現代版 曲解【源氏物語】

伊織 蒼司

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【蓬生】Yomogiu

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「僕、社に忘れ物したみたいだから朱雀は先に戻ってて」
月夜は朱雀にそう告げると元来た道を走って行った。月夜の後姿を見つめる朱雀の胸に一抹の不安が過ぎった。


「あったあった」
自分のデスクの引き出しに置き忘れた綺麗にラッピングされた小箱を取り出した月夜は、それを渡したときの朱雀を想像し頬を緩ませた。
その月夜の首筋に痛みが走ったのは突然のことだった。
「痛っ」
月夜はその場に崩れ落ちた。


「いったたた」
月夜はまだ痛みの残る首筋を擦ろうとしたが体が言うことを聞かなかった。
「起きた?」
ふいに声のするほうに視線を移した月夜は一人の人物が少し離れたソファに立ったまま寄りかかっていることに気がついた。
「怜央?なんでここに?」
起き上がろうとした月夜が両手を拘束され、カーペットに寝転がっていることにようやく気がつく。
「なにやってんだ。こんなことしやがって」
月夜がジタバタと暴れるが、縛られた両手と椅子の足が一括りになっていて月夜には拘束を解く事は出来なかった。

「返してもらおうと思って。あの人を」
怜央は両腕を組んで月夜を睨みつけた。
「あの人?あの人って誰のこと?」
とっさに朱雀の顔が浮かぶが、月夜はまさかと脳内で否定した。
「とぼけないでよ。あんたが帰って来さえしなければあの人と僕は今でもいい関係だったんだよ」
「だからあの人って誰なんだよ」
月夜が苛立ち混じりに怜央に問いかけた。
「朱雀様に決まってるだろ」
怜央の言葉に月夜は体が冷えて行くのを感じた。
「朱雀様も朱雀様だ。こんな年増なんか相手にしなくたって僕がいるのに。
だからね、朱雀様に嫌われてもらおうと思ったんだ、あんたのことを」
怜央が月夜にゆっくりと近づく。月夜はとっさに身の危険を察知して体を硬直させた。怜央は月夜のスラックスを脱がせ、下着を剥ぎ取った。
「止めろ」
月夜が精一杯の大声で叫んだが、怜央の視線はある一点に注がれ月夜の叫びはむなしく響いた。
「はっ、パイパンなんて尻軽のすることじゃん。えっ、これ、朱雀様の」
怜央が震える声で呟くと、今度は怒りに震え始めた。
「こんな物なんか着けちゃって」
下唇を噛みしめながら怜央は毟り取るように月夜のペニスの根元に嵌る月夜のリングを奪った。それは以前お仕置きと称して朱雀が月夜の亀頭責めに使用した特注のリングだった。
『ほら、貴方のペニスの通常サイズにぴったりです。これを着けていれば私はいつでも貴方と一緒です。そして貴方は私のものです』
朱雀の嬉しそうな表情に、月夜は外すことを躊躇われそのままにしていたのだった。
「もう、許さない」
ギリギリと奥歯を噛みしめながら怜央は自らもスラックスを脱ぎ捨て下肢を露にすると、奪ったリングを自らのペニスに嵌めた。
「これは僕にこそふさわしいんだから」
怜央が怒りのままに月夜のペニスを扱くが月夜のペニスは一向に反応を示さなかった。

「使えない」
怜央が月夜を一睨みすると、今度は月夜の尻に手を伸ばした。
「止めろ」
月夜が再び大声で叫ぶ。
「止めろと言われて止める馬鹿いないでしょ」
怜央があざ笑いながら月夜の尻の中から前立腺を責め立てた。それにより月夜のペニスが兆し始め、月夜の意思とは関係無しに勃ち上がった。月夜が体を捩り何とかして抜け出そうと試みるが全て徒労に終わった。
「安心してよ。あんたに突っ込もうなんて思ってないし。僕もネコだからあんたになんか勃たないし。だから同じネコ同士、あんたに屈辱的なセックスしてやるよ」
月夜の中から指を抜き去り、月夜に背を向ける形で怜央が騎乗位で挿入れようと腰を落としかけたその時だった。

