現代版 曲解【源氏物語】

伊織 蒼司

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【松風】Mtukaze

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毎日のようにマフムードに呼び出され陵辱される怜央は日に日にやつれていった。オフィスでの怜央は誰とも関わろうとせず、浮いた存在になっていた。
「怜央、ちゃんとご飯食べてマスカ?UAEの食事は口に合いますか?」
見かねてカミールが怜央に声を掛けた。
「平気。慣れない海外生活だから調子を崩してるだけ」
怜央が素っ気ない返答を返した。
「そうデスカ。もし何か悩み事があったら聞きマスヨ。怜央の分の仕事、私手伝いまショウカ?」
「いえ、大丈夫です」
怜央は精一杯の強がりをカミールに見せた。カミールは何とか怜央を元気付けようと思案した。
「そうデス。今日、ランチをご一緒にどうデスカ?外国人にとても人気のあるレストラン、知ってルンデスヨ」
「大丈夫だって言ってるだろ。ウザイんだよ、いちいち」
怜央が癇癪を起してカミールに噛み付いた。
怜央の拒絶する態度にカミールから覇気が消えた。
「ス、スミマセン。余計なお世話ですネ」
意気消沈したカミールがしょんぼりと俯いて自席に戻っていった。そのやり取りを見ていた同僚たちは怜央と距離を置き、怜央はますます孤立していった。
「You've got mail」
怜央の携帯がメッセージを伝えると、それを見た怜央の表情が翳った。
「イラーハ」
自席についたカミールが心配そうな顔で怜央に聞こえないように小さく呟いた。

「ククク。イラーハは本当にわかりやすい。弱れば弱るほど私から逃れる事はできないのに。可哀相なイラーハ。そして極上の私のダッチワイフ。もがいてもがいて、心なんか折れてしまいなさい。私がイラーハの心も体もお引き受けしますよ」
マネージャー室のブラインドの隙間から一部始終を見ていたマフムードが携帯の液晶画面を見ながら悪魔のような笑いを押し殺していた。


「何、これ?」
バスルームで体を洗っていた籐子がわずかな体の変化に気がついた。乳房に感じた手の違和感に籐子は同じ場所を何度も確認しながら触る。
「お母さんも早く」
浴槽に浸かりながら籐子を待つ冷泉が籐子を呼んだ。
「ええ、もうちょっと待っててね」
胸にざわめきを覚えながらも、冷泉に悟られぬように籐子が精一杯明るく振舞った。


「そんな…毎年検診を受けてるのに」
すぐさま婦人科を訪れた籐子は、後日検査の結果を聞いて愕然とした。
「乳がん、ですか。進行性の」
籐子は目の前が真っ暗になった。
早急の手術を告げられた籐子は病院からの帰り道を覚えてはいなかった。それほどまでに籐子の心は打ちのめされていた。
「私、死ぬのかしら。私が死んだら冷泉は」
籐子は泣きたいのを必死にこらえた。
「今は泣く時じゃない」
籐子はヒカルにありのままの事実を携帯のメッセージで伝えると、直ぐにヒカルから『今すぐそっちへ向う』と返事が来た。
ヒカルが来るまでの三十分が籐子には数時間にも感じられた。

ピンポーンピンポーンピンポーン。
マンションのチャイムがけたたましく来訪者の訪れを告げると、籐子は玄関に駆け寄って鍵を開けた。
「籐子」
走ってきたのだろうヒカルの息が上がっていた。
「ヒカル、ヒカル。私、死ぬのかしら。死にたくない。冷泉を置いて死にたくない」
籐子はとっさにヒカルに抱きつくと声を上げて泣き始めた。ヒカルは籐子の震える細い肩を抱き「大丈夫だ」と苦しそうに呟いた。


