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お子様じゃない R18
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「俺はお子様じゃない」
次の日の昼休み、いつものように柔のもとを訪れた花色が、柔の前襟を掴みあげて噛み付く様に言い放った。
一瞬目をぱちくりとさせた柔だったが、昨日の事だと直ぐに気がつき、にやりと口の端を上げた。
「な、なんだよ」
柔の不敵な笑みに怯んだ花色に、柔が僅かに触れるだけの口付けを落とした。
突然の事に花色の大きな目が見開かれた。
「これ以上のコト、すんだぞ」
再びにやりと柔が笑みを浮かべると、「こ、これくらい、へいき、だ」と尻すぼみに言いながら柔の襟を握り締めたまま花色が俯いた。
「俺に抱かれて俺の女になるんだぞ」
半ば脅すように、花色に諦めさせるようになおも柔が続ける。
「一生女なんか抱けない体になるんだぞ」
いつもはめんどくさそうな柔が、強気で真剣な口調になったが、負けん気の強い花色が柔を下から睨みつけた。
「それでもいい!俺は平気だから」
花色が意地になったように言い放ち、言葉の最後には縋るように柔の目を覗きこんだ。
「ったく、平気じゃねえだろ、今日は返れ。
どうせ昨日、勝色に詮索されて張り合いたくなったんだろうが、あいつらはあいつら、俺達は俺達。だろ」
柔が諭すように花色の髪を優しく撫でた。
「なんでだよ。
俺は、俺は、柔さんの女になりたいのに。
俺じゃダメなのかよ」
何処までも子ども扱いの柔の態度に花色が今度は挑むように睨んだ。
「ちげーよ。その逆だ」
ため息のように柔が吐き出した言葉に、花色が傷ついたような目で柔に問いかけた。
「だったらなんで」
何処までも意地を張る花色に柔が心底困り果てた表情を浮かべたのを花色が見逃がさず、明らかに落胆した表情を浮かべた。
「やっぱり、俺じゃダメなんじゃないか」
涙で潤み始めた顔を見られまいと花色が柔の懐に顔を押し付けた。
「まいったな」
重苦しい沈黙の後、柔が大きなため息を吐いた。
「俺が、俺が暴走しそうで、お前を壊すくらい抱き潰しそうなんだよ。
しょうもない俺の欲でお前を俺の好き勝手して、酷くしてお前を泣かせたくねえんだ」
花色の頭を抱えるようにふんわりと抱きしめると「わかってくれよ」と小さく呟いた。
しばしの間、二人の間に沈黙が訪れた後、柔の懐から「それでも良いから。柔さんの好きにして良いから」と花色のくぐもった声が静まり返った部屋に零れた、次の瞬間。
「どうなっても知らねえからな」
柔のどこか余裕のなさそうな声色が花色の耳に響くと、柔の懐で花色がコクリと小さくうなずいた。
「うわっ」
柔が右腕で花色の両足を掬い横に抱き上げ、その場にゆっくりと腰を下ろして胡坐をかき、驚いた花色が声を上げ、柔の顔を見上げた。
柔の胡坐の内側にすっぽりと横抱きのままおさまり、柔の前襟を握り締める花色の目の前には、雄の目をした柔の顔が直ぐ傍にあった。そしてゆっくりと近づき、二人の唇が重なった。触れるだけのそれが、次第に角度を変え、柔が花色の唇を食み、吸い上げる。
「じ、柔…さん」
ふわふわとした心地なのか気持ちよさそうな声で花色が柔を呼んだ。
「柔で良い。柔って呼べよ」
口付けの合間に柔が色を伴いながら花色に囁いた。
柔が花色の団子にしている髪の、かんざし代わりの箸を引き抜くと、はらりと花色の真っ直ぐな黒髪が降りてきた。柔が花色の髪を両手で梳き花色の頭を支えながらなおも口付けを繰り返す。次第に柔の右手が花色の頬を伝い、左耳を擽り、首から鎖骨へ、そして左胸へと到達した。
「柔っ」
驚いた花色がとっさに正気に戻ったように眼を見開いたが、柔があやす様に左手で髪を梳き、「俺の女になるんだ、お前の全て、俺が貰っても良いだろ」と口付けを再開した。その雄の目に、花色が魅入られるように静かに目を閉じて柔を受け入れた。
頃合いを見計った様に柔の右の親指がゆっくりと乳輪をなぞり始めた。
「んっ、っふっ」
もどかしい感触に、花色が吐息を溢した。そんな花色の反応を確かめるように何度も、何度も柔の指がなぞる。時折、何かに耐えるように柔の前襟を掴む花色の手に力が篭る。そしてとうとう堪え切れなかったのか、花色が小さく喘いだ。
「ああっ」
すかさず柔が髪を梳いていた左手で花色の後頭部を固定すると、小さく開かれた花色の口に吸い寄せられるように唇を寄せ、花色の口内へと舌を滑り込ませて口付けを深くした。輪郭をなぞるだけだった右の親指も、その中心にある小さな粒を責め始めた。
初めは柔らかかった粒が、徐徐に硬くしこり始めると、今度はそれを押しつぶすように捏ねる。それを繰り返されるうちに、花色がもぞもぞと内股を擦り始めた。それに気がついた柔が、花色の帯を解こうと花色の腰骨に右手を滑らせた。
「待って!」
花色が慌てたように柔を制した。
怪訝そうな柔の表情に、バツが悪いのか、柔が口を開く前に花色が口を開いた。
「俺、その、触ったこと無いんだ。今まで、そういう意味で」
