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雪のように、とけていく(後編)
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長い夢を見ていた。
もう十年も前に過ぎ去った幸せな夢を。
伊摘は泣いていた。
夢を見ながら泣いていたのだ。
はらはらと涙を流し、シーツがないベッドに顔を押しつける。
あの頃には戻れない。
戻りようがない。
自分から、あの逞しい信頼できる愛で満たされた手を手放したのだから。
涙を拭い、誰もいない部屋を、目を眇めて見つめる。
朝が来たのだ。
湿っぽくどろどろになった毛布は、慰めのように伊摘の裸体にかけられていた。
体は金縛りにでもあったかのように動かない。
だが、力をこめただけで、引き攣った痛みを発した場所から溢れ出た気配に「ああ」と悲痛な声をあげて、再び泣いた。
貴昭に犯されたのだ。
十年ぶりに再会したかつて愛した男に強姦されたという事実に、悲しくて切なくて、伊摘は涙を流した。
昔はとても優しかった。
セックスですら伊摘を傷つけることは決してなかった。
十年という長い月日が変えたのか、それとも伊摘がいなくなったせいで変わってしまったのか、今ではもう推し量ることはできない。
ただ貴昭は逃げた伊摘を許さないだろうと思った。
だから強姦したのだと。
伊摘はベッドにうつ伏せになったまま首だけをめぐらした。
気づかなかったが、この部屋は十年前と同じ、伊摘と貴昭が一緒に過ごしていた部屋だった。
あの頃となにもかもが同じ配置のまま、伊摘がいつ来てもいいように……まるで待っていたかのように、そのままだった。
決して裏切ったわけじゃない。
愛する男のため、伊摘は離れたのだ。
それは間違いだったのだろうか。
抱きしめる逞しい腕を思い出し、泣きながら一人寝を我慢したあの日々は無駄だったのだろうか。
夢で貴昭の面影を追い、何度抱きしめて欲しいと願ったか、愛して欲しいと希ったか。
伊摘は貴昭を愛したことが間違いだと思っていない。貴昭から愛されたことが許されないことだと思っていない。
二人はとても幸せだったから。
ただ、貴昭の側近たちが伊摘をよく思っていないことは知っていた。
遊びなら許せたものを、男と本気で恋愛をしている貴昭に、伊摘のことを邪魔者だと誰もが思っていただろう。
そう……金を与え可愛がるだけの、かえのきく愛人なら誰もが見て見ぬ振りをした。
それを、唯一無二の恋人として扱ったのだから、次期組長の名に傷がつくと思ったのだ。
そして、伊摘は排除された。
伊摘が組の金を持って逃げたと思いこんでいる貴昭は、本当の理由を知らないままに。
それなら、伊摘はこの部屋から一刻も早く立ち去るだけだ。
今更未練のようにしつこく貴昭に付き纏おうとは思わない。
貴昭にとって理由など知らないほうがいい。まして貴昭は皆から「組長」と呼ばれていた。組長……貴昭がめでたく組長になったのなら、伊摘が離れたかいがある。
たとえ、貴昭が未だに伊摘に執着したとしても、ここから立ち去るべきだった。
伊摘はさらに溢れそうになる涙を必死で耐えた。
自分がもっとも愛し、信頼していた男。その男から誤解されたままでも、強姦されたとしても恨むことはできない。
それは今でも愛しているから。心底愛し、無事で生きてくれることを祈っているから。
伊摘は気を奮い立たせて、意地で立ち上がろうとした。
「あっ、ふっ……くそっ……」
だが伊摘はベッドから落ちて悪態をついた。
フローリングは冷たく、僅かな高さでも落ちた痛みが全身に広がる。
「あっ……」
またあらぬ場所から貴昭の放った精液が流れ落ちる。
何度出されたのかわからないほど、犯され広げられた穴は、未だに痙攣を繰り返しては白濁を吐き出そうとしている。
伊摘は涙を乱暴に拭い、食いしばると、立ち上がることもできずに這って動いた。
泥のついたコートもスーツも切り刻まれて、着られるような状態ではない。