売春組織のメンバーとしてマフムードの仲間に加わったカミールは、気づかれぬように組織内部を探っていた。
「用心深いと言うだけアリマス。過去の履歴は全て消去されてイマス」
行き詰ったカミールは途方にくれていた。
「イラーハを救いたいノニ」
カミールはマフムードに聞いたサイトを事細かくチェックした。
「風景画像の一部が通信サイトなら他にも何か私の知らされてないサイトか何かがあるのカモ」
しかし、他にそれらしきサイトは見つからなかった。
「Mr.Kanouは用心深いデス。でもマフムードは同じくらい疑い深い男デス。彼ならきっと何か動かぬ証拠を残しているハズなのに」
不発に終わったカミールがサイトを閉じたカミールは考え込むようにデスクトップ画面を見ていた。
「それにしてもやけにアイコンが不規則に並んでマスネ。それにこの『Possible』?そんなアプリケーション聞いたコトナイデス」
カミールが首をかしげながらそのアプリケーションをダブルクリックする。
「ロックが掛かっテル。あやしいデス。日本のドラマではよくこういう場面ありマス。ロックを解除すると秘密のデータが出てキマス」
単純なカミールはまるでドラマの主人公になった気分で指のストレッチをした。
「こう見えて私はGameオタクと呼ばれるほどgame攻略の達人ナノデス」
カミールは確証のない断定の元にキーボードをたたき続けた。


「怜央はどうしてるだろう」
月夜が小さくため息をついた。
「でも朱雀に知れたらややこしい事になるかもしれないし」
散々悩んだ挙句、月夜は朱雀が会議中の午後に国際電話を掛けた。

「May I help you?」
幾度目かのコールでドバイオフィスに繋がった。
月夜は流暢な英語で話し始めた。電話に出たのは若い男のようだった。月夜は自らの名と所属を名乗り、怜央の親戚である事を告げると、出来れば怜央には内密にしてほしいと頼んだ。電話口の男がそのまま押し黙った。
「あの、右代 怜央さんは元気にしているんですよね?」
心配になった月夜が相手の返答に待ちきれずに再び問いかけた。
「なぜ、怜央には秘密なのですか?」
電話口の男が月夜に聞いてきた。
「それは」
月夜は覚悟を決めて話し始めた。
「僕のせいで怜央が長年思い慕っていた人と別れることになり、ドバイに赴任することになったからです」
月夜は朱雀の名を伏せて正直に話した。
「それは罪悪感?」
男の問いに月夜がごくりとつばを飲み込んだ。
「そうかもしれません。でも大切な身内であることは変わりありません。どうか、怜央が元気にしているかどうかだけでも教えてください」
月夜がきっぱりと答えた。
「右代の方は皆素直で正直なのですね」
男はそう言うと「こちらから掛け直します」と言うと月夜の携帯番号を聞いた。
折り返し掛かってきた見知らぬ番号からの電話に出た月夜に「これはTop secret」と先ほどの男が怜央に関して話し始めた。それを聞き終えた月夜はブルブルと震えの収まらないままに通話を終了した。
月夜は動揺の収まりを待ちながら頭を振る回転すると、ある人物に連絡を入れた。


籐子の手術の日、ヒカルと冷泉が籐子の付き添いをしていた。冷泉はただ泣くばかりだった。
「じゃあ、行ってくるわね」
籐子が精一杯の笑顔でヒカルと冷泉に微笑んだ。

手術の途中で泣き疲れた冷泉はヒカルにしがみ付いたままで眠ってしまった。ヒカルは以前より重くなった冷泉を抱いたまま手術中の赤いランプを睨み続けていた。
「あら、息子さん眠ってしまったんですね。毛布か何か、お持ちしましょうか?」
担当看護師がヒカルにそっと囁いたが、ヒカルは無言のまま首を横に振った。

手術が終わるとヒカルは主治医に呼ばれた。ヒカルは眠る冷泉を抱いたまま個室へと入った。
「術前検査ではわからなかったのですが、すでにリンパ節にまで転移が見られましたので、乳房だけでなくその周りの組織も切除しました」
主治医の説明にヒカルが渋い表情を浮かべた。
「ガン組織は全て切除したのですがリンパ節に転移が見られたことで遠隔転移の可能性はあります。術前検査の説明時には術後五年生存率は五十%と申し上げましたが三十%になったと思ってください」
担当医の話を聞いたヒカルはICUにいる籐子を訪れしばらくその姿を見つめていた。

