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【篝火】Kagaribi
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『愚痴 言ってもいいか』
【左代 柏木】(Sadai Kasiwagi)は一通のメッセージを送り大きく溜息をついた。
ポコッ。
メッセージの返信に柏木が直ぐにタップして内容を確認する。返信の主は夕霧だった。柏木は夕霧と同じ年齢だが早生まれの柏木は中等部の一学年上のクラスに在籍していた。中等部でもサッカー部のキャプテンを務める夕霧と、学年トップの成績に生徒会長である柏木は夕霧と人気を二分する人気を誇っていた。
『どうした?めずらしいな』
『親父のこと 俺達の他に他所で姉が見つかった』
『・・・』
『親父の女癖の悪さにほとほと呆れる
それでなくともうちは兄弟多いのにさ』
『親の女癖の悪さならこっちも同じだよ』
『でも夕霧のとこは兄妹二人だけだろ。こっちは何人いるんだって話 親父が結婚する前の話だけど何かさ』
『まあ・・・ 子供は僕と亜衣だけみたいだけどそんなのわかんないよ』
ポコポコと柏木が夕霧とメッセージのやり取りを交わす。
『親父としては尊敬してるんだけどな』
『親を尊敬できるなんてうらやましいよ 僕はあいつの事なんて尊敬できないから』
『でもヒカルおじさんは若くしてCOOだしかなりのやり手だって親父がゆってた』
『仕事は、だろ 僕は親としてって言ってんの 僕の父親も中将おじさんだったら僕も尊敬できるんだけど』
『お互い苦労するな』
『そうだね』
メッセージを打ちながら柏木がふと思い出したようにメッセージの内容を変えた。
『この前さ、下校途中に知り合った人がいるんだけどさ』
『どんな人?』
『綺麗な人』
『それだけ?他には?』
『たぶん夕霧が今住んでるとこの近くに住んでると思う』
『この前そっちに遊びにいった帰りに見かけたから』
『柏木が気にするような人なんているんだな』
『そうかな』
『そうだよ いつも誰にでもどうでも良さげじゃん』
『失礼だな』
『本当のことだろ』
『また会いたいな』
『こっち来る?今日 部活休みなんだ』
『了解 直ぐ行く』
柏木は飛び出すように左代の屋敷を出た。
「早かったな」
夕霧が柏木を部屋へと迎え入れる。
「当たり前だ、夕霧が家からいなくなってから話し相手がいないからさ。走ってきた」
柏木の額にはうっすら汗が滲んでいた。
「柏木が走るなんてめずらしいな」
運動系があまり得意ではない柏木に夕霧が皮肉った。
柏木は近江の話を夕霧に詳しく話すと、スッキリしたように一息ついた。
「久しぶりに聞かせてよ」
夕霧が柏木に頼むと、柏木がバッグからある物を取り出した。
コンコン。
「夕霧君、鬘です。里華さんに飲み物持って行くように頼まれたんだけど、良いかな」
鬘が夕霧の部屋のドアをノックした。
「今開けます」
夕霧が部屋のドアを開けた。
「ありがとう」
鬘が夕霧に微笑んだ。
「貴方は」
柏木が驚きと喜びが入り混じった顔で鬘を見ていた。
「君はこの間の」
柏木を見とめた鬘も目を見開いた。
「二人は従兄弟なんだ。兄弟みたいに仲良いんだね」
夕霧に説明された鬘が羨ましそうに顔を綻ばせる。柏木は無言のまま緊張していた。
「柏木も何か話せば?会いたかったんだろ」
夕霧が柏木に振ると鬘と目の合った柏木が赤面した。借りてきた猫のように大人しく何も言えない柏木に鬘が柏木が握りしめている物に目を向けた。
「柏木君が持っているのは何?横笛?」
鬘が無邪気に話しかける。
「ひ、【篳篥】(Hichiriki)。雅楽で使う管楽器。雅楽は」
大人しかった柏木が饒舌に説明し始めた。
「神社や寺院で行われる奉納行事や結婚式なんかでよく演奏されています。父の知り合いに雅楽師がいて、その人の影響で何となく始めたんです。雅楽と聞けば【笙】(Syou)、【竜笛】(Ryuteki)、【篳篥】(Hichiriki)、【能管】(Noukan)、【琵琶】(Biwa)なんかを連想すると思いますが僕が今日持ってきたのは篳篥です。とても壮大で癒される音色です」
ここまで説明した柏木がぽかんとする鬘にようやく気がついた。
「あ、すみません僕」
「柏木、急にそんなに一気に言うから鬘さんが驚いてるぞ。論より証拠、聞かせてやれよ。僕も久しぶりに聞きたい」
夕霧が鬘のために柏木に演奏する事を勧めた。
柏木が篳篥を吹き始めた。
(なんて素敵な音色。そしてこの二人、本当に兄弟のよう。うらやましいな。僕にもこんな弟がいたら)
柏木の篳篥を聞きながら鬘は家族への憧れを強くした。
冷泉は間もなく十八歳を向かえようとしていた。
「くすぐったいじゃない。あんまり触らないで。今日はもうお終いよ」
凛は冷泉を気にかけ宮内の屋敷をたびたび訪れていた。そしていつしか二人は後男女の関係になっていた。(絵合)
十八歳になると冷泉は大学に通いながら本社での研修が始まることが決まっていた。
「僕が本社で研修を受けるようになったら凛さんに毎日会えるよね。そしたら僕は毎日凛さんのこの部屋に来れるかな」
冷泉が待ちきれずに凛に提案する。
「私は残業もあるしCOOの秘書なのよ。毎日なんて無理よ」
凛が遠まわしに否定する。
「じゃあ、僕が凛さんと結婚すれば一緒にいられるよね」
冷泉の口から結婚が出た凛が少なからず動揺した。
「そう、結婚。僕と結婚してよ。そしてたくさん子供作ってさ」
冷泉が夢を語る。うれしいはずの凛の表情がわずかに翳った。
「私は冷泉君より九歳も年上なのよ。それに、COOが許さないわ、きっと」
悲観的な発言をした凛に冷泉が勢いよく起き上がり凜に圧し掛かった。
「今日はもうお終いって」
「嫌だ。結婚するって言うまで止めない。いっそ子供を先に作ればヒカルだって認めざるを得ないよ」
冷泉は半ば強引に凛を抱いた。
冷泉が帰った部屋で素肌に長めのシャツを纏っただけの凛がキッチンのダクトの下でタバコを吸う。
(冷泉君の気持ちはうれしい。でも私はどうしても結婚が幸せの全ての形ではない気がするの)
凛は父である雅を思う。
(雅ちゃんはずっと日陰の女だった。その血を引く私もきっと同じ道を辿るような気がしてならない)
「あっ」
凛が小さく悲鳴を上げた。
(最後にシタ時だわ)
凛の太股を冷泉の出した精液が伝い降りる。
(どうしよう。結婚はどうしても考えられない。でも冷泉君の求めを拒むことはできない。冷泉君のことが好きだから)
凛は有給休暇を申請し、翌日欠勤するとある場所の前で足を止めた。そこは産婦人科だった。凛は迷いなくその中へ入る。凛は避妊手術を受ることにしたのだった。
「隣、いい?」
不意に掛けられた声が自分に向けてのこととは思いもよらない慧が先週のノートの内容を復習したまま気がつかないでいた。
「ねえ、明石君ってばここいい?」
名前を呼ばれたことでハッとした慧が声のするほうへ視線を向けた。
「ごめっ、気がつかなくて。どうぞ」
慧が慌てて隣の席につく事を了承した。
(綺麗な男の子)
それが慧の第一印象だった。慧より頭一つ分低い身長、透き通る肌、くりっとした丸い瞳と同じくらい栗色の、肩まで伸びたふわふわな髪。
「ようやく話しかけられた。僕は【ミカエラ クリスティーヌ】。ママンがカナダ系のハーフなんだ。ミカって呼んで」
ミカと名乗った人物は慧の選択科目の授業では見かけない人物だった。