伊摘はばらばらになったスーツのポケットから携帯電話を見つけようとした。
朝一で帰るはずの飛行機には多分間に合わない。
この状態で歩けるとも思わない。
あるはずの携帯電話を見つけられず焦る。
ストラップには大事にしていたものをつけてある。
もし落としていたとしたらと思うと気が気ではない。
もしや鞄に入ったままだろうかと考えたが、拉致された際、鞄を手に持っていなかったことを思い出して蒼白になった。
あれには大事な取引先の契約の書類も入っている。
「ちくしょう……」
伊摘は床を這い、どこかに電話はないか探そうとする。
とりあえず会社に電話して、飛行機に乗れなかったことを伝え、それから……。
「あなたに塩をまくべきでしょうか」
はっとして伊摘は顔をあげた。
誰かがいるとは思わなかった。
ドアの前でじっと佇み伊摘を見ていた、眼鏡をかけたこの男の名は嶋基樹。貴昭の側近の男だ。
そして、十年前、伊摘に金を渡し去るように言った男でもある。
「ナメクジでも、もう少し可愛げがあるでしょうに」
伊摘が這ったところが、溢れ流れた貴昭の精液のせいで、まるでナメクジが歩いた場所のように道ができていた。
「どうして東京に戻ってきたんですか? 二度と戻らない約束です」
伊摘はこの男が嫌いだった。
それでも従ったのは全部貴昭のためを思ってのこと。
「そんな約束した覚えはない。俺は出張で来ただけだ。明日……じゃない今日朝一の飛行機で帰る予定だった」
掠れた声で一気に喋ったせいで、伊摘はひどく咳きこんだ。
「私はそれを信じませんよ。どうやって仕組んだんです? わざと組長と偶然ばったり会うような真似をして、下種なことしますね。反吐が出る」
吐き捨てた嶋の言葉に愕然とする。偶然出会ったことを仕組んだなどと思う腹黒さに怒りがこみ上げる。
「仕組んだりしてない! 偶然会っただけだ。俺はこのまま北海道に帰る。それで問題はないはずだ」
このまま東京を去ることしかできない悔しさに、唇を噛み締める。
嶋は疑いの眼差しで問う。
「二度と組長とは会わない?」
「貴昭とは二度と会わない」
またこの苦い言葉を言う羽目になるとは思ってもみなかった。
嶋は盛大なため息をつき、蔑むような眼差しで、裸で這う伊摘を見下ろした。
「その言葉を信じたいんですが、あいにく裏切りの中で育ってきたもので簡単に信じるわけにはいかない。それにあなたは信じるに値しない。組の金を盗んだ男を信用する人がどこにいますか? まったく、組長も組長だ。簡単に絆されて抱いて、馬鹿なのは昔のままだ」
伊摘は掠れた声で叫んだ。
「貴昭のことを悪く言うな! それに……俺は組の金なんか奪ってない。あんたが俺に渡したんだ。手切れ金だって。貴昭の次期組長という座に障害になるって言うから……俺は行きたくもない北海道に行った」
「なんのことやら」
とぼける嶋を強く睨みつける。
「あんたは俺に言っただろ。次期組長である貴昭の足元をすくわないでくれって。俺が貴昭の妨げになるから離れて欲しいって。それに貴昭が組長になれば結婚するだろう、子供もできるだろう……俺が惨めになるだけだから、そうなる前に、このまま貴昭から離れて欲しい。今なら……貴昭が入院している今なら、俺を逃がしてやれる……そう言って、北海道行きの飛行機のチケットと一千万を手切れ金だって渡した」
苦しい声で話す伊摘に、見下ろす嶋の目線は冷たい。
「それでもあなたは金を掴み、北海道へ行った。それが証拠でしょう?」
「俺は……苦しかった。離れたくなかった。でも貴昭のためを思って東京を去った。……貰った一千万は手をつけてない。返す。それで俺とあんたの関係は切れる。貴昭とも。それでいいだろ?」
決意を滾らせた伊摘の瞳を見ても、嶋は疑いの眼差しをしたままわざとらしく肩をすくめて首を横に振る。
「一旦見つかってしまったものを隠すのは難しいでしょう。今組長はあなたのことを調べ上げてますよ。人一倍あなたに対して執着心を持っていた人ですから。せっかく北海道に住む場所と職を与えても、これでは……」
「マンションから引っ越す、職も変える」
