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大学帰りのスーパーで夕飯の材料を買う。お目当ては特売品。スーパーの入口付近に置いてあるチラシを持ち、手に持ったカゴにキャベツ、ソーセージ、ひき肉、玉子、醤油などを入れていく。
最初は料理が面倒くさかったが、一人暮らしの貧乏大学生にとって、節約は第一。細かいことは苦手な性分だが、何かしら作っていくうちに次第に苦でなくなって、毎日の日課になった。たまに何も作りたくない日や疲れたときは、カップラーメンやコンビニ弁当、総菜などで済ますこともあるが、ほぼ毎日自炊だ。
店内を見回りながら最後に牛乳をカゴに入れて、これでいくらになるか頭で計算しながらレジに並ぶと、会計をしていた年配の男性とレジの女性が何やら揉めている。
このレジに並ばなければよかったと一瞬頭を掠めたが、隣の並んでいる人の後ろに並び直すのも面倒くさい。
聞こえてくる話は、年配の男性のただのいちゃもんだ。女性はひたすら謝っている。
「すいません。俺、急いでるんですけど」
俺は二人の間に割りいるように声を張り上げた。
困惑気な女性とギラギラした目で睨みつけている男性の視線がこちらを向いても、俺は平然と受け止めてレジ台の上にカゴを置く。
さらに年配の男性が言おうとしたのを見計らって、俺は聞こえるように呟いた。
「値段が気に入らないなら、他の店行けばいいじゃん。そんなことでグダグダ言って困らせてんじゃねえよ」
年配の男性は顔を真っ赤にしてお金を払うと、憤慨したまま行ってしまった。
レジの女性は明らかにほっとした様子で笑顔を見せる。
「いらっしゃいませ。ごめんなさいね、お待たせして」
何度もこの店を利用しているので、女性の名前こそ知らないが面識はある。
「いえ、大丈夫です」
言葉少な気に返して値段が表示されるディスプレイを見ていると「助けてくれてありがとう」と小さな声で感謝された。
別に助けようと思ってしたわけではないので、照れくささを隠すように帽子を深く被りなおした。
会計を終えてそそくさと店を出ると、綺麗な夕日が空に広がっている。
明日も晴れるかもしれない、そんな気分で帰路につく。
ところがそんな清々しい気分は、アパートに着くなり、一瞬で掻き消えた。
部屋に入ろうとした俺の耳に、幽霊でも見たかのような男の悲鳴が聞こえたのである。
ついで、ドッタンバッタンと慌ただしい音がアパートの外まで響いた後、隣室から男が慌てた様子で飛び出してきた。
靴も履かず裸足のまま飛び出るなり尻もちをついた男は、怯えた様子で部屋の中を凝視している。
今の物音で不審に思った住人がぞろぞろと集まってきて「何があった?」とか「どうした?」とか、男に訊く。
男は部屋の中を見つめたまま、ゆっくりと指をさした。
そこにいたのは、かさかさと動く五センチほどの黒い生物、ゴキブリだった。
最初は料理が面倒くさかったが、一人暮らしの貧乏大学生にとって、節約は第一。細かいことは苦手な性分だが、何かしら作っていくうちに次第に苦でなくなって、毎日の日課になった。たまに何も作りたくない日や疲れたときは、カップラーメンやコンビニ弁当、総菜などで済ますこともあるが、ほぼ毎日自炊だ。
店内を見回りながら最後に牛乳をカゴに入れて、これでいくらになるか頭で計算しながらレジに並ぶと、会計をしていた年配の男性とレジの女性が何やら揉めている。
このレジに並ばなければよかったと一瞬頭を掠めたが、隣の並んでいる人の後ろに並び直すのも面倒くさい。
聞こえてくる話は、年配の男性のただのいちゃもんだ。女性はひたすら謝っている。
「すいません。俺、急いでるんですけど」
俺は二人の間に割りいるように声を張り上げた。
困惑気な女性とギラギラした目で睨みつけている男性の視線がこちらを向いても、俺は平然と受け止めてレジ台の上にカゴを置く。
さらに年配の男性が言おうとしたのを見計らって、俺は聞こえるように呟いた。
「値段が気に入らないなら、他の店行けばいいじゃん。そんなことでグダグダ言って困らせてんじゃねえよ」
年配の男性は顔を真っ赤にしてお金を払うと、憤慨したまま行ってしまった。
レジの女性は明らかにほっとした様子で笑顔を見せる。
「いらっしゃいませ。ごめんなさいね、お待たせして」
何度もこの店を利用しているので、女性の名前こそ知らないが面識はある。
「いえ、大丈夫です」
言葉少な気に返して値段が表示されるディスプレイを見ていると「助けてくれてありがとう」と小さな声で感謝された。
別に助けようと思ってしたわけではないので、照れくささを隠すように帽子を深く被りなおした。
会計を終えてそそくさと店を出ると、綺麗な夕日が空に広がっている。
明日も晴れるかもしれない、そんな気分で帰路につく。
ところがそんな清々しい気分は、アパートに着くなり、一瞬で掻き消えた。
部屋に入ろうとした俺の耳に、幽霊でも見たかのような男の悲鳴が聞こえたのである。
ついで、ドッタンバッタンと慌ただしい音がアパートの外まで響いた後、隣室から男が慌てた様子で飛び出してきた。
靴も履かず裸足のまま飛び出るなり尻もちをついた男は、怯えた様子で部屋の中を凝視している。
今の物音で不審に思った住人がぞろぞろと集まってきて「何があった?」とか「どうした?」とか、男に訊く。
男は部屋の中を見つめたまま、ゆっくりと指をさした。
そこにいたのは、かさかさと動く五センチほどの黒い生物、ゴキブリだった。
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