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【明石】Akasi
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「K(Kei)、あたし決めた。あいつにする」
Kと呼んだ女は隣にいた男に顎をしゃくって遠くにいる男に狙いを定めた。
「え?あの人にするの、M(Emu)?」
Kと呼ばれた男はMと呼んだ女に動揺を悟られぬように見つめた。
「そうよ、だってあいつ、Kが好きそうなタイプじゃん」
Mが狙いを定めた男を見ながらKは目も合わせようとはしなかった。
「文句ないよね、あんたはあたしの幸せのための奴隷なんだから」
Mは舌なめずりをしながら悪魔のような笑みを浮かべた。
「宮内君、着いたばかりで急なんだがドバイへ行ってもらうよ」
神戸支社への初出社で、ヒカルは支社長の【森内 要】(Moriuchi Kaname)からドバイ支社の設立プロジェクトの任を命じられた。
「左代取締役からはくれぐれも良しなにと仰せつかっている。決して悪いようにはしない。今は右代派の手の及ばない海外へ行ってもらうよ」
森内は穏やかな笑みを讃えながらもするどい眼光でヒカルを見据えた。
ヒカルは約十二時間かけてドバイ国際空港へと降り立った。UAE(アラブ首長国連邦)のイミグレーションを抜けると、『かんげい Mr. Hikaru Miyauchi』と書かれた紙を掲げ、白いカンドゥーラ(UAEの正装)を纏うアラブ人らしき三十代半ばに見える一人の男がヒカルの目に止まった。
ヒカルがその男に向って歩き始めると、その男はヒカルに気がついたようにヒカルのほうへと近づいてきた。
「Mr.Miyauchiですか?」
アラブ人らしき男はグリーンの瞳でヒカルを見つめた。
「ああ」
とヒカルは簡素に答えると男は目尻を下げて右手を差し出した。
「ようこそ、UAEへ。Mr.miyauchi。私は【カミール サレハ】といいマス。カミールと呼んでクダサイ」
と流暢な日本語で挨拶した。ヒカルもその手に応じ「俺もヒカルでいい、よろしく」とカミールの手を握った。
カミールは「オフィスに行く前に我が国の自慢をお見せシマス」と言ってヒカルを車に乗せた。
ヒカルが連れてこられたのは世界一高いビルで有名な『ブルジュ・ハリファ』だった。
「日本も高いビルあると聞いてマス。確かTokyoスカイツリーデスカ。Tokyoスカイツリーは六三四metersデスガこのブルジュ・ハリファは八二八metersアリマス」
とグリーンアイズを喜々とさせてヒカルに説明した。エレベーターが到着を知らせるとカミールは「百聞は一見にしかずデス」とヒカルを展望台へと促した。
展望台から広がる眼下を目の当たりにしたヒカルは「凄げえな」ぼそりと呟いた。
「デショウ?砂漠の真ん中にある近代都市デス」とカミールは誇らしげに語った。
「あいつにも見せてやりたかったな」
ヒカルは紫上を思い出し思わず口に出した。
「アイツ?」
カミールが不思議そうに聞き返した。
「いや、こっちのことだ」
ヒカルはその場を濁した。
「コッチ?ドッチ?」
カミールが不思議そうにヒカルに聞き返したがヒカルは何も答えることなくその見事な景色を堪能した。
オフィスへ向う車窓を眺めていたヒカルはふと気づいたようにカミールに問いかけた。
「ずい分外国人が多くないか?」
それを受けたカミールが感嘆の声を上げた。
「ヒカルスゴイデスネ。我が国の人口の約八三%は外国からの出稼ぎ労働者なのデス。Indianが一番おおいデス。大体七五%くらい占めてマス」
カミールの説明にヒカルはふーんと相槌を打った。
「まもなくオフィス着きマス」
後部座席からカミールは運転手の男にアラビア語で何か指示を出した。
「ようこそ、Mr.Miyauchi」
オフィスに通された責任者らしき赤いカンドゥーラを纏った男がヒカルを出迎えた。灰色の相貌を讃えたそのアラブ人の男はカミールよりも日本語が堪能だった。五十台前半に見えるその男は【マフムード ターヒル】と名乗った。
「ここの人間は皆日本語が話せるのか?Mr.ターヒル」
ヒカルの質問にターヒルは「マフムードで良いですよ、私もヒカルと呼ばせてもらいます。そうです、こちらに支社のお話があってから私たちは日本語を学んだのです」と日本語で答え、『ベッドの中でね』とアラビア語で最後に何かを付け加えた。
ヒカルはその最後の一言が気になったがあえて気に留めなかった。
「お疲れとは思いましたがヒカルの歓迎パーティをホテルにご用意しました。今日はそのホテルにそのままお泊りください。明日、ヒカルの滞在先のヴィラへ案内させますから」
ヒカルはカミールに連れられてホテルの一室に荷物を置き、簡単にシャワーを浴びた後、歓迎パーティ会場へと赴いた。ヒカルの宿泊する部屋の直ぐ上の階に会場は設置されていた。
パーティ会場で、同じオフィスで働いているという数名と挨拶を交わしたヒカルが一人で酒を飲んでいると、カミールが話しかけてきた。
「主役が一人で飲んでるんデスカ?」
グリーンアイズのカミールは笑うと少年のように幼く見えた。
「ヒカルはいい時にこちらへ来マシタ。『ラマダン(断食月)』の時期は先週で終わりマシタ」
カミールはラマダンについてヒカルに説明した。イスラム教徒にはイスラム暦があり五行の一つ『サウム(断食)』があること。イスラム暦では今年二〇一九年は一四四〇年に当たり五月六日から一ヵ月がサウムの期間であること。
「へー、なのにカミールはオレンジジュースなんてもん飲んでるんだな」
ヒカルはカミールをからかった。
「好きでオレンジジュースの訳アリマセン。我が国では飲酒は二一からと決められているのデス。私はまだ二十なので」
カミールが二十歳と知ったヒカルは驚きのあまりグラスを落としそうになった。カミールはヒカルの反応にクククと笑い出した。
「日本人のその反応ヒサシブリ。私の年を聞いた日本人みな同じ反応シマス。私から言わせれば日本人のほうがamazing(驚き)デス。日本人見た目若い。マフムードは三十七デス」
「五十前半かと思ったぜ」
ヒカルの思わず口をついて出た言葉にカミールが今度こそ大笑いをした。
二人の会話が盛り上がっているところにマフムードが現れた。
「すっかり打ち解けたようで嬉しいです」
マフムードがシャンパングラスを掲げて「改めてようこそ」とヒカルを歓迎した。
「さて、お楽しみはこれからです」
と言って指をパチンと鳴らした。
ガチャリとドアが開くときらびやかなドレスを着た東洋人たちが入ってきた。
「留学生コンパニオンです。ヒカルの歓迎会のために今日は日本人で揃えました。日本人のおもてなしの心、見習うべきところです」
マフムードが含み笑いを灰色の目に浮かべた。
いつの間にかカミールの姿は消えていた。
マフムードはヒカルに近づき、内緒話をするように小声で囁き始めた。
「私のお勧めはあの娘ですよ」
マフムードが視線で一人の女性にヒカルを誘導すると、その女性もヒカルを見ていたらしく目が合った。気の強そうな強い目をした美貌の持ち主であるその女性はヒカルと目が合ったと気づくと妖艶に微笑んだ。
「あの娘は口が上手いんですよ」
マフムードの言葉に引っかかりを覚えたヒカルがマフムードにその真意を聞こうとしたところでマフムードがその女性に声を掛けた。
「M、こっちだ」
Mと呼ばれた女性は真っ直ぐにヒカルとマフムードの元へと歩いてきた。その歩き方をみたヒカルは僅かに足を少し引き摺っていることに気がついた。
「M、今日も綺麗だよ。今日からうちのオフィスで働く仲間のMr.Hikaru Miyauchiだ。おもてなし、よろしく頼んだよ」
マフムードがヒカルをMに紹介してその場を離れていった。
残されたヒカルにMは笑顔を湛えて自己紹介した。
「はじめまして、Mと申します。こんな素敵な方と異国のこの地で会えたのも何かのご縁ですわ、どうぞよろしく。あちらで少しお話しませんか?」
Mはヒカルにエスコートするように右手を出した。ヒカルは飲みかけのグラスを傍のテーブルに置いてMの手を取った。Mを椅子に座らせたヒカルは飲みかけのグラスを持ってくるついでにMにも何か飲み物を持ってくると告げると、Mはにっこりと微笑んでヒカルに隣に座るように促した。
「大丈夫ですわ。K」
MがKと呼ぶと、正装した若い男がヒカルのグラスとワイングラスを持ってやって来た。
どことなくMに似た、美しいと言う表現がふさわしいその男性は、優雅な足取りでテーブルまで来ると、それぞれのグラスを置いて去って行った。
ヒカルとMは暫く会話を楽しんだ。「口が上手い」と紹介したマフムードの評価ほど、ヒカルはMとの会話を楽しめず、酒を飲むピッチが次第に早くなっていった。ヒカルのグラスが空になる度にKが新しいグラスを持ってきた。
数杯目のおかわりで酒は弱くないはずのヒカルが軽くめまいを訴えた。
「まあ、大変。移動の疲れもあるのですわ」
Mはヒカルに部屋で休むよう勧め、ヒカルもそうすると同意した。ヒカルはKに肩を借りながらの部屋までたどり着くとそのまま意識を手放した。
ヒカルは夢を見ていた。
「ヒカルさ、ヒカルさん」
紫上の声が聞こえた気がしたヒカルが目を開けると紫上がヒカルのペニスに奉仕している最中だった。
「んん、はぁ」
気持ちのよさにヒカルの口から快楽による吐息が漏れた。
「紫上、お前はそんな事しなくていい」
ヒカルは高揚の中で紫上の髪を優しく撫でた。すると紫上が顔を上げた。紫上は涙を流していた。
「ヒカルさん」
ヒカルのペニスを銜えているはずの紫上に名前を呼ばれたような気がしたが、快楽には抗えずにヒカルは紫上の口内で果てた。それでも紫上は奉仕を続け、ヒカルのペニスは直ぐに熱い肉棒へと成長した。
次にヒカルが目にしたのは紫上が騎乗位で腰を振っているところだった。
「お前にはそんな事させたことねえだろうが。紫上らしくねえ」
ヒカルは自ら起き上がり、下肢を打ちつけ主導権を紫上から奪うと、感じるままに一心に突き上げ続けた。
途中、幾度か女の嬌声のような雑音が聞こえた気がしたが、紫上を抱くヒカルはそれをシャットアウトしていた。ヒカルは、何度も体位を変えては紫上を絶頂へと導いた。
「痛ってえ」
ヒカルは頭痛とめまいで目を覚ました。体を起こして髪をかき上げたヒカルの隣で全裸の女が眠っていた。ヒカルもまた服を纏っていなかった。
「目が覚めましたか?」
ヒカルが声のするほうを見ると昨夜見知った顔がそこにはあった。
「おまえ、確かKとか言ったウェイター?」
一気に険しい表情になったヒカルが朦朧としたままの頭で必死に昨夜の出来事を思い返した。
「ずっとそこにいたのか?」
ヒカルの険しい表情がますます険しくなった。Kは窓際の椅子に座ったまま穏やかに話し始めた。
「はい。昨晩パーティで気分が悪くなったとおっしゃったので部屋までお連れしました」
ヒカルは頭痛とめまいのする頭で必死に思い起こした。ヒカルは、このめまいの正体を知っていた。
「お前か、俺に薬を盛ったのは?」
ヒカルが静かに怒りを露にした。
「否定はしません。でも、途中からは貴方の意思で姉を抱いていたように見えましたよ。シジョウと呼びながら。恋人ですか?」
Kはあくまでも穏やかな口調だった。
