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初等部編
第9話 順調に進む計画
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「一目惚れ」と言うモノがある。初めて話した相手なのに、その人の口調、雰囲気、態度、容姿によって、すぐさま恋に落ちてしまう現象だ。低年齢の恋愛は、この一目惚れに起因する所が多い。ある程度年齢を重ねた女性なら、様々な様子を加味して、その人を好きになるが、人間的な情報が少ない低年齢は、直感にも等しい衝動の方が強かった。
そこに(短い時間とは言え)相手の性格や人間性を知る機会があったとしたら、恋に落ちないわけがない。子供の恋は風邪よりも引きやすく、そして、インフルエンザよりも長続きするのだ。フィリアの抱いた恋は、正にそう言う類の恋だった。
フィリアは悪魔の声に驚くと、少女らしい驚きで「え、あ、あの」と俯いてしまった。その結果、正面の悪魔に「隠さなくても良いわ」と笑われてしまったが。
「貴女の態度を見ていれば、分かる。貴女は、彼の事が好きなんでしょう?」
どう言う理屈かは分からないが、この世界(時間軸?)のフェリアは、ハナウェイの事が好きなようだ。それに少々驚きながらも……ネフテリアは、内心で「これは、とんでもなくラッキーだ」と舞い上がっていた。
フェリアは、自分の顔を覆った。
「はい、彼の事は」
「フフフ」
ネフテリアは、椅子の背もたれに寄り掛かった。
「まあ、気持ちは分からないでもないわ。彼、格好いいものね。私って、かなり面食いなんだけど。彼の事を選んだのは、単純に格好良かったから」
「そ、そうなんですか?」
「ええ。だって、その方が画になるでしょう? 美しい者に仕える者は、やっぱり美しくなくてはね。醜い者には、任せられない」
フィリアは改めて、「この人は、本当に自信家だな」と思った。
「貴女も、恋人にするなら格好いい方が良いでしょう?」
「……はい」とうなずいたのは、紛れもない真実だった。彼に恋する乙女として。どんなに素敵な、内面の優れた男がいたとしても、女性と言うのは基本的にシビア、その判定には一際厳しい所があるのだ。
金持ちだが不細工な男と、貧乏だが美しい男がいたら、ほとんど者が後者の男を選ぶ。貧乏は努力次第でどうにでもなるが、その容姿はどうする事もできないのだ。優れた男と結ばれて、自分の装飾品……つまりはステータスにする。男には厳しい話だが、それが女性達のリアルだった。
「それは、その方が良いです」
「フフフ、でしょう?」
ネフテリアは、相手の目をじっと見た。
「私が彼との仲を取り持ってあげようか?」
「え?」
フィリアの表情が変わった。
「ネフテリア様が、ですか?」
「ええ。彼は、貴女と同じ平民だし。身分的には、何の問題もないでしょう?」
フィリアは彼女の言葉に戸惑ったが……彼女にも一種の計算があったのだろう。最初は遠慮がちだった態度が、やがて「良いんですか?」と図々しくなった。
「もちろん! 彼は、私の下僕だからね。私の命令さえあれば」
フィリアはその話を聞いて、「本当にラッキー」と思った。
「お願いします!」
ネフテリアは、その言葉に「ニヤリ」とした。そして、それから「ハナウェイ」と言って、廊下に立たせているハナウェイを部屋の中へ戻させた。
ハナウェイは訳も分からないまま、主人の前に「な、何でしょうか?」と立たされた。
「主人からの命令です」と、ネフテリアが言う。「彼女の所にしばらく仕えなさい」
「なっ!」
ハナウェイは主人の顔を見、そしてすぐ、フィリアの顔に視線を移した。
「何故」
「身分的には、同じ平民だけど。彼女は一応、ここでは準貴族です。準貴族には一人、使い者を雇う権利が与えられている。費用の方は」
「お嬢様!」
従僕の目付きが変わった。明らかに動揺している。
「ぼく……私は、貴女の召使いです!」
「だからよ」
「え?」
ネフテリアは椅子の上から立って、彼の頬に触れてからすぐ、その頬を優しく撫でた。
「貴方にはもっと、素敵な執事になって欲しい。今回のコレは、その為の修行です」
「彼女に仕える事が、ですか?」
「ええ」
ハナウェイは、フィリアの顔をしばらく見つづけた。ここで「お断りします」と言っても……彼女は、聞く耳を持たないだろう。「主人の命令は絶対だから」と言って、その命令を何としても押し通す気だ。
彼の中で、諦めの気持ちが芽生える。
ハナウェイは、何かを諦めたように「分かりました」とうなずいた。
「仰せの通りに致します」
「よろしい」
ネフテリアは「クスッ」と笑い、正面のフィリアにウインクした。
フィリアは、その行為に歓喜した。「これで好きな人と一緒にいられる」と。言葉には出さなかったが、表情には「それ」を強く表した。
「ありがとうございます」の声はもちろん、ネフテリアにしか聞こえていない。
ネフテリアは、彼女の声に「クスッ」と笑った。
(「ありがとう」と言いたいのは、私の方よ。これで邪魔者の一人が消えてくれたんだから)
「ニコッ」と笑った彼女の顔は、どんな天使よりも美しかった。「頑張って」
「はい!」
フィリアは執事の少年を見つめたが、少年はその視線に答えなかった。
「ではお嬢、ネフテリア様」
