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【帚木】Hahakigi
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十七歳になったヒカルは名門といわれる男子高校へと進学していた。全寮制のため、ヒカルも入寮していた。校内の近くにあるタワーマンションが一棟全て寮になっていた。
そのころのヒカルは百八十を超える身長と端正な顔立ち、同じ年代にはない影を纏う雰囲気で学内の一部の男子のみにあらず、近くの女子学生たちからも絶大なる人気を誇っていた。
寮であるマンションの出入口、校門にはヒカルを一目見ようと毎朝人だかりができていたが、学内はおろか、他校の女子高生ともヒカルには浮いた話がひとつもなかった。
その年の梅雨の時期。
ヒカルの部屋へと集まった【藤原 惟光】(Hujiwara Koremitu)、【佐久間 準】(Sakuma Jyun)が他愛もない噂話をしていた。
「俺の兄貴も実はここの卒業生でさ、その兄貴から聞いた話なんだ」
佐久間がもったいぶりながら話し始めた。惟光が真剣に聞いていたが、ヒカルはどこか心ここにあらずで、ぼんやりと窓の外を眺めていた。
「ヒカル、聞いてんのか?」
惟光が佐久間の話の途中でヒカルに声を掛けたが、やはりヒカルは上の空だった。
「いいよ、ヒカルはほっといて。
で兄貴の友達が皆で海に行った時の話なんだけど。兄貴の友達が凄い美人にナンパされてそのままホテルに行ったらしいんだ。
海から戻ってきたそいつを兄気が冷かしたら、常夏の女はまさに情熱的だったよ。って惚気たらしいんだ。と、ここまでは良くありがちな話なんだけど、その女に子供ができたらしくてさ、学校まで尋ねてきたんだって」
「うわー最悪じゃん」
惟光がご愁傷様という顔をした。
「だろ?でもそいつは結婚するって親に言ったらしいんだ。だけどここの学校に入学するってことはそいつの家はそれなりの家柄だから両親がそいつに内緒でその女に手切れ金を渡して追っ払ったらしいんだ」
「結婚するつもりだったんだ、その人」
惟光が驚きの声を上げた。
「だろ?俺もそれには驚いた。さすがに高校生で子供ができて結婚は、ちょっと」
佐久間が自分の意見を惟光に伝えると、惟光も「僕も」と言葉を詰まらせた。
「よっぽどその常夏の女は魅力的だったんだろうね。凄い美人って言われるくらいだから」
「だろうな」
佐久間と惟光の話を遠くで聞きながら、ヒカルはやはり窓の外を見ていた。
ヒカルに浮いた話がないのには秘密があった。
ヒカルは夜な夜な夜の街へと繰り出していたのだった。夜の街ではヒカル名は有名だった。年齢不詳の謎のイケメン。夜の街ではヒカルが高校生であることは誰も知らなかった。相手には事欠かないヒカルが今夜の獲物の物色に喫煙所で一服しようとタバコを取り出した。そして銜えたところでジッポが差し出された。
ヒカルより少し背丈が低くヒカルよりも体の線も細い男だった。中世的な面持ちでどこか男臭さのない男だった。肩までの髪を後ろで結わえていた。
「お前、ヒカルだろう」
男はヒカルの事を知っているようだった。ヒカルは合えて無視を決め込んだ。
「つれねえな。何で知ってる?って顔だな」
煙を吐きながら男が名詞を差し出した。
「お前はここらじゃ有名人だから、誰でも知ってるさ。
俺は雅。【六条 雅】(Rokujyo Miyabi)、そこの交差点の角にあるBarのオーナーだ。良かったらいつでも遊びに来てくれよ」
雅と名乗った男がニィッと微笑んだ。
「男は興味ないから」
名刺を一瞥したヒカルがゲイバーの文字で雅に名刺を返そうとした。
「明らかにノンケだからな。でももったいないぜ、男の味を知らないのは人生の半分を損してるってことだからな。良かったら俺が直々に優しく教えてやってもいいぜ」
自信たっぷりに語る雅をよそに、タバコを吸い終えたヒカルがその場を立ち去ろうとした。
「なんだよ、無視かよ。どこまでもつれねえな」
雅が慌ててタバコの火をもみ消してヒカルを追いかけた。
