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【真木柱】Makibasira

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ホテルに着いた大将は指定された部屋の前に立つ。だが嫌な予感が過ぎった大将は携帯の録音ボタンを押してポケットにしまいノックした。

「はぁーい」
中からのんびりとした涼の声がするとドアが開けられた。
「持ってきてくれた?さ、入って」
大将は部屋の奥へと入ると涼はドアロックをした。

「商談じゃないんですか?」
大将が振り向き、言葉を失った。

「だってこうでもしないと大将君来てくれないでしょ」
涼は勿体つけるようにジャケットを脱ぐ。そしてブラウスのボタンを一つ、また一つと外していく。真っ赤なブラジャーが大将の前に姿を現した。

「恥ずかしがり屋の大将君にお姉さんがイイコト教えてあげる」
お姉さんと言うにはあまりにも年の離れた涼が今度は後ろ手でスカートのジッパーを下ろした。涼はショーツとブラジャーだけの姿で大将の前に立つ。まさかここまでするとは思いもよらなかった大将が呆然としているうちに涼が大将を押し倒した。

「ちょっと、止めてください」
慌てて大将が涼を引き剥がそうとする。

「女にここまでされたのよ、男ならもうすることは一つでしょ」
涼は大将の性器をジーンズの上から鷲掴みにした。

「ほうら、やっぱりだわ。もう勃ってるじゃない」
涼の手を振りほどき、大将が下肢をかばうようにうつ伏せになる。涼はその隙に大将のジーンズのボタンを外す。

「止めてください。奥さん、こんなこと社長に知られたら」
大将が社長の名を出し、何とか涼に止めてもらおうとする。

「あの人はもういいのよ。だって私は大将君と結ばれる運命なんだもの」
涼は聞く耳を持たず、熱っぽくダルい体では抵抗すらもままならない大将がどうやって逃げようかと必死に頭を回転させる。

「そこまでだよ」
大将が声のするほうを見た。

「あなた」
そこにいたのは社長の干潟 清吾だった。

「ありがとう。もう下がっていいよ」
干潟はフロントマンに礼を言う。

「どうして?どうやって入ってきたの?ドアロックしたわ」
大将に跨ったまま涼が信じられない目で干潟を見る。

「ここは私が設計したホテルだよ。ロックされた部屋の開閉を把握しているのは当たり前じゃないか」
干潟が大将に近づく。
「髭黒君、今まですまなかったね。奥野君に連絡をもらってね。セントラルホテルと聞いて飛んできた。部屋まではわからなかったけど支配人とは懇意にしているから、無理言って教えてもらったんだ」

「何よ、何しに来たのよ。私、大将君と結婚するの。そういう運命なの。あなたとは結婚すること自体が間違っていたんだから。
私、知ってるのよ。野心家のあなたは私のお父様の地位とネットワークが目的だって事。あなたがお父様を唆さなければ私はあの人と、公平さんと結婚してたんだから」
涼が叫んだ。大将は同じ名前の人物を知っているがその可能性を否定する。

「髭黒さんは、公平さんは私と結婚する筈だったのよ。それなのにあなたが邪魔なんかするから」
涼は怒りの矛先を干潟に向ける。
「涼、私と君が結婚するずっと前から髭黒は頼子さんと結婚していたじゃないか。何を勘違いしているんだ」
干潟が涼を宥めるが涼の心に詰め込まれた不満と欲望が噴出す。

「違わないわ。公平さんは離婚するもの。だってあの女が公平さんを誑かすから仕方なく結婚したのよ。公平さんだってあの女が無理矢理にせまって産まれた大将君が邪魔であなたの事務所に預けたのよ。私と結ばせるためにね。大将君だって私の魅力に反応したわ」
干潟が大きくいため息を吐く。

「髭黒君はね、病気なんだよ。毎月この日になると体が男として反応してしまう病気なんだ。涼に反応したわけじゃない」
「嘘よ」
「嘘じゃないよ。髭黒から彼を預かるときに彼の特異な病気のせいで他人に好奇な目で見られたくないからと頼まれていたんだ。だから他の社員たちにもそれとなく伝えていたんだ。すまないね、髭黒君。皆に言ってしまって」
干潟が申し訳なさそうに大将を見ると、再び涼を見つめた。

「いえ、先輩たちが詮索して来ないの、何でだろう?って思ってました。ありがとうございます」
大将が頭を下げた。そして真っ直ぐに涼を見た。

「俺が、干潟社長の所で働きたいと父に願い出たんです。父も建築家としてはそこそこ名が知れてますが俺は干潟 省吾の作品を見たとき、夢を創造するならガウディだけど、現実世界を創造するならこの人だと思いました。だから干潟社長の下で働きたいと思ったんです。
すいません、奥さん。先に謝りますが父と母は中学時代からずっと付き合っていました。若くして父が独立したときも、海外に行くと決めた時も母は父に寄り添い支えてきました。そんな母を父が見捨てる筈がないと俺は思います。最後に、俺は奥さんと結ばれる運命じゃありませんよ。それがさっき俺が感じた事実です」
涼は泣いていた。声も出さずに。
干潟は大将に「悪かったね」と謝罪した。


そのころ鬘は指定されたホテルの一室の前にいた。

「ここだ。ここにヒカルさんがいる」
鬘は迷わずにノックした。

少しして。
「待ってたよ~。か~つ~らちゃん」
中から顔を出したのは玉木 正夫だった。一瞬にして鬘の足が竦み体ががたがたと震える。玉木が鬘を中に連れ込んだ。

「いやっいやっ」
鬘が正夫の手を振り切ろうと引っ張るが到底叶わずにベッドへと放り出された。

「のこのこ呼び出されて来るなんて本当にかわいいね」
正夫が鬘の服の上から体を弄る。ワイシャツのボタンを外しながら獲物を狙う獣の目に鬘は恐怖しかなかった。

「綺麗だよね、すべすべだよね。今までのブス共とは段違いだよ」
うっとりと正夫が鬘の体を嘗め回すように見る。鬘はぎゅっと目を瞑った。

「まずはかわいいおっぱいから。会社のブス共に比べたらなんて慎ましいんだろうね~。貧乳って燃えるよね~」
正夫はさわさわと鬘の乳首を触ると、鬘はゾワゾワとしたおぞましさが込み上げる。

(やだ、やだこんなのやだ)

「かつらちゃんが逃げちゃうから会社のブス共で紛らわせてきたけど、やっぱりかつらちゃんが一番だよ」
今にも舌で舐め回しそうな正夫に鬘は吐き気を覚えた。

「どれどれ、おっぱいの下には何があるのかな~」
正夫が鬘のスラックスとボクサーパンツをずり下げる。

「か~わいい」
正夫に触られる鬘の性器が鬘の心同様に縮こまる。

「ここはどんな風に大きくなるんでちゅか~」
正夫は鬘が反撃しないのをいいことに鬘を好き勝手に弄ぶ。

「なかなか大きくならないでちゅね~」
正夫が赤ちゃん言葉で鬘の恐怖を煽る。

「僕のおちんちんはもうこんななんでちゅよ~」
正夫が下肢を寛げた。

「ほら~見てくだちゃい。僕のおちんちん。かつらちゃんに触って欲しくて大っきくなっちゃいまちた~」
正夫が鬘の手を自身のペニスへと誘導した。

「おえっ、うぐっ、げぇっ、げぇっ」
その瞬間鬘が盛大に嘔吐した。ゲホゲホと噎せる鬘に正夫が汚物を見るような眼差しを向け、鬘から離れた。その隙を鬘は見逃さなかった。正夫を突き飛ばし、スラックスを片手で引き上げながらドアストッパーを外して廊下へ出たところで誰かにぶつかった。
尻餅をついた鬘がその人物を見止めた。

