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【藤袴】hujibakama

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「おい、聞いたか、本田。鬘君、今度研修に来る先代の三男の秘書に内々定したらしいぞ。おいおい、そうなったら手、出すどころか話も気軽に出来なくなるぞ」
鬘との食事会に参加していた一人が喫煙ルームにいた章を見つけて話しかけてきた。
「マジか」
章が苦虫を潰した表情を浮かべる。

『くれぐれも、変な気、起すなよ』
食事会の席でヒカルに釘は刺されてはいたものの、その場にいた大半は鬘を狙っていた。当然ながら章もそのうちの一人だった。どうやって篭絡しようかと思案している最中だったのだ。

「これから来る三男は何でもCOOの若かりし時にそっくりでかなりのイケメンだって人事課の子達が大はしゃぎしてたぜ。しかもまだ高校生なのに将来は総帥の座を約束されてんだ。そんな奴のそばにいたら鬘さんだってそっちの方がいいに決まってるよな。ああー、もうお仕舞だ」
頭を抱える同僚とは対照的に章は冷静だった。

「三男が研修に来るのはいつからだ?」
章は同僚に日にちを聞くとふらりと去っていった。


ヒカルは何も言わずに鬘をビジネスホテルに連れ出した。部屋に着くなり「そろそろ溜まってるころだろ」といつものように鬘の内部の仕込みを始めた。携帯用の小袋に入ったローションで鬘の尻の窄まりを入念にほぐしながら指の本数を徐徐に増やす。
ヒカルは鬘を右半身が下になるように横向きに寝かせ、上になった鬘の左足を肩に担ぐと、三本の指を挿入した。ヒカルは右手の人差し指と薬指を中指の下でクロスさせ、鬘の前立腺に当たらないようにすると、いつものように内部を扱いた。
もうずいぶんヒカルの指を受け入れる鬘の体が進入を心待ちにしていたかのように蠢きだす。

「んあん、ああっ」
鬘の内部がヒカルの指を喰む。ヒカルには指の感触だけで鬘の状態が分かるようになっていた。

「そろそろイキてえんだろ」
ヒカルが涙目の鬘に「でもまだだ。今日は声、我慢しなくていいからな。存分に啼くまではだめだ」といつもは扱くだけだった指の腹で鬘の内部を触診するように撫でる。もちろん前立腺は触らない。ヒカルは徹底していた。

「あ、あ」
ドライの手前まで到達していた鬘が今までとは違う触り方に意識を集中した。

「ヒカルさんの指、きもちい」
左手でシーツを握り締める鬘の表情は初めてヒカルの指を迎え入れた時に比べ、色気を含んでいた。本人は意識していないがその表情と仕草が男の征服欲を掻き立てるに余りあるほどだった。

「ここまで化けるとはな」
ヒカルは舌打ちしたい気分になった。
「ヒカルさんの、欲しい。どうして指ばっかり」
鬘が舌足らずでヒカルに請い、そして問う。
「ずっと欲しいのにどうして?」
ヒカルの触診は鬘を高ぶらせると言うよりはクールダウンさせているようだった。ヒカルはいつもはまっすぐに内部を扱く指を、角度を変えて突き入れ始める。鬘の腸壁の至る所がヒカルの指先で突かれ、戸惑いが見られた鬘も、内部を扱かれる心地よさに次第に息を荒くした。鬘の性器の先端からは先走りが垂れてシーツを汚す。

「あんっ、いつもと違っ」
順応性の高い鬘が愉悦を拾う。

「でも、ヒカルさんの指だから、気持ちい、はぁっ」
鬘の内部が蠢き出す。
「ああ、ああっ、ヒカルさん。ください、ヒカルさんが欲しい」
鬘が涙を流しながら懇願するが、ヒカルは無言のまま指で突き上げる。

「あ、あ、あっ」
いよいよ鬘の内部が別の生き物に豹変した。相手にされない鬘の性器が物悲しそうに先走りを垂らし続ける。

「あ、イク、あ、イク」
息を詰めた鬘がドライを迎えた。弛緩した鬘の体がシーツにだらりと放り出されたが、鬘の性器だけは硬いまま取り残されていた。

「いいか、よく聞け。お前の初めては冷泉に捧げるんだ」
ヒカルは初めて真意を伝える。
「僕が、冷泉君と?んあっ」
ヒカルは指の動きを止めようとはせずに鬘を高みへと導くように別の場所を突き上げ始める。

「お前にふさわしいのは冷泉だ」
ヒカルの言葉が鬘のふわふわした頭の中で反響する。
「冷泉君?」
「そうだ、冷泉だ。冷泉の指だと思ってみろ」
始め、ヒカルの言葉に鬘が思考を停止したようにぼんやりしていたが、艶やかな啼き声をあげる。

「あん、あ、あ、冷泉君の指」
鬘にヒカルの言葉が刷り込まれていく。

「あ、僕はヒカルさんに抱かれたい。のに。あん、んあっ」
鬘が浅い呼吸を繰り返しながら冷泉を想像しているのは明白だったが気持ちはヒカルにあった。

「だめだ。冷泉と結ばれるのかお前にとってのベストだ」
ヒカルはなおも鬘に囁く。涙で滲んだ鬘の目にはヒカルの姿は冷泉に映る。

「挿入れて。挿入れてぇ」
鬘が再びドライを迎えた。ヒカルは鬘を休ませることなく指で突き上げる。鬘が冷泉にどういう風に抱かれようとも体で冷泉を虜にするために。

「奥はもっと気持ちいいはずだ。そいつは冷泉に開いてもらうんだな。
お前の奥を開く男がお前の運命の男なんだからな」
ヒカルは鬘に言い聞かせるように呟いた。

「奥?冷泉君、が?あ、冷泉君が僕の、運命?」
「ああ、俺の指が届かねえずっと奥を開く男がお前の運命の男だ。練習だ。イク時は冷泉の名前呼んでみろ」
それから鬘は冷泉の名を呼びながら何度もドライで達した。