信じられないとでも言いたげな柔が、正直な疑問を口にした。
「お前今までどうやって抜いてたんだ?」
柔の目を見るのが怖いのか、それとも羞恥のためか、花色が柔の懐に顔を埋めながら、なおも告白する。
「俺、餓鬼の頃から自分が男の体だってことが不思議でさ。
俺は何で男に生まれたんだろうって、疑問に思いながら生きてきたんだよ。
餓鬼んとき、一度だけ、触ってみた。けど、気持ち、よくなくて。むしろ嫌悪感しか湧かなくて、さ。それから、触った事、ないんだ」
たどたどしく告白する花色に、自分との行為の拒絶ではないと安堵した柔が、再び雄の声色で花色に囁いた。
「そうか、それも初めてか。驚かせて悪かった。
でもな花色、お前の全てを俺は貰うって言ったろ。
俺達はこれからお互いの体を繋げて一つになるんだ。その為には花色の体が俺を受け入れられるように準備をしなくちゃならねえ。だから花色はこれから俺のする全てを受け入れろ、お前のどんな姿も見ててやるから。
それと、痛てえ時も、気持ち良い時も我慢しねえで言えよ。
交わるときに我慢したら『悪い病に罹る』んだぞ、いいな」
性に関しては恐ろしく無知な花色に、柔が子供に諭すように説明した。
真っ直ぐに見つめられ、初めてお前以外の名前を呼ばれた花色が耳まで赤くして再びコクリと頷いた。
「良い子だ、ハナ」
柔が花色のおでこにチュッと口付けた。
柔に体を預けている花色の帯を解き、片手で器用に袷を開いて下穿きを剥ぎ取った途端、柔がごくりと唾を飲んだ。
「綺麗だ」
独り言のように柔が呟くと、下肢を見られている恥ずかしさからか、花色が下肢を捻って隠そうとした。
「隠すなよ。見るのは俺だけだ」
横抱きのまま柔の胡坐の中で小さく震える花色にやわらかく囁くと、柔が左手を花色の左の膝裏に滑り込ませてゆっくと、脚を開かせた。
赤子のように茂みの無い、成人男児よりも小ぶりで皮を被ったままの花色の性器が、僅かに頭を擡げて震えていた。見られている事に必死で耐えるように花色の、柔の袷を握る手に力がこもる。無造作に敷布団を手繰り寄せた柔が、花色を静かに横たえさせ、脚の間に割り込むと、花色の右の膝裏を自らの左手で掬い上げた。そして傍にある衣装箱の中から女郎屋特製のワセリンを取り出し、蓋を開け、右手にたっぷりと掬い取ると指を擦り合わせて人肌に馴染ませ、花色の性器ではなく、その奥の窄まりに指を這わせた。
「なにっ」
驚いた花色が声を上げた。
「良い子だから、俺にまかせておけ」
花色のおでこに口付けを落すと、柔の右手が花色の窄まりをなぞり始めた。
徐徐に潜り込ませるように力を込めると、柔に全てを預けた花色が柔のされるがままに身を委ねていた。
「確かこの辺って聞いたんだがな」
柔がボソリというや否や「んああっ」花色が上体を仰け反らせて大きく喘いだ。
「やっぱりな、ヤブの言ったとおりだったぜ」
戸惑う花色の顔を覗き込み「女と同じようにココで気持ちよくなろうな」と柔が再びおでこに口付けた。
柔の言う【ヤブ】とは、女郎達の専属の町医者で、柔の初恋相手が女では無く男であると知ったヤブから前立腺と言われる、男が胎内で快楽を得られる器官がある事を聞かされていたのだった。ワセリンも、花色が見つかった事を聞いたヤブから与えられたものだった。
ヤブの言ったとおり、柔の指を三本銜えながらも快感に震え、僅かに勃ち上がっている花色の性器が真実を物語っていた。
「柔、そろそろ厠に、行きたい」
花色がやっと聞き取れるほどのか細い声で呟いた。
自慰もした事のない性に関して無知な花色が、射精感も尿意として認識していた。
「それ、厠で出すよりももっと気持ち良いいもんだぜ」
花色の言葉で悟った柔がすぐさま胎内の指を引き抜いて、自らの下穿きをずらすだけでオスを露にさせると、両手で花色の窄まりを大きく割り開いて少しずつ埋め込み始めた。
「痛くねえか、ハナ」
柔が気遣うように問うと、花色が両手で敷き布団を握り締め「だい、じょうぶ」と息を乱しながら答えた。
少しずつゆすりながら花色の胎内に柔がオスをねじ込ませると、クプンと音がしたように先端が飲み込まれた。そのままゆるゆると小刻みに腰を揺らしながら柔が花色の胎内の奥深くを目指す。緩く出し入れしながら、くぽくぽと二人の接合部が奏でる音が卑猥さを物語るのか、花色が耳まで赤くしながら「あっ、ああっ」と喘ぎを溢す。
「ここ、わかるか?今からお前の胎内の二つめの入り口、俺が抉じ開けて、ハナを女にしてやるからな」
柔が硬く閉じている花色の再奥を、ココだとばかりにトントンと熱く滾るオスで突いて示唆した。
「今も、柔と繋がってるとこが熱くて解けそうなのに、もっと?」
柔の着物の端を握り、涙目の花色が柔に不安げな表情で問いかけた。
「ああ、もっとだ。
ハナは俺と一番深いところで繋がらなくちゃならねえんだ。
痛くないようにゆっくり俺の形に開いてやるから、安心しろ」
そういうと少しずつだが押し開くように柔が胎内の再奥に力を込め始めた。
苦しいからか、快楽からか、握り締めた柔の着物の端を握り締めたまま、花色が身悶える。
「あ、柔、俺の体、おかしくなる。あ、あっ、あん」
「あと少しだ」
