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【梅枝】Umegae

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右代の体調が快方へと向かうにつれて朱雀が疲弊しているように月夜には思えてならならなかった。介護休暇中の月夜は日中、右代に付き添っていた。朱雀は深夜近くまで働き、帰宅すると決まって月夜に抱きついて胸に顔を埋め甘えるようにして眠るようになっていた。月夜は家族の前で頬を打たれたことが尾を引いているのだと考えていた。

「ばか朱雀。相手は父さんなんだぞ、愛情を比べられっこないだろ」
月夜は眠る朱雀の寝顔を見ながらつぶやく。

「んんっ」
朱雀がわずかに身じろいだ。密着しているため朱雀の下肢の状態に月夜がすぐに気がついた。

「お前は寝てろ。僕がしてやるから」
月夜は眠る朱雀の下着の中に手を伸ばし、朱雀のペニスを握る。

「この絶倫め」
月夜がその熱い塊を扱くとヌルついた液が月夜の手を潤していく。月夜はその滑りを借りて朱雀を追い上げる。月夜の手の中でドクドクと膨張した血管を通して脈打つ鼓動が勢いを増していく。月夜は朱雀の熱に体が反応しないように平常心を保ちながらも、朱雀の精の解放を目指す。右代家で暮らし始めてからの日課になりつつある、眠りにつくまでの時間に月夜は喜びを感じていた。

「お前は絶対に自分のことを優先しないからな」
月夜は夜毎、朱雀の悦ぶ手練手管を模索していた。

「ぁっ」
二週間も経つと月夜もコツをつかみ、あっけなく果てる朱雀に月夜は満足感に浸る。そして無意識のためか射精するときに小さく声を上げることにも月夜は愛しさを感じていた。

「こうして寝顔を見るとやっぱり年下なんだよな」
朱雀の精液を拭い終えた月夜が朱雀の頬にかかる髪を撫で上げた。

チュッ。
「愛してる」
いつも朱雀がしてくれるように月夜が朱雀の頭にキスを落として眠りについた。


右代家で生活しはじめてから朱雀は何かを吹っ切るように、忘れたいかのように仕事に没頭していた。早く帰宅したくなくて深夜近くまで仕事に明け暮れ、疲れ果てたころに帰宅する。
弱りきった右代を見て何も感じなかったと言えば嘘になる。月夜に頬を叩かれたことがショックではなかったと言えばそれも嘘になる。しかしそれが右代の家に戻りたくない本当の理由ではないことを朱雀は知っていた。初めはその気持ちを月夜に悟られたくなくてわざと甘える振りをした。

「ばか朱雀。相手は父さんなんだぞ、愛情を比べられっこないだろ」
(そんなことは頭ではわかっています。でも私は貴方が私だけを見ないのが、貴方の愛情が私だけに向かないのが嫌で堪らないんです。独り占めしていたいんです)

「ぁっ」
月夜の手管に朱雀の口から堪えきれず思わず声が漏れた。
狸寝入りしていると知れたときの月夜の反応が怖く、朱雀はなおも眠っているふりをする。

チュッ。
「愛してる」
月夜が朱雀の頭にキスを落として眠りにつくと朱雀は消化できずに澱となって溜まる醜い嫉妬との折り合いをつけかねたまま眠りについた。
 

「うわぁー、豪邸」
北西の町(NWT)の玄関前でミカがきょろきょろと落ち着きなく辺りを見渡す。
「こんなすごいとこに住んでるの?慧君」
ミカが眼を丸くしながらもなおも屋敷を見上げた。
「住んでるっていうか、住まわせて貰ってるだけだよ」
慧が謙虚にミカに答えた。

「不公平だよね」
ミカがぽそりと呟いた。
「ぇ?」
聞き取れなかった慧がミカに聞き返す。
「何もいってないよ」
ミカがきょとんとした表情を浮かべた。

「そんなとこでいつまで挙動不審してんだ」
不意に玄関の扉が中から開いた。

「ヒカルさん。帰って来ていたんですね」
慧の表情が華やぐ。
「こちらが、大学で友達になってくれたミ」
「僕はミカエラ クリスティーヌといいます。慧君にはとても仲良くして貰ってます。お会いできて光栄です」
慧の紹介をさえぎってミカが自己紹介しヒカルに手を差し出すと、ヒカルはその手を握り返して握手した。ヒカルを見るミカの目には色と熱が篭っていた。
慧が一人呆気にとられていた。

「どうぞ」
ヒカルがミカを中へと誘うと、ミカも遠慮なく玄関へと入っていった。慧にはそれが不思議な光景に思えた。

(ヒカルさんが、ミカ君にやさしい。気がする)

「なに突っ立ってんだ。お前も入れ」
ヒカルに催促され慧も玄関に入った。

リビングに通されたミカはその豪奢なつくりにまたしても眼を丸くする。ヒカルはローテーブルの辺りで座って待つようにミカに伝えるとミカがフェイクファーラグカーペットの上にちょこんと座った。
「やっぱりかっこいい」
ミカがヒカルたちには聞こえないように小声で独り言を呟いた。
「かっこよくて、お金持ちで」
ミカが恨めしそうに慧を睨んだが、アイランドキッチンにいる慧は気がつかなかった。

「ヒカルさん、今日は早かったですね」
慧がアイランドキッチンでヒカルに向き合うとヒカルが慧をやさしく抱擁した。
「ヒカルさん?」
戸惑いヒカルの眼を見つめた慧の顎を掬いヒカルが慧に口付ける。スローモーションのように近づくヒカルの唇に吸い寄せられるように慧は身を任せた。
いつもとは違い甘い雰囲気を醸しだすヒカルに慧は戸惑った。

