上 下
54 / 61
第一章 日常ラブコメ編

第51話 女子の友情も案外悪くねぇかもよ?

しおりを挟む
 キューブの擬人化、同級生達の告白。本当に色んな事がある。あれ程嫌っていた文章も……今では、そのプロット作りに勤しんでいた。自分の体験した事を書き殴って、それを一つの作品にして行く。他の人間には、決して真似できない。
俺だけの体験を、俺だけの文章で書き表して行くのだ。

 それがどんなに下らなく、そして、つまらないモノであったとしても。その作業は、やり切らなきゃならない。憂鬱な気分になる。ベッドの上から起きるのも、億劫になるような。そんな倦怠感が俺を襲い、乱し、そして、苦しめる。はぁ……。

 鳥になれたら、どんなに幸せだろう。その両翼を羽ばたかせて、この地獄からサッと飛び立てたら。こんなに幸せな事はない。異性にモテる、作品のチャンスに恵まれる事は、決して幸せな事とは限らないのだ。

 溜め息をつきつつ、学校の制服に着替える。
 
 俺はいつも準備を済ませて、庭の自転車に跨がり、いつもの学校に行って、風紀委員の神崎に挨拶し、ついでに岸谷(かなり気まずかったが)にも挨拶して、黒内達の前にチャーウェイを置き、自分の席に行って、机の中に道具類を入れてからすぐ、机の上に突っ伏そうとしたが、黒内達に「時任君」と呼ばれてので、不本意ながらも彼女達の所に行った。
 
 彼女達は、近くの空席に俺を促した。
 
 俺は「それ」に従い、その空席に座った。
 
 彼女達は、自由に好きな事を話しはじめた。男子の俺には、とてもついていけない話題を。何の遠慮もなく、「ニコニコ」しながら話しつづける。
 昨日、岸谷が俺に告白した事など、まるで忘れたかのように……いや、チャーウェイがいるから、あえて話さないのか? 岸谷の事を思って。
 岸谷も俺の顔を時折見てくるが、それ以外の事はせず、女子達の話に「うん、うん」とうなずいているだけだった。
 
 俺はその光景に驚く一方、真面目な顔で彼女達の友情に感心した。
 
 母ちゃん。
 母ちゃんは「ああ」言っていたけど、女子の友情も案外悪くねぇかもよ? 
 男子の「それ」とは、違ってね。
 男子の友情は基本、自分と同じ仲間意識から始まるから。
 自分と同じ趣味を持っていたり、あるいは、自分の生き方と似た部分があったり。女子達の空気を読む、共感力から来る友情は、男子の「それ」を遙かに超えるようだった。
 
 俺は、その力に生唾を飲んだ。

「すげぇな、女子って」

 女子達は、俺の声に気づかなかった。

 黒内は(彼女は、俺の前に座っている)、俺にそっと耳打ちした。

「ねぇ、時任君」

「なに?」

「今日の放課後なんだけどさ。岸谷と一緒に帰ってくれない?」

「え?」と驚いた俺だったが、すぐに「どうして?」と聞きかえした。

「あの子、ほら? こう言うのが苦手だからさ。昨日の告白だって、あたしらが」

「で、でも、チャーウェイが。それに部活もあるし」

 黒内は、俺の言わんとした事を察した(らしい)。

「分かっている。部活は……そうだな。今日は、休んで。『急用が出来た』とか言ってさ。チャーウェイちゃんの方は、アタシらに任せてよ」

「ああ、うん」と言いながら戸惑う、俺。「分かった」とうなずいてしまう自分が悲しい。本当は断りたかったが、昨日の事もあったので、何となく断りにくかった。

 俺は藤岡のスマホに連絡し(一応、連絡先は知っている)、「今日は急用ができたから、部活を休む」と伝えた。

 相手は、その内容に「分かった」と返した。

 俺はその返事にホッとし、岸谷の顔に何気なく目をやった。

 岸谷と目があった。

 彼女は恥ずかしそうな、でも何処か嬉しそうな顔で、俺の目に笑いかえした。

 その笑みに思わず熱くなる。昨日の告白がフラッシュバックするように。心臓の方も、ドキドキしてしまった。

 俺は、必死の作り笑いを浮かべた。
 
 それから時間は流れて放課後。
 俺は約束通り(周りに気づかれないよう、俺が先に出て、岸谷がその後に続いた)、学校の校門前に行った。岸谷が来たのは、それから二分後(くらい)の事だった。
 
 俺達は気まずくも、何処か照れ臭そうに「ハハハッ」と笑い合った。

「そ、それじゃ」

「う、うん」

 俺達は、その場からぎこちなく歩き出した。

「か、帰りにさ」

「う、うん?」

「何処か寄りたい所は、ある?」

 彼女は、その答えをしばらく考えた。

「ブックカフェ」

「ブック」の文字に青ざめたが、すぐに「カフェ?」と持ち直した。「そんなカフェがあるか?」

 相手の答えは、「うん」だった。

「本を読みながら……あっ! まんがもあるよ! 自分の好きなドリンクを飲めるんだ」

「ふうん。そんな店があったのか?」

 彼女は不安げな顔で、俺の目を見つめた。

「い、行きたくない?」

 俺は、彼女の質問に首を振った。

「まんががあるなら大丈夫」

「そ、そう! なら」

 彼女は嬉しそうな顔で、その目をキラキラと輝かせた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

【完結】俺のセフレが幼なじみなんですが?

おもち
恋愛
アプリで知り合った女の子。初対面の彼女は予想より断然可愛かった。事前に取り決めていたとおり、2人は恋愛NGの都合の良い関係(セフレ)になる。何回か関係を続け、ある日、彼女の家まで送ると……、その家は、見覚えのある家だった。 『え、ここ、幼馴染の家なんだけど……?』 ※他サイトでも投稿しています。2サイト計60万PV作品です。

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

処理中です...