柔も下肢を揺すりながら、快感に顔を歪ませる。
「ああ、怖い、柔。
ああっ、奥がジンジン痺れて、漏れるの我慢できない。
あ、あっ、ああっ、んああっ。
じゅう、じゅう」
花色が甘く切なく柔の名を呼んで限界を伝える。
「我慢するなって言ったろ。いま、全部挿入るから、いいぜ出せよ。
見ててやるか、ら」
切羽詰った様に喘ぐ花色の頃合を計っていた柔が、一気に腰を進めた。
柔の許しを得た花色が再奥まで貫かれた衝撃で一気に上り詰めた。
「んああっ、ああっ」
花色が啼きながら真っ白な喉元を晒して仰け反った。
すかさず柔が花色の下肢へと視線を移すと、半勃ちの花色の性器から白濁が溢れ始めた。滾々と湧き出る泉のような花色の生まれて初めての射精を柔が食い入るように見つめながら、柔もまた迫りくる射精感に奥歯を噛み締めながら耐え続けていた。
静かだが長い射精が終わると、ふっと花色の体から力が抜けた。
「俺、漏らしたのか?」
暫く放心状態だった花色が、生まれて初めて射精した事に気がついていなかった。
「いいや、ハナの体が俺の女になったって証が出たんだよ。
お前の姿見てたら、俺ももう限界だ。
このまま出すから、俺が届かない胎内の奥でも俺を感じてその体で覚えろ」
花色に覆い被さり、首もとに顔を埋めた柔が嬉しそうに甘えるように囁き、花色の下肢の下に正座の状態で両膝を潜り込ませたると、お互いの接合部がこれ以上ないほど密着した。
「ああっ」
先ほどよりも奥深くに潜り込んできた柔のオスに、花色が体を震わせた。
と同時に柔の荒い息遣いに耳元を擽られ、花色が身を捩るが、柔に下肢を固定され、上体を羽交い絞めされては、どうする事もできなかった。
「あ、ああ、奥が熱い!これが、柔の……」
「--ああ、今種付けしてるからな。これでお前は一生俺だけの女だ」
柔の満足そうな声がまたしても花色の耳元を擽った。
「気持ち、いい。柔の、種付け気持ち良い」
柔の背に両手を回し、満足げに鼻から吐息を零し、陶酔したように花色が「柔の全部が気持ち良い」と繰り返し呟いた。
「俺を見ろ」
柔の雄の囁きに花色が応えるように顔を上げると、どちらからとも無く二人は口付けた。
柔が花色の唇を甘噛みし、歯列をなぞり、花色の舌を吸い上げる。花色が夢中で柔に応える様子に、柔が目尻に柔らかい笑みを湛えたのを花色が気づく事はなかった。
柔の大腿部と腹部に挟み込まれ、限界まで柔のオスを食んだまま、口付けの合間に喘ぐことしか出来ない花色に、器用に下肢を燻らせながら、柔が胎内で作り出す快楽を絶えず送り込む。上体も羽交い絞めのまま一部の隙間も無く密着したままで。
「ああっ、ああっ、柔、じゅう」
感じすぎて柔にしがみ付く事すらできない花色が、柔の腕の中で過ぎた快楽による涙をぽろぽろと溢した。
「女の気持ち良いことこれからたくさん覚えような」
花色の喘ぎは次第に嬌声へと変わり始めた。
「ハナ、花色、俺の花色。俺の女。
これから一生お前に、お前だけに種付けしてやるからな」
熱に浮かされ雄の顔をした柔が羽交い絞めしていた両手を解いて、花色の滑らかな尻を割り開く。花色の更なる奥へとオスを捻じ込み「お前を一生離さねえ」搾り出すように、そして花色に言い聞かせる様に宣言し、再び下肢を震わせた。すると胎内の奥深くで柔の吐き出したものを感じた花色が、満ち足りた笑みを浮かべ意識を手放した。
荒い息を吐きながら、正気に戻った柔が起き上がると、花色の皮を被ったままの性器が再び精を吐き出していた。それを見た柔がたまらずに下肢をユリユルと押し付ける。すると今度はぽとり、ぽとりと少しずつ、そしてゆっくりと射精し始めたしたそれを目の当たりにした柔が「やっぱ無茶、させちまったな…」と、花色の射精が終わるまで見つめながらも律動を繰り返していた。
最後まで射精した事に気がつかないまま意識を手放した花色の目尻に滲んだ涙をそっと拭った柔が、嬉しそうに微笑んだが、僅かに険しい表情もしていた。
余韻に浸ることもせず、柔が濡れた花色の体を敷布団を覆うための大きな布で包み、再び布団に横たわらせると、自分は下穿きを直し簡単に身なりを整えて部屋を出た。
途中でオコンと通路の角ですれ違った。
「えっ?」オコンが小さく発した。
二度見をしたオコンの声で振り向いた柔が、どこかけだるそうにオコンと目を合わせると、オコンの顔が見る間に真っ赤に染まっていった。
「あ、あ、あ」
そう言うなり、赤面したオコンが逃げる様に走って行く後ろ姿を、柔が不思議そうにほんの一時ほど見たが、興味が無いとばかりに再び歩き出した。
「女将さぁん、女将さぁん!柔が、あたしの柔が」
ものすごい剣幕で女将の部屋に飛び込んできたオコンが女将の膝元にひれ伏すように突っ伏した。
「どうしたんだい?柔さんがどうしたのかい?」
やれやれといった感じの女将が煙管をふかしながら、呆れたようにオコンに次を促した。
「柔、絶対あの女と交わったんだ。それも今さっき。だってさっきすれ違ったら、男の色気駄々漏れだったもん。ムワーって。今までの柔、あんな男の色気なんか纏ってなかったもん。くやしー、なにさ、あんな女の何処が良いのさ。もお、ほんとくやしー!