「姉?おまえら姉弟か?それに紫上は恋人じゃねえ、それ以上だ」
ヒカルの怒りが次第に増幅する。
「何でこんなことした?」
ヒカルの問いにKは淡々と説明し始めた。
「僕たちはただのコンパニオンではありません。僕たちの表向きは留学生ですが、本来の目的は売春です。貴方のオフィスのマフムードは僕たちの元締めと繋がりがある人物の一人です。纏めたい商談があるときや交渉ごとに置いて優位に立ちたいときに僕たちは呼ばれるんです。彼らの日本語が堪能なのも僕達をそれだけ贔屓に使ってくれたからです」
カーテンの隙間から零れる朝日がKの美しさをいっそう際立たせる。
「パスポートでも取り上げられてるのか?」
ヒカルはKから少しでも情報を引き出そうと怒りを抑えていた。
「いえ。パスポートは取り上げられてません。アコモデーション(住)だけは保障されています。
僕たちはコンパニオンとして呼ばれた日、誰かと一夜を共にすることで報酬を得ています。でもその報酬があまりにも安すぎて飛行機代はおろかその日の生活にすら貧窮する実情なんです。貴方のようなお金持ちにはわからないでしょうが日本でも僕たちは貧しい生活を強いられてきました。そして出稼ぎでこのドバイに来れば高額報酬が得られると騙されてこの地へ来ました。
ここドバイは物価が安くはありません。一AEDが日本円で約三十円。ビックマックが十五AED、日本円で四百五十円、ラテの一杯ですら十六AED、480円もするです。
そして僕たちが一晩で得る報酬は五百AED、日本円にして一万五千円ですが、月に五回以上は仕事をさせないようにローテーションが組まれているので月に二千AED、月収六万円ぽっちです。
仮にビックマックだけで三食暮らしたとしても食費だけで千三百五十AED、日本円にして四万五百円もかかるんです。残りの六百五十AED、一万九千五百円しか残らないのに、そこから生活必需品なんかを買い足していたら飛行機代を貯めるどころか赤字になることだってあるんです」
今まで穏やかに話していたKが拳を握り締めて美しい表情をはじめて崩した。
「姉だけは、せめて姉だけはこんな生活から解放してあげたい。だから、僕は賭けに出ることにしたんです」
Kの表情から感情が消えた。
「僕は男ですから関係ありませんが女性である姉はピルの摂取が義務付けられています」
Kの言葉の意味をいち早く察したヒカルは背中に嫌な汗が伝う気がした。
「昨日、姉にはピルだと嘘をついてただのビタミン剤を渡しました。姉の生理周期は把握してますから」
そこまで聞いたヒカルは頭痛も、めまいも一気に失せ、目の前が真っ暗になったような気がした。
「もし、姉の体に何の変化もなければ、僕たちはもう貴方に会うこともないでしょう。でももし僕が賭けに勝ったなら、いずれ再び会うことになります。姉には理由をつけてしばらく仕事には出させないつもりですから」
Kの目には強い意志が込められていた。
「金、ねえんじゃなかったのかよ」
苦し紛れにヒカルがKを問いただした。
「僕は一日一食しか食べないようにして節約してましたから、それを使います」と言ってKは優雅に立ち上がるとMの体を揺すり起した。
「姉さん、姉さん起きて。帰る時間だよ」
Kに起されたMは不機嫌そうに「もうちょっと眠らせてよ。あんな激しいセックス久々でまだ寝足りないのに」と文句をいいながら昨晩身につけていたドレスを身に着けた。
Kとヒカルの会話を知らないMは「あんたの顔も体もセックスも最高だったよ。あたしのフェラも良かったろ」と自らの上唇を舐め回し美しいがいささか品に欠ける妖艶な笑みを浮かべて部屋を出て行った。
一人残されたヒカルは眉間にしわを寄せて大きな溜息を吐くと、気持ちを落ち着かせるようにタバコに火を着けた。
タバコの煙を燻らせ、冷静さを取り戻したヒカルは体調不良を理由に数日の休みを願い出た。
数日後、初出勤をしたヒカルはドバイ支社の責任者専用個室にいるマフムードに挨拶しに行った。
「歓迎パーティでは早々にお楽しみだったそうじゃないか。張り切りすぎて寝込んだって聞いたよ。
気に入ったかい?Mは口が上手い娘だったろ?」
マフムードは灰色の目を妖しく光らせた。
「マフムードが勧めただけはあったな。なかなかのもんだったぜ」
ヒカルが遠まわしに感想を述べるとマフムードは誇らしげにMの事を饒舌に語り始めた。
「あの娘はこの国に来たばかりの時から贔屓にしていてね。私があそこまで仕込んだんだよ。おかげでなかなか相手をして貰えないほどの人気ぶりでね。何たってあの美貌とスタイル、そして東洋人特有のエキゾチックな雰囲気だからね。気に入っても無駄だよ、この間はヒカルの歓迎パーティだから譲ったが、次こそは私の番だからね」
込み上げる怒りを拳に隠したヒカルは、マフムードの部屋を出ると何事も無かったかのようにデスクについた。
冷泉は九歳になっていた。
冷泉と共に暮らす籐子はヒカルがドバイに異動になった知らせを聞いてから毎週末、冷泉を連れて神社へのお参りを欠かさなかった。
「お母さん、何をそんなにお祈りしてるの?」
ヒカルの幼少時代と瓜二つの冷泉が籐子を見上げて首を傾げた。
(ああ、子供の頃のヒカルに本当にそっくりだわ)
冷泉のふとした表情や仕草にも、ヒカルの面影が溢れる冷泉の小さな体を抱き締めた籐子は「貴方の大事な人が無事でいるようにお祈りしてるのよ」と告げた。
「僕の大事な人?僕の大事な人はお母さんとお父さんだよ?でもお父さんは死んでしまったから、お母さんのこと?」
冷泉は不思議そうに籐子を真っ直ぐに見つめると、桐生を思い出し居た堪れなくなった籐子は「私じゃないわ、貴方のお父さんが無事でいられるようにお祈りしているの」と声を震わせた。
(ヒカル、無事に帰ってきて)
藤子は冷泉を抱きしめたまま心の中で祈り続けた。
それから数ヶ月、ヒカルは多忙を極めていた。ヒカルはMとKの事を微塵も思い出すことなく仕事に没頭していた。
「ヒカル、Mr.Akasiから電話デスヨ」
カミールがヒカルに外線を繋いだ。
「Kです」
電話の向こう側のアカシと名乗った男が開口一番こう言った。その一言でヒカルは歓迎パーティでの悪夢を思い出した。ヒカルはアカシと待ち合わせをした。
「本名、名乗ってませんでしたよね。僕は【明石 慧】(Akasi Kei)といいます。
M、姉が妊娠しました。貴方の子です」
公園のベンチにヒカルの隣に腰掛けた慧はヒカルに告げた。
「女の子だそうです。もう二十四週目に入り、薬での堕胎は出来ません」
慧は穏やかな口調でヒカルに説明した。
「で?俺にどうしろと?」
ヒカルが慧の条件を待つ。
「手術で堕胎させますから、僕の言い値で手を打ってもらいますよ」
あくまでも穏やかに慧が自らの条件を述べた。
ヒカルはしばし押し黙って事実を冷静に判断した。その時ふとヒカルの脳裏に中将と行ったクラブの占い師の言葉が過ぎった。
『貴方様は三人のお子をなし、二人は男。そのうちの一人は大会社の総帥の座に、もう一人は多少劣りますが大会社の重役の座に、そして残る一人は女性で、その者は玉の輿に乗り大きな地位を得るでしょう』
「待て、女って言ったか?」
ヒカルの驚いた表情に慧が「は、はい。ドクターは女の子だと言ってました」と繰り返すと、ヒカルはまた暫く考え込むと腹を括ったように口を開いた。
「DNA鑑定をしろ。もし、結果が俺の子に間違いないなら産ませろ」
ヒカルの言葉に予想もしなかったのか、慧の態度が一変した。
「え?産む?堕胎しないんですか?」
慧は慌ててヒカルに向き合った。
「ああ。俺の子ならな」
ヒカルは再度慧に告げた。
「姉は、姉は妊娠がバレて僕たちは直ぐにでもアコモデーションを出なくてはならないんです。そんな時間もお金も僕たちには残されてないんです」
慧が必死の形相でヒカルに詰め寄った。
「なら、俺のヴィラに来い。DNAの検査結果が出るまでの間、寝る場所くらいは貸してやる。もう一遍言うぞ、俺の子なら堕胎はしない。堕ろすならてめえの金でしろ。どうする?」
ヒカルの提案に慧には承諾するしか道は残されていなかった。
「何よ、お金になるって言うから我慢してたのに。ツライし苦しいしセックスできないし最悪。さっさと堕ろしちゃえば良かったのよ。慧、あんたあたしをどれだけ苦しませるつもり。いい加減にしてよ」
ヒカルのヴィラに来たM、【明石 愛美】(Akasi Emi)はヒカルのヴィラに着くなり悪態を付き捲った。慧は何も言い返さずに、逆に愛美のご機嫌を取るばかりだった。
DNAの検査結果で、愛美のお腹の子はヒカルの子にほぼ間違いがないことがわかると、ヒカルは子を産んだらそれなりの報酬を与える事を約束した。
「いや、ああ、ああっ、あああん、んんっ」
「また、中でイッたんですか?」
朱雀は月夜を見下ろしながら、休む暇を与えずに律動を開始した。
「や、だめ、だめ」
ドライで体中が敏感になっている月夜が涙を滲ませながら枕を掴む手に力を込めた。
朱雀は月夜のペニスを舐めるように見つめながら律動を早めていく。
「や、ああ、ああっ、またイク。んんーっ」
再びドライで達した月夜が脱力したまま小刻みに余韻に体を震わせた。月夜の中で射精した朱雀はインターバルを置くように月夜のペニスを握った。
「だめ、だって。そこ触んな。あんっ」
朱雀は月夜のペニスの先端に突き出たプラチナ製の金平糖型を月夜の尿道口に押し込む様に優しく愛撫する。
「だめと言う割には貴方のペニスは嬉しそうですけどね」
月夜がにっこりと微笑みながらも月夜のペニスから手を離しはしなかった。
「だって気持ちいい、から。あうっ」
朱雀が月夜のペニスの亀頭を露出させるために嵌めた指輪を時折扱くと、つられる様に月夜が頭を仰け反らせた。気恥ずかしそうに頬を赤らめた月夜が朱雀を上目遣いに見上げた。
「このままもう一度イカせてあげてもいいんですけど、素直でかわいい貴方に新しいプレゼントがあるんですよ」
朱雀がリングを外し、金平糖型をゆっくりと引き抜き始めると、月夜が「だめ、だめ」と啼いた。
「言ったでしょ、貴方を満足させるのは私だと。もっと私に委ねてください」
朱雀が月夜のペニスから特注のブジーを引き抜く瞬間、月夜の尿道口にさしかかったところで朱雀は月夜の尿道口を広げるように軸の部分をくるくると回転させた。
「だめ、それだめ。ああ、ああん」
途端に月夜のペニスから精液が溢れ、だらだらと竿の部分を伝い落ちる。
「今度は射精するなんて月夜さんの体は、大忙しですね」
朱雀がうっとりした表情を浮かべてブジーを抜き去った。
「あんっ」
月夜がなまめかしい声を発してペニスを天に突き出した。月夜のペニスから小型の金平糖型が吐き出され、帯びただしいほどの精液が二人の下肢を濡らしていく。
「あ、あ、あ」
月夜の呼吸が小刻みに繰り返され、目はうつろに彷徨っていた。
朱雀は月夜と繋がったままベッドの傍に無造作に置いたビジネスバッグから厳かなケースを取り出した。快感に酔いしれている月夜はその事に気がつかないでいた。
「新しいもの、作らせたんです」
朱雀はケースの中から再びブジーを取り出した。今回も形状は全く同じだが、月夜のペニスの中に埋め込む金平糖型が僅かに大きく、そして軸も以前より少し長い設計になっていた。突起の端から端までの直径が約一センチはある金平糖型を朱雀は月夜のペニスに宛がった。
「今度のはどうかな?
