上 下
18 / 61
第一章 日常ラブコメ編

第16話 頼みって、何だよ?

しおりを挟む
 女の裸には慣れた、なんて言えたら格好いいよな? 色んな女にモテモテで。そいつの周りには、いつも女達が歩いている。
 学校で一番の美少女から、本当は可愛い隠れ美人まで。そいつは自分が何故モテているのかも分からず、ただ毎日のラッキーイベントに悩みつづけている。

「俺は全然ついていない」とか、ほざいてさ。本当は、誰よりもついているのに。そいつにとっての幸運は、毎日が平凡に、そして、普通に流れて行く事だった。
 それを見ている周りが、どう思っているのかも知らないで。そいつは……うん、もう良いか。そんな奴の事を考えても、俺の人生が変わるわけではないし。考えるだけでも、無駄な事はある。
 
 俺は鞄の中に彼女、キューブ状態になったラミアを仕舞い入れると、いつもやっている朝の準備を終わらせて、庭の自転車に跨がり、憂鬱な顔でいつもの学校に向かった。
 
 だが……なんでまた、注意されるかね? 
 
 学校の校門に入ろうとした瞬間、例の神崎宇美に「待ちなさい」と呼び止められてしまった。

 自転車の上から降りる。
 
 俺は彼女の顔を見ると、憂鬱な顔で右の頬を掻いた。

「何だよ?」

「あの子は?」

 あの子? と訊こうとしたが、その瞬間に「ああ」と理解した。

「ラミアの事か?」

「そう! 今日は、あの子と一緒じゃないの?」

 俺は、背中の鞄を叩いた。

「ああ、この中に入っているよ。家に置いてくるのは、流石に退屈すると思ってさ。それがなに?」

 神崎の顔が歪んだ。

「不純異性行為」

「え?」

「不純異性行為! 学校に関係ない物を持ってくるなんて」

「ああ?」

 俺は、彼女の目を睨んだ。

 今の言葉は、どうしても許せない。

 俺は自転車のハンドルに手(右手だけ放していた)を戻すと、不機嫌な顔でそのハンドルを握り締めた。

「ラミアが神崎に何かしたのか?」

「くっ」

「何もしていないんだろう? なら、良いじゃねぇか? クラスの奴らとも仲良くしているみてぇだし」

 それじゃ……と、俺は、神崎の前から歩き出した。

「自転車停めなきゃいけねぇし。俺、もう行くわ」

「あっ、ちょっと!」

 神崎は、俺の背中に叫んだ。

「私は、絶対に認めないから!」

 俺はその声を無視し、学校の駐輪場に自転車を停めて、それから自分の教室に行った。教室の中には、いつものグループが集まっていた。男子の中でも強いグループは後ろ側に、女子の強グループも教室の前側に集まっている。
 真ん中辺りに集まっているのは、そのどちらにも属さない奴か、グループこそ作っているけれど、彼らよりは目立たない奴らだった。
 
 俺はそれらのグループに挨拶してからすぐ、自分の席に行って、鞄の中から必要な道具を取り出し、教科書は机の中、「彼女」はキューブ状態のまま、昨日彼女が一緒に帰ったグループの所に持って行った(次の日も、一緒に話す約束をしたらしい)。

「先生が来たら、すぐに隠せよ?」

「分かっているって!」と、うなずく女子達。「そこら辺は、抜かりないからさ!」

 女子達は、机の上に置かれた「彼女」と仲良くお喋りしはじめた。

 俺はその様子をしばらく見ていたが、仲間の一人に話し掛けられると、そいつの顔に視線を移して、その仲間がいる所に歩み寄った。

「何だよ?」

 そいつは、俺の耳元に口を近づけた。

「実は……その、お前に頼みがあるんだ」

「頼み?」

 俺も、そいつと同じように喋った。

「頼みって、何だよ?」

 そいつは、俺の言葉に赤くなった。

「放課後、少しで良い。俺の挑戦に付き合ってくれ」

「お前の挑戦に?」

「そう! 俺の挑戦に」

 俺は、そいつの挑戦が何となく察せられた。

「何だよ。お前も、彼女が欲しいのか?」

「うううっ」と、涙目になるそいつ。「だって」

 そいつは、俺の肩を揺らした。

「お前ばっかり狡いじゃないか! あんなに可愛い彼女を手に入れて」

「うっ」

 俺は、「彼女」のワードに動揺してしまった。

「ラミアは、彼女じゃねぇよ」

「でも、彼女に好かれているんだろう?」

「ああ」とうなずいた時は、物凄く恥ずかしかった。「ラミアの話じゃあな」

「うっ」

 そいつは、俺の肩から手を放した。

「俺にも、その幸せを分けて欲しい」

 俺は、そいつの言葉に戸惑った。今の空気から考えて……断るのは、まず不可能だろう。そう言う空気がひしひしと伝わってくるし、(擬人化の特性は知っている筈だが)俺の悪い癖が、今のような空気を断れない性格が、そいつの思いに「分かったよ」とうなずかせてしまった。
 
 俺の言葉に表情が晴れる、そいつ。
 
 そいつは嬉しそうな顔で、俺の背中を何度か叩いた。

「流石、時任君! 空気の分かる男」

 俺はその言葉に呆れつつ、自分の性格に溜め息をついた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

【完結】俺のセフレが幼なじみなんですが?

おもち
恋愛
アプリで知り合った女の子。初対面の彼女は予想より断然可愛かった。事前に取り決めていたとおり、2人は恋愛NGの都合の良い関係(セフレ)になる。何回か関係を続け、ある日、彼女の家まで送ると……、その家は、見覚えのある家だった。 『え、ここ、幼馴染の家なんだけど……?』 ※他サイトでも投稿しています。2サイト計60万PV作品です。

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

処理中です...