現代版 曲解【源氏物語】

伊織 蒼司

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【行幸】Miyuki

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大将が髪をぼさぼさに伸ばしたのには訳があった。

「大将君、おはよう」
出社した大将の席に一人の女性がコーヒーと軽食のサンドウィッチを乗せ、隣の席の椅子を大将の直ぐ傍に引いて腰掛ける。
「遠慮なく食べていいのよ。今朝私が作ったサンドウィッチなのよ。食べさせてあげる」
甲斐甲斐しく世話を焼こうとする女性は【干潟 涼】(Higata Ryou)、大将が働く【干潟省吾一級建築士事務所】(Higata Ikyu Kenchikusijimusyo)の社長である干潟の妻であった。
「何度もいいますが、俺のいるパンションは食事つきですからもう止めてください。こんなことするの」
大将が静かに拒絶する。
「いいのよ、私が好きでしてるんだから。どうせ真木柱の分も作らないといけないし。はい、あーん」
真木柱とは干潟と涼の長女【干潟 真木柱】(Higata Makiho)のことで、毎朝恒例のその光景に他の社員たちが遠巻きに見ていた。

「今日は社長が他県のコンペでいないから、一段と露出度高いな」
社員の一人がもう一人の社員に耳打ちする。
入社当時、大将は短髪だった。ところが大将履歴書を偶然に見た涼が、大将の容姿が昔、恋焦がれた人物に似ていると言う理由で事あるごとに付き纏うようになったのだった。それまでは専業主婦だった涼の突然の出社に社員はおろか夫の干潟も驚いたほどだった。
今朝のサンドウィッチもさることながら昼の弁当や十時、十五時にはコーヒーと共に菓子の差し入れも欠かさなかった。うっとおしくなった大将は表情を隠すために髪をぼさぼさに伸ばしたのだった。干潟からも「熱が冷めるまでは我慢してはもらえないか」と言われては大将にもどうすることも出来なかった。

「大将君、また髪の毛短くしない?似合ってたのにもったいないわ」
涼が今度は胸を押し付ける。

「おお、強引に出た」
こそこそ話をする社員たちの目が涼の谷間に突き刺さる。

「せっかくイケメンに生んでもらったんだから、もったいないわ」
涼が大将の前髪に触れようとした。
「さわるな」
椅子から勢いよく立ち上がった大将はトイレヘ向った。

「恥ずかしがり屋さんなんだから」
涼が残念そうに呟くと、「ほらほら、いつまでサボってるの。ただで給料貰おうなんて思ってないでしょうね」と涼が他の社員たちを一喝した。

社員たちはしぶしぶ席につき各々の業務を開始した。


その日の退社後。

「すいません、邪魔なんでそこ、どいてもらえないッスか」
大将は花散里の前でうろうろする男に後ろから声をかけた。その男は緩慢な動作で振り向くとふてぶてしく大将に話しかけてきた。
「君、ここの住人だよね。玉木 鬘のこと、ちょっと教えてもらえない?」
その邪心の含む態度に大将が近づいた。ガタイのいい大将が男を見下ろす形になると、急に男が怖気づいたかのように回れ右をした。

「やっぱり、よすよ。他の人に聞くから」
そう言って足早に去った人物は玉木 正夫だった。大将は何事もなかったかのように花散里へと入っていった。正夫が帰って行く後ろ姿を大将は玄関のドアスコープから見ていた。


帰国して数週間が経ったある日曜日。礼汰は友人とカラオケに出かけていた。帰国した当初、礼汰のマリッジリングを友人たちが冷やかしたがファッションだと言い張り今に至っていた。二人のリングを比べて見れば一目瞭然だが誰も気づく者はいなかった。

