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出て行けと言われても踏みとどまった健斗は、何度も顔をあげて言いかけては躊躇って口を閉じる。
言いたいことも言えない、出て行きもしない、そんな健斗に苛立ちを覚えつつ、完全に無視をする。いつまでもそこに突っ立っていたらいい。
「星矢くん……好きです」
小さい声は俺の耳にもはっきりと聞こえた。思わず健斗を見てしまい、柄にもなく狼狽えてテーブルの足に躓いた。
「俺以外のものにならないでほしい」
健斗は俯いたまま、口早に喋る。俺に告げるというより、まるで自分に言い聞かせているように、定まらない視線で拳を握ったり閉じたりしている。
「他の人に優しくしないで。誰も見ないで。俺だけ見て欲しい」
独占欲丸出しの言葉は、今までどれほど健斗が我慢し、ため込んでいたのか、その思いが喉元までこみ上げ溢れているようでもあった。
「キスしたい。触りたい。舐めたい」
ぶつけた足を摩っていた手を止めて、あからさまな言い方にぎょっとする。こんなことを言う健斗が知らない男に見えて、顔が赤くなった。
「閉じ込めて……俺だけのものにしたい」
思えば健斗から性的な接触をされたこともなかったし、言われたこともなかった。だって、キスやセックスはしたくないと言っていた。それは俺を怖がらせないための我慢だったのだろうか。
「お前……」
「大好きです。星矢くん。……ごめん。今まで避けて。あの人と付き合うって、女の子がいいって言われるかと思って……逃げてた」
深く頭を下げて謝る健斗を目にして、頑なまでに拒否していた気持ちがふわりとほどける。ここまで言われて、まだ無視できるほど俺は冷たい人間じゃない。もうずっと前から絆されていたのに、今更背を向けることはできなかった。
まだ頭を下げ続けている健斗の前に行き、しゃがんで下から覗き込む。
健斗はぎゅっと目を瞑ったまま、微動だにしなかった。
「彼女は駅まで一人で歩いて帰るって言うから、時間も遅いし、危ないかと思って送って行っただけだ。恋愛感情はないし、ただのバイト仲間だ」
今までずっと健斗に言おうとしていた言葉はすんなり声に出る。
「うん……」
「確かに俺は異性愛者だけど、お前はほっとけなくて……気が付いたら一緒にいて心地いいし……好きだから付き合った」
じわりじわりと、健斗の顔が赤く染まる。健斗はゆっくりと顔をあげたが、見せないように腕で赤くなった顔を隠した。
今まで説明できなかった分、俺は健斗に真摯に向き合うためにさらに続けて言った。
「俺は付き合ったらその人以外考えられないから、浮気はしないし、誰かに告白されても……まあ、そんなこと一度もなかったけど、好きな奴がいるからって必ず断る」
健斗はもう必死に頷くだけで、声も出さずに唾を飲み込んで聞いている。
「ただお前に誤解されるようなことをしたのは……悪かった。俺からも謝る」
そう言って潔く頭を下げた。健斗は慌てて「俺のほうが悪かった!」と手を伸ばして……触れることを恐れるように手を引っこめる。
その手を掴んで俺は健斗の顔をぐっと引き寄せた。そのまま首を傾げて唇を重ねる。
触れた健斗の唇は、強く噛みしめていたせいでささくれて少し血の味がした。
「う、うわああ!」
健斗は大声をあげて後ろにひっくり返った。
あまりにも派手に尻もちをついたので、ひょっとしてキスされたのが嫌だったのかと思っていれば、健斗は唇に手を当てて「ちゅーした……」と呟いている。
「嫌だったか?」
健斗は髪が乱れるほど、何度も首を横に振る。その必死さがおかしくて笑いそうになったが、ぐっと唇を引き締めて我慢する。
「ファーストキスは俺からしたかった……」
消沈しながら、本当に悔しそうに言った健斗につい耐え切れずふきだした。健斗は恨めしそうな恥ずかしそうな様子で俺を見ている。
「ほら」
俺は健斗に顔を近づけて、ゆっくりと目を瞑る。
遠慮がちに唇が重なった。
「星矢くん、ごめん。みっともなくて」
「いいよ。俺も悪かったし。こうやって仲直りできたから」
俺は健斗の体をそっと抱きしめる。
「ん? お前……体厚くなった?」
気が付いて、健斗の背中や胸など至る所に触れている。ひょろっとして骨ばった体は今はほどよい弾力がついている。
「なった。ジム頑張って行ってるし、プロテインも飲み始めた」
「おお、すげーな」
「だって……星矢くんのこと守りたい。星矢くんがずっと好きでいてくれるように格好良くなりたい」
ジムに行き始めた理由も俺だと知り、本当につくづく俺を中心に世界が回っているように思う。
そんな健斗も可愛いと思ってしまっているあたり、俺もとっくに恋に落ちていて、今更離れられないと痛感した。
はじめての喧嘩、はじめてのキス、健斗にとって何をするにもはじめてという事実に、たとえようもない幸せを感じていた。
男同士、行きつく先に何もないと考えていたが、このまま二人幸せに生きていられるなら、それ以上のことはないんじゃないと思う。
「俺のこと好きだって言ってくれて、ありがとう」
健斗が改めて言い、頭を下げたので、時々見せるこの素直さが可愛いんだよな、と頬が緩む。
「こっちこそ、俺のこと好きになってくれて嬉しい」