ガチャガチャと鍵を開ける金属音がすると朱雀が勢いよく中へ飛び込んできた。朱雀は一目で状況を把握したように目を見開いた。
「なんで、鍵掛けたのに」
怜央が呆然と呟いた。
「私はここの総帥ですよ。全てのフロアの鍵はこのマスターキー一つで開けられるんです」
荒く息を繰り返しながら朱雀は怜央の体を突き飛ばし、月夜の拘束を解いて月夜を抱き締めた。
「間に合って良かった。貴方と別れたあの場所で待っていたのですがなかなか戻ってこなくて、不安になって来てみたんです」
朱雀は月夜に脱がされた服を渡して怜央と向き合った。

「君とはもう終わった話ですよね」
朱雀が怜央に詰め寄る。
「あんな一方的なメッセージ一つで終わった話?僕は終わったつもりはないです」
怜央が朱雀に噛み付くように反論した。
「君が私の思い人の代わりで良いからと、体だけの関係で割り切ると合意した上での関係だったはずです」
朱雀は溜息をついて怜央に問いただした。
「そ、そんな約束した覚えはない。朱雀様は僕のことを愛してるって良いました」
朱雀は再び溜息をついた。
「私が君にそんな心にもない事を言うはずがないでしょう。私が愛しているのは昔から月夜さんただ一人なんですから」
怜央に向って冷たく吐き捨てると、朱雀が月夜の方に向き直った。
「私の初恋なんですから」
朱雀の熱い視線に月夜の頬が朱に染まった。
「返してください。それは君が身に着けて良い物ではありません」
朱雀が静かに手を伸ばすと、怜央がペニスに着けたリングを外し「こんな物」と朱雀に投げつけた。リングが朱雀の体に当たりカーペットに落ちると朱雀はそれを拾い上げ、デスク上にあるウェットティッシュで丁寧に拭い胸のポケットに仕舞い込んだ。
「でも朱雀様は僕を愛してるって言ったもん」
あくまでも意地を張る怜央に、今度こそ大きな溜息を吐いた朱雀が、月夜の傍に膝まずき手を取った。
「私が愛しているのは貴方だけです、月夜さん。私がこれからする事をどうか許してください。決して浮気ではありません。でも、きっと貴方は怒るでしょうからその償いは私の一生をかけると誓います」
朱雀はプロポーズのように月夜の手にキスをした後、怜央に近づいた。
「さあ、今度こそ終わりにしましょう。最後の思い出に君を触ってあげます」
朱雀が両手を出すと、魅入られ抗えぬように怜央が素直に両手を差し出した。朱雀は怜央の両手を拘束し、月夜がされていたように椅子の足に括りつけた。
「朱雀様、あいつに脅されてたから僕に触れられなかったんだね」
怜央がうっとりとした表情を浮かべた。

朱雀は月夜のデスクの引き出しからハンドクリームを取出し、怜央のペニスにポケットから取り出したコンドームを被せた。
朱雀は怜央のペニスの尿道口にゆっくりと小指を埋め込み始めた。それに引き摺られるようにコンドームも怜央の尿道に埋まっていく。始めは苦しそうな怜央だったが次第に恍惚とした表情を浮かべた。
「へえ、私の言い付けどおりオナニーする時もちゃんとココを弄っていたのですね」
朱雀が冷ややかな笑みを怜央に向けると怜央のペニスがムクムクと育ち始めた。
「堅くすれば君が辛くなるだけなのに」
内部を押し広げるように小指を出し入れした朱雀は冷めた目で見ながらコンドームが抜けない様に小指を引き抜き、今度は人差し指を宛がった。朱雀の爪の部分がようやく収まるとその後はするすると朱雀の指は怜央のペニスに呑み込まれた。
「前より細くなってますがこれならいけますね」
そして朱雀はついに親指を宛がった。それを見ていた月夜が「ヒッ」と小さく声を上げた。
グリグリと親指を回しながらいささか強引な手つきで朱雀はコンドーム越しに怜央の尿道口を開く。メリメリと音がしそうな怜央のペニスは朱雀の親指をも呑み込み始めた。
「この痛みも朱雀様の愛の証」
恍惚とした表情を浮かべたままうっとりと呟く怜央が「ううう」と苦しそうに呻いたが、朱雀の目はますます冷たさを帯びていた。それは、月夜の見たこともない顔だった。
ついに月夜の親指の付け根まで怜央のペニスが呑み込んだ。朱雀は確認のように何度か親指を抜き差しすると、それを引き抜きウェットティッシュで手を拭った。怜央のペニスは喜びに打ち震えながら尿道口はコンドームを食んでいた。