「髭黒君」
不意に訪れた安堵感から鬘が泣き出した。

「逃げないでよ、かつらちゃん」
鬘が飛び出してきた部屋から正夫が出てきた。二人の着衣の乱れと鬘の尋常ならざる様子から大将は鬘がレイプされそうなのだと理解した。目の前が真っ赤に染まり頭が沸騰した大将が渾身の力を込めて正夫を殴りつけると正夫の体は壁にぶつかり大きく音を立てた。

「確保。確保。その場にいる全員動かないで。僕は警視庁の藤原 惟光。玉木 雅夫、強姦の現行犯で逮捕する」
隣の部屋から出てきた警官が正夫を取り押さえた。

「君も同行してもらうよ」
惟光が大将の手首を掴むと「惟光、正当防衛だ」ヒカルが制した。

「ヒカルさぁん」
ヒカルが膝まづいて鬘を見ると鬘の目から涙が怒涛のごとく溢れだし泣きじゃくる。

「あんた、こいつを囮に使ったのか?」
大将がヒカルの肩を食い込むようにつかんだ。
「そうだ、と言ったら」
ヒカルが挑発するように大将を睨み立ち上がり対峙する。

バキッ。
大将がヒカルを殴りつけた。

「痛ってーな」
ヒカルの口の端から血が流れた。ヒカルは立ち上がり大将を真っ直ぐに見る。
「こうでもしねえ限り、鬘は一生こいつに追い回されるんだぞ」
ヒカルが大将の目を射抜く。ヒカルの威圧に大将の怒りが相殺される。

「鬘をここへ連れて行ってくれ。今日は事情聴取は無理だからな。俺の事情聴取が終わったら直ぐに迎えに行くと伝えてくれ」
ヒカルは同じホテルの別の部屋のカードキーを大将に渡した。

「大丈夫か?」
大将が椅子に座り泣きやまぬ鬘に声を掛けるが、大将も既に限界を超えていた。大将がベッドの上に崩れ落ちるように倒れこんだ。

「髭黒君」
大将の異変に泣き止んだ鬘が大将の傍に寄って大将の体を揺する。

「俺から離れろ」
大将の息は荒く苦しそうに何かに必死に耐える大将に、鬘は大将の体を揺すり続ける。
「こんな髭黒君放っとけないよ」

「帰る」
大将が思い体を引き摺るように立ち上がった。鬘が引き止めようと大将の腕を掴む。
「触るな、俺にひどい事されたくなけりゃ触るな」
大将の怒声に鬘がビクッと体を硬直させる。
「嫌だ。そうしてそんな事言うの。髭黒君、僕を助けてくれたじゃない。髭黒君はひどい事なんてしないよ」

「俺の何が分かるんだ」
大将が鬘をベッドに押し倒した。

「俺は、おぞましい病気なんだよ。セックスしたくてたまんない病。俺に襲われたくなけりゃもう付き纏うな」
大将はあえてひどい言葉で鬘をつき離そうとした。

「くらくらする」
大将がめまいを起したように時折目を瞑って頭を振る。

(ヒカルさんは冷泉君が僕のベストだと言ったけれど、冷泉君は確かにヒカルさんにそっくりでかっこ良いけど、僕は流されるだけじゃだめな気がする)
唐突に鬘は感じた。

「いいよ。髭黒君なら。今度は僕が助ける」
鬘が大将の目を見つめた。
「お前、ばかか。今さっきあの糞野郎にヤられそうになって泣いてたくせに」
なおもめまいに冒される大将が頭を振る。

「ばかでもいいよ。良くわからないけど髭黒君ならきっと僕は大丈夫。髭黒君の病気がそれで少しでも良くなるなら、いいよ」
「どうなっても知らねえからな、お人よしが」
大将は鬘の首筋に顔を埋めた。

鬘のワイシャツのボタンを外そうとする大将の手が震えて上手く外れずにいると鬘が自分から衣服を脱いだ。
「これで、いい?」
大将が鬘の首筋の匂いを嗅ぐ。
「お前の匂い、だめだ、くらくらする。さっきからその匂い」
大将が犬のように匂いを嗅ぐことに鬘が恥ずかしそうにしていた。
「臭くてごめん。さっきの緊張で掻いた汗の匂いだよ。シャワー浴びてくるね」
鬘が起き上がろうとしたが、大将が両手で鬘の両腕を押さえつけた。

「違うんだ。いい匂いなんだ。誘われてるみたいに甘くて、興奮して、頭の中がさっきから痺れて理性保てねえ」
大将は鬘の首筋を舐め始めた。
「擽ったいよ」
鬘が体を捻るが大将は首筋をあちこち舐めた後、耳の後ろを舐めた。
「あんっ」
大将の舌が這い回るたび擽ったそうにしていた鬘が吐息を溢した。
「もっと聞きたい、あんたの声」
大将は鬘の首筋をひたすらに舐め、匂いを嗅いでいた。

「あんっ、あんっんっ」
鬘がもじもじと下肢をくねらせる。大将に舐められたせいで匂いが薄れると大将は鬘を四つんばいにさせ、背中を舐め始める。項から肩甲骨、背骨のごつごつした窪み、脇腹とゆっくりと大将の舌が鬘の背をたどりながら匂いを嗅ぐ。
鬘は太腿を擦り合わせながら疼きに耐えていた。

「甘い」
カプッと大将が鬘の脇腹を軽くかんだ。
「ああんっ」
大将の口内に銜えられた鬘の脇腹を大将がレロレロと舐めた。
「あ、あん、そこ」
鬘が悶える姿に大将が我慢できないとばかりに鬘の足を開かせた。鬘の性器がポタリ、ポタリと糸を引きながら先走りを垂らし、鬘の尻の窄まりが触られもせずにヒクヒクと大将を誘っているようだった。

「ずいぶんやらしい体してんだな」
吸い寄せられるように大将が尻の窄まりを舐め、男相手が初めての大将は恐る恐る性器を掴んだ。

「ああっ、あんっ、んふっ」
大将に触れられ扇情的な声を上げる鬘を啼かせたいと思った大将が性器を扱き、先端の先走りを亀頭に塗りつけながら鬘の尻の窄まりを舐めた。

「あんっ、んふっ、あっ」
鬘の先走りの量が一気に増えた。

「顔、どんな顔してんだ」
大将は鬘の体を仰向けにさせた。
涙で潤み、気持ちのよさそうな鬘の表情に大将の心拍数が上昇した。男を抱くことに最後まで戸惑っていた大将は鬘の窄まりに躊躇なく指を入れ、広げ始めた。同時進行で性器をやさしく扱きながら先端から溢れ出る、ぬるつく先走りで撫でる。

「んっ、んっ」
「声、我慢するな」
大将が傘の括れを指先で擦る。
「ああっ、それ、あっ、ああっ」
開いた傘を捲るように扱くと鬘が大きく喘いだ。
「気持ち良いいんだろ、ここ」
大将は窄まりの指の本数を増やすと性器を迷わず銜えた。唇を窄め傘全体を捲る。大将は鬘の顔を見ながら指を上下に小刻みに動かした。

