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伝え合った想い
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「寒くはないか?」
今まで黙っていた為純がタクシーを降りた瞬間、俺を気遣うように声をかける。
「あ、大丈……」
俺が言う前に為純はジャケットを脱いで俺の肩にかける。「ありがとう」とお礼を言うと、為純は黙って頷いた。
「ここ……」
目の前には高層マンションがそびえたっている。メンバーの間で、もっと稼げばいつかは高層マンションに住めるかなあ、という話題があがったりするが、やっと売れはじめたばかりで、未だ実現には遠い。そんな場所に来ることだって滅多にない。
「俺が暮らしているマンションだ」
為純は俺たちが羨むものをすでに手にしていた。車のときも思ったが、もう驚きはしない。
どうして急に為純のマンションへ来たのか不安になる。
為純と付き合っているふりをしている間、いつも会ったり来たりするのは俺のマンションだった。為純のマンションには来たこともないし、足を踏み入れたこともない。場所も知らない。
話をするなら来たことがある俺のマンションのほうがいいだろうし……それとも俺の部屋にはもう来たくないのだろうか?
不安に思いながら為純の後に続く。
高級ホテルかと思えるような明るくて広い清潔なエントランスを抜けて、エレベーターにたどり着く。今更ながら俺たちが手にしていないものをすでに手にしている為純は、比べ物にならないほど稼いでいるのだと思い知る。
エレベーターに乗り、広い廊下を歩いて、一番奥のドアの前にたどり着いた。
ドアを開けた為純は俺を先に促した。
「お邪魔します」
靴を脱いであがると為純が靴を脱ぐのを待ってから廊下を歩いていく。
日当たりのいいリビングは本当に広い。そこで、ふとあることに気づいた。モデルルームのように物が少なく、生活臭がまったくしない。あるのはテレビくらいで、ソファもラグもテーブルもゴミ箱すらなかった。ここで本当に暮らしているのか? と思うような生活感のなさだった。
「はじめて人を入れた」
「誰も来たことはないのか?」
こんな所に住んでいるなら俳優仲間や噂になった女性など連れ込んでもおかしくはないのに、意外だった。
「ない。俺も寝に帰るだけだからな」
いきなり為純は俺と向き合うと、落ちくぼんだ目を伏せて項垂れた。
「すまなかった……」
謝られるとは思ってもみなかった。俺は息を呑んで為純のつむじを見つめる。元々悪かったのでは俺のほうで謝られる理由はない。でも、謝罪してきたのは悪いことをしたと自覚している。たとえば、浮気は本当だったとか。いや、俺と付き合っているわけでもないから、この場合浮気でもなんでもない。ただ俺以外の人と交際していたというだけだ。
だとしたら、俺はここにいるわけにはいかない。これ以上の謝罪は必要ないし、聞きたくなかった。
「酷いことを言った。それなのに、行理は俺を信じてくれた」
続けられた言葉に、俺は止めていた息をゆっくりと吐いた。
「為純はそんな奴じゃないってわかってたから」
「マネージャーだって最初信じてくれなかったのに、行理だけは俺の味方だった。裏切ったと責めた俺を突き放すこともなく、ただ信じてくれた。それが……本当に嬉しかった。心強かった。そう思う一方で、いつだって誠実な行理に冷たい対応をしたと後悔した」
ぽつりぽつりと話す声まで暗く沈んでいて、会えなかった間、どれだけ苦しんでいたのかわかった。
「会いたかった。声が聞きたかった。色々なことを話したかった」
