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2020年11月27日 金曜日 僕の生保の見直し

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うおおおおー。

首を長くしていた僕の元にようやく届いた書類を目にした僕は雄たけびを上げた。
「まじか、これ?下がってるよHbA1c(Eichibi-e-wannsi-)」
そう、それは血糖値を測る検査方法。血糖値は日々、いや、刻一刻と変化する。空腹になれば下がるし、食事をすれば上昇する。その値が高ければ高いほど糖尿病へと近づく。しかしHbA1cは数ヶ月分の不摂生がその数値に表れるため、健康診断の1週間前から慌てていい子にしていても化けの皮を剥がされる。
その値がなんと88.00!
奇跡だ。

2年前、運動部に所属しているかと思うほど運動量の多い企業で僕は働いていた。とにかく動く。消費カロリーは高く、食事を抜くとふらふらになりあっと言う間に体重が落ちてしまうほど。そんな時のHbA1c値が100.00ジャスト。その頃、懇意にしていた古巣の同僚が新商品(生保)があると僕に提案してきた。僕は今も加入しているD社の保険を転換(現在の加入の内容を新しい保険に入り直すこと。今までの継続がある分、新規で加入するより保険料は安くなる)することに決めた。なぜなら、健康診断割引付加特約(D社が定めた基準を下回る場合に付加される特別割引)があったからだ。確かに転換すれば保障も下がる。しかし、その商品は今の僕の保険の保障に糖尿病の合併症も付け加えられた代物だからだ。
僕の妹は糖尿病だった。家族、親類縁者の中でも糖尿に罹ったのは妹だけ。でも、僕もそうならないとは限らない。

ところが。
審査の結果は不合格。審査基準のHbA1c値が100未満、僕の当時の値は100.00。たった、たった1.00で当時の僕ははじかれたのだった。その後、担当だった同僚が退社し、先輩の九戸 ネネさんがその翌年に同じ商品を提案した。だが、運動部から事務職と言う文化部に転職した翌年の僕の健康診断の値は109.00にまで上昇していて、僕はその提案を断ると共にあせりを覚えた。
これはヤバイ。このままじゃ僕も妹のような末路を辿る。僕は一念発起して生活を僅かずつ変化させた。その結果が86.00。
僕はネネさんにメッセージを入れた。

『お久しぶりです。今度、設計書を持ってきてくれませんか?』
『良いですよ。健康診断の結果はどうでしたか?』
『まあまあ、かな』
そんなこんなのやり取りで僕はネネさんに11月27日18:30のアポを取り付けた。

「お久しぶりです」
ネネさんは当時と変わらない愛嬌のある笑みを浮かべてやって来た。

「いろいろ作ってきましたよ」
ネネさんの一押しと言う提案に僕は即座に却下を入れた。保険料が高すぎる。ネネさんに知らせてはいないが、僕は代々木さんの保険に既に加入している。2万を超える保険料は到底無理。僕は今の保険料12,997円を下回るようにと予めお願いしたはずだ。まあ、仕方ない。あちらも仕事だ。ある程度の傾向を把握して僕がカスタマイズすればいい。僕は設計書に集中した。

僕の今の保障は、死亡時1000万。内訳として三大疾病に罹ったら一時金で600万(そのうち軽い症状で貰える一時金が100万円)。終身50万、定期350万。入院日額10,000円、一時金は僕が病気でも生きているうちに貰える金額600万。それ以外は、死亡後、受取人が受け取る金額400万。その保険料が12,997円。

「うーん。高いなあ」
僕はネネさんの設計書の一番金額的ハードルの低い設計書を手に取った。その保障内容は、死亡時900万、内訳として三大疾病に罹ったら一時金700万(そのうち軽い状態プラス糖尿病の合併症の保障部分が100万)、定期200万。入院日額5,000円。その保険料13,900円。
僕はネネさんに一時金の額を500万に減らしたり、定期を削ったり、入院の日額を上下させたりとPCで何度も操作して貰う。
保険料は安く済ませたい。顧客である僕らは当然そうなる。しかし、保障を低く設定すればエラーが立ち設計書は作ることが出来ない。

