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第七話 -音楽の神-
03
しおりを挟む「どんな?」
憎しみのこもったような冷たい目を向けられて、ケイが慌てて訊きなおす。
「ああ…ええっとッ、何の神様かとか。ほら、レピオスは医学の神だろ? だったら…」
露骨に嫌そうな口調でピラムはそれでも一応答えた。
「そうだね。親父も医学の神だよ。それと同時に光の神で予言の神で音楽の神もやってるけど」
「…………」
つまりアスクレピオスの才能は全部父親譲りだったわけだ。それにしても、音楽の神ならケイもあやかりたいくらいだ。ギターがうまくなるようにお願いしたりできないだろうか?
「なんか…すごい親父さんなんだな。ピラムとレピオスのお父さんって。まぁ、レピオスも相当すごい神様なんだろうとは思ってたけど…。そういや、ピラムも医学の神なのか?」
先ほどからびりびりと殺気を放っているピラムの態度の理由がわからないにしてもとにかく必死に言葉を選びつつ父親の話から話題をそらしてみる。
「いや。俺はそっちの才能はからっきし。俺は予言の神だよ。自分では予知能力なんてろくでもないとは思うけどね。あと音楽も得意だけど」
「い、いやいやいや。十分すごいって」
言われてみれば学生時代からやたらと東寺は勘が良かった。天気予報で雨だといっても彼が傘を持っていない日に雨が降ったことはないし、逆に天気予報が晴れだといっても、雨が降る日には必ず一人だけ傘を持ってきているような、何かにつけてそんな奴だった。
理由を聞いてもいつも「なんとなく」としか答えなかったが…。
まさか霊体が予言の神だったとは。
「…パンドラの箱に残った最後の厄災って見方もあるけどね。昔、俺の親父が付き合ってた女の子にプレゼントしたことがあるんだけど、どうなったかわかる?」
「プレゼントって?」
「予言の力だよ。親父がその子にあげたんだ」
「す…すげぇプレゼントだな…。それで、どうなったんだ?」
「プレゼントした瞬間、その女の子は親父にもてあそばれた挙句捨てられる自分の未来を見ちゃったらしくてね。プレゼントした直後に破局」
「…………」
もはやなんといえば良いのか。ケイは苦い顔でひきつった笑いを浮かべるので精いっぱいだ。
アスクレピオスの執務机に乗っかって両足を組んだまま、どうでもよさげにピラムは訊いた。
「それで? レピオスは留守? 俺、レピオスに会いに来たんだけど」
「ああ。留守中に誰か来たら待つように言ってくれって…」
「ふぅ…ん。待つように…ねぇ」
妙に含みのある言い方だった。そもそも予言の神であるピラムがアスクレピオスの不在を知らずに来たのはケイには少し妙に思えた。
「…やられたな」
ぼそっとピラムがつぶやく。
「え?」
「あの馬鹿親父に出し抜かれたってこと。向こうも予知能力があるわけだしね」
◇
幽界の病院で、一人の女性の霊体が廊下の長椅子にかけていた。長い黒髪に和服の似合う二十代半ばくらいの女性だが、彼女は普通の人間の霊体だった。その霊体は稀にみる美女で、どことなく影のある表情が神秘的な雰囲気を作り出している。
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「よぅ、浮かない顔だな」
見知らぬ男が声をかけてきた。映画俳優のように整った顔の金髪の若い男に女性が静かに答える。
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