そこまで言って言葉を切ると、為純は目線を上げて俺の目をしっかりと見る。そして、何度も右手を上げて俺に触れようとして「抱きしめたかった」と囁いた。
一心に見つめる為純の目に紛れもない愛情と、らしくない怯えを見てとって、俺は泣きそうなほど切なくなる。
触れていいのに、抱きしめてもいいのに、それすら戸惑う為純は、いつもの強引さはなくどっちに行けばいいのか迷う子供のように戸惑っている。
「俺のほうこそ、騙してごめん。オメガだってこと黙ってて……許されることじゃないって理解してても、好きだったから言えなかった。嫌われるのが怖かった。本当にごめんなさい」
為純の手にそっと触れると、俺は深く深く頭を下げた。すると、息も止まるような強さでぎゅっと抱きしめられた。
「俺も好きだ」
「為純……」
「謝罪は必要ない。俺も好きだから傷ついた。でも、あのとき行理を信じるべきだったと反省している」
「いいんだ。為純は悪くないんだから」
腕を伸ばし抱き返して、首を横に振る。
「俺のせいで色々混乱させただろ? 体調だって……本当に大丈夫なのか?」
急に体を離した為純は俺の頭からつま先までつぶさに見つめる。
「うん。休養が必要だって言われたけど、この通り、元気だよ」
笑って丈夫な振りを装ったが、為純の顔は曇る。
「くれぐれも無理はしないでくれ」
あまりにも心配そうに言うから俺は優しく笑って、そっと凭れる。
「今回のことで無理は禁物だって思い知った」
「俺のせいなんだろ? 記事に載った話は全部嘘だ。キスもしてないしホテルにも行ってない。ただ、本当に苛々してて、記者とかうざったくて、口を開けば暴言が出そうだったから無視してた。今度、ちゃんと事実無根だと抗議する。それと……」
為純は俺の肩を掴んで、きちんと向き合う。
「好きなんだ。離れたくない。ちゃんと付き合いたい。ドライブだって連れていきたいし、星も見に行きたい。一緒に眠りたい」
真面目に告白されて、照れくささを覚えながらも大きく頷いた。
「好きな相手から言われて、これほど嬉しい言葉はないよ。俺のほうこそ、為純の側にいたい。ずっと抱きしめたかったんだ。ただ……ドライブとか星とか……まあ、うん……ロマンチックだもんな。いつか一緒に行こう」
見つめ合ってどちらからともなく唇を重ねる。ついばむように撫でるように触れた唇は次第に熱を帯びて舌を絡め合った。
くらくらしてきて、少しペースを落としたくて、ゆっくりと息を吐きながら間近で見る為純の顔に目を留める。
「すごい目の下のくま。いい男が台無し」
両手で包み込むように為純の頬に手を当てる。
「眠れなかった……」
ため息交じりの声の中に辛さが見えたような気がした。
「仕事は?」
「明日の朝京都に戻る」
「矢田さんも?」
「ああ、いらないって言ったのにな。ついてくるってきかなかった」
「矢田さん、いい人じゃん。あんま邪険にしないであげてよ」
「奴は……どうでもいい。京都の仕事もいいところあと一週間だ。早く帰ってきたい」
「待ってるから」
「ああ」
為純が大きく欠伸をする。目を擦ると俺の肩に額を預けてきたので、頭を優しく撫でる。髪は以前と同じく柔らかかったが、手触りはざらついている。スタイリングされていない洗いっぱなしの髪の質感だった。
何度も何度も夢中になって髪を撫でていると、また為純が欠伸をする。
「寝室どっち?」
訊くと為純が俺の体に腕を回してのろのろと動く。俺も一緒に連れていきたい意志はわかるが、為純の目は虚ろで半分目が閉じかかっている。もちろん、為純が一人で寝たいと言っても、無理やりにでも一緒に眠るつもりだ。
ゆっくりとした動作で寝室に入ると、大きなベッドに二人で倒れこんだ。男二人を受け止めてベッドは軋んだ音をたてたが、びくともしない。それに俺のベッドよりかなり大きい。二人で寝ても余裕の広さだ。