「んああっ、んああっ」
大将の頭が上下するたびに鬘が扇情的な声で啼く。大将はとことん鬘を啼かせた。

「もう、そこ、許してぇ」
息も絶え絶えに鬘が大将を見つめる。鬘の目を見たとたん大将の下肢がズクンと衝撃を受けた。

「そしたら挿入れるしかないけど、いいのか?挿入れても」
大将が確認すると鬘が「いいよ」と受け入れる。大将は鬘の下肢を開かせて痛いほどに勃ち上がったペニスを宛がった。

「んんっ、んんっ」
鬘の眉根に皺が寄る。
「悪い、もう止められない」
大将はググッ、と体格に見合ったペニスを挿入する。

「奥、狭い」
鬘の脚を折曲げて抑え、全体重を乗せながら渾身の力を込めて大将が全てを押し込んだ。

その瞬間、二人の体に電流が駆け抜けた。

「う、うああっ」
鬘が奥を開かれた衝撃に目を見開き、ハクハクと浅い呼吸き繰り返す。

「・・・」
大将はなぜだか漠然とこいつだ、と直感した。

「奥を開いた人」
鬘はヒカルの言葉を思い出し、成り行きではあるがこれが自分の受け入れるべき運命だと思った。

二人はお互いに見つめあうと引き寄せられるように抱き合った。口付けを交わしひたすらに互いを求める。

「我慢、できない」
大将が堪らずに下肢を打ちつける。
「あ、なか擦っちゃ。あん、あんっんああっ」
鬘が瞬く間に射精した。大将は腹部の感触で鬘の性器が弾けた事を知る。大将はごろりと体勢を変えると鬘が上になる。大将がそのまま突き上げると鬘が大将の頭を掴んで唇を重ねる。積極的な鬘に大将の下肢に興奮が伝播して鬘の内部に押し込む様にくねらせる。

「んああっ」
大将の上で鬘が軽く仰け反った。大将は鬘の背中に回した腕で鬘の体をしっかりと抱き寄せると、鬘が再び大将の頭を掴んで舌を絡ませる。大将は鬘の舌を甘噛みしながら両足を立てて腰を突き上げる。

「あんっ」
鬘が今度こそ大きくのけ反る。深く飲み込んだ大将のペニスが内臓を押し上げる程突き刺さった。大将はその状態でさらに突き上げる。

「イク、イ、ク」
突かれるたびに鬘の内部が驚いたように収縮した。
「うっ」
大将が呻きながら軽く精を手放したが、息を整えながら下肢に接する鬘の肌の感触を確かめるようにゆっくりと下肢を突き上げると何事もなかったように復活を遂げる。

二人は幾度となく上になり、下になり体勢を変化させながら抱き合った。

「ん、んふっ、んんんーーっ」
大将が鬘を抱きしめる腕に力を込めて体を震わせ射精すると、鬘の内部が戦慄きドライで達した。

鬘がぐったりと体を弛緩させているにも拘らず別の生き物のように蠢く内部が大将のペニス全体を締め付け、痙攣し、奥へと引きずり込もうとする。
精を吐き出した大将のペニスが鬘の内部の蠢きにより復活させられた。

「はっ」
大将が快楽に顔を歪ませ鬘の内部に引き寄せられるように下肢を何度も突き出す。大将はもはや下肢の動きを自分では止めることは出来なかった。

「すごい、これが奥。初めての、奥」
鬘が恍惚とした表情を浮かべる。
「あいつに抱いて貰ってんじゃねえのかよ。んくっ」
大将が気持ちよさに眉間に皺を寄せながらも鬘の奥を突き上げる。大将のペニスの切っ先に突かれる感触は、鬘にとってヒカルの指とは比べ物にはならない快感だった。
「ちがっ、ヒカルさんはそんなんじゃない。抱いてくれなかった」

「マジか。俺が初、めてかよ」
急に大将が起き上がって胡坐を掻くと、鬘の背中に回した腕で鬘の肩を押さえつけながら蹲る。

「んん、あああーーーっ」
鬘が大きな啼き声を上げると再びドライの階段を駆け上がった。大将は鬘を抱き締めながら鬘の首筋に顔を埋め自らも精を解き放った。ヒカルによって性感帯に作り変えられた鬘の内部が大将との繋がりをより濃いものにさせる。ヒカルに仕上げられた鬘の内部が発作を向えた大将の性欲をも取り込んでしまうほど,包み込み凌駕する。
大将は夢中になって鬘の体を貪る。まるで溺れているかのように。


二人がようやく一息着く頃、どちらからともなく口付けを交わすと、互いに抱き締める腕に力をこめた。互いの鼓動を確かめるように、求め合う熱が冷めぬように。


「くそっ、事情聴取長過ぎだろ」
腕時計を見たヒカルがイラつきを隠さなかった。タクシーを捕まえセントラルホテルで待つ鬘の元へと急いだ。

スペアキーで中に入ると部屋は真っ暗だった。

「寝てるのか?」
カードキーを差し込むと電気が灯されヒカルは奥へと入っていった。

「あいつ」
部屋には誰もおらず、皺のよったシーツ、生々しく残る染み、それらはヒカルにとっては最悪の状況を示唆していた。

ヒカルは拳を握り締めると花散里へ向った。花散里に着いたヒカルが里華の制止も聞かず二階へ駆け上がり、鬘の部屋のドアを開けようとした所で里華の手がヒカルの手首を掴んだ。ヒカルが里華を見ると里華は静かに首を横に振った。

中から呻く声がようやくヒカルの耳に届く。里華に促され食堂に降りた里華がヒカルにお茶を出した。

「大将君が鬘君を負ぶって帰って来たから、私も様子を見に行ったのだけど、入れる雰囲気じゃなくて。
ところでどうしたの?口元腫れてるわよ」
ヒカル同様、困った顔の里華も部屋の中で行われている事を知っている様子だった。里華はヒカルの手当てをしてやった。

「悪い。俺の誤算だ。あの二人を一つ屋根の下に置いとけねえ。鬘は俺が引き取る」

その後、慌ただしく鬘は勇輝の住む東北の町(NET)に移り住むことになった。


「ただいま」

寝室のドアを開けた亜衣の目の前にはヒカルが紫上の背後から覆いかぶさる姿があった。
「あん、だから、もうやあ。亜衣ちゃんが、あっ」
紫上がヒカルに可愛がられている最中だった。

「ヒカルとう様、今日はずいぶんと早くからスキンシップしてるのですね?」
亜衣はこのおなじみになりつつある光景に既に順応していた。

「あん、あ、あ」
「紫上がお前の前では恥ずかしいと言うからわざわざ半休を取って、お前が帰ってくる前に終わらせようと思っていたんだがな」
ヒカルが起き上がって亜衣のいるドアのほうに振り向いた。

「あん、や、やあっ」
バックで紫上と繋がるヒカルがそのまま体位を変えてベッドヘッドにもたれ掛かり紫上の左足を自らの左足で押さえるように立て、下肢を大きく開かせる。くたりと体の力の抜けた紫上がヒカルに凭れる。

「亜衣も今日は宿題がたくさんあるから早めに戻ってきたの」
亜衣が動じることなくヒカルに答えた。ヒカルは紫上の胸を弄りながら律動を繰り返す。

「あ、んんっ、あんっ」
「紫上、亜衣にお帰りは言わなくていいのか」
ヒカルが紫上の耳の元で意地悪な事を口にしながら下肢を打ち込む。。

「あ、亜衣、ちゃあうっ、おか、え、だめぇ」
ヒカルが紫上の右手が睾丸を握り締めると紫上の体にピリリとした信号が駆け抜ける。

「ただいま。紫上かあ様。
ヒカルとう様って本当に紫上かあ様のこと、大好きね」
亜衣がヒカルに屈託なく微笑んだ。

「まあ、な。お前の性教育が終わるまで自粛してたからな。今日も楽しかったか、学校は」
ヒカルが父親らしく亜衣に学校の話題を振りつつも紫上の睾丸を弄る。
「今日ね、算数のテストで九十八点だったの」
亜衣が残念そうにしょんぼりとした。

