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変化の兆し

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勝三と豊二が世話をすることになったからか、二人は初めて粥を全て平らげた。
久しぶりの満腹感からか、きはだは勝三に、柑子は豊二の体に支えられながらウツラウツラと船をこぎ始めた。勝三と豊二はお互いに顔を見合わせた。その満たされた表情を見たみ空は、心から好きあっているのだと思った。

深い眠りについた二人を横にさせた後、み空が看病とここでの生活について一通りを説明するために、勝三と豊二と連れ立った。

まずは厨房へと向かった。
料理長の萱草(カンゾウ)は「紅さまから聞いております」といって、食事を取りに来る時間、使用済みの器は自分で洗うこと、そして棚へと戻しておくことなど、食についての説明をした。
次に厠、手洗い場、風呂場と使用できる時間、そして出入りできる場所のみを説明した。
最後に、「布団の貸し出しはしないそうです」と、紅に言われたとおりに伝えると、二人は「畳の上に寝れるだけでもありがたいです」といって頭を下げた。

まるで迷路のように広い敷地を説明しながら、次の角を曲がると部屋に通じる真っ直ぐな廊下になるあたりで、すすり泣く声が聞こえた。何かを感じ取ったのか、勝三と豊二が走って廊下の角を曲がると、はきはだと柑子の泣いている姿があった。目がさめて勝三と豊二がいなかったためか、きはだが勝三を探して部屋からかなり離れたところまで這ってきたものの、体力を使い果たしたらしく、蹲って泣いていた。柑子は部屋を出て直ぐのところで膝を抱えて泣いていた。

二人の姿に勝三と豊二が血相を変えて駆け寄り「すまない、すまない」とこれまた泣きながらそれぞれを胸に抱いた。「いなくならないで」「傍にいて」と泣くきはだと柑子に勝三と豊二はひたすら謝り続けた。

泣き続ける二人を部屋に運びそれぞれの布団に寝かせると、きはだと柑子がかつて二人で眠っていたように布団の端に寄り、上掛け布団を上げて勝三と豊二を誘った。
勝三と豊二が戸惑いの表情を浮かべて苦笑するが、きはだと柑子にとっては真剣そのものだった。それを察してか、ちらちらとみ空に視線を送る勝三と豊二に、み空が口を開いた。
「紅さまはきはだと柑子が早く直るためには何でもするとおっしゃいました。ですから、二人の気の済むようにしてあげてください。
僕は、隣の間で寝泊りすることになりましたから」
み空がにっこりとそれだけを伝え、部屋を出てた。


勝三と豊二が看病を始めると、見る間に二人はも元気を取り戻し始め、傷の治りも早くなっていると医者も感嘆の声を上げた。

医者は柑子に顔を濡らさず、体に負担をかけない程度になら、風呂に浸かっても良いと診断を下した。ただし、長きに渡り床に臥せっていたため、必ず誰かを付き添うことを付け加えた。
柑子は豊二と顔を見合わせて喜びを露にした。

そして、きはだには傷口は膿むことなく順調に塞がりつつある。きちんと傷が塞がるまで、暫く待つようにと告げた。
勝三はきはだを慰めるように背を擦り続けた。

み空は初日の出来事も、その後の二人の献身的な付き添いも事細かく紅には報告をしていた。

「夫のセツに会いという顔をしているな」
「…はい。勝三様も豊二様もきはだと柑子をとても大事にしていて、それを見るたびにセツのことを思い出します」

「もう少しだけ辛抱して欲しい」
「わかっています。二人が大変な時期ということは、傷つけられたことがある僕が一番知っています。
でも、好いた人が傍にいれば必ず乗り越えられると信じています。
僕が、経験者ですから」
「そうだな。お前は、あの悪趣味に救われたのだったな」

「前から思っていたのですが、紅さまはなぜセツのことを『悪趣味』と呼ぶのですか?」
「…まあ、なんだ。なんとなくその呼び名が板についてな」
紅が鼻を掻いた。
「言いたくないなら別に良いです。気にしませんから。では、僕はこれで」
お辞儀をし、立ち上がろうとしたみ空に、紅は一つ頼みごとをした。
 


 
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