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クマと猟犬(番外編)
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季節は八月。夏休みに入り、昴は昼からパソコンで銃の売買をしている業者の裏サイトを見ていた。
貴昭にベレッタM92MFを取り上げられてしまったため、昴の手元には今のところ本物の銃はない。
貴昭が昴に返すつもりはないのがわかっているので、こうやって未練がましくサイトを閲覧しているのだが、もう二度と買うことはできないだろう。
前は昴の戸籍上の祖父のクレジットカードで買うことができたが、銃の所持がばれて以来、大目玉をくらい、カードが使えなくなってしまったのだ。
もちろん、昴の小遣いなどで買える金額ではない。
苦労して手に入れたM9を使ったのは一度きり、しかも銃弾は当たらず、手と肩に鈍い痺れだけを残した。
だが、昴と伊摘の命を救う大きな役割をしてくれたのも事実だ。
あの一件以後、昴は前よりもっと銃が欲しくなった。
銃は使わなくても持っているだけで効果があるとわかったからだ。
昴の戸籍上の祖父……直次郎はヤクザの重役で、色々と身の危険がある。
まさかそれが自分にまで及ぶとは考えたこともなかったが、先日、昴と伊摘は襲われ殺されかけた。
昴はヤクザとはなんの関係もなく、直次郎と血が繋がっているわけでもない。
戸籍上は祖父と孫という関係だが、言ってしまえば、ただ一緒に暮らしているだけの他人行儀な繋がりだ。それなのに襲われた。
それは貴昭に恨みを持つ者の犯行だったが、ヤクザが身近にいることの危険をまじまじと感じた瞬間だった。
奇跡的にたいした怪我もなく助かったが、もしあのとき銃を持っていなければ、もし貴昭が来るのが遅かったらと考えると、背筋が寒くなる。
そう、生きてはいなかっただろう。
もっと自分の身を守れるものが欲しかった。そして伊摘を守れる術をも。
前はもう死んでもいいと思っていたが、今は死ぬことがなんとなく怖い。
母親もおらず、頼る人もいない昴だったが、伊摘のような人が側にいるなら……いてくれるなら、生きてみてもいいかなと思えるようになった。
伊摘はかなり変わった大人だ。
建前だけで、上辺だけで、腫れ物に触るかのように近づいてくる大人とはかなり違う。
かといって、突き放して、知らん顔しているわけでもない。
ごく自然体で昴と接する。
昴が立ち向かっていっても、きちんと受け止めてくれるし、説教じみたことも言うけれど、学校の先生とは違い優しさがある。
それに、誰も昴の話など聞いてくれないのに、伊摘は熱心に聞いてくれた。逆に、質問しても言葉を濁さす、正直に答えてくれる奇特な人だった。
貴昭のことですら隠さない。
その正直さにかなり面食らったものだ。
相変わらず、人生は世知辛く、ヤクザ関係者というだけで人々は昴を避けたが、それは伊摘の立場も同じ。聞けば、伊摘はヤクザではなく堅気だというから驚いた。
ただ、昴のクラスメイトは皆かかわらないようにしているのに対し、伊摘の周りはほとんどがヤクザで染まっているため、誰も伊摘のことを指差して陰口を叩くような人はいない。
それが幸いなのか災いなのか昴にはよくわからないが、昴のように避けられていないのは、まあ……いいことなのだろう。
それに伊摘の側にはクマのような大男が側で牙を剥いて見張っているため、誰も手出しできない。
愛されて守られている伊摘が憎らしく思えたこともあったが、それも今は当然のような気がしてくるのだから、昴も伊摘の優しさに感化されている証拠だろう。
ふと部屋の中を風が走り、風鈴がチリリンと音を立てる。
温い風が額や首筋にべたついた髪を攫った。
風鈴の音だけを聞けば涼しく思えるが、それも一瞬のこと。
だだっ広い庭に生えている木々に張り付いている蝉たちの大合唱がすぐにかき消す。
部屋の中だけでも三十度を越しているのだから、扇風機で風を送ろうが、うちわで扇ごうが、暑さは変わらない。
この古い大きな屋敷にはクーラーがないのだから、しょうがない。
昴の顎から汗がポツリと落ち、半ズボンに吸い込まれていく。
「あっちい……」
呟き、昴はブラウザを消して、パソコンの電源を落とした。
直次郎の部屋よりかなり遠い昴の部屋は、人が来ることは滅多にないのでいつも静かだ。
パソコンの起動音がなくなっただけで、部屋の中は妙な静けさに包まれる。
外からは蝉の声だけだ。
昴はタンクトップをはためかせて、開けっ放しにしている障子から真っ青な空を見上げた。
三十度越えの真夏日がこうも連日続くとうんざりしてくる。
部屋にこもってしまうのも、出かけるのが億劫だからだ。
不意に昴の携帯電話が机の上で震えた。
昴には電話がかかってくる相手は限られている。
携帯電話を手に取り画面を見ると、案の定、それは伊摘からの電話だった。
「もしもし」
耳に押し当てて喋ると、電話の向こうから涼しげな声が聞こえる。
『昴? 伊摘だけど』
「ああ」
昴は短く返事をして、畳の上に仰向けに寝転んだ。
だるい返事に、電話の向こうの声が苦笑する。
『今日の夜、花火があるんだけど、一緒に行かない?』
「花火?」
昴は畳の上で涼しい場所を探してうつ伏せになる。
それでもやはり暑かった。
『あ、誰かと行く予定ある?』
「ないけど……」
『じゃあ、行こう』
伊摘の声が嬉しそうに弾む。
昴と一緒に行くことに喜びを感じている声に、これだから断れないんだよな……と伊摘に聞こえないように口の中だけで呟く。
それに花火など随分久しぶりだった。
母親が生きていた頃は何度か行ったことがある。
「いいよ、何時にどこで待ち合わせ? それとも俺そっち迎えに行けばいい?」
伊摘は待ち合わせ場所と時間を言った。
そこまで聞いてから、ふと昴は気がついた。
「もしかして貴昭も行く?」
『行くよ』
昴はがっかりして肩を落とす。
「じゃあ、俺邪魔だろ。遠慮したほうがいんじゃねえ?」