嶋は考える素振りをしながら、伊摘の目の前に立った。
「どうしましょうか……甘すぎましたかねえ。北海道に飛ばすぐらいでは。今度はアフガニスタンあたりにでも行ってもらいましょうか? いや、手っ取り早くコンクリに詰めたほうがいいかもしれません。二度と現れないように」
青ざめた伊摘の手に嶋は足を乗せて思いっきり踏みつけた。
「ぐっ……」
踏みつけられた手を動かすことすらできない伊摘は、敗北に唇を噛み締める。
「そういうことか」
第三者の声に嶋は驚き振り向いた。伊摘も顔を上げた。
いつの間にそこにいたのか、驚きのあまり伊摘の表情は強張った。
貴昭が開いたドアからゆっくりと室内へ入ってくる。
「嶋、汚ねえ足をどけろや」
嶋は慌てて伊摘の手から足を離したが、次の瞬間、目にも留まらぬ速さで貴昭は曲げた片足を大きく回した。
恐ろしい勢いで嶋がドアの方へ吹き飛んでいく。
衝撃でドアがはずれ、ガラスが飛び散り、嶋はぐったりと倒れた。
「組……長……そいつが……勝手に……」
「うるせえ」
静かな一喝で貴昭はナイフを嶋へ投げた。
ナイフは倒れた嶋の肩に突き刺さり、見る見るうちに床は血で染まっていく。
「ひいっ! 誰か……助け……」
「俺は裏切った奴は許さねえ」
許しを請う嶋を貴昭は見ることはしない。視線はまっすぐ伊摘に据えられていた。
「おい、お前ら」
「は、はい!」
いつの間にかいたらしい数人の男たちに、貴昭は命令した。
「そいつを片付けろ。そうだな、コンクリ詰めが好きらしいからそうしてやれ。俺の慈悲だ」
「いやっ……やめろっ……く、組長!」
嶋は男たちに蔑まれながら、引き摺られて行ってしまった。
悲痛な嶋の声を聞いて可哀想とは思わなかったが、伊摘の前で仁王立ちしている貴昭は恐ろしい。
感情のない冷めた目つきで見下ろす貴昭に、伊摘は体を丸め、身を守ろうとする。
「あいにく俺は結婚もしてねえし、ガキもいねえ。それを結婚してガキもいると嘘つくこともしねえ」
嘘がばれたと知り、伊摘は震える己の肩を抱きしめる。
嶋の言ったとおり、貴昭は伊摘のことを調べたのだ。
いきなり貴昭は感情を爆発させた。
「どうして嘘をついた! 結婚してガキがいるって俺を怒らせたかったのか! ああ!? 答えろ、伊摘!」
貴昭は伊摘の髪を引っつかみ、顔をあげさせると、めらめらと燃え上がる怒りの炎が見えそうな瞳で、伊摘を睨みつける。
伊摘は苦痛に顔を歪めて喋った。
「……そうすれば、貴昭は俺に興味をなくすと思った」
貴昭は乱暴に伊摘の髪を離した。弾みで伊摘は床に崩れ落ちる。
「お前は……ひでえ奴だよ。俺はこの十年お前を憎んだ! 撃たれた俺を見舞いにも来ずに、組の金を持って逃げたと聞かされたお前を! 誰が恨まずにいられる! それとも信じた俺が馬鹿だと思うか!?」
伊摘は震える息をつき起き上がろうとするが、力尽きて床に再び突っ伏した。
「見舞いには行った……。毎日何度も。でも、あの人が……」
咳きこみ体をくの字に曲げて苦しげに言うと、貴昭は拳を握りしめ、体を怒りで震わせた。
「ちくしょう! どれだけあの男は……! コンクリ詰めはヤメだ! 切り刻んでやる!」
「うっ……ごほっ、ごほっ……」
咳が止まらなく、涙目になりながらひりひりする喉を押さえていると、貴昭はそんな伊摘をどうすればいいのか、扱いに逡巡しながら、髪を乱暴にかいて膝をついた。
「……なんで離れた!? 俺はお前を愛していると何度も言ったはずだ!」
まるで泣いているような貴昭の悲痛な声に、伊摘は静かに目を閉じて答える。
「俺も好きだった。死ぬほど。心の底から愛してた。……だから離れたんだ」
すると、貴昭は伊摘を掻き抱くように、強く腕の中に抱きしめた。
「馬鹿やろう……馬鹿やろう! そんなんで離れる奴があるか! 組長の座なんて欲しくて受けたわけじゃねえ! お前が側にいてくれるなら組長の座だっていらねえんだよ! くそったれ!」
貴昭の逞しい体が悲しみに震えている。頬から滑り落ちた雫が伊摘の頬にぽたりぽたりと落ちる。貴昭は泣いていた。