「行理の匂いが好きだ」
為純は、俺の肩口に顔を埋めたままずっと匂いを嗅いでる。
「この匂いを俺のベッドに染みこませたら、永遠寝られる」
「それで俺を連れてきたのかよ?」
揶揄うように言ったが、為純の反応はない。見ると、もう目を完全に閉じている。これはこのまま寝てしまう体勢だとわかって俺も力を抜いて目を閉じる。
その前に、少し気になることを思い出した。
「そういえば、まだ誤解してるかもしれないから言っとくけど、俺のマンションに一緒にいた加賀さんの妹の藍ちゃん。彼女は友人で本当になんでもないから」
彼女から告白されたことは言わないでおく。同級生の恋人とも順調だと言っていたし、完全に過去のことなので言わなくてもいい情報だ。
「一緒のオメガとか言ってたか……」
もごもごとした喋りだったが、ちゃんと聞き取れた。
「そう。彼女は同じバース性で理解者でもあるんだ。励まし合ったり、同じ苦しみを共有したりして、大切な友人であり、仲間でもある。ただ俺の部屋に招き入れたのは軽率だった。ごめん」
「行理が俺を信じているように、俺も信じる。……ことにする。二度目はないからな。いくら俺でも、行理の部屋に他の奴と二人きりでいるとか勘弁してほしい……」
「わかった。二度としない」
きっぱりと約束すると、為純は目を閉じたまま安心したように長い息を吐いた。
それから、ややして為純が小さな声で「俺も行理に言っておきたいことがある」と告げた。
「何?」
「俺は母の子ではあるが、父の子ではない。俺の本当の父は別にいる。母は別の男と浮気をしていてその子供を身籠った。それが俺だ」
為純の出生に関する重大な秘密を明かされて、俺は眠気も吹き飛ぶほど慌てた。
「俺が知ってもいいことなのか?」
「いい。隠しごとはなしだ。因みに俺は両親や親族、すべて縁を切っている。成人して籍も抜けた」
いくら折り合いが悪いとはいえ、血縁者を切るくらいなのだから、よほど腹に据えかねたことがあったのだろうと予想する。もしかしたら、為純が言った言葉……一度裏切ったやつは何度も裏切る……そんなことがあったのかもしれない。なんにせよ、為純が決めて決断したことだ。それを否定したりせずに、ただ受け止めた。
「そうか……」
「だからもう実家とはまったく関係ない」
「うん」
為純が俺の体を引き寄せる。俺も為純に体を寄せた。
服を着たままとか、まだ眠るには早いとか、もっと話をしてたいとか……頭の中に色々と思い浮かんだが、一番の優先順位は為純と一緒に眠ることに他ならない。
為純の体から力が抜けて、穏やかな寝息が聞こえてきた。俺も欠伸をして、気がつくと眠りについていた。
今まで黙っていた為純がタクシーを降りた瞬間、俺を気遣うように声をかける。
「あ、大丈……」
俺が言う前に為純はジャケットを脱いで俺の肩にかける。「ありがとう」とお礼を言うと、為純は黙って頷いた。
「ここ……」
目の前には高層マンションがそびえたっている。メンバーの間で、もっと稼げばいつかは高層マンションに住めるかなあ、という話題があがったりするが、やっと売れはじめたばかりで、未だ実現には遠い。そんな場所に来ることだって滅多にない。
「俺が暮らしているマンションだ」
為純は俺たちが羨むものをすでに手にしていた。車のときも思ったが、もう驚きはしない。
どうして急に為純のマンションへ来たのか不安になる。
為純と付き合っているふりをしている間、いつも会ったり来たりするのは俺のマンションだった。為純のマンションには来たこともないし、足を踏み入れたこともない。場所も知らない。
話をするなら来たことがある俺のマンションのほうがいいだろうし……それとも俺の部屋にはもう来たくないのだろうか?