「これならあれも満足できるだろう」
鬘から離れたヒカルは満足そうに椅子に座るとタバコに火をつけ、気を失った鬘の裸体を眺める。開放する事を最後まで許されなかった鬘の性器がまるで泣いているかのように滴を溢していた。

「ドライの余韻だけであんなに垂らしやがって。そこは冷泉に可愛がってもらうんだな」
ヒカルは鬘に布団を掛けてそのままホテルを後にした。


商談を一件済ませたヒカルは再び部屋を訪れた。

「れい、ぜい、くん。出る、出ちゃう」
ヒカルが部屋に入ると鬘は寝言を呟いていた。もぞもぞと動く布団の中を確かめるように剥いぐと、鬘は太股を擦りながら悶えていた。ヒカルは椅子に座りタバコに火をつける。

「出ちゃ」
ヒカルは鬘が夢精する瞬間を見逃さなかった。

「冷泉に抱かれる夢で射精したのか」
ヒカルは肺一杯に煙を吸い込むと天井に向って吐き出した。

「楽しみが増えたな」
ヒカルは冷泉を思い出していた。

「あんな顔しやがって」
ヒカルはまだ長く残るタバコを灰皿で揉消しすと、考え込むように視線をカーテンに向けた。
「まさか、な」
ヒカルは冷泉が自分が父親だと気がついている可能性を考えていた。
「でも可能性はゼロじゃねえ」
ヒカルは冷泉が変な気を起こさぬ事を願った。なぜなら冷泉の父親がヒカルと知られたら右代家の格好の餌食になることが見えていたからだった。

「俺が守る。藤子」
ヒカルは亡き籐子に決意を新たにした。

「んん、僕」
鬘が目を覚ました。
「ようやく起きたか。下のレストランで待ってる」
ヒカルは腕時計で時間を確認すると、それだけを言い残して部屋を出て行った。
一人残された鬘が「僕が、冷泉君と」どこか割り切れないもやもやを抱えながら鬘はシャワーを浴びた。


鬘を待つ間、ヒカルは一階のロビーで人と待ち合わせをしていた。

「待たせたか」
悪いとはおくびにも出さずにヒカルは一人の男にゆっくりと近づいた。その男は無精ひげで痩せ方の体型に安いよれよれのスーツを着たリーゼントの男だった。ヒカルがソファに足を組んで座るのを確認してから男もソファに座った。

「俺もさっき着いたところです」
そう言うと男は茶封筒をテーブルの上に差し出した。
ヒカルは中身を確認した。

「嫌な予感は良く当たる」
ヒカルは調査報告書の中に記載されている人物の名を見てチッと舌打ちした。大杉 達也、工藤 一樹。ヒカルはその名を知っていた。

「もう一つは?」
ヒカルがもう一方の案件を口にした。

「それなら報告書に書くまでもないかとは思いましたが」
男は別の封筒を差し出した。

「やつはただのセクハラおやじですよ。叩いてもそれくらいしか埃は出ませんでしたね。
ただ、まあそのセクハラのえげつない事。奴の手口は女性新入社員を歓迎会と称して酔いつぶれさせては裸に剥いて撫で回すのが専らでレイプするわけでも盗撮するわけでもなく、てめえが満足したらまた服を元通りに戻すんですわ。
酔いつぶれた女性社員は酔って記憶はあいまいだわ、証拠はないわで結局泣き寝入りするんですわ」
男は溜息をつきながら「それでも社内ではそこそこ仕事が出来るんで課長の椅子に座ってますよ。世も末だわ」と首を振った。
報告書を読みながら聞いていた。

「ご苦労だった。金は振り込んでおく。それともう一つ頼まれてくれ」
ヒカルは遠くのエレベータから出てくる鬘の姿をチラリと見ると立ち上がった。男はヒカルにせかされるようにその場を離れた。その男がヒカルの使う探偵、譚 貞太郎だった。


右代から呼び出しを受けた朱雀と月夜は右代家の門を潜った。右代からの連絡に月夜はいよいよかと肝を潰す。

『父さん、一生のお願いです。右代の姓も地位もいりません。不肖の息子の最後のお願いです。朱雀の、所にいかせてください。それを叶えて下されば、僕は二度と右代家の皆さんに会う事のない遠い所に行くと誓いますから、どうか、朱雀に。最後に一目、朱雀に』

(とっさに言ってしまったけど、朱雀と離れるなんてできない。でも父さんは約束事には厳格な人。僕はどうしたらいいんだ)

「大丈夫ですよ。おじい様に何を言われようと、私が貴方を離しはしません」
月夜の緊張を察したのか朱雀が月夜の手をそっと握った。朱雀の暖かい手の温もりが月夜に勇気を奮い立たせる。月夜は右代の書斎をノックした。

「すまなかった」
朱雀と月夜が書斎に入ると右代が深々と頭を下げた。
「私の浅慮がお前たちをここまで追い詰めてしまった。私はお前たちの気持ちは一過性の物だと疑いもしなかった。月夜を早々に留学させたのも月夜の性癖を恥じ、世間にばれるのを恐れたからだ。それがこんな事態を招くとは思っても見なかったのだ」
頭を下げたまま右代が誠意を見せる。
「許してくれとは言えた義理ではないが、お前たちの事を認めようと思う。どうか、この家に戻ってきてはもらえまいか」
頭を下げ続ける右代の傍に立っていた弘子がデスクの上に置かれている小箱を朱雀に渡した。