「ラブラブだし」
ミカはアイランドキッチンの二人の様子に嫉妬を覚えた。すっくと立ち上がったミカがそ知らぬ様子で二人の傍に歩いていった。

「僕、喉渇いちゃったな」
二人の口付けを邪魔するようにミカがドリンクを要求した。

「あ、ごめんね。気が利かなくて」
ハッとした慧が慌てて冷蔵庫からペットボトルのお茶を取り出すと、ヒカルが細身のトールグラスを三つ用意した。
「ヒカルさんも、いいの?」
慧がヒカルを見上げると、ヒカルが慧のこめかみにキスを落とした。
「お前が初めて友達連れてきたんだ。俺も興味がある」
あくまでも甘い空気に慧は戸惑うばかりだった。

トレイの上にグラスを載せるとミカが「テーブルに運ぶね」とそのトレイを持ってリビングのローテーブルにトレイを置くと先ほど座っていた場所に再び腰を下ろした。

ヒカルは遠目でそれを見やると、慧の顔中にキスの雨を降らせる。
「ヒカルさん、今日はどうしたんですか?ミカ君が来てるのに」
いつもと違うヒカルの行動は慧には理解できなかった。
「久しぶりに来たんだ。いいだろ」
ヒカルにそういわれると慧は逆らうことができない。慧はヒカルにされるがままに体を委ねた。

「ほんと気に入らない。何であいつばっかり」
ミカは自分の置かれている境遇との落差に嫉妬と妬みを強く覚え、そしてある事を思いついた。

「待たせたか」
ヒカルがソファに座り、足を組んだ。
「いえ、とても立派なお宅だなと思って感動してました。ここは持ち家なんですか、えーっと」
ミカがヒカルの名を呼ぼうとしたが知らないことに気がついた。

「自己紹介がまだだったな」
ヒカルは名刺をミカに差し出した。

「ミカド、COO。えーーーっ?宮内さんってあのミカド財閥のCOOなんですか?その若さで?」
ミカが目を見開いた。

「お前はこっちだ」
遅れてきた慧にヒカルが自分の隣に座るようにぽんぽんとソファを叩くと、慧が腰を下ろした。

「慧君、凄い人と付き合ってるんだね」
ミカが羨望の眼差しを慧に向けると、慧が照れたように俯いた。
「凄いのは僕じゃなくてヒカルさんだから」
ヒカルの事を褒められてうれしいのか慧がヒカルをチラリと見た。

「たいしたことねえよ」
ヒカルが慧の腰に手を回して引き寄せた。

「たまたまそういう家に生まれただけだ」
ヒカルはお茶を飲もうとグラスに手を伸ばす。すると距離感を間違えたヒカルの指がグラスを倒すと、その隣に置いてあった慧のグラスもドミノ倒しのように倒れ、中のお茶が零れた。

「大変」
慧が慌ててキッチンにタオルを取りにいき、テーブルを拭き、カーペットも念入りに拭き始めた。

「悪い」
ヒカルは倒れたグラスと汚れたタオルを回収し「新いの入れてくる」と席を立った。

「宮内さん、大丈夫ですか?」
ミカはヒカルを気遣うふりをしながら歯軋りした。

それからもヒカルはミカに見せ付けるように慧の手を握ったり体のあちこちに手を置いて何かをアピールしていた。

「今日は楽しかったです」
玄関でペコリとミカが頭を下げ、慧にそっと囁いた。
「ラブラブだね」
ミカの言葉に慧が顔を赤らめる。

「じゃあ、僕はこれで失礼します」
ミカは開錠された玄関のドアを開けて帰って行った。

リビングに戻ってきたヒカルは「案外急いだほうが良さそうだな」と呟くとすぐさまハウスクリーニングと運送業者を手配した。

「ヒカルさん」
ヒカルに念入りに手を洗うようにいわれた慧がリビングに戻ってきた。

「ああ、ヒカルさんのお気に入りのラグ、染みになっちゃいますね」
慧が染みを取ろうとタオルを取ってこようとした。

「いや、いい。ちょうど模様替えしようと思っていたところだ」
ヒカルはやんわりと制した。

それから三十分も経たずに運送業者が到着した。

「悪いな、急に呼びつけて」
作業服の初老の男にヒカルが詫びた。
「いえ、いいんですよ。宮内さんの頼みなら深夜だって駆けつけますよ」
初老の男は日焼けした顔をしわくちゃにして笑った。
ヒカルはその男に指示を出すと、男と一緒にヒカルも作業を手伝い始めた。

丸めたラグをビニールで梱包しトラックへと積み込むと男はあっという間に去っていった。
トラックと入れ違いに次の業者が到着した。

「来たか」
「すいません。遅くなってしまいました」
次に来たのはハウスクリーニング業者だった。

「いや、急に頼んだのはこっちだ。急がせたな」
「いえ、よろしいんですよ。COOには本社のビル清掃を一手に任せていただきご贔屓にしていただいてますから」
ワゴン車から下りてきた中年の女性が微笑んだ。ワゴン車には同じ世代の女性が四人乗っていた。

女性たちはテキパキとリビング全体の掃除を始め、ものの三十分も掛からずに清掃を終えるとドアの所で見ていたヒカルの元にやって来た。

「終わりましたよ、COO」
小太りな女性がヒカルに声を掛けると、他の女性たちもヒカルを取り囲むようにして傍に近づいた。
「いつもお仕事をくれてありがとうね」
「はい、これ食べて」
小柄な女性がヒカルに個包装のクッキーを渡すとヒカルもそれを受け取り、開封してその場で食べた。
「ほんと、うちにもCOOみたいな息子がいたらねえ」
女性たちに囲まれたヒカルが珍しく僅かに微笑んだ。

「ほら、仕事は終わったんだ。いくよ、あんたたち」
中年の女性の一言で女性たちはようやく引き上げていった。

「どうしたんですか?ハウスクリーニングまで頼むなんて」
慧が不思議そうに頭を傾げた。
「やりすぎってことはねえよ。次はお前だ」
ヒカルは慧を抱き上げるとバスルームへと連れて行き、お互いが着ていた服を全て洗濯機に放り込みスタートボタンを押すと、浴室へ入った。
全開にしたシャワーを二人で頭から浴びながらヒカルがボディソープで慧の体の隅々まで入念に洗った。