「あれ?もしかして僕のこと知らない、みたいだね。美男子コンテストに僕も出たんだ。あれで僕の知名度、上がったと思っていたんだけど」
ミカは意外そうな表情を浮かべた。
「ごめん。僕、見に行ってないから」
慧が申し訳なさそうに俯いた。
「あ、いいのいいの。っていうかさ、美男子コンテストのポスター、ほんとに見なかったの?男子部門も?結構イケてる奴いたよ」
ミカが小首を傾げて慧をみる。その仕草に慧がドキリとした。
「女子部門でグランプリだったでしょ、明石君。女子部門の二位だったんだ、僕。小悪魔風のコンセプト、イケると思ってたのに残念」
ミカが悔しそうにウィンクすると慧が思わず頬を染めた。
「みんなが皇子って呼ぶのわかるな」
ミカがしみじみと慧を品定めするように見た。
「背もすらっとしてて手足も細くて長いし、整った顔で小顔だし。僕と正反対。僕、小柄だし、女顔だし」
ぶつぶつと不満を言うミカに、ヒカルから痩せすぎだと言われる慧が自分の体を恥ずかしく感じ、ミカの小柄ではあるが健康そうな体型にうらやましく思った。
「良かったら友達になろうよ。ねえ、僕も皇子って呼んでいい?」
慧が一瞬目を見開き、嬉しそうにはにかんだ。
「友達に皇子と呼ばれるのはちょっと。慧でいいです」
慧が友情の証に右手を指したした。
「よろしくね、慧」
ミカが小悪魔風の笑みを浮かべた。
「浅賀助教授、これ」
五、六人の女子学生が浅賀を取り囲んで綺麗にラッピングされた包みを次々に渡す。
「お誕生日おめでとうございます」
女子学生から祝いの言葉を贈られた浅賀が礼汰には見せたことのない笑みで女子学生たちと談笑する。
浅賀の車で登校した礼汰が待ち構えていた女子学生の勢いに助手席から下りられずにその光景を車内から見ながら胸の内のモヤモヤとした何かに支配されていた。
(俺にはあんな笑顔見せないくせに。デレデレしやがって)
礼汰は悶々時が過ぎるのを待つのだった。
「どうしました?」
その日の帰り、礼汰の様子に気がついた浅賀が礼汰に尋ねた。
「別に」
横を向いてしまった礼汰に浅賀はそれ以上何も言わなかった。
「お帰りなさいませ」
いつものようにメイド達が頭を下げて二人を迎えた。
四人で食事を取り、いつもは真っ直ぐ応接間へと向かうのだが、浅賀は礼汰に階段付近で待っているようにと伝え、忠臣と一臣には応接間で待つようにと指示を出した。
浅賀は礼汰を二階の寝室へと礼汰を誘った。
「今日はシないのかよ」
帰宅すると礼汰は毎日、忠臣と一臣の相手をして満足させていた。そしてその後で体の疼きを浅賀に鎮めてもらうかのように体を重ねていた。
「今夜はストッパー、使わないでおきましょうか」
浅賀の言うストッパーとは初めて忠臣と一臣の相手をした時に礼汰の早漏対策として使用した小さな球体に軸が付いた物体を指していた。
「あれがなきゃ俺は」
礼汰の顔に不安の色が滲み出る。
「大丈夫ですよ」
浅賀は礼汰の衣服を脱がせてベッドに礼汰の体を横たえさせ尻に舌を伸ばす。
「ちょ、せんせい」
礼汰が動揺したが浅賀は唾液で塗らしながらやや性急に解す。
「挿入れるよ、礼汰」
体を重ねるときだけ浅賀は礼汰を名前で呼ぶ。背後から抱き締められる礼汰がコクリと頷いた。
「ん、んんっ」
いつも受け入れてはいても浅賀のサイズに礼汰が時折息を詰める。全てを収めた浅賀は礼汰のペニスに手を添えた。
「先生、だめ。直ぐ出ちゃう」
礼汰が慌てて浅賀を制す。
「大丈夫。私の手ではなく礼汰の中の私に集中して」
浅賀がゆっくりとピストン運動を開始する。
「そう、いい子。もっと私を意識して締め付けて」
浅賀の言葉に礼汰が括約筋に力を入れる。
「そう、上手。もっとだよ。礼汰ならできるよね」
浅賀は礼汰を励ましながら礼汰のペニスをゆるゆると擦る。
「んああっ」
擦られる刺激に礼汰が声を上げた。
「もっと礼汰に締め付けられたいな」
色気のある口調で浅賀は礼汰の意識をペニスから外させるように語りかけると礼汰の中がキュンと締まる。礼汰は浅賀の言葉に従って必死に中へと意識を飛ばした。
「ん、んっ」
礼汰がシーツを握り締めながら耐えているが、堪え切れずに僅かずつ礼汰のペニスから精液が滲み出る。
「少し激しくするよ、礼汰」
浅賀はピストン運動を加速させる。礼汰は歯を食いしばって浅賀の言うとおり括約筋を絞め続けるが、やはり精液は漏れ続けた。
「これくらいで十分かな」
浅賀は精液が漏れ出ない事を確認すると一旦動きを止め、手に付いた礼汰の精液を舐めとった。
「礼汰にしがみ付かれたいな」
浅賀は繋がったまま礼汰の体を仰向けにさせて、じっと見つめた。ドキンと礼汰の心臓が跳ねた。
「ふふっ、礼汰もだね」
キュンと礼汰の括約筋が締まったことで浅賀には筒抜けの礼汰が照れ隠しのように浅賀の首に両腕を回した。
「このまま下に行くよ」
浅賀が軽々と礼汰を持ち上ると礼汰が両足を浅賀の体に巻きつけた。浅賀は礼汰と繋がったまま階下の応接間へと向かった。
「遅―い」
忠臣と一臣は既に全裸で臨戦態勢になっていた。ソファに座った浅賀は自らを追い込むようにピストン運動を早める。
「何だよ、見せ付けるために来たのかよ」
一臣が二人の抱き合う姿に頬を膨らませた。
「準備していたんですよ」
浅賀は礼汰の項を押さえると礼汰の唇に自らのそれを重ねた。
「ん、んんっ、んん」
礼汰の鼻音が抜ける。浅賀は礼汰を開放に導くことなく一人で精を解き放った。
「礼汰、気持ちいい」
浅賀が礼汰にキスをした。
「臣様に接吻されるなんて、うらやましいです」
下肢も口内も浅賀を深く受け入れる礼汰の姿に忠臣が腿を擦り合せながら凝視する。
「あの雌どもを啼かせてあげなさい。でも私が礼汰の中に出した物は溢さないでくださいね。上手にできたらご褒美、あげます」
浅賀は礼汰に任務を言い渡した。
それから礼汰は忠臣と一臣の二人を相手に抱き続けた。
『あの雌ども』浅賀の最後の言葉が礼汰の頭にリフレインする。
(くそっ)
朝の浅賀と女子学生の光景を思いだし、礼汰は心の中で舌を打った。礼汰はその光景を思い出すたび胸の中でモヤモヤからドロドロに変化したものが這い回り、二人を抱き続けるごとに浅賀の出した精液が礼汰の体を別の欲望へと引きずり込む。
(くそっ)
礼汰は雑念を振り払うように一心不乱に二人を抱いた。
「もう、十分でしょう」
浅賀に止められるまで礼汰は意識が飛んでいた。忠臣と一臣は既に完全に落ちていた。
「ストッパー、いらなかったでしょう」
浅賀がしたり顔で礼汰に微笑んだ。礼汰は心も体の疼きも限界に達していた。
「何だよ、朝のあれ。女たちにへらへら笑いやがって」
礼汰が浅賀のスーツの襟を掴んだ。
「俺にはあんな風に笑ったことないくせに。俺のこと好きだって言ったくせに。胸糞悪い」
礼汰の剣幕に驚いた浅賀が次の瞬間、驚くほど満ち足りたように微笑んだ。
「やきもち、焼いてくれたんですか?」
浅賀は礼汰を抱き締めた。
「俺は怒っているんだからな」
礼汰の剣幕はちょっとやそっとでは収まりそうになかった。
「私たちの寝室へ行って話しましょう」
浅賀は礼汰を横抱きにすると足早に寝室へと向かった。怒りを露わにしながらも素直に礼汰が浅賀にしがみついた。
「俺はまだ怒ってるんだからな。誕生日ならそういえよ。俺だけ知らないなんて恋人失格じゃん。それに何でいつもあんたばかりちゃんと服着てるんだよ」
ベッドの上で礼汰が一人怒りを浅賀にぶつける。
