現代版 曲解【源氏物語】

伊織 蒼司

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【乙女】Otome

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「お前のそれは、お前には過ぎたる物。間違って使わぬようわたしが直々に仕込んでやろう」


「止めて、止めて。僕に触らないで」
慧が大声を張り上げて飛び起きた。目を見開き、荒い呼吸を繰り返す慧の視界には、暗闇が広がっていた。

「どうした?」
隣で眠っていたヒカルが無理やり覚醒させられたことに僅かながらに不機嫌さを表す。
「すみません」
慧がヒカルに謝りながら、額の汗を拭った。
「何か、心配ごとでもあるのか?」
ヒカルはただならぬ様子の慧を案じて声を掛けた。
「い、いえ。何でもありません。ちょっと昔を思い出しただけです」
慧がヒカルに心配を掛けさせぬよう平静を装った。


「可愛い」
亜衣を一目見た紫上が目を輝かせてヒカルの元へと駆け寄った。

亜衣のすべすべとした頬におそるおそる手を伸ばし、そっと触れた。
「うわあ、柔らかい」
紫上が顔をくしゃくしゃにしながら亜衣を見る。人見知りのない亜衣は紫上に無邪気に笑い掛けた。ヒカルが亜衣をフローリングの上に下ろすと紫上がすぐさましゃがみ亜衣と目線を同じくした。

「お名前は?」
紫上が亜衣に話しかけると亜衣は「みやうち あい」とたどたどしく答えた。
「お名前、言えるんだね。えらいね。なんさいですか?」
「しゃんしゃい」
亜衣が指を三本立てて紫上に伝えると、紫上が感動したように再び目を輝かせた。すっかり亜衣の虜になった紫上は亜衣の世話に明け暮れるようになっていった。そして亜衣に夢中になっている紫上が、ヒカルとの性生活に支障をきたすまでには長い時間はかからなかった。一緒のベッドで眠る亜衣の直ぐそばではそんな気になれないと言い出した紫上の為に、もう一つ購入しようと提案したヒカルに、紫上は亜衣が一人で眠ることができるまで、ヒカルと寝室を別にすると言い出したのだった。紫上のいない寝室に毎夜眠るヒカルが、慧のもとに入り浸るようになるのは当然の結果だった。
ヒカルは週の半分以上も慧のマンションから出社していた。


「話せ」
暗闇に、ヒカルの声が静かに響いた。
「え?」
一瞬、慧が聞き返した。
「話せ、と言っている」
寝起きの悪さと、聞き返されたことにより、先ほどよりもヒカルの声に凄みが増した。
「あ、え、はい。すみません」
慧が口ごもりながら過去の話をし始めた。

「僕が加納の性奴隷だったことはお話しましたよね。
母の紹介で加納に初めて合った時、僕は加納の僕に対する視線に無意識に怯えました。値踏みするような、何か思惑があるような、そんな視線に。ですから、一緒に暮らし始めても僕は心を許しませんでした。それだけじゃありません。加納と二人きりにならないように、話しさえなるべくしないようにしていたほど警戒してました。
そんな時、あの悪夢のような出来事が起きました。いいえ、始まりました。その夜は、母が会社の慰安旅行で不在の日でした。とても、静かな夜でした。

部屋で姉と二人で眠っていた僕は、姉の悲鳴で起きました。そのとき目にしたのはお腹をおさえて泣きじゃくる姉の姿でした。僕はとっさに姉を守らなくては、そう思って加納に立ち向かいました。でも、まだ十歳だった僕にはどうすることも出来ず、僕は加納に組み伏せられました。そしてあろう事か姉に僕の両腕を押さえつけるように命じたのです。加納に暴力を振るわれた姉が、抵抗できるはずもなく、僕は姉に上半身の自由を奪われました。

その時に、加納に言われたのです。
「お前の体は極上の商品になる。わたしには金の匂いがわかるのだ。だが、お前のそれはお前には過ぎたる物だ。間違って使うことがないようにわたしが直々に仕込んでやろう」と。
意味がわかりませんでした、その時は。
加納によって無理やり抉じ開けられた体が軋み、その夜、僕は意識のある限り悲鳴を上げ続け、最後には気絶してしまったので、あの夜の僕の記憶はそこまでです。

その夜以来、母が留守の時には朝でも夜でもお構い無しに僕は加納に犯され続けました。始めは苦痛でしかなかった行為に、次第に体が順応し始めたことに僕はただただ恐怖しました。でも、体は僕の意思とは無関係に加納の思惑通りに開花しました。精通すらしていなかった僕は、精通する前にドライオーガスムを覚えさせられました。

加納の狙いは僕の体を商品として扱うことだったんです。男の人専門の娼婦に。その為に僕が女の人と付き合わないように、付き合ったとしても体が反応しないようにする為に、その為だけに犯し続けたのです。

加納のせいで僕は精通してから一度も自慰をしようとも思わないし、勃起するという感覚すらないんです。僕の体にある男性器は、今はただの排泄器官としてついているだけなんです」
ここまで話した慧がようやく息をしたように肩の力を抜いた。

