上 下
27 / 40
放たれし災

遺跡

しおりを挟む
 晴天をかけるクレイグ、レビエ、オスカー、ワズホ、リュッセ。
 砂漠の遺跡へ向かう護法士達だ。

 ワズホが目元に指を当て、術技を付与する。
【 猛禽類の目視ランプビジョン 】

 視力が高まり、ごく小さな羽虫はむしやどんなに高速に動くもの、さらに数十キロも遠い場所にある目標物を確認できるようになった。
 
 ミオランデ王国南部の街を視察する。

 護法士の術技で無数の生屍人アンデットが捕縛されていた。
 市民に被害は及んでいない。

 だが不死身の魔物は近隣の街にも多発している。

 災の禍根かこん、魔術師サタナエルを討たない限り、奴等は生き続け、各地を侵略するだろう・・・。

 空を飛翔する五人の護法士がミオランデの街から遠ざかる。

 郊外の広い平原には田畑があり、青果や小麦が実っていた。

 風景は絵画のように美しく、草花の赤や黄色で映え渡る。

 平原を飛び続け、緑に覆われた山脈まで到達した。

 さらに進んでゆくとを境に豊かな森は枯れ、大小の粗い岩石が砂漠の地表に散在している。

 連峰と砂漠の境界を越えた先に、巨大な岩山を掘削して造られた建造物が見えた。

 古代の巌窟がんくつ神殿だ。
 二千年以上も前から建つと云われるいにしえの遺跡。

 入口まで届く参道の両側に高い石柱が並び、頑丈な岩の扉は来客の訪問を断るように固く口を閉ざしている。

 地下に眠る宝物ほうもつ狙う盗賊がまれに侵入しようと企む。
 
 しかし銃や砲弾を使っても扉は開かず、難攻不落の神殿として悪漢共はもとより、人々を遠ざけていた。

 護法士達は空中から砂地に降りた。

「ここか・・・遺跡の深層から魔塊の邪気を感じる」
 リュッセの言葉に四人が同意してうなづく。

 クレイグを先頭にサタナエルの根城へと踏み込んでいった。

 ゴゴゴオオォォ!・・・
 神殿の厚い扉が鈍重な音を鳴らして開き、数百体の生屍人アンデットが巌窟の中から奔走ほんそうしてきた。

 主の命令に従い、到来した刺客を殺すために。

 迫る怪物の群集。

 五人は立ち止まり、クレイグ、オスカー、リュッセが腰に据えた鋼鞘ホルダーから剣を抜き、敵に向けて振る。

 刃の形を成した斬撃が飛んだ。

 レビエは〈黎明の流星群オーブ・コメット〉を、ワズホは〈万迅雷テラボルグ〉を撃つ。

 星と雷の強力な爆弾が生屍人アンデットを掃射する。

 おぼろげな光を含んだ土砂が漂い、襲撃してきた魔物の群れは総じて砂漠に倒れた・・・。
 
 しかばねの残骸を通り抜けて神殿に入場する。

 内部の通路は薄暗く、経年劣化により各所で瓦解した石畳や壁。
 床には砂が溜まっている。

 豊穣を願う儀式の壁画が路の端まで描かれ、隅に沿って配置された幾つもの柱が天井を支えていた。

 物静かな広間に着く。

 正面の壁際に高さ十メートルもあろう赤茶色の武者石像が二体、隙間なく並び、その横に一つずつ戸口がある。

 周辺を視察しながら場内の中央へ歩いた時、石像の横の戸口で騒がしい足音が聞こえ、五人は警戒した。

「!!・・・生屍人が来るぞ!」
 地下墓地から魔物が這う。

 広間へ出てくる寸前、クレイグは〈真炎球射弾しんかきゅうしゃだん〉を放つ。

 右側の戸口に入って炎上し、着弾の影響で坑道は崩れた。

 高く集積された瓦礫が路を塞ぐ。
 魔物は行き場を失った。

 レビエは左側の戸口に〈氷柱連破アイシクル〉を発導する。

 行列の手前にいた怪物を貫き、氷柱つららが重なって氷の壁が進路を阻んだ。

「出てくるのは生屍人だけ・・・。サタナエルは何処どこにいるのか・・・」
 リュッセが隈なく周りを見た。

「おそらく、別の場所に繋がる扉か入口があるはずだ・・・」

 クレイグはそう言うと遺跡を歩き回る。五人は敵の動向に細心の注意を払い、隠された秘密の扉を探す。

 ワズホが二体の武者石像の間に微かな邪気を察した。傍に近寄る。

「!!?・・・」