「あまり人前で素裸を晒したくないんです。だから君の前でしか服は脱がないようにしているんです」
シュルシュルと浅賀がネクタイを外し、さっさと服を脱ぎ捨てた。
「これでいいですか」
浅賀が極上の笑みを礼汰に向ける。
「そんなんでだまされないからな」
浅賀の美しい肉体美に礼汰が頬を染めながら浅賀の目を見つめる。
「それと、訂正があります。朝の私の顔は社交辞令です。要するに作り物。どうでもいい相手にだけあの顔を見せるんです。君に見せる筈ないでしょう」
浅賀は礼汰が特別だと説明した。
「でも誕生日だって教えてくれたっていいだろ」
半ば怒りのボルテージの下がった礼汰が浅賀を問い詰めた。
「だって私は君よりも年上なんですよ。それなのにまた年をとるなんて言いたくはなかったんですよ」
浅賀が顰め面をした。
「お怒りは解けましたか」
礼汰の向かい側に座る浅賀が礼汰の顔色を伺うように覗き込んだ。
「あんたは、もう俺のもんなんだよな」
礼汰が確認するように浅賀に尋ねる。
「そうですよ。私は君の物。そして君は私の物です」
浅賀がにっこりと微笑んだ。
「痛いじゃないですか」
「これで許してやる」
礼汰が浅賀の首筋に思い切り噛み付いたのだった。
「本当に情熱的ですね、君は」
首筋を擦りながら浅賀が礼汰ににじり寄る。
「抱きたい。抱かせて、礼汰」
色気のある声で浅賀が礼汰を誘う。
「もっと私に礼汰の物っていう所有印、付けてください」
浅賀の誘いに礼汰は「望むところ」と啖呵を切ると何度も浅賀の首筋に吸い付いた。
「あんっ」
礼汰が浅賀に正常位で挿入されたと同時に射精した。
「挿入れただけで出すほど我慢できなかったの、礼汰」
浅賀が礼汰の言葉を待たずにピストン運動を開始した。とっさに礼汰が浅賀にしがみつくと礼汰からは忠臣と一臣を責め立てた雄の姿が掻き消える。
「だって、あん、ずっと、我慢あっ」
浅賀の揺さぶりに礼汰が途切れ途切れに口を開く。
「結婚しよう、礼汰」
浅賀がピストン運動しながらプロポーズした。
「する。先生、する」
礼汰が熱に浮かされながら合意した。
「なら、ご両親にご挨拶にいきましょう」
浅賀が礼汰の言質を求める。
「いく、イク」
どちらとも取れない礼汰の返事に浅賀がにやりとした。
「イきたいときはどうするの」
浅賀は礼汰を責めながら礼汰の言葉を待つ。
「おみ、ひで、おみ。ひでおみい」
礼汰が切なく浅賀の名を呼んだ。
「かわいいな」
浅賀は礼汰をイカせると自らも精を解き放った。
浅賀がそのまま礼汰の唇に喰らいつく。礼汰の口内を堪能しながら再びピストン運動を再び開始する。
「礼汰、気持ちいい?クリ触ろうか?」
キスの合間に浅賀が確認のように何度も礼汰に問いかけると、礼汰も「クリ、や。せんせ、のだけがいい」とうわ言のように繰り返し、ひたすらに浅賀を求める。
「ここからはノンストップですよ」
浅賀は礼汰を高みへと押し上げる。浅賀の猛攻に礼汰も離すまいと浅賀にしがみ付く。浅賀は礼汰に深いキスを与えながら礼汰の体ごと起き上がり、下から突き上げる。
「秀臣、ひでおみぃ」
キスの途中で礼汰が浅賀の名を呼ぶたび奥を振るわせるが、浅賀は有言実行とばかりに礼汰の奥を抉る。浅賀が妖しい腰つきで礼汰を翻弄しながらも礼汰を悦ばせた。
次の朝。
「ご両親にいつご挨拶に伺いましょうか」
浅賀の腕枕で目覚めた礼汰に浅賀は開口一番に聞いた。
「ぇ?ほんとに行くの?」
礼汰がうーんと唸る。
「大丈夫ですよ、ご両親には奥尻君が我が社に就職が決まったとご報告するだけです。実質、私にとっては永久就職と言う意味合いですからきちんとご挨拶しておきたいだけです」
浅賀の言葉にホッとした礼汰が日取りを段取ることになった。
「それと、パスポートは持っていますか?」
浅賀は礼汰に唐突に聞いた。
「パスポート?ないよ、俺、家族と国内旅行しかしたことないから」
礼汰は極普通の返答を返し、浅賀のほうに向くとギョッと目を見開いた。
「頼むから隠してくれよ」
キッチリとスーツを着こなした浅賀のワイシャツの襟では隠し切れない無数のキスマークと鮮明な歯形に、礼汰があたふたとするが、浅賀は一向に介さなかった。
大学へ着くまで、ついてなお恥ずかしさに俯き席に着く礼汰に友人が話しかけた。
「おはよう、どうした?顔、赤くね?もしかして風邪か?」
礼汰は何と返そうかと考えていたその時。
「「「「キャーッ。何よ、アレ」」」」
女子学生の悲鳴とざわつきが教室に鳴り響く。浅賀が講義のために入ってきたのだった。
「助教授、あの、それは」
一人の女子学生が代表して浅賀に質問した。
「これのことですか?」
昨晩を思い出したように首筋に触れ、浅賀が隠すことなくみんなの前で告白した。
「実は昨日の私の誕生日に私の恋人が付けてくれたんです。それはもうベッドの中で情熱的に私を求めてくれまして」
浅賀が赤裸々に語る。
「「「「いやーーーーっ」」」」
女子学生が不満の声を一斉に上げた。
「ですから、結婚することにしました。ご両親にも紹介してくださると今朝、私の腕の中で可愛らしく約束してくれましたから」
浅賀のはにかんだ様子にその場にいた礼汰以外の男子学生が(浅賀助教授がデレた)と思い、女子学生は嘆き悲しんだ。
(何が情熱的にだ、何が可愛くだ。話を盛るなよ)
「確かに浅賀助教授はモテるけどさ。すげーよな、くっきり歯形だぜ。どんだけ独占欲ある女だよ」
隣にいた学友の感心したような呟きに礼汰だけがますます顔を赤らめさせていた。
朱雀の退院の日が決まった。迎えに来ると言う弘子の主張を押し切り朱雀は月夜と二人きりでマンションへと向かった。
鍵を開けて二人は中へ入った。月夜は靴を脱ぎさっさと奥へと入っていくが朱雀は靴を脱ぐ事を躊躇っていた。
「何で入ってこないんだよ」
朱雀の姿が見えないため月夜が玄関に戻ってきた。
「本当に後悔しませんよね」
朱雀が悲痛な面持ちで月夜を見つめる。段差のせいで二人の目線は同じだった。
「ばか朱雀。お前そんなに悲観的なタイプだったか?さっさと入れ」
月夜に促され朱雀が静かに靴を脱いだ。
ハウスクリーニングで何事もなかったかのような静寂に包まれたリビングに朱雀が月夜の惨事を思い出す。
「月夜さん、私は貴方を苦しめてはいないですか?あの時は私を助けるためにやさしい嘘を付いてくれたのではないですか?」
重くるしい空気を醸し出し朱雀は目が覚めてからずっと心に秘めていた事を問いただす。
「お前、ほんとばかだな」
あっけらかんとした調子で月夜が朱雀を呆れた目で見つめる。
「でも」
なおも朱雀が納得のいかない表情を浮かべる。
「僕が辛かったのはお前に捨てられたと思ってたからだ。あれだけ毎日愛してるだのなんだの言ってたお前に、ろくに説明もなく結婚するからって出て行かれたら、流石の僕だってお前に愛想尽かされたんだって思うだろ」
月夜の言葉に朱雀が神妙な面持ちで耳を傾ける。
「でも、栖美香さんに全部聞いた。父さんのこと。だからお前は僕より苦しんだんだろうなって思ったらさ、あんなのどうでもいいよ。こうしてお前は生きてここにいる。僕の前に立ってる。それだけでもう、いいんだ」
月夜が晴れやかに微笑を浮かべた。
「抱き締めても、いいですか?」
朱雀が月夜に質問する。
「いいよ」
月夜が両手を朱雀に伸ばすと朱雀は月夜を抱擁した。
「キス、してもいいですか?」
朱雀がまたしても質問する。
「ああ、お前がいなかった分もしていいから」