不安に思いながら為純の後に続く。
高級ホテルかと思えるような明るくて広い清潔なエントランスを抜けて、エレベーターにたどり着く。今更ながら俺たちが手にしていないものをすでに手にしている為純は、比べ物にならないほど稼いでいるのだと思い知る。
エレベーターに乗り、広い廊下を歩いて、一番奥のドアの前にたどり着いた。
ドアを開けた為純は俺を先に促した。
「お邪魔します」
靴を脱いであがると為純が靴を脱ぐのを待ってから廊下を歩いていく。
日当たりのいいリビングは本当に広い。そこで、ふとあることに気づいた。モデルルームのように物が少なく、生活臭がまったくしない。あるのはテレビくらいで、ソファもラグもテーブルもゴミ箱すらなかった。ここで本当に暮らしているのか? と思うような生活感のなさだった。
「はじめて人を入れた」
「誰も来たことはないのか?」
こんな所に住んでいるなら俳優仲間や噂になった女性など連れ込んでもおかしくはないのに、意外だった。
「ない。俺も寝に帰るだけだからな」
いきなり為純は俺と向き合うと、落ちくぼんだ目を伏せて項垂れた。
「すまなかった……」
謝られるとは思ってもみなかった。俺は息を呑んで為純のつむじを見つめる。元々悪かったのでは俺のほうで謝られる理由はない。でも、謝罪してきたのは悪いことをしたと自覚している。たとえば、浮気は本当だったとか。いや、俺と付き合っているわけでもないから、この場合浮気でもなんでもない。ただ俺以外の人と交際していたというだけだ。
だとしたら、俺はここにいるわけにはいかない。これ以上の謝罪は必要ないし、聞きたくなかった。
「酷いことを言った。それなのに、行理は俺を信じてくれた」
続けられた言葉に、俺は止めていた息をゆっくりと吐いた。
「為純はそんな奴じゃないってわかってたから」
「マネージャーだって最初信じてくれなかったのに、行理だけは俺の味方だった。裏切ったと責めた俺を突き放すこともなく、ただ信じてくれた。それが……本当に嬉しかった。心強かった。そう思う一方で、いつだって誠実な行理に冷たい対応をしたと後悔した」
ぽつりぽつりと話す声まで暗く沈んでいて、会えなかった間、どれだけ苦しんでいたのかわかった。
「会いたかった。声が聞きたかった。色々なことを話したかった」
そこまで言って言葉を切ると、為純は目線を上げて俺の目をしっかりと見る。そして、何度も右手を上げて俺に触れようとして「抱きしめたかった」と囁いた。
一心に見つめる為純の目に紛れもない愛情と、らしくない怯えを見てとって、俺は泣きそうなほど切なくなる。
触れていいのに、抱きしめてもいいのに、それすら戸惑う為純は、いつもの強引さはなくどっちに行けばいいのか迷う子供のように戸惑っている。
「俺のほうこそ、騙してごめん。オメガだってこと黙ってて……許されることじゃないって理解してても、好きだったから言えなかった。嫌われるのが怖かった。本当にごめんなさい」
為純の手にそっと触れると、俺は深く深く頭を下げた。すると、息も止まるような強さでぎゅっと抱きしめられた。
「俺も好きだ」
「為純……」
「謝罪は必要ない。俺も好きだから傷ついた。でも、あのとき行理を信じるべきだったと反省している」
「いいんだ。為純は悪くないんだから」
腕を伸ばし抱き返して、首を横に振る。
「俺のせいで色々混乱させただろ? 体調だって……本当に大丈夫なのか?」
急に体を離した為純は俺の頭からつま先までつぶさに見つめる。
「うん。休養が必要だって言われたけど、この通り、元気だよ」
笑って丈夫な振りを装ったが、為純の顔は曇る。
「くれぐれも無理はしないでくれ」
あまりにも心配そうに言うから俺は優しく笑って、そっと凭れる。
「今回のことで無理は禁物だって思い知った」
「俺のせいなんだろ? 記事に載った話は全部嘘だ。キスもしてないしホテルにも行ってない。ただ、本当に苛々してて、記者とかうざったくて、口を開けば暴言が出そうだったから無視してた。今度、ちゃんと事実無根だと抗議する。それと……」
為純は俺の肩を掴んで、きちんと向き合う。
「好きなんだ。離れたくない。ちゃんと付き合いたい。ドライブだって連れていきたいし、星も見に行きたい。一緒に眠りたい」
真面目に告白されて、照れくささを覚えながらも大きく頷いた。
「好きな相手から言われて、これほど嬉しい言葉はないよ。俺のほうこそ、為純の側にいたい。ずっと抱きしめたかったんだ。ただ……ドライブとか星とか……まあ、うん……ロマンチックだもんな。いつか一緒に行こう」