貴方がおしっこを漏らすときに出しずらそうに顔を歪ませているしょう?ですからこの改良型は突起の凹凸を大きくしてより隙間が出来るように作らせたんです。そして今度のはシリコン性にしてみました」
朱雀が子供のようにはしゃぎながら月夜のペニスの亀頭を露出させて尿道口を大きく開かせ、くすぐるように回転させる。
「むり、そんなのだめ」
月夜の顔が引き攣るが、次第に尿道口をくすぐられる気持ち良さに次第に腰を振り始めた。
朱雀は慎重な面持ちでシリコン製のブジーを摘む手に力を込めた。
「んああっ。壊れる」
月夜が思い余ったように叫ぶと、「貴方は優秀でしょ」と朱雀はワクワクとした微笑みを返すだけだった。
「あっ、ああ、あんっ」
月夜のペニスが時間を掛けてシリコン製の金平糖型を呑み込むと、月夜がガクリと体を弛緩させた。月夜のペニスからは再び精液がこぼれ始めた。
「ほら。優秀だ。貴方のペニス、もっと欲しいって口をパクパクさせてますよ」
はくはくと呼吸する月夜をよそに、朱雀は馴染ませるようにペニスの中で金平糖型を何度も行ったり来たりさせる。
「んああっ、だめ、鳥肌たつ。イク、イクッ」
出すものが無くなった月夜はドライで達したが、朱雀は月夜のペニスを内側から扱き続けた。
「こんな所を擦られて自分から腰振りながら自ら私ので奥突いて気持ちよくなってくれるなんて、私はこの上ないほどうれしいです。貴方、過去の男達にはこんなことさせなかったんでしょう?」
舐めるように月夜のペニスを眺める朱雀がうっとりとした表情を浮かべた。
「当たり前だ。誰が、だめっ、もうだめっ」
そういいながら、月夜はペニスの刺激で空イキを繰り返した。
「自分で気持ち良くなってだめはないでしょう?」
朱雀が満足げに微笑む。
「もうやだ」
何度目かの空イキをした月夜が子供のようにぐずり始めた。
「泣くほど気持ちよかった?」
朱雀の微笑みは月夜を憤慨させた。
「ばか。お前となんかもうしない」
月夜が両腕で顔を隠しながら泣き始めると、流石の朱雀も慌てて月夜の顔を覗きこんだ。
「泣かないで、顔見せて」
月夜の両腕を引き剥がそうとするが、意地になる月夜も力を入れて抵抗した。しかし、元々、力では叶わない月夜の目の前には朱雀の不安そうな顔があった。
「そんな、泣くほど嫌でした?」
本気で不安そうな朱雀に、月夜の中に優越感が込み上げた。
「僕一人でこんな、こんなの嫌に決まってるだろ。前でばっかり空イキするたび、お前のが僕の中にいるのに切なくて、欲しくて堪んなくて、気持ち良いけど空しくなるんだよ。僕は、お前が僕の体で感じてる顔を見るのが好きなんだよ、ばか」
月夜のかわいい発言に朱雀が反省と共にそれ以上の興奮を覚えた。
「なっ、急に中でデカくすんな。僕は怒ってるんだからな」
月夜の文句は朱雀には通用せず、「そんなに私のことが好きで、私のペニスで貴方をドロドロにして欲しいなんて」とうっとりと囁いた。
「そこまで言ってないだろ、ばか」
朱雀は口を尖らせる月夜の唇に軽く口付けると、体を起こしてゆっくりと律動を開始した。そして、中途半端に挿入されたシリコン製の金平糖を月夜の前立腺の辺りまで押し込んだ。
「お望みどおりドロドロに溶かして私のでイカせてあげます。存分に私の顔を見ながらイッてください」
朱雀が男の顔で月夜に宣言すると月夜のペニスには触れることなく律動を力強く加速させた。
「あっ、急にそんな、激しい。だめ、だめぇ」
新たなブジーと月夜のペニスの強力なコラボレーションにより、月夜は朱雀によって高みへと押し上げられた。そしてその後何度も快楽の扉を開かれると絶叫するように体を震わせた。その度に朱雀は大きく息を吐き出しながら射精を堪えていた。月夜の体は朱雀に与えられた快楽により常に電流を流されたように震えていた。その電流は痺れとなって全身を包み込み、月夜のペニスは月夜の腹部に横たわり、だらしなくブジーを銜えたまま尿道口を開閉させるばかりだった。
「硬くする事も出来ないくらい貴方のペニス、溶けてしまいましたね。そんなに中にいる私が気持ちいいんですか?」
朱雀の言葉がいい終わらないうちに月夜が「あんっ」と大きく啼いた。
「ば、まだデカくなるのかよ」
月夜が朱雀にしがみつこうと手を伸ばすと、朱雀が月夜の体をキツク抱きしめて「すみません、あまりにも貴方が可愛くて」と申し訳なさそうに囁いた。
幾度目かの絶頂を迎え「この精力ばか。遅漏朱雀。僕のおちんちん壊れちゃうから早くイケ」と月夜は快楽の涙を流しながら悪態をつき続けたたが、朱雀の律動が止まる事はなかった。
「出すよ」
朱雀がようやく終わりを告げると朱雀にしがみ付いていた月夜が「お前のイキ顔見たい」と熱に浮かされながら懇願した。朱雀は腕立て伏せをするように月夜から少し離れた。
「貴方にしか見せないんですからね」
荒い息づかいをした雄の表情を称えた朱雀がいよいよ最終段階とばかりに下肢を打ちつける。
朱雀のこめかみを幾筋もの汗が流れ落ち、顎を伝って月夜の頬にぽたぽたと零れ落ちる。月夜も小刻みに息を吐きながら朱雀の頬を両手で挟み、見逃すまいと朱雀を見つめる。
「イク、イク。すごいの来る」
月夜が体の奥底から込み上げる何かを受け止めるように朱雀の腰に両足を巻きつけた。
「んっクッ」
朱雀のペニスが月夜の中で大きく弾けた瞬間、堪えきれずに朱雀が顔を歪ませて声を発した。朱雀の放った男の色香にゾクゾクと月夜の背骨を通して今まで以上の電流を感じた月夜は、目を見開き朱雀を見つめたまま声もなく達した。
二人はお互いに絶頂を迎えたままの状態で固まったまま荒い呼吸を繰り返していた。朱雀の顎を伝って流れ落ちる汗がそのエネルギーの大きさを物語る。
「おまえ、の、まだ、出てる」
月夜が震えながら恍惚とした表情で呟いた。
「ずっと、我慢してましたから」
荒い呼吸の朱雀が吐き出すように呟き「気持ちいい。このまま貴方と一つになってしまいたい」と目を細めた。
暫く経ち、お互いの呼吸が落ち着いてもなお、二人は見つめあったままだった。
「お前のイキ顔」
月夜がそこまで言いかけてハッとして恥ずかしそうに口を噤みそっぽを向いた。
「変、でしたか?」
月夜が男の色香を纏ったまま、真剣な表情を浮かべた。それはわずかに不安の色を含んでいた。
「・・・かっこ良かった」
月夜がともすると聞こえないほどの小声で呟いた。
「良かった。惚れ直しました?」
朱雀が破顔して月夜に抱きついた。
「そこまで言ってない。重い」
照れ隠しのように月夜が叫ぶが、朱雀は「照れているんですね」と真面目に取り合わなかった。そしておもむろに繋がったまま月夜を抱き上げてバスルームへ向った。
「降ろせよ、抜けよ」
バスルームへ向う途中に月夜が抗議したが「はいはい。バスルームでね」と受け流した。
バスルームへ着くと「抜くのはどっちですか?私の?それとも貴方のお気に入りのブジー?どちらにしろ却下でしょう。私のを抜くと貴方の中から私の出した物が溢れ出ますし、ブジーを抜いたら今度はおしっこ漏らしちゃうでしょう?」と朱雀は正論を口にした。
「ばか」
月夜は朱雀の胸に真っ赤になった顔を隠すようにしがみ付いた。
「私のを抜く前にまずは、寝る前のおしっこしましょうね」
朱雀が爽やかな笑顔を月夜へ向けるとブジーで何度も月夜のくたりとしたペニスの中を擦り上げる。
ブジーを引き抜かれる時には月夜は仰け反りながら腰を突き出し「出る」と眉根を寄せ、前立腺に向かって押し込まれるときには腰を引いて「気持ちいい」と弱弱しく啼いた。朱雀は器用に片手で月夜のペニスを内側から扱きながら、反対の手で月夜の身体を抱えたままゆっくりと突上げ始めた。
「おい、今日はもう」
慌てた月夜が非難を口にした。
「もう少しだけ」
朱雀の言葉に月夜が「だめ、やだ、中から突かれたら我慢できなくなるだろ」と反論するが、「知ってますか?私のペニスで膀胱を刺激すると貴方は気持ちよさそうに恍惚とした表情でおしっこするんですよ。だから私に見せて下さい。私に突かれて気持ち良さそうにおしっこしながら恥ずかしがる貴方の顔」
「絶対やだ」
朱雀と月夜の根競べが始まったが結果はあっけなく朱雀に軍配が上がった。月夜が耐え切れずに排尿している最中も、し終えてからも朱雀は月夜の膀胱を奥深くで刺激し続けるように月夜の中を突き上げていた。
「もう出しただろ」
月夜が噛み付くと、「すみません。貴方のかわいらしい姿を見ていたら興奮してしまって、もう少しでイケそうなんです。貴方の好きな私のイキ顔、もう一度お見せしますから付き合ってください」
朱雀がバツが悪そうに月夜に答えた。
「そこまで言ってない」
徐々に加速する突き上げに再び尿意に襲われた月夜が「出る、また出る」と叫び始めると、朱雀の顔を両手で挟んで朱雀の目を見つめ始めた。朱雀は月夜の好きにさせたまま二度目の排尿を促すように突き上げる。すると間もなく月夜のペニスからしょろしょろと尿が出始めそれが終わるのを待っていたかのように朱雀が快楽に顔を歪ませながら月夜の中で射精した。朱雀の精が流れ込んでくるのを喜ぶかのように月夜の体は感電したようにビクンと震えた。月夜の中で果て、すっきりとしたように息を吐いた朱雀が「私に出されるの、そんなに気持ちよかったですか?」と小首を傾げ男の色香を纏った顔で月夜を真っ直ぐに射た。
「ち、違う」
朱雀の表情にドキッとした月夜がとっさに反論したが、体は正直な反応を示した。
「うそ、貴方と繋がっている私にはまるわかりですよ。貴方は天邪鬼ですが体は正直ですからね。
ハアー。貴方の中、気持ちいい」
朱雀が小刻みに腰を振りながら月夜の鼻先を自らの鼻先で擦りつけた。
朱雀の正直な感想に再びドキッとした月夜が、口で何を言っても無意味な事を悟り、プイッとそっぽを向いた。朱雀が月夜の肩口に額を乗せた。
「このまま貴方の中にずっと居座っちゃいけませんか?」
朱雀の、ともすると本気の言葉に、月夜がそっぽを向いたまま頬を赤らめさせていた。
「ヘンタイ朱雀」
月夜が照れ隠しに悪態を付く。
「貴方限定ですけどね。もうちょっとだけ、貴方の中に居させてください」
「ばか」