柔の初めてはあたしが貰うはずだったのにぃ」
未だに花色の事を女だと勘違いをしているオコンが畳を叩いて悔しがる姿を横目に冷たい視線を送った女将が、ふらりと窓の外へ視線を外した。
(ってことは、あの子はもっとだねぇ)
ため息と共に煙草の煙を鼻から燻らせながら、逃した魚の大きさに女将が思いを馳せた。
「辰一、辰一いるかい?」
泣き止んだものの、動こうとはしないオコンに焦れ、深いため息を鼻からついた女将が眉間にくっきりと縦ジワを立て、息子の辰一を呼んだ。
程なくしてすっと襖を開けた辰一がオコンの姿を目にすると、女将と同じように鼻から大きなため息をつき、ひれ伏したままのオコンの傍へと近づいた。
「こんな仕事してるけどあたしの初恋だったんだ、柔は。本気で好いてたんだ」
諦めきれないとでも言うように、自分自身に言い聞かせるかのようにオコンが呟いた。
そんなオコンの独り言を耳にした辰一が再び鼻でため息をついた。
「俺が部屋さ連れてくから」
窓の外に煙を吐きながら女将が小さくうなずいた。
強引だが労わるようにオコンの腕を掴み上げ、ゆっくりとオコンを立ち上がらせると、オコンが辰一に従うようにゆらゆらと辰一の後をついて女将の部屋を出た。
泣き疲れたのかしゃっくりを繰り返すオコンを振り返る事もないままに辰一が独り言とも言えるほどの小声で呟いた。
「俺だって泣きたいくれえだ」
僅かに聞こえた辰一の言葉に、意味もわからずオコンが反応した。
「男の癖に」
オコンの精一杯の強がりが辰一の心を抉った。
「初恋は実らないってお前が言ったんじゃないか!いい加減に忘れちまえよ」
珍しく感情を露にした辰一がオコンに向き合い、ガバッと音がしそうな勢いで抱きしめた。
「俺の初恋は、俺の初恋はお前なんだ。オコン、いい加減あいつのことは諦めろよ。
俺はお前がココに来た十年も前からお前の事が」
そこまで言うと急に正気に戻ったのか、辰一がオコンの体を引き剥がし、次の瞬間、脱兎のごとく去って行った。
残されたのは状況の飲み込めていないオコン、ただ一人であった。
幼少期を共に過ごしただけの、異性という認識すらしていなかった辰一からの思わぬ告白に、力が抜けたようにへなへなとその場に崩れ、ぺたりと座り込んだオコンだった。
桶に湯を貰った柔が自室の襖を開けると、目を閉じたまま、すやすやと寝息を立てる花色の姿があった。そのことに微笑んだ柔が、花色の手ぬぐいを湯に浸し、熱くないように冷まし、花色の体を隅々まで清めた。初めての吐精で消耗したのか、花色が目を覚ます事はなかった。まるで壊れ物でも扱うかのように優しい手つきで着物を着せ、静かに体を抱き起こし、壁に凭れ胡坐をかいた中心に再び花色を迎え入れた柔の表情は翳っていた。自分に凭れさせ、大きな布で花色が寒くないように包み込んで改めて花色の寝顔を見つめ、より一層険しくなった表情のまま天井を見上げた。
「やっぱり、まずいよな」
柔が大きなため息を一つ吐いた。
「起きたか?」
柔の腕の中で目覚めた花色が体のあちこちに残る余韻でぼんやりしたまま、甘えるように柔におでこを擦り付けた後、柔を見上げた。
「そんなに艶っぽく見られたらまた、したくなっちまうだろうが。
他の奴にそんな顔見せんじゃねえぞ」
冗談っぽく仄めかしてはいるが、どことなく焦る柔を他所に花色が力なく頷く。
「ほんとにわかったのか?絶対だぞ」
再び花色がゆっくりと頷いた。
「ああ、ちきしょう。心配でたまんねえな」
柔が頭をガリガリと掻きながら「こんなに色気振りまくとは思っても見なかったぜ」と柔がぼやいた。
「お前の弟の気持ちがようやく判った」
思い立ったように柔が花色の喉仏付近と、うなじに強く吸い付いて赤い痕を残した。
その後、正気に戻り「一人で戻れる」と言い張る花色が「絶対駄目だ」と言う柔によろず屋まで送られることになった。
次の日の昼休み、いつものように柔のもとを訪れた花色が、柔の前襟を掴みあげて噛み付く様に言い放った。
一瞬目をぱちくりとさせた柔だったが、昨日の事だと直ぐに気がつき、にやりと口の端を上げた。
「な、なんだよ」
柔の不敵な笑みに怯んだ花色に、柔が僅かに触れるだけの口付けを落とした。
突然の事に花色の大きな目が見開かれた。
「これ以上のコト、すんだぞ」
再びにやりと柔が笑みを浮かべると、「こ、これくらい、へいき、だ」と尻すぼみに言いながら柔の襟を握り締めたまま花色が俯いた。
「俺に抱かれて俺の女になるんだぞ」
半ば脅すように、花色に諦めさせるようになおも柔が続ける。
「一生女なんか抱けない体になるんだぞ」
いつもはめんどくさそうな柔が、強気で真剣な口調になったが、負けん気の強い花色が柔を下から睨みつけた。
