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しーたん

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第二十話 -正体-

02

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 とにかく封印の寸前、彼は物理世界にいる自身の魂に霊体の全身を移して逃げ込んだ。そうなれば後はもう物理的に殺害するしかない。物理世界の肉体を失ってしまえばもう逃げ場はないのだから。実行は物理世界で偶然彼の近くに転生していた悪魔二名に白羽の矢が立った。アイムとジャヒーが協力して彼を殺す。霊体はそのままでは大きすぎるから分割して封印する。

 しかしさらに予想外の出来事が起こった。
 全くの畑違いの理由によるアスクレピオスの介入により、物理世界での殺害に失敗した。そればかりか、本来ならそこで詰みだったにも関わらず、ジャヒーに三分の一を奪われた後の通常であれば絶対に機能しないはずの残りの霊体を医術の天才は蘇生してしまった。

 さらにもう一度アイムが交通事故を装って殺害を試みるが、アスクレピオスが呼んだアウトリュコスの介入によりこれまた失敗に終わる。

「…もうね、どんだけ往生際が悪いのって感じ。ラスボス戦で倒した後にもう一回戦うのは仕方ないと思うよ? でもその後さらにもう一回戦ってそれでもまだ倒せないって、どうなの? プレイヤーが泣くよそんなゲーム」

「……違う…俺は……なんでわかってくれないんだよ…俺は…」
 もはや何も聞こえていないのか、譫言のように繰り返し呟くケイにアイムが背中からそっと腕を回して優しく声をかける。

「うん…。仕方なかったんだよね。君はただ周りの人たちのために戦っただけだったんだよね」
「周りの…人…たち…」
 そう。そうだ。ケイの口から、かすれるような声が漏れた。

「思い…出した……」
 神界で毎日戦いに明け暮れながら、ある日ふと気まぐれに下界を見下ろして考えた。
 もし、自分が何の力もないただの普通の人だったら。
 何の権力も力もない普通の人生を、ただ友達を大切にしてまっすぐに生きられたら、何か違っていたのかと。

 つまらないだろうとは思った。
 後世に名を残せない平凡な一生などに何の魅力も感じない。

 それでもつい、ほんの気まぐれに、死んで神界に来てから初めて物理世界に新しい魂を設計した。
 絶対に戦争の起きない平和な国で、普通の家に生まれて、親友と殺しあうこともなく、戦場で大勢の人を殺すこともなく。

「…たかがほんの百年程度の一瞬の夢みたいなものだって…わかってた。でも一度でいい…誰とも戦わずに誰も殺さずに友達と一生笑って過ごせるような人生を……送ってみたかったんだよぉぉぉぉぉッ!!!!」

 泣き崩れていく彼を抱きしめて、アイムが穏やかな声で囁く。

「辛かったね。…本当の君はそんな人だったのに、誰にもわかってもらえないまま大勢に恨まれて、殺されて」
「………ぁ…あ…ぁ…」
 涙が詰まって呼吸のたびに身体が痙攣する。

 身体を優しく撫でながら悪魔は続けた。
「もう苦しまなくていいんだよ。何もかも忘れて、魂にお還り。霊体はこのまま封印するけど、君はそのまま残りの人生を謳歌していいんだ。そのくらいの霊体なら残してあげる。その人生が終われば、それも魂と共に封印された霊体に還る。もう…二度と転生はしない。半神デミゴッドとして永遠の時を苦しんで生きることも…」

「…………………………………………………」

 悪魔の腕の中で、静かに眠るように目を閉じる。
 還れる。これで……。

 輪郭が光る霊体がアイムの両手の中で形を失って大きな光の珠に変わっていく。
 半神達が呆然と見守る中、魔界の神は静かに告げた。





 おやすみ………。…孤高の英雄クー・フーリン………。





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