「こんくらいでいいか」
ヒカルが独り言を呟くと「腹、減ったな」と慧に微笑んだ。

食事を終えたヒカルと慧がソファで寛いでいると慧はヒカルに凭れかかりうとうととしはじめた。
「疲れたのか」
ヒカルが慧を抱き上げて寝室へと運ぶ。ベッドの上に下ろして布団を掛け部屋を出ようとした。

「待って」
眠っていたはずの慧に不意にワイシャツの裾を掴まれたヒカルが驚いて振り向いた。

「まだ眠りたくありません。せっかくヒカルさんが来てくれたのに」
慧が寂しそうに目を潤ませる。
「心配するな。忘れ物をリビングに取りにいくだけだ。今夜はお前の傍に朝までいるつもりでいた」
ヒカルの言葉に安心した慧がぎこちなく微笑むとベッドから起き上がった。
「一緒についていってもいいですか?」
ヒカルは慧に裾を掴まれたまま一緒にリビングへと下りた。リビングのサイドボードの引き出しから小箱を取り出すとヒカルがそれを開いて中身を取り出した。

「それは・・・」
慧が見覚えのあるそれとヒカルを見比べる。
「新しいお前のおもちゃだ」
ヒカルが不敵に微笑むと、慧が頬を染めてヒカルにしがみ付く。
「抱いて、くれるんですか?」
慧がヒカルの胸で小さく呟く。
「風呂で準備してやっただろうが。俺がお前を抱かねえ日が来るはずねえだろ、何を今更」
ヒカルが至極当然の事のように言い切った。

「んん、はぁっ」
ソファに慧を寝かせ正常位で挿入したヒカルが慧の腰下に両足を潜り込ませると深いところまで進入した肉棒に慧が甘い吐息を吐き出し、放り出された慧の両足が空を蹴った。
ヒカルは慧のペニスに指を絡めて慧を昂らせる。
慧のくぐもった吐息がリビングに響き渡る。ヒカルは動くことなく慧の中を味わう。

「ああっ。はぁ、あっ」
慧が喉を晒して目を閉じた。
「んっ」
慧が下腹に力を入れて硬直するとヒカルが呼吸を整えるように何度も息を吐き出す。ヒカルは止めていた手の中で硬く熱を帯びたままのペニスを扱く。

「お前は中でイクのが上手いな」
ヒカルにとっては何気ない一言だったが、慧にとっては違っていた。
「やっぱり加納のこと、気にしてますか?」
慧が辛そうな目をヒカルに向けた。
「んな訳ねえ。純粋に褒め言葉だ。どうした?今日はやけに悲観的だな」
ゆるゆるとペニスの触り心地を堪能しながらヒカルが慧の首筋に顔を埋めた。
「俺好みの女と言ったつもりだ」
ヒカルはなおも動かずに慧右耳に舌を這わせて嬲る。

「んんっ」
慧が逃れる様に首を捻るとヒカルの舌がそうはさせまいと追いかける。グジュグジュと慧の鼓膜に舌の音が反響する。

「ん、んんっ」
慧の上体がピクピクと動く。ヒカルは耳介の隅々まで舐めた。慧のペニスがヒカルの手の中で拍動を伝えるとヒカルは全ての指を使って絡みつかせ慧を追い上げる。

「ん、はぁっ、あっイクっんっ」
慧が中を震わせてドライで達した。
「俺をもっと楽しませろ」
握るだけのヒカルの手の中でドクンドクンと脈打つペニスが開放を望んでいるように感じたヒカルは起き上がり、慧の両胸にポイントを変えた。

「中、擦って奥、突いて欲しいか?」
慧の胸を触りながらヒカルが尋ねた。慧は首を左右に振って否定した。

「ヒカルさんを僕が気持ちよくしたいです。ヒカルさんの望むまま抱いてください」
「俺は俺の女には娼婦を求めてねえ。だが中で俺を満足させるには男としての整理現象はいらねえ。お前はそれがよくわかってるな」
ヒカルはにやりと慧を見下し微かに笑みを浮かべた。

「俺はそんなお前の従順なところが俺好みだ」
ヒカルは慧の胸を揉みしだく。硬くしこったその粒が柔らかくなるようにヒカルが念入りに押し潰す。

「あ、ん、んん」
慧は小さな粒から沸き起こるぞわぞわした感覚に揺めきそうになる体を押さえつけ睫を濡らした。

「お前、あいつが来たとき何か腹に何か溜め込んだだろ」
ヒカルが慧に問いただすが、慧は吐息を溢すだけだった。ヒカルがあえて硬く痼った粒を逸らし、薄い胸をマッサージするよう撫で摩る。

「言え。言わなきゃ、このままはぐらかすからな」
ヒカルがあえて触れない胸の痼りを暗に指したが、慧は珍しく頑なに拒んだ。

「なら、今日は射精はお預けだな」
ヒカルは箱に入っていた新型のトレーニングバンドを慧の完勃ちのペニスの、傘の括れた所で締め付けた。

「んんっ」
慧が痛みに顔を歪ませ、肉棒を締め付けられたヒカルもまた、眉を顰めた。

「もういい。寝るか」
ヒカルが慧の体を持ち上げ寝室へと階段を上がる。気まずそうにしながらも慧はヒカルにしがみついた。

寝室に入ったヒカルはベッドの上て無理やり後背位に体位を変更すると慧をしっかりと抱きしめて横になり、小刻みに律動を始めた。

「えっ?」
ヒカルが一人で果てようとしている事に慧は動揺した。

「中で俺を気持ち良くしてくれるんだろ。なら、文句はねえよな、クッ」
慧の思ったとおりヒカルは慧の中に精を吐き出した。

「だめ、それしちゃ」
ヒカルが慧のペニスを扱いた。精を吐き出すと必ず慧のペニスを解放させるヒカルによって慧の体が条件反射で射精した。

「んああっ」
しかしトレーニングバンドに堰き止められたペニスの中で慧の精液が行き場を失い逆流する。

「やあっ。弾ける、弾けちゃう」
慧がその苦しさにもがくとヒカルが足を絡ませて慧の体を拘束した。

「言う気になったか」
ヒカルの静かな声が慧の鼓膜に届くと慧がコクコクと何度も頷いた。

「やっとか。お前の従順な所が気に入っていると言っただろうが。俺に意地張っても無駄だ」
ヒカルはまたしても無理やり体位を正常位に変えて膝立ちした。持ち上がった慧のペニスを射精させぬように握り締めトレーニングバンドを外したヒカルが慧に命令する。