見つめ合ってどちらからともなく唇を重ねる。ついばむように撫でるように触れた唇は次第に熱を帯びて舌を絡め合った。
くらくらしてきて、少しペースを落としたくて、ゆっくりと息を吐きながら間近で見る為純の顔に目を留める。
「すごい目の下のくま。いい男が台無し」
両手で包み込むように為純の頬に手を当てる。
「眠れなかった……」
ため息交じりの声の中に辛さが見えたような気がした。
「仕事は?」
「明日の朝京都に戻る」
「矢田さんも?」
「ああ、いらないって言ったのにな。ついてくるってきかなかった」
「矢田さん、いい人じゃん。あんま邪険にしないであげてよ」
「奴は……どうでもいい。京都の仕事もいいところあと一週間だ。早く帰ってきたい」
「待ってるから」
「ああ」
為純が大きく欠伸をする。目を擦ると俺の肩に額を預けてきたので、頭を優しく撫でる。髪は以前と同じく柔らかかったが、手触りはざらついている。スタイリングされていない洗いっぱなしの髪の質感だった。
何度も何度も夢中になって髪を撫でていると、また為純が欠伸をする。
「寝室どっち?」
訊くと為純が俺の体に腕を回してのろのろと動く。俺も一緒に連れていきたい意志はわかるが、為純の目は虚ろで半分目が閉じかかっている。もちろん、為純が一人で寝たいと言っても、無理やりにでも一緒に眠るつもりだ。
ゆっくりとした動作で寝室に入ると、大きなベッドに二人で倒れこんだ。男二人を受け止めてベッドは軋んだ音をたてたが、びくともしない。それに俺のベッドよりかなり大きい。二人で寝ても余裕の広さだ。
「行理の匂いが好きだ」
為純は、俺の肩口に顔を埋めたままずっと匂いを嗅いでる。
「この匂いを俺のベッドに染みこませたら、永遠寝られる」
「それで俺を連れてきたのかよ?」
揶揄うように言ったが、為純の反応はない。見ると、もう目を完全に閉じている。これはこのまま寝てしまう体勢だとわかって俺も力を抜いて目を閉じる。
その前に、少し気になることを思い出した。
「そういえば、まだ誤解してるかもしれないから言っとくけど、俺のマンションに一緒にいた加賀さんの妹の藍ちゃん。彼女は友人で本当になんでもないから」
彼女から告白されたことは言わないでおく。同級生の恋人とも順調だと言っていたし、完全に過去のことなので言わなくてもいい情報だ。
「一緒のオメガとか言ってたか……」
もごもごとした喋りだったが、ちゃんと聞き取れた。
「そう。彼女は同じバース性で理解者でもあるんだ。励まし合ったり、同じ苦しみを共有したりして、大切な友人であり、仲間でもある。ただ俺の部屋に招き入れたのは軽率だった。ごめん」
「行理が俺を信じているように、俺も信じる。……ことにする。二度目はないからな。いくら俺でも、行理の部屋に他の奴と二人きりでいるとか勘弁してほしい……」
「わかった。二度としない」
きっぱりと約束すると、為純は目を閉じたまま安心したように長い息を吐いた。
それから、ややして為純が小さな声で「俺も行理に言っておきたいことがある」と告げた。
「何?」
「俺は母の子ではあるが、父の子ではない。俺の本当の父は別にいる。母は別の男と浮気をしていてその子供を身籠った。それが俺だ」
為純の出生に関する重大な秘密を明かされて、俺は眠気も吹き飛ぶほど慌てた。
「俺が知ってもいいことなのか?」
「いい。隠しごとはなしだ。因みに俺は両親や親族、すべて縁を切っている。成人して籍も抜けた」
いくら折り合いが悪いとはいえ、血縁者を切るくらいなのだから、よほど腹に据えかねたことがあったのだろうと予想する。もしかしたら、為純が言った言葉……一度裏切ったやつは何度も裏切る……そんなことがあったのかもしれない。なんにせよ、為純が決めて決断したことだ。それを否定したりせずに、ただ受け止めた。
「そうか……」
「だからもう実家とはまったく関係ない」
「うん」
為純が俺の体を引き寄せる。俺も為純に体を寄せた。
服を着たままとか、まだ眠るには早いとか、もっと話をしてたいとか……頭の中に色々と思い浮かんだが、一番の優先順位は為純と一緒に眠ることに他ならない。
為純の体から力が抜けて、穏やかな寝息が聞こえてきた。俺も欠伸をして、気がつくと眠りについていた。
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