拗らせリアコネクト

山吹レイ

文字の大きさ
上 下
26 / 27

26

しおりを挟む
 出て行けと言われても踏みとどまった健斗は、何度も顔をあげて言いかけては躊躇って口を閉じる。
 言いたいことも言えない、出て行きもしない、そんな健斗に苛立ちを覚えつつ、完全に無視をする。いつまでもそこに突っ立っていたらいい。
「星矢くん……好きです」
 小さい声は俺の耳にもはっきりと聞こえた。思わず健斗を見てしまい、柄にもなく狼狽えてテーブルの足に躓いた。
「俺以外のものにならないでほしい」
 健斗は俯いたまま、口早に喋る。俺に告げるというより、まるで自分に言い聞かせているように、定まらない視線で拳を握ったり閉じたりしている。
「他の人に優しくしないで。誰も見ないで。俺だけ見て欲しい」
 独占欲丸出しの言葉は、今までどれほど健斗が我慢し、ため込んでいたのか、その思いが喉元までこみ上げ溢れているようでもあった。
「キスしたい。触りたい。舐めたい」
 ぶつけた足を摩っていた手を止めて、あからさまな言い方にぎょっとする。こんなことを言う健斗が知らない男に見えて、顔が赤くなった。
「閉じ込めて……俺だけのものにしたい」
 思えば健斗から性的な接触をされたこともなかったし、言われたこともなかった。だって、キスやセックスはしたくないと言っていた。それは俺を怖がらせないための我慢だったのだろうか。
「お前……」
「大好きです。星矢くん。……ごめん。今まで避けて。あの人と付き合うって、女の子がいいって言われるかと思って……逃げてた」
 深く頭を下げて謝る健斗を目にして、頑なまでに拒否していた気持ちがふわりとほどける。ここまで言われて、まだ無視できるほど俺は冷たい人間じゃない。もうずっと前から絆されていたのに、今更背を向けることはできなかった。
 まだ頭を下げ続けている健斗の前に行き、しゃがんで下から覗き込む。
 健斗はぎゅっと目を瞑ったまま、微動だにしなかった。
「彼女は駅まで一人で歩いて帰るって言うから、時間も遅いし、危ないかと思って送って行っただけだ。恋愛感情はないし、ただのバイト仲間だ」
 今までずっと健斗に言おうとしていた言葉はすんなり声に出る。
「うん……」
「確かに俺は異性愛者だけど、お前はほっとけなくて……気が付いたら一緒にいて心地いいし……好きだから付き合った」
 じわりじわりと、健斗の顔が赤く染まる。健斗はゆっくりと顔をあげたが、見せないように腕で赤くなった顔を隠した。
 今まで説明できなかった分、俺は健斗に真摯に向き合うためにさらに続けて言った。
「俺は付き合ったらその人以外考えられないから、浮気はしないし、誰かに告白されても……まあ、そんなこと一度もなかったけど、好きな奴がいるからって必ず断る」
 健斗はもう必死に頷くだけで、声も出さずに唾を飲み込んで聞いている。
「ただお前に誤解されるようなことをしたのは……悪かった。俺からも謝る」
 そう言って潔く頭を下げた。健斗は慌てて「俺のほうが悪かった!」と手を伸ばして……触れることを恐れるように手を引っこめる。
 その手を掴んで俺は健斗の顔をぐっと引き寄せた。そのまま首を傾げて唇を重ねる。
 触れた健斗の唇は、強く噛みしめていたせいでささくれて少し血の味がした。
「う、うわああ!」
 健斗は大声をあげて後ろにひっくり返った。
 あまりにも派手に尻もちをついたので、ひょっとしてキスされたのが嫌だったのかと思っていれば、健斗は唇に手を当てて「ちゅーした……」と呟いている。
「嫌だったか?」
 健斗は髪が乱れるほど、何度も首を横に振る。その必死さがおかしくて笑いそうになったが、ぐっと唇を引き締めて我慢する。
「ファーストキスは俺からしたかった……」
 消沈しながら、本当に悔しそうに言った健斗につい耐え切れずふきだした。健斗は恨めしそうな恥ずかしそうな様子で俺を見ている。
「ほら」
 俺は健斗に顔を近づけて、ゆっくりと目を瞑る。
 遠慮がちに唇が重なった。
「星矢くん、ごめん。みっともなくて」
「いいよ。俺も悪かったし。こうやって仲直りできたから」
 俺は健斗の体をそっと抱きしめる。
「ん? お前……体厚くなった?」
 気が付いて、健斗の背中や胸など至る所に触れている。ひょろっとして骨ばった体は今はほどよい弾力がついている。
「なった。ジム頑張って行ってるし、プロテインも飲み始めた」
「おお、すげーな」
「だって……星矢くんのこと守りたい。星矢くんがずっと好きでいてくれるように格好良くなりたい」
 ジムに行き始めた理由も俺だと知り、本当につくづく俺を中心に世界が回っているように思う。
 そんな健斗も可愛いと思ってしまっているあたり、俺もとっくに恋に落ちていて、今更離れられないと痛感した。
 はじめての喧嘩、はじめてのキス、健斗にとって何をするにもはじめてという事実に、たとえようもない幸せを感じていた。
 男同士、行きつく先に何もないと考えていたが、このまま二人幸せに生きていられるなら、それ以上のことはないんじゃないと思う。
「俺のこと好きだって言ってくれて、ありがとう」
 健斗が改めて言い、頭を下げたので、時々見せるこの素直さが可愛いんだよな、と頬が緩む。
「こっちこそ、俺のこと好きになってくれて嬉しい」
 二人、顔を見合わせて、笑いあって、ゆっくりと唇を重ねた。