『昴と一緒に行きたいから連絡したんだよ。おいで』
促すように言う伊摘の口調は優しく、行ってもいいような気になるから不思議だ。
ただ貴昭が行くというのなら、なんとなく遠慮したほうがよさそうだ。
「でもさー、貴昭も一緒なら俺明らかに邪魔だろ」
『貴昭のことは気にしなくていいから』
そこまで言うなら承諾するしかない。
「……わかった。行く」
昴の声に、伊摘の微笑む声が聞こえた。
『待ってるから』
「うん」
電話を切ると、なんともいえない気持ちがこみ上げる。
甘酸っぱい、胸を突くような、悲しみに似た幸福感。
昴は空を見上げ、頭を振った。
楽しんでもいいんだよな? 生きていてもいいんだよな? 死んだ母親のことを思い、昴は空に問いかけた。
せっかく出かけるのだから、少し早めに出て本屋にでも行こうか……と考えていたとき、昴の部屋に紙袋を手にした嶋が現れた。
嶋がこの部屋を訪れるのは随分久しぶりだ。しかも、いつもスーツでいるはずの嶋がなぜか浴衣を着ていた。
急に音もなく急に現れた嶋に一瞬反応が遅れたが、すぐに昴はむっつりとした顔を作り、乱暴に言う。
「なにしに来たんだよ」
昔はそれなりに仲がよかったが、嶋とは喧嘩をして以来、ろくに話もしてない。
嶋は昴の言葉が聞こえていないように勝手に昴の部屋の中に入ると、畳の上に膝を折って座り、紙袋からなにやら衣服を取り出した。
「これに着替えろ」
嶋が広げた衣服は、灰色の生地に赤い金魚が泳いでいる涼しげな浴衣だった。
「なんで浴衣なんか着なきゃならないんだよ」
言い返すと、嶋はゆっくりと顔を上げて昴を見つめる。
眼鏡の奥の冷たい瞳は動揺の欠片もなく、冷静で感情がまるで見えない。
昔はよくこんな嶋を慕っていたと思う。
それでも昴の側には母親以外誰も頼る人がいなかったので、新しい父親よりも昴の側にいた嶋に懐いていくのは必然だった。
嶋は昴の側によく一緒にいてくれた。勉強もみてくれたし、遊んでもくれた。
今も嫌いではないのだ、多分。
ただ許せないだけで。
睨みつける昴に、一瞬嶋の瞳の奥に、ふと昔を懐かしむような小さな笑みが過ぎる。
「昴のために若頭が特別に誂えたものだ。伊摘さんも着てくると言っていた」
嶋の思いがけない表情と言われた言葉に、昴は純粋に驚く。
「じい……ちゃんが……?」
そう呼ぶのはまだ抵抗があるが、この間直次郎に怒られたときに『あんた』呼ばわりして頬を引っ叩かれた。
直次郎は昴に関心がないと思っていたが、あの一件以降、ちょくちょく口を出してくる。
それが結構うざったいのだ。
「面倒くさいし……いいよ……」
断る言葉に迷いが生じたのは、直次郎がせっかく誂えてくれたものを着ないでいることに罪悪感を覚えたから……ではない。
「せっかく作ってくれたものだ。一度も袖を通さないのはもったいない」
昴と喧嘩したことなど忘れたかのように、なんの蟠りもなく話をしてくる嶋に、昴は苛々する。
「なんで嶋も浴衣なんだよ」
「俺も行くからに決まってる」
「なんで!?」
なぜ、嶋と一緒に行かなければならないのかわからない。
昴が一人で出歩くのを今も禁止しているが、一人で歩いていくのも伊摘と貴昭の待ち合わせの場所までの少しの間だ。それほど遠い場所ではない。
それに待ち合わせの場所まで行けば、伊摘と貴昭の側には護衛がいるだろう。
「組長が俺にも来いと声をかけた」
それを聞いて昴は激しく納得した。
昴の子守役として、貴昭は嶋にも声をかけたのだ。
「なるほどな……貴昭はちゃんと策を講じてたんだ。なら俺行かない」
伊摘に誘われて嬉しかった気持ちが、急に裏切られたような思いでいっぱいになり、胸の中がどす黒く変わっていく。
昴が行かなければ、嶋も行くことはなく、貴昭の機嫌を損なわずに済む。
貴昭の機嫌など悪くなったところで痛くも痒くもないが、すべてが丸く収まるなら行かないほうがいいと思った。
だが嶋は、相変わらず落ち着いた表情で昴を見つめる。
「伊摘さんを悲しませてもいいのか?」
それを言われると、胸が痛い。
あの優しい瞳が残念そうに翳り、落ちこんだ様子を思い浮かべるだけで、かなり気分が悪くなった。
「伊摘さんは、昴と一緒に花火に行くことを楽しみにしている」
嶋の罪悪感に訴える言い方が気に食わなかったが、確かに行ったほうがいいという気になる。
折れるのはかなり癪だが、昴はぶっきらぼうに頷いて言った。
「……わかったよ、着るよ。着てけばいんだろ?」
嶋はほっとした顔をして、袋の中から帯も取り出し、浴衣を手に立ち上がる。
「自分で着る」
「着れるのか?」
訊かれ、わからないとは言えずに、むっつりと口を噤む。
するとそれを察した嶋が促した。
「ほら、脱げ」
昴は嶋の言いなりになるしかない自分に腹が立ちながらも、服を脱ぐ。
下着姿一枚になったところで、嶋が昴の肩に浴衣を着せた。
さらりとした布の肌触りは、ざらつきもなく、シャワーを浴びた後の汗をもほどよく吸い取り、肌にべとつかない。
手で触れてみても、その辺にある既製品とは明らかに違うとわかる。
嶋は慣れた手つきで昴に浴衣を着せ、帯を巻き、後ろで結んだ。
立ち上がった嶋に、昴は言いたくなさそうにまごつきながらも「ありがとう」と礼を言った。
「どういたしまして」
昴に礼を言われたことなど、あまり気にしていないような自然な言い方に、嶋を許せないとずっと引き摺っていた自分が馬鹿に思える。
嶋は気にしていないのだろうか。
昴の母親のことで喧嘩し、絶交同然になってしまった昴のことなど。
それもなんだか悔しくて、むかっ腹が立つ。
「嶋」
昴は唇をかみ締めて、嶋を睨みつけた。
嶋は前と同じ感情の見えない眼差しを昴に向けた。
腹立たしさに、嶋の名を呼んだものの、どうこの苛立ちをぶつければいいのかわからず昴は逡巡する。
すると、嶋は目を伏せ「すまなかった」と謝ってきた。
それは間違いなく、数年前の喧嘩で自らが悪いと思っての謝罪だった。
まさか嶋が謝ってくるとは思わず、昴は口を半開きにしたまま驚いて目を瞬かせる。