「それでもいい!俺は平気だから」
花色が意地になったように言い放ち、言葉の最後には縋るように柔の目を覗きこんだ。
「ったく、平気じゃねえだろ、今日は返れ。
どうせ昨日、勝色に詮索されて張り合いたくなったんだろうが、あいつらはあいつら、俺達は俺達。だろ」
柔が諭すように花色の髪を優しく撫でた。
「なんでだよ。
俺は、俺は、柔さんの女になりたいのに。
俺じゃダメなのかよ」
何処までも子ども扱いの柔の態度に花色が今度は挑むように睨んだ。
「ちげーよ。その逆だ」
ため息のように柔が吐き出した言葉に、花色が傷ついたような目で柔に問いかけた。
「だったらなんで」
何処までも意地を張る花色に柔が心底困り果てた表情を浮かべたのを花色が見逃がさず、明らかに落胆した表情を浮かべた。
「やっぱり、俺じゃダメなんじゃないか」
涙で潤み始めた顔を見られまいと花色が柔の懐に顔を押し付けた。
「まいったな」
重苦しい沈黙の後、柔が大きなため息を吐いた。
「俺が、俺が暴走しそうで、お前を壊すくらい抱き潰しそうなんだよ。
しょうもない俺の欲でお前を俺の好き勝手して、酷くしてお前を泣かせたくねえんだ」
花色の頭を抱えるようにふんわりと抱きしめると「わかってくれよ」と小さく呟いた。
しばしの間、二人の間に沈黙が訪れた後、柔の懐から「それでも良いから。柔さんの好きにして良いから」と花色のくぐもった声が静まり返った部屋に零れた、次の瞬間。
「どうなっても知らねえからな」
柔のどこか余裕のなさそうな声色が花色の耳に響くと、柔の懐で花色がコクリと小さくうなずいた。
「うわっ」
柔が右腕で花色の両足を掬い横に抱き上げ、その場にゆっくりと腰を下ろして胡坐をかき、驚いた花色が声を上げ、柔の顔を見上げた。
柔の胡坐の内側にすっぽりと横抱きのままおさまり、柔の前襟を握り締める花色の目の前には、雄の目をした柔の顔が直ぐ傍にあった。そしてゆっくりと近づき、二人の唇が重なった。触れるだけのそれが、次第に角度を変え、柔が花色の唇を食み、吸い上げる。
「じ、柔…さん」
ふわふわとした心地なのか気持ちよさそうな声で花色が柔を呼んだ。
「柔で良い。柔って呼べよ」
口付けの合間に柔が色を伴いながら花色に囁いた。
柔が花色の団子にしている髪の、かんざし代わりの箸を引き抜くと、はらりと花色の真っ直ぐな黒髪が降りてきた。柔が花色の髪を両手で梳き花色の頭を支えながらなおも口付けを繰り返す。次第に柔の右手が花色の頬を伝い、左耳を擽り、首から鎖骨へ、そして左胸へと到達した。
「柔っ」
驚いた花色がとっさに正気に戻ったように眼を見開いたが、柔があやす様に左手で髪を梳き、「俺の女になるんだ、お前の全て、俺が貰っても良いだろ」と口付けを再開した。その雄の目に、花色が魅入られるように静かに目を閉じて柔を受け入れた。
頃合いを見計った様に柔の右の親指がゆっくりと乳輪をなぞり始めた。
「んっ、っふっ」
もどかしい感触に、花色が吐息を溢した。そんな花色の反応を確かめるように何度も、何度も柔の指がなぞる。時折、何かに耐えるように柔の前襟を掴む花色の手に力が篭る。そしてとうとう堪え切れなかったのか、花色が小さく喘いだ。
「ああっ」
すかさず柔が髪を梳いていた左手で花色の後頭部を固定すると、小さく開かれた花色の口に吸い寄せられるように唇を寄せ、花色の口内へと舌を滑り込ませて口付けを深くした。輪郭をなぞるだけだった右の親指も、その中心にある小さな粒を責め始めた。
初めは柔らかかった粒が、徐徐に硬くしこり始めると、今度はそれを押しつぶすように捏ねる。それを繰り返されるうちに、花色がもぞもぞと内股を擦り始めた。それに気がついた柔が、花色の帯を解こうと花色の腰骨に右手を滑らせた。
「待って!」
花色が慌てたように柔を制した。
怪訝そうな柔の表情に、バツが悪いのか、柔が口を開く前に花色が口を開いた。
「俺、その、触ったこと無いんだ。今まで、そういう意味で」
信じられないとでも言いたげな柔が、正直な疑問を口にした。
「お前今までどうやって抜いてたんだ?」
柔の目を見るのが怖いのか、それとも羞恥のためか、花色が柔の懐に顔を埋めながら、なおも告白する。
「俺、餓鬼の頃から自分が男の体だってことが不思議でさ。
俺は何で男に生まれたんだろうって、疑問に思いながら生きてきたんだよ。
餓鬼んとき、一度だけ、触ってみた。けど、気持ち、よくなくて。むしろ嫌悪感しか湧かなくて、さ。それから、触った事、ないんだ」
たどたどしく告白する花色に、自分との行為の拒絶ではないと安堵した柔が、再び雄の声色で花色に囁いた。