「だからその排泄器官を加納は過ぎたる物、と言った訳か」
ヒカルが両腕を組み、天井を見上げた。そしておもむろに口を開いた。

「慧」

あまりにも突然に、まして初めて名前を呼ばれた慧が驚きのあまりきょとんとした。

「お前、俺のことが好きだよな」
何の脈絡もなくヒカルが慧に問いかけると、その質問の真意が理解できない慧がおずおずと頷くことで肯定した。

「なら、俺の男になれ。男として、一生俺の女になれ」
静寂に包まれた部屋の空気に溶け込むように穏やかにヒカルが言い放った。質問ではなく、決定事項として。そのまま立ち上がり、寝室の電気をつけたヒカルの行動を、慧は目を見開いたまま見つめていた。

「あん、あっ、だめ、だめ」
後背位でヒカルに責め立てられる慧がヒカルの刻むリズムのままに啼く。
「そこは、誰に触られても、反応しなかった」
言い訳のように慧が喘ぎの合間に言葉を吐きだす。
慧の体が崩れ落ちぬように腰に回されたヒカルの右腕に慧が右手でしがみ付く。そしてジェルをたっぷりと塗られたヒカルの左手の中にある慧の性器から引き剥がそうとするかのように慧が左手を添えた。
リズムを崩すことのないヒカルは、暫くの間、慧の性器を可愛がり続けた。

「あ、あん。熱い。ヒカル君の手、熱い」
次第に慧がひたすらに熱さを訴え始めた。一定のリズムが、慧の奥を突くたびに慧はよく知る快楽に流されそうになるが、ヒカルの手の中にある性器の感触に邪魔され、ドライには至れないでいた。

「俺の熱じゃねえよ、お前のだ。
慧、ちゃんと勃起するじゃねえか。見てみろ」
上から降り注いだヒカルの声に促され、慧が下肢に視線を移す。

「え、あ、や、ああ、ああん」
ヒカルは握っていた左手が慧の性器の裏筋側だけを擦るように移動させ、慧に見せ付ける。
「綺麗な形じゃねえか」
ヒカルがポツリと呟いた。
「綺麗なピンク色、誰の体液にも犯されてねえ証拠だ」
ヒカルは嬉しそうに笑みを浮かべ、未知なる快楽の扉を開けた慧は、喘ぎ声を上げることしかできなかった。

「あん、痛い、痛いよ、ヒカル君」
慧が涙目になりながら上目遣いでヒカルを見た。いったん動きを止めたヒカルが、後ろから覆いかぶさり、慧に言い聞かせるように囁いた。
「始めて勃起したからな、わからねえだろうよ。それが、今に病み付きになる。
童貞を卒業させてやる、慧。俺の手でな」

ヒカルは筒状にした左手を慧の性器の切っ先に宛がうと、ゆっくりと下し始めた。
「や、や」
慧の肩口に顎を乗せるヒカルには、慧が戸惑い、興奮しながらもその光景から目が離せないことを感じていた。
ややきつめに握るヒカルの手の中に、慧の性器が挿入されていく。そして根元に達した頃合を見計らい、ヒカルが握力の加減を調整すると、慧が気持ち良さそうに息を吐いた。

「どうだ、気持ち良いか?」
ヒカルが慧の顔を覗き込むと、目尻を緩ませる慧と目が合った。ヒカルは左手をにぎにぎと、まるで収縮して蠢くようにわざと動かした。
「あん、あん。ヒカル、君」
そのトロンとした眼差しで、答えを聞くまでもなかったヒカルが、そのまま上下に擦り始めた。

「あん、ああん、あん」
初めての感触に慧が喘ぐ。
「これが男の気持ちいい、だ」
ヒカルはゆったりとしたリズムを繰り返す。

「ん、んっ、んっ」
慧が無意識に腰を数度、僅かに突き出して、自ら動こうとした。
「なんだ、男の本能あるじゃねえか。でもそれはだめだ。腰を振るのは俺の仕事だ」
ヒカルに諭され、ヒカルの左手に性器を嬲られながら、慧はひたすらに翻弄されていた。

「あん、熱いよ。僕の性器が弾けそう」
慧が快感に打ちひしがれながらも、僅かながらの不安を零すと、ヒカルがますます手の動きを力強く早くし始めた。

「あん、ヒカル君、弾ける、っ性器、ほんと弾けちゃう」
慧が堰を切ったように啼きながら、快楽のための涙を零す。ヒカルによって与えられる感触が、今まで男娼としての経験を凌駕していた。
「もう少しだ、俺に見られながら出せよ」
ヒカルの左手のラストスパートが、慧を揺さぶり翻弄する。

