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第一章 日常ラブコメ編

第31話 モテる男は、辛いねぇ

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 何だかんだ纏まった話も……よくよく考えれば、問題を先延ばしにしただけだった。「俺がガチのハーレム王になる」と言う。二次元大好き野郎なら夢のような話だが、俺には生憎と「そう言う趣味」は無いし、仮にあったとしても、好感度マックスの連中を(それも全員)相手にする力も無かった。

 たった一人を相手にするだけでも疲れるのに。それが108人に増えてみろ? ストレスで頭が爆発してしまいそうだ。誰か一人にでも好意を集中したらアウト、全員から袋叩きにされてしまう。

 それこそ、107人分の恨みを買って。次の日には、社会的にも、そして、人間的にも抹殺されているのに違いない。「コイツは、108人もの女を誑し込んだ人でなしである」と。そうなったら……。

 気分がまた、暗くなる。
 
 俺は部屋の電気を消し、キューブの状態の三人に「お休み」と言って(三人も、俺に「お休み」と返した)、その目をゆっくりと閉じた。

 
 朝は、いつもの時間に起きた。
 
 俺はいつもの準備を済ませると、鞄の中にキューブ(話し合いの結果、最初は「ラミア」で決まった)を入れて、庭の自転車に跨がり、憂鬱な顔でいつもの学校に向かった。

 学校の前……つまり校門の前では、風紀委員達が生徒達の服装を検査していた。「生徒達の服装に乱れは、無いか?」と。
 俺の前を走っていた男子生徒は、校門の前で睨みをきかせていた神崎に「待ちなさい」と止められてしまった。

「襟元が乱れている。今すぐ直しなさい!」

「チッ」と舌打ちした男子は、ある意味で勇者だった。「分かったよ」
 
 俺は……そいつには悪いが、「ラッキー」と思って、彼女の監視を掻い潜り、学校の駐輪所まで行くと、そこに自転車を停めて、自分の教室に向かった。教室に向かった後は、周りのみんなに「おはよう」と挨拶し、鞄の中からキューブを取りだして、黒内達の所に「それ」を持って行った。
 
 黒内達は、俺の行為を喜んだ。

「ありがとうね、時任君」

「いや。それより」

 俺は、彼女達に「昨日決めた事」を話した。

「日替わりってわけじゃねぇけど。今日は」

「なるほど。ラミアちゃんの番なんだね? そして、明日はチャーウェイちゃんの番だと」

「ああ」

 黒内達は……岸谷は何故か悲しげだったが、俺の苦労に同情した(と思う)。

「モテる男は、辛いねぇ」

「うっ!」

 から続く言葉がでない。ラミアも「それ」を聞いている以上、彼女を傷つける言葉は言えなかった。

 黒内の言葉に「ハハハッ」と笑う。

「そ、そうだな」

 俺は黒内達に彼女を任せると、自分の席に戻って、机の上に頬杖をついた。

 朝のホームルームが始まったのは、それから十分後の事だった。
 
 俺はそのホームルームを聞き、ついでに一時間目の授業を聞き終えると、机の上に突っ伏し、いつものように眠ろうとしたが、遠くの席から黒内に「時任君」と呼ばれたので、せっかく眠り掛けた身体を起し、気だるげな顔で彼女の席に歩み寄った。

「なんだよ?」

「ま、ま」

 彼女は、近くの空席(クラスの男子が座っている席)を指差した。

「そこに座って。あたしらと一緒に話そうよ!」

「ふぇ?」と、驚く俺。「なんで?」

 俺は自分の置かれた状況が分からず、指示された席に座っても、しばらくの間、間抜けな顔で周りの女子達を見つめつづけた。

 周りの女子達は、そんな俺の態度を笑いつづけた。

「ちょっ! その反応、ウケる」

 ひどい。

「中学生じゃないんだからさ。あたしら、同じクラスの仲間でしょう?」
 
 仲間のワードには弱い俺だが、これは流石に恥ずかしかった。周りの男子は(特に俺と仲の良い連中は)、俺の事を羨ましげに見ているし。男子達のリーダーとも言える男子は、明らかに不機嫌な顔で「チッ」と苛立っていた。
 
 俺はそれらの視線に脅えつつ、不安な顔で周りの女子達に視線を戻した。

「そ、そうだけどさ。ううっ。なんで、俺の事を呼んだの?」

「ああ」

 黒内は、机の上にキューブを置いた。

「こうすれば、ほら? ラミアちゃんも、時任君と話せるじゃない?」

「ああ」

 なるほど。今までは、彼女達とだけ話していたが。俺がこっちに来る事で、ラミアも俺と話す事ができるのだ。それも女子達の公認で。話の内容は、イマイチ分からないけど。

 俺は彼女達の厚意に感謝しつつ、目の前の彼女に「ラミア」と話し掛けた。

 ラミアはキューブの姿を保ったまま、俺の言葉に「なに?」と返した。

 俺は、その言葉に固まった。「一体、何を話せば良いのだろう?」と。家にいる時は普通に話せたが、ギャラリーがいる手前、やっぱり普通には話せなかった。なので、会話も「い、いや」とぎこちないモノになってしまう。

 周りの女子達(岸谷を除いて)は、その様子をおかしそうに眺めつづけた。
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