昔に戻ったような懐かしい腕の中で、伊摘も何も言わず微笑んで泣いた。
「なんで言わなかった。組の金を奪い俺から逃げたわけじゃないとなんで言わなかった……嘘をついまでしてどうして……もう俺のことは好きじゃなくなったか? 他に好きな奴ができたのか?」
縋るように問う貴昭に、伊摘は正直に答える。
「好きな人はいない」
「なら、なんでだ? あんな奴を庇ってたわけじゃないだろ?」
「俺は貴昭を裏切った。だから憎まれたままでよかった」
「いいわけねえだろ、ちくしょう……十年だぞ。十年。どんだけ長く待たせるんだ」
貴昭は涙で頬を濡らしたまま、そっと伊摘に口づける。
それははじめてキスをしたときと同じような、淡くも儚い感情を思い出させた。
「俺は必死でお前の行方を探した。それでも見つからなかった。今にして思えば、嶋に全部仕組まれたとわかる。俺もかなりの阿呆だ。お前の行方を他人任せにしたりせず自分の手で探すべきだった」
優しい手つきで貴昭は伊摘の頬を挟む。「悪かった、本当に悪かった」と謝罪の言葉を何度も述べる貴昭に伊摘は首を横に振る。
勝手に姿を消した伊摘を見つけることができなかった貴昭をどうして責めよう。
悪いのは貴昭ではない。伊摘なのだ。
やっと誤解が解け、心が通じ合ったような気がして、伊摘は貴昭の腰にそっと腕を回す。そして溢れる涙を貴昭の胸に押しつけた。
伊摘が腕を回しても手がつかないほど逞しい大きさに、懐かしさを覚え小さく微笑む。
この腕の中に二度と戻れないと思った。
愛した人と通じ合える日はないと覚悟していた。
それが、わだかまりもなく、まるで雪のように跡形もなくとけていく。
十年という離れていた月日を感じさせないほど、お互いを強く感じていた。
そのとき、甘い雰囲気を壊すかのように、携帯電話の震える音が響いた。
貴昭のズボンのポケットから床に落ちたそれは、伊摘の携帯電話だった。
会社のことを忘れていたのに気づき、慌てて携帯電話を掴み、通話ボタンを押したものの、素早く貴昭の手に奪われる。
そのまま床に倒されて伊摘は「あっ……」と声をあげた。
「出るな」
「でも……もしかしたら会社……」
「わかってる。川田物産だったな。俺もてめえの会社のことをよくよく知らねえって思い知った。お前が働いていたことも知らなかったんだからな」
「まさか……」
「組の下っ端の会社だ。表向きは普通の会社になってる。話はつけてあるから出なくていい」
じゃりと貴昭の手の中で携帯電話のストラップが揺れる。
「これ、まだつけてたんだな」
それはストラップにするには相応しくないピンキーリングだった。
「はじめて貴昭から貰ったものだから……」
露店で見つけ数百円しかしない玩具程度のものだったが、伊摘は宝物のように大事にしていた。
十年前はそれなりに美しかった指輪も、今ではところどころ塗りが剥げていて錆びていた。
「もっと立派なやつ買わなきゃなんねえな。お前の薬指は細えからな、何号だ?」
貴昭は伊摘の左の薬指を口に銜える。
いやらしく舌を這わせて舐る貴昭に、伊摘は指を引きかけたが貴昭が手を掴んだ。
「貴昭」
伊摘の瞳は、貴昭の真意を知って揺れ惑う。
「俺は裏切った奴は許さねえんだよ、伊摘、お前は俺のバシタだ。死ぬまで俺の側にいろ。これが罰だ。嫌だといっても聞かねえから」
貴昭は上から覆い被さると伊摘の唇に重ねる。
「ああっ……」
押しつけられた貴昭の下半身が膨らんでいるのを感じて、伊摘の体が甘く蕩けていく。
散々犯された後ろの穴がとろりと白濁をこぼして、まるで強請るようにひくついた。
発情した雄の匂いに、息も絶え絶えになりながら、潤んだ瞳で愛しい男を見上げる。
「ああ、お前はガキが欲しいんだったな。安心しろ。孕むまで中にたっぷりと毎日注いでやる」
そんなこと言ってない、という抵抗は易々と口づけで封じられた。
もし伊摘が女ならとっくの昔に孕んでいただろうが、男同士で孕むもなにもあったものではない。
「お前の暮らす場所はここだ。いいな」
十年前から貴昭は伊摘のヒーローだった。