「あ、だめ、あっ、あっ」
ヒカルがころころと睾丸を手のひらで転がし息一つ乱さずに律動しながらもヒカルは亜衣の話に耳を傾けた。
「なんだすごいじゃねえか」
「いいえ、亜衣は算数得意なの。だから百点じゃないと嫌なの」
亜衣がしゅんと下を向いた。

「ヒカルさ、ヒカルさ」
「なら次は百点取れるようにべん」
「んんーーーっ」
ヒカルが「勉強しねえとな」といい終えぬ間に紫上のキスによって阻止された。

紫上がドライに体を震わせるがヒカルの手の中にある睾丸が、上った高みから落りることを許さず、紫上がさらに高みへと上る。ヒカルは左手で紫上の体が崩れ落ちぬように腰に手を回して支えた。

「んんーーっ」
紫上が再びドライに達すると紫上に口を塞がれるヒカルが僅かに眉を潜めた。
「ん、ん」
ヒカルの精を受けた紫上がうっとりと微笑む。ドライの余韻に浸りつつ、睾丸を刺激される紫上の中がヒカルのペニスに纏わり付き勃起を促し、精を強請る。これを待っていたヒカルが耐える事無く紫上に身を委ね、緩急を付けて射精しながら下肢を押し付ける。
「俺を抱け。もっと」
ヒカルが亜衣に聞こえない程の小声でキスの合間に囁くと紫上の中が歓喜に打ち震え収縮を始める。ヒカルは激しく律動しながら睾丸を握り締めた。それは紫上のペニスが放り出されて心細く震えるほどだった。しかし、ヒカルは紫上のペニスには一切干渉しなかった。それでも紫上の中はヒカルの肉棒に絶大なる奉仕をした。

律動と共に射精しながらヒカルが亜衣に悪いなという視線を送ると、ここからが長い事を知る亜衣もスタスタと寝室を出て行った。

「いい加減慣れろ」
紫上のリードでヒカルが時間を掛けて二度射精すると満足した様にはぁっと息を吐き出した紫上のキスから開放されたヒカルが窘める。
「だって」
恥ずかしそうに俯く紫上の体を伏せにする。
「聞き分けのねえ女は仕置くって言ってんだろ。ま、どうせお前が隠したがったって俺がそうはさせねえけどな」
ヒカルは前に手を差し入れて睾丸をゴリゴリと握る。
「あ、あ」
「もっと抱けよ、俺のこと。今度はこっち触ってやるから」
ヒカルはもう一方の手で紫上の尾てい骨を指圧するように触る。
「そこは、んっ、んっ」
ヒカルがそこを強く押すと紫上の体がビクビクと震えだす。
「お前の中もいい具合だ」
ヒカルは律動することなく尾てい骨と睾丸を責めると紫上が力なくベッドに倒れ込む。

「ん、イク、イク」
紫上がヒカルにキスを強請る。

「ん、んっ、んっ」
紫上の鼻音が高い音に変化する。

「んーーっ」
ヒカルが覆いかぶさって軽くキスをすると紫上が尾てい骨と睾丸だけでドライに達した。
ヒカルはそこから律動を始める。

「ん、んっ、んんーーーっ、ぁん」
ヒカルは肉棒を抜かずに紫上の尻をより高く上げさせて後ろからガツガツと律動しながら尾てい骨を親指で指圧する。

「ヒカルさ、イッた、イッた後だから」
強い刺激に紫上が涙を流しながらシーツを握り締める。

「ああ、わかってる。お前の体がどこでも性感帯になるのはな」
ヒカルは最後の追込みの様に律動し、携帯電話で亜衣を呼んだ。

「ヒカルとう様」
亜衣が寝室に入ってきた。

「間もなく終わる。さっき頼んだの準備しとけ」
ヒカルのそれだけの一言で「はーい」と亜衣がどこかへ行った。

「あん、あん、キス」
紫上がヒカルにキスを強請る。
「仕置くっていったろ。次はキスはなしだ」
ヒカルはなおも紫上を責め立てる。

「イキ、たい」
「だろうな、お前はイク時はキスしたがるもんな。だが、キスしなくてもイケる方法がほかにあんだろ」
ヒカルが奥と尾てい骨を、肉棒と指で突きながら速度を速めた。

「イク、イキ、たい」
「ああ、俺が思いっきり突きながらお前の中に出したらなっ」
ヒカルは迷わず紫上の中で射精した。下肢を押し付け、より奥へと精子を染み渡らせるように上下に腰を振る。

「あ、あ、ああっんんっ」
一人置いてきぼりを食った紫上の体にヒカルの熱がじわじわと広がる。

「んんっ、うっ、んんっ」
痺れたように動かない紫上の中で、キスが引き金になるドライ、すなわち突発的なドライとは違う、ゆっくりと体全体に広がる遅効性のドライが支配し始める。ヒカルはイク瞬間は紫上の好きにさせているが、時折、意見が食い違う時はこうしてヒカルに仕置かれるのだった。初めの頃はイケずに熱を持て余す仕置きだったが紫上はいつからか、持て余す熱をドライに変換するようになっていた。一人放置されてイク事が紫上にとって何よりも辛い仕置きになっていた。

「ヒカルとう様、ご用意できました」
亜衣が「よいしょっ」とお湯を張った洗面器とタオルを持ってきた。

「お前にも付けとくか。
亜衣、そこの引き出しから皮のバンド取ってくれ」
紫上と繋がり、身動きの取れないヒカルが亜衣に頼んだ。亜衣に渡されたのはヒカルが慧につけたのと同じトレーニングバンドだった。

「んっ」
僅かな痛みに紫上が呻いた。バンドを装着させたヒカルは肉棒を引きずり出して服を着た。

「たっぷり出してやったんだ。俺が出かけてる間一人で楽しんでろ」
ヒカルが確認するように紫上の尻を観察し指で触り硬く閉じた部分をこじ開けようと指に力を入れるが、そこは一切の進入を許さなかった。

「んああっ」
上出来とばかりにヒカルの精液で僅かにぽっこりと膨らんだ紫上の下腹部を撫で摩り、ペニスを扱いた。ドクンドクンと鼓動のように紫上のペニスが一定の脈を打ち、バンドで締められたことにより行き場を失ったヒカルの精が今までになく紫上に襲い掛かる。

「あ、ああっ、イク、イクっ」
紫上が上りしかない階段を一歩一歩着実に上る。

「ここは亜衣にはさせられねえな」
ヒカルは紫上のペニスを咥えた。口全体で優しく扱きながら唾液で紫上のヌルつく体液を吸い上げながら嚥下する。

「あっ、ああっ、亜衣ちゃんの前で」
紫上が喚起の声を上げる。ヒカルは肉厚の舌をペニスに纏わりつかせ頭を上下に動かすと紫上が両手で顔を覆い隠した。

「あ、や、ああっ」
ヒカルがもぐもぐと租借するように喰むと紫上の体液が滲み出す。ヒカルは再びそれを嚥下した。

「これじゃいつまで経っても綺麗にならねえだろ」
ヒカルが呆れたようにペニスから口を離した。

「だって」
紫上が声を震わせる。
「俺がそうなるようにしたんだけどな。亜衣、これがフェラだ。男はこれに弱い。覚えておけ」
ヒカルは今度こそ紫上の体液を拭うために舌を這わせた。亜衣はヒカルの行動を熱心に見つめていた。