悪態をつきつつも朱雀に身を任せしがみ付く月夜を愛しく感じながら、朱雀は月夜の体をギュッと抱き締めたまま名残を惜しむ様に下肢を揺らめかせ朱雀の吐き出す熱い吐息がしばらくバスルームに木霊していた。それを間近で受け止めていた月夜のペニスが僅かに反応を示すと、「あと一回だけだからな」と念を押しながら、月夜がギュッと朱雀にしがみ付いた。
その夜、朱雀は不思議な夢を見た。
「朱雀、俺のかわいい朱雀」
桐生が朱雀の夢枕に立ったのだった。
「ヒカルを頼んだよ、朱雀。お前はヒカルの兄なのだから」
桐生はそう微笑んで朱雀の頭に手を置いた。その手は夢にも拘らず暖かいと朱雀は感じた。
「お父さん、私にはヒカルを救うことなんて出来ません。むしろ自業自得でしょう?それにおじい様には私は歯向かうことなど出来ません」
朱雀は精一杯叫んだ。しかし、桐生は朱雀の頭に手を置いたまま優しく微笑むばかりだった。
桐生の生前、自分よりもヒカルのことばかり気にかけていたと劣等感を感じていた朱雀はなおも桐生に叫び続けた。
「ヒカルは我がままです。子供の頃から好き勝手してもみんなヒカルのことばかりを気にかける。お父さんだってそうです。お父さんだって私のことなんかよりヒカルの方が」
朱雀は唇を噛み締めて涙を堪えようとしたが、積年の劣等感ゆえに、その感情は涙となって溢れ出る。
「お前がそう思っているだろうと思ったから、俺はヒカルには会いに行かなかったんだよ。一緒に寝てやることすらしなかった。朱雀、お前との時間を大事にするために。ヒカルは俺と過ごした時間も思い出もない。母親も無く、父親の私しかいなかったのに。ヒカルの行動はその寂しさを埋めるためのもの。わかるよね、朱雀」
そう言うと、すぅっと桐生の体が透け始めた。
「お前はお兄ちゃんなのだから」
「待ってください。もっとここにいてください。私ともっと」
朱雀が桐生に手を伸ばすが届くことは無かった。朱雀の叫びも空しく、桐生の体は朱雀の目の前から消えた。
「待ってください、お父さん」
朱雀はガバッと起き上がった。
「はぁ、はぁ、はぁ」
朱雀の隣で寝ていた月夜が目を覚ました。
「朱雀?」
そこで涙を流して荒い呼吸を繰り返す朱雀を見ると、月夜は朱雀の体をそっと抱き締めた。
「大丈夫?」
月夜は朱雀を胸に抱き、何も言わずに朱雀の震える背中を擦り続けた。
ある夜のこと、慧がヒカルの寝室に音もなく忍び込んだ。
「ヒカル君、僕はヒカルさんを一目見たときから好きになる確信がありました。姉はそんな僕に気づいてヒカル君に狙いをつけたんです。すみません。こんな形で出会わなければ僕たちは」
静かに寝息を立てるヒカルに、慧が小声で告白する。
「こうなってしまった今となってはヒカル君に抱いてもらうことも出来ない。だからせめてもの思い出に一度だけキス、させてください」
仰向けのヒカルの唇に触れる瞬間、「んん」とヒカルが寝返りをうった。
ハッとした慧はヒカルを起さぬように部屋を後にした。
慧が部屋から出て行くと、ヒカルがすぅっと目を開けて、目の前の闇を睨み続けた。
出産を迎えるまでの間ヒカルのヴィラで暮らすことになった愛美の態度は日増しに横暴になっていった。
「もう、ちゃんと擦ってよ下手糞。こっちはあんたのお陰でこんなに苦しい思いしてんだから。セックスも出来ないし」
その横暴さは慧にのみ向けられ、ヒカルをうんざりとさせた。
その愛美の態度が急にころりと変化した。
「今日検診に行って知り合った人に聞いたらさ、妊娠してもセックスはしてるんだって。ヒカル、今からしようよ」
愛美は仕事を終えてヴィラへ戻ったヒカルに抱きつくと、玄関先でヒカルのスラックスのベルトを外そうとした。
「何すんだ、触んな」
ヒカルは愛美の体を押して引き剥がそうとするが、一足早く愛美がヒカルのペニスを銜えた。すぐ傍にいた慧も呆然とその光景を眺めるだけだった。
ヒカルは諦めたように愛美の好きにさせたが、ヒカルのペニスは一向に反応しなかった。
「わかったか。お前じゃ勃つもんも勃たねえよ」
ヒカルの冷めた言葉に愛美が屈辱的な顔をしてヒカルを見上げた。
「あたしの口で勃たない男はいないんだから。あんた不能になったんじゃないの?」
プライドを傷つけられた愛美は猛烈に反論した。
「これ以上汚え口で俺に触るな」
ヒカルはそのままリビングに入ると、ティッシュでペニスについた愛美の唾液を拭った。それを一部始終見ていた愛美がますます激怒した。
「汚いとはなによ。このあたしに向って」
愛美はワナワナと体を震わせた。
「お前は子供が産まれるまでの契約上、ここに居させてやってるだけだ。じゃなきゃ誰がお前なんか」
ヒカルが鼻でせせら笑うと、愛美の顔が怒りで赤くなった。ヒカルはそんなことにはお構い無しにソファに大股を開いてドカリと座ると、慧のほうを向いた。
「お前がやれ、続き」
ヒカルが慧に顎で命令した。
「ここにいる間の家賃ぐらいてめえで稼げ」
ヒカルは慧に冷たく言い放つと、慧がヒカルの前にかしずいてヒカルのペニスに奉仕し始めた。ヒカルのペニスはムクムクと反応を示し、あっと言う間に熱い肉棒へと成長した。ヒカルは慧をソファに乱暴に押し倒すと、慧のスラックスを剥ぎ取った。そして慣らすことなく慧の尻にペニスを擦りつけた。
「ここに来てから暫く経つ割に柔らけえじゃねえか。一人で寂しく弄ってやがったのか?」
慧が図星とばかりに顔を赤らめてヒカルから目を逸らした。慧の体が大丈夫だと判断したヒカルは正常位で一気に貫いた。
「んあああーーっ」
圧倒的なヒカルのペニスの大きさに慧が叫び声を上げた。
「キッツー。これじゃ動けねえな。一遍出すぞ」
ヒカルは有無を言わさずに慧の中に射精した。
「これで幾分かはましか」
自らの精液の滑りを借りて間髪を入れずにヒカルが慧の奥深くを抉り始めた。
「そこ、あん、そんな深くは、やっ、あん」
直ぐに男を知る慧が快楽を拾い始めた。
「残念だがまだ全部挿入れてねえんだ」
「ウソ」
驚きに慧が目を見開くがヒカルは凶器的なその肉棒をを無理やりに押し込みひたすらに下肢を打ちつけた。
「あっ、壊れる、んっ、あああっ」
慧が未知なる快楽に、川岸に浮かぶ木の葉の様にヒカルに揺さぶられ続ける。
「ヒカル君」
心もとなげに慧がヒカルにしがみ付こうと手を伸ばした。
「ダメだ、俺の体に触れていいのは紫上だけだ」
ヒカルは慧の両手をソファに縫い付け下肢の動きに勢いを持たせた。
「ああ、ああん。イキたい。イッてもいいですか?」
慧が涙ながらにヒカルに懇願した。
「イキてえなら勝手にイケ。だが、さっき出しちまったから俺が次に出すまでは暫く啼くことになるけどな」
無慈悲にヒカルは慧に言い放ったが、その言葉の最後まで待たずに慧が射精した。
「あ、あ、ん、ぁあっ」
ブルリと下肢を震わせる最中も慧の奥を抉るヒカルの下肢の動きに、精液を撒き散らしながら慧はあられもなく啼き続くけることしか出来なかった。
いつしか、愛美の姿はリビングには無かった。愛美は自室にまで聞こえる慧の声を遮断するように枕で両耳を塞ぎ、屈辱に耐えていた。
ようやく開放された慧はだらりと体を弛緩させたまま、ピクリとも動かなかった。慧のパーカーの胸から下腹部の至る所に慧の精液がこびり付いていた。それは、ヒカルとの行為の激しさを物語っていた。ヒカルは慧の中からペニスを引き抜くと、慧の体の後始末をすることなくバスルームへと向った。
その日を境に、ヒカルはソファで慧を事あるごとに抱いた。それはまるで愛美に子供以外は無用の存在であると思い知らせるようだった。当然のことながら、ヒカルは慧に体を触らせることはしなかった。
「待ってください、お父さん」
朱雀はたびたび桐生の夢枕に魘され続けていた。それが、ヒカルの異動の原因である右代派を抑えることのできなかった自責の念から来る物なのか、朱雀にはわからなかった。
「また、桐生おじさんの夢を見たの?ここ最近あまり眠れてないだろ」
朱雀の目の下のクマをそっとなぞり、月夜が心配そうに朱雀を見つめる。
「大丈夫ですよ、このくらい平気です」
月夜を心配させまいと、朱雀が弱々しげに微笑んだ。
「でも」
月夜は朱雀の頬を両手で包み込み、辛そうな顔をした。
朱雀は月夜の両手をそっと握り締めて目を閉じ少し逡巡すると、何かを決意したように目を開けた。
「おじい様のところに行ってきます」
そう言うと、月夜の心配をよそに朱雀は右代家に赴いた。
Kと呼んだ女は隣にいた男に顎をしゃくって遠くにいる男に狙いを定めた。
「え?あの人にするの、M(Emu)?」
Kと呼ばれた男はMと呼んだ女に動揺を悟られぬように見つめた。
「そうよ、だってあいつ、Kが好きそうなタイプじゃん」
Mが狙いを定めた男を見ながらKは目も合わせようとはしなかった。
「文句ないよね、あんたはあたしの幸せのための奴隷なんだから」
Mは舌なめずりをしながら悪魔のような笑みを浮かべた。
「宮内君、着いたばかりで急なんだがドバイへ行ってもらうよ」
神戸支社への初出社で、ヒカルは支社長の【森内 要】(Moriuchi Kaname)からドバイ支社の設立プロジェクトの任を命じられた。
「左代取締役からはくれぐれも良しなにと仰せつかっている。決して悪いようにはしない。今は右代派の手の及ばない海外へ行ってもらうよ」
森内は穏やかな笑みを讃えながらもするどい眼光でヒカルを見据えた。
ヒカルは約十二時間かけてドバイ国際空港へと降り立った。UAE(アラブ首長国連邦)のイミグレーションを抜けると、『かんげい Mr. Hikaru Miyauchi』と書かれた紙を掲げ、白いカンドゥーラ(UAEの正装)を纏うアラブ人らしき三十代半ばに見える一人の男がヒカルの目に止まった。
ヒカルがその男に向って歩き始めると、その男はヒカルに気がついたようにヒカルのほうへと近づいてきた。
「Mr.Miyauchiですか?」
アラブ人らしき男はグリーンの瞳でヒカルを見つめた。
「ああ」
とヒカルは簡素に答えると男は目尻を下げて右手を差し出した。
「ようこそ、UAEへ。Mr.miyauchi。私は【カミール サレハ】といいマス。カミールと呼んでクダサイ」
と流暢な日本語で挨拶した。ヒカルもその手に応じ「俺もヒカルでいい、よろしく」とカミールの手を握った。
カミールは「オフィスに行く前に我が国の自慢をお見せシマス」と言ってヒカルを車に乗せた。
