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僕が株に手を出した始まりの訳(4時間目以降)

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4時限目の終わりのこと。

代々木さんを玄関で見送った僕の目に郵便受けにある一通の封書が見えた。証券からだった。口座開設が終わったとの内容に僕は少しうれしくなった。思い立ったら即実行の僕。心待ちにしていたのだった。
あれ、そういえば。母は20年近く前に株を買ったと言っていた。国内某電力会社の。その封書が確かあったはず。

僕はその封書を探した。某大手銀行の封書はすぐに見つかった。詳しくは分からなかったが株を銀行の口座で預かっている・・・的な内容だった。
「何々、○○電力 3株か」
3株ってたった3株?もしかして単位は100とか?どんだけ上がっているんだろう?そんな事を考えながら僕は週の初めにその銀行に電話を掛けた。

「あのー、○○電力の株の件で電話しました。持ち主の母が亡くなり、変わりに僕が」
対応の女性は「確認します」といって僕は記載されている長い番号を伝えた。

「はい。確かにお預かりしております」
ホッとした僕。

「端株ですね」
と対応の女性。

端株?端数の端?の、端株?

「端株ですからこちらでお引き受けする事も出来ますが?」
と対応の女性。

要するに少ないからこっちへ売ってしまえと?相場で換金してやると?
僕は返答に困っているとまたしても「端株ですから」と対応の女性。

なんだかムカムカしてきたぞ。端株端株って連呼しすぎだろ。悪かったね、端株で。

「いえ、僕は他社の証券会社に口座がありますから、そちらへお願いします」
思わず啖呵を切るように僕は端株を譲らなかった。

その日の夜。僕は新設した証券会社で株をいろいろと見ていた。世界的なウィルスの影響は強くどこの企業も軒並み3月に一気に下落していた。

「安いのだったらちょっと購入して見ようかな」
下落率が大きいほど反動も大きくでるはず。そこでヒットしたのがMAIN。10年前の16ドルから45ドルまでせっかくの右肩上がりが2020年の3月に15ドルまで急降下。うわあ、10年の努力が無駄じゃん。でも、45ドルに上り詰めるだけの力はあるってことだよね。他には?
TSC、ここ、2013年からグラフが始まってるってことはその年に株式公開したのかな?2013年当時は12ドル、2018年に30ドルくらいまで上がってるけどその後下がって2020年に28ドルまで戻してるけど3月に8ドルか。安定はしていないけど底力を感じるぞ。
ORCC、ここは若いな。2019年スタートだもの。15ドルスタートで半年で19ドルまで上がったのに3月で8ドル。ここも打撃を受けているな。でもウィルスがなけれは着実に成長していただろうその片鱗に僕は期待してみてもいいのかもな。
GNLN。うわあー。これは凄く右肩下がり。なんてもんじゃないぞ。2019年スタートは30ドル。それが下落の一途を辿って2ドル。ここはある意味興味をそそられる。このままつぶれてしまうのか?それとも?ダークホースだな。当たればラッキーの一発逆転企業。
何となく流し見していた僕は気になった4社に狙いを定めた。

そしてその週の木曜日。
6月12日。僕は4社に初めて買い付けした。その当時の為替レートは107円から108円をうろうろ。
① MAIN  2株×$34.9
② TSC   8株×$17.82
③ ORCC  4株×$12.7
④ GNLN  3株×$3.84

そして次の日の朝。
約定4件。これって買えたってことだよね。僕は朝からドキドキが止まらずに詳細を確認しにいった。
① MAIN  7,575円
② TSC    15,472円
③ ORCC  5,473円
④ GNLN  1,236円
で僕の初所有株となった。何だか買い物ってわくわくする。もし株価が上がったら。僕の妄想、取らぬ狸の皮算用は止まらない。僕は仕事の休憩の合間にもとにかく株を眺めた。安くて将来性がある会社。頭の中はそれしかない。

6月17日。
① GNLN 2株×$3.84=750円
② MAIN 2株×$34.9 =7,575円で購入。

MFH?ここもGNLNと同じく右肩下がり。GNLNほどではないけど2015年240ドルスタートから緩やかに右肩下がりでほぼ0に近い横ばい。これはこれは。何をしている企業なの?主にブロックチェーンテクノロジーに基ずくデジタルアセットインフラストラクチャソリューションサービスの提供を行う中国の会社?何それ?全く皆無。こここそダークホースの真打じゃね?その当時の僕はブロックチェーンが何を意味するのか全く知りもしなかった。ただ、中国の会社であること、それは10億を超える人口をもつ中国の企業であればこの企業の提供するサービスが中国国民に受け入れられたときの爆発的な伸びを期待しての漠然とした好奇心で購入を決めたのだった。

6月18日。
① VT   1株×$72.51=7,801円
② MFH 29株×$2.5=7,834円で購入

6月20日。土曜日。知らない会社ばかりってのもな。安定しつつ、伸びる会社。僕は矛盾しているその会社を想像した。そして僕の目の前には。PCが。そうだ、PC。PCなら世界中の人が使う。潰れる根拠なし。
MSFTは・・・っと。あった。1株196ドルか、やっぱ高いな。でも。
① MSFT 2株×$196.34= 42,269円。
ついに誰しもが知る企業の株を購入したのだった。僕のテンションは最高潮。