「これは」
中を見た朱雀が月夜に見せた。

「ファミリーリングよ、貴方達の薬指の。
お父様が用意なさったの。貴方たちのためにね。
正直驚いたわ。まさか貴方たちがそんな関係になるなんて」
弘子は両腕を組んだ。
「朱雀は昔っから月夜の後をついて回るから兄のように慕っているんだと思ってた。でもそうよね。貴方、子供の時からどんなことにも無関心だったものね。おもちゃも、食べ物も。友達すら連れてきたこともなかったわね。そんな貴方が月夜を追いかけるんだもの。そういうこと、って流石の私も気がついていたわ」

弘子が真顔で月夜の目を射抜くようにじっと見つめた。
「朱雀を幸せにする自信はあるの?」
弘子の気迫に割って入ろうとした朱雀を月夜が制した。
「もちろんです。朱雀は僕がいなければ生きることも、息を吸うことすらも放棄するでしょう。それは僕も同じです。僕にとって朱雀が生きていることが幸福であると同様に、朱雀にとっても僕が生きていると言う現実が既に幸福なんです。
それから、父さんもそろそろ頭を上げてください。父さんの与えてくれた試練が僕達の結びつきをより強固なものにしてくれました。今はまだその事に感謝することはできませんが、父さんの気持ちも少しは理解できます」
月夜は弘子と右代の前できっぱりと言い切った。

「へらへらしてるとばっかり思っていたのに。いい顔するようになったじゃない。でも覚えておきなさい。大事な一人息子を奪われた姑に与えられた権利は、嫁いびりしかないなんだから」
弘子が凄みのある笑みを月夜に送ると朱雀がスッと体で弘子から隠すように月夜の前に立った。
「愛する妻を守るのは私の義務です。それに、らしくないですよ。月夜さんをいびるなんて出来もしない事を言うなんて」
朱雀が弘子に微笑むと、弘子が「私の前でのろけないでよ」と目を背けた。

「おじい様。認めていただきありがとうございます。ですがこの家には戻るつもりはありません。
おっしゃいましたよね、月夜さんの性癖を恥じたと。その事は世の中の大多数を占める考えだと私も承知しています。ですが息子である月夜さんに抱いた感情なのであれば話は別です。そのただ一点に関して私はおじい様を許すことは出来ません。どんなに割り切ろう、理解しようとしても感情はどうにかなるものではありません。この家で暮らせば否応無しに私たちの姿を目にします。それはいつか大きな歪に発展する可能性があります。ですから私は月夜さんを守るためにもこの家に戻ることは出来ません」
今まで右代に従ってきた朱雀が初めて逆らう発言をした。右代は何を言うか迷っているように朱雀には見えた。

「何も、今は何もおっしゃらないでください。そして少し離れた所から私たちを見ていてください。これからの私たちの生き様で証明して見せます。これはありがたく頂きます。
行きましょう、月夜さん」
啖呵を切った朱雀は月夜の手を引いて書斎を出た。書斎を出たところで一人の意外な事物が二人を待っていた。

「栖美香さん」
朱雀がその人物の名を口走った。
「少し、いいかしら」
朱雀は栖美香を応接間へと通した。

「右代さんには、影ながらうちのパパも口ぞえをしたの」
ソファに腰掛けた栖美香が目の前に腰を下ろした朱雀と月夜に話し始めた。
「うちのパパと右代さんは仕事の付き合いもあるけど、大学の同期なのよ。朱雀が私と結婚するきっかけになった出来ごとをパパに話したら烈火のごとく憤慨して右代さんに電話したのよ。月夜君には話すべきだと」
栖美香は足を組んで膝に手を置いた。

「うちのパパもね、ゲイなの」
栖美香の衝撃的な発言に朱雀が身を乗り出した。
「まさか。五輪さんにはれっきとした奥様がいらっしゃるじゃないですか。おしどり夫婦で有名で、お会いした時もあんなに仲睦まじそうにしていたじゃないですか」
朱雀が五輪家に挨拶に言ったときを思いだし、栖美香に反論した。
「仲はいいわよ。でも男女の仲ではないわ。だってパパにはママと結婚する前から付き合ってる人がいるんですもの。朱雀も知ってる人物よ。秘書の【日ノ出 想】(Hinode Sou)。彼もまたパパたちと同期なの。
日ノ出観光グループ。彼はその直系血族で一族からは将来を嘱望されていた。でもパパと出会った彼はあっさりとそれを捨て、うちの会社に入社したの」
朱雀と月夜は言葉が出なかった。

「その為、彼は日ノ出家から勘当された。パパの時代は今よりもっと世間の目が厳しかったから。二人の関係を知った祖父も頭の堅い人でね、日ノ出さんには特に風当たりが厳しかったそうよ。でも商才に恵まれた彼は五輪モータースを日本のシェア七十%にまで押し上げ、今では世界のシェアの四割を占めるまでになった。その功績もあって祖父も次第に彼を認めるようになった」
栖美香が遠い目をした。

「でも栖美香さんはお二人の間に生まれたんですよね?」
月夜が恐る恐る尋ねる。

「ええ、そうよ。あたしはパパとママの正真正銘の娘よ、お墨付きのね」
栖美香が二人に微笑んだ。

「あたしね、人工授精で生まれたの。
結婚を渋ってずっと独身を通すパパに業を煮やした祖父が無理やり縁談を組んだの。パパは結婚を断るつもりでママとのお見合いの席で、馬鹿正直にゲイだとママに告白したんですって。そしたらママ、それならカムフラージュが必要ねって言ったんですって、パパに。ママのその一言でパパはママとの結婚を決めた。世間を欺くために。そしてあたしが生まれた。だからお墨付きって言ったでしょ、医者のね。
それに、ゲイの父親からレズビアンの娘が生まれるなんてパパの血を引いてる証拠でしょ。でなかったら百合との仲を容認なんてしないわ。ましてあたしたちの事を認める事を条件に世間の目を欺くために人口受精で子供を作れなんていう親、いないでしょ」
栖美香がクスクスと何でもないことのように笑う。