朱雀は恐る恐る月夜に口付ける。触れるだけのキスに焦れたように月夜が朱雀の口を割ろうと舌を伸ばすと朱雀もそれを受け入れる。月夜が朱雀の頬を両手で包むと朱雀が月夜の肩に手を回して月夜の身長差による負担を軽減する。朱雀も月夜も久しぶりの熱を補充するように互いの舌を絡ませる。朱雀が顔の角度を何度も変えながら月夜の舌を吸うと、月夜も負けじと舌先を伸ばす。月夜の舌の付け根を朱雀の舌先が擽ると溢れた唾液を月夜が嚥下した。
かれこれ十分以上も二人はキスに没頭していた。
カクンと月夜の腰が抜けると朱雀がもう片方の手で月夜の尻を鷲掴みした。朱雀が月夜の尻を揉みしだくと互いのペニスに芯が通り始める。
「エロ朱雀が一人で我慢できたのかよ」
ようやく唇の離れた月夜が朱雀を皮肉った。
「エッチな貴方は我慢できずに誰かと寝た?」
そこまで口にした朱雀が罰の悪そうに目を逸らした。
「すみません。私にはそんなこと言う資格はないですよね」
辛そうに目を背けた朱雀の顔を月夜がガシッと掴んだ。
「そう思うなら確かめてみろよ」
月夜の挑発する視線に目の奥で炎の灯った朱雀が月夜のジーンズを脱がせると月夜も朱雀のスラックスのベルト、ボタンを外しジッパーを下げた。ストンとその場に落ちたスラックスを邪魔だと言わんばかりに朱雀が足で蹴り飛ばす。
朱雀は再び月夜の唇に喰らいつき、月夜のビキニの中に両手を突っ込んで尻を揉む。月夜も朱雀の下着からはみ出るペニスを伯仲の元に晒し両手を使って朱雀のペニスのあちらこちらを弄る。
「キツイ。もう少し緩めてください」
朱雀の指の進入を硬く拒む月夜にキスの合間に呟く。
「無理だって。誰ともシてない」
月夜が息も絶え絶えに答える。
「お前こそもう出そうじゃないか。抜かなかったのか、これ?向こうで」
月夜が切り返す。
「自分では、抜きません、んっ、でした」
朱雀が顎を上げて呻いた。月夜が朱雀の肩を押した。
「じゃあどうやって抜いてたんだよ。一人でシないならお前が我慢できるわけないだろ」
月夜が非難めいた言葉を朱雀にぶつける。
「夢精、です」
朱雀が顔を真っ赤にさせてごにょごにょと白状した。
「貴方が夢に出てくると決まって夢精していて」
朱雀の告白に月夜もまた顔を赤らめさせた。
「なんだよ、それ。
お互い久しぶりなんだから、ちゃんと抱いてよ、朱雀」
クールダウンした月夜が朱雀をベッドに誘った。
「朱雀、お前のデカ過ぎ。一回抜けよ」
時間を掛けて尻を解されても朱雀のペニスを全て受け入れるには程遠かった。後ろからのほうが楽だろうと挿入を試みたが亀頭が入ったところでなかなか先へは進まない。
「月夜さんが力抜いてくれればもう少し」
朱雀もキツさに顔を顰める。
「一回出しましょう」
朱雀が月夜のペニスを右手で、自分のペニスのはみ出た部分を左手で扱く。
「う、あ、あん」
月夜が次第に艶声を上げ始める。
「朱雀、もう出そう」
月夜が先に精を放つ。月夜の精液でヌルつく手で朱雀が月夜のペニスをゆるゆると扱き続ける。
「あんあ、ああん」
月夜の喘ぎに朱雀のペニスが質量を増した。
「あん、だからデカくすんな」
月夜の非難を受けながら朱雀が月夜の中で精を解き放った。
「やはり一回では萎えないな」
朱雀が独り言を呟いた。
「この絶倫朱雀」
月夜は朱雀に悪態をつきながらも体の力を抜くことに専念した。
「大体、挿入りました」
朱雀が月夜を後ろから抱きしめごろんと横になった。
「貴方の中が私を思い出すまでこのまま待ちます」
朱雀の腕枕に体を預ける月夜が、朱雀のやさしさにときめいた。
「でもいたずらはしますよ」
朱雀は腕枕とは別の手で月夜の体のあちこちにある性感帯のうちの一つであるペニスに手を伸ばした。
「あっ、そこはだめ」
月夜が触った瞬間にとっさに朱雀の手を引き剥がした。
「じゃあ、ここ」
朱雀は月夜の乳首を指で弾く。
「あぅ、そこもだめ」
またしても月夜に阻まれ朱雀がシュンと凹んだ。
「僕の体、今おかしいんだ。朱雀のことが愛しいと自覚してからお前に触れられることばかり考えて、一人で弄ってたら感度が上がっちゃって」
慰めるように月夜が白状した。
「でもお尻はキツいですよ」
朱雀が身を少し起して月夜の顔を覗きこむと、月夜が隠すように両手で覆った。月夜は耳まで赤くなっていた。
「お尻は触らなかったんですか?貴方の一番好きな所でしょ?」
朱雀が畳み掛けるように問いかける。
「だって、そこはお前の、だから」
消え入る程の小声で月夜が恥ずかしそうに呟いた。
「だから今デカくすんな」
朱雀の興奮がペニスに直結し月夜が朱雀を窘める。
「すみません。無理です」
朱雀が月夜の腰に腕を回してゆさゆさと揺さぶり始める。
「あん、あ、ああん、すざ」
月夜の静止も聞かず朱雀が馴染ませるように腰を燻らす。喘ぐ月夜の声を聞きながら朱雀は集中するかのように目を閉じた。
「あ、あ、朱雀、朱雀」
月夜の生の声に朱雀は徐徐に大きく腰をうねらせる。
「貴方も気持ちいいですよね。中が吸い付くように私を包んで。ああ、月夜さんだ。私の愛しい人」
朱雀は二年半ぶりの月夜との逢瀬に浸る。
「あ、朱雀、あん、イキたい」
月夜が朱雀の腕に縋りつく。
「中でイケそう。それともこっち?」
朱雀が月夜のペニスを包み込んだ。
「やあーー」
月夜のペニスが精子を飛ばした。
「ばか朱雀。せっかくドライでイけそうだったのに」
ぷりぷりと怒る月夜に朱雀は「すみません」と謝った。
「まだスルだろ。今度はお前のでちゃんとイかせろ」
月夜が背中で恐縮する朱雀に向かって強気に強請ると朱雀が「任せてください」とベッドサイドからジェルを取り出した。
「まだあったんですね」
それは朱雀が出て行くまで愛用していたジェルだった。朱雀はいったん月夜から離れると月夜の中にたっぷりと絞りだし、正面から月夜に挿入した。月夜の両足がベッドに付くほど開脚させ、朱雀が下肢を打ちつける。朱雀が中を我が物顔で抉るたびジェルが内部に行き渡る。その滑りを借りながら朱雀は大胆に下肢を打ち月夜の中で自分を誇示した。グュチュグチュと二人の接合部が艶かしく音を立てる。
「ようやく馴染みましたね。奥に挿入ります」
朱雀が今まで入り切らなかった残りを押し込み始める。
「朱雀、くるしい」
月夜が弱音を吐くが朱雀は「もう少しですから」と譲らなかった。
「あ、入った」
体の奥が朱雀を迎え入れた事を月夜は知った。朱雀もまた体の一部が月夜の奥を抉じ開けた事を感じ取った。
「お前だ。本当にお前だ」
二年半ぶりに一番欲しかったパーツを手に入れた月夜が感極まって泣き出した。朱雀が身をかがめて月夜にキスを落とす。
チュッ、チュッ。
朱雀は月夜が泣きやむようにキスをする。それが痛いほどに肌で感じられ、常にいかなる時も月夜を優先する朱雀に月夜は涙が止まらなかった。
「もう、いいから。お前だってそろそろ限界だろ」
月夜が泣き笑いした。それでも月夜を案じる朱雀がキスをしようとすると月夜は朱雀の首と背中に腕を回した。
「僕がイきたいんだってば。離れてた分、取り戻そう」
月夜の言葉を合図に朱雀は月夜の奥を遠慮なく突き上げる。
「あ、あん、あ、あ」
朱雀の耳元で喘ぎながら涙を流す月夜に朱雀は何度も「愛してる」と囁く。朱雀は月夜の受けた心の傷が癒えるように願いながら自らの快楽を放棄して下肢を動かす。
「あ、イク、イク」
月夜の声のトーンが上がった。朱雀は月夜のドライの兆候を見逃すことなく昇天させた。久しぶりのドライに月夜が意識を手放すと朱雀はまだ硬いままのペニスを抜き、ティッシュで拭うと月夜の頭を胸に抱きながら眠りについた。