「俺、正直ヒカルみたいなのがドストライクなんだ」
どこまでもついてこようとする雅に見せ付けるようにヒカルが溜息を吐いた。
「そんなに教えたきゃ、相手してやるよ」
今度はヒカルが雅の腕を掴んでラブホテルへと歩き始めた。
「ヒカル、お前の趣味なのか?」
ヒカルの選んだ部屋はSMプレイ専用ルームだった。
「いや、初めて入った。いつもは女が適当に見繕う」
ヒカルがさらりと言いながらリップクリームを塗った。
「言うねぇ、モテる男は唇にまで気を使うのか」
ヒューと、口笛を雅が吹いた。
「さあ、教えてもらおうか?男の味」ヒカルが面倒くさそうに雅を見て「キスぐらいは男も女も同じだろ」と雅の顎を掴んで囁くと、雅が「そうだな」と言ってヒカルの唇をぺろりと舐めた。
「このリップクリーム甘い味がする」
雅がキスの合間にヒカルに問いかけた。
「俺専用の特注品」とだけヒカルが答えた。
「俺、ヒカル見たいなタチを専門に喰う『タチ喰い専門』なんだ」
ヒカルの唇を嘗め回す雅がヒカルを押し倒そうとした。
「あれ?おかしい。舌が痺れて」
雅が体の異変を訴えた。
「やっと効いてきたか」
ヒカルが鼻でせせら笑った。
「チッ、あのリップ」
ヒカルの態度に雅がワナワナと震えた。
「言ったろ、俺専用の特注だって。そろそろ体も言うこと聞かないんじゃないか?」
ヒカルがフンと薄笑いをした。そして手錠を雅に嵌めると、ベットヘッドに付いたカラビナに引っ掛けて拘束した。
「うそ。男は始めてだって」
雅が初めて怯えた顔を浮かべた。
「いいねえ、その顔。
男は初めてだが、入れる穴が違うだけだろ」
ヒカルが雅の細く長い足を際立たせている細身のエナメル質のパンツを脱がせた。
「ここに入れりゃぁ良いんだろ?」
体を伏せにした雅の下肢を上げさせ、雅の両足をヒカルが両足で押さえつけて雅の自由を奪った。
「止めろ、俺はタチなんだ」
痺れる舌で雅が必死に叫ぶ。
「あんたはタチ喰いなんだろ。今まで喰ってきた奴らの気持ちも知っておけ」
ヒカルが冷徹に言い返した。
「教えてくれるんだろ、直々に、お前が」
ジェルつきのゴムを纏ったヒカルが雅に挿入れ始めた。
「痛い、痛いから、止めて」
雅が振り返りながらヒカルに懇願する。
「痛い、痛いのは嫌。お願いだから」
「嫌だという割には満更でもねえんじゃねえの?お前のチンコ萎えてねえし」
ヒカルがローションも足し始めた。
「入るもんなんだな。でも狭めえな」
ヒカルが一仕事終えたように息を吐いた。雅の中を探る様に動き始めると雅が徐々に快楽を拾い始めた。
「あ、当たる。痛いけど当たる」
雅の口調が次第に男らしさを失っていった。
「本気で動くからな」
ペチッと雅の尻を叩くとヒカルが大きくグラインドし始めた。
「んああ、当たる。痛いよ。でも気持ち良い」
ヒカルが奥を付くたびに雅の尻とヒカルの下肢が音を立てる。その度に雅が啼いた。
「ヒカルのおっきい。内臓持ってかれちゃう。凄い。お腹破れちゃう」
出合った時の中世的だかどこか男らしさのあった雅とは、もはや別人と化していた。
「ヒカルゥ、イキたい。ちんこ触ってぇ」
雅がはしたなく懇願し始めた。
「俺は男は興味無えんだよ。イキたきゃてめえでイケや」
ヒカルがますます下肢の動きを激しくした。
「ああ、ああん。触ってぇ、触ってぇ」
長い時間切なそうに啼き続けた雅が、今度は喜々として啼き始めた。
「あっ、イク、イケそう。イケちゃう。イッちゃう」
体を硬直させた雅が触れられる事無くベッドに精液をぶちまけた。
「やれば出来るんじゃねえか」
一言呟いたヒカルも雅の中で果てた。それからヒカルは蠢く雅に誘われる様に抜かずの四連発を決めた後、萎えた肉棒でグチュグチュと雅の奥をくすぐった。
「悪くはねえな、男の味も」
ヒカルがタバコに火をつけて部屋をぐるりと見渡し、ある物を目にして薄笑いを浮かべた。
宮内 ヒカル 十七歳、六条 雅 二十四歳。
この夜、バイセクシャル ヒカルが誕生した。
その二日後。突然の土砂降りのためコンビニの軒先で雨宿りをしていたヒカルに一人の青年が傘を差し出した。