「そうか、それも初めてか。驚かせて悪かった。
でもな花色、お前の全てを俺は貰うって言ったろ。
俺達はこれからお互いの体を繋げて一つになるんだ。その為には花色の体が俺を受け入れられるように準備をしなくちゃならねえ。だから花色はこれから俺のする全てを受け入れろ、お前のどんな姿も見ててやるから。
それと、痛てえ時も、気持ち良い時も我慢しねえで言えよ。
交わるときに我慢したら『悪い病に罹る』んだぞ、いいな」
性に関しては恐ろしく無知な花色に、柔が子供に諭すように説明した。
真っ直ぐに見つめられ、初めてお前以外の名前を呼ばれた花色が耳まで赤くして再びコクリと頷いた。
「良い子だ、ハナ」
柔が花色のおでこにチュッと口付けた。
柔に体を預けている花色の帯を解き、片手で器用に袷を開いて下穿きを剥ぎ取った途端、柔がごくりと唾を飲んだ。
「綺麗だ」
独り言のように柔が呟くと、下肢を見られている恥ずかしさからか、花色が下肢を捻って隠そうとした。
「隠すなよ。見るのは俺だけだ」
横抱きのまま柔の胡坐の中で小さく震える花色にやわらかく囁くと、柔が左手を花色の左の膝裏に滑り込ませてゆっくと、脚を開かせた。
赤子のように茂みの無い、成人男児よりも小ぶりで皮を被ったままの花色の性器が、僅かに頭を擡げて震えていた。見られている事に必死で耐えるように花色の、柔の袷を握る手に力がこもる。無造作に敷布団を手繰り寄せた柔が、花色を静かに横たえさせ、脚の間に割り込むと、花色の右の膝裏を自らの左手で掬い上げた。そして傍にある衣装箱の中から女郎屋特製のワセリンを取り出し、蓋を開け、右手にたっぷりと掬い取ると指を擦り合わせて人肌に馴染ませ、花色の性器ではなく、その奥の窄まりに指を這わせた。
「なにっ」
驚いた花色が声を上げた。
「良い子だから、俺にまかせておけ」
花色のおでこに口付けを落すと、柔の右手が花色の窄まりをなぞり始めた。
徐徐に潜り込ませるように力を込めると、柔に全てを預けた花色が柔のされるがままに身を委ねていた。
「確かこの辺って聞いたんだがな」
柔がボソリというや否や「んああっ」花色が上体を仰け反らせて大きく喘いだ。
「やっぱりな、ヤブの言ったとおりだったぜ」
戸惑う花色の顔を覗き込み「女と同じようにココで気持ちよくなろうな」と柔が再びおでこに口付けた。
柔の言う【ヤブ】とは、女郎達の専属の町医者で、柔の初恋相手が女では無く男であると知ったヤブから前立腺と言われる、男が胎内で快楽を得られる器官がある事を聞かされていたのだった。ワセリンも、花色が見つかった事を聞いたヤブから与えられたものだった。
ヤブの言ったとおり、柔の指を三本銜えながらも快感に震え、僅かに勃ち上がっている花色の性器が真実を物語っていた。
「柔、そろそろ厠に、行きたい」
花色がやっと聞き取れるほどのか細い声で呟いた。
自慰もした事のない性に関して無知な花色が、射精感も尿意として認識していた。
「それ、厠で出すよりももっと気持ち良いいもんだぜ」
花色の言葉で悟った柔がすぐさま胎内の指を引き抜いて、自らの下穿きをずらすだけでオスを露にさせると、両手で花色の窄まりを大きく割り開いて少しずつ埋め込み始めた。
「痛くねえか、ハナ」
柔が気遣うように問うと、花色が両手で敷き布団を握り締め「だい、じょうぶ」と息を乱しながら答えた。
少しずつゆすりながら花色の胎内に柔がオスをねじ込ませると、クプンと音がしたように先端が飲み込まれた。そのままゆるゆると小刻みに腰を揺らしながら柔が花色の胎内の奥深くを目指す。緩く出し入れしながら、くぽくぽと二人の接合部が奏でる音が卑猥さを物語るのか、花色が耳まで赤くしながら「あっ、ああっ」と喘ぎを溢す。
「ここ、わかるか?今からお前の胎内の二つめの入り口、俺が抉じ開けて、ハナを女にしてやるからな」
柔が硬く閉じている花色の再奥を、ココだとばかりにトントンと熱く滾るオスで突いて示唆した。
「今も、柔と繋がってるとこが熱くて解けそうなのに、もっと?」
柔の着物の端を握り、涙目の花色が柔に不安げな表情で問いかけた。
「ああ、もっとだ。
ハナは俺と一番深いところで繋がらなくちゃならねえんだ。
痛くないようにゆっくり俺の形に開いてやるから、安心しろ」
そういうと少しずつだが押し開くように柔が胎内の再奥に力を込め始めた。
苦しいからか、快楽からか、握り締めた柔の着物の端を握り締めたまま、花色が身悶える。
「あ、柔、俺の体、おかしくなる。あ、あっ、あん」
「あと少しだ」
柔も下肢を揺すりながら、快感に顔を歪ませる。
「ああ、怖い、柔。
ああっ、奥がジンジン痺れて、漏れるの我慢できない。
あ、あっ、ああっ、んああっ。