月夜はキャビネットの扉を開けると文房具の棚を漁り、単一乾電池と単二乾電池を二本ずつ取り出して怜央の傍に置き、月夜に向ってこう言った。
「すみません。後で弁償しますから」
朱雀はハンドクリームの細い先端を怜央の尻の中に捻じ込んで中身を絞ると最後の残りを尻の周りに塗り付けた。怜央は朱雀に全てを委ねたまま微動だにしなかった。朱雀は再びポケットからコンドームを取り出して単一乾電池を縦に二本入れてコンドームの口を縛って閉じ、怜央の尻にゆっくりではあるが強引に押し込んだ。
「はああ」
怜央が力なく喘ぐ。続いて朱雀が単二乾電池を怜央の尿道口からはみ出しているコンドームを通して宛がった。

「むりっ」
それを目の当たりにした月夜が小さく叫んだ。
朱雀は月夜の声に反応することなく角度を変えながら尿道口を広げ続けると、次第に呑み込まれて行く様に月夜は手で目を覆った。月夜には到底無理と思われたことを目の当たりにした月夜は思わず視線と共に体をそむけたが、朱雀は気にも留めない様子だった。ついに怜央のペニスが乾電池をペニスの根元まで受け入れると、それは人外の物体の様に膨らんだ。
「気持ち良いですか?」
朱雀が心の篭らぬ声色で怜央に問いかけると、怜央が満足げに口を開いた。
「朱雀様のして下さることは全て僕の喜びです」
怜央の恍惚とした表情は崩れることがなかった。朱雀がチラリと時計を見て「今日は水曜日か」と呟くと、怜央をその場に残して月夜をその場から連れ出し、少し離れた廊下の角に連れて行った。
「ちょっと朱雀、あんまりだよ。あんな事」
月夜が言葉を詰まらせると朱雀は月夜に向けるいつもの柔らかな表情でシーっと人差し指を口に当てた。

コツコツコツ。
誰かの足音がフロアに乾いた音を立てた。懐中電灯の明かりが足音の主の足元をゆらゆらと照らす。足音の主が開けっ放しの室内を見たとたんに硬直したように動かなかったが、数分後、中へと姿を消した。
朱雀と月夜は足音を立てぬように怜央のいる部屋へと近づいた。


「今日くらいは施錠し忘れてねえかなあ」
坂口はあれから毎週自分の勤務日の水曜の定時巡回には右代取締役の鍵のチェックをしていた。
「あれ、開けっ放し。無用心だな」
坂口が自らの目的を棚に上げて呟くと、部屋に入ろうとした。そして、中にいる人物の姿を見た途端凍りついたように固まった。