口の端を拳で拭ったヒカルが立ち上がると「勝手に外すんじゃねえぞ、紫上。
亜衣、紫上の体、拭いてやってくれ。俺はちょっと出てくる。何かあったら携帯鳴らせ」
ヒカルは亜衣に夕飯はデリバリーを頼むように伝え、一万円札を渡した。じくじくとしたヒカルの置き土産に紫上は体を震わせながら耐えるしかなかった。

「ヒカルとう様」
亜衣がヒカルを呼び止めた。

「紫上かあ様、お風呂でヒカルとう様の精子洗わなくていいの?」
紫上を抱いた後は必ず三人で風呂に入るのが習慣化している亜衣が不思議そうにしていた。

「ああ、妊娠させてえ気分なんだ」
ヒカルはさっさと寝室を出た。

「変なヒカルとう様」
亜衣は深く考えずにヒカルに言われた通り、紫上の身体を清めた。


「月夜、あれからお父様、塞ぎこんでしまってずいぶん痩せたの」
月夜の携帯にかかってきた姉、弘子の言葉に月夜の心がツキンと痛む。
「原因はきっと朱雀のあの時の言葉よ。今まで一度もお父様に歯向かったことのないあの子があんな事を言ったのだもの。無理はないわ。どうにかして貴方が朱雀を懐柔してくれない?」
「でも、朱雀はああ見えて頑固なところあるし」
及び腰の月夜に弘子が怒鳴りつけた。
「貴方それでも右代家の嫁なの?」
「嫁って。僕は元々右代家の長男だよ」
月夜が弱弱しく反論した。
「それは昔の話。お父様が貴方たちを認めた段階で貴方はもううちの嫁なのよ。お父様のご機嫌をとるなり、朱雀を懐柔するなり、なんとかなさい」
弘子の剣幕と、右代の様子が気がかりな月夜が右代家を一人で訪れた。

「月夜か」
月夜の前に顔を出した右代はすかりやつれ、やせ細り、かつての威厳はどこにもなかった。
「父、さん」
月夜は言葉を失った。その時月夜は、右代を許せる気がした。それから月夜は毎日のように右代家を訪れ右代の話し相手をしていた。

「またおじい様の所へ行って来たんですか」
朱雀は溜息交じりに月夜を抱きしめた。
「貴方がそこまでする必要はないでしょう。おじい様は私たちを認めてくださった。それで十分でしょう」
「でも、父さん凄く痩せて元気ないんだ」
月夜が至極心配そうに朱雀に胸に頬を埋める。
「貴方はお父さんっ子でしたからね」
朱雀が溜息をつく。
「でも、貴方が許しても私はおじい様の事を許すつもりはありませんよ。貴方の事を恥だと口にしたおじい様の事を」
朱雀は愛しい眼差しで月夜の顎を掬って自分に向けさせる。

チュッ。
「私の愛い人。貴方が心気に病む必要はありません」
月夜には無条件でやさしい朱雀は月夜以外の人間には非情だった。怜央の一件を月夜は思い出す。

(やっぱり僕に朱雀の懐柔は無理だよ)
月夜は一人胸を痛めていた。

食も喉を通らない右代が自力では歩けなくなりついには車椅子生活になったころ、ようやく朱雀は月夜と共に右代家を訪れた。

「朱雀か」
ようやく聞き取れるほど衰弱した右代の姿に朱雀はあくまでも冷たい視線で右代を射抜く。

「申し訳なかった。私が悪かった」
「それで、反省して断食をして月夜さんの関心を引こうとでも」
朱雀が冷たく言い放つ。
「朱雀、貴方、お父様に何て口の聞き方」
弘子が見かねて間に入るよりも先に。

パンッ。
月夜が朱雀を平手で打った。
「いくら朱雀でもあんまりだ。父さんに。ひどいよ。そんな朱雀、嫌いだ。父さん、ごめん。父さん」
月夜が右代にしがみ付いて泣き出した。月夜の言葉に朱雀の態度が急変する。

「すみません。すみません。私が謝りますから、泣かないで。月夜さん」
先ほどまでの憮然とした態度から一転しておろおろと月夜に取り繕う朱雀が弘子には滑稽に見えた。

「許してください、月夜さん。貴方に嫌われてしまったら、私は」
朱雀は月夜をとりなすのに必死だった。

「さっきの言葉取り消して。父さんに謝って」
月夜が振り向こうともせずに朱雀に強要する。

「申し訳ありません、おじい様」
朱雀が月夜に言われるままに謝罪した。月夜は朱雀を見ようともしなかった。シュンとした朱雀の気配が月夜にも伝わる。
「父さんが元気になるまで、僕にここに住む事を許してくれる?」

「それは」
朱雀が心の中で二の足を踏む。
「嫌ならいいよ、別に。お前の同意を得なくても僕が勝手にするから」
月夜の強気な態度に朱雀が思い余ったように口走った。

「こんなの残酷です。
せっかく生きる希望を見つけた矢先に。こんなの、あんまりです。
私の傍を離れないと言ったのは貴方ですよ。貴方がいなければ私は一秒も生きては行けないのに、それなのに、貴方はおじい様を選ぶと言うのですか」
朱雀が心の叫びをそのまま口にした。

「ごめん、朱雀」
朱雀の精神状態が限界に達したことを感じた月夜が、今度は朱雀にすぐさま抱きついた。
「知ってるよ。だから、一緒にここで暮らそう。父さんが元気になるまでで良いから」
朱雀の背に手を回し宥める月夜が朱雀を見上げた。

「泣かせてごめん。でも、父さんも僕には大事なんだ」
月夜が朱雀の頬に手を伸ばすと朱雀は涙が零れ落ちる前に月夜の肩に顔を埋めてそれを隠した。月夜は朱雀の背をなでながら何度もごめんと謝り続けた。

「誰かに振舞わされる貴方の姿を見るなんて思っても見なかったわ。夫になったのなら、妻の手綱は握ることね。月夜に手玉に取られてるじゃない。右大家の次期当主なのよ、貴方」
弘子が朱雀に忠告した。

「良いんです。元々の次期当主は月夜さんです。私が手玉に取られるのは必然ですよ」
朱雀は負け惜しみでは無い返答を返した。

弘子は三人を残してすたすたと部屋を出ていった。
 

紫上を抱いた後、寝室を出たヒカルが向かったのは東北の町(NET)にいる勇輝の所だった。東南の町(SET)から静脈認証で中央にある書斎を通り勇輝の部屋をノックした。
ヒカルは勇輝の返事を待たずに部屋に入った。

「え、ヒカル君。どうしたの、突然来るんなんて」
後ろ向きにベッドに座っていた勇輝が慌てたように肌蹴たスカートを戻した。

「突然来ちゃ悪いか」
ヒカルはニヤニヤと勇輝を見つめる。
「悪くないけど、びっくりするっていうか」
勇輝が顔を赤くして俯いた。
「だろうな。一人でオナニーの真っ最中だったんだもんな、そりゃ驚くよな。
誰の許可を得てオナニーしてたんだ?ん?」
ヒカルが意地悪く勇輝ににじり寄る。