二人、顔を見合わせて、笑いあって、ゆっくりと唇を重ねた。
終わり
言いたいことも言えない、出て行きもしない、そんな健斗に苛立ちを覚えつつ、完全に無視をする。いつまでもそこに突っ立っていたらいい。
「星矢くん……好きです」
小さい声は俺の耳にもはっきりと聞こえた。思わず健斗を見てしまい、柄にもなく狼狽えてテーブルの足に躓いた。
「俺以外のものにならないでほしい」
健斗は俯いたまま、口早に喋る。俺に告げるというより、まるで自分に言い聞かせているように、定まらない視線で拳を握ったり閉じたりしている。
「他の人に優しくしないで。誰も見ないで。俺だけ見て欲しい」
独占欲丸出しの言葉は、今までどれほど健斗が我慢し、ため込んでいたのか、その思いが喉元までこみ上げ溢れているようでもあった。
「キスしたい。触りたい。舐めたい」
ぶつけた足を摩っていた手を止めて、あからさまな言い方にぎょっとする。こんなことを言う健斗が知らない男に見えて、顔が赤くなった。
「閉じ込めて……俺だけのものにしたい」
思えば健斗から性的な接触をされたこともなかったし、言われたこともなかった。だって、キスやセックスはしたくないと言っていた。それは俺を怖がらせないための我慢だったのだろうか。
「お前……」
「大好きです。星矢くん。……ごめん。今まで避けて。あの人と付き合うって、女の子がいいって言われるかと思って……逃げてた」
深く頭を下げて謝る健斗を目にして、頑なまでに拒否していた気持ちがふわりとほどける。ここまで言われて、まだ無視できるほど俺は冷たい人間じゃない。もうずっと前から絆されていたのに、今更背を向けることはできなかった。
まだ頭を下げ続けている健斗の前に行き、しゃがんで下から覗き込む。
健斗はぎゅっと目を瞑ったまま、微動だにしなかった。
「彼女は駅まで一人で歩いて帰るって言うから、時間も遅いし、危ないかと思って送って行っただけだ。恋愛感情はないし、ただのバイト仲間だ」
今までずっと健斗に言おうとしていた言葉はすんなり声に出る。
「うん……」
「確かに俺は異性愛者だけど、お前はほっとけなくて……気が付いたら一緒にいて心地いいし……好きだから付き合った」
じわりじわりと、健斗の顔が赤く染まる。健斗はゆっくりと顔をあげたが、見せないように腕で赤くなった顔を隠した。
今まで説明できなかった分、俺は健斗に真摯に向き合うためにさらに続けて言った。
「俺は付き合ったらその人以外考えられないから、浮気はしないし、誰かに告白されても……まあ、そんなこと一度もなかったけど、好きな奴がいるからって必ず断る」
健斗はもう必死に頷くだけで、声も出さずに唾を飲み込んで聞いている。
「ただお前に誤解されるようなことをしたのは……悪かった。俺からも謝る」
そう言って潔く頭を下げた。健斗は慌てて「俺のほうが悪かった!」と手を伸ばして……触れることを恐れるように手を引っこめる。
その手を掴んで俺は健斗の顔をぐっと引き寄せた。そのまま首を傾げて唇を重ねる。
触れた健斗の唇は、強く噛みしめていたせいでささくれて少し血の味がした。
「う、うわああ!」
健斗は大声をあげて後ろにひっくり返った。
あまりにも派手に尻もちをついたので、ひょっとしてキスされたのが嫌だったのかと思っていれば、健斗は唇に手を当てて「ちゅーした……」と呟いている。
「嫌だったか?」
健斗は髪が乱れるほど、何度も首を横に振る。その必死さがおかしくて笑いそうになったが、ぐっと唇を引き締めて我慢する。
「ファーストキスは俺からしたかった……」
消沈しながら、本当に悔しそうに言った健斗につい耐え切れずふきだした。健斗は恨めしそうな恥ずかしそうな様子で俺を見ている。
「ほら」
俺は健斗に顔を近づけて、ゆっくりと目を瞑る。
遠慮がちに唇が重なった。
「星矢くん、ごめん。みっともなくて」
「いいよ。俺も悪かったし。こうやって仲直りできたから」
俺は健斗の体をそっと抱きしめる。
「ん? お前……体厚くなった?」
気が付いて、健斗の背中や胸など至る所に触れている。ひょろっとして骨ばった体は今はほどよい弾力がついている。
「なった。ジム頑張って行ってるし、プロテインも飲み始めた」
「おお、すげーな」
「だって……星矢くんのこと守りたい。星矢くんがずっと好きでいてくれるように格好良くなりたい」
ジムに行き始めた理由も俺だと知り、本当につくづく俺を中心に世界が回っているように思う。
そんな健斗も可愛いと思ってしまっているあたり、俺もとっくに恋に落ちていて、今更離れられないと痛感した。
はじめての喧嘩、はじめてのキス、健斗にとって何をするにもはじめてという事実に、たとえようもない幸せを感じていた。
男同士、行きつく先に何もないと考えていたが、このまま二人幸せに生きていられるなら、それ以上のことはないんじゃないと思う。
「俺のこと好きだって言ってくれて、ありがとう」
健斗が改めて言い、頭を下げたので、時々見せるこの素直さが可愛いんだよな、と頬が緩む。
「こっちこそ、俺のこと好きになってくれて嬉しい」
二人、顔を見合わせて、笑いあって、ゆっくりと唇を重ねた。
終わり
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