「今回の結婚で月夜君が傷付くことをパパは知っていたのよ。誰よりも、傍で傷ついた人を知っているから。
二人が救急搬送された事を知ったパパは何度も右代さんに連絡して説得したわ。でも右代さんも昔かたぎの方だから。
その右代さんの心を動かしたのは君よ、月夜君。
朱雀が目を覚ましたとき、盛大なプロポーズをしたんですってね。あれ、見てたらしいわよ、右代さんと弘子さん」
栖美香の言葉に月夜が赤面した。

「その日の夜にパパに連絡が来たのよ。その後すぐに日ノ出さんにも連絡したらしいわ。日ノ出さんの性癖を認められずにいた右代さんは親交を絶っていたそうだから、月夜君のことで右代さんの心境が変化したのね。その時ちょうど傍にいたパパは涙が止まらなかったそうよ」
栖美香も安心したようにフッと息を吐いた。

「そうだ。パパがマスコミ、病院、官公庁各方面に緘口令をしいたから二人のことは一切面には出ないから安心して。こう見えて顔が利くの、うちのパパ。それとおたくのCOOも裏から手を回したみたいだけど。
さてと」
んーーっと伸びをした栖美香は「百合をカフェに待たせてるから」と応接間を出て行った。

嵐のように言いたい事だけを言った栖美香が去ると、朱雀と月夜も右代家を後にした。


「おおっとすいやせん」
譚はぶつかった男に謝罪した。そのまま立ち去ろうとするとぶつかった男に呼び止められた。
「これ、落しましたよ」
それは譚の名詞だった。
「おおっと」
譚はその名詞を男に渡すと「これはあっしの名刺ですわ。あっしの名前は譚 貞太郎。探偵ですわ。浮気調査からでっち上げまでなんでも請負ますぜ。そいじゃあ」譚は決め顔で去っていった。
名刺をまじまじと見た男はいい事を思いついたようにニヤリと笑った。


「髭黒君、ひ」
朝食の呼び出しに大将の部屋をノックした鬘が思い出したようにノックする手を止めた。
「今日はあの日か」
毎月同じ日に具合の悪くなる大将に鬘が不安そうに部屋の前に立ちすくんだ。

「くっ、んっ、んっ」
部屋の中では大将が布団の中で蹲りながら必死に何かに堪え奥歯を噛み締める。
「あいつが来てからどうしてか症状が悪化してる気がする」
髭黒はもう幾度と啼く擦ったペニスに再び手を添え自慰を始めた。
「治まれ。治まってくれ」
大将は祈る気持ちでペニスを擦り続けた。


大将にこの症状が出始めたのは中学三年の時だった。当時付き合っていた彼女とも極一般的に体を重ねる普通の中学生だった大将は、ある日の昼下がり体の火照りを感じた。単なる微熱と軽く思っていた大将だったが時間が経つにつれて体はますます火照り、次第に誰かを抱きたい衝動が込み上げた。大将は放課後、彼女とホテルに行った大将は彼女の体を貪り続けた。獣のように何度まぐわってもなお治まらぬ衝動に駆られ、ついに恐怖で彼女はホテルから逃げ出した。一人ホテルで自慰を行うが一向に治まる気配はなく、やっとのことで家に戻った大将は自室に篭った。
次の日、何事もなく治まった症状に大将は一時的な欲求が溜まっただけだと軽く考えた。それから間もなく彼女からは別れを告げられ、大将は次の彼女とまた翌月の同日、同じ行動をした。さすがに二度も続くと大将も不安になり、その翌月から学校は休んだ。

大将が苦しむ様を重く見た両親は大将を総合病院に連れて行き、あらゆる検査をしたが、原因はわからず仕舞いだった。毎月同じ症状に苦しむ大将に一筋の光が差し込んだのは一人の泌尿器科医との出会いだった。その医師は『種の繁栄と過選別について』の論文を世界で只一人発表した、いわゆる変わり者の医者だった。ネットでその医師の論文を読んだ大将が両親に相談すると藁をも縋る思いの両親はすぐさま病院へ大将を連れて行った。

「いやー、大変おもしろい、ゴホン。めずらしい症状ですね」
医師は咳払いをしてごまかしながら髭黒家族に説明した。
「大将君はある種の特殊能力を持っていると思われます」
真面目に話す医師に髭黒一家がなんとも言えない表情をそれぞれ浮かべる。

「まあ、なんと申しますか動物は繁殖行為をしなければ種の存続はありません。動植物に限らず全ての生物です。ところが進化の過程で人間は感情を備えた。雑念や妄想なんかも広義的に含みます。つまりは種の存続のための行為を行うに当たり視覚・嗅覚・聴覚・触覚、特に視覚、顔の作り、体型なんか顕著ですね、そのような外的要因以外に感情も加えてしまい、本来の生殖行為のハードルを上げてしまったのです。
お父さんもたまには別の女性とちょっと遊んでみたいなと思うときがあるでしょう?」
軽はずみとも言える医師の発言に【髭黒 頼子】(Higuro Yoriko)がギロリと睨んだ。