「壊れる、あん、もう、だ、めっ」
噴水が勢い良く水を押し出す様に慧が射精した。

くたりと力の抜けた慧の体がうつ伏せにベッドへと沈みこむ。

「お前の始めて、見せて貰った。これが俺の男になるってことだ。今度は俺の女になるって事を教えてやる」

「あう、ああっ、んっやん」
慧が初めての射精に浸る暇を与えずに、ヒカルが慧の腰をがっしりと掴んで大きくグラインドを繰り返す。ヒカルが腰を打ち付けるたび、ぐちゅぐちゅとヒカルの出した先走りが卑猥な音を奏でる。腰が打ち付けられるたびに慧は今まで知り得た快楽の限界を超えていた。

「ヒカル君、僕もう、限界。壊れる、中、壊れちゃう」
目尻を染めたままの慧が僅かに顔を横向きにして弱弱しく言い放つ。
「何が限界だ。俺の女になるってのは、こんなもんじゃねえよ。射精した後のドライを知って始めて俺の女になるんだからな」
ヒカルは繋がったまま慧の体を仰向けに回転させると、正常位の慧の両腰の脇に手をついて、またグラインドを繰り返す。
「あ、あ、あぁ、あぁ」
慧が快楽の涙を流しながら成す術もなくヒカルを受け入れる。

「ん、ああーっ」
ヒカルが慧の腰の両脇に置いていた手を潜り込ませると、下から慧の両方の尻たぶを開いて僅かに持ち上げる。下から角度をつけられ、より深くに進入したヒカルに、溜まらずに慧が嬌声を上げた。

「体、柔けえよな」
感心したようにヒカルが呟くが、慧の耳には届かない。
「射精もしたし良い具合に過敏になってるはずだ。前立腺も奥も思う存分味わえ」
小刻みだが力強い突き上げに、慧は快楽と言う名の大波に揺さぶられ続けた。

「あん、あぁっ、壊れる、中、壊れる」
慧の言葉で終焉を感じ取ったヒカルがスピードを速めた。

「あ、ああっ、だめ、ほんとに壊れちゃう」
慧が首を振りながら唯一動かすことの出来ない下肢以外を動かしながら快楽を逃がそうとしていた。

「遠慮なく壊れろ」
ヒカルの言葉に呼応するように慧が咆哮をあげながらドライオーガスムで達した。

ヒカルがようやく慧の中で果てた。

「まだ、終わりじゃねえからな」
ヒカルが快楽の大海原を漂っている慧に向って言い放つ。焦点の合わない目でヒカルを見る慧は初めてヒカルの所有物として抱かれると言うことを知った。
ドバイにいた時は愛美へのけん制の為にヒカルは慧を抱いていた。日本に戻ってきてからは亜衣を引き取りにきた日までヒカルは慧には指一本も触れず、亜衣の様子を見るだけだった。亜衣を引き取ってからは性欲処理のように体を重ねていた。それは慧に対してヒカルが何の関心も持ってはいないと言うことを表していた。全ては体だけで良いから抱いてほしいと願った慧に対し、亜衣の面倒を見ていたことへの報酬のような物で、愛情ではなかった。慧は亜衣と離れること以上にそのことが辛かった。しかし多くを望んではいけない、僅かでも体だけでも繋がりがあるのならと慧は諦めていたのだった。

「欲しいです。ヒカル君が、もっと欲しいです」
慧の眼から涙が筋となって溢れ出す。
「お前は本当によく泣く。これだから放っとけねえんだよな」
ヒカルはふっと微笑むと慧の体を抱き起こして向かい合わせに座らせそのまま慧が泣き止むのを待つように抱き締めた。

しばらくしても慧は泣き止む様子がなかった。

「おい、慧。俺のがまだお前の中にいるのによくそんなに泣けるな。俺にいつまでもお預け食らわすんじゃねえよ。いい加減、抱かせろ」
業を煮やしたヒカルが慧の体を優しくベッドに下ろすと、そのまま自らは起き上がり慧を見下ろした。
「だって、ひっ、うれ、嬉しくて、ひっ」
慧がしゃくりあげながらも泣き続ける。
「そろそろ泣き止め。どうせ泣くならこっちで啼け」
ヒカルが慧の性器を握り扱き始めると同時に下肢をグラインドさせる。

「ひっ、はぁ、ひっ、んんっ、はぁ、っ」
次第に慧が快感に引き摺られるように吐息をこぼし始める。

「やべえな。ずいぶんと待たされた分、あんま保たねえな」
ヒカルが独り言を呟きながらも自らの快楽を追及しながら慧を快感の高みへと押し上げる。

「んっ、あっんん、あっ、あっ」
慧が右手でシーツを握り締めながら、二箇所から沸き起こる強い刺激に耐えるように浅い呼吸を繰り返す。ヒカルはそんな慧の表情をじっと見つめながら自らも高みを目指す。

「今度は同時に、な」
ヒカルが慧に向って宣言した。
「あっ、んっ、それって、あんっ、どういう」
慧が喘ぎながらもその意味を聞くが、「今にわかる」と、ヒカルは正常位を崩さずに手と下肢の動きを早めた。
ヒカルの真意がわからない慧も、もうそれどころではなくなり、ひたすらにヒカルに与えられる快感に打ちひしがれていく。

