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第二話 -幽界-
03
しおりを挟むハルナは怪我こそなかったものの、まだ意識が戻っていない。嵯峨も大きなケガはなく、ケイより先に意識が戻ったものの昨夜のことは何も覚えていないという。当然、彼もケイも嵐山殺害の容疑で事情を聴かれたのだが、覚えていることを正直に話すと意外にもそれ以上追及されることもなくあっさりと解放された。
司法解剖の結果、胴体が切断されたのは生前であったことや、一瞬で切断されたためにほぼ即死であったことなど、要は時間的にも腕力的にも嵯峨には到底不可能な芸当であることが判明したからだ。
ケイに至ってはオフィスの監視カメラにアリバイとなる映像がしっかりと残されており、死亡推定時刻である十時に彼はまだ地下には行っていなかったことが証明された。
「十時……」
見慣れた自宅のベッドの上で半分魂が抜けたような声でつぶやく。
三人がケイを残して帰っていった後すぐに時計を見た時に確か九時半だったから、彼らがそのままブラブラと地下に降りて探検して被害に遭ったとすればちょうどそのくらいの時間だろう。ということは…。
あの電話をかけてきたのは一体誰だったのだろう?
電話がかかってくる一時間も前に嵐山は死んでいた。
夢の中に出てきた男は嵯峨が嵐山の声を使ってかけたというようなことを言っていた気がするが、そもそもあの電話は線が切れていて使えなかったし、嵯峨の持ち物に声を再生できそうな機器はなかった。ケイの証言から警察が嵯峨のスマホを調べているが、録音された声などは一切発見されていない。
警察はケイの勘違いか夢だと割り切ってしまったようだが、そんなわけはない。
正直、嵯峨に自分を突き飛ばしたことも含めて問い詰めたい気分だが、生憎何も覚えていないらしい。刑事の話だと彼はケイと地下で会ったことすら覚えていなかった。
あとはハルナしかいないが、彼女が目を覚ましたとして一体なんと声をかけていいのかすらわからない。そんなことを考えながらベッドでゴロゴロしていると、目の前のスマホからバイブ音が聞こえて、けだるい仕草で画面のロックを外して確認する。
『大丈夫?』
ナナミからの短いメッセージだった。
あれからずっと会社を休んでいるからだろう。時間を確認してみるといつの間にかもう夜の十一時になっていた。
会社はあの日から何事もなかったかのように毎日通常業務が続いているという。
人が一人死んだところで、日常は何も変わらない。嵐山がその会社にいたことも、働いていたことも、やがてみんな忘れて初めからいなかったかのように…。
「……ッ!」
あっけない。あまりにもあっけない。
きっと、死んだのが自分であったとしても同じだったろう。この平和な日本で生きているうちに、どこかで忘れていたのかもしれない。人の死は本当はすごく身近で、すごく現実で。
なんとなく。
自分の死に納得できずに現世にとどまって悪霊と化していたあの女性の気持ちがわかるような気がした。
割りきろう。自分に言い聞かせるようにケイはわざわざ無表情を作って天井を眺めた。あの夜見たことを信じるなら、あの男がなんであったにせよ嵐山はあの女性の悪霊に取り込まれずに済んだのだ。きっと成仏できる。だから、自分は彼が安らかに眠れることだけを祈るしかない。
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