「ヒカル?」
目を擦りながら冷泉が目を覚ました。
「起きたのか?」
ヒカルが冷泉に柔らかい笑みを浮かべた。
「お母さんは?」
意識がぼんやりとしながらも冷泉が籐子の身を案じた。
「あそこにいる」
ヒカルにしがみ付く冷泉がよく見えるようにヒカルは上半身を捻ると、冷泉が身を乗り出して食い入るように籐子を見た。
「お母さん。死なないよね?」
冷泉がヒカルに同意を求めた。
「ああ、手術は成功したんだ。お前を置いてく筈がねえ」
ヒカルもまた、自分に言い聞かせるように口にした。

冷泉を宮内の実家に預けたヒカルは社へ戻る途中で意外な人物からのメッセージに気がついた。登録名は『朧月夜』月夜からのものだった。


「止めてぇ。もうやだぁ」
いつものようにマフムードの部屋に呼び出された怜央は、尿道をマフムードの指に犯されながら下肢を打ちつけられていた。
「君のペニスはすっかり私に犯されるのを喜ぶ女になりましたね。今では何処もかしこもとろとろの手触りだ」
ベッドの上で背後から下肢を打ちつけるマフムードが満足そうに感想を漏らした。
「ああ、先に出しますよ」
マフムードは怜央の快楽を引き出すことなく、自らの快楽のみを追いかける。
「もう少しだ」
マフムードが怜央の中から剛直を引き抜くと、怜央の体を仰向けに転がして尿道内に向って射精した。毎日繰り返されるこの行為に怜央のペニスは大きく膨らみながらマフムードの精液を受け止めた。
「すばらしい。初めて私の精液を零さずに全部飲み込みましたね」
マフムードが悦に入った表情でうっとりと笑みを浮かべた。
「今日は君にプレゼントを用意したんですよ」
マフムードが怜央のペニスの先を強く摘みながら枕の下から棒状の何かを取り出した。それをマフムードは怜央に見せ付けるように目の前に翳した。怜央は恐怖に顔を引きつらせながら嫌々と首を振る。
「バイブですよ、女用のね。君のペニスはもう女なのですからこのヴァギナ専用のバイブで可愛がってあげましょう」
マフムードは片手で雑にローションをバイブに塗ると、怜央のペニスに宛がった。
「やだ、やだ、やだ」
怜央の言葉には耳を化さないマフムードが怜央の尿道にバイブを捻じ込み始めた。
「痛ったー」
怜央が恐怖と痛みに顔を歪ませる。それはマフムードにとっては嗜虐心を煽る物だった。
マフムードによって柔らかく解された怜央のペニスは怜央の意思とは無関係にバイブを少しずつ飲み込み、それにより押し出されたマフムードの精液が怜央のペニスを伝い落ちた。
「君は本当に私の理想だよ。ペニスが女のヴァギナになるなど、いったい誰が想像しただろう。右代 朱雀には感謝するよ」
怜央のペニスがバイブを奥深くまで飲み込んだ様をマフムードが興奮しながら褒め称えた。
「私のペニスも挿入れてあげるよ」
マフムードは正常位で怜央と繋がると「んん、ああ」と怜央は感嘆の声を発した。
「これで色々な体位を楽しめる」
マフムードがバイブのスイッチを入れた。
「んん、やあああぁ」
ブブブブブ。バイブの振動に怜央が過ぎた快感に顔を歪ませる。
「君の中の締め付けが強くなったね。気持ちいいよ」
マフムードが怜央の両足首をそれぞれの手で掴み、怜央の下肢を大きく開かせ律動を開始した。
「すごいよ。喩えようもない快感だ」
マフムードがハアハアと息を荒くしながらひたすらに下肢を打ちつけた。
「んんやぁ、ああ、来る来ちゃう」
怜央が尿道内から沸き起こる快感に「あああっ」と大きく啼いてガクリと意識を手放した。
「いかん、もう」
マフムードがあっけなく怜央の中で射精した。マフムードは荒い呼吸を繰り返しながらも怜央の中を堪能するように目を閉じた。
「あまりの気持ちよさに落ちたか。でも意識があろうとなかろうと私には関係ないがね。こんなに最短で再びエレクトしたのは初めてだよ」
マフムードが怜央の両足首から手を離し、両膝の裏側を掬い上げて再び律動を開始した。
マフムードは意識のない怜央を犯し続けた。