「おいおい。すげえかっこしてんな。っていうかちんぽ壊れちまってんじゃねえか?」
暫く入り口で固まっていた坂口がその人物に近づいた。以前、会話をした愛嬌のある笑みを浮かべていた怜央の痴態に坂口はゴクリと喉を鳴らした。
「誘ってんのか?まさかな。でもこんな時間には俺くらいしかいねえしな。あらかじめちんぽとケツに仕込んで待ってたってか?」
坂口がどうすべきか逡巡するが怜央のなまめかしく、そして彫刻のように滑らかな肌に再び喉をゴクリと鳴らした。
「男は女よりイイって聞いたことあるんだよな」
坂口の視線が怜央の裸体を舐めまわす。
「最近ご沙汰だし、男抱いたことはねえがこいつならいけそうだし」
坂口が言い訳がましく一人言を続ける。
「こいつもこんなの挿入れるより本物の方がいいだろうし。俺が来るのを待ってたみてえだし」
坂口が怜央の傍に傅くと怜央の尻からはみ出るコンドームを抜いた。
「おいおい乾電池でお楽しみかよ。俺を待ってたにせよそれじゃああまりにも味気ねえだろ」
坂口の股間は既に膨らんでいた。
「人助けだよな?据え膳喰わねば何とやら、だよな」
自分の都合の良い解釈を並べた坂口がスラックスの前を寛がせ、一気に挿入した。
「んあああっ」
怜央が嬌声を上げた。
「やっべえ、挿入れただけでこれかよ。こんなにいいもんなのかよ男は」
怜央に挿入した坂口が未知の体験に理性の糸が切れ、瞬く間にひたすらに腰を振り始めた。
「やべえ、やべえ。もう女抱ける気しねえ」
坂口が夢中になっていると正気に戻った怜央が暴れ始めた。
「誰だよ、あんた。なにしてんのさ、抜け、粗チンなんか挿入れんな」
怜央が喚き散らすがもう後戻りできないところまで来ていた坂口は、ガツガツを勢いを増して腰をぶつけ始めた。その衝撃に怜央のペニスの奥深くまで入り込んでいる乾電池の+極の突起が、その重さで怜央の前立腺を重く刺激した。
「ああ、あん、あん」
怜央の口から惜しみない嬌声が零れると、気を良くした坂口が調子に乗る。
「あんたいい声で啼くじゃねえか。粗チンて言ってた割りに喜びやがって」
「あん、やっあん、抜け、ああん」
坂口が腰を振る間、朱雀と月夜が気配を消してその光景を見ていた。
「だめ、イク、やあ、イクうっ」
怜央が体の奥を震わせてドライで達すると、坂口が熱を放つ直前に「嵌っちまいそう」と呟いて身を震わせた。

「はい、レイプの現行犯ですね」
事が済んだのを見届けた朱雀は部屋の中に入るやいなや冷たく言い放った。
坂口がギョッとして振り返った。
「あんた、いつからそこに?」
「そんなことより被害者から早く離れてください。いつから?初めからですよ」
朱雀のその言葉に怜央が「えっ?」と小さく発した。

(初めから見てたって事は最初から僕をスケープゴートにしたって事?未然に助けられたのに、しなかったの?)
怜央は朱雀の冷酷な対応に全身に冷水を浴びせられた思いだった。

「貴方は契約している警備会社の方ですね。明日の朝一番でそちらの会社の上司に報告させていただきます」
慌てて身支度を整えた坂口に朱雀が威圧感を放ちながら伝えると、坂口は逃げるように部屋を出て行こうとした。
「あ、待ってください。最後に一言だけ」
朱雀がビクつく坂口の傍に近づくと坂口にしか聞こえぬように話し始めた。
「ここで見たこと全て他言無用ですよ。もし、約束を守れなかった時は法的に制裁措置を取らせていただきます。証拠は私の携帯に保存してますからね。いいですね、『コソ泥のジョー』さん」
朱雀が坂口の全てを見透かした目で念を押すと、坂口が「ひーーー」と叫びながら走り去って行った。
朱雀が首を竦めて「キツク言い過ぎましたかね」とおどけた。

朱雀が怜央を見ると既に月夜が助け、介抱していた。怜央はしゃくり上げて泣いていた。朱雀は静かに近づいて抑揚のない声色で怜央に話しかけた。
「私にはこれでもぬるい位です。月夜さんを傷つける者は喩え誰であろうと許しません」
「ちょっと朱雀、こんな時に」
月夜が仲裁に入ろうとしたが朱雀は続けてこう言い放った。
「人は罪を犯したら必ずその罰を受けなければなりません。君の罰は私の最も愛する人を傷つけようとしたことです。それに、今回のことはそういうプレイだと割り切れば、君にはダメージも少ないでしょう」
朱雀は怜央のペニスに残る乾電池を抜き取ると、二つのコンドームに包まれた乾電池を元の場所に戻した。
「そうですね、君は明日から暫く休暇をとってはいかがですか?ここ最近、残業続きでしたから。右代取締役には私から伝えておきます」
冷徹とも取れる朱雀に呆れた月夜は、デスクの下に転がる小箱をバッグの中にそっと仕舞い込みながら、朱雀の月夜への尋常ではない執着心と重く圧し掛かる愛情をこの時再確認した。