「良かったら使って」
「いや、そしたらあんたが濡れるし、傘ならここの店にもある」
青年の親切をヒカルがぶっきら棒に返した。
「そっか、でも終電も無いみたいだし、俺の家で雨宿りして行くかい?家族と暮らしているから、君が気にしないのなら」
この青年が自分を誘っているのかと思ったヒカルが、「遠慮なく」と言って青年の傘の中に便乗した。
「酷い雨だ、傘も全く意味を成さなかったね」
濡れたままで奥の部屋へと入っていった青年がタオルを持って玄関にいるヒカルの元に戻ってきた。
「これ使って、シャワー浴びるといい。体、冷えてるだろうから」
浴室の場所を指差した青年の行為にヒカルが素直に従った。
「服、ちょうど良さそう、だね」
シャワーを終えたヒカルに青年が微笑んだ。
「その服、僕のパートナー【伊予 守信】(Iyo Morinobu)の服なんだ。結構がっしりとした体格の人でね。不動産関係の仕事してて今日も出張でいないんだ」
青年が寂しそうに笑った。
「そうだ、俺、名前言ってなかったね。【宇津瀬 未玖】(Utuse Miku)。君の名は?」
ヒカルが「ヒカル」とだけ告げた。
「ヒカル君か、僕もシャワー浴びてきても良いかい?家族がもう部屋で寝てるからこのソファ使って。雨が止むまで寝ていけば良いよ」
それだけを言うとそそくさと青年が浴室へと向った。
ヒカルが浴室の戸を開けると、宇津瀬が髪を洗っているところだった。ヒカルの気配を感じたのか、宇津瀬が振り返ったが、シャンプーが目に入るため目を空けることが出来ずにいた。
「ちょ、なにを」
慌てる宇津瀬を背後から壁に押付けた。
「体、冷えてるんだろ?暖ったまろうぜ」
ヒカルが既に熱い肉棒と化した下肢を擦りつけると、意外にもすんなりと青年の体が受け入れ始めた。
「あんた、準備してたのか?」ヒカルの問いかけに「違う、今朝、伊予と出張に行く前にしたから」と言い訳をした。
「にしてはキツイ。これじゃあ全部入らねぇな」
ヒカルが宇津瀬の足を片方掬い上げた。
「ああっ」
宇津瀬が喉元を晒して大きく喘いだ。降り注ぐシャワーに宇津瀬の髪がようやく洗い流された。
「俺、そんなつもりで君を」
シャワーのせいか、泣いているのか、振り向きながら宇津瀬が顔を歪ませたが、男に体を開かれる喜びを知る宇津瀬の体は貪欲にヒカルを受け入れていた。大きく開いた宇津瀬の下肢にヒカルが容赦なく突き入れる。
「ああ、ああっ」
宇津瀬が艶やかに喘ぎ、次第に自ら腰を振り始めた。
「そこ、伊予じゃ届かないとこ当たる。そこ凄い、たまらない。ごめん伊予、ごめん」
宇津瀬が陶酔したように実況し、「ああっ、あと少し」と熱いと息と共に吐き出した瞬間、ハッと我に帰った宇津瀬がみじろぎ出した。
「あっ、頼む。中出しだけはしないで、何でもするから」
二人とも切羽詰った状態にも拘らず、宇津瀬が今度はヒカルにもわかるほど泣きながら訴えた。
「この俺に待てをさせた奴はあんたが初めてだ」
ヒカルが熱い肉棒を無理やり引き抜くと、「んっやっ」宇津瀬が名残惜しそうに啼いた。
慌しくバスタオルで体を拭いた二人が裸のままリビングを通り越し、寝室へと宇津瀬が誘った。
「これ」
宇津瀬が引き出しからコンドームを出してヒカルに渡した。
「お前の希望を叶えたんだ、お前が俺を満足させろ」
ヒカルが低い声で囁くと宇津瀬がコンドームの封を開けてヒカルの肉棒に口で装着させた。
「へえ、仕込まれてんな」
ヒカルが挑発するように薄笑いを浮かべると、宇津瀬がヒカルをベッドに押し倒し騎乗位で挿入れ始め、自らもコンドームを装着した。
「んんっ、はぁ」ヒカルの肉棒を根元まで納めた宇津瀬が「ヒカル君のちんこやっぱり大きい。俺も、こんなに奥突かれるのは始めて」そう言うと宇津瀬が下肢をくねらせ始めた。
「ああん、ああん、体の中心が熱い。君の熱で」
ヒカルは宇津瀬の好きにさせたまま二人目の男の味を堪能した。
「あんたはちんこ触らなくて良いのか?」
ヒカルが素朴な質問をぶつけた。
「俺は尻でイケるから。ちんこ触らなくても女みたいにイケるんだ」
宇津瀬がふわりと笑った。