嶋のほうがずっと悪いと思っていた。
だからあっちから謝ってこない限り、口も利きたくないとすら思っていたのに、このばつの悪さはなんなのだろう。
子供じみた我がままで意地を張っていた自分こそが悪いような気がしてくる。
思えば昴も嶋に酷いことをたくさん言った。
それなのに、嶋ばかりに謝らせて、昴は一言も謝っていない。
「もう、いい。お、俺も悪かったんだし」
昴は顔を赤らめてそっぽ向き、口早に喋った。
すると、妙な沈黙がおり、その沈黙の重さと面映さに、昴は耐えられなくなった。
「嶋、もう行くぞ」
昴はドスドスと足音も荒く部屋を出て行く。
その後をついていく嶋の口元に穏やかな笑みが浮かんでいた。
待ち合わせの橋まで来ると、浴衣を着た女性やカップルがたくさん歩いていた。
かなり混雑していたが、伊摘と貴昭はすぐ見つかった。
背の高い貴昭はどこにいてもわかる。
欄干に凭れていた貴昭が昴を見つけ、ここからでは見えないが多分伊摘だろう……口を動かし話かけている。
すると、貴昭の隣で、ぴょこぴょこと飛び跳ねる伊摘が目に入った。
昴を見て手を振ったので、昴も人目を気にしつつ手を振り返す。
伊摘も浴衣だと言っていたが、貴昭も浴衣だった。
通りすがりの浴衣を着た女性たちが、伊摘に吸い寄せられるように目を向け、そして隣の大男を見るなり慌てて視線をそらす。
貴昭の持つ独特の目つきの悪さと、堅気ではないと一目でわかる身に纏う荒々しさに、普通の女性が怖気づくのも無理はない。
「昴」
側まで来ると、伊摘は優しく微笑んだ。そして、背後にいる嶋を見て「すみません、つき合わせてしまって」と頭を下げる。
「こういうときでないと、花火など見れませんから」
嶋は昴が見たこともないような優しい笑みを浮かべて、伊摘と話していた。
ふと伊摘の手に相応しくないウサギのキャラクターのうちわがあるのに気づいた。
「なにそのうちわ」
「来る途中でもらった。昴にあげるよ」
「……いい。伊摘のほうが似合ってんじゃん」
貴昭は伊摘の腰を抱くと、ゆっくりと歩き出した。
その後を昴と嶋がついていく。
男四人で花火などかなり不毛だ。
ただ、前を歩く貴昭と伊摘の姿が、いちゃついている異性のカップル以上に熱々な雰囲気なので、前の二人には男四人という概念がまったくないのだとわかる。
隣を歩く嶋を見れば、浴衣を着ていてもスーツでいるときと同様、周りを注意深く見回していて、まるで仕事モード。伊摘と貴昭の様子を気にしているふうはない。
昴だけが男四人でいるのを気にしていた。
昴に可愛い彼女でもいれば状況は違っただろうが、あいにく彼女はいないし興味がない。
伊摘はときどき後ろを振り返り、昴と嶋に話しかけてきた。
てっきり自分の存在が邪魔かと思っていれば、四人でいてもとても寛いで楽しんでいる伊摘を見て、本当に昴を誘いたかったのだと知る。
昴も通路にたくさん並んでいる出店を見ているうちに、男だけで歩いていることなど気にならなくなっていた。
伊摘がするりと貴昭の腕を抜け、昴の手を引いて歩き出す。
「昴、たこ焼き食べたくない?」
「食べる」
昴が即答すると伊摘は昴の手を繋いだまま、たこ焼きの出店の前に行き、四つ頼んだ。
後ろから札を指に挟んだ太い腕がにゅいっと前に出される。
どうやら貴昭が支払ってくれるらしい。
たこ焼きとお釣りを受け取ると、伊摘は今度は違う出店の前に行く。
そして次から次へと食べたいものを買っていっては、貴昭に支払いをさせ、荷物もちは嶋へとなっていった。
伊摘と昴が先を行く後ろで、貴昭と嶋が並んでついてくる。
案外あの二人はああ見えて波長が合うのだ。
いきなり小さな男の子が貴昭に突進してぶつかった。
「あ? どこのガキだ?」
貴昭が上から見つめると、男の子は見る見るうちに顔を歪めて泣き出した。
「うわーん、ママ……ママ!」
伊摘が男の子の側にしゃがみ、髪を撫でてあやす。
「もしかして迷子?」
周りを見回すが、誰もが無関心に通り過ぎていく。
子供の親らしき人の姿はない。
「貴昭が怖かったから泣き出したんじゃない?」
昴が言うと、伊摘は小さく笑った。
「それもあるかも。君、どこから来たの?」
伊摘が優しく話しかけるが、男の子は泣きじゃくり何も答えない。
すると、伊摘は男の子を抱き上げて、安心させるように揺らし「大丈夫だよ、すぐ見つかるからね」と優しく声をかけた。
「俺はなにもしてねえだろ」
貴昭がふて腐れたように呟く。
男の子はまだ泣いていたので、伊摘は「いちご飴食べる?」と出店を指差して男の子に訊いた。
すると男の子は大粒の涙を流したまま、伊摘を見上げ大きく頷く。
「じゃあ、買ってあげる」
伊摘は男の子を抱いたままいちご飴を三つ買ってきて、一つを男の子に一つを昴に差し出した。
「俺も?」
戸惑いつつ、昴はいちご飴をもらい、どうしようかと悩む。
辛いものは大好物だが、甘いものは苦手なので、ほとんど食べない。
嶋に差し出してみたが首を振られたので、昴は仕方なく舐めてみた。
甘いがいちごの風味がどこか懐かしさを感じる。
意外にもおいしく思え、串に刺さったいちご飴を口の中に入れて噛んで食べた。
残りの一つは伊摘が自分で食べていて、先ほどまで泣いていた男の子と一緒に笑いあっている。
ついさっきまで泣いていたのが嘘のようだ。
「ちょっと貸せ」
貴昭がいきなり男の子を伊摘から抱き上げ、肩の上に乗せた。
肩車された男の子は驚いて貴昭の頭にしがみついたが、すぐ笑い声をあげて喜んだ。
「すごーい、たかーい!!」
男の子は興奮した様子で体を前後に揺らし、貴昭の頭をぴたぴたと叩く。
その姿に、伊摘は吹き出して笑った。昴もおかしくて声をあげて笑う。
「叩くな。涎を垂らすんじゃねえぞ」
貴昭は顔を顰めつつも男の子の足をしっかりと持ち、周囲を見回すようにぐるりと一周する。
いきなり男の子が指を差し、声を張り上げた。
「ママー!!」
昴のところからでは見えないが、貴昭の肩の上という誰よりも高い場所にいる男の子にはよく見えるらしい。