「言え」

「ヒカルさんが、初対面なのにミカ君に優しかったから。不安になりました」
慧の吐き出した言葉にヒカルが「そんなことかよ」と溜息をついた。

「口開け」
ヒカルのいう通り慧が口を開くとヒカルが慧の口内にペニスの照準を合わせ、もう片方の手で口が閉じぬように下顎を掴んだ。

「零すなよ」
ヒカルはようやく慧のペニスを握る手の力を抜いた。

ビュビュッ。
帯びたしい量の精液が慧の口内に飛び込む。それを慧はごくりと飲み込んだ。同時に慧も射精した。

「まだ出るだろ、今出しとかねえと、次に俺が来るまで溜める事になるからな」
ヒカルがそのままペニスを扱くと少量ずつ精液が飛び出した。ヒカルは出し切るようにペニスを扱き続けた。

「あ、ああっ。もう出ない、イクっ」
慧が今度はドライで達する。ヒカルは心地よさに慧の中で残りの精を吐き出すと、脱力する体を支えるように片手をベッドに押しつけた。

「はぁ、はぁっ」
慧が肩で息を吐く。

「ばかだな。しょうもないことで悩みやがって」
ヒカルは繋がったまま慧の体を抱き起こし、ベッドヘッドに枕で背もたれを作って座りなおした。ヒカルの胸に抱かれ慧の熱が少しずつ冷めていった。

「俺が信用出来ねえか」
ヒカルが慧の髪を撫でる。
「いえ」
慧が顔を埋めたままで否定する。
「でもミカ君は可愛らしくて僕にはない物を持っているから」
慧がなおも不安を打ち明ける。
「可愛らしい?あれが?」
ヒカルは鼻で笑った。
「あんなの頼まれても抱きたくねえよ。お前のほうが美人で賢くて従順だ。俺が選んだんだ。俺の女だって自信、もっと自覚しろ」
ヒカルの言葉に慧が安堵したように大きく息を吐き出した。

「さあ、女になる時間だ」
ヒカルはトレーニングバンドを慧のペニスの根元に嵌め直し、今度こそ慧がドライを起すように胸に手を這わせた。

「んああっ」
慧が上半身を仰け反らせ、倒れこまぬように両手で支える。ヒカルは追いかけるように身を乗り出して慧の薄い乳房を揉みながら粒を弾く。

「んああっ、ああっ」
胸の刺激が慧の中に蓄積するとヒカルのペニスを定期的に締め付ける。ヒカルはその心地よさにほくそ笑む。

「好きなだけイッていいからな。中でならな」
「あ、ああっ」
ヒカルの許しが引き金となり慧がビクビクと体を震わせてドライで達した。渦を巻くようにヒカルのペニスに絡みつく慧の反応に溜まらずヒカルが何度も下肢を突き上げる。ペニス全体から伝ってくる快楽をヒカルは無心で貪り続けた。

強すぎる快楽に慧が啜り泣くがヒカルが「さっき出しただろ、我慢しろ」と制した。

その後幾度となくヒカルの精を受け満足したように眠りについた慧を後ろから抱き締めたヒカルがそっとトレーニングバンドを確認するように触れた。

「お前が危険な目に合わねえといいんだがな。せっかく出来た友達をお前から奪うことになるが悪く思うなよ」
慧の頭をひと撫でしたヒカルも繋がったまま眠りについた。


「カズ君見て」
六条邸を出た足で店に出たミカが一樹に美男子コンテストの慧の画像を見せた。
「うわ、すっごい美人じゃん。ミカちゃんほどじゃないけど」
一樹は慧を眼にした瞬間、稼げると確信した。

「やっぱミカちゃんの知り合いは美形だな。いつ紹介してくれる?」
一樹はミカに早く紹介させようとしていた。

「でもね、今日失敗しちゃって」
ミカが残念そうに呟いた。
「失敗って?」
「その子の家にせっかく入れたんだけど、僕の目の前でイチャイチャしてムカついたからちょっと薬盛ってやろうとしたんだけど、一緒に住んでる彼が偶然それを零しちゃってさ」
ミカが猫なで声で一樹にしがみ付く。

「さーんねーん。ほら、その彼から名刺貰ったんだ」
ミカが一樹に名詞を渡すと、一樹がギョッと目を剥いた。

「み、ミカちゃんこの子、本当にこの人の知り合いなの?」
「そうだよ」
ミカがあっけらかんと答えると。一樹はその名刺を持って大杉の元へと向った。

「大杉さん、ヤバいっすよ。ミカが引きずり込もうとしてるターゲットちょっとヤバそうなんっすよ。ほら、こいつ。こいつの名刺っす」
一樹が大杉に名刺を渡した。それを見た大杉もまた眉間に皺を寄せた。

「あんまり関わりたくねえな、こいつとは」
大杉が渋る発言をした。
「でも大杉さん、ターゲット極上なんっすよ。ミカなんか眼じゃないっす。やな感じはするんすけど、諦めたくないっす。ほら、見てくださいよ」
一樹はミカに借りた携帯の画像を大杉に見せる。