ブーブーブー。
マフムードの部屋のチャイムが鳴り響いた。
「くそ、誰だ?今止められるわけないだろう」
マフムードは居留守を決め込もうとした。チャイムの音に気を削がれたマフムードは気を取り直して律動を始める。
「マフムード。私デス、カミールです。マフムード」
ドア越しにカミールがドアを叩きながら叫ぶ声がした。
マフムードは相手がカミールと知ると取り合わぬとばかりに律動に専念した。
「マフムード、大変デス。例の件で大変なコトニ」
なおもドア越しのカミールがマフムードを呼び続けた。マフムードは『例の件』がカミールに任せた仕事の内容だと思い、苦虫を噛み潰しながら渋々バスローブを羽織ってドアへと近づいてスコープを覗いた。カミールの姿が一人と確認したマフムードが「今開ける」と言いながらドアを開けた。

「警察だ」
アラビア語で発っしながら雪崩れ込んできた警官達にマフムードはすぐさま拘束された。
「な、何をする?いったいこれは?」
理解の追いつかないマフムードがジタバタと暴れるが、後ろでに拘束されてはどうすることも出来なかった。
「カミール」
マフムードがカミールを見るやいなや大声で叫んだが、カミールは部屋の奥へと慌てたように入っていった。
「マフムード ターヒル、売春と売春斡旋の容疑で逮捕する」
一際恰幅のいい男がマフムードに対峙した。
「なにをばかな」
マフムードが白を切った。

「私が通報しました」
奥からシーツに包んだ怜央を抱き上げたカミールが憤りのままにマフムードに告げた。
「お前、裏切ったのか?私を裏切ったのか」
マフムードが渾身の力を振り絞ってカミールに詰問する。
「初めから、仲間になった積もりアリマセン。私は警察官デス」
カミールの言葉にマフムードが信じられないとばかりに口をぽかんと開けたまま立ちすくんだ。
「お願いシマス」
カミールの指示でマフムードは警察署へと連行された。

「イラーハ、遅くなってスミマセン。ずいぶんと怖い思いをさせてシマイマシタ」
カミールは意識のない怜央に謝罪した。


「まさかカミールが国際犯罪組織の潜入捜査官だったとはな」
ヒカルは「すっかり騙されたぜ」と付け加えた。
「スミマセン。ヒカルが日本側のシンジケートの仲間である可能性アリマシタ。だから秘密デシタ」
カミールが電話越しにヒカルに謝罪した。
それに対しヒカルは「ひでーな」と笑い飛ばした。
「私はドバイ側の証拠はある程度掴んでいまシタ。でもヒカルが日本で情報を集めてくれていたお陰で早く解決シマシタ。感謝しマス。売春目的で来た日本人も事情徴収が済んだら無事に日本に帰れマス。ただ、Kにも事情は聞くコトになりマス」
カミールが申し訳なさそうにヒカルに伝えた。
「いや、カミールが謝ることじゃねえ。Kにとって加納は諸悪の根源だ。禍根を残したくねえからな」
ヒカルが快く了承した。
「ところで、右代はその後どうだ?」
「イラーハは体よりも心が心配デス」
ヒカルの問いにカミールが絞るように言葉を吐き出した。
「そうか。なら、お前が支えてやるんだな。イラーハって呼ぶくらいだ、好きなんだろ?右代 怜央のことが」
ヒカルのストレートな発言にカミールが動揺した。
「わ、私は。その、イラ、ミスターウダイノコト」
「おいおい、それでも潜入捜査官かよ。カタコトになってるぜ、日本語。でもぶっちゃけた話、右代には支えてくれる誰かは必要だ。よろしくな」
ヒカルはカミールとの通話を終了すると、そのまま藤原 惟光へと電話した。