「尊!」
一人の女性が貴昭の元に駆けつける。
貴昭が肩の上から男の子を下ろすと、男の子はすぐにその女性に向かって走っていく。
「ママ!」
女性は男の子をしっかりと抱きしめ、貴昭を見上げた。
「すみませんでした」
貴昭の大きさと迫力に怯えるように女性は頭を下げる。
その様子に素早く伊摘が前に出ると、女性に優しく笑いかけた。
「本当にすみません、目を離した隙にいなくなってしまって……」
安心させるような笑みを浮かべている伊摘を見て、女性はほっと安堵したようだった。
伊摘が笑みを浮かべるだけで、どの女性もつられるように笑み、ときとして見惚れることもある。
「見つかってよかった」
伊摘が笑みを深くすると、女性は次第にその症状を見せ始めた。
貴昭がすぐに察して、伊摘に立ち去るよう腰を抱いて促す。
「それじゃ」
伊摘が軽くお辞儀をして、男の子に手を振る。
すると男の子も元気に手を振り返した。女性は「ありがとうございました」と深く頭を下げた。
その後もぷらぷらと出店を見て回ったが、時間が迫ってきたので、飲み物を買い、そろそろ会場へ行こうという話になった。
だが、前を歩く貴昭と伊摘が向かったのは会場からかなり離れた誰もいない静かな河川敷だった。
電柱の明かりの下、コンクリートの階段に四人は横になって腰を下ろす。
両脇を貴昭と嶋が、その中に伊摘と昴が座った。
「ここに来るのも随分久しぶりだな」
貴昭の言葉に伊摘が頷く。
「十年ぶりだ」
「伊摘とどこにいって何をするのも全部十年ぶりか……」
昴は、感慨深げに話す貴昭と伊摘の横顔を見つめる。
伊摘は十年間北海道で暮らしていたと言っていた。
それが何か関係しているのだろうか。
訊きたかったが、二人は互いの思い出に浸っていて、声をかける雰囲気ではない。
嶋が無言で昴にラムネを差し出した。
昴はラムネを受け取り、たこ焼きも差し出されたので、素直に受け取る。
大人しく飲んで食えという意味なのだろう。
腹も減ったし、喉も渇いたのでちょうどいい。
昴はたこ焼きを食べて、ラムネを飲もうとして手に持ち……困ったように目の前で振った。
ラムネなど一度も飲んだことがない。
しかもこの瓶の上の部分には透明な丸いガラス玉が入っていて、ますます困惑する。
「どうやって飲むんだ?」
なんのためのガラス玉なのか、そしてどうやって飲むのかわからず呟くと、伊摘が笑って訊いた。
「飲んだことない?」
「ない」
伊摘は昴の手を凸型の蓋のような器具の上に乗せた。
「上の蓋を押すようにして下げて……」
レクチャーされるままに押すと、勢いよくガラス玉が下がり、瓶の中が泡立って中身が溢れてきた。
「うわっ……零れ……」
慌てて瓶を持った手を前に出したが、思った以上に中から炭酸が溢れてくる。
「結構溢れるから気をつけて」
「もっと早く言え。うわっ、手べとべと」
濡れた手を振り、瓶を傾けて一口飲んでみる。
中に入ったガラス玉がカランカランと涼しげな音を立てて、傾けた口の方に下ってくる。
結構甘い。
ソーダよりも甘く、しかもガラス玉が邪魔で飲みにくい。
「どう?」
伊摘に感想を聞かれても、なんとも答えようがなく、昴は半分ほど残ったラムネを伊摘に差し出した。
「やる」
伊摘は苦笑して受け取り、昴が口をつけて飲んだ瓶に躊躇いもなく口をつけて飲んだ。
その仕草に一瞬どきっとする。
「甘いな」
飲み干して、感想を述べた伊摘は空になった瓶を階段の一段低くなったところに置いた。
じっと伊摘を見ていた自分に気づき、昴は我に返る。
「伊摘さん、ビール飲みますか?」
嶋が缶ビールを手に昴の前を越して腕を伸ばした。
「あ、俺はいいです。貴昭に」
伊摘はビールを受け取り、隣の貴昭に渡す。
「食べ物は?」
「食べます。前ごめん、昴」
昴の目の前をたこ焼きや焼きそばフランクフルトなどの食べ物が何度も移動する。
割り箸を割って焼きそばを食べる伊摘に、ビールを飲みながら貴昭が口を開いた。
伊摘がしょうがないといった顔をして、貴昭に焼きそばを食べさせている。
伊摘に甘えるような貴昭の仕草に、自分で食えと言いたい。まったく、ガキはどっちだ。
見ていられないほど熱々な二人に、昴は呆れて、空に目をやった瞬間だった。
大きな音と共に色とりどりの花火が右手に次々とあがる。
「うわっ」
伊摘が歓声をあげた。
昴も息を呑み、花火を見つめた。
空にあがっては瞬く間に消えていく花火は、儚くも力強い。
隣の嶋も魅入られたように空を見上げている。
「またここで花火を見られるとは思わなかったな……」
伊摘の呟きに昴が空から伊摘に目を向けると、貴昭に腰を抱かれた伊摘が貴昭の肩に額を乗せていた。
甘い雰囲気に、昴は無言で嶋を肘でどついた。
嶋が伊摘と貴昭を見て、それから昴を見て軽く頷き、気を利かせ二人から離れた場所に座った。
昴も伊摘から離れ、嶋の隣に座る。
二人の時間を邪魔するほど無粋ではない。
次々とあがる花火に目を奪われながら、昴は空に手を伸ばした。
掴めそうで決して掴むことができない花火は、母親と一緒に過ごした時間と似ている。
幸せで楽しかった時間がすぐ消えてなくなってしまう。
ただ、あの時間はもう二度と取り戻すことはできないけれど、昴は今一人ではない。
こうして花火を一緒に見るような人が回りにいる。
儚い時間を一緒に過ごしてくれる相手がいるのだ。
それを『不幸』とは言わない。
幸せだと感じた瞬間など一度もない昴だったが、もしかしたらこうやって穏やかに過ごす今このときを『幸せ』というのかもしれない。
次の日、昴はこっそりと持ち帰ったラムネの瓶を石で割り、中身のガラス玉を取り出した。
日の光に翳すと、青いガラス玉は光に揺れて、美しく煌く。
昴は、夏の思い出を閉じこめるようにガラス玉を見つめ、そっと机の引き出しの中にしまった。
貴昭にベレッタM92MFを取り上げられてしまったため、昴の手元には今のところ本物の銃はない。