「あー、これも保険料がでないから無理だね。定期を削って終身にする?」
ネネさんが僕の乏しい知識を補填する。

「でも今は終身高いんだよ」
終身と定期、どちらも死亡保障。だが確実にもらえるのは終身。終身は文字通り、保険が満了を迎えた後も貰える物。しかし定期は違う。65歳満了で僕が65歳まで生きていればそれは消滅する。つまり満了を迎える65歳までに死亡した場合にしか貰えない。どの道、僕が死亡した後の話だから受取人の利益。

僕たちはあれやこれやとPCとにらめっこしていた。

「ところで、健康診断の結果はどうだったの?」
ネネさんが思い出したように僕に尋ねた。僕は今年の結果をネネさんに渡した。

「ぇ?ちょっと、凄いじゃない。早くいってよ。私てっきり今年もだめなのかと思って全部、健康診断割引付加特約付けないで設計書作ってきたよ」
ネネさんはざっくばらんで正直な心の声を僕にぶちまけた。

「ひどいな。僕だって一応、元同業だったんだからだめなら呼ぶ訳ないじゃん」
僕も心の声をそのまま口に出す。

「ちょっとまって、だったらさこの13,900円のもう一回作り直せば、ほら、13,089円良くない?」
こうして僕たちはまたPCの保障を上げ下げしはじめた。

「ちょっと、これどお?」
ついに13,000円を切るプランが出来た。
死亡保障800万、内訳として三大疾病時の一時金600万(そのうち軽い状態プラス糖尿病の合併症の保障部分が100万)、定期200万。入院日額10,000円。その保険料12,941円。

「決めちゃおうよ」
ネネさんが僕の顔を見た。現状ではこれが精一杯。今の保障でしがみ付いたとしても5年後には保険料は23,000円を超える。ならば今から10年この金額のこの内容に賭けてみてもいいのでは。僕はもう49歳。

「50過ぎたら高くなるよ。保険の50歳は全然違うよ。今はウィルスの影響もあるし。疑いが出ただけでも保険に入るのが難しくなるよ」
そうだ。いつ何処で誰がそのウィルスに感染するかわからない。そうなったらこのタイミングは二度と来ない。

「わかった、決めるよ」
僕は転換を決めた。
ネネさんが重要事項を説明し最後に僕はPCにサインした。

「後は保険料の入金と告知なんだけど、前は契約、告知、保険料の入金。その三つが揃った日が契約日だったんだけど、今は契約と告知の二つが行われた日が契約になるんだよね。でも、覚えてる?月々の保険料の引き落とし前であれば1か月分の保険料を払わなくてもいいってこと。今日は27日でしょ、たぶん今日、口座から保険料が引かれてると思うんだよね」
D社のシステムなのか、例えば11月20日に僕が転換して契約をしたとしよう。そうすると27日に引き落としされる筈の保険料が引き落としされない。新契約のため新たな保険料になるから。そして新契約の保険料が12月から引き落とされる。つまり空白の11月、この1か月分の保険料を支払う必要がなくなるのだ。
今日は27日金曜日。そして30日の月曜日で11月が終わる。

「なら、告知と保険料の支払い手続きを12月1日にするよ」
僕はネネさんと再びアポを取り、ネネさんは帰って行った。時は間もなく21:00になろうとしていた。

12月1日が契約日。癌の項目が含まれてるから90日間は癌に対しては不担保。12月、1月、2月、正式な引き受け日は3月1日だ。先日、がん保険の古い契約は解約、共済は減額した。D社は思ったほどは金額は下げられなかった。まあ、予想の範囲内ではあるけど。
新契約で大幅な額は下がりはしない。本当に下げたければその契約そのものを減額するのが一番。でも減額はまだ僕には出来ない。まあ、D社が引き受けしたらの話だけど。そしたら新商品は諦めて今の保険を続行するしかないけど。

母と兄が亡くなり早1年。二人の死で本当に考えさせられる年になったな。これからの10年、何事もないとは考えちゃいない。今年の僕の決断が必ずや将来の僕を救うと信じよう。

僕は近くのスーパーに今晩の夕飯を買いに家を出た。

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