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第十九話 -恋心-
02
しおりを挟む「それにしても、霊体は本当に彼女が持っているのか? その…三分の一だけ」
アスクレピオスの問いに全員の視線が再びアイムに向く。
愛くるしい顔で悪魔は答えた。
「うん。それは間違いないよ。あの日の夜に僕が見てたからね。そもそもあの悪霊に力を貸してたのもジャヒーだしね。アスクレピオス先生にあの日除霊されるまでの話だけど」
「一つだけ先に断っておくが」
アスクレピオスが正面からアイムの顔を見て言った。
「お前も知っての通り、ここにいる四人は全員が冥王府に所属している。…ケイの霊体を取り戻す事と、自分たちの身を守る以上の戦闘行為はしない」
「はいはい。戦争禁止の中立国民は大変だよね。ま、気楽にやろうよ。それと、もう一つ情報なんだけど…」
ごくわずかにアイムの持つ霊体の色が変わった。
「ケイくんが持ってたはずのアカシックレコードのアクセスキーは、今、霊体のところにはないよ。ジャヒーが別で持ってる」
「……キーを解読できる能力者でもいるのか? ケイ以外には使えない代物だろう?」
訊いてきたアスクレピオスにアイムは意味深に笑った。
「さぁ。そこまではわかんない」
◇
ジャヒーは…ケイが想像しているよりもはるかに可愛かった。
清楚なタイプの髪形に服装。大人しそうだが明るい感じの表情。
物理世界にいたら間違いなくアイドル事務所行きだ。
「嘘だろ…?」
扉の陰から覗いている透明のケイが小声で呟く。
同じく透明になっているアスクレピオスが小声で呟いた。
「…なんか…感動してないか? 彼女」
「怖いねぇ。女の子って」
割と素で呟いたアイムの視線の先で、先程からアウトリュコスと話しているジャヒーの目は恋する少女の目だった。
「……まぁ、なんだ。女の子を騙すなんてのは性に合わねぇから正直に言う。君が俺の友達から盗んだものを返して欲しい。今日はそれを頼みに来た」
普段、口八丁手八丁のアウトリュコスが今回とった戦法は…嘘をつかないことだった。
「あの…それを返したら…私と結婚してくれますか?」
ドアの向こうでずっこける三人組。
部屋の中ではキラキラした目で訊いてくる少女に銀髪の男が軽く息をつく。
「あー…前にも言ったけど、付き合うだけならいいぜ。でも俺は…」
「それでもいいですッ!! 付き合ってるうちに気持ちって変わるかもしれないですし、恋って最初はどんな形でも始められると思うんです!」
「い、いやいや…。俺は遊びでしか付き合わないって最初に…」
しおらしく伏せた目で上目遣いに男を見上げてジャヒーは言った。
「…最初は私も遊びでも良かったんです。あなたは私に優しくしてくれたから…。寂しい時に抱きしめてくれる人が欲しいだけって最初に言ったのも…私だったし…。でも、段々…」
苦い顔で男が返す。
「…だから、俺との関係はここまでにしようって言ったろ」
切ない顔でジャヒーは叫んだ。
「あきらめきれないんです…ッ! …チャンスを…もらえませんか…? 私、好きな人と結婚して素敵な家庭を作るのが夢なんです…ッ。今は仕事も頑張ってますけど、結婚したら…」
「……あのな、ジャヒー」
「はい…ッ!」
嬉しそうに返事をする彼女の目を真っすぐに見て男は言った。
「悪いが俺は誰とも再婚はしない。何億年経とうが俺の妻はアムピテアだけだって決めてるし、子供ももう二度と作らない。君がそれじゃ嫌だってんなら、遊びじゃなくちゃんと君を愛してくれる男を探した方がいい」
「…そんな……………それじゃ、あなたの心はいつまで経っても手に入らないじゃないですか………なんで…」
闇の底から響くような低い声が漏れる。アウトリュコスは眉一つ動かさなかった。
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