じゅう、じゅう」
花色が甘く切なく柔の名を呼んで限界を伝える。
「我慢するなって言ったろ。いま、全部挿入るから、いいぜ出せよ。
見ててやるか、ら」
切羽詰った様に喘ぐ花色の頃合を計っていた柔が、一気に腰を進めた。
柔の許しを得た花色が再奥まで貫かれた衝撃で一気に上り詰めた。
「んああっ、ああっ」
花色が啼きながら真っ白な喉元を晒して仰け反った。
すかさず柔が花色の下肢へと視線を移すと、半勃ちの花色の性器から白濁が溢れ始めた。滾々と湧き出る泉のような花色の生まれて初めての射精を柔が食い入るように見つめながら、柔もまた迫りくる射精感に奥歯を噛み締めながら耐え続けていた。
静かだが長い射精が終わると、ふっと花色の体から力が抜けた。
「俺、漏らしたのか?」
暫く放心状態だった花色が、生まれて初めて射精した事に気がついていなかった。
「いいや、ハナの体が俺の女になったって証が出たんだよ。
お前の姿見てたら、俺ももう限界だ。
このまま出すから、俺が届かない胎内の奥でも俺を感じてその体で覚えろ」
花色に覆い被さり、首もとに顔を埋めた柔が嬉しそうに甘えるように囁き、花色の下肢の下に正座の状態で両膝を潜り込ませたると、お互いの接合部がこれ以上ないほど密着した。
「ああっ」
先ほどよりも奥深くに潜り込んできた柔のオスに、花色が体を震わせた。
と同時に柔の荒い息遣いに耳元を擽られ、花色が身を捩るが、柔に下肢を固定され、上体を羽交い絞めされては、どうする事もできなかった。
「あ、ああ、奥が熱い!これが、柔の……」
「--ああ、今種付けしてるからな。これでお前は一生俺だけの女だ」
柔の満足そうな声がまたしても花色の耳元を擽った。
「気持ち、いい。柔の、種付け気持ち良い」
柔の背に両手を回し、満足げに鼻から吐息を零し、陶酔したように花色が「柔の全部が気持ち良い」と繰り返し呟いた。
「俺を見ろ」
柔の雄の囁きに花色が応えるように顔を上げると、どちらからとも無く二人は口付けた。
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「ああっ、ああっ、柔、じゅう」
感じすぎて柔にしがみ付く事すらできない花色が、柔の腕の中で過ぎた快楽による涙をぽろぽろと溢した。
「女の気持ち良いことこれからたくさん覚えような」
花色の喘ぎは次第に嬌声へと変わり始めた。
「ハナ、花色、俺の花色。俺の女。
これから一生お前に、お前だけに種付けしてやるからな」
熱に浮かされ雄の顔をした柔が羽交い絞めしていた両手を解いて、花色の滑らかな尻を割り開く。花色の更なる奥へとオスを捻じ込み「お前を一生離さねえ」搾り出すように、そして花色に言い聞かせる様に宣言し、再び下肢を震わせた。すると胎内の奥深くで柔の吐き出したものを感じた花色が、満ち足りた笑みを浮かべ意識を手放した。
荒い息を吐きながら、正気に戻った柔が起き上がると、花色の皮を被ったままの性器が再び精を吐き出していた。それを見た柔がたまらずに下肢をユリユルと押し付ける。すると今度はぽとり、ぽとりと少しずつ、そしてゆっくりと射精し始めたしたそれを目の当たりにした柔が「やっぱ無茶、させちまったな…」と、花色の射精が終わるまで見つめながらも律動を繰り返していた。
最後まで射精した事に気がつかないまま意識を手放した花色の目尻に滲んだ涙をそっと拭った柔が、嬉しそうに微笑んだが、僅かに険しい表情もしていた。
余韻に浸ることもせず、柔が濡れた花色の体を敷布団を覆うための大きな布で包み、再び布団に横たわらせると、自分は下穿きを直し簡単に身なりを整えて部屋を出た。
途中でオコンと通路の角ですれ違った。
「えっ?」オコンが小さく発した。
二度見をしたオコンの声で振り向いた柔が、どこかけだるそうにオコンと目を合わせると、オコンの顔が見る間に真っ赤に染まっていった。
「あ、あ、あ」
そう言うなり、赤面したオコンが逃げる様に走って行く後ろ姿を、柔が不思議そうにほんの一時ほど見たが、興味が無いとばかりに再び歩き出した。
「女将さぁん、女将さぁん!柔が、あたしの柔が」
ものすごい剣幕で女将の部屋に飛び込んできたオコンが女将の膝元にひれ伏すように突っ伏した。
「どうしたんだい?柔さんがどうしたのかい?」
やれやれといった感じの女将が煙管をふかしながら、呆れたようにオコンに次を促した。
「柔、絶対あの女と交わったんだ。それも今さっき。だってさっきすれ違ったら、男の色気駄々漏れだったもん。ムワーって。今までの柔、あんな男の色気なんか纏ってなかったもん。くやしー、なにさ、あんな女の何処が良いのさ。もお、ほんとくやしー!