貴昭が昴に返すつもりはないのがわかっているので、こうやって未練がましくサイトを閲覧しているのだが、もう二度と買うことはできないだろう。
前は昴の戸籍上の祖父のクレジットカードで買うことができたが、銃の所持がばれて以来、大目玉をくらい、カードが使えなくなってしまったのだ。
もちろん、昴の小遣いなどで買える金額ではない。
苦労して手に入れたM9を使ったのは一度きり、しかも銃弾は当たらず、手と肩に鈍い痺れだけを残した。
だが、昴と伊摘の命を救う大きな役割をしてくれたのも事実だ。
あの一件以後、昴は前よりもっと銃が欲しくなった。
銃は使わなくても持っているだけで効果があるとわかったからだ。
昴の戸籍上の祖父……直次郎はヤクザの重役で、色々と身の危険がある。
まさかそれが自分にまで及ぶとは考えたこともなかったが、先日、昴と伊摘は襲われ殺されかけた。
昴はヤクザとはなんの関係もなく、直次郎と血が繋がっているわけでもない。
戸籍上は祖父と孫という関係だが、言ってしまえば、ただ一緒に暮らしているだけの他人行儀な繋がりだ。それなのに襲われた。
それは貴昭に恨みを持つ者の犯行だったが、ヤクザが身近にいることの危険をまじまじと感じた瞬間だった。
奇跡的にたいした怪我もなく助かったが、もしあのとき銃を持っていなければ、もし貴昭が来るのが遅かったらと考えると、背筋が寒くなる。
そう、生きてはいなかっただろう。
もっと自分の身を守れるものが欲しかった。そして伊摘を守れる術をも。
前はもう死んでもいいと思っていたが、今は死ぬことがなんとなく怖い。
母親もおらず、頼る人もいない昴だったが、伊摘のような人が側にいるなら……いてくれるなら、生きてみてもいいかなと思えるようになった。
伊摘はかなり変わった大人だ。
建前だけで、上辺だけで、腫れ物に触るかのように近づいてくる大人とはかなり違う。
かといって、突き放して、知らん顔しているわけでもない。
ごく自然体で昴と接する。
昴が立ち向かっていっても、きちんと受け止めてくれるし、説教じみたことも言うけれど、学校の先生とは違い優しさがある。
それに、誰も昴の話など聞いてくれないのに、伊摘は熱心に聞いてくれた。逆に、質問しても言葉を濁さす、正直に答えてくれる奇特な人だった。
貴昭のことですら隠さない。
その正直さにかなり面食らったものだ。
相変わらず、人生は世知辛く、ヤクザ関係者というだけで人々は昴を避けたが、それは伊摘の立場も同じ。聞けば、伊摘はヤクザではなく堅気だというから驚いた。
ただ、昴のクラスメイトは皆かかわらないようにしているのに対し、伊摘の周りはほとんどがヤクザで染まっているため、誰も伊摘のことを指差して陰口を叩くような人はいない。
それが幸いなのか災いなのか昴にはよくわからないが、昴のように避けられていないのは、まあ……いいことなのだろう。
それに伊摘の側にはクマのような大男が側で牙を剥いて見張っているため、誰も手出しできない。
愛されて守られている伊摘が憎らしく思えたこともあったが、それも今は当然のような気がしてくるのだから、昴も伊摘の優しさに感化されている証拠だろう。
ふと部屋の中を風が走り、風鈴がチリリンと音を立てる。
温い風が額や首筋にべたついた髪を攫った。
風鈴の音だけを聞けば涼しく思えるが、それも一瞬のこと。
だだっ広い庭に生えている木々に張り付いている蝉たちの大合唱がすぐにかき消す。
部屋の中だけでも三十度を越しているのだから、扇風機で風を送ろうが、うちわで扇ごうが、暑さは変わらない。
この古い大きな屋敷にはクーラーがないのだから、しょうがない。
昴の顎から汗がポツリと落ち、半ズボンに吸い込まれていく。
「あっちい……」
呟き、昴はブラウザを消して、パソコンの電源を落とした。
直次郎の部屋よりかなり遠い昴の部屋は、人が来ることは滅多にないのでいつも静かだ。
パソコンの起動音がなくなっただけで、部屋の中は妙な静けさに包まれる。
外からは蝉の声だけだ。
昴はタンクトップをはためかせて、開けっ放しにしている障子から真っ青な空を見上げた。
三十度越えの真夏日がこうも連日続くとうんざりしてくる。
部屋にこもってしまうのも、出かけるのが億劫だからだ。
不意に昴の携帯電話が机の上で震えた。
昴には電話がかかってくる相手は限られている。
携帯電話を手に取り画面を見ると、案の定、それは伊摘からの電話だった。
「もしもし」
耳に押し当てて喋ると、電話の向こうから涼しげな声が聞こえる。
『昴? 伊摘だけど』
「ああ」
昴は短く返事をして、畳の上に仰向けに寝転んだ。
だるい返事に、電話の向こうの声が苦笑する。
『今日の夜、花火があるんだけど、一緒に行かない?』
「花火?」
昴は畳の上で涼しい場所を探してうつ伏せになる。
それでもやはり暑かった。
『あ、誰かと行く予定ある?』
「ないけど……」
『じゃあ、行こう』
伊摘の声が嬉しそうに弾む。
昴と一緒に行くことに喜びを感じている声に、これだから断れないんだよな……と伊摘に聞こえないように口の中だけで呟く。
それに花火など随分久しぶりだった。
母親が生きていた頃は何度か行ったことがある。
「いいよ、何時にどこで待ち合わせ? それとも俺そっち迎えに行けばいい?」
伊摘は待ち合わせ場所と時間を言った。
そこまで聞いてから、ふと昴は気がついた。
「もしかして貴昭も行く?」
『行くよ』
昴はがっかりして肩を落とす。
「じゃあ、俺邪魔だろ。遠慮したほうがいんじゃねえ?」
『昴と一緒に行きたいから連絡したんだよ。おいで』
促すように言う伊摘の口調は優しく、行ってもいいような気になるから不思議だ。
ただ貴昭が行くというのなら、なんとなく遠慮したほうがよさそうだ。
「でもさー、貴昭も一緒なら俺明らかに邪魔だろ」
『貴昭のことは気にしなくていいから』
そこまで言うなら承諾するしかない。
「……わかった。行く」
昴の声に、伊摘の微笑む声が聞こえた。
『待ってるから』
「うん」
電話を切ると、なんともいえない気持ちがこみ上げる。
