご理解いただきました上でお読みいただきますようお願い致します。 ※注2※ 舞台・年代は近世ヨーロッパ(イギリス)風な感じ(1800年~1900年くらい)、でもオリジナルで実在しない世界となります。パラレルワールド的な。 あまり時代考証とか考えずに気楽に読んでいただければと思います。 (つまり、筆者が細かいあれこれ考えるのが面倒、と)

処理中です...