6月26日。代々木さんの5時間目の前日。
① VT 1株×$74.66=8,029円で購入した。
  
そしてついに迎えた5時間目の始まる前に僕は○○電力の話を代々木さんに伝えた。

「端株ってご存知ですか?」
と僕。
「端株ですか?知りませんね。端数の端で端株。まとまった数に満たないということでしょうか?」
と代々木さん。
「ええ、そうみたいです。電話対応の女性があまりにも端株を連呼したので思わず僕の証券口座に移してくださいといっちゃいました」
その反動で思わず株を購入したとは言わなかったけれど。

「そうですか」
と穏やかに代々木さんが微笑んだ。

僕は代々木さんにその際の経緯を話しすっきりした後5時間目の講義を受けた。

代々木さんの帰った後。
個人年金の1つにカタを付ける事を決めた僕は新たな決心をした。母の死亡保険金残高 約250万。でも150万は家のために使うから、残りは100万。銀行に預けるくらいなら・・・。
僕は株に投資する事を決めた。でもただ漠然と知らない企業を買うのも心配。どうしようかな。リビングで僕は腕組みをして空を見上げた。
「MSFTはこの前購入したばかり」
そしておもむろに携帯に視線を移す。僕の視線を受けて携帯がキラリと輝いたように見えた。これだ、こっちもあった。AAPL。僕はすぐに検索をかけた。
「うわー300ドル超えてんじゃん。MSFTの倍近いじゃん。高っ。日足、日足を確認っと」
僕は必ず日足を確認して購入か否かを決める。株価の推移を表すそのグラフは僕の知り得ない企業であっても推移はうそをつかない。見るのは10年、3ヶ月。そして1日。日々の値動きは多少の判断。3ヶ月も多少の判断。10年は最も重視。10年経っても株価が推移していない企業は論外。安定はしているがおもしろくない。どれだけ株価を上げられたかが最も重要。
AAPLの10年前。2011年は約60ドル。それが今年2020年の3月頃には360ドルくらいから240ドルくらいまで下がっているけどウィルスがなかったら着実に右肩上がり。

6月30日。火曜日。
① AAPL 1株×$353.4=38,355円
② MSFT 6株×$195.68=26,800円購入。

分散投資したいよね。僕は大好きな某メーカーの炭酸飲料をごくごくと飲み干した。握ったペットボトルの赤いキャップのロゴを見てふっと。思い立ったら検索検索。KOの10年前は約30ドル。そして2020年は60ドルから36ドルくらいまで下落。でもこの下落は僕には参考にもならない。これは世界的な一過性の出来事で全体的な伸び率を見るのが目的。10年で30ドルの伸びか。どれどれ、CCEPはどうだ?10年前のCCEP。2011年に18ドルくらいから2020年には60ドルくらいまで上昇の後、29ドルくらいに急降下。でも全体的には10年で40ドルくらいの伸び。こっちの方が僕には成績優秀。

7月2日。木曜日。
① CCEP 2株×$37.75=8,171円

7月8日。水曜日。
① APPL 7株×$373.82=283,874円
② CCEP 4株×$38.72=16,800円
③ MSFT 8株×$210.07=182,313円
ここまでの総額761,058円つぎ込んだのだった。

それからMFH、PFE、VTRS、MRNAを買足し今に至っている。僕の購入する基準はこんなかんじで結構単純。製薬会社のPFEも仕事の休憩中に見たTVで興味を持ったからだし、VTRSはPFEの副産物ではじめは1株のもらい物。そしてMRNAもこれまたTVでたまたま見て気になったから。
僕は本当に単純。
生前、母は「迷ったら止めなさい」とよく僕にいった。確かに判断ができない、踏ん切りがつかない迷いなら止める。でももう一人の僕が行けとGOサインを出していると感じたら僕は進む。
残念ながら僕が一番最初に購入したほとんどはまだ利益には転じていない。でもきっかけをくれたラッキー株だと僕は思う。

投資信託、Rラップに各1万。つぎ込んだ額はたぶん90万ほど。でも現在の所、資産合計100万は上出来。赤字じゃないし、利益10万出てるし。AAPLが一番の利益の立役者。
代々木さんはいっていた。
『株は長く持てば持つほどプラスに転じることがおおいんです』と。
母の残した電力会社は購入当初は1,000円台を確か越えていた。他社より若干低値といった印象を僕はその当時思っていたのだ。しかし20年経った今では800円台。しかも3株で。他社と比べれば大きな差ができている。

母の感が間違っていたのか代々木さんの意見が正しいのかは僕にはわからない。でも10年後、泣いているか、笑っているかの答えは必ずでる。僕は笑っていることに賭けたのだ。だからこれからも余剰資金があれば迷わず株を購入するだろう。


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