徐徐に上がる息と共に宇津瀬の啼き声も下肢の動きと共に激しさを増した。
「ごめん、伊予。お前以外でイク。もうイクッ」
ヒカルの腹上で必死に快楽を追求する青年がついに絶頂を迎えた。
はあ、はあ、と荒い息の宇津瀬がヒカルの上でぐったりとした。
「凄いな、ヒカル君。まだ萎えないんだ」
宇津瀬が驚いたように呟いた。
「あんたの男のゴムが小さ過ぎてコックリング状態だからな。今度は俺の番だ」
繋がったまま宇津瀬を押し倒し、両足首を掴んで大きく下肢を開かせた。宇津瀬の装着したゴムの中で精液が揺れているのを見ながら、ヒカルが大きく腰を使い始めた。
暫くして視線を感じたヒカルがドアに視線を向けると家族であろう誰かと目が合った。すると覗き見していた人物の気配が消えた。
ヒカルが大して気にするでも無く今度は自分の快楽を追い求め始めた。
「いい、こんなに凄いの初めて」
宇津瀬が目を半開きにしたまま喘ぎ続ける。
「俺も気持ちよくしてくれよ」
ズルリと肉棒を引き抜くとコンドームを取り去り直に宇津瀬の中に挿入し、激しくまぐわう。
「女相手だったらゴムは必須だが、男相手なら必要ねぇよな」
「あ、あ、来る、なんか来る」
宇津瀬がカッと目を見開いて、何かに耐えるようにシーツを握り締めた。
「ああ、あああっああんっ」
宇津瀬が大きく啼いて体をブルブルと震わせた。
「これ、が、ドライ」
宇津瀬が痙攣しながら浅い呼吸を繰り返した。
「あんたの体最高だ」
ついにヒカルが息を詰めて宇津瀬の中で果てた。
「雨も上がったことだし俺は帰る」
ヒカルがベッドから起き上がった。
「あんたなら、またしてもいいぜ、セックス」
ヒカルがドアに近づきながら薄笑いを浮かべて伝えると「いや、ヒカル君みたいなセックスをこれ以上知ったら、俺は伊予とじゃ満足できなくなる。だからもうお終いにしてくれ」
宇津瀬が事後の気だるさを纏った声でヒカルに終わりを告げた。
「服は乾燥機に入ってるから」
それだけを言うと、宇津瀬がまどろみの中に落ちていった。
そのころのヒカルは百八十を超える身長と端正な顔立ち、同じ年代にはない影を纏う雰囲気で学内の一部の男子のみにあらず、近くの女子学生たちからも絶大なる人気を誇っていた。
寮であるマンションの出入口、校門にはヒカルを一目見ようと毎朝人だかりができていたが、学内はおろか、他校の女子高生ともヒカルには浮いた話がひとつもなかった。
その年の梅雨の時期。
ヒカルの部屋へと集まった【藤原 惟光】(Hujiwara Koremitu)、【佐久間 準】(Sakuma Jyun)が他愛もない噂話をしていた。
「俺の兄貴も実はここの卒業生でさ、その兄貴から聞いた話なんだ」
佐久間がもったいぶりながら話し始めた。惟光が真剣に聞いていたが、ヒカルはどこか心ここにあらずで、ぼんやりと窓の外を眺めていた。
「ヒカル、聞いてんのか?」
惟光が佐久間の話の途中でヒカルに声を掛けたが、やはりヒカルは上の空だった。
「いいよ、ヒカルはほっといて。
で兄貴の友達が皆で海に行った時の話なんだけど。兄貴の友達が凄い美人にナンパされてそのままホテルに行ったらしいんだ。
海から戻ってきたそいつを兄気が冷かしたら、常夏の女はまさに情熱的だったよ。って惚気たらしいんだ。と、ここまでは良くありがちな話なんだけど、その女に子供ができたらしくてさ、学校まで尋ねてきたんだって」
「うわー最悪じゃん」
惟光がご愁傷様という顔をした。
「だろ?でもそいつは結婚するって親に言ったらしいんだ。だけどここの学校に入学するってことはそいつの家はそれなりの家柄だから両親がそいつに内緒でその女に手切れ金を渡して追っ払ったらしいんだ」
「結婚するつもりだったんだ、その人」
惟光が驚きの声を上げた。
「だろ?俺もそれには驚いた。さすがに高校生で子供ができて結婚は、ちょっと」
佐久間が自分の意見を惟光に伝えると、惟光も「僕も」と言葉を詰まらせた。
「よっぽどその常夏の女は魅力的だったんだろうね。凄い美人って言われるくらいだから」
「だろうな」
佐久間と惟光の話を遠くで聞きながら、ヒカルはやはり窓の外を見ていた。