そのヒーローに逆らう気はない。
伊摘が頷くと、幸せの涙がぽろり零れ落ちた。
もう十年も前に過ぎ去った幸せな夢を。
伊摘は泣いていた。
夢を見ながら泣いていたのだ。
はらはらと涙を流し、シーツがないベッドに顔を押しつける。
あの頃には戻れない。
戻りようがない。
自分から、あの逞しい信頼できる愛で満たされた手を手放したのだから。
涙を拭い、誰もいない部屋を、目を眇めて見つめる。
朝が来たのだ。
湿っぽくどろどろになった毛布は、慰めのように伊摘の裸体にかけられていた。
体は金縛りにでもあったかのように動かない。
だが、力をこめただけで、引き攣った痛みを発した場所から溢れ出た気配に「ああ」と悲痛な声をあげて、再び泣いた。
貴昭に犯されたのだ。
十年ぶりに再会したかつて愛した男に強姦されたという事実に、悲しくて切なくて、伊摘は涙を流した。
昔はとても優しかった。
セックスですら伊摘を傷つけることは決してなかった。
十年という長い月日が変えたのか、それとも伊摘がいなくなったせいで変わってしまったのか、今ではもう推し量ることはできない。
ただ貴昭は逃げた伊摘を許さないだろうと思った。
だから強姦したのだと。
伊摘はベッドにうつ伏せになったまま首だけをめぐらした。
気づかなかったが、この部屋は十年前と同じ、伊摘と貴昭が一緒に過ごしていた部屋だった。
あの頃となにもかもが同じ配置のまま、伊摘がいつ来てもいいように……まるで待っていたかのように、そのままだった。
決して裏切ったわけじゃない。
愛する男のため、伊摘は離れたのだ。
それは間違いだったのだろうか。
抱きしめる逞しい腕を思い出し、泣きながら一人寝を我慢したあの日々は無駄だったのだろうか。
夢で貴昭の面影を追い、何度抱きしめて欲しいと願ったか、愛して欲しいと希ったか。
伊摘は貴昭を愛したことが間違いだと思っていない。貴昭から愛されたことが許されないことだと思っていない。
二人はとても幸せだったから。
ただ、貴昭の側近たちが伊摘をよく思っていないことは知っていた。
遊びなら許せたものを、男と本気で恋愛をしている貴昭に、伊摘のことを邪魔者だと誰もが思っていただろう。
そう……金を与え可愛がるだけの、かえのきく愛人なら誰もが見て見ぬ振りをした。
それを、唯一無二の恋人として扱ったのだから、次期組長の名に傷がつくと思ったのだ。
そして、伊摘は排除された。
伊摘が組の金を持って逃げたと思いこんでいる貴昭は、本当の理由を知らないままに。
それなら、伊摘はこの部屋から一刻も早く立ち去るだけだ。
今更未練のようにしつこく貴昭に付き纏おうとは思わない。
貴昭にとって理由など知らないほうがいい。まして貴昭は皆から「組長」と呼ばれていた。組長……貴昭がめでたく組長になったのなら、伊摘が離れたかいがある。
たとえ、貴昭が未だに伊摘に執着したとしても、ここから立ち去るべきだった。
伊摘はさらに溢れそうになる涙を必死で耐えた。
自分がもっとも愛し、信頼していた男。その男から誤解されたままでも、強姦されたとしても恨むことはできない。
それは今でも愛しているから。心底愛し、無事で生きてくれることを祈っているから。
伊摘は気を奮い立たせて、意地で立ち上がろうとした。
「あっ、ふっ……くそっ……」
だが伊摘はベッドから落ちて悪態をついた。
フローリングは冷たく、僅かな高さでも落ちた痛みが全身に広がる。
「あっ……」
またあらぬ場所から貴昭の放った精液が流れ落ちる。
何度出されたのかわからないほど、犯され広げられた穴は、未だに痙攣を繰り返しては白濁を吐き出そうとしている。
伊摘は涙を乱暴に拭い、食いしばると、立ち上がることもできずに這って動いた。
泥のついたコートもスーツも切り刻まれて、着られるような状態ではない。
伊摘はばらばらになったスーツのポケットから携帯電話を見つけようとした。
朝一で帰るはずの飛行機には多分間に合わない。
この状態で歩けるとも思わない。
あるはずの携帯電話を見つけられず焦る。