「それは」
勇輝がばつの悪そうな顔を背ける。
「これからはお前の体は俺が支配する。ここは俺だけのもんだ。と言った筈だが」
ヒカルは勇輝の尻を掴んだ。
勇輝が困った顔をしたが、逆にヒカルを挑発するように切り返す。
「ここはって、ここのことでしょ?」
勇輝が掴まれた尻にあるヒカルの手に、自らの手を添えた。
「ここ、とは言われたけどこっちは言われてないもん」
勇輝がスカートの前をたくし上げた。純白のショーツにガーターベルトがヒカルの前に曝された。
「ほんと、言うようになったよな」
勇輝の挑発を受けたヒカルが口の端を上げた。

「せっかく抜いてやろうと思って来てやったのに。今日は啼いてもイカせてやらねえからな」
ヒカルは既にしゃがみこんで待機する勇輝に上がら宣言した。

勇輝のベッドに大の字で横たわるヒカルはタバコを吸いながら勇輝の舌技を感受していた。

「ねえ、ここに来る前、誰のこと抱いてきたの?」
勇輝が奉仕しながら合間にヒカルに聞いてきた。

「紫上」
ヒカルがぶっきら棒に答える。
「やっぱり。ヒカル君じゃない味がする。これが紫上君の味」
なかなか芯の通らない肉棒の表皮を舐める勇輝の頭にヒカルが手を置いた。
「焼もちか」
ヒカルが煙を吐きながら勇輝に尋ねた。ヒカルは自分の女のついて紫上のことも慧のことも伝えていた。勇輝には嫉妬などなかった。ヒカルの女になれただけで満足していた。

「まさか。なかなか大きくならないしいつもとは違う味がしたから聞いただけ」
勇輝がさらさらと落ちてきた髪を耳にかけると、むくっと起き上がりワンピースを脱いだ。純白のブラジャー、ショーツ、そしてガーターベルトになった優輝がヒカルの肉棒に再び奉仕し始める。

「そんなエロいの、初めて見たな」
ヒカルが頭の下に手を差し入れ高さを出し、勇輝の奉仕する姿を眺める。

「んふっ、気に入った?」
ヒカルの亀頭に舌を当て、顔を上げた優輝がヒカルに見せ付けるように舌を蠢かせる。伏せた睫が揺れ、肉棒を口いっぱいに頬張った時の頬の膨らみ。時折髪を掻き上げる仕草と苦しそうに呻くさまに、次第にヒカルは興奮を覚えていった。

肉棒はやがて勇輝の口からはみ出るほどに成長すると優輝は喉の奥まで使って奉仕を続ける。優輝が噎せると締まる喉奥の心地よさにヒカルはため息ではない息を吐いた。

「気持ちい?」
肉棒を銜えたまま優輝がうれしそうにヒカルを見上げた。

「ああ、もう十分だ」
ヒカルが起き上がると優輝がヒカルに背を向けてショーツを脱いだ。

「ほら、挿入れるぞ。こっちこい」
なかなか来ない勇輝の腕をヒカルが掴んで引き寄せた。

「お前、それ」
「剃毛、しちゃった」
優輝が頬を染めてヒカルを上目遣いで見つめた。

ヒカルは正面から挿入すると、大きく律動し始める。

「あん、オナニー、してないもん。あっ、剃ったあと見てただけだもん」
優輝が喘ぎながら訂正した。

「なら、いい。お前の体は俺のだからな。それがわかってりゃそれでいい」
ヒカルは音がするほど勢い良く勇輝の中を抉る。

「わかって、る。あんっ、僕、陰毛濃いから、あ、あ、やだもん」
隅々まで露にした勇輝の下肢がヒカルには産毛しかない紫上の下肢とダブって見える。

「ああっ、急におっきい。今日、来ないかなんああっ、思ってた。あっ、激しいっ」
ヒカルは無我夢中で腰を振る。

「あんっ、あん」
勇輝の右手が下肢に伸びるがヒカルは咎めない。なぜなら、勇輝の行動はヒカルの法を守るためだからであった。

「いい、ヒカル君。あんっ、ああっいいっ」
優輝は射精しないようにペニスを握り締める。ヒカルは勇輝の片足を肩に乗せ、より勇輝の奥深くへと潜り込む。

「ああっ、ああっ」
もはや優輝は喘ぐことしか出来ない状態だった。
ヒカルは勇輝の内部を突き続ける。ヒカルの先走りで勇輝の中をスムーズに行き来しながら、ヒカルは勇輝のツルツルになった下肢を見続ける。

「ああっ、あ、ああっ」
「どこまでもヤラしくなりやがって」
ヒカルは触りたい衝動に駆られ、肩に担ぎ上げた足を下ろすとそのまま優輝を後ろから犯すように向きを変え、勇輝の尻を両手で開きひときわ力強く突き上げる。

「深あああっ」
ヒカルが優輝の上体を引き上げるが感じすぎているらしく優輝はへなへなと崩れ落ちる。
「ちっ」
ヒカルはカチャカチャとベルトを外し勇輝の両手をヒカルの腰の後ろで組むように縛った。否が応なく仰け反りながら優輝がヒカルの胸板に体を預けると、ヒカルは勇輝の剃毛された下肢に触れた。

「先に出すんじゃねえぞ」
器用に下肢を押し付けながら指を這わせる。

「わか、ってる。んあ、ああっ」
角度によっては少しざりざりとしながらもすべすべの勇輝のペニスの根元をひたすらにヒカルが触る。

「こんなことされちゃ、お前の好きな胸、触ってやれねえだろうが」
ヒカルは中指と薬指の間でV字を作り手のひら全体で勇輝の下肢を触る。そして肉棒を小刻みに、勇輝の射精を促すように押し付けると勇輝のペニスがビクビクと震え精の放出のカウントダウンを知らせる。

「あっ、いい、気持ちい、ああっ」
ヒカルのV字の根元が勇輝のペニスの根元に嵌まるたび優輝が切羽詰ったように啼く。
ヒカルは満足のいくまで触り続けながら、勇輝の中を堪能する。

「ああっ、あっ、出し、たい」
「今日は啼いてもイカせねえっつたろ」
ヒカルは有言実行の人間だった。下肢の触り心地を堪能したヒカルはペニスの下で揺れる丸い膨らみを握る。紫上のそれよりも小さく未成熟とも取れる勇輝の睾丸をやわやわと揉み始めるヒカルが気がついたように口を開いた。
「右のほうが小せえな」
そう呟きながらもヒカルの律動は止まる事を知らなかった。