甘酸っぱい、胸を突くような、悲しみに似た幸福感。
昴は空を見上げ、頭を振った。
楽しんでもいいんだよな? 生きていてもいいんだよな? 死んだ母親のことを思い、昴は空に問いかけた。
せっかく出かけるのだから、少し早めに出て本屋にでも行こうか……と考えていたとき、昴の部屋に紙袋を手にした嶋が現れた。
嶋がこの部屋を訪れるのは随分久しぶりだ。しかも、いつもスーツでいるはずの嶋がなぜか浴衣を着ていた。
急に音もなく急に現れた嶋に一瞬反応が遅れたが、すぐに昴はむっつりとした顔を作り、乱暴に言う。
「なにしに来たんだよ」
昔はそれなりに仲がよかったが、嶋とは喧嘩をして以来、ろくに話もしてない。
嶋は昴の言葉が聞こえていないように勝手に昴の部屋の中に入ると、畳の上に膝を折って座り、紙袋からなにやら衣服を取り出した。
「これに着替えろ」
嶋が広げた衣服は、灰色の生地に赤い金魚が泳いでいる涼しげな浴衣だった。
「なんで浴衣なんか着なきゃならないんだよ」
言い返すと、嶋はゆっくりと顔を上げて昴を見つめる。
眼鏡の奥の冷たい瞳は動揺の欠片もなく、冷静で感情がまるで見えない。
昔はよくこんな嶋を慕っていたと思う。
それでも昴の側には母親以外誰も頼る人がいなかったので、新しい父親よりも昴の側にいた嶋に懐いていくのは必然だった。
嶋は昴の側によく一緒にいてくれた。勉強もみてくれたし、遊んでもくれた。
今も嫌いではないのだ、多分。
ただ許せないだけで。
睨みつける昴に、一瞬嶋の瞳の奥に、ふと昔を懐かしむような小さな笑みが過ぎる。
「昴のために若頭が特別に誂えたものだ。伊摘さんも着てくると言っていた」
嶋の思いがけない表情と言われた言葉に、昴は純粋に驚く。
「じい……ちゃんが……?」
そう呼ぶのはまだ抵抗があるが、この間直次郎に怒られたときに『あんた』呼ばわりして頬を引っ叩かれた。
直次郎は昴に関心がないと思っていたが、あの一件以降、ちょくちょく口を出してくる。
それが結構うざったいのだ。
「面倒くさいし……いいよ……」
断る言葉に迷いが生じたのは、直次郎がせっかく誂えてくれたものを着ないでいることに罪悪感を覚えたから……ではない。
「せっかく作ってくれたものだ。一度も袖を通さないのはもったいない」
昴と喧嘩したことなど忘れたかのように、なんの蟠りもなく話をしてくる嶋に、昴は苛々する。
「なんで嶋も浴衣なんだよ」
「俺も行くからに決まってる」
「なんで!?」
なぜ、嶋と一緒に行かなければならないのかわからない。
昴が一人で出歩くのを今も禁止しているが、一人で歩いていくのも伊摘と貴昭の待ち合わせの場所までの少しの間だ。それほど遠い場所ではない。
それに待ち合わせの場所まで行けば、伊摘と貴昭の側には護衛がいるだろう。
「組長が俺にも来いと声をかけた」
それを聞いて昴は激しく納得した。
昴の子守役として、貴昭は嶋にも声をかけたのだ。
「なるほどな……貴昭はちゃんと策を講じてたんだ。なら俺行かない」
伊摘に誘われて嬉しかった気持ちが、急に裏切られたような思いでいっぱいになり、胸の中がどす黒く変わっていく。
昴が行かなければ、嶋も行くことはなく、貴昭の機嫌を損なわずに済む。
貴昭の機嫌など悪くなったところで痛くも痒くもないが、すべてが丸く収まるなら行かないほうがいいと思った。
だが嶋は、相変わらず落ち着いた表情で昴を見つめる。
「伊摘さんを悲しませてもいいのか?」
それを言われると、胸が痛い。
あの優しい瞳が残念そうに翳り、落ちこんだ様子を思い浮かべるだけで、かなり気分が悪くなった。
「伊摘さんは、昴と一緒に花火に行くことを楽しみにしている」
嶋の罪悪感に訴える言い方が気に食わなかったが、確かに行ったほうがいいという気になる。
折れるのはかなり癪だが、昴はぶっきらぼうに頷いて言った。
「……わかったよ、着るよ。着てけばいんだろ?」
嶋はほっとした顔をして、袋の中から帯も取り出し、浴衣を手に立ち上がる。
「自分で着る」
「着れるのか?」
訊かれ、わからないとは言えずに、むっつりと口を噤む。
するとそれを察した嶋が促した。
「ほら、脱げ」
昴は嶋の言いなりになるしかない自分に腹が立ちながらも、服を脱ぐ。
下着姿一枚になったところで、嶋が昴の肩に浴衣を着せた。
さらりとした布の肌触りは、ざらつきもなく、シャワーを浴びた後の汗をもほどよく吸い取り、肌にべとつかない。
手で触れてみても、その辺にある既製品とは明らかに違うとわかる。
嶋は慣れた手つきで昴に浴衣を着せ、帯を巻き、後ろで結んだ。
立ち上がった嶋に、昴は言いたくなさそうにまごつきながらも「ありがとう」と礼を言った。
「どういたしまして」
昴に礼を言われたことなど、あまり気にしていないような自然な言い方に、嶋を許せないとずっと引き摺っていた自分が馬鹿に思える。
嶋は気にしていないのだろうか。
昴の母親のことで喧嘩し、絶交同然になってしまった昴のことなど。
それもなんだか悔しくて、むかっ腹が立つ。
「嶋」
昴は唇をかみ締めて、嶋を睨みつけた。
嶋は前と同じ感情の見えない眼差しを昴に向けた。
腹立たしさに、嶋の名を呼んだものの、どうこの苛立ちをぶつければいいのかわからず昴は逡巡する。
すると、嶋は目を伏せ「すまなかった」と謝ってきた。
それは間違いなく、数年前の喧嘩で自らが悪いと思っての謝罪だった。
まさか嶋が謝ってくるとは思わず、昴は口を半開きにしたまま驚いて目を瞬かせる。
嶋のほうがずっと悪いと思っていた。
だからあっちから謝ってこない限り、口も利きたくないとすら思っていたのに、このばつの悪さはなんなのだろう。
子供じみた我がままで意地を張っていた自分こそが悪いような気がしてくる。
思えば昴も嶋に酷いことをたくさん言った。
それなのに、嶋ばかりに謝らせて、昴は一言も謝っていない。
「もう、いい。お、俺も悪かったんだし」
昴は顔を赤らめてそっぽ向き、口早に喋った。
すると、妙な沈黙がおり、その沈黙の重さと面映さに、昴は耐えられなくなった。