「ん・・・」
慧の画像を見た大杉も流石に頭を抱えた。
「ね、極上っすよね。こんな上玉、そうそういないっすよね」
一樹が興奮して大杉に詰め寄る。

「しかしなあ」
渋る大杉に一樹が俄然やる気を見せる。

「俺、やりたいっす。大丈夫っすよ、大杉さん。あの件なら既に時効っすよ」
一樹の熱意に大杉も頷くより他なかった。


凛は三十歳を迎えていた。冷泉にはもう何度もプロポーズを受けているが凛は頑なに断り続けていた。

「冷泉君は二十一歳。離れすぎてるわ、年も、立場も」
凛は溜息をついた。

「六条、おい六条」
ヒカルの呼びかけにボーっとしていた凛がハッとして立ち上がった。

「は、はい。お呼びですか」
「用があるから呼んでるんじゃねえか。お前、今週末空いてるか?亜衣が来春、中等部に進級するから紫上がちょっとしたホームパーティを開きたいといってな、できればお前にも来てほしいんだと。うちは女手もいねえし、亜衣も女同士話せる相手がほしいだろう」
家族のいない凛は紫上とヒカルのやさしさと気遣いに感謝し、出席を伝えた。

その週末。

「亜衣ちゃん、綺麗」
階段から凛と共に降りてきた亜衣の姿を紫上がすかさずカメラで写す。
「凛さんがお化粧してくれたの」
亜衣がヒカルに買ってもらったドレスの裾が広がるようにくるりと一回りした。
「似合ってんじゃねえか」
ヒカルもご満悦の様子に凛がホッと一息ついた。

「凛さんみたいなお姉様に、もっと早くお会いしたかったわ」
亜衣がヒカルの膝に座りながらヒカルを見上げて不満そうに口を尖らせる。
「悪かったよ」
ブチュッとヒカルが亜衣にキスをした。

「今日はもう一人特別ゲストがいる。そいつは」
ヒカルがいい終わらぬ間に玄関のチャイムが鳴った。ヒカルは自ら玄関に向かいその人物を招き入れた。凛はひょっとしたらと体を硬くしていた。

「御門 冷泉。俺の弟だ」
ヒカルは皆の前で冷泉を紹介した。父子の名乗りを上げた今の冷泉には、その肩書きはどうでもいいことだった。

「凛さん。凛さんも招かれていたんだね。凛さんに合えるなんてなんてラッキーなんだろう」
冷泉は凛の隣に腰掛けた。凛は体を強張らせたまま周りに気づかれないかと冷や汗をかいていた。
冷泉と凛の様子を見ていたヒカルは、二人の空気に違和感を覚えた。

「お前、まさか凛と」
パーティが終わり、冷泉を玄関まで見送りに来たヒカルが靴を履く冷泉に一言聞いた。
「付き合ってるよ。結婚したいと思ってる」
冷泉が良く分かったねという表情でヒカルに向き合った。ヒカルは「そうか」とだけいうと、それ以上は何もいわなかった。


「慧君おはよう」
ミカに声を掛けられた慧も「おはよう」と返す。

「昨日はラブラブなとこお邪魔してごめんね」
ミカが小悪魔的な笑みを向けた。

「こっちこそ、あんまりお構いできなくてごめんね」
慧は昨日の事を思いだしミカに謝罪した。

「そんなの、いいよ。ぜんぜん気にしないで。
昨日、僕の彼氏に慧君のこと話したら会ってみたいっていうんだ。僕が慧君のことすっごい美人っていったから。でね、今度三人でドライブに行こうよ」
ミカの提案にヒカルの同意を得ない外出を案じた慧が言葉に詰まる。

「もしかして遊びにいくのに宮内さんの許可がいるの?でもさ、ちょっとだけ、講義が少ない日だったら平気でしょ。だからねっ、お願い」
ミカが縋るように慧を見上げた。せっかく出来た友達の存在に慧の心は揺れた。

「じゃあ、三十分だけ。ねえ、いいでしょ」
ミカが慧の揺れる心になおも付け入るように提案すると、慧もそのくらいなら問題ないと頷いた。


「木崎知事、宮内様とおっしゃる方から外線が入っておりますけど、お忙しようでしたらお断りしましょうか?」
秘書課からの内線に木崎の眉がピクリと動いた。

「いや、繋いでくれ」
木崎は受話器を握る手に力を込めた。

『久しぶりだな、先生』
「やはり君か、坊や」
『もう坊やって年でもないがな。あんたに一つ聞きてえことがある。
大杉 達也と工藤 一樹てヤクザ知ってんだろ』
「ああ。それをわざわざ確認するために電話をよこしてきたのかな。昔、繋がりがあったのは事実だが今は何の関係もないよ。今や私はクリーンな政治家だからね」
木崎が立ち上がってブラインドの外を眺めた。忙しなく往来する人々を眺めながら木崎が眼を細めた。
『いや、そいつらに灸を据えようかと思ってな』
「ほお、そいつは穏やかじゃないね。坊やを怒らせる何をやらかしたんだい?」
『またしてもそいつら俺の家族にちょっかいかけてきてな、邪魔くせえから綺麗に掃除しときてえんだ。もしまだあんたが繋がってんなら厄介だと思ってな』
「そうか。別に構わないよ、坊やの好きにするといい」
木崎は椅子に座りなおして足を組んだ。
『なら気兼ねはいらねえな。じゃあな』
ヒカルが電話を切ろうとしたのを木崎が呼び止めた。
「凛は元気にしているかい?」
晩年まで連れ添った雅の一人娘の凛を案じて木崎がヒカルに尋ねた。
『ああ。有能だ。俺の秘書としてしっかり働いてるよ』
ヒカルの言葉に安心した木崎が心置きなく受話器を置いた。