「ゴホン、失礼。私が大将君をある種の特殊能力と申しましたのはそれに加えてパートナーとするべき人物像を潜在的に完成させているところです。ぶっちゃけると理想が高い、と言った方がわかりやすいでしょうかね。
例えば昔は顔さえしらない相手と結婚式したり何度も結婚、離婚を繰り返したり。そう言った人たちはパートナーとすべき人物像を必要としないない、もしくは許容範囲が広く出来た人たちです。でも大将君はその許容範囲が極端に狭い。なにせ既に大将君の中で既に完成形があるのですから。そしてその完成形と巡り合えないフラストレーションが体に症状として引き起されているのだと思われます。
ご両親の前で伺うのは酷ですが、大将君、性行為は経験ありますか?」
医者が単刀直入に尋ねた。

「あります」
大将も素直に答えた。

「満足、出来ましたか?ああ、この意味は君の症状が出たときに限定しています」

「いえ」
大将が少し間を置いて答えた。

「先生、つまりは何をおしゃりたいのでしょうか?」
大将の頼子が口を開いた。

「今の質問でハッキリしました。大将君の許容範囲に該当するパートナーを見つけられれば、つまりは求めているものが手に入る、自分に欠けた必要不可欠なものを補うことが出来れば症状は劇的に改善すると言うことです。
仮に外見で好きだと感じる相手と行為に及んだとしても、潜在的に意にそぐわない相手であれば満足できるわけありません。刹那的にスッキリしたとしてもそれは相手でマスターベーションしてるようなものです。男女問わずムラムラっと来てちょうどいい相手がいなければマスターベーションの一つでもすれば大概すっきりします。ですが大将君の場合はそれが物足りず、マスターベーションすればするほど蓄積されていく。それが月に一度発症する症状として爆発を起しているのでしょう。
美味いと評判のラーメン屋が想像と違ってがっかりした、なんてこと、よくあるじゃないですか。食べたのに物足りない。だから自分が美味いと知る店で口直しして満足感を得よう。まあ、そんな感じです」
医師は物事を分かりづらい例えに置き換えるタイプだった。

「では、その、何ですか?大将の許容範囲に該当する方を見つければ治るとおっしゃるのですか?でもそんな方が見つかる保障は」
髭黒の母親が絶望的な表情で医師に縋る目を向ける。

「そう悲観しないでください、お母さん。許容範囲が狭いとはいいましたが、お二人だって知り合うべくして知り合い、こうして大将君を授かった。事前にご主人と出会うと知っていた訳ではない筈です。ただ、大将君は少しだけパートナーを見つける確立が低いというだけで可能性はゼロではありません。
大将君のように症状として現れるのは類稀なケースで世界でも三百名ほどしかいませんがパートナーと出会い症状が治まった事例は数多く報告されています。残念ながら薬で対処は出来ませんが気長に出会いを待つ事をお勧めします。
そうそう。
この症例が改善された患者さんの報告によると、直感的にわかるんだそうです。シチュエーションは様々ですが、ある時ふとこの人だと感じるそうです。
大将君、君も見つかると良いですね。
どうぞお大事に」

その日の帰り。
「さあて、飯でも食いにいくか。寿司、食おう。父さん寿司食いたい、な、大将」
父親である【髭黒 公平】(Higuro Kouhei)が大将の背中を叩いた。
「何をそんなに暗い顔して、二人とも」
公平は元気に振舞うと三人は高級寿司屋へと向った。


「大将君お願いよ。主人が、主人が大事な書類をデスクに置き忘れてしまったの。大将君しかいないのよ、お願い。セントラルホテルまで届けに来て」
会社を休んでいる大将の携帯に涼から緊急の連絡が入る。毎月この日は会社を休む事を会社の全員が知っているにも拘らず大将に助けを呼んだ涼に、大将は無理を押して会社へと出勤した。

「おい、髭黒大丈夫なのか?」
先輩である奥野が大将を心配して声を掛ける。
「大丈夫です。奥さんから社長が大事な書類を忘れたから持ってくるようにと言われて」
熱があるように赤を顔くさせ、つらそうな呼吸をする大将に会社の社員たちが心配に思った。と同時に涼の行動への不信感を募らせた。
「何処に持って来いって?」
大将はセントラルホテルだと伝えると重い体を引き摺るように出ていった。奥野はある人へと電話を掛けた。


その頃鬘は職安へ向っていた。のどかな風景に玉木 正夫のことはすっかり忘れていた。玉木 正夫のことよりも鬘は別の事で憂鬱になっていた。

「僕が、冷泉君と」
ヒカルを慕う鬘は顔立ちも体格も似ている冷泉に惹かれなくはなかった。しかし鬘を抱いてくれないのが冷泉のためだと知った事が鬘の心に重くのしかかる。

「すいません。玉木 鬘さんですよね」
ぼんやりとしていた鬘の目の前に無精ひげで痩せ方の体型に安いよれよれのスーツを着たリーゼントの男が立っていた。

「玉木 鬘さんですよね。実は宮内 ヒカルさんから伝言を預かってまして」
ヒカルの名に鬘はその男を簡単に信用した。
「場所と時間はここに書いて在ります。んじゃ、確かに伝えましたよ」
男はそれだけを言うと踵を返した。

「セントラルホテル」
鬘は指定された場所を携帯で検索すると時間が差し迫っていると察し小走りに目的地へと急いだ。

「あ、あっしですよ。あっし。ターゲットは例の場所へ向かいましたよ、玉木さん」
男は通話を切るとニヤリと不敵な笑みを浮かべた。


「いま帰った」
「ヒカルとう様」
亜衣がヒカルに駆け寄った。東南の町(SET)に戻ったヒカルが亜衣を抱き上げた。
「今日もいい子にしていたか、亜衣」
ヒカルは亜衣を連れてリビングへと向う。アイランドキッチンでは紫上が夕食の仕度をしているところだった。
「おかえりなさい。今日は早かったですね」
紫上がパタパタとヒカルの元へ駆け寄りお帰りなさいのキスをした。
「紫上かあ様だけずるーい。亜衣も亜衣も」
亜衣も唇を尖らせるとヒカルがブチュッとキスをした。