「ラズから、何でしょう」
浅賀に大きな荷物が届いた。浅賀はそれを寝室とは別の書斎へと運び包みを開けた。

「これは」
浅賀が絶句した。

中から現れたのは特大パネルの数々だった。結婚式の際の指輪の交換、誓いのキス、ライスシャワーに微笑む二人の幸せそうな姿・・・だけではなかった。

「あいつの性格を失念していました。そういえばあの部屋はラズが手配した部屋でしたね」
浅賀が憎憎しく眉を顰めた。
残りのパネルに映っていたのは礼汰と浅賀の睦言の最中の隠し撮りだった。
礼汰が咆哮を上げて射精した瞬間、潮を噴く直前から潮を噴き終わり礼汰のペニスが力を失ったのを見届けた浅賀が礼汰の唇を開放した時に二人の唾液が糸を引いた場面までの連写。
浅賀は奥歯をぎりぎりと噛み締めた。

「このアングルからしたらあの花瓶ですね」
浅賀が隠しカメラの位置を把握した。

「腹だたしい。文句の一つも言ってやりたいところですが、このクオリティには文句のつけようもありません」
浅賀は同封されていた封筒を開封した。

『Ciao!Omi 
前からお前は被写体向きだと思ってたが俺の感は正しかったな。予想以上にmoglie(モーリエ)はいい声で啼くしな。大人しそうな見た目で昼は聖女、夜は娼婦ってか。この俺が思わず抜いちまったぜ。今度お前たちのSEXに俺も混ぜてくれよ。同封したのはオリジナルのUSBだ。安心しろコピーはねえ。
おっとくれぐれも訴訟だけは起すなよ。じゃあな』
読み終えた浅賀は瞬時に手紙を握り締めると直ぐにゴミ箱へと放り込み、USBをPCに繋いで中を確認した。

『そこ、やあっ』
『お臍は嫌?むしろ気持ち良さそうだけど』
『だって、尻がむずむずするんだよ。そこ舐められると』
『もう少しだけ』
『ん、っく。んん、っく』
『ん、ん』
『んああっ、あんっ、あっ』
『早く、あんたのくれよ』
『お臍でイクのは嫌?』
『挿入れるよ、礼汰』
『あ、んっく、はぁ、んんっ』
『一日半ぶりの礼汰の中』
『奥いくよ、礼汰』
『ひ、秀臣っんんああーーーっ』
『感極まって出しちゃったの、礼汰』
『うん。今日はいろいろあったし。でも悪い、あんたまだなのに』
『礼汰が気持ちいいなら私も感無量です。でもまだまだ付き合ってもらいますからね』
『いつもより深い』
『クリ、触ってぇ』
『んああ、いい、いいよぉ』
『クリ、好き。礼汰、クリ、好き』
『いっぱい擦ってあげる、礼汰』
『あん、忠臣、もう止めて、ゾワゾワしてなんか漏れそう』
『あん、あ、あん。出る、もう無理ぃ。忠臣、ただ、お』
『ん、ん、んふっ』
『礼汰、可愛かったよ』
『潮噴くくらい気持ちよかった?』
『潮噴きしたのか、俺』
『礼汰?』
『やっぱ嫁ポジションは俺じゃん』
『最高の嫁を貰えて私は果報者です。一生、君の傍にいます』

「これは、まずいですね。奥尻君がいなくて良かった」
鮮明な動画にその時の興奮が浅賀に甦る。

「ラズの奴」
迂闊にも反応してしまった下肢に浅賀はしばらくの間書斎から出ることはできなかった。


ヒカルは鬘、冷泉、中将の四人で食事会を設けた。
日本庭園の一角にある離れに会した一堂はヒカル以外どういう意味を持っているのかわからなかった。学校がある冷泉は遅れて合流する手はずになっていた。

初めて中将と対面した鬘は緊張した面持ちでちらりと中将を見た。
(うわー。何か風格がある人だな。ヒカルさんの知り合いってことはきっとえらい人なんだろうな)
鬘の視線を感じた中将が鬘にニコリと微笑んだ。
(目が合った。怖そうかと思ったけど笑うととっても優しそう。ヒカルさんはお兄さんって雰囲気だけどこの人はお父さんって感じ)
中将の穏やかな雰囲気に鬘は心の中で安堵した。