「怜央を送ってくる」
月夜は朱雀が怜央の腰に手をあて、部屋を出ようとしたところでスルリと朱雀が月夜を抱き締めた。
「早く、私のとこへ帰ってきてくださいね」
隣でしょんぼりする怜央に気を使った月夜は「離せ、ばか」と悪態をついた。
「でないと、私は心配で貴方の体にGPSを埋め込んでしまいそうです」
朱雀の恐ろしい発言に、一瞬背筋が凍りついた月夜は「早めに戻るからいい子にして待ってろ、ばか朱雀」と再び悪態で返した。
朱雀はそんな事を気にかける様子もなく「いってらっしゃい」と月夜の知るいつもの朱雀の柔らかな声色で二人を送り出した。


帰国後間もなく、ヒカルは高校時代の同級生である佐久間 準に連絡をした。

「よお、ヒカル。やっと戻って来れたんだな。飛ばされたドバイからの国際電話以来じゃないか」
佐久間は歯に衣着せぬ物言いでヒカルに帰国の歓迎を告げた。時に毒舌な物言いをする佐久間を知るヒカルはその話題には触れずに本題に入った。
「俺の送った血液検査の分析結果、お前の見解はどうだ?」
ヒカルは慧に薬を盛られた翌日から休んでいる間にドバイ インターナショナルホスピタルで血液検査を依頼し、その分析結果を佐久間に送っていたのだった。
有名薬科大学を卒業した佐久間は、大手の医薬品メーカーに研究者として勤務していた。ヒカルは最も信頼できる人物の一人である佐久間に、違法ドラッグに関しての見解を求めたのだった。

「ああ、見たよ。だけどデータを見る限りでは違法な薬品による物とは断定できないな。多少、数値が振り切れてる項目もあるにはあったが、お前の体が頑丈すぎて未知の免疫とかで消滅したんじゃねえの?」
佐久間はあははと電話口の向こうで声を出して笑った。かつて高校生時代に雅に痺れ薬入りのリップクリームを摂取させたり、耐性をつけるために不必要に市販薬をランダムに複数摂取をしていたヒカルは、佐久間の冗談に反論はできなかった。
「ただ」
佐久間の声色が急に真剣な物に変化した。
「いたって合法な薬品同士もそれぞれ相性があってさ、同時摂取することで本来の治療効果が飛躍的に上がる場合もあれば、その逆で治療効果は認められないけど副作用だけはハンパねぇ組み合わせもあるからな。
俺があのデータから思うに、その副作用の発生に効果覿面同士をいろいろぶち込みゃあ、そりゃあ副作用でめまい、幻覚、興奮作用、頭痛、吐き気、痙攣、最悪の場合死に至る可能性だって否定はできないな」
佐久間の意見を聞いたヒカルは佐久間に会社宛に宅配便を送った事を知らせ、それが届き次第連絡をくれるように頼んだ。


それからヒカルは同じく高校時代の同級生である藤原 惟光に電話を掛けた。
「ああ、ヒカル。日本に戻ったって風の便りで聞いていたよ。おかえり」
惟光は素直にヒカルの帰国を喜んだ。

「お前、まだ警視庁にいるのか?」
ヒカルの単刀直入の質問に、惟光は遺失物係に異動になった事を伝えた。
「悪いんだが、内密に調べてほしい人物がいてな」
ヒカルは惟光に加納 凌駕という名を上げた。
「んー、ヒカルまさかトラブルに巻き込まれたんじゃないよね?」
いつもは天然炸裂の惟光が刑事の感を発揮してヒカルに詰問した。
「いや、俺じゃねぇんだ」
ヒカルは惟光に心配を掛けまいと軽く答えた。
電話の向こう側の惟光は少し沈黙をしたが、「ヒカルがピンチのときは僕が力になるから、いつでも頼ってよ」とヒカルに告げた。

