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覆水不返 R18
しおりを挟む先に目を覚ましたのは勝色だった。
仕事柄いつもの辰の刻(午前六時)に目を覚ました勝色が剛の腕の中で、精悍で整った顔立ちの男をぼんやりと見ていた。
ゆっくりと働き始めた頭で昨日の記憶を、勝色が辿り始めた。
(昨日は自分が剛に捨てられると勘違いして、それが剛の逆鱗に触れて、お仕置きだといって何かを付けられて、それから…)
勝色の顔が一気に火を噴いたように赤くなった。
(怒った剛は今まで以上に怖かった、けれど凄かった。
何度も死にそうな程に気持ちよかった。
仕置きで付けられた筈のものが、あんな快楽を生むなんて。
気持ち良かった。
あんな繋がりを知ってしまったら、もう前には戻れない)
勝色がそっと輪のついたままの『カツイロ』に触れた。昨日を思い出したせいか、既に熱を帯びていたそこを勝色が扱いた。
(違う。こんなんじゃない。ぜんぜん足りない)
何かを決めた様に勝色が布団を剥ぎ、素っ裸で眠る剛の朝の生理現象を確認した勝色が、眠ったままの剛に迷わず跨った。
腰を下ろして深く繋がった勝色の体が、薄っすら朱を帯びた。
(気持ちいい。気持ちいい)
仕置きのための輪を見つめながら勝色が腰を振り続けていた。
(いい、凄くいい)
必死に腰を動かしながら勝色が目を閉じた。
無言のまま、勝色の弾んだ息遣いだけが部屋に充満していた。
「あっ、イクっ」
軽く極めたのか、勝色の体が硬直した後、剛の隣に寝転んだ。
よほど疲れているのか、辰の刻(午前四時過ぎ)に眠りについた剛が目を覚ますことはなかった。
(凄い、イッて暫く経つのにまだ体の奥深くに余韻が残ってる。
ああ、これは物凄く気持ち良い。
どうしよう、この輪を手放したくない。
剛をどうやって説得しよう)
仕置きの輪を取り上げられない方法を勝色が一人真剣に考えていた。
「剛、起きてる?」
朝の仕込を終え、朝食を持ってきた勝色が襖を開けた。
剛が目を開けたまま呆けていた。
寝ている剛の傍らに盆を置いた勝色が神妙な面持ちで静かに正座した。
「昨日はごめん。
俺、剛のことになると我を忘れるんだ。
頭に直ぐ血が上って自分でもどうにもならなくなるんだ。
あんなに怒った剛を見たの初めてで正直怖かったし、凄く後悔してるし反省してる。
「信じられない」って言ってごめん。
本心じゃないんだ、信じて欲しい」
「…少しは懲りたか?」
まだ少し声に凄みを感じながらも、勝色が話し続けた。
「反省した、凄く反省した。
だから、俺がどれだけ反省したのか知ってもらおうと思って…。
いくら口で言っても俺、俺たぶんまた暴走すると思う。だから、剛がお仕置きで付けたアレ、ずっと付けたままでいたいんだ。
その方が俺も今回の事、忘れないと思うし」
尻すぼみのように小声になりながら、勝色がもじもじと膝を摺り寄せた。
「…お前がそこまで言うならそれ付けたまましばらく反省しろ。
カツはもう俺の女なんだ。
もう俺を疑う事、言うんじゃねえぞ。
今度変にぶち切れたら、カツのちんちん、その輪っかの根元から切り落とすからな」
剛が最後にキツク釘を刺した。
その迫力に、身震いをした勝色が居住まいを正した。
「うん、ほんとにごめん」と、しおらしく答え、「じゃあ、俺、仕事があるから」と勝色がそそくさと部屋を出て行った。
1人残った剛が(なんか知らないが上手くいったな)とほくそ笑み、一方の勝色が、喜々とした顔で厨房へ戻った。
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