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第六話 -医神-
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「あー…ほんっと面倒くさい…」
けだるそうに吐き捨てた金髪の少年に、隣に立っていた黒髪の青年が訊く。
「まぁ、仕方ないですね。アウトリュコスはあなたの言い方を借りれば戦闘タイプですし、ケリュケイオンで逃げられれば追跡は不可能です」
「いやそういうことじゃなくって…」
スラっとした長身の青年が立ったまま、背中を丸めて胡坐をかいて座っている少年の顔を覗き込む。
「……彼を『三回』も取り逃がしたこと、もしかして結構悔しいんですか?」
笑顔の青年を睨みつけて少年は大きな声を出した。
「あーはいはいッ。大体なんで連中が日本にいるんだよッ!! オリュンポスへ帰れ半神どもッ!!」
「ははは。まぁ…アウトリュコスはアスクレピオスが呼んだみたいですが…。罪を償って冥王と和解し、神界に迎え入れられて尚、冥王の下で人々を救うために医神として物理世界に転生してまで働く彼の姿勢は、日本の神方に随分と気に入られてますからね。やめておきなさい。アスクレピオスに手を出すと、この地の神々が敵に回りますよ?」
「……………」
ムスッとした顔で黙ってしまった少年にくつくつと笑いながら黒髪の青年は言った。
「…呼んでますよ? アイムさん」
召喚を知らせる火が、魔方陣に灯っていた。
◇
「気になること?」
聞き返してきたアスクレピオスにケイが言いづらそうに聞いた。
「…あの時…。レピオスが俺を助けに来てくれた時。あれはまだ夜じゃなかったはずだ。俺と嵯峨が車で事故ったのが昼過ぎだから、どんなに早くたってまだ夕方だ。なのにお前は霊体で助けに来てくれた。ってことは…あの時お前の物理世界の人格はあんな昼間っから眠っていたってことになる」
そばで腕を組んで静かに聞いていたアウトリュコスが感心したように言った。
「…なるほど。頭は悪くなさそうだ。いいねぇ」
好戦的な顔で笑っているアウトリュコスを無視してアスクレピオスが少し真剣な顔でケイに言った。
「……その通りだ。私には少しだが予知能力がある。昼前くらいにその出来事が見えたおかげで今回は対処できたが…」
「対処って……霊体から魂に寝てくれって頼めるってのか? 一体どうやって…」
しかし、その夜はそこで時間切れだったようだ。
フッと電気が消えるように目の前が暗くなったかと思うと、次に目を開けた時には見慣れない真っ白いシーツと布団のベッドに寝ていた。
いつも肝心なところで時間切れになる。
なんとかならないものだろうか…。そんなことをぼんやりした頭で考えながら、横になったままゆっくりと顔を動かして状況を確認する。
顔には呼吸器。ベッドの横にぶら下がっている液体の入った袋から伸びた管は、腕に刺さっている針につながっていた。
要するに病院だ。
「やっと起きた? ご愁傷様」
人を挑発するような東寺の声。見舞いに来てくれていたのだろう。しかし、いつもなら隣にいるはずのナナミの姿が見えない。
「東寺。ナナミは…?」
やけに弱った声が出た。
「普通そこは嵯峨の心配が先だと思うけど? ナナミなら昨日の午前中に急に具合が悪くなって体調不良で昼から帰って午後半休。で、今日もまだダウン中」
「…………」
…あまりその可能性は考えたくなかったが。以前からナナミの夢の話を聞くたびに嫌な予感はしていた。しかし…だ。
ケイは改めてアスクレピオスを小一時間問い詰めてやりたい気分になったが、それはそれで知りたくもなかった事実を知ってしまいそうで怖い。
「しっかしケイも嵯峨もよく生きてたね。車はぺしゃんこだよ? 相手のトラックの過失らしいけど、向こうも原因がわからないってさ」
そこまで聞いた後、田舎から飛んできたケイの両親が医者を連れて部屋に戻ってきた。
大事故にもかかわらず奇跡的に後遺症もなく、驚異的な回復力で峠を越し、今もどんどん安定方向へ向かっているらしい。
これも、あの後アスクレピオスが何かしてくれたからなのだろうか?
しばらく入院が必要だと聞かされた。
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