「嶋、もう行くぞ」
昴はドスドスと足音も荒く部屋を出て行く。
その後をついていく嶋の口元に穏やかな笑みが浮かんでいた。
待ち合わせの橋まで来ると、浴衣を着た女性やカップルがたくさん歩いていた。
かなり混雑していたが、伊摘と貴昭はすぐ見つかった。
背の高い貴昭はどこにいてもわかる。
欄干に凭れていた貴昭が昴を見つけ、ここからでは見えないが多分伊摘だろう……口を動かし話かけている。
すると、貴昭の隣で、ぴょこぴょこと飛び跳ねる伊摘が目に入った。
昴を見て手を振ったので、昴も人目を気にしつつ手を振り返す。
伊摘も浴衣だと言っていたが、貴昭も浴衣だった。
通りすがりの浴衣を着た女性たちが、伊摘に吸い寄せられるように目を向け、そして隣の大男を見るなり慌てて視線をそらす。
貴昭の持つ独特の目つきの悪さと、堅気ではないと一目でわかる身に纏う荒々しさに、普通の女性が怖気づくのも無理はない。
「昴」
側まで来ると、伊摘は優しく微笑んだ。そして、背後にいる嶋を見て「すみません、つき合わせてしまって」と頭を下げる。
「こういうときでないと、花火など見れませんから」
嶋は昴が見たこともないような優しい笑みを浮かべて、伊摘と話していた。
ふと伊摘の手に相応しくないウサギのキャラクターのうちわがあるのに気づいた。
「なにそのうちわ」
「来る途中でもらった。昴にあげるよ」
「……いい。伊摘のほうが似合ってんじゃん」
貴昭は伊摘の腰を抱くと、ゆっくりと歩き出した。
その後を昴と嶋がついていく。
男四人で花火などかなり不毛だ。
ただ、前を歩く貴昭と伊摘の姿が、いちゃついている異性のカップル以上に熱々な雰囲気なので、前の二人には男四人という概念がまったくないのだとわかる。
隣を歩く嶋を見れば、浴衣を着ていてもスーツでいるときと同様、周りを注意深く見回していて、まるで仕事モード。伊摘と貴昭の様子を気にしているふうはない。
昴だけが男四人でいるのを気にしていた。
昴に可愛い彼女でもいれば状況は違っただろうが、あいにく彼女はいないし興味がない。
伊摘はときどき後ろを振り返り、昴と嶋に話しかけてきた。
てっきり自分の存在が邪魔かと思っていれば、四人でいてもとても寛いで楽しんでいる伊摘を見て、本当に昴を誘いたかったのだと知る。
昴も通路にたくさん並んでいる出店を見ているうちに、男だけで歩いていることなど気にならなくなっていた。
伊摘がするりと貴昭の腕を抜け、昴の手を引いて歩き出す。
「昴、たこ焼き食べたくない?」
「食べる」
昴が即答すると伊摘は昴の手を繋いだまま、たこ焼きの出店の前に行き、四つ頼んだ。
後ろから札を指に挟んだ太い腕がにゅいっと前に出される。
どうやら貴昭が支払ってくれるらしい。
たこ焼きとお釣りを受け取ると、伊摘は今度は違う出店の前に行く。
そして次から次へと食べたいものを買っていっては、貴昭に支払いをさせ、荷物もちは嶋へとなっていった。
伊摘と昴が先を行く後ろで、貴昭と嶋が並んでついてくる。
案外あの二人はああ見えて波長が合うのだ。
いきなり小さな男の子が貴昭に突進してぶつかった。
「あ? どこのガキだ?」
貴昭が上から見つめると、男の子は見る見るうちに顔を歪めて泣き出した。
「うわーん、ママ……ママ!」
伊摘が男の子の側にしゃがみ、髪を撫でてあやす。
「もしかして迷子?」
周りを見回すが、誰もが無関心に通り過ぎていく。
子供の親らしき人の姿はない。
「貴昭が怖かったから泣き出したんじゃない?」
昴が言うと、伊摘は小さく笑った。
「それもあるかも。君、どこから来たの?」
伊摘が優しく話しかけるが、男の子は泣きじゃくり何も答えない。
すると、伊摘は男の子を抱き上げて、安心させるように揺らし「大丈夫だよ、すぐ見つかるからね」と優しく声をかけた。
「俺はなにもしてねえだろ」
貴昭がふて腐れたように呟く。
男の子はまだ泣いていたので、伊摘は「いちご飴食べる?」と出店を指差して男の子に訊いた。
すると男の子は大粒の涙を流したまま、伊摘を見上げ大きく頷く。
「じゃあ、買ってあげる」
伊摘は男の子を抱いたままいちご飴を三つ買ってきて、一つを男の子に一つを昴に差し出した。
「俺も?」
戸惑いつつ、昴はいちご飴をもらい、どうしようかと悩む。
辛いものは大好物だが、甘いものは苦手なので、ほとんど食べない。
嶋に差し出してみたが首を振られたので、昴は仕方なく舐めてみた。
甘いがいちごの風味がどこか懐かしさを感じる。
意外にもおいしく思え、串に刺さったいちご飴を口の中に入れて噛んで食べた。
残りの一つは伊摘が自分で食べていて、先ほどまで泣いていた男の子と一緒に笑いあっている。
ついさっきまで泣いていたのが嘘のようだ。
「ちょっと貸せ」
貴昭がいきなり男の子を伊摘から抱き上げ、肩の上に乗せた。
肩車された男の子は驚いて貴昭の頭にしがみついたが、すぐ笑い声をあげて喜んだ。
「すごーい、たかーい!!」
男の子は興奮した様子で体を前後に揺らし、貴昭の頭をぴたぴたと叩く。
その姿に、伊摘は吹き出して笑った。昴もおかしくて声をあげて笑う。
「叩くな。涎を垂らすんじゃねえぞ」
貴昭は顔を顰めつつも男の子の足をしっかりと持ち、周囲を見回すようにぐるりと一周する。
いきなり男の子が指を差し、声を張り上げた。
「ママー!!」
昴のところからでは見えないが、貴昭の肩の上という誰よりも高い場所にいる男の子にはよく見えるらしい。
「尊!」
一人の女性が貴昭の元に駆けつける。
貴昭が肩の上から男の子を下ろすと、男の子はすぐにその女性に向かって走っていく。
「ママ!」
女性は男の子をしっかりと抱きしめ、貴昭を見上げた。
「すみませんでした」
貴昭の大きさと迫力に怯えるように女性は頭を下げる。
その様子に素早く伊摘が前に出ると、女性に優しく笑いかけた。
「本当にすみません、目を離した隙にいなくなってしまって……」
安心させるような笑みを浮かべている伊摘を見て、女性はほっと安堵したようだった。