通話を終了したヒカルは「頼りにしてるからお前に連絡したんだろ」ヒカルは心強い見方である佐久間と惟光に心の中で感謝した。


ドバイに異動した事で日本における不動産の実情が気になっていたヒカルはある一人の人物を思い出し、なつかしい気持ちも手伝って一軒の不動産屋の前に来ていた。
『常陸不動産』、高校時代引き込もりで三年間を自宅で過ごした勇輝の父親が社長を務める不動産屋だった。年代を思わせるスライド式のガラス戸をガラガラと開けてヒカルが中に入ると「はーい」と奥から声と共に一人の女性がヒカルを迎えた。
清楚な淡い色のワンピース。明るめの栗毛のトレートの長い髪、真っ直ぐに切り揃えられた前髪、付け睫をしているのであろうその目を見た瞬間にヒカルは「勇輝か?」と思わずつ呟いた。
「ヒカル君」
勇輝が久しぶりに見るヒカルに、信じられない物を見るように驚きを隠せないでいた。勇輝は言葉に詰まったように何も言わなかった。
実に約十一年ぶりの再会であった。
「部屋から出られたのか?今は親父さんの手伝いしてるのか?親父さんにちょいと聞きてえ事があって」とヒカルは矢継ぎ早に勇輝に話しかけると、勇輝の目に涙が瞬く間に溢れ出した。
「おい、どうしたんだ?親父さんに何かあったのか?」
ヒカルの質問に勇輝はただただ首を横に振るだけだった。ヒカルは来客用のソファに勇輝を座らせると自分も反対側にあるソファに腰掛けた。

程なく落ち着きを取り戻した勇輝がヒカルにポツリポツリとヒカルの問いに答えるように話し始めた。
「一年前の昨日、深夜に突然父さんの寝室で大きな物音がして、慌てて駆けつけたら父さんがベッドの傍で倒れてて。急いで救急車を呼んだんだけどそのまま意識は戻らなくって。急性心不全だって」
ヒカルは「どうして知らせてくれなかったんだ」と勇輝に言おうとしたが、その頃のヒカルは社内でのゴタゴタで神戸への異動が慌しく決まり、それどころではなかった事を思い出して口を噤んだ。
「父さんの死を悲しむ間もなく通夜と葬儀を済ませたら、親戚の人たちが一杯来て、うううん、知らない親戚の人も来て父さんに貸した金を返せって。僕はどうすする事も出来なくて、あれよあれよと言う間もなく父さんの会社は切り売りされて僕に残されたのはこの店だけ」
勇輝が再び涙を滲ませて俯いた。
「あの家は?向かいにあるお前たちの家もか?」
ヒカルがドア越しに聳え立つ豪邸を見ながら勇輝に聞くと勇輝は俯いたまま首を横に振るだけだった。
「家も追い出されちゃったから今は、近くの安いアパートで暮らしてる。僕ね、頑張ったんだよ。ヒカルさんに勇気を貰ったから、これじゃいけないと思って少しずつ外へも出るようにしたんだ。二十歳の誕生日に父さんに仕事を手伝いたいって伝えたら凄く喜んでくれて。父さんはヒカル君に感謝してた。会わせてあげられないのが残念だけど」
勇輝が精一杯の強がりでヒカルに小さく微笑んだ。
「ヒカル君が今日来てくれて良かった。昨日がちょうど一周忌で僕は店を閉めていたから。これもきっと父さんの計らいだよね」
勇輝は再び小さく微笑んだ。話を聞き終えたヒカルは「親父さんの仏壇に線香、上げさせてもらえないか」と願い出た。

「ごめんね、こんなボロアパートで」
店から徒歩で数分の所に住むと言う勇輝のアパートにヒカルを招いた勇輝が申し訳なさそうに表情を硬くした。六畳一間の畳部屋の一角に置かれた小さなテーブルに勇輝の両親の写真と位牌があるだけの、あまりに質素な仏壇にヒカルは手を合わせた。
線香を上げたヒカルはポケットから一万円札を取り出すと、仏壇に供えた。勇輝に向き合ったヒカルは「親父さんの供養に使ってくれ」と付け加えた。勇輝は「ありがとうございます」と頭を下げた。
「お茶、入れるね」
勇輝が思い立ったように立ち上がって玄関脇の一畳にも満たないキッチンで湯を沸かし始めた。ヒカルに背を向けたままの勇輝の背中を見ていたヒカルが、勇輝の肩が震えているのに気がついた。ヒカルはそっと立ち上がり勇輝の背後に立つと「大丈夫か?」と声を掛けた。
小刻みに震えていた勇輝の肩が次第に大きく振るえ、勇輝が声を殺して泣いている事をヒカルは悟った。