「ヒカル君、んあっ、壊れちゃう、もう壊れちゃう」
慧が限界を告げヒカルを呼びながらヒカルに向かって手を伸ばした。
「ああ、俺もだ」
ヒカルが両膝を立て膝立ちすると慧の下肢が自動的に持ち上がる。そのまま慧の性器を握っていない方の手で慧の伸ばされた手を握った。
今まで中だけの刺激でドライしか経験のなかった慧は、今日初めて射精を覚えたため性器へ刺激されると、上手くイクことが出来ないでいた。慧の体が、どちらに反応するべきかがわからなくなったのだった。慧の中で上手く昇華できない快感がマグマのようにひたすらに渦巻いていた。

「同時に、って意味、教えてやる」
ヒカルは全ての動きを止めると下肢をブルリと震わせた。

「んくっ」
ヒカルの表情が僅かに歪む。
「あ、ああ。ヒカル君、射精してるのに、まだ硬い」
慧が体の奥で味わっているように呟いた。
「お前のもすぐに出してやる」
ヒカルが慧の性器を扱くとビュッと勢い良く射精した。慧の吐き出したそれは、慧の首から顎にかけてねっとりと絡みついた。
「残らず出せ」
一度出した慧にヒカルが尚も性器を扱き続けると、今度はピュッ、ピュッと僅かづつ精子が飛び出す。ヒカルがしつこい程に慧の性器を扱いていると、慧の中が蠢き始めた。

「や、ヒカル君、来る、中、なかぁ」
その言葉の意味を体で感じとっているヒカルが両手で慧の腰を掴んだ。慧の中がヒカルの射精を促すように締め付け始めると、ヒカルは小刻みなグラインドで応酬する。二人の攻防はより高め合いながら解放へと一気に加速した。

「あ、ああっ、きちゃう、壊れちゃああーっ」
ついに決着が付いたように二人の動きは止まったが、水面下ではまだ攻防が続いていた。慧の中がヒカルの射精を受けてごくごくと飲み干すように収縮すると、ヒカルが促されるように再び射精する。眼に見えない攻防は繰り返されたが、満足したように慧の中の収縮が納まると同時に、終わりを迎えた。

「ヒカル君、凄かったです。僕、もうほんとに限界」
慧が一気に脱力しながらヒカルに感想を伝えた。
「わかったか、これが男として俺の女になるってことだ。お前の性器は過ぎたる物なんかじゃねえ。加納にとってお前こそが過ぎたる者だ」
ヒカルが慧の上に体を預けた。
「シャワー、浴びるか?洗ってやる」
ヒカルが初めて慧を気遣う言葉をかけた。
「ヒカル君、優しい。なんか、甘い」
ヒカルの体の重みが慧にますます嬉しさを実感させる。
「俺は自分の女には優しいんだ」
ヒカルが真剣な眼差を慧に向けた。
「うれしいんですけど、このまま、ヒカル君の熱を感じたまま眠ってもいいですか?」
頬を染めた慧がはにかんだようにぼそりと漏らした。
「今日はお前の体に負担掛けちまったし、汗で気持ち悪いだろ」
慧はゆっくりと首を振って否定した。
「良いんです。楽しみは明日に取っておきたいですし、この幸せが夢じゃないって実感したいんです。それに、加納にそうされたのか、元々の僕の体がそうなのかはわかりませんけど、僕は精液でお腹を壊すこともないから、お願いします」

その夜、ヒカルは慧を抱き締めたまま眠りについた。


月夜の自傷行為は日に日に過度を増していた。
初めは指先に限っていた行為は今では肘の内側の皮膚の柔らかい場所へと及んでいた。
「いっ」
瞬時に走った痛みに僅かに顔を顰めた月夜が、次の瞬間に満足したように笑みを浮かべながら赤い筋を見ていた。月夜の腕には幾本もの切創が付いていた。月夜はそれを隠す為気温の高い日でも上着は決して脱がなかった。

「今日はエアコンの調子が良くないみたいですので暑かったらジャケット脱いだ方が良いですよ」
ヒカルの秘書の同僚である六条 凛が暑そうにしている月夜に声を掛けた。
「ああ、僕は大丈夫。ジャケット脱いで体が冷えると風邪引きやすいから」
月夜が笑みとともに凛に返した。
「それじゃあ仕方ないですよね。ところで指先の絆創膏が無くなったって事は、料理の腕前が上達したんじゃないですか?」
月夜の絆創膏が無くなった事に凛は触れた。月夜は凛に料理に嵌っていると嘘を付いていたのだった。
「え、ああ。何とか指を切らなくはなったけど、まだまだだよ」
月夜は当たり障りのない返答をした。
「まあ、ご謙遜。いつか月夜さんの手料理の画像、見せてくださいね」
そうと知らない凛は「私は料理ぜんぜんダメだし、する気もないから少し見習わなくちゃ」と苦笑いを浮かべた。