【左代 柏木】(Sadai Kasiwagi)は一通のメッセージを送り大きく溜息をついた。
ポコッ。
メッセージの返信に柏木が直ぐにタップして内容を確認する。返信の主は夕霧だった。柏木は夕霧と同じ年齢だが早生まれの柏木は中等部の一学年上のクラスに在籍していた。中等部でもサッカー部のキャプテンを務める夕霧と、学年トップの成績に生徒会長である柏木は夕霧と人気を二分する人気を誇っていた。
『どうした?めずらしいな』
『親父のこと 俺達の他に他所で姉が見つかった』
『・・・』
『親父の女癖の悪さにほとほと呆れる
それでなくともうちは兄弟多いのにさ』
『親の女癖の悪さならこっちも同じだよ』
『でも夕霧のとこは兄妹二人だけだろ。こっちは何人いるんだって話 親父が結婚する前の話だけど何かさ』
『まあ・・・ 子供は僕と亜衣だけみたいだけどそんなのわかんないよ』
ポコポコと柏木が夕霧とメッセージのやり取りを交わす。
『親父としては尊敬してるんだけどな』
『親を尊敬できるなんてうらやましいよ 僕はあいつの事なんて尊敬できないから』
『でもヒカルおじさんは若くしてCOOだしかなりのやり手だって親父がゆってた』
『仕事は、だろ 僕は親としてって言ってんの 僕の父親も中将おじさんだったら僕も尊敬できるんだけど』
『お互い苦労するな』
『そうだね』
メッセージを打ちながら柏木がふと思い出したようにメッセージの内容を変えた。
『この前さ、下校途中に知り合った人がいるんだけどさ』
『どんな人?』
『綺麗な人』
『それだけ?他には?』
『たぶん夕霧が今住んでるとこの近くに住んでると思う』
『この前そっちに遊びにいった帰りに見かけたから』
『柏木が気にするような人なんているんだな』
『そうかな』
『そうだよ いつも誰にでもどうでも良さげじゃん』
『失礼だな』
『本当のことだろ』
『また会いたいな』
『こっち来る?今日 部活休みなんだ』
『了解 直ぐ行く』
柏木は飛び出すように左代の屋敷を出た。
「早かったな」
夕霧が柏木を部屋へと迎え入れる。
「当たり前だ、夕霧が家からいなくなってから話し相手がいないからさ。走ってきた」
柏木の額にはうっすら汗が滲んでいた。
「柏木が走るなんてめずらしいな」
運動系があまり得意ではない柏木に夕霧が皮肉った。
柏木は近江の話を夕霧に詳しく話すと、スッキリしたように一息ついた。
「久しぶりに聞かせてよ」
夕霧が柏木に頼むと、柏木がバッグからある物を取り出した。
コンコン。
「夕霧君、鬘です。里華さんに飲み物持って行くように頼まれたんだけど、良いかな」
鬘が夕霧の部屋のドアをノックした。
「今開けます」
夕霧が部屋のドアを開けた。
「ありがとう」
鬘が夕霧に微笑んだ。
「貴方は」
柏木が驚きと喜びが入り混じった顔で鬘を見ていた。
「君はこの間の」
柏木を見とめた鬘も目を見開いた。
「二人は従兄弟なんだ。兄弟みたいに仲良いんだね」
夕霧に説明された鬘が羨ましそうに顔を綻ばせる。柏木は無言のまま緊張していた。
「柏木も何か話せば?会いたかったんだろ」
夕霧が柏木に振ると鬘と目の合った柏木が赤面した。借りてきた猫のように大人しく何も言えない柏木に鬘が柏木が握りしめている物に目を向けた。
「柏木君が持っているのは何?横笛?」
鬘が無邪気に話しかける。
「ひ、【篳篥】(Hichiriki)。雅楽で使う管楽器。雅楽は」
大人しかった柏木が饒舌に説明し始めた。
「神社や寺院で行われる奉納行事や結婚式なんかでよく演奏されています。父の知り合いに雅楽師がいて、その人の影響で何となく始めたんです。雅楽と聞けば【笙】(Syou)、【竜笛】(Ryuteki)、【篳篥】(Hichiriki)、【能管】(Noukan)、【琵琶】(Biwa)なんかを連想すると思いますが僕が今日持ってきたのは篳篥です。とても壮大で癒される音色です」
ここまで説明した柏木がぽかんとする鬘にようやく気がついた。
「あ、すみません僕」
「柏木、急にそんなに一気に言うから鬘さんが驚いてるぞ。論より証拠、聞かせてやれよ。僕も久しぶりに聞きたい」
夕霧が鬘のために柏木に演奏する事を勧めた。
柏木が篳篥を吹き始めた。
(なんて素敵な音色。そしてこの二人、本当に兄弟のよう。うらやましいな。僕にもこんな弟がいたら)
柏木の篳篥を聞きながら鬘は家族への憧れを強くした。
冷泉は間もなく十八歳を向かえようとしていた。
「くすぐったいじゃない。あんまり触らないで。今日はもうお終いよ」
凛は冷泉を気にかけ宮内の屋敷をたびたび訪れていた。そしていつしか二人は後男女の関係になっていた。(絵合)
十八歳になると冷泉は大学に通いながら本社での研修が始まることが決まっていた。
「僕が本社で研修を受けるようになったら凛さんに毎日会えるよね。そしたら僕は毎日凛さんのこの部屋に来れるかな」
冷泉が待ちきれずに凛に提案する。
「私は残業もあるしCOOの秘書なのよ。毎日なんて無理よ」
凛が遠まわしに否定する。
「じゃあ、僕が凛さんと結婚すれば一緒にいられるよね」
冷泉の口から結婚が出た凛が少なからず動揺した。
「そう、結婚。僕と結婚してよ。そしてたくさん子供作ってさ」
冷泉が夢を語る。うれしいはずの凛の表情がわずかに翳った。
「私は冷泉君より九歳も年上なのよ。それに、COOが許さないわ、きっと」
悲観的な発言をした凛に冷泉が勢いよく起き上がり凜に圧し掛かった。
「今日はもうお終いって」
「嫌だ。結婚するって言うまで止めない。いっそ子供を先に作ればヒカルだって認めざるを得ないよ」
冷泉は半ば強引に凛を抱いた。
冷泉が帰った部屋で素肌に長めのシャツを纏っただけの凛がキッチンのダクトの下でタバコを吸う。
(冷泉君の気持ちはうれしい。でも私はどうしても結婚が幸せの全ての形ではない気がするの)
凛は父である雅を思う。
(雅ちゃんはずっと日陰の女だった。その血を引く私もきっと同じ道を辿るような気がしてならない)
「あっ」
凛が小さく悲鳴を上げた。
(最後にシタ時だわ)
凛の太股を冷泉の出した精液が伝い降りる。
(どうしよう。結婚はどうしても考えられない。でも冷泉君の求めを拒むことはできない。冷泉君のことが好きだから)
凛は有給休暇を申請し、翌日欠勤するとある場所の前で足を止めた。そこは産婦人科だった。凛は迷いなくその中へ入る。凛は避妊手術を受ることにしたのだった。
「隣、いい?」
不意に掛けられた声が自分に向けてのこととは思いもよらない慧が先週のノートの内容を復習したまま気がつかないでいた。
「ねえ、明石君ってばここいい?」
名前を呼ばれたことでハッとした慧が声のするほうへ視線を向けた。
「ごめっ、気がつかなくて。どうぞ」
慧が慌てて隣の席につく事を了承した。
(綺麗な男の子)
それが慧の第一印象だった。慧より頭一つ分低い身長、透き通る肌、くりっとした丸い瞳と同じくらい栗色の、肩まで伸びたふわふわな髪。
「ようやく話しかけられた。僕は【ミカエラ クリスティーヌ】。ママンがカナダ系のハーフなんだ。ミカって呼んで」
ミカと名乗った人物は慧の選択科目の授業では見かけない人物だった。
「あれ?もしかして僕のこと知らない、みたいだね。美男子コンテストに僕も出たんだ。あれで僕の知名度、上がったと思っていたんだけど」
ミカは意外そうな表情を浮かべた。