「今日来てもらったのは鬘を紹介するためだ。この前言ったろ、紹介はすると。鬘、この人は左代 中将。お前の父親だ」
(えっ?)
鬘がヒカルの顔を見上げた。
「ネックレス、出してみろ」
ヒカルは鬘のネックレスを中将に渡した。

「覚え、あるだろ?」
ヒカルからネックレスに通された指輪を見た中将がハッと鬘を見る。

「君が、君が」
中将は涙ながらに鬘に手を伸ばした。動揺する鬘はヒカルに指示を仰ぐように見上げる。
「手、握ってやれよ」

ヒカルは「一服してくる」と席を立ち中将と鬘を二人きりにさせた。

「あの、僕」
「夕顔の息子だね。ずいぶん探したんだ。まさかヒカルの元にいたなんて」
中将は声を震わせながら鬘に伝える。

母親の夕顔の名が出ると半信半疑ながら鬘がこれまでの生い立ちとヒカルに救われた事を大まかに語った。
「ずいぶん苦労したんだね。もっと早く私が探し出していたら」
中将は自らを責めるように涙を流す。
「こんなに素敵な子に育ってくれたなんて」
中将の涙は止まらなかった。


「遅れて登場とはまるでヒーローだな」
外でタバコを吸っていたヒカルが冷泉を目にするとニヤリと笑みを送った。

「どっちかって言うと俺はヒーローだけど、ヒカルはダークヒーローだよね」
ヒカルの身長にほぼ並んだ冷泉がヒカルと同じくニヤリと笑った。

「もう少し待て。中では感動の対面中だ」
ヒカルは短くなったタバコを揉み消しもう一本に火をつけた。
「相変わらず吸い過ぎじゃない、タバコ。長生きできないよ」
冷泉はヒカルにもう少し体を気遣うように諭した。
「心配してくれんのか。そいつはありがたいこった」
ヒカルの皮肉に冷泉が見たこともない真剣な表情を向けた。

(父親を心配するのは当たり前だろ)
冷泉の顔を見たヒカルがまだ火を付けたばかりのタバコを灰皿で揉消した。

「そろそろ行くか」


「感動の対面は済んだか?」
ヒカルが引き戸を開けて中に入った。

「突っ立ってねえで入れよ」
ヒカルは冷泉の背中を押した。

「冷泉君も呼ばれていたのか。大きくなったね、ヒカルと同じくらいかい。それにしてもいつ見ても君は本当に若いときのヒカルに瓜二つだね」
中将が冷泉を見て率直に述べた。

(瓜二つなんてレベルじゃない。ヒカルさんだ。この人はヒカルさんだ)
鬘は冷泉に釘付けになった。

「ヒカルさんにこんな大きな息子さんがいるなんて知りませんでした。夕霧君のお兄さんですか?」
振り向いたまま固まる鬘がヒカルに尋ねた。

「こいつは御門 冷泉。俺の弟だ」
ヒカルは鬘に冷泉を紹介した。

「冷泉、お前、中将の隣に座れ」
冷泉が席につくとヒカルは冷泉に鬘を紹介した。

「はじめまして。御門 冷泉です」
冷泉は頭を下げて自己紹介をした。
「は、はじめまして。玉木 鬘です」
鬘も慌てて自己紹介すると頭を下げた。
「冷泉君、鬘君は私の離れ離れになっていた息子なんだよ」
中将が「さっき初めて知ったんだけど」と頬を弛めた。
「へえー。ずいぶんと綺麗な息子さんですね」
冷泉が鬘を褒めると「鬘君の母親がとても美しい人でね」とまたしても頬を弛める。

その後、会食を済ませるとヒカルは冷泉に鬘と庭を散策してくるように伝えた。二人が席を離れるとヒカルは本題とばかりに切り出した。

「冷泉が間もなく本社研修に入るのは知ってるよな。そこでだ。鬘を冷泉の秘書に推薦しようと考えてるんだが、どうだ?」
ヒカルの提案に中将が目を輝かせる。
「いいのかい?私にとっても鬘君にとってもよろこばしい事この上ないよ」
中将はヒカルの提案に賛同した。