「ヒカル、大手柄だよ。ヒカルのくれた情報と現地の警察との連携で加納は逮捕できたし薬の製作者である明石 慶吾も無事に保護できて組織を壊滅させられたんだからね。僕も鼻が高いよ。でも、もっと早くに相談くらいしてくれたって良かったじゃないか」
喜びと共に不満を零す惟光にヒカルが音に出さずに笑みを浮かべた。
「お前を信頼したからここまで出来たんだ。怒るなよ。
ところで、明石 慶吾はなんで加納に手を貸したんだ?」
ヒカルにはどうしてもわからないことがあった。
「うん、まだ事情徴収の段階なんだけど」
惟光は明石 慶吾が話した内容をオフレコでヒカルに伝えた。
「そうか。悪かったな、忙しいところ」
ヒカルが珍しく謙虚さを見せた。
「ぇ?謝った?ヒカルが僕に謝った?ヒカル大丈夫?明日は雪が降プープープー」
ヒカルは通話を強制終了した。


「おかえりなさい、月夜さん」
マンションのドアを開けた月夜を朱雀が出迎えた。いつもより低い声、いつもより重い空気の朱雀の様子に月夜の心に僅かに警笛が鳴った。
「どうしたんだよ、こんなところにいて。もしかしてどこかに出かけるのか?」
朱雀の傍らにあるスーツケースに月夜が怪訝そうな顔をした。
「ただいまのキスがまだですよ」
朱雀が月夜にそっとキスをした。

「月夜さんは私よりもヒカルを信頼しているのですか?」
無表情の朱雀が月夜の頬にそっと手を当てた。
「怜央の件のこと、言ってるのか?」
「そうです。内々に私はドバイオフィスのマネージャーであるマフムードに関して国際警察のトップから相談を受けていましてね。まずはカミールさんを潜入させました。そして、現地の情報を知る手段として怜央を派遣したのです。社の中にも犯罪組織に加担している者がいないとも限りませんし、曲がりなりにも右代の人間ですから信頼は出来ます。月夜さんの件がありましたから疑われること無く事が運びました。そのことは怜央には伝えていませんが。怜央は直ぐに顔に出ますからね。でも怜央が犯罪に巻き込まれるのは想定外でした」
朱雀は淡々と月夜に内部情報を明し始めた。
「そ、そうだったのか?僕はてっきり」
「月夜さんの報復人事、ですか?」
重くるしい雰囲気に月夜が口をつぐんだ。
「私はそこまで狭量ではありませんよ。これでもミカド財閥の総帥ですから。これまでも私情で経営をしたことはありません」
朱雀の言葉にハッとして急に恥ずかしくなった月夜が朱雀を見上げた。
「ごめん。朱雀ごめん。ずっと傍にいたのに僕は」
月夜が辛そうに言葉に詰まった。
「そんなことはいいんです。私は貴方に一番に相談されたかったです。ヒカルではなく、私に」
ヒカルに対しある種の劣等感を抱く朱雀が泣きそうに顔を歪ませた。
「ごめん、本当にごめん」
月夜が朱雀に謝りながら抱きついた。

「おしおき、です」
朱雀の苦しそうに搾り出された言葉に月夜の体がピクリと反応した。
「五輪モータースの専務取締役である【五輪 栖美香】(Gorin Sumika)さんと婚約しました」
朱雀の言葉に一瞬にして月夜の体から力が抜けた。
「…え?いま、なんて?」
月夜が目を見開いて朱雀を見つめる。
「結婚、すると言ったんです」
朱雀が真っ直ぐに月夜を見つめる。
「うそ、だろ?」
月夜の思考が追いつく間を与えずに朱雀は左の薬指に嵌めたリングを月夜の目の前で外すと、月夜の手を取り押し込むように握らせた。月夜は呆然としながら自らの手の中のリングに視線を落とした。
「本日をもって貴方を私の秘書から解任しました。明日からはヒカルの第二秘書として働けるよう、ヒカルには話を通してあります」
「かい、にん」
朱雀の言葉が再び月夜を打ちのめす。月夜は立っていることが出来ずにその場にへなへなと座り込む。朱雀はそんな月夜を見ることもせずにスーツケースを持つと静かにマンションを出て行った。

「なんだよ、これ」
一人残された月夜は朱雀を追いかけることもできないまま思考を停止することしか出来なかった。






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