柔の初めてはあたしが貰うはずだったのにぃ」
未だに花色の事を女だと勘違いをしているオコンが畳を叩いて悔しがる姿を横目に冷たい視線を送った女将が、ふらりと窓の外へ視線を外した。
(ってことは、あの子はもっとだねぇ)
ため息と共に煙草の煙を鼻から燻らせながら、逃した魚の大きさに女将が思いを馳せた。
「辰一、辰一いるかい?」
泣き止んだものの、動こうとはしないオコンに焦れ、深いため息を鼻からついた女将が眉間にくっきりと縦ジワを立て、息子の辰一を呼んだ。
程なくしてすっと襖を開けた辰一がオコンの姿を目にすると、女将と同じように鼻から大きなため息をつき、ひれ伏したままのオコンの傍へと近づいた。
「こんな仕事してるけどあたしの初恋だったんだ、柔は。本気で好いてたんだ」
諦めきれないとでも言うように、自分自身に言い聞かせるかのようにオコンが呟いた。
そんなオコンの独り言を耳にした辰一が再び鼻でため息をついた。
「俺が部屋さ連れてくから」
窓の外に煙を吐きながら女将が小さくうなずいた。
強引だが労わるようにオコンの腕を掴み上げ、ゆっくりとオコンを立ち上がらせると、オコンが辰一に従うようにゆらゆらと辰一の後をついて女将の部屋を出た。
泣き疲れたのかしゃっくりを繰り返すオコンを振り返る事もないままに辰一が独り言とも言えるほどの小声で呟いた。
「俺だって泣きたいくれえだ」
僅かに聞こえた辰一の言葉に、意味もわからずオコンが反応した。
「男の癖に」
オコンの精一杯の強がりが辰一の心を抉った。
「初恋は実らないってお前が言ったんじゃないか!いい加減に忘れちまえよ」
珍しく感情を露にした辰一がオコンに向き合い、ガバッと音がしそうな勢いで抱きしめた。
「俺の初恋は、俺の初恋はお前なんだ。オコン、いい加減あいつのことは諦めろよ。
俺はお前がココに来た十年も前からお前の事が」
そこまで言うと急に正気に戻ったのか、辰一がオコンの体を引き剥がし、次の瞬間、脱兎のごとく去って行った。
残されたのは状況の飲み込めていないオコン、ただ一人であった。
幼少期を共に過ごしただけの、異性という認識すらしていなかった辰一からの思わぬ告白に、力が抜けたようにへなへなとその場に崩れ、ぺたりと座り込んだオコンだった。
桶に湯を貰った柔が自室の襖を開けると、目を閉じたまま、すやすやと寝息を立てる花色の姿があった。そのことに微笑んだ柔が、花色の手ぬぐいを湯に浸し、熱くないように冷まし、花色の体を隅々まで清めた。初めての吐精で消耗したのか、花色が目を覚ます事はなかった。まるで壊れ物でも扱うかのように優しい手つきで着物を着せ、静かに体を抱き起こし、壁に凭れ胡坐をかいた中心に再び花色を迎え入れた柔の表情は翳っていた。自分に凭れさせ、大きな布で花色が寒くないように包み込んで改めて花色の寝顔を見つめ、より一層険しくなった表情のまま天井を見上げた。
「やっぱり、まずいよな」
柔が大きなため息を一つ吐いた。
「起きたか?」
柔の腕の中で目覚めた花色が体のあちこちに残る余韻でぼんやりしたまま、甘えるように柔におでこを擦り付けた後、柔を見上げた。
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「ああ、ちきしょう。心配でたまんねえな」
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思い立ったように柔が花色の喉仏付近と、うなじに強く吸い付いて赤い痕を残した。
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