夕食が済むとヒカルは亜衣に何かを告げた。
「はーい」
亜衣が二階の勉強部屋へと姿を消すとヒカルは紫上と向き合った。

「いつまで俺を放っておくつもりだ」
ヒカルの真剣な目に紫上が後ろぐらい顔をして目を背けた。
「亜衣が一人で眠れるようになるまでの約束だったよな」
ヒカルが紫上との距離を短めると、紫上が身を竦める。
「お前、母親としては立派だがその前に俺の女だって事、忘れてねえか」
ヒカルが紫上のあごを掬い上げる。紫上は慧に後ろめたさを日々感じていた。亜衣を取り上げてしまい、慧の幸せを奪ったことの贖罪として紫上はヒカルを慧の元へと通うように仕向けていた。

「悪い女には仕置きが必要だな」
ヒカルは紫上を抱き上げるとバスルームへと向った。半ば乱暴に紫上の衣服を剥ぎ取りシャワーコックを捻る。二人の上から降りかかる温水が二人の体を濡らし始める。ヒカルは紫上にキスを仕掛けた。
「ん、ん」
シャワーの音に紛れて紫上の鼻音がバスルームに木霊する。もともとキスの好きな紫上はヒカルのキスにのめり込んだ。ヒカルは紫上の尻の間に手を伸ばした。人差し指と中指の腹で揉み込みながら紫上の体を確認する。

「五年ぶりか。すっかり閉じちまった」
ヒカルが残念そうにキスの合間に呟くが紫上がヒカルの唇を追いかけて吸い付く。
ヒカルは根気良く紫上の尻を柔らかくしていった。

入念に中も洗浄された紫上の体をヒカルがバスタオルで拭い、自らは簡単に拭いた。

「今日は俺が満足するまで付き合え」
素っ裸のまま電気のついたリビングに連れて来られた紫上が落ち着かない様子で辺りを見回す。
「亜衣は二階へ行ったろ。さっき勉強したら先に寝ていろと伝えておいた」
ヒカルの用意周到さに紫上がようやく微笑んだ。
「やっと笑ったな。亜衣を引き取ってからどうもお前は俺の前で笑うのが下手になった」
ヒカルが不満そうにそれでいてどこか安心したように紫上の髪を掻き上げる。

「どうせ亜衣がいねえって言っても気にすんだろ」
ヒカルは予め用意しておいたアイマスクを取出し紫上に着けた。

「ヒカルさん」
紫上が不安そうな声でヒカルを呼んだ。
「安心しろ」
ヒカルは紫上をソファにうつ伏せに寝かせ尻を高く上げさせると尻を舐め始めた。襞の皺一つづつ伸ばすようにヒカルが舐める。ぐるり一周すると堅く閉じた入り口を舌先で突きながら綻ぶまで根気良く舐め続ける。

「ん、はぁー」
紫上が熱の孕んだ吐息を吐き出す。次第に思い出したようにヒクつくそこへヒカルは指を差し入れた。

「さっき風呂で広げてるがもう少し慣らすからな」
ヒカルの言葉に紫上がコクコクと頷いた。ヒカルの指の本数が増え、三本の指がスムーズに動くようになるとヒカルはいきり立った肉棒を挿入れ始める。

「やっぱり指だけだとキツイか。それでも無理やり挿入るけどな」
そういいながらヒカルは紫上の中へと押し進めた。

「ようやく入ったな」
ヒカルの言葉に紫上が安堵のため息をつき、呼吸を整えながらキツさに絶えているようだった。ヒカルは紫上の尻の丸みに手を置いて久しぶりの紫上の感触を味わいながら、紫上の中が馴染むように待ち続けた。待つ間、ヒカルが紫上のペニスに手を回し、もう一方の手で紫上の鼠けい部に手を当てて下肢を固定する。

「あん、あっ、ああっそこやだ」
もとよりペニスの刺激を好まない紫上が非難の声を上げるが暫くぶりに与えられる直線的なするどい快楽に涙を滲ませる。

「出る、出る」
「こっち触ったぐらいで出せねえだろ。そんなことも忘れたのか」
ヒカルは紫上のペニスを筒状に握ると一体化させている互いの下肢を一つの塊として蠢かせていた。ヒカルの手の中で紫上のペニスが挿入と抜去を繰り返す。

「あ、やっ、やっ」
「お前は誰かを抱くことはねえからこいつを使うことはねえ。が、俺の手は別だ」
挿入と抜去の交互操作に紫上のペニスがビクビクと脈打つ。

「やっ、やっ、ヒカルさ」
紫上がヒカルを潤んだ目で睨む。

「怖い顔するなって。完勃ちして痛てえのはわかるが、最高に気持ちよくしてやる。我慢しろ」
ヒカルはそれだけでは射精に至れない紫上のペニスを限界まで膨張させた。

「そろそろ俺の形、思い出したようだな」
「ん、あん、あん」
ようやくペニスを開放したヒカルがゆっくりと律動を開始する。ゆっくりと、あくまでもゆっくりと紫上の中を往復する。ヒカルが手持ち無沙汰のように大きな手のひらで尻を揉む。硬くなった尻全体が次第に解れていくと紫上が艶かしく、心地よさそうに喘ぎ始める。