礼汰は浅賀に犯されてから大学を休んでいた。
「今日は水曜日、奥尻君はもう三日も来ませんね」
浅賀が心配したように呟いた。
「化膿してなければいいんですが」
大学の自室にいる浅賀はPCのソフトで礼汰の部屋に仕掛けた監視カメラを覗きながらニヤリと不敵な笑みを浮かべた。その日の講義を終えた朝賀はある場所へと向った。

ピンポーン。
礼汰のアパートのドアチャイムが薄ぐらいワンルームに鳴り響く。その音にベッドの上で蹲っていた礼汰の体がビクッと反応した。

ピンポーン、ピンポーン。
ドアチャイムがなおも鳴り響くが、礼汰は両足を抱き締めながら身を硬くしていた。

「奥尻君、いるのはわかっているんですよ。開けてください。私です、浅賀です」
痺れを切らしたように朝賀は部屋の中にいる礼汰にドア越しで話しかけた。しかし、ドアの内側からは人の気配も近づく様子も無かった。
おやおやと朝賀が溜息を付いた。
「出てこないならこの貧弱なドアをぶち壊しても良いんですよ」
浅賀の良く通る声にやりかねないと畏怖した礼汰は重い足取りでドアを開けた。

「良かったです。心配していたんですよ」
浅賀が爽やかな笑みを湛えながら礼汰の目を見たが、礼汰はとっさに目を逸らした。
「なに、しにきたんですか?」
礼汰が浅賀に冷たく言い放つと「まあまあ、ここではなんですし」と言いながら朝賀が部屋の中へ強引に入った。ドアが閉まったのを確認した朝賀は礼汰の目の前に紙袋を翳した。
「いけませんよ、患部消毒しないと」
その浅賀の言葉に礼汰が体を硬直させた。
「まだ開けたばかりなんですから、消毒は毎日しませんと。化膿でもしたら大変です」
いつもの穏やかな口調で朝賀が心配そうな表情を浮かべた。
礼汰は拳をぎゅっと握ったまま俯くばかりだった。

「さあ、脱いでください」
身動き一つしない礼汰に浅賀はなんでもないことのように促した。
「せいだろ」
礼汰が下を向き、拳を震わせながら何かを口にした。聞き取れなかった朝賀は小首をかしげた。
「あんたが俺を唆したからこんな目にあったんだ。全部あんたのせいだろ」
礼汰が感情のままに一気に叫んだ。
「ああ、そのことですね。ですが君があの男の毒牙にかかるのを助けたのは私です。私が助けにいかなければ君は見知らぬ男に犯されていましたよ」
浅賀のある種の正論に礼汰は「でも」と下唇を噛み締めた。
「では知らない男に雌にされた方が良かったですか?」
「それは、嫌です」
礼汰が浅賀に弱々しく反論した。
「でしょう。君には多少不本意な結果でしょうが私には君に対する愛情があります。男である君の始めては一生君の記憶に残るんです。そんな一大事をこの私が放っておけると思いますか?」
「でも、だからって」
礼汰の目から一筋の苦渋の涙が零れ落ちた。
「恐かったのでしょう?見知らぬ男にされたあの屈辱が。良いんですよ、泣いても」
怜汰をふわりと抱きしめ、優しく諭す浅賀に礼汰はしがみ付いて泣き始めた。朝賀は礼汰の背を擦りながらニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

「さあ、患部を看てあげます」
怜汰が泣き止むのを待った浅賀は礼汰をベッドに座らせた。礼汰が素直にジーンズの前を寛げると朝賀は礼汰をそのまま寝かせた。
「腰、上げてください」
浅賀の言葉に礼汰は素直に腰を浮かせた。朝賀はジーンズと一緒にトランクスも剥ぎ取った。
「良かった。清潔にしていたようですね」
傷口を看た朝賀がほっとしたようにひとりごちた。手の甲で顔を隠しながら礼汰は浅賀の視線を羞恥の中で感じていた。

「先生、あんまり見ないでください」
耐え切れずに礼汰が上ずった声で浅賀に懇願した。
「どうしてですか?可愛らしいですけど」
浅賀の発言に礼汰の頬に朱が指す。朝賀は礼汰の下肢の間に身を置き両手で礼汰の内腿をさわさわと触り始めた。
「ん、んん」
礼汰の息がとたんに上がる。
「ほら君も、君のおちんちんも気持ち良さそうにしてますよ」
浅賀の手で礼汰の下肢がむくむくと反応し始める。
「ん、せんせ、消毒、んんっ」
途切れ途切れに礼汰が荒く息を吐く。
「もちろんしますよ、後でね。でも今はずっしりと重くなっているここの処理の方が先決でしょう?」
浅賀は礼汰の内腿を擦る手を睾丸に伸ばした。たぷたぷと重さを量るような手の平で礼汰の睾丸が揺れる。
「あれから、出していないのでしょう?」
浅賀はそのまま礼汰の睾丸と一体化したペニスの亀頭を口に含んで舐め始めた。
「ああっ」
浅賀は礼汰の尿道口を舌で翻弄しながら唇を使って亀頭全体を食むと、礼汰のペニスがムクムクと成長する。
「や、やぁっ」
「嫌じゃないでしょう?こんなに大きく腫らせて」
浅賀が今度は指先で弄る。
「嘘をついてもわかりますよ。もう濡れてきてますからね」
浅賀は指先を器用に動かして礼汰を快楽の淵へと追い詰める。

