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第十一話 -禁忌-
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アウトリュコスが盗ってきてくれた資料には冥界で働く神々の情報が詳細に載っていた。目次リストに載せられた名前の数は軽く百万を超え、しかも掲載順は一体何基準なのかさえわからない。
何ページか最初の方を見て推理した限りでは階級順かもしくは冥王府に仕えた日が古い順か…。驚いたことに百万以上の名前がある中でアスクレピオスやアウトリュコス、ピラムの三人の名前はかなり最初の方に記されていた。
つまり、あの三人は冥界の中ではかなり高い地位にいることになる。
いや…親がオリュンポス十二神なのだからオリュンポスの冥界で地位が高いのは当たり前なのかもしれないが。
アウトリュコスによると、冥界は世界中にあって、管轄している冥王も何人かいるらしい。そういえば、前に会ったマリクという天使も日本の冥界は黄泉と呼ばれていると言っていた。ということは、日本の冥王は閻魔大王なのだろうか。
ここに記憶を取り戻す手がかりがあればよいのだが。
…とは思いつつもついつい、知っている三人のプロフィールに目が行ってしまう。一番最初に名前が見つかったアスクレピオスの経歴を開いて読みふける。
アスクレピオス。半神。前科六犯。冥界の罪で冥王ハーデスの依頼により主神ゼウスに処刑される。
処刑されたことで刑に服したとして冥王はそれ以上の罪を追求せず、彼を神とすることを認めた。そして処刑後に神となり冥王と和解したのち、その下で医神として働くことを自ら希望する。
「嘘だろ…?」
ケイの口から乾いた声が漏れる。とてもではないが死刑になるような元犯罪者には見えない。
胡坐をかいて本を開いたまま呆然としているケイの横からほいっと覗き込んだアウトリュコスが「あー…」と漏らす。
「つかお前、人の過去を読むなよ。そういうことするために読ませてやってるんじゃねぇんだぞ?」
「あ、ああ。ごめん…けど……びっくりした。…何したんだ? レピオス」
「………………。…ある意味、この世で最大の禁忌だ」
ケイがふと勘づいて訊いた。
「死者蘇生…とか?」
アウトリュコスが今までで一番驚いた顔で硬直していた。
「なんでわかった?」
「いやだって…レピオスなら死んだ人を生き返らせるくらいのことも余裕でできそうだし、大抵アニメとか漫画の世界でも死んだ人を生き返らせるってのは禁忌で、それをやると大体どの作品でも酷い結果が待ってるってのが定番だし」
「………俺もちょっと漫画読むわ。あー…でも日本じゃないと漫画って売ってる店少ないんだよなぁ…」
ぶつぶつ言ってるアウトリュコスにケイが訊く。
「…レピオスが蘇生した人って…もしかしてレピオスの母親か…?」
瞬間、柔らかい風が吹き抜けて二人の髪を撫でていく。
アウトリュコスが怖いくらい真剣な表情で言った。
「…誰にあいつの母親のことを聞いたか知らないが、あいつは自分の私欲で人を生き返らせたりはしなかった。だからこそ、掟には絶対のあのハーデスが五回も人が蘇生されていくのを黙認してたんだ」
「あ………」
そう。前科六犯で刑を受けたのは一回…ということは、六回目まで捕まらなかったという意味だ。
「ま、ハーデスも何度も警告はしてたけどな。これ以上続けるなら処刑もやむを得なくなるってレピオスにはっきりと言ってたらしい。俺やピラムや他の奴も何度もレピオスに忠告したが、あの馬鹿は結局やめなかった。処刑されても構わないって自分で言ってたしな。
…あいつは自分が死んででも、溺れ死んだ小さな子供を助けてくれって泣いてる親を見捨てられなかったんだ。…ハーデスがギリギリまで悩んだ末に冥王としての義務を全うして処刑を決断してくれたおかげでようやくレピオスも目が覚めたみたいだがな。…あいつのお人好しは死んでも治らねぇ」
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