「あん、あ、はぁん」
しっとりと手に吸い付く尻の感触が気に入ったヒカルは肉棒が出入りする様を見ながらなおも揉む。舐め潤していたときには襞に包まれていたそこはヒカルの太さに皺一つなくぴっちりと隙間無く頬張り、ヒカルの肉棒が押し込まれると時折捲れる。じっくりと見ることのなかったその場所をヒカルは興味心身とばかりに凝視する。捲れた瞬間を狙って親指で撫でるうちにいつしかヒカルは夢中になって触り続けた。

「あん、はぁっ、あん」
紫上の心地良さそうな声にヒカルは指圧するようにグッと力を込めた。

「ああんっ」
尾てい骨付近を押された紫上が一際大きく喘いだ。

「なんだ、ここがいいのか」
ヒカルは律動と共に尾てい骨付近を両親指で指圧すると、ビクビクと紫上が体を震わせる。

「ここはかつて尻尾があった名残と言うが」
尾てい骨を指圧される度、体と中を震わせる紫上にヒカルが気持ち良さに律動を速める。

「も、イキ、たい」
紫上が弱弱しくヒカルのいるほうを向く。

「ああ、イカせてやるよ」
ヒカルは紫上の頭付近に両肘をついて体重を支えながら、覆いかぶさりなおも律動を早める。

「あん、あん、ヒカルさ、ヒカルさ」
紫上のヒカルを求める声がリビングに響く。紫上の頭には既に亜衣はいなかった。ただ、ヒカルだけを求め、啼き続ける。

「ようやく思い出したようだな、頭でも。お前が優先すべきは誰なのか」
ヒカルが紫上の耳元で囁く。

「ヒカルさ、あんっ、ヒカルさ、キス」
紫上はイク時にはキスを強請る。ヒカルに奥を突かれながら、キスと言う起爆剤がなければイケないことをヒカルは知っている。ヒカルは紫上を啼かせながら紫上の限界をさらに引き上げる。

「キス、キスして」
ヒカルはようやく紫上にキスを与えると瞬く間に紫上が下肢をブルブルと震わせる。

「ん、ん」
紫上のペニスが何も出すことなく大きく暴れると紫上が力んで下肢を震わせた後、膝をガクガクとさせる。

「久しぶりの射精で腰が砕けたか」
ヒカルが冷静に分析しながら紫上の体位を変える。左半身を下にさせ、ソファの背もたれに上体を預ける紫上の右足をヒカルが肩に担ぎ上げると、紫上とヒカルが繋がるその中心部へとヒカルはまだ熱く滾る肉棒を根元まで押し込む。紫上の右の太股を左腕で抱きしめるように掴みヒカルは紫上の中を揺さぶる。

「あん、あん」
ヒカルは空いている右手で紫上の睾丸を握った。

「次はお前が俺を抱く番だ」
ヒカルの言葉に反応するように紫上の中が本格的に始動する。絡みつき、蠢き、あらゆる手段を講じてヒカルの肉棒に喰らいつき、ヒカルを快楽の淵へと誘い込む。ヒカルは紫上のこの極上ともいえる誘いが自分だけが知ることを、そして自分が作り上げた事に感無量だった。

「あ、あん、あっあっ」
射精後、力を失った紫上のペニスがぬるつく汁を垂れ流す。紫上の体中に充満した快楽に押し出されるかのように。

「キス、あ、キス」
紫上がヒカルを呼ぶ。ドライでイクのだと、一緒に高みへと上り詰めたいのだと。

「あ、あ、あっ、イク」
ヒカルが紫上のアイマスクを外した。突如差し込んだ光に紫上が目を細めると、その先には。

「やあ、や、むんん」
何かに反応した紫上がヒカルを押しのけようと手をヒカルの肩に当てて突っ張った。すかざずヒカルが紫上の口を塞ぐと、後戻りできないところまで来ていた紫上の体の奥が痙攣を起した。ヒカルはその波に乗るように精を開放した。
ヒカルは紫上をさらに高みへ上らせるため口内をくまなく愛撫する。紫上はヒカルの愛撫に負けて自らも舌を絡めるとヒカルの背に腕を回した。

「んんーーーっ」
ヒカルの精を受け取った紫上の中が欲張るかのように蠢き、ヒカルに更なる射精を促す。ヒカルが紫上の睾丸をころころと転がしながらより奥へと入り込もうと下肢を押し付ける。

「んんっ」
紫上は中が蠢き奥を震わせながらも夢中でヒカルの舌を貪る。ヒカルは何度も下肢を押し付けながら射精した。紫上が顔の角度を変えながらヒカルにもっと舌を差し出せと言わんばかりに喰らいつく。そして睾丸がヒカルの手の中で時折強く握られ、ピリリとした信号が送られるたびに連動する中がヒカルの肉棒を締め付けた。五年ぶりの紫上の中で、相手をイカせる時には長保ちするヒカルの肉棒は幾度も射精と勃起を繰り返す度に小刻みに下肢を押し付ける。いつもは抱く側のヒカルが紫上に身を委ねている証拠だった。

絡みつく二人の姿が亜衣には静止画像のように映る。

『お前にもそろそろ性教育が必要だ。一時間後にここに降りて来い。そっとな』

ヒカルに言われリビングに下りてきた亜衣の視界に父と母の絡み合い、愛し合う姿が目に飛び込んだ。生生しい二人の姿に驚きと共に言い知れぬ感情と興奮が沸き起こる。それはまだ亜衣には想像もつかない感情だった。キスを繰り返しヒカルを求める母、母の体を一時も離すまいと抱きしめる力強くたくましい父の姿は、八歳の亜衣の性教育には刺激の強い光景として映り、この行為の先に自分がいるのだと亜衣は漠然と思った。