「大丈夫じゃない、全然大丈夫じゃない。寂びしい。寂びしいよ」
勇輝が振り向いてヒカルにしがみ付いた。ヒカルが勇輝の震える肩に手を置くと、勇輝が泣き顔を隠そうともせずにヒカルを見上げた。
「抱いて、ヒカル君。今だけで良いから、会いに来てなんて贅沢は言わないから。お願い」
ヒカルの脳裏に紫上の顔が浮かんだが、ヒカルはガスの火を止め勇輝のスカートを捲り上げたが、滑らかな肌触りのスカートはヒカルを手こずらせた。
チッ、ヒカルが舌打ちすると察したように勇輝がワンピースを脱ぎ捨てた。女性物の白のブラジャーとショーツ姿になった勇輝の体を後ろ向きに立たせると、ヒカルがスラックスのジッパーを下げてペニスを露にさせた。背後から感じるヒカルの気配に勇輝がシンクにしがみ付いた状態でヒカルに告白した。
「たぶん、直ぐ入ると思う。ヒカル君に貰ったあれと指で今朝も一人でしたから」
勇輝の言ったあれとはエネマグラのことだった。
「今まで一人で耐えてきたからな、今日は直に俺を味合わせてやるよ」
ヒカルは右手で自らのペニスを握ると、勇輝のショーツの隙間から尻にペニスの先端を擦りつけ、次第ににじみ出る体液を塗り付けながら抉じ開けるように下肢を動かし始めた。徐徐にヒカルのペニスが勇輝の中へとめり込む。勇輝が興奮して息を荒く吐いていた。ヒカルのペニスが根元まで収まると、ヒカルは勇輝の尻を両手で割り開き、大きく下肢を一突きした。
「ああっ」
勇輝がとっさに出た嬌声に、ハッとしたように両手で口を覆った。
「賢明だな、じゃなきゃ聞こえちまうからな」
壁の薄さを暗に指し示したヒカルは、本領発揮とばかりに下肢を大きく撓らせた。
「うう、あん、ヒカル君の熱くて固くて気持ちいい」
ヒカルは義務感に駆られながらひたすらに立ちバックで下肢を打ちつける。その度に勇輝は零れ落ちる喘ぎ声を抑えるのに必死だった。
「このまま突いて、イク、イッちゃう」
勇輝が切羽詰ったように啼くと、そのままドライで達した。
「久しぶりだからか?それとも生だからか?」
へなへなとその場に崩れ落ちた勇輝の体を支えながら挿入が外れないように床にうつ伏せになった勇輝に休む暇を与えることなくヒカルは獣のように後ろからガツガツと犯し始めた。
「生は気持ちいいだろ、せっかくだ、もっとイカせてやる」
体に力の入らない勇輝が力を振り絞って身に着けていたワンピースを手繰り寄せると、口に銜えた。
「んん、んんん、んん」
ヒカルの激しい腰使いに、興奮した勇輝の長い髪の毛がさらさらと床に広がる。ヒカルは勇輝の尻を更に割り開いて自らのペニスが勇輝の中に行き来するさまを見ていた。
「ヒカル君の、気持ち、いい、んああっ」
勇輝が再び呻くとドライで達したが、ヒカルのペニスは硬いままだった。
「だろ、いいだろう、生は」
下肢を打ちつけ続けるヒカルの額に汗が滲む。
「いい、気持ちいい」
勇輝は自らのペニスを触ることはなかった。
「ちゃんと、男の娘してたんだな」
ヒカルが感心した様に独り言を漏らした。
「い、いま、では中でイク、方が、好き」
勇輝の言葉にヒカルがほくそ笑んだ。
「なら、何度でもイカせてやる」
ヒカルの行為に勇輝はドライを繰り返し、最後には最早声を出すことも出来ないほどだった。

(そろそろ終わらせるか)
ヒカルは目を瞑って紫上を抱いている時の記憶を手繰り寄せた。
「んああ」
ヒカルのペニスが勇輝の中で膨張したことで勇輝が無意識に弱弱しく喘ぎ声を上げて幾度目かのドライを迎えると、ヒカルは天井の染みをぼんやりと見つめ紫上に抱かれた昨晩を思い出すと瞬く間に勇輝の中で果てた。
流石に消耗したヒカルがすとんとその場に座り込み、ポケットからハンカチを取り出して汗を拭った。全てを出し切り呼吸が落ち着いたヒカルはズルリとペニスを引き抜くと、キッチンペーパーでペニスを拭って身支度を整えた。