「だめ、出る」
礼汰は上半身を揺らめかせながら射精に絶えた。
「いくらなんでも早過ぎです。まだ出したらいけませんよ。一番気持ちよく出させてあげますからね」
再び礼汰の亀頭を咥えた浅賀はビクつくペニスで射精を悟ると礼汰の亀頭から口を離した。あと少しで射精できた礼汰は放り出されじくじくと疼く下肢を持て余し、浅賀を恨めしそうに睨んだ。
「そんな潤んだ目で睨んでも逆効果なんですが。大丈夫ですよ、ちゃんとイカせてあげますから」
浅賀は礼汰に微笑みかけながら、礼汰の尻に指を埋めると、迷うことなく礼汰の前立腺を中から擦りあげた。
「やあ、だめ、そこだめ」
礼汰が何度も首を振りながら快感を逃すが、繋がるために解すのが目的の朝賀は程ほどに追い詰めるだけだった。

「やだ、せんせ、出したい」
礼汰の切望に浅賀が「では、躾の時間ですよ」と気を良くした浅賀が礼汰に挿入すると前立腺を責めてははぐらかす行為を繰り返す浅賀によって、数日前に躾けられた礼汰の体は中途半端に与えられる快感に身もだえするばかりだった。
浅賀は礼汰の痴態を朝賀は満足げに見下ろしていた。いつしか礼汰ははぐらかされる快楽に息も絶え絶えに懇願し始めた。

「せんせ、ちゃんと、お願い、イカせて」
もはや熱に浮かされる礼汰には正常な思考は残ってはいなかった。朝賀がにやりとほくそ笑む。礼汰が自分の腰使いのままに腰をくねらせながら身悶える姿を浅賀はじっと見ながら緩やかにピストン運動を続けるだけだった。
礼汰の限界を感じた浅賀は雄の目で礼汰を見据える。
「では、いいなさい。どういえば良いかは君が知っているでしょう?」
潤んだ目で浅賀を見上げただひたすらに開放を願って口を開きながらも礼汰は後一歩を踏み出せない様だった。
浅賀は礼汰の限界まで根気強く待った。

ついに、その時は訪れた。
「せんせ、のおちんちんで礼汰のこと気持ちよくして、礼汰のクリ、苛めながら、中にいっぱい出してください」
礼汰の屈辱の色を含む言葉に朝賀が口の端を上げた。
「いい子ですね。待ってましたよ、その言葉」
浅賀の欲望が一気に最大化した。
「ああ、はああっ」
浅賀の最大出力の熱に礼汰が恍惚とした表情を浮かべた。朝賀はそのままピストン運動し続ける。
「いいですね、実にいい仕上がりですね」
浅賀は舌なめずりをした。
「ご褒美、あげないとね。今日は自分でクリ苛めるのを許してあげます」
浅賀は礼汰の利き手である右手を亀頭に誘うと、礼汰の人差し指で尿道口を何度も擦った。初めは浅賀にされるがままの礼汰の手が次第に意思を持ち動き始めた。理性の結界が崩壊したかの様に礼汰が必死に自慰をする。

「見慣れた光景ですが、生で見るのは初めてですね」
礼汰の両足をM字に広げ、朝賀は礼汰の監視カメラではお馴染みの自慰行為を見続けていた。

「くる、くるぅ」
礼汰が終わりを告げるように啼き始め、程なく礼汰のペニスからおびただしい量の精液が浅賀の下肢に向かって放出された。浅賀の陰毛が礼汰の精液でしとどに濡れるのを見ながら朝賀はなおも腰を振り続けた。吐き出して満足したのか礼汰がペニスから手を離した。
礼汰を揺さぶりながら浅賀が小さく笑った。
「やっぱり一回で終わりなんですね。本当に淡白。だから雌どもに飽きられて捨てられるんです。そこが雄としては致命的なんですよ」
「ああっ、あっ、んんっ」
礼汰は浅賀に送り込まれる快感に喘ぎ、体の奥を震わせた。

「雌イキしましたか。だから言ったでしょう、雌を満足させる雄の条件は耐久時間と回数だと。動物社会ではより精力の強い雄がボスになるのです。雌はその雄に群がるように本能が宿っているのです。幸い私は一夫多妻はしない主義ですから浮気は決してしません。ですから君も浮気させませんからね」
浅賀の言葉が耳に入らず再び喘ぐ礼汰は「また、またくる」と一啼きして再び奥を震わせて達した。
「折角触っていいと言ったのに」
浅賀がついに終焉を迎えるように大きく下肢を打ちつけた。
「さあ、たっぷりと注いであげます」
浅賀は串刺した欲望を更に奥へと潜り込ませて脱力した。
「あ、あんっ。出てる、いっぱい、出てる」
中の感触で礼汰がうっとりと呟いた。