ヒカルが連れてこられたのは世界一高いビルで有名な『ブルジュ・ハリファ』だった。
「日本も高いビルあると聞いてマス。確かTokyoスカイツリーデスカ。Tokyoスカイツリーは六三四metersデスガこのブルジュ・ハリファは八二八metersアリマス」
とグリーンアイズを喜々とさせてヒカルに説明した。エレベーターが到着を知らせるとカミールは「百聞は一見にしかずデス」とヒカルを展望台へと促した。
展望台から広がる眼下を目の当たりにしたヒカルは「凄げえな」ぼそりと呟いた。
「デショウ?砂漠の真ん中にある近代都市デス」とカミールは誇らしげに語った。
「あいつにも見せてやりたかったな」
ヒカルは紫上を思い出し思わず口に出した。
「アイツ?」
カミールが不思議そうに聞き返した。
「いや、こっちのことだ」
ヒカルはその場を濁した。
「コッチ?ドッチ?」
カミールが不思議そうにヒカルに聞き返したがヒカルは何も答えることなくその見事な景色を堪能した。
オフィスへ向う車窓を眺めていたヒカルはふと気づいたようにカミールに問いかけた。
「ずい分外国人が多くないか?」
それを受けたカミールが感嘆の声を上げた。
「ヒカルスゴイデスネ。我が国の人口の約八三%は外国からの出稼ぎ労働者なのデス。Indianが一番おおいデス。大体七五%くらい占めてマス」
カミールの説明にヒカルはふーんと相槌を打った。
「まもなくオフィス着きマス」
後部座席からカミールは運転手の男にアラビア語で何か指示を出した。
「ようこそ、Mr.Miyauchi」
オフィスに通された責任者らしき赤いカンドゥーラを纏った男がヒカルを出迎えた。灰色の相貌を讃えたそのアラブ人の男はカミールよりも日本語が堪能だった。五十台前半に見えるその男は【マフムード ターヒル】と名乗った。
「ここの人間は皆日本語が話せるのか?Mr.ターヒル」
ヒカルの質問にターヒルは「マフムードで良いですよ、私もヒカルと呼ばせてもらいます。そうです、こちらに支社のお話があってから私たちは日本語を学んだのです」と日本語で答え、『ベッドの中でね』とアラビア語で最後に何かを付け加えた。
ヒカルはその最後の一言が気になったがあえて気に留めなかった。
「お疲れとは思いましたがヒカルの歓迎パーティをホテルにご用意しました。今日はそのホテルにそのままお泊りください。明日、ヒカルの滞在先のヴィラへ案内させますから」
ヒカルはカミールに連れられてホテルの一室に荷物を置き、簡単にシャワーを浴びた後、歓迎パーティ会場へと赴いた。ヒカルの宿泊する部屋の直ぐ上の階に会場は設置されていた。
パーティ会場で、同じオフィスで働いているという数名と挨拶を交わしたヒカルが一人で酒を飲んでいると、カミールが話しかけてきた。
「主役が一人で飲んでるんデスカ?」
グリーンアイズのカミールは笑うと少年のように幼く見えた。
「ヒカルはいい時にこちらへ来マシタ。『ラマダン(断食月)』の時期は先週で終わりマシタ」
カミールはラマダンについてヒカルに説明した。イスラム教徒にはイスラム暦があり五行の一つ『サウム(断食)』があること。イスラム暦では今年二〇一九年は一四四〇年に当たり五月六日から一ヵ月がサウムの期間であること。
「へー、なのにカミールはオレンジジュースなんてもん飲んでるんだな」
ヒカルはカミールをからかった。
「好きでオレンジジュースの訳アリマセン。我が国では飲酒は二一からと決められているのデス。私はまだ二十なので」
カミールが二十歳と知ったヒカルは驚きのあまりグラスを落としそうになった。カミールはヒカルの反応にクククと笑い出した。
「日本人のその反応ヒサシブリ。私の年を聞いた日本人みな同じ反応シマス。私から言わせれば日本人のほうがamazing(驚き)デス。日本人見た目若い。マフムードは三十七デス」
「五十前半かと思ったぜ」
ヒカルの思わず口をついて出た言葉にカミールが今度こそ大笑いをした。
二人の会話が盛り上がっているところにマフムードが現れた。
「すっかり打ち解けたようで嬉しいです」
マフムードがシャンパングラスを掲げて「改めてようこそ」とヒカルを歓迎した。
「さて、お楽しみはこれからです」
と言って指をパチンと鳴らした。
ガチャリとドアが開くときらびやかなドレスを着た東洋人たちが入ってきた。
「留学生コンパニオンです。ヒカルの歓迎会のために今日は日本人で揃えました。日本人のおもてなしの心、見習うべきところです」
マフムードが含み笑いを灰色の目に浮かべた。
いつの間にかカミールの姿は消えていた。
マフムードはヒカルに近づき、内緒話をするように小声で囁き始めた。
「私のお勧めはあの娘ですよ」
マフムードが視線で一人の女性にヒカルを誘導すると、その女性もヒカルを見ていたらしく目が合った。気の強そうな強い目をした美貌の持ち主であるその女性はヒカルと目が合ったと気づくと妖艶に微笑んだ。
「あの娘は口が上手いんですよ」
マフムードの言葉に引っかかりを覚えたヒカルがマフムードにその真意を聞こうとしたところでマフムードがその女性に声を掛けた。
「M、こっちだ」
Mと呼ばれた女性は真っ直ぐにヒカルとマフムードの元へと歩いてきた。その歩き方をみたヒカルは僅かに足を少し引き摺っていることに気がついた。
「M、今日も綺麗だよ。今日からうちのオフィスで働く仲間のMr.Hikaru Miyauchiだ。おもてなし、よろしく頼んだよ」
マフムードがヒカルをMに紹介してその場を離れていった。
残されたヒカルにMは笑顔を湛えて自己紹介した。
「はじめまして、Mと申します。こんな素敵な方と異国のこの地で会えたのも何かのご縁ですわ、どうぞよろしく。あちらで少しお話しませんか?」
Mはヒカルにエスコートするように右手を出した。ヒカルは飲みかけのグラスを傍のテーブルに置いてMの手を取った。Mを椅子に座らせたヒカルは飲みかけのグラスを持ってくるついでにMにも何か飲み物を持ってくると告げると、Mはにっこりと微笑んでヒカルに隣に座るように促した。
「大丈夫ですわ。K」
MがKと呼ぶと、正装した若い男がヒカルのグラスとワイングラスを持ってやって来た。
どことなくMに似た、美しいと言う表現がふさわしいその男性は、優雅な足取りでテーブルまで来ると、それぞれのグラスを置いて去って行った。
ヒカルとMは暫く会話を楽しんだ。「口が上手い」と紹介したマフムードの評価ほど、ヒカルはMとの会話を楽しめず、酒を飲むピッチが次第に早くなっていった。ヒカルのグラスが空になる度にKが新しいグラスを持ってきた。
数杯目のおかわりで酒は弱くないはずのヒカルが軽くめまいを訴えた。
「まあ、大変。移動の疲れもあるのですわ」
Mはヒカルに部屋で休むよう勧め、ヒカルもそうすると同意した。ヒカルはKに肩を借りながらの部屋までたどり着くとそのまま意識を手放した。
ヒカルは夢を見ていた。
「ヒカルさ、ヒカルさん」
紫上の声が聞こえた気がしたヒカルが目を開けると紫上がヒカルのペニスに奉仕している最中だった。
「んん、はぁ」
気持ちのよさにヒカルの口から快楽による吐息が漏れた。
「紫上、お前はそんな事しなくていい」
ヒカルは高揚の中で紫上の髪を優しく撫でた。すると紫上が顔を上げた。紫上は涙を流していた。
「ヒカルさん」
ヒカルのペニスを銜えているはずの紫上に名前を呼ばれたような気がしたが、快楽には抗えずにヒカルは紫上の口内で果てた。それでも紫上は奉仕を続け、ヒカルのペニスは直ぐに熱い肉棒へと成長した。
次にヒカルが目にしたのは紫上が騎乗位で腰を振っているところだった。
「お前にはそんな事させたことねえだろうが。紫上らしくねえ」
ヒカルは自ら起き上がり、下肢を打ちつけ主導権を紫上から奪うと、感じるままに一心に突き上げ続けた。
途中、幾度か女の嬌声のような雑音が聞こえた気がしたが、紫上を抱くヒカルはそれをシャットアウトしていた。ヒカルは、何度も体位を変えては紫上を絶頂へと導いた。
「痛ってえ」
ヒカルは頭痛とめまいで目を覚ました。体を起こして髪をかき上げたヒカルの隣で全裸の女が眠っていた。ヒカルもまた服を纏っていなかった。
「目が覚めましたか?」
ヒカルが声のするほうを見ると昨夜見知った顔がそこにはあった。
「おまえ、確かKとか言ったウェイター?」
一気に険しい表情になったヒカルが朦朧としたままの頭で必死に昨夜の出来事を思い返した。
「ずっとそこにいたのか?」
ヒカルの険しい表情がますます険しくなった。Kは窓際の椅子に座ったまま穏やかに話し始めた。
「はい。昨晩パーティで気分が悪くなったとおっしゃったので部屋までお連れしました」
ヒカルは頭痛とめまいのする頭で必死に思い起こした。ヒカルは、このめまいの正体を知っていた。
「お前か、俺に薬を盛ったのは?」
ヒカルが静かに怒りを露にした。
「否定はしません。でも、途中からは貴方の意思で姉を抱いていたように見えましたよ。シジョウと呼びながら。恋人ですか?」
Kはあくまでも穏やかな口調だった。
「姉?おまえら姉弟か?それに紫上は恋人じゃねえ、それ以上だ」
ヒカルの怒りが次第に増幅する。
「何でこんなことした?」
ヒカルの問いにKは淡々と説明し始めた。
「僕たちはただのコンパニオンではありません。僕たちの表向きは留学生ですが、本来の目的は売春です。貴方のオフィスのマフムードは僕たちの元締めと繋がりがある人物の一人です。纏めたい商談があるときや交渉ごとに置いて優位に立ちたいときに僕たちは呼ばれるんです。彼らの日本語が堪能なのも僕達をそれだけ贔屓に使ってくれたからです」
カーテンの隙間から零れる朝日がKの美しさをいっそう際立たせる。
「パスポートでも取り上げられてるのか?」
ヒカルはKから少しでも情報を引き出そうと怒りを抑えていた。
「いえ。パスポートは取り上げられてません。アコモデーション(住)だけは保障されています。
僕たちはコンパニオンとして呼ばれた日、誰かと一夜を共にすることで報酬を得ています。でもその報酬があまりにも安すぎて飛行機代はおろかその日の生活にすら貧窮する実情なんです。貴方のようなお金持ちにはわからないでしょうが日本でも僕たちは貧しい生活を強いられてきました。そして出稼ぎでこのドバイに来れば高額報酬が得られると騙されてこの地へ来ました。
