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最終的に利益が出たら僕の勝ち(5時限目)

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僕はA社とT社へ電話をかけた。僕は個人年金の残りを一括払いする事を思いついたのだ。
まずはA社。
A社の契約は9月のため9月からではないと一括払いはできないのだそう。でも別にそれまでは月々払ったとしても何の問題はない。
9月から年払いに変更して令和2年から令和22年までの21回分。保険料2,448,816円。

続いてT社。
T社は契約月は関係ないらしいが月末までの手続きが必要とのことで7月からの計算をお願いした。
令和2年7月から12年分。保険料1,358,679円。
2社合計3,807,495円。これはキビシイ。

妹もそうだが僕も実は浪費癖がある。借金まではしないが、貯蓄が出来ないのだ。あればあったで使うし、無ければないで節約する。こうして何とか生きてきた。節約できるなら貯められるじゃないか。確かにそうなのだが、なぜかそれが出来ずにこの年までいる。
だから個人年金のように強制的に搾取されない限りは資産形成ができないのだ。
それに認知症になった母は今僕が住んでいる家に一人で暮らしていたとき散々に荒らしていた。僕が母を強制的に施設送りにする際に足を踏み入れた家の中はすさまじい物があった。
物、物、物。物で溢れ返る。それは貴重品からごみまでも。足の踏み場もないほど物で溢れ返り僕はその光景を忘れることができない。冷蔵庫は開けると一部の隙間もないほど食料が詰め込まれパンパン。ベッドの上には新聞紙やら衣類やらカレンダーやら、マットレスの間にもバッグや過去の通帳やら押し込まれ、とにかくすさまじい、としか言えなかった。
4LDKプラス電動シャッター付車庫2台分も足の踏み場はなかった。
お陰でどこから手をつけて良いのかわからず、僕はアパート暮らしのまま数年放置した。
しかし、家賃と言う物は支出の大きな部分を占めるし、保険料を合わせるとやはり貯金に回すほどは残らない。
僕はついに決心して業者を雇い一掃した。その金額約90,000円
こうしてようやく片した家に住んでいるが畳は毛羽立ち障子も襖もボロボロ。庭は荒れ放題。網戸は穴だらけのこの家を何とか修復しなければいけないのだ。そのための死亡保険金なのだ。
でも、僕が生きるためには資産形成とリスク回避の方針をある程度見直さなければならない。その第一歩が保険なのだ。
人によっては保険料がばからしいと思う人がいるだろうが僕はそうは思わない。
例えばD社に加入している生保の内訳に死亡保障があるが、僕が死亡したら50万円支払われる。その50万円に対する保険料は月々950円。では月々950円で50万円を貯めるとなると526ヶ月つまり43.8年かかる計算になる。
それに怪我や病気は突然やってくる。今年2月に折れた肋骨。そのお陰で50,000円の保険金が手に入った。48歳と言うこの年齢から病気のリスクはどんどん上がる。30代のころは漠然と病気にならないような気でいて、確かに病気には罹らなかった。でも今の僕には将来、元気な自分のビジョンも、病気で苦しむビジョンも見えない。
そう、保険は僕の資産形成の一つだと思っているのだ。
自力でコツコツが出来ないのなら保険でカバーするしか今の僕には思いつかない。病気になったら否が負うにも預貯金が出て行く。だから現金と言う形ではなくても、資産と言う何らかの形として残さなければ僕は将来お金に困窮するだろう。

よし、決めた。勝負にでよう。
T社の個人年金を一括で払って代々木さんの保険に入る。
そうすれば1社分の保険料が浮くし代々木さんの保険は10年止めなければいいんでしょ。ならA社の保険料10年分は120万円。そのくらいなら何とかなるかも。
そうか、10年スパンで僕のこれからの資産形成の方針を考えよう。
A社はどうにもならなくなったらその時考えよう。


そして代々木さんはやって来た。

「再度申し上げますがこれは投資です。必ず上がる保障はありませんよ」
代々木さんが最後通告する。

「わかっています。最終的に利益が出たら僕の勝ち、損が出たら僕の負け!って事ですよね。今までは堅実志向でしたがたまには勝負に出てみるのも悪くはないかなって思ったので」
僕の説明に代々木さんは納得した。そして手続きが終わり代々木さんは席を立つ。保険に関するお金の講義はもうない。

「僕の手持ちのカード(保険)はもう何もありません。全て代々木さんのお勧めに乗り換えましたから。今までありがとうございました」
僕は深々と頭を下げた。代々木さんもまた僕に頭を下げた。

「何かありましたらいつでもご連絡ください」
代々木さんの人柄に僕は本当に良い担当に出会えた幸運に感謝した。
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