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ヒカルは夜な夜な夜の街へと繰り出していたのだった。夜の街ではヒカル名は有名だった。年齢不詳の謎のイケメン。夜の街ではヒカルが高校生であることは誰も知らなかった。相手には事欠かないヒカルが今夜の獲物の物色に喫煙所で一服しようとタバコを取り出した。そして銜えたところでジッポが差し出された。
ヒカルより少し背丈が低くヒカルよりも体の線も細い男だった。中世的な面持ちでどこか男臭さのない男だった。肩までの髪を後ろで結わえていた。
「お前、ヒカルだろう」
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「つれねえな。何で知ってる?って顔だな」
煙を吐きながら男が名詞を差し出した。
「お前はここらじゃ有名人だから、誰でも知ってるさ。
俺は雅。【六条 雅】(Rokujyo Miyabi)、そこの交差点の角にあるBarのオーナーだ。良かったらいつでも遊びに来てくれよ」
雅と名乗った男がニィッと微笑んだ。
「男は興味ないから」
名刺を一瞥したヒカルがゲイバーの文字で雅に名刺を返そうとした。
「明らかにノンケだからな。でももったいないぜ、男の味を知らないのは人生の半分を損してるってことだからな。良かったら俺が直々に優しく教えてやってもいいぜ」
自信たっぷりに語る雅をよそに、タバコを吸い終えたヒカルがその場を立ち去ろうとした。
「なんだよ、無視かよ。どこまでもつれねえな」
雅が慌ててタバコの火をもみ消してヒカルを追いかけた。
「俺、正直ヒカルみたいなのがドストライクなんだ」
どこまでもついてこようとする雅に見せ付けるようにヒカルが溜息を吐いた。
「そんなに教えたきゃ、相手してやるよ」
今度はヒカルが雅の腕を掴んでラブホテルへと歩き始めた。
「ヒカル、お前の趣味なのか?」
ヒカルの選んだ部屋はSMプレイ専用ルームだった。
「いや、初めて入った。いつもは女が適当に見繕う」
ヒカルがさらりと言いながらリップクリームを塗った。
「言うねぇ、モテる男は唇にまで気を使うのか」
ヒューと、口笛を雅が吹いた。
「さあ、教えてもらおうか?男の味」ヒカルが面倒くさそうに雅を見て「キスぐらいは男も女も同じだろ」と雅の顎を掴んで囁くと、雅が「そうだな」と言ってヒカルの唇をぺろりと舐めた。
「このリップクリーム甘い味がする」
雅がキスの合間にヒカルに問いかけた。
「俺専用の特注品」とだけヒカルが答えた。
「俺、ヒカル見たいなタチを専門に喰う『タチ喰い専門』なんだ」
ヒカルの唇を嘗め回す雅がヒカルを押し倒そうとした。
「あれ?おかしい。舌が痺れて」
雅が体の異変を訴えた。
「やっと効いてきたか」
ヒカルが鼻でせせら笑った。
「チッ、あのリップ」
ヒカルの態度に雅がワナワナと震えた。
「言ったろ、俺専用の特注だって。そろそろ体も言うこと聞かないんじゃないか?」
ヒカルがフンと薄笑いをした。そして手錠を雅に嵌めると、ベットヘッドに付いたカラビナに引っ掛けて拘束した。
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「いいねえ、その顔。
男は初めてだが、入れる穴が違うだけだろ」
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「ここに入れりゃぁ良いんだろ?」
体を伏せにした雅の下肢を上げさせ、雅の両足をヒカルが両足で押さえつけて雅の自由を奪った。
「止めろ、俺はタチなんだ」
痺れる舌で雅が必死に叫ぶ。
「あんたはタチ喰いなんだろ。今まで喰ってきた奴らの気持ちも知っておけ」
ヒカルが冷徹に言い返した。
「教えてくれるんだろ、直々に、お前が」
ジェルつきのゴムを纏ったヒカルが雅に挿入れ始めた。
「痛い、痛いから、止めて」
雅が振り返りながらヒカルに懇願する。
「痛い、痛いのは嫌。お願いだから」