「休憩時間はありませんよ、三日も交尾できませんでしたからね」
浅賀が礼汰の体を百八十度変える。
「さあ、もう一回交尾、しましょうね。犬のポーズになりなさい」
いつしか当初の目的の消毒を忘れてしまった礼汰が、浅賀にいわれるままに四つん這いになる。

「まだ不合格ですね。脚を開きなさい、君は雌犬なのですから」
容赦のない浅賀の命令にも礼汰が逆らうことはなかった。しかし脚を開いたせいで白い液体が腿を伝う。
「雄の種を零すなんて躾のなっていない雌ですね」
浅賀の顔が見えなくても浅賀が黒い笑みを浮かべたのが礼汰にはわかった。礼汰がとっさに括約筋に力を入れる。だが、それは長く持たずに再び白い液体が垂れ出た。

「まったく」
浅賀は呆れたと言う言い方で礼汰を叱咤すると、一気にペニスを捻じ込んだ。
「うああーっ」
驚きに礼汰が悲鳴を上げた。
「躾のなっていない雌犬にお仕置きですよ」
パシッ。
「痛っ」
浅賀の尻への平手打ちに礼汰が痛みによる悲鳴を上げた。
「おや、やればできるじゃないですか。痛いのが好みなんですか、君は」
「違、やだ、痛いのやだ」
「躾なんですから。今の締め付け覚えておきなさい。ちゃんとできなければアナルプラグを付ける事になりますよ」
浅賀の一言に恐怖を覚えた礼汰は尻の平手打ちに耐えた。

数度尻を叩き気を良くしたのか浅賀が礼汰の亀頭に手を回し捏ねるように弄りだす。
「あ、ああ。あん、ん、あん」
とっさに腰を引こうとした礼汰に浅賀が再び恐怖を与える。
「腰を振るのは雄の役目だと言ったはずです。また、叩かれたいですか?」
その一言に礼汰の体に緊張が走る。
「さあ、大好きなクリ、触ってあげますね」
浅賀は礼汰の尿道口を擦ったり、爪の先を捻じ込んだりを繰り返す。
「いやぁん、あん、あん」
礼汰が体を支えられないとばかりに上体を突っ伏した。
「奥尻君のクリからぬるぬるしたものがどんどん溢れてきますよ。いやらしい雌ですね」
礼汰は浅賀の言葉責めに顔を朱に染めた。

礼汰の尿道口を嬲りながら、浅賀が礼汰の背に覆いかぶさった。
チリッ。
礼汰の項に一瞬痛みが走った。
「マーキングしておきますね。項にマーキングなんて雌とのセックスでは到底付きませんから。雌どもに奥尻君が抱かれる雌になったのを知らせるのにちょうどいい」
「な、なんで」
「なんで?君は私の所有物。君のペニスはクリトリス。もう雌を抱くこともないですし浮気は許さないと言ったでしょう?何も不都合はない筈ですが」
不満の色を浮かべた礼汰に浅賀は無慈悲に説明した。
「さて、続きを始めましょうか」
上体を起した浅賀がピストン運動を始めた。浅賀に突き上げられ、亀頭をグリグリと抉られ、耐え切れずに礼汰が嬌声をあげた。

「あん、あん、そこぉ、やん」
礼汰は必死に下肢を動かさぬように啼き続ける。

「気持ちいいんですね。そんなに大きな声をあげるほど悦んで」
気を良くした浅賀はピストン運動を最大出力にした。

「やあ、ああ、あん、ああん、出ちゃう」
下肢を動かさぬように力を込めていた礼汰は上半身をブルブルと震わせて精液を吐き出した。
「雌犬がおしっこしてるみたいですね」
ピストン運動をしながらも浅賀はその様子をほくそ笑みながら見つめていた。そして礼汰の精液で塗れた手を見つめ、「まだ出るのがあったんですね」と驚いたように呟いた。

「や、だめ、イッばっか、あん、ああん」
両手でしっかりと礼汰の両腿を固定すると、浅賀は遠慮なくピストン運動の最大出力を惜しみなく礼汰に送り込む。

「やあ、イク、イッちゃう」
上半身を震わせて礼汰が絶頂を迎えた。

「中イキしましたか。こうなると奥尻君は箍が外れたように一人でイッちゃうんですよね。でも、私がイクにはまだ掛かりそうですね」
残念そうに浅賀は胸ポケットから出した携帯を片手で操作しながらメッセージをチェックし始めた。業務連絡がずらりと並んだメッセージ一つ一つに目を通し返信していく。