伊摘が笑みを浮かべるだけで、どの女性もつられるように笑み、ときとして見惚れることもある。
「見つかってよかった」
伊摘が笑みを深くすると、女性は次第にその症状を見せ始めた。
貴昭がすぐに察して、伊摘に立ち去るよう腰を抱いて促す。
「それじゃ」
伊摘が軽くお辞儀をして、男の子に手を振る。
すると男の子も元気に手を振り返した。女性は「ありがとうございました」と深く頭を下げた。
その後もぷらぷらと出店を見て回ったが、時間が迫ってきたので、飲み物を買い、そろそろ会場へ行こうという話になった。
だが、前を歩く貴昭と伊摘が向かったのは会場からかなり離れた誰もいない静かな河川敷だった。
電柱の明かりの下、コンクリートの階段に四人は横になって腰を下ろす。
両脇を貴昭と嶋が、その中に伊摘と昴が座った。
「ここに来るのも随分久しぶりだな」
貴昭の言葉に伊摘が頷く。
「十年ぶりだ」
「伊摘とどこにいって何をするのも全部十年ぶりか……」
昴は、感慨深げに話す貴昭と伊摘の横顔を見つめる。
伊摘は十年間北海道で暮らしていたと言っていた。
それが何か関係しているのだろうか。
訊きたかったが、二人は互いの思い出に浸っていて、声をかける雰囲気ではない。
嶋が無言で昴にラムネを差し出した。
昴はラムネを受け取り、たこ焼きも差し出されたので、素直に受け取る。
大人しく飲んで食えという意味なのだろう。
腹も減ったし、喉も渇いたのでちょうどいい。
昴はたこ焼きを食べて、ラムネを飲もうとして手に持ち……困ったように目の前で振った。
ラムネなど一度も飲んだことがない。
しかもこの瓶の上の部分には透明な丸いガラス玉が入っていて、ますます困惑する。
「どうやって飲むんだ?」
なんのためのガラス玉なのか、そしてどうやって飲むのかわからず呟くと、伊摘が笑って訊いた。
「飲んだことない?」
「ない」
伊摘は昴の手を凸型の蓋のような器具の上に乗せた。
「上の蓋を押すようにして下げて……」
レクチャーされるままに押すと、勢いよくガラス玉が下がり、瓶の中が泡立って中身が溢れてきた。
「うわっ……零れ……」
慌てて瓶を持った手を前に出したが、思った以上に中から炭酸が溢れてくる。
「結構溢れるから気をつけて」
「もっと早く言え。うわっ、手べとべと」
濡れた手を振り、瓶を傾けて一口飲んでみる。
中に入ったガラス玉がカランカランと涼しげな音を立てて、傾けた口の方に下ってくる。
結構甘い。
ソーダよりも甘く、しかもガラス玉が邪魔で飲みにくい。
「どう?」
伊摘に感想を聞かれても、なんとも答えようがなく、昴は半分ほど残ったラムネを伊摘に差し出した。
「やる」
伊摘は苦笑して受け取り、昴が口をつけて飲んだ瓶に躊躇いもなく口をつけて飲んだ。
その仕草に一瞬どきっとする。
「甘いな」
飲み干して、感想を述べた伊摘は空になった瓶を階段の一段低くなったところに置いた。
じっと伊摘を見ていた自分に気づき、昴は我に返る。
「伊摘さん、ビール飲みますか?」
嶋が缶ビールを手に昴の前を越して腕を伸ばした。
「あ、俺はいいです。貴昭に」
伊摘はビールを受け取り、隣の貴昭に渡す。
「食べ物は?」
「食べます。前ごめん、昴」
昴の目の前をたこ焼きや焼きそばフランクフルトなどの食べ物が何度も移動する。
割り箸を割って焼きそばを食べる伊摘に、ビールを飲みながら貴昭が口を開いた。
伊摘がしょうがないといった顔をして、貴昭に焼きそばを食べさせている。
伊摘に甘えるような貴昭の仕草に、自分で食えと言いたい。まったく、ガキはどっちだ。
見ていられないほど熱々な二人に、昴は呆れて、空に目をやった瞬間だった。
大きな音と共に色とりどりの花火が右手に次々とあがる。
「うわっ」
伊摘が歓声をあげた。
昴も息を呑み、花火を見つめた。
空にあがっては瞬く間に消えていく花火は、儚くも力強い。
隣の嶋も魅入られたように空を見上げている。
「またここで花火を見られるとは思わなかったな……」
伊摘の呟きに昴が空から伊摘に目を向けると、貴昭に腰を抱かれた伊摘が貴昭の肩に額を乗せていた。
甘い雰囲気に、昴は無言で嶋を肘でどついた。
嶋が伊摘と貴昭を見て、それから昴を見て軽く頷き、気を利かせ二人から離れた場所に座った。
昴も伊摘から離れ、嶋の隣に座る。
二人の時間を邪魔するほど無粋ではない。
次々とあがる花火に目を奪われながら、昴は空に手を伸ばした。
掴めそうで決して掴むことができない花火は、母親と一緒に過ごした時間と似ている。
幸せで楽しかった時間がすぐ消えてなくなってしまう。
ただ、あの時間はもう二度と取り戻すことはできないけれど、昴は今一人ではない。
こうして花火を一緒に見るような人が回りにいる。
儚い時間を一緒に過ごしてくれる相手がいるのだ。
それを『不幸』とは言わない。
幸せだと感じた瞬間など一度もない昴だったが、もしかしたらこうやって穏やかに過ごす今このときを『幸せ』というのかもしれない。
次の日、昴はこっそりと持ち帰ったラムネの瓶を石で割り、中身のガラス玉を取り出した。
日の光に翳すと、青いガラス玉は光に揺れて、美しく煌く。
昴は、夏の思い出を閉じこめるようにガラス玉を見つめ、そっと机の引き出しの中にしまった。
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ありがとうございます。
アムネーシス 離れられない番から流れて来ました。
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アムネーシスもお読みくださり嬉しく思います。
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書きながら、貴昭と伊摘のやりとりに私も何度にやっとしたことか…^^
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