「嫌だという割には満更でもねえんじゃねえの?お前のチンコ萎えてねえし」
ヒカルがローションも足し始めた。
「入るもんなんだな。でも狭めえな」
ヒカルが一仕事終えたように息を吐いた。雅の中を探る様に動き始めると雅が徐々に快楽を拾い始めた。
「あ、当たる。痛いけど当たる」
雅の口調が次第に男らしさを失っていった。
「本気で動くからな」
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「んああ、当たる。痛いよ。でも気持ち良い」
ヒカルが奥を付くたびに雅の尻とヒカルの下肢が音を立てる。その度に雅が啼いた。
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出合った時の中世的だかどこか男らしさのあった雅とは、もはや別人と化していた。
「ヒカルゥ、イキたい。ちんこ触ってぇ」
雅がはしたなく懇願し始めた。
「俺は男は興味無えんだよ。イキたきゃてめえでイケや」
ヒカルがますます下肢の動きを激しくした。
「ああ、ああん。触ってぇ、触ってぇ」
長い時間切なそうに啼き続けた雅が、今度は喜々として啼き始めた。
「あっ、イク、イケそう。イケちゃう。イッちゃう」
体を硬直させた雅が触れられる事無くベッドに精液をぶちまけた。
「やれば出来るんじゃねえか」
一言呟いたヒカルも雅の中で果てた。それからヒカルは蠢く雅に誘われる様に抜かずの四連発を決めた後、萎えた肉棒でグチュグチュと雅の奥をくすぐった。
「悪くはねえな、男の味も」
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「良かったら使って」
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「酷い雨だ、傘も全く意味を成さなかったね」
濡れたままで奥の部屋へと入っていった青年がタオルを持って玄関にいるヒカルの元に戻ってきた。
「これ使って、シャワー浴びるといい。体、冷えてるだろうから」
浴室の場所を指差した青年の行為にヒカルが素直に従った。
「服、ちょうど良さそう、だね」
シャワーを終えたヒカルに青年が微笑んだ。
「その服、僕のパートナー【伊予 守信】(Iyo Morinobu)の服なんだ。結構がっしりとした体格の人でね。不動産関係の仕事してて今日も出張でいないんだ」
青年が寂しそうに笑った。
「そうだ、俺、名前言ってなかったね。【宇津瀬 未玖】(Utuse Miku)。君の名は?」
ヒカルが「ヒカル」とだけ告げた。
「ヒカル君か、僕もシャワー浴びてきても良いかい?家族がもう部屋で寝てるからこのソファ使って。雨が止むまで寝ていけば良いよ」
それだけを言うとそそくさと青年が浴室へと向った。
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「ちょ、なにを」
慌てる宇津瀬を背後から壁に押付けた。
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「あんた、準備してたのか?」ヒカルの問いかけに「違う、今朝、伊予と出張に行く前にしたから」と言い訳をした。
「にしてはキツイ。これじゃあ全部入らねぇな」
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「ああっ」
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「俺、そんなつもりで君を」
シャワーのせいか、泣いているのか、振り向きながら宇津瀬が顔を歪ませたが、男に体を開かれる喜びを知る宇津瀬の体は貪欲にヒカルを受け入れていた。大きく開いた宇津瀬の下肢にヒカルが容赦なく突き入れる。
「ああ、ああっ」
宇津瀬が艶やかに喘ぎ、次第に自ら腰を振り始めた。
「そこ、伊予じゃ届かないとこ当たる。そこ凄い、たまらない。ごめん伊予、ごめん」
宇津瀬が陶酔したように実況し、「ああっ、あと少し」と熱いと息と共に吐き出した瞬間、ハッと我に帰った宇津瀬がみじろぎ出した。