「ごめん。僕、見に行ってないから」
慧が申し訳なさそうに俯いた。
「あ、いいのいいの。っていうかさ、美男子コンテストのポスター、ほんとに見なかったの?男子部門も?結構イケてる奴いたよ」
ミカが小首を傾げて慧をみる。その仕草に慧がドキリとした。
「女子部門でグランプリだったでしょ、明石君。女子部門の二位だったんだ、僕。小悪魔風のコンセプト、イケると思ってたのに残念」
ミカが悔しそうにウィンクすると慧が思わず頬を染めた。
「みんなが皇子って呼ぶのわかるな」
ミカがしみじみと慧を品定めするように見た。
「背もすらっとしてて手足も細くて長いし、整った顔で小顔だし。僕と正反対。僕、小柄だし、女顔だし」
ぶつぶつと不満を言うミカに、ヒカルから痩せすぎだと言われる慧が自分の体を恥ずかしく感じ、ミカの小柄ではあるが健康そうな体型にうらやましく思った。
「良かったら友達になろうよ。ねえ、僕も皇子って呼んでいい?」
慧が一瞬目を見開き、嬉しそうにはにかんだ。
「友達に皇子と呼ばれるのはちょっと。慧でいいです」
慧が友情の証に右手を指したした。
「よろしくね、慧」
ミカが小悪魔風の笑みを浮かべた。
「浅賀助教授、これ」
五、六人の女子学生が浅賀を取り囲んで綺麗にラッピングされた包みを次々に渡す。
「お誕生日おめでとうございます」
女子学生から祝いの言葉を贈られた浅賀が礼汰には見せたことのない笑みで女子学生たちと談笑する。
浅賀の車で登校した礼汰が待ち構えていた女子学生の勢いに助手席から下りられずにその光景を車内から見ながら胸の内のモヤモヤとした何かに支配されていた。
(俺にはあんな笑顔見せないくせに。デレデレしやがって)
礼汰は悶々時が過ぎるのを待つのだった。
「どうしました?」
その日の帰り、礼汰の様子に気がついた浅賀が礼汰に尋ねた。
「別に」
横を向いてしまった礼汰に浅賀はそれ以上何も言わなかった。
「お帰りなさいませ」
いつものようにメイド達が頭を下げて二人を迎えた。
四人で食事を取り、いつもは真っ直ぐ応接間へと向かうのだが、浅賀は礼汰に階段付近で待っているようにと伝え、忠臣と一臣には応接間で待つようにと指示を出した。
浅賀は礼汰を二階の寝室へと礼汰を誘った。
「今日はシないのかよ」
帰宅すると礼汰は毎日、忠臣と一臣の相手をして満足させていた。そしてその後で体の疼きを浅賀に鎮めてもらうかのように体を重ねていた。
「今夜はストッパー、使わないでおきましょうか」
浅賀の言うストッパーとは初めて忠臣と一臣の相手をした時に礼汰の早漏対策として使用した小さな球体に軸が付いた物体を指していた。
「あれがなきゃ俺は」
礼汰の顔に不安の色が滲み出る。
「大丈夫ですよ」
浅賀は礼汰の衣服を脱がせてベッドに礼汰の体を横たえさせ尻に舌を伸ばす。
「ちょ、せんせい」
礼汰が動揺したが浅賀は唾液で塗らしながらやや性急に解す。
「挿入れるよ、礼汰」
体を重ねるときだけ浅賀は礼汰を名前で呼ぶ。背後から抱き締められる礼汰がコクリと頷いた。
「ん、んんっ」
いつも受け入れてはいても浅賀のサイズに礼汰が時折息を詰める。全てを収めた浅賀は礼汰のペニスに手を添えた。
「先生、だめ。直ぐ出ちゃう」
礼汰が慌てて浅賀を制す。
「大丈夫。私の手ではなく礼汰の中の私に集中して」
浅賀がゆっくりとピストン運動を開始する。
「そう、いい子。もっと私を意識して締め付けて」
浅賀の言葉に礼汰が括約筋に力を入れる。
「そう、上手。もっとだよ。礼汰ならできるよね」
浅賀は礼汰を励ましながら礼汰のペニスをゆるゆると擦る。
「んああっ」
擦られる刺激に礼汰が声を上げた。
「もっと礼汰に締め付けられたいな」
色気のある口調で浅賀は礼汰の意識をペニスから外させるように語りかけると礼汰の中がキュンと締まる。礼汰は浅賀の言葉に従って必死に中へと意識を飛ばした。
「ん、んっ」
礼汰がシーツを握り締めながら耐えているが、堪え切れずに僅かずつ礼汰のペニスから精液が滲み出る。
「少し激しくするよ、礼汰」
浅賀はピストン運動を加速させる。礼汰は歯を食いしばって浅賀の言うとおり括約筋を絞め続けるが、やはり精液は漏れ続けた。
「これくらいで十分かな」
浅賀は精液が漏れ出ない事を確認すると一旦動きを止め、手に付いた礼汰の精液を舐めとった。
「礼汰にしがみ付かれたいな」
浅賀は繋がったまま礼汰の体を仰向けにさせて、じっと見つめた。ドキンと礼汰の心臓が跳ねた。
「ふふっ、礼汰もだね」
キュンと礼汰の括約筋が締まったことで浅賀には筒抜けの礼汰が照れ隠しのように浅賀の首に両腕を回した。
「このまま下に行くよ」
浅賀が軽々と礼汰を持ち上ると礼汰が両足を浅賀の体に巻きつけた。浅賀は礼汰と繋がったまま階下の応接間へと向かった。
「遅―い」
忠臣と一臣は既に全裸で臨戦態勢になっていた。ソファに座った浅賀は自らを追い込むようにピストン運動を早める。
「何だよ、見せ付けるために来たのかよ」
一臣が二人の抱き合う姿に頬を膨らませた。
「準備していたんですよ」
浅賀は礼汰の項を押さえると礼汰の唇に自らのそれを重ねた。
「ん、んんっ、んん」
礼汰の鼻音が抜ける。浅賀は礼汰を開放に導くことなく一人で精を解き放った。
「礼汰、気持ちいい」
浅賀が礼汰にキスをした。
「臣様に接吻されるなんて、うらやましいです」
下肢も口内も浅賀を深く受け入れる礼汰の姿に忠臣が腿を擦り合せながら凝視する。
「あの雌どもを啼かせてあげなさい。でも私が礼汰の中に出した物は溢さないでくださいね。上手にできたらご褒美、あげます」
浅賀は礼汰に任務を言い渡した。
それから礼汰は忠臣と一臣の二人を相手に抱き続けた。
『あの雌ども』浅賀の最後の言葉が礼汰の頭にリフレインする。
(くそっ)
朝の浅賀と女子学生の光景を思いだし、礼汰は心の中で舌を打った。礼汰はその光景を思い出すたび胸の中でモヤモヤからドロドロに変化したものが這い回り、二人を抱き続けるごとに浅賀の出した精液が礼汰の体を別の欲望へと引きずり込む。
(くそっ)
礼汰は雑念を振り払うように一心不乱に二人を抱いた。
「もう、十分でしょう」
浅賀に止められるまで礼汰は意識が飛んでいた。忠臣と一臣は既に完全に落ちていた。
「ストッパー、いらなかったでしょう」
浅賀がしたり顔で礼汰に微笑んだ。礼汰は心も体の疼きも限界に達していた。
「何だよ、朝のあれ。女たちにへらへら笑いやがって」
礼汰が浅賀のスーツの襟を掴んだ。
「俺にはあんな風に笑ったことないくせに。俺のこと好きだって言ったくせに。胸糞悪い」
礼汰の剣幕に驚いた浅賀が次の瞬間、驚くほど満ち足りたように微笑んだ。
「やきもち、焼いてくれたんですか?」
浅賀は礼汰を抱き締めた。
「俺は怒っているんだからな」
礼汰の剣幕はちょっとやそっとでは収まりそうになかった。
「私たちの寝室へ行って話しましょう」
浅賀は礼汰を横抱きにすると足早に寝室へと向かった。怒りを露わにしながらも素直に礼汰が浅賀にしがみついた。
「俺はまだ怒ってるんだからな。誕生日ならそういえよ。俺だけ知らないなんて恋人失格じゃん。それに何でいつもあんたばかりちゃんと服着てるんだよ」
ベッドの上で礼汰が一人怒りを浅賀にぶつける。
「あまり人前で素裸を晒したくないんです。だから君の前でしか服は脱がないようにしているんです」
シュルシュルと浅賀がネクタイを外し、さっさと服を脱ぎ捨てた。
「これでいいですか」
浅賀が極上の笑みを礼汰に向ける。