「あうっ、んっ、ああっ」
男の急所である睾丸を握られても優輝は恐怖を感じないどころか感じてさえいる様に、ヒカルがほくそ笑んだ。

「こんな、気持ちいなんて、しらな、あんっ」
ヒカルは睾丸を強く握った。

「ああーっ。いい、もっと」
優輝が魘されるように喘ぐ。優輝は睾丸への愛撫が気に入ったようだった。ヒカルは下肢の動きを増長させる。

「もっと、もっとぉ。あああーっ」
「潰れても知らねえぞ」
ヒカルは勇輝の望み通りに手のひらでゴリゴリとキツく転がす。

「ああーっ、いい、いいよぉ。気持ちいい」
ヒカルは暫くその状態を維持した。ぐちゅぐちゅと接合部があわ立つほどの長い時間、ヒカルは優輝を啼かせた。

「ああーっ。イキ、たい。もう・・・」
優輝が何度目かの限界を伝えた。

「仕方ねえな、ちゃんと出し切れよ」
ヒカルが息を詰めた。

「あ、あ、熱いの来た。イッていい?ああーっ」
ヒカルが息を詰め射精した事を体で感じ取った優輝が精子をぶちまけた。

「ぁ、ぁ、ぁぁ」
優輝が射精の心地よさに放心する。ヒカルはなおも睾丸への愛撫を続ける。

「ぁ、いい、そこ、いいっ」
優輝が上ずった声で繰り返す。ヒカルも芯の残る肉棒を押し付けると勇輝にそっと耳打ちした。

「射精したら、次はどうするって教えた?」
ヒカルの声に優輝が目を瞑る。睾丸の心地よさとヒカルの精液の熱さに優輝がうわ言を呟く。

「イク、中で、イクんっ」
優輝が軽く中イキした。

勇輝にとって絶対の存在であるヒカルの法により勇輝の体はヒカル好みに変化させられていく。初めのころは好きなときに射精を許されていたがヒカルの女になった途端、ヒカルが射精するより先に射精することは許されなくなった。受身である勇輝は自ら動くことも許されずヒカルに与えられる行為だけが全て。そして射精した後はドライでイクことしか許されない。だからこそヒカルの射精を合図にたった一度だけ許される男としての精の解放、その一度のために勇輝はひたすらに耐え抜きより多くの解放を目指す。ヒカルは勇輝に明確に主従関係を植え付けていた。
しかし射精するまでは主導権を握るヒカルが、勇輝がドライでイク時だけ身を委ねるように甘える仕草にある種の征服欲を擽られ、ヒカルを悦ばせる手段のための調教にも喜んで身を捧げるのだった。それはまるで飴と鞭。ヒカルの合格点に達っするまでは何があってもイカせてはもらえない。だが耐え抜き、ヒカルをイカせることが出来た後に得られるヒカルの褒美の言葉とエクスタシーが勇輝にとっては最高の飴だった。

「もっと、イケるだろ」
ヒカルは本格的なドライを引き起こすため睾丸を握る反対の手で勇輝の胸に手を伸ばした。

「おっぱい、両方触ってぇ」
「だめだ。今日はここでイクまでは離さねえよ」
勇輝の願いむなしくヒカルは勇輝の片方の胸と睾丸を愛撫し続けた。両方の胸の刺激でドライを覚えた優輝はなかなかドライまでは駆け上がれない。しかしヒカルはそれを良しとしなかった。

「お前がここだけで俺をイカせられたら両方の胸、また触ってやる。それまでは、わかるよな」
優輝は半分に減った胸の刺激を睾丸へと結びつけるように意識を集中させる。神経回路が繋がるように優輝は目を閉じた。

「ん、ん、でもこれじゃまだ、んん」
「しかたねえな」
ヒカルは勇輝の両胸に趣旨を変更した。胸の刺激ではドライを迎えることの出来る勇輝が息を荒くする。

「ん、んんっ、はぁっ」
「イケそうなんだろ、でもイカせねえよ」
ヒカルは勇輝がドライを迎える直前に睾丸を強く握り手の中で転がす。

「ん、んんっ」
勇輝の吐息が温度を下げ、ドライの兆候が勇輝の中で薄まると、ヒカルは再び勇輝の胸を触る。親指と人差し指で矮小な粒を弄ぶと勇輝の吐息がまた温度を上げ始める。ヒカルは乳輪を撫でつつも少し強めに擦る。

「ああっ」
勇輝が僅かに前かがみになる。
勇輝の吐息が温度を上げるとヒカルは胸から手を離し、勇輝の髪を片方にの肩にかけ、露になった首筋に軽く歯を当て空いた手で勇輝のつるつるの下肢に手を伸ばしさわさわと触る。V字にした指の根本でペニスを挟みそれぞれの指先で感触を楽しみ、よりドライを助長させように仕向けた。

「新しい性感帯の味、早く覚えような」
ヒカルの指が勇輝が胸でドライを迎える一歩手前で退き、睾丸の愛撫を繰り返す。そうしているうちに勇輝もコツをつかみ始めていた。

ヒカルは程なくその時が来るのを予感していた。

「気持ち、よくしてくれるだろ。俺はお前にイカされてえんだ、勇輝」
ヒカルをイカせる。その言葉に勇輝がゾクゾクと体を震わせ始める。

「イク、中でイク。あ、ああ、ああーっ」
ついに優輝が睾丸の刺激だけでドライを迎えたが、僅かに精子も吐き出した。ヒカルが気持ち良さそうに息を吐く。

「ごめんなさい」
射精したことに勇輝がヒカルに謝った。
「いいんだ、今日はな。もともとここは精子工場だ。仕方ねえ。にしても上手くイケたじゃねえか」
ヒカルはご褒美とばかりに勇輝の首筋にキスを落とした。

「気持ちいいだろ、勇輝。だが俺を本気でイカせるにはまだ足りねえ。連続で俺をイカせられるように頑張ろうな。欲しいだろ、俺の」
主張しながらヒカルが律動を再開する。存在感のあるヒカルのペニスが勇輝の中にその形を刻みつけその存在に勇輝の中がしがみ付く。

「欲しい。ヒカル君が気持ち良くなった証拠、欲しい。次は、もっと上手にイケるようにするから」
睾丸を揉まれながら勇輝の中が細波の様に罠泣く。時間が経つにつれて勇輝の中が睾丸の愛撫に共鳴し始めるとヒカルは早々に律動を止め、勇輝の中の感触を味わう様に熱い吐息を吐き出す。

「ヒカル君、気持ちいい?」
勇輝がヒカルの反応に、改めて女であると自覚すると共に、喜びを露わにする。ヒカルが気持ち良さそうに息を吐くたび、中で果てるたび、ヒカルを喜ばせる事が出来たという充足感が込み上げる。勇輝はヒカルによって変化を遂げる体を誇らしくも思う。男を満足させる使命感と達成感が勇輝を突き動かす。

「イク、イク」
勇輝は睾丸で起こすドライオーガスムをマスターした。

「ヒカル君の、ちょうだい。いっぱい」
勇輝か喉を反らせると細波程度の収縮だった中全体が大きくうねり始めた。

「ハッキリ分かる。ヒカル君の形」
勇輝が掠れ気味の声で呟いた。
「あ、イクんーっ。だめぇ、今はそこしたらあ、ああっ、ああっああーっ」
ドライの兆候を察したヒカルは咄嗟に睾丸から勇輝の両胸にターゲットを変更した。

「くる、もっと凄いの、くる。あああっ」
体を硬直させ、中を震わせる勇輝の奥深くで待ち構えていたヒカルが射精する。

「あっ、あっ」
ヒカルによって無理矢理ドライのハードルを引き上げられた勇輝の体が弛緩と緊張を繰り返す。ヒカルが中で力を失いつつも気持ち良さそうに、そして肉棒を押し付けるように僅かな律動をし始めると、勇輝のペニスがぶらぶらと揺れた。

「はっ、はっ」
ヒカルの荒い息遣いが勇輝を興奮させる。

「ほら、もう一回できんだろ」
勇輝の中で力を取り戻した肉棒に勇輝の中が待ち構えたようにむしゃぶりつくとヒカルが縋りつくように勇輝を抱きしめた。

胸でのドライが冷めやらぬうちにヒカルはまたしても睾丸を握り、勇輝の体に女の感覚を植え付ける。

「イキっぱなしになるくれえがちょうどいい」
ヒカルはゴリゴリと睾丸を握り締めると勇輝の肩に額を擦り付け、下肢を押し付けた。ヒカルが甘え始めたことで勇輝の興奮がヒカルの熱を借りて一気に高まる。