ストラップには大事にしていたものをつけてある。
もし落としていたとしたらと思うと気が気ではない。
もしや鞄に入ったままだろうかと考えたが、拉致された際、鞄を手に持っていなかったことを思い出して蒼白になった。
あれには大事な取引先の契約の書類も入っている。
「ちくしょう……」
伊摘は床を這い、どこかに電話はないか探そうとする。
とりあえず会社に電話して、飛行機に乗れなかったことを伝え、それから……。
「あなたに塩をまくべきでしょうか」
はっとして伊摘は顔をあげた。
誰かがいるとは思わなかった。
ドアの前でじっと佇み伊摘を見ていた、眼鏡をかけたこの男の名は嶋基樹。貴昭の側近の男だ。
そして、十年前、伊摘に金を渡し去るように言った男でもある。
「ナメクジでも、もう少し可愛げがあるでしょうに」
伊摘が這ったところが、溢れ流れた貴昭の精液のせいで、まるでナメクジが歩いた場所のように道ができていた。
「どうして東京に戻ってきたんですか? 二度と戻らない約束です」
伊摘はこの男が嫌いだった。
それでも従ったのは全部貴昭のためを思ってのこと。
「そんな約束した覚えはない。俺は出張で来ただけだ。明日……じゃない今日朝一の飛行機で帰る予定だった」
掠れた声で一気に喋ったせいで、伊摘はひどく咳きこんだ。
「私はそれを信じませんよ。どうやって仕組んだんです? わざと組長と偶然ばったり会うような真似をして、下種なことしますね。反吐が出る」
吐き捨てた嶋の言葉に愕然とする。偶然出会ったことを仕組んだなどと思う腹黒さに怒りがこみ上げる。
「仕組んだりしてない! 偶然会っただけだ。俺はこのまま北海道に帰る。それで問題はないはずだ」
このまま東京を去ることしかできない悔しさに、唇を噛み締める。
嶋は疑いの眼差しで問う。
「二度と組長とは会わない?」
「貴昭とは二度と会わない」
またこの苦い言葉を言う羽目になるとは思ってもみなかった。
嶋は盛大なため息をつき、蔑むような眼差しで、裸で這う伊摘を見下ろした。
「その言葉を信じたいんですが、あいにく裏切りの中で育ってきたもので簡単に信じるわけにはいかない。それにあなたは信じるに値しない。組の金を盗んだ男を信用する人がどこにいますか? まったく、組長も組長だ。簡単に絆されて抱いて、馬鹿なのは昔のままだ」
伊摘は掠れた声で叫んだ。
「貴昭のことを悪く言うな! それに……俺は組の金なんか奪ってない。あんたが俺に渡したんだ。手切れ金だって。貴昭の次期組長という座に障害になるって言うから……俺は行きたくもない北海道に行った」
「なんのことやら」
とぼける嶋を強く睨みつける。
「あんたは俺に言っただろ。次期組長である貴昭の足元をすくわないでくれって。俺が貴昭の妨げになるから離れて欲しいって。それに貴昭が組長になれば結婚するだろう、子供もできるだろう……俺が惨めになるだけだから、そうなる前に、このまま貴昭から離れて欲しい。今なら……貴昭が入院している今なら、俺を逃がしてやれる……そう言って、北海道行きの飛行機のチケットと一千万を手切れ金だって渡した」
苦しい声で話す伊摘に、見下ろす嶋の目線は冷たい。
「それでもあなたは金を掴み、北海道へ行った。それが証拠でしょう?」
「俺は……苦しかった。離れたくなかった。でも貴昭のためを思って東京を去った。……貰った一千万は手をつけてない。返す。それで俺とあんたの関係は切れる。貴昭とも。それでいいだろ?」
決意を滾らせた伊摘の瞳を見ても、嶋は疑いの眼差しをしたままわざとらしく肩をすくめて首を横に振る。
「一旦見つかってしまったものを隠すのは難しいでしょう。今組長はあなたのことを調べ上げてますよ。人一倍あなたに対して執着心を持っていた人ですから。せっかく北海道に住む場所と職を与えても、これでは……」
「マンションから引っ越す、職も変える」
嶋は考える素振りをしながら、伊摘の目の前に立った。
「どうしましょうか……甘すぎましたかねえ。北海道に飛ばすぐらいでは。今度はアフガニスタンあたりにでも行ってもらいましょうか? いや、手っ取り早くコンクリに詰めたほうがいいかもしれません。二度と現れないように」