「私の過去の汚物を清算してくれるのか」
一度繋がりを持ったヤクザの執着に辟易していた木崎は遠い目でヒカルを思った。

木崎との会話を終えるとヒカルはある人物へと連絡を入れた。それから間もなく一本の電話がヒカルに舞い込んだ。

「ヒカル、俺俺」
携帯の着信で相手がわかっているヒカルが無言で返す。

「ヒカル、おい聞こえてるのか?」
電話の向こうの相手が返答のなさに呼びかける。

「ったく。あんなでかいもん送りつけて染みの成分調べろなんてやっかいな仕事押し付けたくせにだんまりかよ」
いよいよ相手が喧嘩腰になった。

「で、どうだった?」
ヒカルがようやく口を開いた。

「聞こえてるんなら返事しろ。
調べてやったぜ、親友の頼みだからな」
相手が上から物を言い始めた。

「結果をさっさと言え」
ヒカルは相手に催促した。

「ったく。変わんねえな。ヒカルは」
ヒカルには相手が頭を掻いているのがわかり思わずにやりとした。

「ヤバイぜ。ありゃ麻薬だ。どうしてあんなもんがヒカルんちのラグに付着した?まさかお前、とうとう手を出したのか?」
「ばーか。んな訳あるか。知っていたらお前に成分分析なんて依頼するか。ちょいとやっかいが舞い込んで来やがっただけだ。助かった、恩に着る。佐久間」
ヒカルは素直に感謝を伝えた。

「ヒカルが礼?俺に礼を言った?こりゃ槍がふるん」
プープープー。
佐久間の話の途中でヒカルは電話を強制終了させた。

佐久間との会話が終了したのを待ったいたかのようにヒカルの携帯が着信を知らせた。

「ヒカル?」
今度の相手はとても緊張した声色だった。
「ヒカルだよね?僕だよ、惟光だよ。ねえ、あれ、どうしたの?」
相手の緊張がヒカルにも伝わる。
「俺の家族がその友人に盛られそうになった」
ヒカルは事の経緯を全て伝えると相手が肩の力を抜いたのがヒカルにはわかった。

「わかった。僕はヒカルを信じる。麻取りの先輩には僕から詳細は伝えるよ。いい、ヒカル。絶対危険なことはしないでよ」
惟光に念を押され、ヒカルは通話を終了した。

「そうならねえといいがな」
ヒカルは深い溜息をついた。


月夜の献身的な看病の甲斐あって右代の体調は快方に向った。食事もはかどるようになり杖を使いながら自力歩行も可能になっていった。その一方で月夜は朱雀の様子が気がかりでならなかった。相変わらず仕事に精を出し、深夜近くに帰宅する朱雀は右代家に泊り込むようになってから眼に見えてやつれていた。それでもいつもの優しい朱雀の態度に月夜はある決断をした。

「明日の朝、父さんの部屋に一緒に行って欲いんだ」
間もなく土曜日に変わるころ帰宅した朱雀に月夜は静かに伝えると朱雀は微笑んだまま月夜を見つめた。いつものように朱雀を抱き締めて眠りに付く月夜は朱雀の頭にキスを落とした。

翌朝、右代の朝食を終えた月夜は朱雀を伴って右代の元を訪れた。

「父さん。父さんに聞いて欲いことがあります」
月夜は右代の前に立ち静かに口を開いた。朱雀は後ろからその様子を見守っていた。

「父さん、僕は今日でこの家を去ります。父さんも元気になってくれたから。
僕は朱雀に甘えすぎていました。朱雀の優しさに胡坐をかいていました。朱雀に父さんを選ぶのかと聞かれたとき、正直僕はどうしてそんな事を聞くのかと疑問でしかなかった。父親と朱雀への愛情は秤にかけるものではないと、比べることが出来ないものなのだと思いました。でも、違った。確かに父さんへの思いはあります。でもそれは愛情ではなく思慕の情です。僕はそれを同じ愛情だと勘違いをしていました。
それがわかった今なら朱雀を選ぶと断言できます。父さんを捨ててでも僕は朱雀を選びます。ごめんなさい、父さん。今までお世話になりました」
月夜は右代に深々と頭を下げた。

「私のほうこそ謝らねばならない」
月夜の話を聞いていた右代が静かに口を開いた。

「以前、朱雀の言ったことは本当のことだ。月夜、お前を繋ぎとめるために私は自らを追い詰め、弱ることでお前がまた私の元に戻ってきてくれるのを期待したのだ。
自らの犯した罪がお前たち二人を苦しめ、私の望む未来に歪めようとしていたことを私は恥じ、あまつさえその責任をお前たち二人に押し付けた。
そして今度は子は親から巣立つことを知りながらそれを認められずに月夜にしがみ付いたのだ。弘子は嫁にいくとものと初めから覚悟はしていたが、月夜だけは私の傍にいてくれるものと疑いもしなかったのだ。今となっては老人のたわごとに過ぎん。朱雀は初めからわかっておったのだろう。分かっていてこの老人に付き合ってくれたのだろう、月夜のために。すまなかった。本当にすまなかった。
朱雀にも申し訳ないことをした」
右代もまた立ち上がり月夜と朱雀に深々と頭を下げた。

部屋に戻った月夜を朱雀が後ろから抱きしめた。
「ありがとうございます。月夜さん」
朱雀が泣いているのだと月夜は思った。朱雀の頭に手を置いてよしよしと撫で摩る。

「帰ろう、朱雀」
右代家の運転手に送られて二人はマンションへと戻った。

マンションの玄関を潜ると二人はすぐに口付けた。どちらともなく。
「んんっ」
月夜が何かに反応した。
「どうしました?」
「チクッて。ああ、ここか」
月夜は朱雀の顎の剃り残しを触る。
「めずらしいな。お前が剃り残すの」
月夜はそれだけいうと朱雀の唇に重ねた。口付けが深くなると朱雀は月夜を持ち上げた。
「ばか朱雀。お前、いま弱ってんのに」
「いいんです。貴方を抱きたい」
朱雀は月夜の靴をポイポイと脱がせると迷うことなく寝室を目指す。ベッドの上に優しく降ろすと朱雀は月夜の服を脱がせた。
「ずっと欲しかった」
熱の篭った目に月夜の下肢にゾクリと痺れが走る。僅かに兆した月夜のペニスを朱雀が口に含んだ。