「だめ、イク。でも出ちゃう」
勇輝が再び射精の恐怖に泣いた。

「今日は良いってんだろイケよ、勇輝。
折角ここがいいと知ったんだ。お前のそのフニャけたもんが出せるかは甚だ疑問だがな」
「やだ、やぁ、あっ、あっ」
勇輝がまたしてもドライを迎えながら僅かに射精する。

「ごめんなさい。嫌いにならないで」
「んな訳ねえだろ。好きなだけイケ。今日はな。
俺好みに染まるのは次にお前を抱くときからでいい」

ヒカルはその日一日で紫上のように睾丸の刺激だけでヒカルの好きなときにドライを迎えられるように仕込み続けた。
その度に勇輝の力ないペニスからは白い液が漏れ出た。
「気に入った。今度、剃るとこ見せろよ」
意識の無い勇輝の体が後ろ手に縛られていた拘束を解かれベッドに沈み込んだ。

勇輝の中から溢れ出す精液をティッシュで何度も拭い、掻き出すとヒカルは部屋を出た。


ヒカルが勇輝の部屋から紫上のいる寝室に戻ったのは早朝だった。二時間ほど仮眠を取ったヒカルを起こしたのは紫上だった。寝起きの悪いヒカルが据わった目で紫上を見る。

「ヒカルさん、トイレ」
トレーニングバンドに何も出せない程キツく絞められた紫上が尿意を訴える。
ヒカルの肉棒を咥える紫上はどうする事もできない。
「ん、紫上かあ様、おしっこ?」
眠い目を擦りながら亜衣も起きた。紫上は羞恥にベッドの上で小さくなった。

「亜衣も起きたのか。じゃあ、皆で朝風呂入ろうか」
紫上に挿入したままヒカルは三人でバスルームへと向った。ヒカルに逆らえない紫上も後に続いた。二十四時間お湯の循環する浴室に亜衣が先に入った。

「ヒカルさん、やだ」
紫上が涙目で懇願するがヒカルは容赦しなかった。服を脱ぎ、付けられたトレーニングバンドを悲しげに見つめる紫上をヒカルが抱き上げると、条件反射のように紫上が足を絡ませてしがみ付く。
「昔はいつもそうしてただろうが」
浴室の中に入ったヒカルが先に亜衣を洗ってやった。
「わーい」
無邪気な亜衣の姿が紫上の羞恥を一層煽る。ヒカルだけなら紫上も過去に何度か経験している。しかし亜衣の前でとなると話は別だった。

「次はお前だ」
バスチェアに座るヒカルは、しがみ付く紫上に言い切った。
「お願い」
紫上は悲痛な面持ちで再度ヒカルに懇願する。
「しゃあねえな。亜衣、紫上が妊娠したくないって泣くから今から洗ってやるんだが、その間、お前はあっち向いてろ。目を手で隠すんだぞ」
「はーい」
亜衣がヒカルの言いつけ通りに向こうを向いて目を覆った。

「これでいいだろ」
ヒカルはチュッと紫上に口付け、シャワーコックを捻り、紫上のトレーニングバンドを外した。
シャーッ。
ヒカルと紫上の間に紫上の尿が放たれる。ヒカルがそれを見ていると、紫上がヒカルにキスを仕掛け遮った。

「このやろ」
ヒカルが小声で文句を言うと、紫上の尻に指を突っ込んで指を広げ、シャワーノズルを宛がう。中を掻き出すように指を動かすとヒカルの精液に続いて汚物が流れ出る。紫上は羞恥に必死に耐えていた。

過去、同じような事をヒカルがした際には脱兎のごとく寝室に篭り出て来なかった紫上だが亜衣のいる手前、同じ行動はとらずに和やかに三人で家族風呂を楽しんだのだった。


「本当にすまなかったね、髭黒君。涼は精神科にしばらく入院させる事にしたよ。退院したら実家の義父が療養のために引き取るそうだから、もう君が心配することは何もないよ」
干潟が申し訳なさそうに大将に謝罪した。
「娘の真木柱も涼に着いて行くといってね、聞かないんだ。さみしくなるよ。
しんみりさせてしまったね。君に話があるのはもっと違うことなんだ。
サクラダ・ファミリアがいまだに建設中なのは君には言わずもがなだけれど、工期短縮を図って二〇二六年に完成させるプロジェクトが発足してね、そのスタッフに君を推薦したいんだ」
干潟の言葉に大将が息を飲んだ。

「迷惑を掛けたお詫びに義父のコネクションを使わせてもらってね。義父も君が日本にいない方が涼のためだと考えたのだろうね。
髭黒君、スペインに行く気はないかい」
干潟の願ってもないオファーに大将は即答した。


「本当に行くのか?」
国際空港のロビーでヒカルは鬘に最終確認を取る。
「はい。髭黒君についていく決心は変わりません。それに、日本にいたらあいつの影に怯えてしまいそうで。
ヒカルさんには本当に何から何までお世話になりました」
鬘が深々とお辞儀をした。

「そうか。お前が決めたことならもう何もいわねえよ」
ヒカルは鬘の頭に手を置いた。
「冷泉君も見送りに来てくれてありがとう」
鬘が冷泉に晴れやかに微笑んだ。
「元気でね。これ、中将おじさんから」
冷泉も鬘に微笑むと仕事の都合で見送りに来られない中将から託された封筒を渡した。

「これは?」
中身を開封した鬘が冷泉とヒカルの顔を交互に見た。
「ブラックカードか。親ばかだな」
ヒカルが皮肉を口走る。
「中将おじさんが、困ったときはこれを使ってって。今まで何もしてあげられなかったからって」
鬘名義のミカドグループのカードに鬘が中将の心使いに胸を熱くした。

「じゃあ、髭黒君が待ってるから。
いってきます」
鬘は再度ヒカルにお辞儀をして、少し離れたスペースで待つ大将の元へと掛けていった。

「行ったか」
ヒカルが僅かに寂しげに呟いた。踵を返したヒカルを、冷泉が呼び止めた。

「待って、ヒカル」
緊張した冷泉の声がヒカルに伝わる。

「一生のお願い」
振り向いて冷泉に向き合うとヒカルが冷泉に近づいた。俯き、緊張のためか震える冷泉にヒカルが嫌な予感を感じた。

「どうした?」
そしらぬ風に冷泉の前でヒカルが立ち止まる。

「一度で良いから。一度で良いから言いたい」
冷泉の緊張はクライマックスを迎える。冷泉の言葉尻からヒカルには冷泉が何を言わんとしているのかが分かっていた。子犬のように震える冷泉を窘めることも諌めることもせず、むしろ促すようにヒカルは冷泉をがっしりと片腕で抱擁した。

「藤子が死んでから、一人でよく頑張ったな」
ヒカルの言葉に冷泉の口から小さく「お父さん」と零れ落ちた。言葉を震わせた冷泉がヒカルの腕の中で心細そうに泣き始めた。

「お前が我慢してるのは分かってた。だから夕霧もあえて突き放して育てた。お前だけが寂しいんじゃねえと、言いたかった」
冷泉がますます泣きながらヒカルのジャケットを握り締め、両腕で力強く抱き返す。

「男を抱き締める趣味、ねえんだよな」
「ごめ、でも」
「いいんだ。お前のことは甘やかした俺の責任だ。好きなだけ付き合ってやる」
行き交う人々の視線にさらされながらヒカルはいつまでも冷泉を抱き締めていた。


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