青ざめた伊摘の手に嶋は足を乗せて思いっきり踏みつけた。
「ぐっ……」
踏みつけられた手を動かすことすらできない伊摘は、敗北に唇を噛み締める。
「そういうことか」
第三者の声に嶋は驚き振り向いた。伊摘も顔を上げた。
いつの間にそこにいたのか、驚きのあまり伊摘の表情は強張った。
貴昭が開いたドアからゆっくりと室内へ入ってくる。
「嶋、汚ねえ足をどけろや」
嶋は慌てて伊摘の手から足を離したが、次の瞬間、目にも留まらぬ速さで貴昭は曲げた片足を大きく回した。
恐ろしい勢いで嶋がドアの方へ吹き飛んでいく。
衝撃でドアがはずれ、ガラスが飛び散り、嶋はぐったりと倒れた。
「組……長……そいつが……勝手に……」
「うるせえ」
静かな一喝で貴昭はナイフを嶋へ投げた。
ナイフは倒れた嶋の肩に突き刺さり、見る見るうちに床は血で染まっていく。
「ひいっ! 誰か……助け……」
「俺は裏切った奴は許さねえ」
許しを請う嶋を貴昭は見ることはしない。視線はまっすぐ伊摘に据えられていた。
「おい、お前ら」
「は、はい!」
いつの間にかいたらしい数人の男たちに、貴昭は命令した。
「そいつを片付けろ。そうだな、コンクリ詰めが好きらしいからそうしてやれ。俺の慈悲だ」
「いやっ……やめろっ……く、組長!」
嶋は男たちに蔑まれながら、引き摺られて行ってしまった。
悲痛な嶋の声を聞いて可哀想とは思わなかったが、伊摘の前で仁王立ちしている貴昭は恐ろしい。
感情のない冷めた目つきで見下ろす貴昭に、伊摘は体を丸め、身を守ろうとする。
「あいにく俺は結婚もしてねえし、ガキもいねえ。それを結婚してガキもいると嘘つくこともしねえ」
嘘がばれたと知り、伊摘は震える己の肩を抱きしめる。
嶋の言ったとおり、貴昭は伊摘のことを調べたのだ。
いきなり貴昭は感情を爆発させた。
「どうして嘘をついた! 結婚してガキがいるって俺を怒らせたかったのか! ああ!? 答えろ、伊摘!」
貴昭は伊摘の髪を引っつかみ、顔をあげさせると、めらめらと燃え上がる怒りの炎が見えそうな瞳で、伊摘を睨みつける。
伊摘は苦痛に顔を歪めて喋った。
「……そうすれば、貴昭は俺に興味をなくすと思った」
貴昭は乱暴に伊摘の髪を離した。弾みで伊摘は床に崩れ落ちる。
「お前は……ひでえ奴だよ。俺はこの十年お前を憎んだ! 撃たれた俺を見舞いにも来ずに、組の金を持って逃げたと聞かされたお前を! 誰が恨まずにいられる! それとも信じた俺が馬鹿だと思うか!?」
伊摘は震える息をつき起き上がろうとするが、力尽きて床に再び突っ伏した。
「見舞いには行った……。毎日何度も。でも、あの人が……」
咳きこみ体をくの字に曲げて苦しげに言うと、貴昭は拳を握りしめ、体を怒りで震わせた。
「ちくしょう! どれだけあの男は……! コンクリ詰めはヤメだ! 切り刻んでやる!」
「うっ……ごほっ、ごほっ……」
咳が止まらなく、涙目になりながらひりひりする喉を押さえていると、貴昭はそんな伊摘をどうすればいいのか、扱いに逡巡しながら、髪を乱暴にかいて膝をついた。
「……なんで離れた!? 俺はお前を愛していると何度も言ったはずだ!」
まるで泣いているような貴昭の悲痛な声に、伊摘は静かに目を閉じて答える。
「俺も好きだった。死ぬほど。心の底から愛してた。……だから離れたんだ」
すると、貴昭は伊摘を掻き抱くように、強く腕の中に抱きしめた。
「馬鹿やろう……馬鹿やろう! そんなんで離れる奴があるか! 組長の座なんて欲しくて受けたわけじゃねえ! お前が側にいてくれるなら組長の座だっていらねえんだよ! くそったれ!」
貴昭の逞しい体が悲しみに震えている。頬から滑り落ちた雫が伊摘の頬にぽたりぽたりと落ちる。貴昭は泣いていた。
昔に戻ったような懐かしい腕の中で、伊摘も何も言わず微笑んで泣いた。
「なんで言わなかった。組の金を奪い俺から逃げたわけじゃないとなんで言わなかった……嘘をついまでしてどうして……もう俺のことは好きじゃなくなったか? 他に好きな奴ができたのか?」