ここドバイは物価が安くはありません。一AEDが日本円で約三十円。ビックマックが十五AED、日本円で四百五十円、ラテの一杯ですら十六AED、480円もするです。
そして僕たちが一晩で得る報酬は五百AED、日本円にして一万五千円ですが、月に五回以上は仕事をさせないようにローテーションが組まれているので月に二千AED、月収六万円ぽっちです。
仮にビックマックだけで三食暮らしたとしても食費だけで千三百五十AED、日本円にして四万五百円もかかるんです。残りの六百五十AED、一万九千五百円しか残らないのに、そこから生活必需品なんかを買い足していたら飛行機代を貯めるどころか赤字になることだってあるんです」
今まで穏やかに話していたKが拳を握り締めて美しい表情をはじめて崩した。
「姉だけは、せめて姉だけはこんな生活から解放してあげたい。だから、僕は賭けに出ることにしたんです」
Kの表情から感情が消えた。
「僕は男ですから関係ありませんが女性である姉はピルの摂取が義務付けられています」
Kの言葉の意味をいち早く察したヒカルは背中に嫌な汗が伝う気がした。
「昨日、姉にはピルだと嘘をついてただのビタミン剤を渡しました。姉の生理周期は把握してますから」
そこまで聞いたヒカルは頭痛も、めまいも一気に失せ、目の前が真っ暗になったような気がした。
「もし、姉の体に何の変化もなければ、僕たちはもう貴方に会うこともないでしょう。でももし僕が賭けに勝ったなら、いずれ再び会うことになります。姉には理由をつけてしばらく仕事には出させないつもりですから」
Kの目には強い意志が込められていた。
「金、ねえんじゃなかったのかよ」
苦し紛れにヒカルがKを問いただした。
「僕は一日一食しか食べないようにして節約してましたから、それを使います」と言ってKは優雅に立ち上がるとMの体を揺すり起した。
「姉さん、姉さん起きて。帰る時間だよ」
Kに起されたMは不機嫌そうに「もうちょっと眠らせてよ。あんな激しいセックス久々でまだ寝足りないのに」と文句をいいながら昨晩身につけていたドレスを身に着けた。
Kとヒカルの会話を知らないMは「あんたの顔も体もセックスも最高だったよ。あたしのフェラも良かったろ」と自らの上唇を舐め回し美しいがいささか品に欠ける妖艶な笑みを浮かべて部屋を出て行った。
一人残されたヒカルは眉間にしわを寄せて大きな溜息を吐くと、気持ちを落ち着かせるようにタバコに火を着けた。
タバコの煙を燻らせ、冷静さを取り戻したヒカルは体調不良を理由に数日の休みを願い出た。
数日後、初出勤をしたヒカルはドバイ支社の責任者専用個室にいるマフムードに挨拶しに行った。
「歓迎パーティでは早々にお楽しみだったそうじゃないか。張り切りすぎて寝込んだって聞いたよ。
気に入ったかい?Mは口が上手い娘だったろ?」
マフムードは灰色の目を妖しく光らせた。
「マフムードが勧めただけはあったな。なかなかのもんだったぜ」
ヒカルが遠まわしに感想を述べるとマフムードは誇らしげにMの事を饒舌に語り始めた。
「あの娘はこの国に来たばかりの時から贔屓にしていてね。私があそこまで仕込んだんだよ。おかげでなかなか相手をして貰えないほどの人気ぶりでね。何たってあの美貌とスタイル、そして東洋人特有のエキゾチックな雰囲気だからね。気に入っても無駄だよ、この間はヒカルの歓迎パーティだから譲ったが、次こそは私の番だからね」
込み上げる怒りを拳に隠したヒカルは、マフムードの部屋を出ると何事も無かったかのようにデスクについた。
冷泉は九歳になっていた。
冷泉と共に暮らす籐子はヒカルがドバイに異動になった知らせを聞いてから毎週末、冷泉を連れて神社へのお参りを欠かさなかった。
「お母さん、何をそんなにお祈りしてるの?」
ヒカルの幼少時代と瓜二つの冷泉が籐子を見上げて首を傾げた。
(ああ、子供の頃のヒカルに本当にそっくりだわ)
冷泉のふとした表情や仕草にも、ヒカルの面影が溢れる冷泉の小さな体を抱き締めた籐子は「貴方の大事な人が無事でいるようにお祈りしてるのよ」と告げた。
「僕の大事な人?僕の大事な人はお母さんとお父さんだよ?でもお父さんは死んでしまったから、お母さんのこと?」
冷泉は不思議そうに籐子を真っ直ぐに見つめると、桐生を思い出し居た堪れなくなった籐子は「私じゃないわ、貴方のお父さんが無事でいられるようにお祈りしているの」と声を震わせた。
(ヒカル、無事に帰ってきて)
藤子は冷泉を抱きしめたまま心の中で祈り続けた。
それから数ヶ月、ヒカルは多忙を極めていた。ヒカルはMとKの事を微塵も思い出すことなく仕事に没頭していた。
「ヒカル、Mr.Akasiから電話デスヨ」
カミールがヒカルに外線を繋いだ。
「Kです」
電話の向こう側のアカシと名乗った男が開口一番こう言った。その一言でヒカルは歓迎パーティでの悪夢を思い出した。ヒカルはアカシと待ち合わせをした。
「本名、名乗ってませんでしたよね。僕は【明石 慧】(Akasi Kei)といいます。
M、姉が妊娠しました。貴方の子です」
公園のベンチにヒカルの隣に腰掛けた慧はヒカルに告げた。
「女の子だそうです。もう二十四週目に入り、薬での堕胎は出来ません」
慧は穏やかな口調でヒカルに説明した。
「で?俺にどうしろと?」
ヒカルが慧の条件を待つ。
「手術で堕胎させますから、僕の言い値で手を打ってもらいますよ」
あくまでも穏やかに慧が自らの条件を述べた。
ヒカルはしばし押し黙って事実を冷静に判断した。その時ふとヒカルの脳裏に中将と行ったクラブの占い師の言葉が過ぎった。
『貴方様は三人のお子をなし、二人は男。そのうちの一人は大会社の総帥の座に、もう一人は多少劣りますが大会社の重役の座に、そして残る一人は女性で、その者は玉の輿に乗り大きな地位を得るでしょう』
「待て、女って言ったか?」
ヒカルの驚いた表情に慧が「は、はい。ドクターは女の子だと言ってました」と繰り返すと、ヒカルはまた暫く考え込むと腹を括ったように口を開いた。
「DNA鑑定をしろ。もし、結果が俺の子に間違いないなら産ませろ」
ヒカルの言葉に予想もしなかったのか、慧の態度が一変した。
「え?産む?堕胎しないんですか?」
慧は慌ててヒカルに向き合った。
「ああ。俺の子ならな」
ヒカルは再度慧に告げた。
「姉は、姉は妊娠がバレて僕たちは直ぐにでもアコモデーションを出なくてはならないんです。そんな時間もお金も僕たちには残されてないんです」
慧が必死の形相でヒカルに詰め寄った。
「なら、俺のヴィラに来い。DNAの検査結果が出るまでの間、寝る場所くらいは貸してやる。もう一遍言うぞ、俺の子なら堕胎はしない。堕ろすならてめえの金でしろ。どうする?」
ヒカルの提案に慧には承諾するしか道は残されていなかった。
「何よ、お金になるって言うから我慢してたのに。ツライし苦しいしセックスできないし最悪。さっさと堕ろしちゃえば良かったのよ。慧、あんたあたしをどれだけ苦しませるつもり。いい加減にしてよ」
ヒカルのヴィラに来たM、【明石 愛美】(Akasi Emi)はヒカルのヴィラに着くなり悪態を付き捲った。慧は何も言い返さずに、逆に愛美のご機嫌を取るばかりだった。
DNAの検査結果で、愛美のお腹の子はヒカルの子にほぼ間違いがないことがわかると、ヒカルは子を産んだらそれなりの報酬を与える事を約束した。
「いや、ああ、ああっ、あああん、んんっ」
「また、中でイッたんですか?」
朱雀は月夜を見下ろしながら、休む暇を与えずに律動を開始した。
「や、だめ、だめ」
ドライで体中が敏感になっている月夜が涙を滲ませながら枕を掴む手に力を込めた。
朱雀は月夜のペニスを舐めるように見つめながら律動を早めていく。
「や、ああ、ああっ、またイク。んんーっ」
再びドライで達した月夜が脱力したまま小刻みに余韻に体を震わせた。月夜の中で射精した朱雀はインターバルを置くように月夜のペニスを握った。
「だめ、だって。そこ触んな。あんっ」
朱雀は月夜のペニスの先端に突き出たプラチナ製の金平糖型を月夜の尿道口に押し込む様に優しく愛撫する。
「だめと言う割には貴方のペニスは嬉しそうですけどね」
月夜がにっこりと微笑みながらも月夜のペニスから手を離しはしなかった。
「だって気持ちいい、から。あうっ」
朱雀が月夜のペニスの亀頭を露出させるために嵌めた指輪を時折扱くと、つられる様に月夜が頭を仰け反らせた。気恥ずかしそうに頬を赤らめた月夜が朱雀を上目遣いに見上げた。
「このままもう一度イカせてあげてもいいんですけど、素直でかわいい貴方に新しいプレゼントがあるんですよ」
朱雀がリングを外し、金平糖型をゆっくりと引き抜き始めると、月夜が「だめ、だめ」と啼いた。
「言ったでしょ、貴方を満足させるのは私だと。もっと私に委ねてください」
朱雀が月夜のペニスから特注のブジーを引き抜く瞬間、月夜の尿道口にさしかかったところで朱雀は月夜の尿道口を広げるように軸の部分をくるくると回転させた。
「だめ、それだめ。ああ、ああん」
途端に月夜のペニスから精液が溢れ、だらだらと竿の部分を伝い落ちる。
「今度は射精するなんて月夜さんの体は、大忙しですね」
朱雀がうっとりした表情を浮かべてブジーを抜き去った。
「あんっ」
月夜がなまめかしい声を発してペニスを天に突き出した。月夜のペニスから小型の金平糖型が吐き出され、帯びただしいほどの精液が二人の下肢を濡らしていく。
「あ、あ、あ」
月夜の呼吸が小刻みに繰り返され、目はうつろに彷徨っていた。
朱雀は月夜と繋がったままベッドの傍に無造作に置いたビジネスバッグから厳かなケースを取り出した。快感に酔いしれている月夜はその事に気がつかないでいた。
「新しいもの、作らせたんです」
朱雀はケースの中から再びブジーを取り出した。今回も形状は全く同じだが、月夜のペニスの中に埋め込む金平糖型が僅かに大きく、そして軸も以前より少し長い設計になっていた。突起の端から端までの直径が約一センチはある金平糖型を朱雀は月夜のペニスに宛がった。
「今度のはどうかな?