「あっ、頼む。中出しだけはしないで、何でもするから」
二人とも切羽詰った状態にも拘らず、宇津瀬が今度はヒカルにもわかるほど泣きながら訴えた。
「この俺に待てをさせた奴はあんたが初めてだ」
ヒカルが熱い肉棒を無理やり引き抜くと、「んっやっ」宇津瀬が名残惜しそうに啼いた。
慌しくバスタオルで体を拭いた二人が裸のままリビングを通り越し、寝室へと宇津瀬が誘った。
「これ」
宇津瀬が引き出しからコンドームを出してヒカルに渡した。
「お前の希望を叶えたんだ、お前が俺を満足させろ」
ヒカルが低い声で囁くと宇津瀬がコンドームの封を開けてヒカルの肉棒に口で装着させた。
「へえ、仕込まれてんな」
ヒカルが挑発するように薄笑いを浮かべると、宇津瀬がヒカルをベッドに押し倒し騎乗位で挿入れ始め、自らもコンドームを装着した。
「んんっ、はぁ」ヒカルの肉棒を根元まで納めた宇津瀬が「ヒカル君のちんこやっぱり大きい。俺も、こんなに奥突かれるのは始めて」そう言うと宇津瀬が下肢をくねらせ始めた。
「ああん、ああん、体の中心が熱い。君の熱で」
ヒカルは宇津瀬の好きにさせたまま二人目の男の味を堪能した。
「あんたはちんこ触らなくて良いのか?」
ヒカルが素朴な質問をぶつけた。
「俺は尻でイケるから。ちんこ触らなくても女みたいにイケるんだ」
宇津瀬がふわりと笑った。
徐徐に上がる息と共に宇津瀬の啼き声も下肢の動きと共に激しさを増した。
「ごめん、伊予。お前以外でイク。もうイクッ」
ヒカルの腹上で必死に快楽を追求する青年がついに絶頂を迎えた。
はあ、はあ、と荒い息の宇津瀬がヒカルの上でぐったりとした。
「凄いな、ヒカル君。まだ萎えないんだ」
宇津瀬が驚いたように呟いた。
「あんたの男のゴムが小さ過ぎてコックリング状態だからな。今度は俺の番だ」
繋がったまま宇津瀬を押し倒し、両足首を掴んで大きく下肢を開かせた。宇津瀬の装着したゴムの中で精液が揺れているのを見ながら、ヒカルが大きく腰を使い始めた。
暫くして視線を感じたヒカルがドアに視線を向けると家族であろう誰かと目が合った。すると覗き見していた人物の気配が消えた。
ヒカルが大して気にするでも無く今度は自分の快楽を追い求め始めた。
「いい、こんなに凄いの初めて」
宇津瀬が目を半開きにしたまま喘ぎ続ける。
「俺も気持ちよくしてくれよ」
ズルリと肉棒を引き抜くとコンドームを取り去り直に宇津瀬の中に挿入し、激しくまぐわう。
「女相手だったらゴムは必須だが、男相手なら必要ねぇよな」
「あ、あ、来る、なんか来る」
宇津瀬がカッと目を見開いて、何かに耐えるようにシーツを握り締めた。
「ああ、あああっああんっ」
宇津瀬が大きく啼いて体をブルブルと震わせた。
「これ、が、ドライ」
宇津瀬が痙攣しながら浅い呼吸を繰り返した。
「あんたの体最高だ」
ついにヒカルが息を詰めて宇津瀬の中で果てた。
「雨も上がったことだし俺は帰る」
ヒカルがベッドから起き上がった。
「あんたなら、またしてもいいぜ、セックス」
ヒカルがドアに近づきながら薄笑いを浮かべて伝えると「いや、ヒカル君みたいなセックスをこれ以上知ったら、俺は伊予とじゃ満足できなくなる。だからもうお終いにしてくれ」
宇津瀬が事後の気だるさを纏った声でヒカルに終わりを告げた。
「服は乾燥機に入ってるから」
それだけを言うと、宇津瀬がまどろみの中に落ちていった。
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「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。




ある少年の体調不良について
雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。
BLもしくはブロマンス小説。
体調不良描写があります。


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