縋るように問う貴昭に、伊摘は正直に答える。
「好きな人はいない」
「なら、なんでだ? あんな奴を庇ってたわけじゃないだろ?」
「俺は貴昭を裏切った。だから憎まれたままでよかった」
「いいわけねえだろ、ちくしょう……十年だぞ。十年。どんだけ長く待たせるんだ」
貴昭は涙で頬を濡らしたまま、そっと伊摘に口づける。
それははじめてキスをしたときと同じような、淡くも儚い感情を思い出させた。
「俺は必死でお前の行方を探した。それでも見つからなかった。今にして思えば、嶋に全部仕組まれたとわかる。俺もかなりの阿呆だ。お前の行方を他人任せにしたりせず自分の手で探すべきだった」
優しい手つきで貴昭は伊摘の頬を挟む。「悪かった、本当に悪かった」と謝罪の言葉を何度も述べる貴昭に伊摘は首を横に振る。
勝手に姿を消した伊摘を見つけることができなかった貴昭をどうして責めよう。
悪いのは貴昭ではない。伊摘なのだ。
やっと誤解が解け、心が通じ合ったような気がして、伊摘は貴昭の腰にそっと腕を回す。そして溢れる涙を貴昭の胸に押しつけた。
伊摘が腕を回しても手がつかないほど逞しい大きさに、懐かしさを覚え小さく微笑む。
この腕の中に二度と戻れないと思った。
愛した人と通じ合える日はないと覚悟していた。
それが、わだかまりもなく、まるで雪のように跡形もなくとけていく。
十年という離れていた月日を感じさせないほど、お互いを強く感じていた。
そのとき、甘い雰囲気を壊すかのように、携帯電話の震える音が響いた。
貴昭のズボンのポケットから床に落ちたそれは、伊摘の携帯電話だった。
会社のことを忘れていたのに気づき、慌てて携帯電話を掴み、通話ボタンを押したものの、素早く貴昭の手に奪われる。
そのまま床に倒されて伊摘は「あっ……」と声をあげた。
「出るな」
「でも……もしかしたら会社……」
「わかってる。川田物産だったな。俺もてめえの会社のことをよくよく知らねえって思い知った。お前が働いていたことも知らなかったんだからな」
「まさか……」
「組の下っ端の会社だ。表向きは普通の会社になってる。話はつけてあるから出なくていい」
じゃりと貴昭の手の中で携帯電話のストラップが揺れる。
「これ、まだつけてたんだな」
それはストラップにするには相応しくないピンキーリングだった。
「はじめて貴昭から貰ったものだから……」
露店で見つけ数百円しかしない玩具程度のものだったが、伊摘は宝物のように大事にしていた。
十年前はそれなりに美しかった指輪も、今ではところどころ塗りが剥げていて錆びていた。
「もっと立派なやつ買わなきゃなんねえな。お前の薬指は細えからな、何号だ?」
貴昭は伊摘の左の薬指を口に銜える。
いやらしく舌を這わせて舐る貴昭に、伊摘は指を引きかけたが貴昭が手を掴んだ。
「貴昭」
伊摘の瞳は、貴昭の真意を知って揺れ惑う。
「俺は裏切った奴は許さねえんだよ、伊摘、お前は俺のバシタだ。死ぬまで俺の側にいろ。これが罰だ。嫌だといっても聞かねえから」
貴昭は上から覆い被さると伊摘の唇に重ねる。
「ああっ……」
押しつけられた貴昭の下半身が膨らんでいるのを感じて、伊摘の体が甘く蕩けていく。
散々犯された後ろの穴がとろりと白濁をこぼして、まるで強請るようにひくついた。
発情した雄の匂いに、息も絶え絶えになりながら、潤んだ瞳で愛しい男を見上げる。
「ああ、お前はガキが欲しいんだったな。安心しろ。孕むまで中にたっぷりと毎日注いでやる」
そんなこと言ってない、という抵抗は易々と口づけで封じられた。
もし伊摘が女ならとっくの昔に孕んでいただろうが、男同士で孕むもなにもあったものではない。
「お前の暮らす場所はここだ。いいな」
十年前から貴昭は伊摘のヒーローだった。
そのヒーローに逆らう気はない。
伊摘が頷くと、幸せの涙がぽろり零れ落ちた。
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