5 / 15
逆行までのプロローグ
第5話 逆行までのプロローグ
しおりを挟む
土曜日のパーティーは、夜の七時頃にはじまる。パーティーの会場には、多くの生徒達が集まって、懇意の相手とダンスを楽しんだり、あるいは気心の知れた相手と楽しくお喋りしたりした。
エルス王子と連れ立って会場の中に入ったネフテリアも……最初は周りの生徒達に快く挨拶していたが、王子が男子達の所に移動すると、それを見計らったように「クスッ」と笑って、周りの生徒達に王子との仲を自慢しはじめた。「私は、あのエルス王子と付き合っている」と。少しも遠慮する事無く、その事を自慢げに話しつづけた。
周りの生徒達は(特に女子生徒達は)、表面上では「すごい!」と褒め称えつつも、内心では「どうして、コイツばっかり」と悔しがっていた。エルス王子は、みんなの共有物なのに。それを独り占めする彼女の事は……少女達の表情を見ても分かるように、あまり良く思っていなかった。
素晴らしいモノは、より多くの人と共有すべきだ。
恋に臆病な乙女達は、口には出していなかったものの、それを共通のルールにしていた。そのルールを守る限り、今の自分が置かれている地位と、学園での人間関係を維持する事ができる。
学園での人間関係は、自分のステータスであると同時に、その立場を保障するお守りでもあった。そのお守りがあるからこそ、自分達は平和な学園生活を送る事ができる。それなのに! 彼女は平気で、そのルールを破った。誰もが憧れる王子を独り占めして。その罪は、文字通りの万死に値する。
だが……。彼女の家は、国でも有数の大貴族だった。大貴族の家に逆らえば、自分の家が潰されてしまうかも知れない。少女達は彼女の振る舞いに怒りを覚えながらも、その独裁には誰一人として逆らう事ができなかった。
ネフテリアは満足げに微笑むと、自分の周りを見渡して、王子が何処にいるのかを探した。
王子は、周りの男子達を仲良く話していた。
彼女は彼の所に歩み寄ろうとしたが、会場の扉からある声(「王子!」と叫ぶ声だ)が聞こえた瞬間、「ハッ」と驚いた顔で、声のした方に視線を移した。
視線の先には、まさか! 信じられない。あれほど来るなと言ったのに。フィリアが扉の前に立っていた。
フィリアは王子の姿を見つけると、我を忘れたように走り出して、彼の身体にサッと抱きついた。
「フィリアさん」と、王子が戸惑う。「どうした」
の? の言葉は要らなかった。ユエの話を聞いてしまった以上、彼にはフェリア気持ちが痛い程分かった。「フィリアさん」の声が優しい。「君も、彼女に苦しめられたいんだね?」
「はい」と、フィリアはうなずいた。「そ、そうです。私も」
周りの生徒達は、彼女の言葉に唖然とした。彼女とエルス王子の会話(あの二人は、そう言う関係だったのか!)はもちろん、ネフテリアがその二人を睨みつけていた事にも。
彼等は互いの顔を見合ったが、ネフテリアが「王子!」と叫ぶと、不安な顔で彼女の方に視線を戻した。
ネフテリアは、二人の前に歩み寄った。
「これは一体、どう言う事ですか! それに」
の声は、フィリアを震えさせた。
「どうして、貴女が? 『パーティーには、来るな』って言ったのに!」
「それは……」
フィリアは王子の顔を見、それからまた、彼女の顔に視線を戻した。
「やっぱり、無理だからです。王子の事を諦めるのが」
「くっ、なっ!」
「ネフテリア様!」
フェリアは真っ直ぐな目で、彼女の目を睨みかえした。
「私は、王子の事が好きです」
会場の中がどよめいた。特に「好き」の言葉を聞いた女子達は、互いの顔を見合ったり、王子に向かって「私も王子の事が好きです!」と叫んだりした。
王子は彼等の声に驚いたが、視線の方は彼女から逸らさなかった。
「ネフテリア」
「はい?」
「君の事だから……たぶん、もう分かっているかも知れないけど」
緊張の一言が発せられる。
「僕も、彼女の事が好きだ」
「なっ!」の言葉が、言葉にならない。「くっ!」
ネフテリアは、取り乱した心を何とか落ち着かせた。
「ご冗談ですわよね?」