「うん」
「ご命令に従い、彼女の執事として尽力致します」
「ええ、頑張りなさい」
ハナウェイは元主人(現時点では)に頭を下げると、フィリアと連れ立って、部屋の中から出て行った。
ネフテリアは、その様子をほくそ笑んだ。
そこに(短い時間とは言え)相手の性格や人間性を知る機会があったとしたら、恋に落ちないわけがない。子供の恋は風邪よりも引きやすく、そして、インフルエンザよりも長続きするのだ。フィリアの抱いた恋は、正にそう言う類の恋だった。
フィリアは悪魔の声に驚くと、少女らしい驚きで「え、あ、あの」と俯いてしまった。その結果、正面の悪魔に「隠さなくても良いわ」と笑われてしまったが。
「貴女の態度を見ていれば、分かる。貴女は、彼の事が好きなんでしょう?」
どう言う理屈かは分からないが、この世界(時間軸?)のフェリアは、ハナウェイの事が好きなようだ。それに少々驚きながらも……ネフテリアは、内心で「これは、とんでもなくラッキーだ」と舞い上がっていた。
フェリアは、自分の顔を覆った。
「はい、彼の事は」
「フフフ」
ネフテリアは、椅子の背もたれに寄り掛かった。
「まあ、気持ちは分からないでもないわ。彼、格好いいものね。私って、かなり面食いなんだけど。彼の事を選んだのは、単純に格好良かったから」
「そ、そうなんですか?」
「ええ。だって、その方が画になるでしょう? 美しい者に仕える者は、やっぱり美しくなくてはね。醜い者には、任せられない」
フィリアは改めて、「この人は、本当に自信家だな」と思った。
「貴女も、恋人にするなら格好いい方が良いでしょう?」
「……はい」とうなずいたのは、紛れもない真実だった。彼に恋する乙女として。どんなに素敵な、内面の優れた男がいたとしても、女性と言うのは基本的にシビア、その判定には一際厳しい所があるのだ。
金持ちだが不細工な男と、貧乏だが美しい男がいたら、ほとんど者が後者の男を選ぶ。貧乏は努力次第でどうにでもなるが、その容姿はどうする事もできないのだ。優れた男と結ばれて、自分の装飾品……つまりはステータスにする。男には厳しい話だが、それが女性達のリアルだった。
「それは、その方が良いです」
「フフフ、でしょう?」
ネフテリアは、相手の目をじっと見た。
「私が彼との仲を取り持ってあげようか?」
「え?」
フィリアの表情が変わった。
「ネフテリア様が、ですか?」
「ええ。彼は、貴女と同じ平民だし。身分的には、何の問題もないでしょう?」
フィリアは彼女の言葉に戸惑ったが……彼女にも一種の計算があったのだろう。最初は遠慮がちだった態度が、やがて「良いんですか?」と図々しくなった。
「もちろん! 彼は、私の下僕だからね。私の命令さえあれば」
フィリアはその話を聞いて、「本当にラッキー」と思った。
「お願いします!」
ネフテリアは、その言葉に「ニヤリ」とした。そして、それから「ハナウェイ」と言って、廊下に立たせているハナウェイを部屋の中へ戻させた。
ハナウェイは訳も分からないまま、主人の前に「な、何でしょうか?」と立たされた。
「主人からの命令です」と、ネフテリアが言う。「彼女の所にしばらく仕えなさい」
「なっ!」
ハナウェイは主人の顔を見、そしてすぐ、フィリアの顔に視線を移した。
「何故」
「身分的には、同じ平民だけど。彼女は一応、ここでは準貴族です。準貴族には一人、使い者を雇う権利が与えられている。費用の方は」
「お嬢様!」
従僕の目付きが変わった。明らかに動揺している。
「ぼく……私は、貴女の召使いです!」
「だからよ」
「え?」
ネフテリアは椅子の上から立って、彼の頬に触れてからすぐ、その頬を優しく撫でた。
「貴方にはもっと、素敵な執事になって欲しい。今回のコレは、その為の修行です」
「彼女に仕える事が、ですか?」
「ええ」
ハナウェイは、フィリアの顔をしばらく見つづけた。ここで「お断りします」と言っても……彼女は、聞く耳を持たないだろう。「主人の命令は絶対だから」と言って、その命令を何としても押し通す気だ。
彼の中で、諦めの気持ちが芽生える。
ハナウェイは、何かを諦めたように「分かりました」とうなずいた。
「仰せの通りに致します」
「よろしい」
ネフテリアは「クスッ」と笑い、正面のフィリアにウインクした。
フィリアは、その行為に歓喜した。「これで好きな人と一緒にいられる」と。言葉には出さなかったが、表情には「それ」を強く表した。
「ありがとうございます」の声はもちろん、ネフテリアにしか聞こえていない。
ネフテリアは、彼女の声に「クスッ」と笑った。
(「ありがとう」と言いたいのは、私の方よ。これで邪魔者の一人が消えてくれたんだから)
「ニコッ」と笑った彼女の顔は、どんな天使よりも美しかった。「頑張って」
「はい!」
フィリアは執事の少年を見つめたが、少年はその視線に答えなかった。
「ではお嬢、ネフテリア様」
「うん」
「ご命令に従い、彼女の執事として尽力致します」
「ええ、頑張りなさい」
ハナウェイは元主人(現時点では)に頭を下げると、フィリアと連れ立って、部屋の中から出て行った。
ネフテリアは、その様子をほくそ笑んだ。
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