「大丈夫か?」
ヒカルに声を掛けられた勇輝が目を空ろにさせま焦点の合わないままヒカルのほうに顔を向けた。
「ありがとう、ヒカル君。これでまた、頑張れる」
勇輝はそれだけを言い残すとヒカルに抱かれた余韻の中に意識を潜り込ませた。満たされた表情の勇輝をそのままの状態で残すと、ヒカルは勇輝のアパートを後にした。


ガチャリと玄関の扉の開いた音に反応した朱雀が慌てたようにリビングを後にした。
「おかえりなさい」
朱雀の出迎えに月夜が「ただいま」と小さく返した。どことなく元気のない月夜の雰囲気に朱雀が心配し始める。
「月夜さん、怖かったでしょう。明日、心療内科に一緒に行きましょうか?」
朱雀がおろおろと月夜の顔を覗きこむ。
「大丈夫だよ、僕はね」
月夜は嫌味を込めた。
「僕はねってことは他には誰が?」
朱雀の言葉に絶句した月夜が口をぽかんと開けた。
「怜央に決まってるだろ。傷ついてる怜央に対するお前の態度、もう少しましな言い方ってもんがあっただろ。優しくするならまだしも怜央に冷水を浴びせたんだぞ、お前は」
月夜が苛立ちと共に朱雀を責めた。
「どうして私が月夜さん以外の人間に優しくする必要があるんですか?」
朱雀に度重なる発言と、私は何か間違っていましたかと言いたげな表情に月夜があっけに取られたように目を見開いた。
「お前冷たい」
月夜が今度こそ苛立ちを朱雀にぶつけると、朱雀は月夜の頬をそっと両手で包み込んだ。
「私は愛する貴方以外の人間には何処までも冷酷になれるんです。怜央は自業自得です。愛する者を傷つけようとした罰はあれでも足りないくらいです。遠かろうが曲がりなりにも親戚ですからあれくらいで留めましたが、そうでなければ社会的にも抹殺していましたよ」
朱雀が恐ろしい発言にそぐわぬほど月夜を愛しい者を見る眼差しで見据えると、鼻先を月夜の鼻先にこすりつけた。
「それとも、月夜さん以外の人間にも優しくしろと貴方がおっしゃるのなら、全力でお断りしますけどね」
朱雀の真剣な眼差しが、月夜に拒否権を与えなかった。
「そう言われて悪い気がしないなんて、僕もお前にそうとう毒されてる気がする」
月夜が呆れた様に溜息を吐き出すと、「怜央の件はこれで終わり。腹、減ったな」と朱雀に伝えると、「そうだと思ってもう用意してますよ。ボンゴレです」朱雀が喜々としながら月夜に中へ入るように促した。

「ビアンコ(白)?ロッソ(赤)?」
寝室で着替える月夜が離れた場所にあるキッチンにいる朱雀に向って叫んだ。
「ロッソ。もちろんトマトベースに決まってます」
てっきりキッチンにいると思っていた朱雀が背後からするりと月夜を抱き締めた。
「貴方の好みを私が間違えるとでも?」
したり顔の朱雀が月夜に「お帰りのキスしてませんよ」と口付けた。キスが濃厚になる一歩手前で朱雀は月夜から離れ寝室を出て行こうとしたが、リビングのライトの逆光を浴びながら月夜に思い出したように付け加えた。
「食後のデザートは貴方の体でいただきますね」
それを聞いた月夜が間髪入れずに「ヘンタイ朱雀」と朱雀に聞こえないように口にすると、「貴方限定ですけどね」と朱雀の嬉しそうな声が月夜の耳に届いた。
「ばか」
照れ隠しのようにくるりと戸口に背を向けた月夜がキラリと光った物体に近づくと、それは朱雀のリングだった。リングはベッドサイドのチェストの上でリビングの明かりを妖しく照らし返していた。そのリングを認識した途端、ズクリと体が反応した月夜は、「ヤバイ、これじゃあパブロフの犬じゃないか」と小さく微笑んだ。
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