「いや。僕は、本気だよ。僕は本気で、彼女の事を愛している」
絶望の一言を聞いた瞬間だった。
「そんな」
「ネフテリア」
ごめん、と、王子は謝った。
「君とは、結婚できない。この先、恋人になる事も」
「待って下さい!」
必死の抵抗が痛々しかった。
「王子は、それで良いのですか? そんな女と結婚して。王子は、イヴァン公国の第二王子なんですよ?」
「ネフテリア!」と、王子の方も必死だった。「自分のフィアンセは、自分で見つける。君とは昔、結婚の約束をしたけど」
「王子……」
「その約束は、なしだ」
婚約破棄、そんな言葉が頭を過ぎった。
「そんな」
「ネフテリア」
王子は、彼女に頭を下げた。
「今までありがとう」
を聞いて、ネフテリアの身体が震えた。
「許さない」
「え?」
「許さない!」
ネフテリアは恋敵の女に飛び掛かろうとしたが、運が悪かったのだろう。彼女の身体に飛び掛かろうとした瞬間、王子が腰から抜いた剣に胸を貫かれてしまった。
「なっ、ぐっ、なっ」
床の上に倒れるネフテリア。その胸からは、真っ赤な血が流れていた。その光景に総毛立つ生徒達。彼等は(特に取り巻きの少女達)はオロオロしながら、お互いの顔を見合ったり、その身体をブルブルと震わせたりした。
王子は慌てて、彼女の身体を抱き抱えた。
「おい、しっかり! おい」の声に反応はするが、ネフテリアは既に朦朧としていた。いつ死んでもおかしくないくらいに。その手からも……限界が来たのか、力が抜けてしまった。
ネフテリア王子の顔を見ると、悔しげな顔で彼の顔を睨み、そして……。
天国に旅立つと思ったが、天は「それ」を許さなかった。
朝の日差しを受けて、ベッドの上から身体を起す。
ネフテリアは自分の胸に触れて、そこが何ともなっていない事に驚いた。
エルス王子と連れ立って会場の中に入ったネフテリアも……最初は周りの生徒達に快く挨拶していたが、王子が男子達の所に移動すると、それを見計らったように「クスッ」と笑って、周りの生徒達に王子との仲を自慢しはじめた。「私は、あのエルス王子と付き合っている」と。少しも遠慮する事無く、その事を自慢げに話しつづけた。
周りの生徒達は(特に女子生徒達は)、表面上では「すごい!」と褒め称えつつも、内心では「どうして、コイツばっかり」と悔しがっていた。エルス王子は、みんなの共有物なのに。それを独り占めする彼女の事は……少女達の表情を見ても分かるように、あまり良く思っていなかった。
素晴らしいモノは、より多くの人と共有すべきだ。
恋に臆病な乙女達は、口には出していなかったものの、それを共通のルールにしていた。そのルールを守る限り、今の自分が置かれている地位と、学園での人間関係を維持する事ができる。
学園での人間関係は、自分のステータスであると同時に、その立場を保障するお守りでもあった。そのお守りがあるからこそ、自分達は平和な学園生活を送る事ができる。それなのに! 彼女は平気で、そのルールを破った。誰もが憧れる王子を独り占めして。その罪は、文字通りの万死に値する。
だが……。彼女の家は、国でも有数の大貴族だった。大貴族の家に逆らえば、自分の家が潰されてしまうかも知れない。少女達は彼女の振る舞いに怒りを覚えながらも、その独裁には誰一人として逆らう事ができなかった。
ネフテリアは満足げに微笑むと、自分の周りを見渡して、王子が何処にいるのかを探した。
王子は、周りの男子達を仲良く話していた。
彼女は彼の所に歩み寄ろうとしたが、会場の扉からある声(「王子!」と叫ぶ声だ)が聞こえた瞬間、「ハッ」と驚いた顔で、声のした方に視線を移した。
視線の先には、まさか! 信じられない。あれほど来るなと言ったのに。フィリアが扉の前に立っていた。
フィリアは王子の姿を見つけると、我を忘れたように走り出して、彼の身体にサッと抱きついた。
「フィリアさん」と、王子が戸惑う。「どうした」
の? の言葉は要らなかった。ユエの話を聞いてしまった以上、彼にはフェリア気持ちが痛い程分かった。「フィリアさん」の声が優しい。「君も、彼女に苦しめられたいんだね?」