「イク、また、イッ」
熱の伴わない浅賀と熱に浮かされる礼汰が対照的な空気を醸し出す。

「あん、あっ、また、止まんな、いっ」
メッセージチェックをしている浅賀はそれでも下肢の動きを緩めはしなかった。

「私がイクまで存分にイキなさい。好きなだけイカせてあげますからね、貪欲な私の雌になりなさい」
朝賀は礼汰の体に言い聞かせるように抱き続けた。


ヒカルの戸籍上の長男である【宮内 夕霧】(Miyauchi Yugiri)は十二歳を向かえた。そして夕霧よりも二つ年上の左代 中将の娘【左代 雲居雁】(Sadai Yukari)は共に左代の屋敷で、いとこ同士であり幼馴染として育てられていた。

「夕ちゃん、ほら学校行くわよ」
雲居雁が夕霧を急かしながら中等部のスクールシューズを履いていた。
「そんなに急がなくても遅刻はしないでしょ、ほんとに雲居雁はせっかちなんだから。部活の朝練がない日くらいゆっくり登校したいよ」
そういって急ぐそぶりのない夕霧も玄関で靴を履き替えた。
「もう、ほんと生意気になってきたわね。昔はあんなにゆうちゃーん、ゆうちゃん待ってーって追いかけてきたくせに。いつの間にか私のこと呼び捨てにするし」
口を尖らせる雲居雁が幼少のころの話を持ち出した。
「だってしかたがないだろ、二人して同じ名前で読んだら区別が付かないじゃないか」
雲居雁の挑発にも夕霧は動じなかった。
「私の方が年上なんですからね。それに誰のせいでこんなに早くに家を出なくちゃいけないと思っているの?」
今度は責めるように雲居雁が頬を膨らませた。
「別に雲居雁に付き合ってくれってたのんでないだろ。嫌なら一人で行けばいいじゃないか。どうせ雲居雁は中等部、僕は小等部で校舎は同じ敷地だけど離れてるだろ」
夕霧が小さく溜息を付いて玄関のドアを開けた。

「「「「キャー」」」」
女子たちの歓声と共に視線が一気に夕霧に集まった。

夕霧はサッカーの小等部キャプテンでありエースストライカーとして、女子の人気を誇っていた。その為、朝練のない日は出待ちの女子が左代家の前で待ち構えているのだった。

「もう、ほんと生意気。昔は私の後にくっついてきたくせに」
ガチャリと閉まったドアの前で雲居雁が独り言を苦々しく呟いた。


その日の夕方。雲居雁は夕霧の部屋のドアをノックした。
「夕ちゃん?いるんでしょ?ねえ、夕ちゃん」
中からは返事がなく、雲居雁はそろそろとドアを開けた。すると中で夕霧は眠っていた。ドアを開け放したまま雲居雁は物音を立てずに奥へと入っていった。

ベッドのそばに膝を付き、夕霧の寝顔を見つめる。
「何で一緒に登校するのか、ですって?そんなの決まってるじゃない。夕ちゃんの隣はずっと私だけのものなんだもの。他の女なんて見ちゃだめよ、私だけを見て」
雲居雁はそっと夕霧の唇に自らの唇を重ねた。

「雲居雁さん、何をしてますの?」
その声にハッとした雲居雁が立ち上がってその声のするほうを向いた。
「お、お婆さま」
たじろぐ雲居雁に左代の妻【左代 佳代】(Sadai Kayo)が一睨みした。
「ち、違うの。これは」
雲居雁は蛇に睨まれた蛙のように言葉を発することも、動くことができなかった。
「こちらへいらっしゃい」
佳代は雲居雁を夕霧の部屋から強引に連れ出した。
雲居雁の声が次第に離れていき、やがて静かになった頃。夕霧が右手でそっと唇を触れた。まだ感触の残るその唇に。

「僕だってそうしたい。だけど」
夕霧のその後の言葉は紡がれる事はなっかた。

「ヒカル、すまない。お袋は心配性なんだ、なにぶん昔の人だから。何とか説得したんだけど間違いが起こってからでは取り返しが付かないって聞かないんだよ」
中将からの電話にヒカルは「わかった」とだけ伝えた。電話を切ったヒカルはある人へとすぐさま連絡を入れた。

佳代の怒りにより、夕霧は左代家を出ることになった。慌しく行われる引越し作業の間中、雲居雁は泣いていた。

荷物の搬出が終わると、夕霧は雲居雁の部屋を訪れた。
「学校で、いつでも会えるだろ。だから泣くな」
そう一言残して左大家を後にした。

夕霧は、御門 桐生の死後に尋ねてきた花散 里華のもとに身を寄せることになった。里華は食事つきのパンション【花散里】(Hanachirusato)を営んでいたのだった。

「お世話になります」
夕霧が里華に頭を下げると、里華が右手を差し出した。
「よろしくね、夕霧君」

こうして、夕霧の新しい生活が始まりを迎えた。


桐生の資産相続で土地を相続したヒカルはその活用を考えるようになっていた。御門財閥の総帥であった桐生はいくつもの土地を所有していた。その土地の全てに一条、二条と名前がつけられておりヒカルが相続したのは六条だった。
自宅マンションと慧のマンションとの行き来に辟易し始めていたヒカルは、六条に自宅を建築し、紫上、亜衣、慧と暮らすことを決めたのだった。
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