人気俳優と恋に落ちたら

山吹レイ

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これからのこと

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「これは本当にまずい」
 事務所に戻って来て、心配するメンバーと別れ、俺は加賀とこれからの対策を練ることになった。
「あのくそ男、よくもこんなこと……」
 普段とは違い、口汚く為純を罵る加賀は、本当に怒り心頭といった様子で壁を強く叩く。
 対して俺は、どこか他人事のような気分……というよりは、妙に冷静な気持ちで記事を読んだ。
 柏原為純は、京都にて、正月放送予定の時代劇の共演者である男性俳優と親しげに抱き合いキスをして、ホテル街へ消えて行ったというものだった。一夜を供に過ごす仲とまで書かれていて、恋人である冬木行理と二股かと騒がれている。
 一応写真も数枚載せてあるが、あまり鮮明ではなくても一目で為純とわかる。対して相手は今売り出し中の若手俳優で、自らをオメガだと公表している男性だとわかった。多分矢田が言っていた男性だろう。
 俺はもう為純とは関係ない。為純が俺のことをマスコミには言っていない理由はわからないが、疎遠でいれば、いずれはばれるだろうし、言わなくてもそのまま自然消滅していくだろう。
 そのときを待つこともできた。もしくは、俺との関係は終わったとはっきり告げれば、少なくとも二股とか悪くは書かれないはずなのに、どこか不自然にも感じる。
「行理との関係も曖昧なまま、他の人と浮気をするなんて……本当に信用ならない男だ」
 俺は黙って数枚の写真を眺める。キスシーンにしては少し角度が悪い。キスをしているとはっきり映っているわけでもなく、ただ顔が重なっているようにも見えるし、為純の表情も強張っているようにも見える。
「しかもオメガの男性とか行理へのあてつけか?」
 加賀の怒りは収まらずに為純への不満が爆発している。
「行理まで飛び火するのは確実だし、こっちの都合なんて考えていないのは相変わらずだ」
「俺はどうすればいいでしょうか?」
 明日は、とある企業のポータブルオーディオプレイヤーの新作発表会に、アンバサダーとして登壇する予定がある。記者も集まるし当然訊かれるだろう。
「無言を貫こう。何も喋らなくていいよ。俺たちが止めに入るから安心して」
 写真を見つめたまま、為純の姿を指でなぞる。自然に目に入ってくる情報は仕方がないが、あえて為純のニュースなど辛いので見ないようにしていた。
「その前に為純側から何かあるでしょうか?」
「どうだろうな……」
 もしかしたら、為純にとって今回もたいしたことじゃないと考えているかもしれない。矢田は心労のあまり疲れ切っていなければいいが……と考えていると、携帯電話にこの間連絡先を交換した矢田から『助けてくれ~』と泣き顔のスタンプが送られてくる。
「矢田さん……」
「奴のマネージャーとやりとりをしているのか?」
 呟くと、加賀がむっとした表情になった。
「この間会ったときに交換したんです」
「あまりかかわってほしくない。こうなった以上本気で縁を切りたいよ」
「矢田さんも大変らしいですよ」
「知ったこっちゃない。そっちからまいた種だ」
 加賀の態度はつれない。それだけ、為純のことも矢田のことも信用していないのだ。
『為純は彼との関係を完全に否定している。何人かで飲みに行ったのに、わざと二人だけでいるところを写真に撮られたらしい。もちろんキスもしてないし、ホテル街にも行っていない』
 このことを加賀に伝えると「どうだか」と疑心暗鬼だ。
『なるべく行理くんに迷惑をかけないようにするけど、ごめんよ』
 本来なら、為純が言わなければならない言葉を矢田から言われるとは、なんとも変な感じだ。
『俺のほうはなんとかなります。心配しないでください』
 そう連絡したあと『為純にも……』と途中まで文字を打って、やめて消した。矢田に言ったところでどうにもならない。
「また、メンバーにも迷惑かけてしまいます」
「それも行理の責任じゃないんだから気にしないように。悪いのはあっちなんだから」
 加賀は俺の目を見て、諭すように付け足した。
「それから、あまり一人で出歩かないように。週刊誌なんかはそういうときを狙って訊きにくる可能性がある」
「わかりました」
 ネットでも為純の二股騒動はあっという間に広がりをみせて、トップニュースとして扱われている。
 数時間前にあげた俺の個人SNSの写真付きのコメントにも、心配する声が届いていた。表立って為純を非難する声はないが、それでも恋多き為純との交際に関して、こうなることは予想していたと書かれているものもある。
「送って行くよ。明日も迎えに行くから」
「いえ、大丈夫です」
「当分そうしてほしい。心配なんだ」
 そこまで言われると折れるしかなく、俺は頭を下げる。
「……わかりました。お世話になります」
「うん」
 こんなことがあっても為純からの連絡はない。つまり、俺は蚊帳の外で、本当にもう何も関係ないのだ。
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