 終わり
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

アイツはいつの間にか俺たちの中にいた。誰一人として気づいていない。俺以外は…。え?嘘だろ?変なのはオレっ?〜未来への追憶〜

もこ
BL
高校2年の夏休み明け、アイツはクラスの中に溶け込んでいた。誰も不審に思っていない…俺以外は。唖然と見つめる俺を見て、アイツはニヤッと笑った…。   佐々川 望(ささがわ のぞむ)高校2年。 背は低いが、運動や勉強はそこそこできる、いたって平凡な高校生。 佐崎 駿也(ささき しゅんや)高校2年 高身長で運動も勉強もできる。黒メガネをかけて一見すると優等生風。 渡邊雅人、佐藤里緒奈、美佳、幸矢、池田美久、伸一、篠原隆介、明日香、知也 安藤優香、邦彦、友希、瞳美 → クラスメイト 加納 康介(かのう こうすけ)→ 担任教師(数学) 三村 聡子(みむら さとこ) → 養護の先生 馬場 勇太(ばば ゆうた)  → 美術の先生 幸也(ゆきや) → 駿也の長兄 雄也(ゆうや) → 駿也の次兄 高校2年の夏から秋、2か月半のちょっと不思議な物語。 キスシーンがあるのでR15でお届けします。今作もよろしくお願いします!!

近親相姦メス堕ちショタ調教 家庭内性教育

オロテンH太郎
BL
これから私は、父親として最低なことをする。 息子の蓮人はもう部屋でまどろんでいるだろう。 思えば私は妻と離婚してからというもの、この時をずっと待っていたのかもしれない。 ひそかに息子へ劣情を向けていた父はとうとう我慢できなくなってしまい…… おそらく地雷原ですので、合わないと思いましたらそっとブラウザバックをよろしくお願いします。

とろけてなくなる

瀬楽英津子
BL
ヤクザの車を傷を付けた櫻井雅(さくらいみやび)十八歳は、多額の借金を背負わされ、ゲイ風俗で働かされることになってしまった。 連れて行かれたのは教育係の逢坂英二(おうさかえいじ)の自宅マンション。 雅はそこで、逢坂英二(おうさかえいじ)に性技を教わることになるが、逢坂英二(おうさかえいじ)は、ガサツで乱暴な男だった。  無骨なヤクザ×ドライな少年。  歳の差。

隠れSな攻めの短編集

あかさたな!
BL
こちら全話独立、オトナな短編集です。 1話1話完結しています。 いきなりオトナな内容に入るのでご注意を。 今回はソフトからドがつくくらいのSまで、いろんなタイプの攻めがみられる短編集です!隠れSとか、メガネSとか、年下Sとか…⁉︎ 【お仕置きで奥の処女をもらう参謀】【口の中をいじめる歯医者】 【独占欲で使用人をいじめる王様】 【無自覚Sがトイレを我慢させる】 【召喚された勇者は魔術師の性癖(ケモ耳)に巻き込まれる】 【勝手にイくことを許さない許嫁】 【胸の敏感なところだけでいかせたいいじめっ子】 【自称Sをしばく女装っ子の部下】 【魔王を公開処刑する勇者】 【酔うとエスになるカテキョ】 【虎視眈々と下剋上を狙うヴァンパイアの眷属】 【貴族坊ちゃんの弱みを握った庶民】 【主人を調教する奴隷】 2022/04/15を持って、こちらの短編集は完結とさせていただきます。 最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。 ーーーーーーーーーーーーーーーーー 前作に ・年下攻め ・いじわるな溺愛攻め ・下剋上っぽい関係 短編集も完結してるで、プロフィールからぜひ!

永遠の快楽

桜小路勇人/舘石奈々
BL
万引きをしたのが見つかってしまい脅された「僕」がされた事は・・・・・ ※タイトル変更しました※ 全11話毎日22時に続話更新予定です

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

どうしようっ…ボク、拓馬くんに襲われちゃった♡

そらも
BL
お隣のお家に住む、年下幼なじみの小学六年生の日高拓馬(ひだかたくま)くんにイロイロされたい♡ 高校二年生の伊波コウ(いなみこう)くん…コウ兄が、頑張って拓馬くんをあの手この手で誘惑しちゃうお話。 この高二男子、どうしようっ…とか微塵も思っておりません(棒) 将来イケメン確実のスポーツ万能元気っこ少年×自分は普通だと思ってるキレイめ中性的お兄さんの幼馴染みカップリングです。 分類はショタ×おにモノになるので、ショタ攻めが苦手な方などいましたら、ご注意ください。 あんまりショタショタしくないかもだけど、どうぞ読んでやってくださいませ。 ※ R-18エロもので、♡(ハート)喘ぎ満載です。 ※ 素敵な表紙は、pixiv小説用フリー素材にて、『やまなし』様からお借りしました。ありがとうございます! ※ 2020/02/15 最終話を迎えました、ここまでコウ兄と拓馬くんの恋話にお付き合いくださり本当にありがとうございました♪   2020/02/16から、その後の二人の番外編・その1をスタートする予定であります♡   2020/02/25 番外編・その1も最終話を迎えました、ここまでお読みくださり感謝感謝であります!

逢瀬はシャワールームで

イセヤ レキ
BL
高飛び込み選手の湊(みなと)がシャワーを浴びていると、見たことのない男(駿琉・かける)がその個室に押し入ってくる。 シャワールームでエロい事をされ、主人公がその男にあっさり快楽堕ちさせられるお話。 高校生のBLです。 イケメン競泳選手×女顔高飛込選手(ノンケ) 攻めによるフェラ描写あり、注意。

処理中です...