「んああっ」
クチュクチュと朱雀の口淫の音が寝室に木霊する。朱雀は月夜のペニスを喉の奥底まで誘った。

「ひゃっ」
あっけなく月夜が果てると朱雀は迷うことなくそれを嚥下した。

「溜まってましたね」
下唇をぺろりと舐めた朱雀が妖艶に微笑む。

「あなたの栄養全部いただきます」
朱雀は再びペニスを口に含んだ。

「あ、ああっ、やあっ。お前の、髭が当たって」
月夜が切羽詰って叫ぶが朱雀は口淫に夢中になっていた。

「チクチクして、あ、んああっ」
月夜が再び果てた。

「まだ濃い」
はあはあと息を吐く月夜を横目に朱雀がチェストからジェルを指に取り出すと搾り出して月夜の尻に宛がった。

「今日はゆっくりしましょう」
朱雀は月夜の尻をほぐしながらペニスを頬張った。

「あっ、あっ。髭、だめ」
朱雀が月夜のペニスを奥深くに迎えるたびに当たる朱雀の無精髭に月夜は嬌声を堪えることができない。朱雀はそれを知りながらも口淫を続けた。

三本の指で開かれた月夜の尻が摩擦で熱を帯び、とろとろになると朱雀は前立腺を刺激する。

「ひゃっ」
ビクンと月夜の体が跳ねると朱雀の無精髭が月夜のペニスの周辺に当たり、そのたびに月夜は声を上げた。

「もう、しつっこい」
月夜の涙ながらの懇願もむなしく朱雀は口淫を止めようとはしなかった。

「ひゃっ、ああっ。出る。違うの出る」
月夜が朱雀の頭を引き剥がそうと掴むが朱雀の指から沸き起こる深い刺激に月夜は翻弄されていた。

「だめ、やあっ、やあっっ」
朱雀の頭に手を置いたまま、月夜が下肢を突き出した。月夜の体がぶるぶると震える。

ゴクッ、ゴクッ。
朱雀の嚥下する音が月夜には鮮明に聞こえた。

「ばか朱雀」
力なくベッドに沈み込んだ月夜が悪態をついた。

「潮ってこんな味なんですね」
朱雀がやっと衣服を脱いで月夜に圧し掛かるとジェルをたっぷりとペニスに塗りつけた。

「愛してます」
朱雀は月夜の中にペニスを埋め始めた。

「もうこれで貴方は私だけのものですよね」
挿入の途中で朱雀がどこか不安げに月夜を見おろす。

「そうだよ。辛い思いさせてごめん。もう間違わないから、奥まで来て」
月夜が朱雀の頬をそっと撫でると朱雀の眼から涙が零れ落ちた。顎を伝って静かに流れ落ちる涙に月夜の胸が締め付けられる。朱雀は流れる涙を隠すこともせずに月夜と奥深くで繋がった。月夜が朱雀を包み込むように背中に手を回す。

「朱雀、もう我慢なんかするな。僕はどうしてもお前に甘えてしまう。父さんのことでお前に辛い思いをさせたことは正直堪えた。我慢強いお前が僕に発した唯一の信号を僕は軽んじてしまった。だからもうお前はもう我慢するな。じゃないとお前は何処までも僕のために耐えるだろ、僕はそれが嫌だ。僕たちは対等でいなくちゃいけない、だからお前も約束してくれ」
朱雀の顎を伝って大粒の滴が落ちた。月夜は朱雀の顎に残る滴を舐め取った。

「抱いて。僕がじゃなく、お前がどう僕を抱きたいのか。教えてよ、お前のこと」
朱雀がゆっくりと下肢を押し付ける。
プロローグを思わせるゆったりとしたリズムに月夜が胸を高鳴らせる。徐徐に勢いをつけると朱雀が月夜の喉元に吸い付く。
チリリとした小さな痛みが月夜を包む。その痛みは朱雀の唇が降り立つ至る所で発生する。月夜は朱雀のさせたいようにさせ、自らが参加することはなかった。

「あんっ」
朱雀の滑り落ちる手が月夜の脇腹を擽った。同時に胸元にチリリと痛みも与えられる。僅かな痛みと心地よさに月夜の体はとろけていく。

「あん、あっ、あん、あっ」
緩急を付ける朱雀の腰つきに月夜の口から喘ぎが溢れる。

「愛してます。愛してます」
朱雀は月夜にいい続けながら月夜の奥を抉る。

「僕も、あっ、愛、してる」
月夜も朱雀の思いに応えるように愛してると繰り返した。

「あっ。ああっ」
朱雀が月夜の膝裏を掬い上げてベッドに手を付くと持ち上げられた月夜の下肢が朱雀をより深く迎え入れる。

「あっ、あっ、あっ」
ジェルの粘質性が月夜の中が朱雀のペニスに絡みつかせる。朱雀は月夜の前立腺を擦り上げるように下肢を突き動かす。

「イク、イクッ」
月夜がドライの兆候を見せ始めると朱雀もラストスパートをかけた。

「あっ、イクッ、んっ」
月夜がドライを迎えると朱雀も中に精を吐き出した。ブルリと下肢を大きく震わせ果てた朱雀を月夜は快楽に滲む涙に歪む視界で見つめていた。

「はぁ、はぁ」
朱雀の目が据わっていた。朱雀はぐるりと月夜の体を反転させると四つん這いにさせた。月夜の右手を右の手で、左手を左の手で上から押さえるように繋ぎ、再び月夜の中を抉る。

「あんっ」
ピリリとした痛みが月夜の項に起こった。そしてそれは背中のあちこちで発生した。

「あんっ、あんっ」
下から突き上げられその度に月夜の奥が震える。月夜は体を支えるのに精一杯だった。

「イク、またイクッ」
月夜は朱雀のペニスに突かれるごとに勝手に反応する体に喜び啼く。朱雀もまた月夜の最奥にある狭い入り口を抉じ開けるたびに発する、ペニスを伝って下肢に流れ込む快楽に酔っていた。

