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しーたん

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第二十一話 -終わり-

02

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「……は? なんだよ、それ…」
 意外に過ごしやすい魔界の冬空の下、ヘラクレスの乾いた声が飛ぶ。
 屋敷の前の階段に腰かけたピラムが冷たい顔で続けた。

「今頃多分、そんな感じの展開になってる」
「知ってたんならなんとかしろよッ!! 予言の神は何のためにいるんだよッ!!」
 ごもっともなヘラクレスの言葉に、ピラムは動じなかった。

「…少なくとも、この件に関しては俺は動く必要はないと思ってるけど? あのアイムとかいう悪魔と正面衝突してもリュコスなら楽勝だろうし」
「リュコスとレピオスが無事ならケイはどうでもいいのかよッ!!」

「……ケイは…いや、クー・フーリンは自業自得でしょ」

「……ッ」
 冷たく吐かれた言葉に、それ以上何も言わず、ピラムを殴り飛ばすでもなく、ヘラクレスは屋敷の中へと消えていった。
 一人残されたピラムが寒空を見上げる。

 このタイミングでヘラクレスにすべてを話したら、未来はどう変わるか。ピラムの発言や行動が予知の元になされている可能性を、知ってはいても忘れている者は多い。





 ガヤガヤとうるさい居酒屋のテーブルの一つで、会社帰りの六人が楽しそうに飲んでいた。
 いい感じに出来上がってしまった後のようで、すでに酔いつぶれて幸せそうになっている男が二、三人と、それを苦笑して眺めている女性と、そしてその女性にもたれかかるようにして幸せそうに眠っている別の女性。

「綾部さん、寝ちゃだめだよ」
「うー…東寺さん、家まで送ってください~…」
「知らないよ。ナナミが送ってくれるんじゃない?」
「いやいや…私の家、反対方向なんだけど?」

 苦笑しているナナミに酔ったケイが絡む。
「ナナミ~…俺も送ってぇ~…」
「もー…ッ、明日も仕事でしょ? もう帰って寝た方がいいんじゃない?」
「そうだなぁ…あー…でも寝たら寝たで忙しいんだよなぁ…俺…」
「寝ても忙しいって変だよ、ケイ」
 ナナミの笑い声が居酒屋の喧騒に溶けていく。

「え…? あー…確かに変…だよな…。なんか最近変な夢が多くてさ…。だよな、夢だよな」
 夢に決まっている。あんな変な世界が実際にあるわけがない。
 大体、ナナミの中身が男神だとか、いくらなんでも突拍子もなさすぎる。

「夢落ちだ。夢オチ。全部夢オチ」

 オチ…落ちってなんだ?


 終わ…り…?



「………お前は…それでいいのか? ケイ」




 東寺の声だけが、やけに浮いて聞こえた。





「あんま……手こずらせんなよ。ったく」
 アイムを取り押さえたアウトリュコスが好戦的な表情で呟く。
 例によってアスクレピオスの障壁が展開されており、その外は火の海になっていた。

「アイム、先に火を消してやれ。ジャヒーは一応仲間なんだろう?」
「関係ないだろッ! 今すぐアンタを消し炭にしてやろうかッ?!」
 アイムがアスクレピオスに怒鳴った瞬間、片腕をねじりあげながらアウトリュコスが子供をあやすように言った。

「わかったから、もうそれ返せ。後のことは俺たちが決めっから」
「……ちょッ…痛い痛い痛いッ!! なんでこの展開で納得しないわけッ?! お前ら自分たちのしてることわかってんのッ?! どう考えても今回は僕の方が正しいでしょッ!!」
 半泣きになりながらアイムが叫んだ瞬間だった。


────ふざけんな


「え……?」
 アイムの抱えていた光が鼓動する。


──俺は


 卵の殻がひび割れるように、少しずつ、光が光線となって細く漏れていく。


「俺はこんな終わり方するために今まで戦ってきたんじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!!!」








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