ヒカルの背に回していた紫上の両腕がだらりとソファに落ちると、ヒカルが上体を起こして亜衣と視線を合わせ人差し指を口に当て、シーッと無言でいるようにジェスチャーした。繰り返すドライによる消耗で放心状態の紫上が半ば意識を飛ばしていた。ヒカルは先ほどまでの濃厚なものとは違い、軽いキスを紫上に繰り返す。何度目かのキスに紫上が応えるようにヒカルの唇を追いかけ、やんわりと囓り付く。紫上は意識が鮮明になるまでキスを強請った。

「そうだ」
紫上が思い出したようにリビングの一角を見た。
「亜衣ちゃん」
紫上と目の会った亜衣に、紫上の思考が一気に冷めた。
「見ないで」
紫上がソファの背もたれに顔を背け、恥ずかしそうに震える。ヒカルはニヤリと笑みを浮かべ紫上の体を起こして抱き上げると、徐にソファに深く腰掛けた。
「やあっ」
まだ敏感な紫上が羞恥に体をじたばたさせた。
「こら、動くなよ。出てくんだろ」
ヒカルが宥めるが紫上はヒカルにしがみ付き「抜いてください」と懇願する。

「亜衣、ティッシュ持って来い」
ヒカルに言われた亜衣がティッシュの箱を差し出すとヒカルは数回引き抜いて互いの接合部から流れ出た精液を拭った。紫上は体中をピンク色に染めていた。
ヒカルはそのまま立ち上がると紫上がとっさに足をヒカルの腰に絡ませる。

「お前も来い。一緒に風呂、入るぞ」
ヒカルはスタスタとバスルームへと向かい、亜衣もヒカルについていった。紫上を気遣って静かにバスチェアに腰掛けたヒカルが先に亜衣を洗う。どうすることも出来ないまま紫上はヒカルの胸に顔を隠すしかなかった。

「亜衣、先に湯船に入れ。
お前もいつまで恥ずかしがってんじゃねえよ。一回で済ませてやったんだありがたく思え。性教育なんてもんは親が教えてやりゃいいんだよ」
亜衣に背を向けたままヒカルにしがみ付く紫上をヒカルが窘める。ヒカルが何でもないことのように言うが、紫上にはとんでもない事だった。

「性教育は親の務めだ。そんなに恥ずかしがるな。
よく見ておけよ、亜衣。男は気持ちよきゃ射精って言って女の中に精子を出すんだ。女はな、男に精子を出されると妊娠する。そうする事で餓鬼が生まれる。これが男に射精された女の姿だ。覚えておけ」
ヒカルがようやく紫上の中から退いた。ヒカルの腰に足を巻きつけているせいで紫上の尻から帯びただしい程の精液が溢れ出す。ヒカルが亜衣の前で尻に指を入れて精液を掻き出すと紫上が声を上げぬように口をヒカルの肩に押し付けた。

「ヒカルとう様、紫上かあ様、赤ちゃん出来ちゃうの?」
亜衣が素朴な疑問を投げかけた。

「こうやて掻き出してやれば妊娠はしねえよ。まあ、紫上はもともと男だから妊娠はしねえがな。もし紫上が女だったらお前には何十人も兄姉がいただろうけどな」
ぐちゅぐちゅと指を掻き回しながらヒカルが亜衣に視線を向ける。紫上は羞恥に震えながら、肯定も否定も出来なかった。
「誰とでもこういうことをするなとは言わねえが、一つだけ言っておく。お前が子供を生んでもいいと思える男以外には中に出させるんじゃねえぞ」
まだ八歳の性教育とは思えない台詞をヒカルは亜衣に付け加えると、シャワーコックを捻ってお湯を出し、亜衣の目の前で何度も紫上の中を洗浄した。

初めて三人で家族風呂に浸かったヒカルはいつになく上機嫌だった。その夜、三人は寝室で川の字になって眠った。


「ねえねえ、慧君。あの正門スキャンダルの彼って、慧君の彼氏?」
カフェテリアで唐突にミカが慧に尋ねた。

「ぶっ」
慧がアイスコーヒーを軽く噴出した。
「なっ、なっ」
赤面しながら口をパクパクさせる慧にミカが「やっぱりね」と呟いた。

「かっこいいよね、彼。イケメンで大人の色気ぱないし。ねえねえ、彼のセックスはどんな感じ?僕が思うにああいう感じの人って絶倫で俺様感出しまくりで責めるタイプだと思うんだよね。もうだめぇって啼いても、俺が何度でも天国にイカせてやる、みたいな?」
ミカが率直に慧に持論を持ち出すが慧はますます顔を赤面させるばかりで言葉が詰まっていた。

「いいなぁ、慧君。見た目あんな極上の彼氏でセックスも最高なんてうらやましいぃ」
ミカが慧の頬に右手を伸ばす。

「お肌もつやつやで、彼氏にいつも愛されてますって感じ」
人差し指の背で慧の滑らかな頬を撫でる。たったそれだけのことに慧はゾクリと悪寒を走らせた。

「ほんと、いいなぁ、慧君は」
尚も頬を撫でるミカの右手に居心地の悪さを感じた慧が体を硬くしていた。

「僕もあんな人と付き合えたら良かったのに」
慧は蛇に睨まれる蛙のようにミカの瞳から視線を外せなかった。

「なーんてね。僕の彼氏もかっこいいんだ。カズ君っていってとってもやさしいんだ」
ミカの雰囲気が元に戻ったことで慧がようやく体の緊張を解いた。

「ねえねえ、今度、慧君の家に遊びにいってもいい?」
ミカの無邪気な笑顔に先ほどの悪寒の失せた慧が安易に承諾した。
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