「もうイクッ、んっ」
月夜がまたしてもドライで上り詰めると体を支えられずにベッドに身を投げ出した。

朱雀は握っていた両手を開放すると月夜の尻たぶを大きく開かせ、上から下に突き刺すように下肢を打ち下ろす。
「うああっ」
月夜が一際大きく啼いた。朱雀は月夜の体に体重を預け寝そべると尻を開いたままグッ、グッっと押し込むようにペニスを押し付ける。

「ああっ、すごっ、ああっ」
朱雀の体の重みと背中越しに響く心臓の鼓動にとっさにシーツを握る月夜が喚起の声を上げる。

「気持ちいい」
朱雀が唸るように呟いた。

「あ、だめぇあ、イクッ」
朱雀の本音に月夜の体が無条件でドライを引き起こす。朱雀は月夜のざわめく中の動きに一旦動きを止めて堪能し、月夜の中が落ち着くと再び下肢を押し付けた。

「ああんっ、ああんっ」
いつもより深く中を抉られる月夜がシーツを握る手に力を込める。朱雀もより深くを抉る感触にのめり込む。

「すごっ、あ、いいっ。すざ」
月夜は勝手に溢れる涙をシーツに染みこませビクビクと体を無意識に痙攣させていた。

「もっと、ください」
朱雀が上ずった声で月夜に終わらぬ終焉を伝える。

「もっと、して、んああっ」
月夜も朱雀を求め啼き続けた。朱雀が後ろから月夜の首筋に何度も吸い付きながらも同じリズムで月夜の奥を抉る。

「貴方の中がいつもより私のに吸い付いて、溶けそうです」
朱雀が月夜の腰に手を回して抱きしめる。

「もっと奥にいきたい。もっと私を欲しがって」
朱雀が月夜の足を開かせて両足を潜らせる。

「うわ、あっ」
月夜が目を見開いた。朱雀はグッ、グッと奥に押し付けていた動きからペニスの先端を月夜の奥に擦り付ける様に変化させた。それは朱雀が自分の意思で月夜の快楽ではなく自らの快楽を求める行為だった。

朱雀のペニスの切っ先が月夜の中で擦れ、先ほどまでの抉られる鋭い快楽からふんわりとやわらかく包み込む快楽が月夜に満ちていく。

「あ、いい、いいよぉ。朱雀、気持ちいいよぉ」
とろけた声で月夜が啼いて腰を下ろす。

「私も、気持ちいいです。このまま、一緒にイキましょう」
そういいながらも朱雀は暫く月夜の中を揺さぶり続けた。月夜もイカされるでも焦らされるでもないこの朱雀のセックスにいつまでも浸っていたい気持ちだった。

「はぁ、あはっ、ぁっ」
朱雀の息遣いが月夜を興奮させる。

「んくっ、ん、はぁっ、あ、あっ。イク、前でイクッ」
前でイクのを好まない月夜が射精すると訴える。

「出しながら、イッて」
それを知りながらも朱雀は思うに任せた。

「あっ、出る」
「今日はもう触ってあげないよ。私のでイッて」
朱雀の口調がいつもと違っていた。

「出る、で、ああーっ」

ピュクッ。
さらりとした精液がシーツを汚した。

「あ、あぁ、あぁ」
弱弱しく月夜が感嘆の声をあげた。

「まだだよ。もっと。私が貴方の中で出すまで止めないよ」
朱雀に宣言された月夜は腰に回された朱雀の腕に合意するようにしがみ付いた。

「はっ、愛してます、月夜さん」
行為の端々で朱雀が月夜に囁くたびに月夜の中に快楽だけではない満たされる何かが蓄積される。

「僕も、愛してる」
月夜にそういわれる朱雀も同じ事を感じていた。

月夜の奥に集中してペニスを擦りつける朱雀が月夜の背にきつく吸い付きながら時折切なげに吐息を零す。月夜は体の中から溢れ出すいとおしさを噛み締める。

「いい、いいよぉ。朱雀、気持ちいいよぉ」
涙声で月夜がしきりに朱雀に伝えると朱雀もまた空虚だった日々に色が宿るのを感じていた。

「あ、あっ」
月夜の中で充満したふんわりとした快楽が限界を迎え、月夜が切羽詰ったように啼きはじめる。

「出る、また出る」
「いいよ、出して」
月夜のペニスがほんの僅かな精を無理やり吐き出すように震えると同時に朱雀が精を放出した。今までにない程収縮する月夜の中で朱雀は「ぁっ」と小さく声を上げた。

「凄かった」
長かった余韻に解き放たれた月夜が朱雀の腕に抱かれたまま脱力した。
「朱雀?」
返事のないことを不思議に思った月夜が身じろぐと朱雀の体が崩れ落ちた。朱雀は意識を手放していた。

「疲れてんだもんな」
クスリと朱雀の寝顔に微笑んだ月夜は朱雀の腕を解いてシャワーを浴びるために立ち上がった。

「んっ」
月夜の尻の間からトロトロと朱雀の精が溢れ出す。これも朱雀の愛の証と月夜はうれしくなった。

「うわっ」
バスルームの鏡に映った自分の体を見た月夜がギョッとした。
首筋から胸元、背中に至ってもすさまじい数のキスマークが付けられていたのだった。
月夜はあまり視界に入れないようにシャワーを手早く済ませると朱雀の体を清めた。

「そうだ」
月夜はチェストの上に置かれている箱からファミリーリングを取り出した。眠る朱雀の左の薬指に嵌め、自らも。そして朱雀の頭にキスを落とす。
気が付くと辺りは既に暗くなっていた。閉め忘れたレースカーテン越しに見えるのは朧月夜。

「愛してる」
月夜は朱雀の頭を抱きしめると、ぼんやりとした月明りに照らされる朱雀の寝顔をいつまでも見ていた。


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