貴方がおしっこを漏らすときに出しずらそうに顔を歪ませているしょう?ですからこの改良型は突起の凹凸を大きくしてより隙間が出来るように作らせたんです。そして今度のはシリコン性にしてみました」
朱雀が子供のようにはしゃぎながら月夜のペニスの亀頭を露出させて尿道口を大きく開かせ、くすぐるように回転させる。
「むり、そんなのだめ」
月夜の顔が引き攣るが、次第に尿道口をくすぐられる気持ち良さに次第に腰を振り始めた。
朱雀は慎重な面持ちでシリコン製のブジーを摘む手に力を込めた。
「んああっ。壊れる」
月夜が思い余ったように叫ぶと、「貴方は優秀でしょ」と朱雀はワクワクとした微笑みを返すだけだった。
「あっ、ああ、あんっ」
月夜のペニスが時間を掛けてシリコン製の金平糖型を呑み込むと、月夜がガクリと体を弛緩させた。月夜のペニスからは再び精液がこぼれ始めた。
「ほら。優秀だ。貴方のペニス、もっと欲しいって口をパクパクさせてますよ」
はくはくと呼吸する月夜をよそに、朱雀は馴染ませるようにペニスの中で金平糖型を何度も行ったり来たりさせる。
「んああっ、だめ、鳥肌たつ。イク、イクッ」
出すものが無くなった月夜はドライで達したが、朱雀は月夜のペニスを内側から扱き続けた。
「こんな所を擦られて自分から腰振りながら自ら私ので奥突いて気持ちよくなってくれるなんて、私はこの上ないほどうれしいです。貴方、過去の男達にはこんなことさせなかったんでしょう?」
舐めるように月夜のペニスを眺める朱雀がうっとりとした表情を浮かべた。
「当たり前だ。誰が、だめっ、もうだめっ」
そういいながら、月夜はペニスの刺激で空イキを繰り返した。
「自分で気持ち良くなってだめはないでしょう?」
朱雀が満足げに微笑む。
「もうやだ」
何度目かの空イキをした月夜が子供のようにぐずり始めた。
「泣くほど気持ちよかった?」
朱雀の微笑みは月夜を憤慨させた。
「ばか。お前となんかもうしない」
月夜が両腕で顔を隠しながら泣き始めると、流石の朱雀も慌てて月夜の顔を覗きこんだ。
「泣かないで、顔見せて」
月夜の両腕を引き剥がそうとするが、意地になる月夜も力を入れて抵抗した。しかし、元々、力では叶わない月夜の目の前には朱雀の不安そうな顔があった。
「そんな、泣くほど嫌でした?」
本気で不安そうな朱雀に、月夜の中に優越感が込み上げた。
「僕一人でこんな、こんなの嫌に決まってるだろ。前でばっかり空イキするたび、お前のが僕の中にいるのに切なくて、欲しくて堪んなくて、気持ち良いけど空しくなるんだよ。僕は、お前が僕の体で感じてる顔を見るのが好きなんだよ、ばか」
月夜のかわいい発言に朱雀が反省と共にそれ以上の興奮を覚えた。
「なっ、急に中でデカくすんな。僕は怒ってるんだからな」
月夜の文句は朱雀には通用せず、「そんなに私のことが好きで、私のペニスで貴方をドロドロにして欲しいなんて」とうっとりと囁いた。
「そこまで言ってないだろ、ばか」
朱雀は口を尖らせる月夜の唇に軽く口付けると、体を起こしてゆっくりと律動を開始した。そして、中途半端に挿入されたシリコン製の金平糖を月夜の前立腺の辺りまで押し込んだ。
「お望みどおりドロドロに溶かして私のでイカせてあげます。存分に私の顔を見ながらイッてください」
朱雀が男の顔で月夜に宣言すると月夜のペニスには触れることなく律動を力強く加速させた。
「あっ、急にそんな、激しい。だめ、だめぇ」
新たなブジーと月夜のペニスの強力なコラボレーションにより、月夜は朱雀によって高みへと押し上げられた。そしてその後何度も快楽の扉を開かれると絶叫するように体を震わせた。その度に朱雀は大きく息を吐き出しながら射精を堪えていた。月夜の体は朱雀に与えられた快楽により常に電流を流されたように震えていた。その電流は痺れとなって全身を包み込み、月夜のペニスは月夜の腹部に横たわり、だらしなくブジーを銜えたまま尿道口を開閉させるばかりだった。
「硬くする事も出来ないくらい貴方のペニス、溶けてしまいましたね。そんなに中にいる私が気持ちいいんですか?」
朱雀の言葉がいい終わらないうちに月夜が「あんっ」と大きく啼いた。
「ば、まだデカくなるのかよ」
月夜が朱雀にしがみつこうと手を伸ばすと、朱雀が月夜の体をキツク抱きしめて「すみません、あまりにも貴方が可愛くて」と申し訳なさそうに囁いた。
幾度目かの絶頂を迎え「この精力ばか。遅漏朱雀。僕のおちんちん壊れちゃうから早くイケ」と月夜は快楽の涙を流しながら悪態をつき続けたたが、朱雀の律動が止まる事はなかった。
「出すよ」
朱雀がようやく終わりを告げると朱雀にしがみ付いていた月夜が「お前のイキ顔見たい」と熱に浮かされながら懇願した。朱雀は腕立て伏せをするように月夜から少し離れた。
「貴方にしか見せないんですからね」
荒い息づかいをした雄の表情を称えた朱雀がいよいよ最終段階とばかりに下肢を打ちつける。
朱雀のこめかみを幾筋もの汗が流れ落ち、顎を伝って月夜の頬にぽたぽたと零れ落ちる。月夜も小刻みに息を吐きながら朱雀の頬を両手で挟み、見逃すまいと朱雀を見つめる。
「イク、イク。すごいの来る」
月夜が体の奥底から込み上げる何かを受け止めるように朱雀の腰に両足を巻きつけた。
「んっクッ」
朱雀のペニスが月夜の中で大きく弾けた瞬間、堪えきれずに朱雀が顔を歪ませて声を発した。朱雀の放った男の色香にゾクゾクと月夜の背骨を通して今まで以上の電流を感じた月夜は、目を見開き朱雀を見つめたまま声もなく達した。
二人はお互いに絶頂を迎えたままの状態で固まったまま荒い呼吸を繰り返していた。朱雀の顎を伝って流れ落ちる汗がそのエネルギーの大きさを物語る。
「おまえ、の、まだ、出てる」
月夜が震えながら恍惚とした表情で呟いた。
「ずっと、我慢してましたから」
荒い呼吸の朱雀が吐き出すように呟き「気持ちいい。このまま貴方と一つになってしまいたい」と目を細めた。
暫く経ち、お互いの呼吸が落ち着いてもなお、二人は見つめあったままだった。
「お前のイキ顔」
月夜がそこまで言いかけてハッとして恥ずかしそうに口を噤みそっぽを向いた。
「変、でしたか?」
月夜が男の色香を纏ったまま、真剣な表情を浮かべた。それはわずかに不安の色を含んでいた。
「・・・かっこ良かった」
月夜がともすると聞こえないほどの小声で呟いた。
「良かった。惚れ直しました?」
朱雀が破顔して月夜に抱きついた。
「そこまで言ってない。重い」
照れ隠しのように月夜が叫ぶが、朱雀は「照れているんですね」と真面目に取り合わなかった。そしておもむろに繋がったまま月夜を抱き上げてバスルームへ向った。
「降ろせよ、抜けよ」
バスルームへ向う途中に月夜が抗議したが「はいはい。バスルームでね」と受け流した。
バスルームへ着くと「抜くのはどっちですか?私の?それとも貴方のお気に入りのブジー?どちらにしろ却下でしょう。私のを抜くと貴方の中から私の出した物が溢れ出ますし、ブジーを抜いたら今度はおしっこ漏らしちゃうでしょう?」と朱雀は正論を口にした。
「ばか」
月夜は朱雀の胸に真っ赤になった顔を隠すようにしがみ付いた。
「私のを抜く前にまずは、寝る前のおしっこしましょうね」
朱雀が爽やかな笑顔を月夜へ向けるとブジーで何度も月夜のくたりとしたペニスの中を擦り上げる。
ブジーを引き抜かれる時には月夜は仰け反りながら腰を突き出し「出る」と眉根を寄せ、前立腺に向かって押し込まれるときには腰を引いて「気持ちいい」と弱弱しく啼いた。朱雀は器用に片手で月夜のペニスを内側から扱きながら、反対の手で月夜の身体を抱えたままゆっくりと突上げ始めた。
「おい、今日はもう」
慌てた月夜が非難を口にした。
「もう少しだけ」
朱雀の言葉に月夜が「だめ、やだ、中から突かれたら我慢できなくなるだろ」と反論するが、「知ってますか?私のペニスで膀胱を刺激すると貴方は気持ちよさそうに恍惚とした表情でおしっこするんですよ。だから私に見せて下さい。私に突かれて気持ち良さそうにおしっこしながら恥ずかしがる貴方の顔」
「絶対やだ」
朱雀と月夜の根競べが始まったが結果はあっけなく朱雀に軍配が上がった。月夜が耐え切れずに排尿している最中も、し終えてからも朱雀は月夜の膀胱を奥深くで刺激し続けるように月夜の中を突き上げていた。
「もう出しただろ」
月夜が噛み付くと、「すみません。貴方のかわいらしい姿を見ていたら興奮してしまって、もう少しでイケそうなんです。貴方の好きな私のイキ顔、もう一度お見せしますから付き合ってください」
朱雀がバツが悪そうに月夜に答えた。
「そこまで言ってない」
徐々に加速する突き上げに再び尿意に襲われた月夜が「出る、また出る」と叫び始めると、朱雀の顔を両手で挟んで朱雀の目を見つめ始めた。朱雀は月夜の好きにさせたまま二度目の排尿を促すように突き上げる。すると間もなく月夜のペニスからしょろしょろと尿が出始めそれが終わるのを待っていたかのように朱雀が快楽に顔を歪ませながら月夜の中で射精した。朱雀の精が流れ込んでくるのを喜ぶかのように月夜の体は感電したようにビクンと震えた。月夜の中で果て、すっきりとしたように息を吐いた朱雀が「私に出されるの、そんなに気持ちよかったですか?」と小首を傾げ男の色香を纏った顔で月夜を真っ直ぐに射た。