 突然、双方の石像の目に紅い光が灯り、意思を持ったように歩き始めた。


 巨大な足を交互に前方へ下ろす。
 護法士と岩石の武者が対峙した。

 直後、床に散らばる大量の砂が真上に旋回する。

 細かい砂は集合して、石像と同じ高さの槍と斧に変わり、武者石像はそれぞれ腕を動かして武器を掴んだ。

『我が名はソルネヘブ。主に忠誠を誓い、聖なる神殿を守備する者・・・』

『我が名はアメンヘブ。主に楯突たてつく愚かな侵入者よ。この聖域から直ちに去るのだ・・・。
 我らは非道な罪人であっても命を尊重し、共存を志している。
 だが冷徹な野望を抱き、その策略を遂げようと悪しき目論みのために生き続けるならば、今ここでそなた等の罪を裁こう・・・』
 赤茶色の守衛が護法士を牽制する。

 
 ソルネヘブは侵入者が退く気が無いと悟った。

 斧を掲げ、振り落とす。
 地面を叩いて砂が撥ねる。

 クレイグ、レビエ、オスカーは剣を手に三方向から石像へ肉薄した。

 三つの刃がソルネヘブの腕や胴体を断つ。

 斬られた破片は、きめ細かい砂粒に変化して空間に散った。

 アメンヘブが槍を連続で突き出し、護法士を貫いてやろうと攻撃を繰り返す。

 ワズホとリュッセは槍をかわし、敵に強烈な風の術技を撃つ。

 石像の頭部と腕を削り、瞬く間に上半身は消えてゆく。

 だか途端に壊れた部分へ、有り余るほど膨大な砂が密着する。

 二体の石像は一片の違いもなく、元の姿に修復された。

『我らは何度でも甦る。主の加護がある限り・・・』
 ソルネヘブとアメンヘブが巨体をゆらして前へ進む。

 斧と槍の打撃を避け、術技を発導した。

 石像は粉々に破壊されるが先ほどと同じく、欠けた部分を砂が埋め、岩石の鎧が原形に戻った。

 護法士達は攻勢を緩めず果敢に挑む。
 しかしその都度つど、武者石像の姿が再生する。

 サタナエルの魔術で非常に強力な復元の性質が付与されているようだ。

「壊しても復活する・・・、どうしたら倒せるんだ・・・」
 レビエが五人の戸惑いを代弁した。

『我らは何度でも甦る。主の加護が有る限り・・・』
 ソルネヘブが武器を持ち上げる。

「主の加護・・・そうか。ワズホ、リュッセ、オスカー。敵の動きを止めてくれ」

 クレイグは解決策をひらめいた。
 迅速に敵の方へ駆けてゆく。

 指示を受けた三人が〈鎮守の捕縛リストレント〉で石像の腕や足を結ぶ。

 クレイグは呪いを解く術技〈療浄天手コンディション〉をソルネヘブに送る。

 護法士の手から出現した光球が煌めく天使になり、背中の翼をはためかせ、武者石像へ悠然と舞い降りた。
 
 岩石の肩にそっと手を置く。

 邪悪な呪いが吸いとられ 、無害な物質へ浄化してゆく。

 ソルネヘブから生じた禍々まがまがしい闇の気体は消滅した。姿勢が斜めに傾き、身柄が削れる。

 やがて細かい砂粒に変わり、石像は崩れ落ちた。

 クレイグはアメンヘブにも同じ術技を送る。

 途端に頭部、腕、胴体、足の順に崩壊し、護法士の身長ほどもあろう砂塵の山が床に滞積した。

 呪いが解かれた砂は、入口から吹く微風そよかぜに流されていった・・・。
 
 五人は正面の壁へ歩く。
 ワズホが武者石像の間に邪気を察知した場所だ。

 壁の上部に丸い枠。掌の模様が刻印されている。
 調べてみるが何も起こらない。

 だがその裏側から魔力の気配を感じる。サタナエルがいるのだろうか。
 
 ワズホは雷の術技を放つ。
 雷撃により壊れた壁の残骸が散らばる。

 狭く長い秘密の通路が壁の後ろにあった。
 行き先は分からない・・・。

 クレイグが側壁のかごに掛かるすすけた木に火を灯す。

 即席の照明を持ち、護法士達は闇へ闊歩かっぽしてゆく。
 暗い道を真っ直ぐに進み、角を幾度か曲がる。

 通路の奥で見つけた地下へ向かう階段を、一ずつ慎重に降りた・・・。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~

雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。

女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません

青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。 だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。 女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。 途方に暮れる主人公たち。 だが、たった一つの救いがあった。 三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。 右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。 圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。 双方の利害が一致した。 ※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております

劣等生のハイランカー

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ダンジョンが当たり前に存在する世界で、貧乏学生である【海斗】は一攫千金を夢見て探索者の仮免許がもらえる周王学園への入学を目指す! 無事内定をもらえたのも束の間。案内されたクラスはどいつもこいつも金欲しさで集まった探索者不適合者たち。通称【Fクラス】。 カーストの最下位を指し示すと同時、そこは生徒からサンドバッグ扱いをされる掃き溜めのようなクラスだった。 唯一生き残れる道は【才能】の覚醒のみ。 学園側に【将来性】を示せねば、一方的に搾取される未来が待ち受けていた。 クラスメイトは全員ライバル! 卒業するまで、一瞬たりとも油断できない生活の幕開けである! そんな中【海斗】の覚醒した【才能】はダンジョンの中でしか発現せず、ダンジョンの外に出れば一般人になり変わる超絶ピーキーな代物だった。 それでも【海斗】は大金を得るためダンジョンに潜り続ける。 難病で眠り続ける、余命いくばくかの妹の命を救うために。 かくして、人知れず大量のTP(トレジャーポイント)を荒稼ぎする【海斗】の前に不審に思った人物が現れる。 「おかしいですね、一学期でこの成績。学年主席の私よりも高ポイント。この人は一体誰でしょうか?」 学年主席であり【氷姫】の二つ名を冠する御堂凛華から注目を浴びる。 「おいおいおい、このポイントを叩き出した【MNO】って一体誰だ? プロでもここまで出せるやつはいねーぞ?」 時を同じくゲームセンターでハイスコアを叩き出した生徒が現れた。 制服から察するに、近隣の周王学園生であることは割ている。 そんな噂は瞬く間に【学園にヤバい奴がいる】と掲示板に載せられ存在しない生徒【ゴースト】の噂が囁かれた。 (各20話編成) 1章:ダンジョン学園【完結】 2章:ダンジョンチルドレン【完結】 3章:大罪の権能【完結】 4章:暴食の力【完結】 5章:暗躍する嫉妬【完結】 6章:奇妙な共闘【完結】 7章:最弱種族の下剋上【完結】

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

最強の職業は付与魔術師かもしれない

カタナヅキ
ファンタジー
現実世界から異世界に召喚された5人の勇者。彼等は同じ高校のクラスメイト同士であり、彼等を召喚したのはバルトロス帝国の3代目の国王だった。彼の話によると現在こちらの世界では魔王軍と呼ばれる組織が世界各地に出現し、数多くの人々に被害を与えている事を伝える。そんな魔王軍に対抗するために帝国に代々伝わる召喚魔法によって異世界から勇者になれる素質を持つ人間を呼びだしたらしいが、たった一人だけ巻き込まれて召喚された人間がいた。 召喚された勇者の中でも小柄であり、他の4人には存在するはずの「女神の加護」と呼ばれる恩恵が存在しなかった。他の勇者に巻き込まれて召喚された「一般人」と判断された彼は魔王軍に対抗できないと見下され、召喚を実行したはずの帝国の人間から追い出される。彼は普通の魔術師ではなく、攻撃魔法は覚えられない「付与魔術師」の職業だったため、この職業の人間は他者を支援するような魔法しか覚えられず、強力な魔法を扱えないため、最初から戦力外と判断されてしまった。 しかし、彼は付与魔術師の本当の力を見抜き、付与魔法を極めて独自の戦闘方法を見出す。後に「聖天魔導士」と名付けられる「霧崎レナ」の物語が始まる―― ※今月は毎日10時に投稿します。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

異世界に来てミミズからのスタートだったけど人型に転生したらたくさんの嫁が出来て幸せです

佐原
ファンタジー
ある日ある男が転生した。しかも虫の姿で!スキル転生で最終進化すると他の種族になれる。これに目をつけたは良いもののなかなか人型になれない。ついに人型になったけど神より強くなってしまった。彼はやっと人型になったのでやっとゆっくり出来ると思ったので普通の生活を目指す。しかし前途多難である。

処理中です...