「そんなんでだまされないからな」
浅賀の美しい肉体美に礼汰が頬を染めながら浅賀の目を見つめる。
「それと、訂正があります。朝の私の顔は社交辞令です。要するに作り物。どうでもいい相手にだけあの顔を見せるんです。君に見せる筈ないでしょう」
浅賀は礼汰が特別だと説明した。
「でも誕生日だって教えてくれたっていいだろ」
半ば怒りのボルテージの下がった礼汰が浅賀を問い詰めた。
「だって私は君よりも年上なんですよ。それなのにまた年をとるなんて言いたくはなかったんですよ」
浅賀が顰め面をした。
「お怒りは解けましたか」
礼汰の向かい側に座る浅賀が礼汰の顔色を伺うように覗き込んだ。
「あんたは、もう俺のもんなんだよな」
礼汰が確認するように浅賀に尋ねる。
「そうですよ。私は君の物。そして君は私の物です」
浅賀がにっこりと微笑んだ。
「痛いじゃないですか」
「これで許してやる」
礼汰が浅賀の首筋に思い切り噛み付いたのだった。
「本当に情熱的ですね、君は」
首筋を擦りながら浅賀が礼汰ににじり寄る。
「抱きたい。抱かせて、礼汰」
色気のある声で浅賀が礼汰を誘う。
「もっと私に礼汰の物っていう所有印、付けてください」
浅賀の誘いに礼汰は「望むところ」と啖呵を切ると何度も浅賀の首筋に吸い付いた。
「あんっ」
礼汰が浅賀に正常位で挿入されたと同時に射精した。
「挿入れただけで出すほど我慢できなかったの、礼汰」
浅賀が礼汰の言葉を待たずにピストン運動を開始した。とっさに礼汰が浅賀にしがみつくと礼汰からは忠臣と一臣を責め立てた雄の姿が掻き消える。
「だって、あん、ずっと、我慢あっ」
浅賀の揺さぶりに礼汰が途切れ途切れに口を開く。
「結婚しよう、礼汰」
浅賀がピストン運動しながらプロポーズした。
「する。先生、する」
礼汰が熱に浮かされながら合意した。
「なら、ご両親にご挨拶にいきましょう」
浅賀が礼汰の言質を求める。
「いく、イク」
どちらとも取れない礼汰の返事に浅賀がにやりとした。
「イきたいときはどうするの」
浅賀は礼汰を責めながら礼汰の言葉を待つ。
「おみ、ひで、おみ。ひでおみい」
礼汰が切なく浅賀の名を呼んだ。
「かわいいな」
浅賀は礼汰をイカせると自らも精を解き放った。
浅賀がそのまま礼汰の唇に喰らいつく。礼汰の口内を堪能しながら再びピストン運動を再び開始する。
「礼汰、気持ちいい?クリ触ろうか?」
キスの合間に浅賀が確認のように何度も礼汰に問いかけると、礼汰も「クリ、や。せんせ、のだけがいい」とうわ言のように繰り返し、ひたすらに浅賀を求める。
「ここからはノンストップですよ」
浅賀は礼汰を高みへと押し上げる。浅賀の猛攻に礼汰も離すまいと浅賀にしがみ付く。浅賀は礼汰に深いキスを与えながら礼汰の体ごと起き上がり、下から突き上げる。
「秀臣、ひでおみぃ」
キスの途中で礼汰が浅賀の名を呼ぶたび奥を振るわせるが、浅賀は有言実行とばかりに礼汰の奥を抉る。浅賀が妖しい腰つきで礼汰を翻弄しながらも礼汰を悦ばせた。
次の朝。
「ご両親にいつご挨拶に伺いましょうか」
浅賀の腕枕で目覚めた礼汰に浅賀は開口一番に聞いた。
「ぇ?ほんとに行くの?」
礼汰がうーんと唸る。
「大丈夫ですよ、ご両親には奥尻君が我が社に就職が決まったとご報告するだけです。実質、私にとっては永久就職と言う意味合いですからきちんとご挨拶しておきたいだけです」
浅賀の言葉にホッとした礼汰が日取りを段取ることになった。
「それと、パスポートは持っていますか?」
浅賀は礼汰に唐突に聞いた。
「パスポート?ないよ、俺、家族と国内旅行しかしたことないから」
礼汰は極普通の返答を返し、浅賀のほうに向くとギョッと目を見開いた。
「頼むから隠してくれよ」
キッチリとスーツを着こなした浅賀のワイシャツの襟では隠し切れない無数のキスマークと鮮明な歯形に、礼汰があたふたとするが、浅賀は一向に介さなかった。
大学へ着くまで、ついてなお恥ずかしさに俯き席に着く礼汰に友人が話しかけた。
「おはよう、どうした?顔、赤くね?もしかして風邪か?」
礼汰は何と返そうかと考えていたその時。
「「「「キャーッ。何よ、アレ」」」」
女子学生の悲鳴とざわつきが教室に鳴り響く。浅賀が講義のために入ってきたのだった。
「助教授、あの、それは」
一人の女子学生が代表して浅賀に質問した。
「これのことですか?」
昨晩を思い出したように首筋に触れ、浅賀が隠すことなくみんなの前で告白した。
「実は昨日の私の誕生日に私の恋人が付けてくれたんです。それはもうベッドの中で情熱的に私を求めてくれまして」
浅賀が赤裸々に語る。
「「「「いやーーーーっ」」」」
女子学生が不満の声を一斉に上げた。
「ですから、結婚することにしました。ご両親にも紹介してくださると今朝、私の腕の中で可愛らしく約束してくれましたから」
浅賀のはにかんだ様子にその場にいた礼汰以外の男子学生が(浅賀助教授がデレた)と思い、女子学生は嘆き悲しんだ。
(何が情熱的にだ、何が可愛くだ。話を盛るなよ)
「確かに浅賀助教授はモテるけどさ。すげーよな、くっきり歯形だぜ。どんだけ独占欲ある女だよ」
隣にいた学友の感心したような呟きに礼汰だけがますます顔を赤らめさせていた。
朱雀の退院の日が決まった。迎えに来ると言う弘子の主張を押し切り朱雀は月夜と二人きりでマンションへと向かった。
鍵を開けて二人は中へ入った。月夜は靴を脱ぎさっさと奥へと入っていくが朱雀は靴を脱ぐ事を躊躇っていた。
「何で入ってこないんだよ」
朱雀の姿が見えないため月夜が玄関に戻ってきた。
「本当に後悔しませんよね」
朱雀が悲痛な面持ちで月夜を見つめる。段差のせいで二人の目線は同じだった。
「ばか朱雀。お前そんなに悲観的なタイプだったか?さっさと入れ」
月夜に促され朱雀が静かに靴を脱いだ。
ハウスクリーニングで何事もなかったかのような静寂に包まれたリビングに朱雀が月夜の惨事を思い出す。
「月夜さん、私は貴方を苦しめてはいないですか?あの時は私を助けるためにやさしい嘘を付いてくれたのではないですか?」
重くるしい空気を醸し出し朱雀は目が覚めてからずっと心に秘めていた事を問いただす。
「お前、ほんとばかだな」
あっけらかんとした調子で月夜が朱雀を呆れた目で見つめる。
「でも」
なおも朱雀が納得のいかない表情を浮かべる。
「僕が辛かったのはお前に捨てられたと思ってたからだ。あれだけ毎日愛してるだのなんだの言ってたお前に、ろくに説明もなく結婚するからって出て行かれたら、流石の僕だってお前に愛想尽かされたんだって思うだろ」
月夜の言葉に朱雀が神妙な面持ちで耳を傾ける。
「でも、栖美香さんに全部聞いた。父さんのこと。だからお前は僕より苦しんだんだろうなって思ったらさ、あんなのどうでもいいよ。こうしてお前は生きてここにいる。僕の前に立ってる。それだけでもう、いいんだ」
月夜が晴れやかに微笑を浮かべた。
「抱き締めても、いいですか?」
朱雀が月夜に質問する。
「いいよ」
月夜が両手を朱雀に伸ばすと朱雀は月夜を抱擁した。
「キス、してもいいですか?」
朱雀がまたしても質問する。
「ああ、お前がいなかった分もしていいから」
朱雀は恐る恐る月夜に口付ける。触れるだけのキスに焦れたように月夜が朱雀の口を割ろうと舌を伸ばすと朱雀もそれを受け入れる。月夜が朱雀の頬を両手で包むと朱雀が月夜の肩に手を回して月夜の身長差による負担を軽減する。朱雀も月夜も久しぶりの熱を補充するように互いの舌を絡ませる。朱雀が顔の角度を何度も変えながら月夜の舌を吸うと、月夜も負けじと舌先を伸ばす。月夜の舌の付け根を朱雀の舌先が擽ると溢れた唾液を月夜が嚥下した。