「ち、違う」
朱雀の表情にドキッとした月夜がとっさに反論したが、体は正直な反応を示した。
「うそ、貴方と繋がっている私にはまるわかりですよ。貴方は天邪鬼ですが体は正直ですからね。
ハアー。貴方の中、気持ちいい」
朱雀が小刻みに腰を振りながら月夜の鼻先を自らの鼻先で擦りつけた。
朱雀の正直な感想に再びドキッとした月夜が、口で何を言っても無意味な事を悟り、プイッとそっぽを向いた。朱雀が月夜の肩口に額を乗せた。
「このまま貴方の中にずっと居座っちゃいけませんか?」
朱雀の、ともすると本気の言葉に、月夜がそっぽを向いたまま頬を赤らめさせていた。
「ヘンタイ朱雀」
月夜が照れ隠しに悪態を付く。
「貴方限定ですけどね。もうちょっとだけ、貴方の中に居させてください」
「ばか」
悪態をつきつつも朱雀に身を任せしがみ付く月夜を愛しく感じながら、朱雀は月夜の体をギュッと抱き締めたまま名残を惜しむ様に下肢を揺らめかせ朱雀の吐き出す熱い吐息がしばらくバスルームに木霊していた。それを間近で受け止めていた月夜のペニスが僅かに反応を示すと、「あと一回だけだからな」と念を押しながら、月夜がギュッと朱雀にしがみ付いた。
その夜、朱雀は不思議な夢を見た。
「朱雀、俺のかわいい朱雀」
桐生が朱雀の夢枕に立ったのだった。
「ヒカルを頼んだよ、朱雀。お前はヒカルの兄なのだから」
桐生はそう微笑んで朱雀の頭に手を置いた。その手は夢にも拘らず暖かいと朱雀は感じた。
「お父さん、私にはヒカルを救うことなんて出来ません。むしろ自業自得でしょう?それにおじい様には私は歯向かうことなど出来ません」
朱雀は精一杯叫んだ。しかし、桐生は朱雀の頭に手を置いたまま優しく微笑むばかりだった。
桐生の生前、自分よりもヒカルのことばかり気にかけていたと劣等感を感じていた朱雀はなおも桐生に叫び続けた。
「ヒカルは我がままです。子供の頃から好き勝手してもみんなヒカルのことばかりを気にかける。お父さんだってそうです。お父さんだって私のことなんかよりヒカルの方が」
朱雀は唇を噛み締めて涙を堪えようとしたが、積年の劣等感ゆえに、その感情は涙となって溢れ出る。
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「お前はお兄ちゃんなのだから」
「待ってください。もっとここにいてください。私ともっと」
朱雀が桐生に手を伸ばすが届くことは無かった。朱雀の叫びも空しく、桐生の体は朱雀の目の前から消えた。
「待ってください、お父さん」
朱雀はガバッと起き上がった。
「はぁ、はぁ、はぁ」
朱雀の隣で寝ていた月夜が目を覚ました。
「朱雀?」
そこで涙を流して荒い呼吸を繰り返す朱雀を見ると、月夜は朱雀の体をそっと抱き締めた。
「大丈夫?」
月夜は朱雀を胸に抱き、何も言わずに朱雀の震える背中を擦り続けた。
ある夜のこと、慧がヒカルの寝室に音もなく忍び込んだ。
「ヒカル君、僕はヒカルさんを一目見たときから好きになる確信がありました。姉はそんな僕に気づいてヒカル君に狙いをつけたんです。すみません。こんな形で出会わなければ僕たちは」
静かに寝息を立てるヒカルに、慧が小声で告白する。
「こうなってしまった今となってはヒカル君に抱いてもらうことも出来ない。だからせめてもの思い出に一度だけキス、させてください」
仰向けのヒカルの唇に触れる瞬間、「んん」とヒカルが寝返りをうった。
ハッとした慧はヒカルを起さぬように部屋を後にした。
慧が部屋から出て行くと、ヒカルがすぅっと目を開けて、目の前の闇を睨み続けた。
出産を迎えるまでの間ヒカルのヴィラで暮らすことになった愛美の態度は日増しに横暴になっていった。
「もう、ちゃんと擦ってよ下手糞。こっちはあんたのお陰でこんなに苦しい思いしてんだから。セックスも出来ないし」
その横暴さは慧にのみ向けられ、ヒカルをうんざりとさせた。
その愛美の態度が急にころりと変化した。
「今日検診に行って知り合った人に聞いたらさ、妊娠してもセックスはしてるんだって。ヒカル、今からしようよ」
愛美は仕事を終えてヴィラへ戻ったヒカルに抱きつくと、玄関先でヒカルのスラックスのベルトを外そうとした。
「何すんだ、触んな」
ヒカルは愛美の体を押して引き剥がそうとするが、一足早く愛美がヒカルのペニスを銜えた。すぐ傍にいた慧も呆然とその光景を眺めるだけだった。
ヒカルは諦めたように愛美の好きにさせたが、ヒカルのペニスは一向に反応しなかった。
「わかったか。お前じゃ勃つもんも勃たねえよ」
ヒカルの冷めた言葉に愛美が屈辱的な顔をしてヒカルを見上げた。
「あたしの口で勃たない男はいないんだから。あんた不能になったんじゃないの?」
プライドを傷つけられた愛美は猛烈に反論した。
「これ以上汚え口で俺に触るな」
ヒカルはそのままリビングに入ると、ティッシュでペニスについた愛美の唾液を拭った。それを一部始終見ていた愛美がますます激怒した。
「汚いとはなによ。このあたしに向って」
愛美はワナワナと体を震わせた。
「お前は子供が産まれるまでの契約上、ここに居させてやってるだけだ。じゃなきゃ誰がお前なんか」
ヒカルが鼻でせせら笑うと、愛美の顔が怒りで赤くなった。ヒカルはそんなことにはお構い無しにソファに大股を開いてドカリと座ると、慧のほうを向いた。
「お前がやれ、続き」
ヒカルが慧に顎で命令した。
「ここにいる間の家賃ぐらいてめえで稼げ」
ヒカルは慧に冷たく言い放つと、慧がヒカルの前にかしずいてヒカルのペニスに奉仕し始めた。ヒカルのペニスはムクムクと反応を示し、あっと言う間に熱い肉棒へと成長した。ヒカルは慧をソファに乱暴に押し倒すと、慧のスラックスを剥ぎ取った。そして慣らすことなく慧の尻にペニスを擦りつけた。
「ここに来てから暫く経つ割に柔らけえじゃねえか。一人で寂しく弄ってやがったのか?」
慧が図星とばかりに顔を赤らめてヒカルから目を逸らした。慧の体が大丈夫だと判断したヒカルは正常位で一気に貫いた。
「んあああーーっ」
圧倒的なヒカルのペニスの大きさに慧が叫び声を上げた。
「キッツー。これじゃ動けねえな。一遍出すぞ」
ヒカルは有無を言わさずに慧の中に射精した。
「これで幾分かはましか」
自らの精液の滑りを借りて間髪を入れずにヒカルが慧の奥深くを抉り始めた。
「そこ、あん、そんな深くは、やっ、あん」
直ぐに男を知る慧が快楽を拾い始めた。
「残念だがまだ全部挿入れてねえんだ」
「ウソ」
驚きに慧が目を見開くがヒカルは凶器的なその肉棒をを無理やりに押し込みひたすらに下肢を打ちつけた。
「あっ、壊れる、んっ、あああっ」
慧が未知なる快楽に、川岸に浮かぶ木の葉の様にヒカルに揺さぶられ続ける。
「ヒカル君」
心もとなげに慧がヒカルにしがみ付こうと手を伸ばした。
「ダメだ、俺の体に触れていいのは紫上だけだ」
ヒカルは慧の両手をソファに縫い付け下肢の動きに勢いを持たせた。
「ああ、ああん。イキたい。イッてもいいですか?」
慧が涙ながらにヒカルに懇願した。
「イキてえなら勝手にイケ。だが、さっき出しちまったから俺が次に出すまでは暫く啼くことになるけどな」
無慈悲にヒカルは慧に言い放ったが、その言葉の最後まで待たずに慧が射精した。
「あ、あ、ん、ぁあっ」
ブルリと下肢を震わせる最中も慧の奥を抉るヒカルの下肢の動きに、精液を撒き散らしながら慧はあられもなく啼き続くけることしか出来なかった。
いつしか、愛美の姿はリビングには無かった。愛美は自室にまで聞こえる慧の声を遮断するように枕で両耳を塞ぎ、屈辱に耐えていた。
ようやく開放された慧はだらりと体を弛緩させたまま、ピクリとも動かなかった。慧のパーカーの胸から下腹部の至る所に慧の精液がこびり付いていた。それは、ヒカルとの行為の激しさを物語っていた。ヒカルは慧の中からペニスを引き抜くと、慧の体の後始末をすることなくバスルームへと向った。
その日を境に、ヒカルはソファで慧を事あるごとに抱いた。それはまるで愛美に子供以外は無用の存在であると思い知らせるようだった。当然のことながら、ヒカルは慧に体を触らせることはしなかった。
「待ってください、お父さん」
朱雀はたびたび桐生の夢枕に魘され続けていた。それが、ヒカルの異動の原因である右代派を抑えることのできなかった自責の念から来る物なのか、朱雀にはわからなかった。
「また、桐生おじさんの夢を見たの?ここ最近あまり眠れてないだろ」
朱雀の目の下のクマをそっとなぞり、月夜が心配そうに朱雀を見つめる。
「大丈夫ですよ、このくらい平気です」
月夜を心配させまいと、朱雀が弱々しげに微笑んだ。
「でも」
月夜は朱雀の頬を両手で包み込み、辛そうな顔をした。
朱雀は月夜の両手をそっと握り締めて目を閉じ少し逡巡すると、何かを決意したように目を開けた。
「おじい様のところに行ってきます」
そう言うと、月夜の心配をよそに朱雀は右代家に赴いた。
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