食事会の帰りの車内。

「驚いたろ?」
ヒカルがバックミラー越しに鬘を見る。
「はい。まさか父に会えるなんて思っていませんでしたし。中将さんは最初の感想がお父さんみたいだなと感じていたので。何だか夢にいるみたいです」
鬘がほーっと息を吐いた。

「そうか。ところで冷泉の印象はどうだ?」
鬘は冷泉を思いだしながら少し戸惑いながら口を開いた。

「冷泉君はヒカルさんの弟さんと聞いて驚きました。年もずいぶん離れているみたいだし、あまりにもヒカルさんにそっくりで。
夕霧君もヒカルさんに似ているなと思いましたけど冷泉さんはそれを超越してるっていうか。こう言っては夕霧君に失礼かもしれませんが夕霧君は性格も大人しくて一見ヒカルさんと比べる派手さのない印象なんです。でも」
鬘が言葉を区切った。
「でも?」
ヒカルはその先を尋ねた。
「冷泉君は華があると言うか華やかと言うか、大人びたところも物怖じしないところも豪快さも何もかもヒカルさんとそっくりで」
鬘が冷泉と庭を散策したときの印象を振り返る。
「正直、かっこいい子だなと思いました」
頬を赤らめるヒカルは「そうか」と呟くとそれ以上は何も聞かなかった。

ヒカルの本来の目的は鬘と冷泉を引き合わせることだった。中将の息子という立場を手に入れた鬘なら家柄的にも問題はなく、冷泉が鬘を気に入れば自分に恋心に近い感情を持つ鬘が冷泉を気に入ることはわかっていた。そうなれば社内での左代家の力は右代家を凌ぐ。かつて右代家の策略でドバイに飛ばされた苦い経験を持つヒカルにとって勢力争いはいらぬ副産物に過ぎなかった。


「うーん」
朱雀の腕の中で月夜が目を覚ます。
「起きました?」
月夜の頭の上からキスと共に「おはよう」の挨拶が降り注ぐ。もぞもぞと月夜が寝返りを打ち朱雀を見つめた。やわらかく笑みを称える朱雀に月夜も微笑んだ。

「そうだ、昨日。お前はちゃんとイケた?僕一人落ちちゃったから。あんなんじゃ足りなかったろ」
月夜が飛び起きた。
クスクスクス。
「十分気持ちよかったですよ」
朱雀が笑いながら答えたが月夜には通じなかった。
「うそつけ。エロ朱雀があんなもんで満足なんかするか。現にここ」
月夜が朱雀の熱い塊を握り締めた。
「硬いまんまじゃないか。僕を抱き潰した翌日ならこれはありえない。わかってるんだからな、お前のことは」

月夜が手に握るそれを扱くと朱雀が気持ち良さそうに呻いた。
「どうだ。反論があるなら聞くけど」
月夜は朱雀を追い込むように手を動かした。朱雀は何も反論しなかった。朱雀のペニスから先走りが滲むと月夜がそれを利用しながらなおも朱雀を追い詰める。
「もう、出そうです」
ギリギリまで堪えた朱雀が懇願した。
「だめだ」
月夜は「風呂沸かしてくる」とあっさりと手を離し寝室を飛び出していった。
「生殺しですか」
取り残された朱雀が大きな溜息をついた。

寝室に戻った月夜はゴソゴソとチェストの引き出しを漁ると、お目当ての物を見つけてにんまりとした。
「シよ。もう一回。これ使ってさ」
月夜が取り出したのはブジーだった。かつて朱雀がマドラーからヒントを得て特注で作った月夜専用のブジー。ワイヤーのように細い軸の片端には大きな金平糖型、その対極には小さな金平糖型が付いている代物だった。

「もしかして」
朱雀が起き上がってそれを受け取る。
「白状するとさ、お尻触らない代わりにこれ使ってシてた」
月夜の告白に朱雀の煩悩に灯がともる。
朱雀は野獣のように月夜に覆いかぶさった。
「本当に貴方って人は気持ちいいことに正直ですよね。まだお尻も柔らかいですから」
朱雀が正面から一気に挿入した。

「んああっ」
その衝撃に月夜が仰け反った。
朱雀はすぐさま下肢を打ちつける。今までに類を見ない朱雀の豹変振りに月夜が喘ぎながらもうっとりと朱雀を見つめる。

「実は昨晩イッてないんで先に出させてください、ね」
朱雀が出す瞬間を中で感じた月夜が朱雀の頬を両手で挟んだ。
「お前がイクとこ見たい」
月夜の要望を拒むことなく朱雀が月夜の中で果てる。ブルブルと下肢を震わせながら快楽に顔を歪ませる朱雀を見つめる月夜は、イク瞬間にだけ見せる朱雀の表情が好きだった。自分を求め限界まで耐え抜き開放する男の顔が。自分が朱雀をそうさせていると言う自負。自分にだけ反応する世界に一つしかない自分に欠けた体のピース。それを受け入れる側の、男でありながら女としての自負。男である朱雀を征服していると最も強く感じる瞬間の喜びが月夜の体に充満する。
「すざ、く」
果ててなお壮絶に色気を発する朱雀が月夜の唇に齧り付いた。

「んんーーーっ」
月夜が朱雀にしがみ付きながらドライで達した。

「大丈夫ですか?」
呼吸を整えながら朱雀が月夜の頬に手を当てる。

「さっきみたいな朱雀、初めて見た」
顔を高潮させる月夜に朱雀が見とれる。
「気持ち良かったですか、ドライ」
月夜が頬に当てられる手に自分の手を添えた。
「うん。とっても」
月夜の満足気な表情に朱雀の顔も綻ぶ。朱雀はジェルを月夜の尿道とブジーの挿入部分へと塗りつけた。月夜が一人遊びをしたと言っていた通り小さな金平糖方が月夜のペニスに呑み込まれていく。朱雀は少しずつ挿入させながらも出入りを繰り返す。尿道内の至る所を擽られるうちに月夜のペニスがムクムクと形成する。

「はあ、ああっ」
なまめかしい声を上げると月夜の尿道口から精液が溢れ出す。
「気持ち、イイ。自分でスるよりずっと」
月夜の言葉に朱雀のペニスが一気に成長した。
「あん。復活、早いよ」
昨晩とは打って変わり朱雀の大きさを取り戻した月夜がうっとりと呟いた。

念入りに朱雀は月夜の尿道内を擽り続けた。

「もっと、奥に欲しい」
月夜の頼みに朱雀は金平糖型を押し込むと、大きな金平糖方が月夜のペニスの先端に鎮座する。朱雀は月夜のペニスをやんわりと握ると大きな金平糖型を親指の腹で奥へグニグニとと押し込む。

「あ、んん、イイ。気持ち、イイ」
月夜の中の小さな金平糖型が前立腺を突くたびに月夜が下肢をくねらせる。

「私で一人遊びなんて。本当に貴方って人は」
朱雀が下肢を打ちながら中から前立腺を突く。

「ああっ、ああっ、イイ、どっちからも」
魘されるように月夜が何度も口走る。

「思う存分、気持ち良くなってください」
月夜の上体を起き上がらせ、月夜の腕を朱雀の首に回させると、月夜が待ち構えていたように腰を振る。大きな金平糖型を朱雀の腹筋に擦り付け、朱雀のペニスの奥の前立腺に当たるように。そして朱雀のペニスで前立腺を小突くように。朱雀は月夜のさせたいようにしながら月夜の蕩ける顔を見つめる。

「イイ、イイよぉ」
月夜が淫乱に腰を振る。その扇情的な様を朱雀が見守る。

「イク、イク」
月夜がドライへの階段を一気に駆け上がった。

「んああーっ」
今度は月夜がドライを迎える瞬間の表情を朱雀が見ていた。自分が月夜を気持ちよくさせたと言う事実。性に奔放で誰とでも体を重ねていた過去。しかし今は自分だけを愛しそばを離ず信じると誓ってくれた喜び。過去があったからこその今ある全てに朱雀は感謝した。

「愛してる」
朱雀の口から無意識に零れる愛の言葉。何度口にしても次々とあふれるその一言を自分は死ぬまで月夜に言い続けるのだと朱雀は思った。

「風呂、連れてって」
ようやく落ち着いたように月夜が朱雀に甘える。朱雀は軽々と抱き上げると浴室へと入った。

「おしっこ、出したい」
月夜の一言に朱雀が身震いした。

「想像したんだ、エロ朱雀。いいよ、見てて。でも、お前のイキ顔は僕が見る」
月夜のペニスの金平糖型の隙間を伝い噴水のように尿がコンコンと溢れ出る。二人の体を伝って流れ落ちる黄色い液体、匂い、そのどれもが朱雀の興奮度を上げる要因だった。朱雀の興奮が一気に高まった。

「クッ。久しぶりに見たらもう」
朱雀は突き上げることなく月夜の中に精を吐き出す。その無理矢理射精させられる屈辱に似た、月夜を抱くときとはまた違う朱雀のイキ顔にも月夜は興奮するのだった。

「変わってないな、こんなのであっさりイクなんてほんと変態」
照れ隠しのように月夜が朱雀から目を逸らす。

「貴方限定ですけどね」
朱雀は月夜を強く抱く。月夜もまた朱雀にきつくしがみ付く。そしてどちらともなく笑い合った。

その頃、二人の熱気がいまだ充満する寝室で二人の携帯が交互に着信を知らせていた。


「ミカちゃん、今日もかわいいわよぉ。張り切ってお仕事してね、うちのナンバーワンちゃん」
ジョリジョリと電気剃刀で髭を剃る見た目は女性の男がミカエラ クリスティーヌに声を掛けた。
「ふん、いわれなくったって働くよ」
ミカは小悪魔風のコスチュームに身を包みタバコに火をつけた。

「ミカちゃん、二番テーブルご指名です」
一人の黒服がミカの声を掛けるとミカは営業スマイルで客席にでた。

「いらっしゃいませ、カズ君」
ミカがカズ君と呼んだ男の隣に密着するように座ると、男に媚を売るように腕を絡ませる。

「仕事は慣れた?」
男は爽やかな笑顔でミカに微笑みかける。
「うん。それもこれもカズ君のお陰。僕がかわいいばかりに変な連中に目を付けられちゃったから」
ミカがスッと左腕を右手で握り締めた。

「俺が運よく通りかからなかったらミカちゃん大変なことになってたかも」
「本当にありがと。あいつら、絶対許さない。僕をこんな体にして」
ミカの左腕を握り締める右手がブルブルと震える。
「止められそう?あれ」
男がミカにしか聞こえないように囁いた。

「止め、たい。カズ君に立て替えてもらった僕の借金だってまだ返せてないのに」
ミカが唇を噛み締める。
「俺が立て替えた金のことよりこの店に借金返さないとね」
男が爽やかな笑みでミカに微笑むと、ミカが男を救世主のような目で見つめた。
「でも、稼いでも稼いでもあれにお金が掛かっちゃって」
ミカが心細そうに体を強張らせた。
「そうだよね、あれ使ったときのエッチなミカちゃん、俺は大好きだよ。でもこの店の取立ては結構エグイて聞くよ、心配だな。
そうだ。いいこと教えてあげるよ。ミカちゃんの知り合い、誰かいない?この店の紹介制度、利用しなよ。ミカちゃんの紹介した子がこの店で働けば、ミカちゃんは何もしなくても一日二十万貰えるんだよ、凄くない?」
男が喜々としてミカに甘言を吐く。
「でも」
煮えきらないミカに男がスッと席を立った。
「カズ君?」
男はちょっとトイレと言って席を離れると店のオーナールームに入った。

「お疲れ様です、大杉さん」
男は大杉に会釈した。
「来てたのか、一樹」
大杉はPCに何かを打ちこんでいる様子だった。
「ミカはどうだ?回収できそうか?」
「いえ、ダメっす。こうなったらほかの奴取り込もうかと思って紹介の話ししたんスけど、ビビリやがって。あいつをヤク漬けにしたらもっと稼げると思ったんスけど」
舌打ちする一樹に大杉が一言冷たく言い放った。
「なら、体張らせるしかねえな。脅してでも誰か引っ張らせて、ミカは風俗に落とせ」
「了解っス」
一樹は爽やかに微笑むと客席にもどった。

「ミーカちゃん、おまたせ」
アイドルのような爽やかさで席に戻った一樹がミカの隣に滑り込む。

「どお、考えてくれた?」
一樹がミカの顔を覗き込む。
「さっきここのオーナーにミカちゃんの借金を待ってもらうように話してたんだ。あと一週間待ってくれるってさ。だからミカちゃんの知り合い、誰かいない?俺、ミカちゃんが心配なんだよ」
一樹が迫真の演技を見せた。
「うん、いなくは、ないんだけど」
それを真に受けたミカが一樹に宛があるそぶりを見せた。
「良かった!じゃあさ、仕事終わったらさ、前祝しようよ。二人っきりで」
一樹はミカの耳元で囁いた。

「あ、あぅ、あんっカズ君いいっ」
「ほんと、ブッ飛んでる時のミカちゃん最高」
ミカが一樹の上で体全体をしならせ陶酔した面持ちで快楽を貪る。

「いいっ、気持ちいいっ。イクぅん、イクぅっ」
ミカが一樹のワイシャツに精子を吐き出して脱力した。
「俺もイカせてよ」
一樹はミカの体の重みをもろともせずに突き上げ程なくして果てた。

「相変わらずミカちゃんのマンション贅沢だよね」
見栄っ張りなミカは仕送りだけでは到底無理ともいえるマンションに住み、店で働く給料は薬代と家賃にほぼ消えていた。

「もうちょっとランク落としたら?そうすれば」
「やだっ。僕は高級志向なの。かわいい僕がこんなマンションに住む。それが僕のブランドなの」
ミカは頑なだった。
「そっか。じゃあ、ミカちゃんの知り合いに期待するしかないね」
一樹が至極残念そうに呟いた。
「それなんだけどね、やっぱり僕」
そこまでミカが言いかけたその時だった。

「おい、誰だ、あんたら」
一樹の驚いた声にミカが後ろを振り向いた。
「ん、んんっ」
見知らぬ男達が部屋の中に入り、その内の一人がミカの体を押さえつけ口を塞ぐ。恐怖に暴れるミカを押さえつけ、ほか二人の男達は一樹の両腕を拘束して部屋を連れ出す。

「誰だ、あんたら。もしかしてオーナーの仲間か?」
一樹の声はそこで途絶えた。

「んんっ、んんっ」
ミカは涙を流しながら見ていることしかできなかった。

「あんたに恨みはないが仕事なんでね」
もう一人の男が注射器を片手に、残る一人の男にミカの腕を押さえつけるように指示を出した。

「んんっ、んんっ」
ミカの目の前で注射器の針がゆっくりと突き刺さり中の液体が体内に押し込まれていった。

「もういい、放せ」
ミカに注射を打った男がミカの拘束を解くように指示を出す。
クタリとベッドになだれ込むミカを三人の男達がみつめている。


「終わった?」
部屋に入ってきたのは一樹と一樹を部屋から連れ出した男達だった。
「大丈夫かな、二本目だけど。ま、いっか、大杉さんの命令だし。
もう少ししたらヤクの効き目出るからさ、よろしく頼むよ。二輪挿しもいけるように仕込んどいて」
一樹がミカになんの表情も浮かべずに部屋をでようとした。
「あんまり他人を信用しちゃだめだよ、ミカちゃん」

振り向きざまに手の中にあるミカのマンションのスペアキーを握り奥の部屋を一瞥すると一樹はマンションを後にした。




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