かれこれ十分以上も二人はキスに没頭していた。
カクンと月夜の腰が抜けると朱雀がもう片方の手で月夜の尻を鷲掴みした。朱雀が月夜の尻を揉みしだくと互いのペニスに芯が通り始める。
「エロ朱雀が一人で我慢できたのかよ」
ようやく唇の離れた月夜が朱雀を皮肉った。
「エッチな貴方は我慢できずに誰かと寝た?」
そこまで口にした朱雀が罰の悪そうに目を逸らした。
「すみません。私にはそんなこと言う資格はないですよね」
辛そうに目を背けた朱雀の顔を月夜がガシッと掴んだ。
「そう思うなら確かめてみろよ」
月夜の挑発する視線に目の奥で炎の灯った朱雀が月夜のジーンズを脱がせると月夜も朱雀のスラックスのベルト、ボタンを外しジッパーを下げた。ストンとその場に落ちたスラックスを邪魔だと言わんばかりに朱雀が足で蹴り飛ばす。
朱雀は再び月夜の唇に喰らいつき、月夜のビキニの中に両手を突っ込んで尻を揉む。月夜も朱雀の下着からはみ出るペニスを伯仲の元に晒し両手を使って朱雀のペニスのあちらこちらを弄る。
「キツイ。もう少し緩めてください」
朱雀の指の進入を硬く拒む月夜にキスの合間に呟く。
「無理だって。誰ともシてない」
月夜が息も絶え絶えに答える。
「お前こそもう出そうじゃないか。抜かなかったのか、これ?向こうで」
月夜が切り返す。
「自分では、抜きません、んっ、でした」
朱雀が顎を上げて呻いた。月夜が朱雀の肩を押した。
「じゃあどうやって抜いてたんだよ。一人でシないならお前が我慢できるわけないだろ」
月夜が非難めいた言葉を朱雀にぶつける。
「夢精、です」
朱雀が顔を真っ赤にさせてごにょごにょと白状した。
「貴方が夢に出てくると決まって夢精していて」
朱雀の告白に月夜もまた顔を赤らめさせた。
「なんだよ、それ。
お互い久しぶりなんだから、ちゃんと抱いてよ、朱雀」
クールダウンした月夜が朱雀をベッドに誘った。
「朱雀、お前のデカ過ぎ。一回抜けよ」
時間を掛けて尻を解されても朱雀のペニスを全て受け入れるには程遠かった。後ろからのほうが楽だろうと挿入を試みたが亀頭が入ったところでなかなか先へは進まない。
「月夜さんが力抜いてくれればもう少し」
朱雀もキツさに顔を顰める。
「一回出しましょう」
朱雀が月夜のペニスを右手で、自分のペニスのはみ出た部分を左手で扱く。
「う、あ、あん」
月夜が次第に艶声を上げ始める。
「朱雀、もう出そう」
月夜が先に精を放つ。月夜の精液でヌルつく手で朱雀が月夜のペニスをゆるゆると扱き続ける。
「あんあ、ああん」
月夜の喘ぎに朱雀のペニスが質量を増した。
「あん、だからデカくすんな」
月夜の非難を受けながら朱雀が月夜の中で精を解き放った。
「やはり一回では萎えないな」
朱雀が独り言を呟いた。
「この絶倫朱雀」
月夜は朱雀に悪態をつきながらも体の力を抜くことに専念した。
「大体、挿入りました」
朱雀が月夜を後ろから抱きしめごろんと横になった。
「貴方の中が私を思い出すまでこのまま待ちます」
朱雀の腕枕に体を預ける月夜が、朱雀のやさしさにときめいた。
「でもいたずらはしますよ」
朱雀は腕枕とは別の手で月夜の体のあちこちにある性感帯のうちの一つであるペニスに手を伸ばした。
「あっ、そこはだめ」
月夜が触った瞬間にとっさに朱雀の手を引き剥がした。
「じゃあ、ここ」
朱雀は月夜の乳首を指で弾く。
「あぅ、そこもだめ」
またしても月夜に阻まれ朱雀がシュンと凹んだ。
「僕の体、今おかしいんだ。朱雀のことが愛しいと自覚してからお前に触れられることばかり考えて、一人で弄ってたら感度が上がっちゃって」
慰めるように月夜が白状した。
「でもお尻はキツいですよ」
朱雀が身を少し起して月夜の顔を覗きこむと、月夜が隠すように両手で覆った。月夜は耳まで赤くなっていた。
「お尻は触らなかったんですか?貴方の一番好きな所でしょ?」
朱雀が畳み掛けるように問いかける。
「だって、そこはお前の、だから」
消え入る程の小声で月夜が恥ずかしそうに呟いた。
「だから今デカくすんな」
朱雀の興奮がペニスに直結し月夜が朱雀を窘める。
「すみません。無理です」
朱雀が月夜の腰に腕を回してゆさゆさと揺さぶり始める。
「あん、あ、ああん、すざ」
月夜の静止も聞かず朱雀が馴染ませるように腰を燻らす。喘ぐ月夜の声を聞きながら朱雀は集中するかのように目を閉じた。
「あ、あ、朱雀、朱雀」
月夜の生の声に朱雀は徐徐に大きく腰をうねらせる。
「貴方も気持ちいいですよね。中が吸い付くように私を包んで。ああ、月夜さんだ。私の愛しい人」
朱雀は二年半ぶりの月夜との逢瀬に浸る。
「あ、朱雀、あん、イキたい」
月夜が朱雀の腕に縋りつく。
「中でイケそう。それともこっち?」
朱雀が月夜のペニスを包み込んだ。
「やあーー」
月夜のペニスが精子を飛ばした。
「ばか朱雀。せっかくドライでイけそうだったのに」
ぷりぷりと怒る月夜に朱雀は「すみません」と謝った。
「まだスルだろ。今度はお前のでちゃんとイかせろ」
月夜が背中で恐縮する朱雀に向かって強気に強請ると朱雀が「任せてください」とベッドサイドからジェルを取り出した。
「まだあったんですね」
それは朱雀が出て行くまで愛用していたジェルだった。朱雀はいったん月夜から離れると月夜の中にたっぷりと絞りだし、正面から月夜に挿入した。月夜の両足がベッドに付くほど開脚させ、朱雀が下肢を打ちつける。朱雀が中を我が物顔で抉るたびジェルが内部に行き渡る。その滑りを借りながら朱雀は大胆に下肢を打ち月夜の中で自分を誇示した。グュチュグチュと二人の接合部が艶かしく音を立てる。
「ようやく馴染みましたね。奥に挿入ります」
朱雀が今まで入り切らなかった残りを押し込み始める。
「朱雀、くるしい」
月夜が弱音を吐くが朱雀は「もう少しですから」と譲らなかった。
「あ、入った」
体の奥が朱雀を迎え入れた事を月夜は知った。朱雀もまた体の一部が月夜の奥を抉じ開けた事を感じ取った。
「お前だ。本当にお前だ」
二年半ぶりに一番欲しかったパーツを手に入れた月夜が感極まって泣き出した。朱雀が身をかがめて月夜にキスを落とす。
チュッ、チュッ。
朱雀は月夜が泣きやむようにキスをする。それが痛いほどに肌で感じられ、常にいかなる時も月夜を優先する朱雀に月夜は涙が止まらなかった。
「もう、いいから。お前だってそろそろ限界だろ」
月夜が泣き笑いした。それでも月夜を案じる朱雀がキスをしようとすると月夜は朱雀の首と背中に腕を回した。
「僕がイきたいんだってば。離れてた分、取り戻そう」
月夜の言葉を合図に朱雀は月夜の奥を遠慮なく突き上げる。
「あ、あん、あ、あ」
朱雀の耳元で喘ぎながら涙を流す月夜に朱雀は何度も「愛してる」と囁く。朱雀は月夜の受けた心の傷が癒えるように願いながら自らの快楽を放棄して下肢を動かす。
「あ、イク、イク」
月夜の声のトーンが上がった。朱雀は月夜のドライの兆候を見逃すことなく昇天させた。久しぶりのドライに月夜が意識を手放すと朱雀はまだ硬いままのペニスを抜き、ティッシュで拭うと月夜の頭を胸に抱きながら眠りについた。
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