「はい」と、フィリアはうなずいた。「そ、そうです。私も」
周りの生徒達は、彼女の言葉に唖然とした。彼女とエルス王子の会話(あの二人は、そう言う関係だったのか!)はもちろん、ネフテリアがその二人を睨みつけていた事にも。
彼等は互いの顔を見合ったが、ネフテリアが「王子!」と叫ぶと、不安な顔で彼女の方に視線を戻した。
ネフテリアは、二人の前に歩み寄った。
「これは一体、どう言う事ですか! それに」
の声は、フィリアを震えさせた。
「どうして、貴女が? 『パーティーには、来るな』って言ったのに!」
「それは……」
フィリアは王子の顔を見、それからまた、彼女の顔に視線を戻した。
「やっぱり、無理だからです。王子の事を諦めるのが」
「くっ、なっ!」
「ネフテリア様!」
フェリアは真っ直ぐな目で、彼女の目を睨みかえした。
「私は、王子の事が好きです」
会場の中がどよめいた。特に「好き」の言葉を聞いた女子達は、互いの顔を見合ったり、王子に向かって「私も王子の事が好きです!」と叫んだりした。
王子は彼等の声に驚いたが、視線の方は彼女から逸らさなかった。
「ネフテリア」
「はい?」
「君の事だから……たぶん、もう分かっているかも知れないけど」
緊張の一言が発せられる。
「僕も、彼女の事が好きだ」
「なっ!」の言葉が、言葉にならない。「くっ!」
ネフテリアは、取り乱した心を何とか落ち着かせた。
「ご冗談ですわよね?」
「いや。僕は、本気だよ。僕は本気で、彼女の事を愛している」
絶望の一言を聞いた瞬間だった。
「そんな」
「ネフテリア」
ごめん、と、王子は謝った。
「君とは、結婚できない。この先、恋人になる事も」
「待って下さい!」
必死の抵抗が痛々しかった。
「王子は、それで良いのですか? そんな女と結婚して。王子は、イヴァン公国の第二王子なんですよ?」
「ネフテリア!」と、王子の方も必死だった。「自分のフィアンセは、自分で見つける。君とは昔、結婚の約束をしたけど」
「王子……」
「その約束は、なしだ」
婚約破棄、そんな言葉が頭を過ぎった。
「そんな」
「ネフテリア」
王子は、彼女に頭を下げた。
「今までありがとう」
を聞いて、ネフテリアの身体が震えた。
「許さない」
「え?」
「許さない!」
ネフテリアは恋敵の女に飛び掛かろうとしたが、運が悪かったのだろう。彼女の身体に飛び掛かろうとした瞬間、王子が腰から抜いた剣に胸を貫かれてしまった。
「なっ、ぐっ、なっ」
床の上に倒れるネフテリア。その胸からは、真っ赤な血が流れていた。その光景に総毛立つ生徒達。彼等は(特に取り巻きの少女達)はオロオロしながら、お互いの顔を見合ったり、その身体をブルブルと震わせたりした。
王子は慌てて、彼女の身体を抱き抱えた。
「おい、しっかり! おい」の声に反応はするが、ネフテリアは既に朦朧としていた。いつ死んでもおかしくないくらいに。その手からも……限界が来たのか、力が抜けてしまった。
ネフテリア王子の顔を見ると、悔しげな顔で彼の顔を睨み、そして……。
天国に旅立つと思ったが、天は「それ」を許さなかった。
朝の日差しを受けて、ベッドの上から身体を起す。
ネフテリアは自分の胸に触れて、そこが何ともなっていない事に驚いた。
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説
側妃に追放された王太子
基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」
正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。
そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。
王の代理が側妃など異例の出来事だ。
「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」
王太子は息を吐いた。
「それが国のためなら」
貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。
無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。
いじめられ続けた挙げ句、三回も婚約破棄された悪役令嬢は微笑みながら言った「女神の顔も三度まで」と
鳳ナナ
恋愛
伯爵令嬢アムネジアはいじめられていた。
令嬢から。子息から。婚約者の王子から。
それでも彼女はただ微笑を浮かべて、一切の抵抗をしなかった。
そんなある日、三回目の婚約破棄を宣言されたアムネジアは、閉じていた目を見開いて言った。
「――女神の顔も三度まで、という言葉をご存知ですか?」
その言葉を皮切りに、ついにアムネジアは本性を現し、夜会は女達の修羅場と化した。
「ああ、気持ち悪い」
「お黙りなさい! この泥棒猫が!」
「言いましたよね? 助けてやる代わりに、友達料金を払えって」
飛び交う罵倒に乱れ飛ぶワイングラス。
謀略渦巻く宮廷の中で、咲き誇るは一輪の悪の華。
――出てくる令嬢、全員悪人。
※小説家になろう様でも掲載しております。
裏切られた令嬢は死を選んだ。そして……
希猫 ゆうみ
恋愛
スチュアート伯爵家の令嬢レーラは裏切られた。
幼馴染に婚約者を奪われたのだ。
レーラの17才の誕生日に、二人はキスをして、そして言った。
「一度きりの人生だから、本当に愛せる人と結婚するよ」
「ごめんねレーラ。ロバートを愛してるの」
誕生日に婚約破棄されたレーラは絶望し、生きる事を諦めてしまう。
けれど死にきれず、再び目覚めた時、新しい人生が幕を開けた。
レーラに許しを請い、縋る裏切り者たち。
心を鎖し生きて行かざるを得ないレーラの前に、一人の求婚者が現れる。
強く気高く冷酷に。
裏切り者たちが落ちぶれていく様を眺めながら、レーラは愛と幸せを手に入れていく。
☆完結しました。ありがとうございました!☆
(ホットランキング8位ありがとうございます!(9/10、19:30現在))
(ホットランキング1位~9位~2位ありがとうございます!(9/6~9))
(ホットランキング1位!?ありがとうございます!!(9/5、13:20現在))
(ホットランキング9位ありがとうございます!(9/4、18:30現在))
真実の愛に婚約破棄を叫ぶ王太子より更に凄い事を言い出した真実の愛の相手
ラララキヲ
ファンタジー
卒業式が終わると突然王太子が婚約破棄を叫んだ。
反論する婚約者の侯爵令嬢。
そんな侯爵令嬢から王太子を守ろうと、自分が悪いと言い出す王太子の真実の愛のお相手の男爵令嬢は、さらにとんでもない事を口にする。
そこへ………
◇テンプレ婚約破棄モノ。
◇ふんわり世界観。
◇なろうにも上げてます。
そして乙女ゲームは始まらなかった
お好み焼き
恋愛
気付いたら9歳の悪役令嬢に転生してました。前世でプレイした乙女ゲームの悪役キャラです。悪役令嬢なのでなにか悪さをしないといけないのでしょうか?しかし私には誰かをいじめる趣味も性癖もありません。むしろ苦しんでいる人を見ると胸が重くなります。
一体私は何をしたらいいのでしょうか?
何故、わたくしだけが貴方の事を特別視していると思われるのですか?
ラララキヲ
ファンタジー
王家主催の夜会で婚約者以外の令嬢をエスコートした侯爵令息は、突然自分の婚約者である伯爵令嬢に婚約破棄を宣言した。
それを受けて婚約者の伯爵令嬢は自分の婚約者に聞き返す。
「返事……ですか?わたくしは何を言えばいいのでしょうか?」
侯爵令息の胸に抱かれる子爵令嬢も一緒になって婚約破棄を告げられた令嬢を責め立てる。しかし伯爵令嬢は首を傾げて問返す。
「何故わたくしが嫉妬すると思われるのですか?」
※この世界の貴族は『完全なピラミッド型』だと思って下さい……
◇テンプレ婚約破棄モノ。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる