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はじめての夜
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壁際にガイアが寄ったので、隣にそっと体を滑りこませる。キキはどこに行けばいいかうろうろしていたが、俺の枕元に来て落ち着いたようだ。
男二人が寝ても十分な広さがあるので密着することはない。宿屋では足が出ていたガイアもこのベッドでは余裕でおさまる。
ガイアが心底満足そうに息をつく。
ふかふかな寝心地に包み込むような肌触りのシーツ、温かな羽毛布団はこの世の天国と言ってもいい。お風呂と並んで二大天国だ。
風もない静かな夜に、次第に眠気が襲ってくる。
「君はまだ踊っているのか?」
もう寝たと思っていたガイアが静かに訊いてきた。
「ここに来てから踊ってません」
「そうか」
お金を稼ぐ必要がない今、踊る必要もない。それにゲーム中では踊りはデフォルト。今踊れるかと訊かれたら、多分踊れない。戦うのが怖いのと一緒だ。
「君の踊りは本当に美しく官能的だ。踊っていないと聞いて……少しほっとした」
「どうしてですか?」
「君が踊ると誰の目も釘付けにしてしまう。俺と結婚した今、独占欲のようなものだ。もう一度見たいと思うと同時に誰にも見せたくないと嫉妬してしまう」
ガイアは恥ずかしげもなく、自分の心情をそう口にした。
暗闇の中でガイアの手が俺の髪に触れる。
「結婚してくれてありがとう」
真摯な言葉だった。
「君が独り身でよかった。美しい君は、もうとっくに誰かのものになっているのだと思っていた」
俺ははっと息を呑んだ。彼は見目の良さで俺を選んだのかもしれない。
「この姿は偽物かもしれませんよ?」
意地悪でもなんでもなく、思ったことがつい口から出た。
今の俺はシノというゲームの中の作られた姿。本当は日本でサラリーマンをしている、なんの取り柄もない普通の男なのに。
「不思議なことを言う。年を重ねれば姿は変わっていくかもしれないが、心根は変わらない。俺と結婚してくれた。家に入れてもてなしてくれた。うまい食事も温かい風呂も柔らかいベッドも提供してくれた。これほど嬉しいことはない」
ガイアの心根はまっすぐで純粋だ。街の人ですら、騎士団が俺に用があると知ったとき、疑いの目を向けたのに、一度しか会っていない俺を簡単に信じている。
衣擦れの音がして、すぐ側でガイアの息遣いを感じたと思った瞬間、唇に触れてきた。口づけされたのだと知って、慌てて顔を背けると、後ろにいたキキが「キュン」と邪魔そうに鳴く。頭の上に手をやりキキを宥めるように撫でるが、嫌がって床に逃げてしまった。
ガイアがぎゅっと抱きしめてくる。
「愛している」
囁くようなガイアの声は甘く少し掠れている。
結婚したのだから、キスもその後の行為もおかしくはないのだが、俺にも心の準備というものがあって……正直に言うと少し怖い。ガイアに一度抱かれたとはいえ、記憶がないのではじめても同然だ。
「君と結婚出来て本当に嬉しい」
俺なら恥ずかしくて言えない言葉もガイアは驚くほど率直に口にする。彼はそういう男なのだ。
「好きだ」
熱がこもる声にまた唇を塞がれて、今度は逃げずに受け止める。
好かれていること自体に嫌悪はなく、キスも悪い気はしない。ガイアの迸る情熱を受け止めるように、体から力を抜いて唇を開いた。
「シノ」
はじめて名前を呼ばれてどきっとする。
「シノ」
確かめるようにキスの合間に何度も呼ぶ声は熱く、服越しに伝わるガイアの大きな体からも欲望が伝わってくる。
体に触れられて、至るところに口づけを受けて、俺の体は次第に蕩けていく。
はじめは優しく、羽毛に包まれるかのように優しく抱かれた。
二度目は少しだけわがままに、背後から一つになった。
三度目は情熱的に、炎が燃え上るように激しく貫かれた。
四度目はもう覚えていない。
抱きしめる腕の逞しさやしっかりと受け止めてくれる胸板の厚さに体を預けたまま、ほとんど気絶寸前で抱き付いていたような気がする。
体力も精力も尽きることがなく、その絶倫さに最後は声も出なかった。
「愛してる。シノ」
何度も言われたその言葉を最後に俺は目を閉じたのだ。
男二人が寝ても十分な広さがあるので密着することはない。宿屋では足が出ていたガイアもこのベッドでは余裕でおさまる。
ガイアが心底満足そうに息をつく。
ふかふかな寝心地に包み込むような肌触りのシーツ、温かな羽毛布団はこの世の天国と言ってもいい。お風呂と並んで二大天国だ。
風もない静かな夜に、次第に眠気が襲ってくる。
「君はまだ踊っているのか?」
もう寝たと思っていたガイアが静かに訊いてきた。
「ここに来てから踊ってません」
「そうか」
お金を稼ぐ必要がない今、踊る必要もない。それにゲーム中では踊りはデフォルト。今踊れるかと訊かれたら、多分踊れない。戦うのが怖いのと一緒だ。
「君の踊りは本当に美しく官能的だ。踊っていないと聞いて……少しほっとした」
「どうしてですか?」
「君が踊ると誰の目も釘付けにしてしまう。俺と結婚した今、独占欲のようなものだ。もう一度見たいと思うと同時に誰にも見せたくないと嫉妬してしまう」
ガイアは恥ずかしげもなく、自分の心情をそう口にした。
暗闇の中でガイアの手が俺の髪に触れる。
「結婚してくれてありがとう」
真摯な言葉だった。
「君が独り身でよかった。美しい君は、もうとっくに誰かのものになっているのだと思っていた」
俺ははっと息を呑んだ。彼は見目の良さで俺を選んだのかもしれない。
「この姿は偽物かもしれませんよ?」
意地悪でもなんでもなく、思ったことがつい口から出た。
今の俺はシノというゲームの中の作られた姿。本当は日本でサラリーマンをしている、なんの取り柄もない普通の男なのに。
「不思議なことを言う。年を重ねれば姿は変わっていくかもしれないが、心根は変わらない。俺と結婚してくれた。家に入れてもてなしてくれた。うまい食事も温かい風呂も柔らかいベッドも提供してくれた。これほど嬉しいことはない」
ガイアの心根はまっすぐで純粋だ。街の人ですら、騎士団が俺に用があると知ったとき、疑いの目を向けたのに、一度しか会っていない俺を簡単に信じている。
衣擦れの音がして、すぐ側でガイアの息遣いを感じたと思った瞬間、唇に触れてきた。口づけされたのだと知って、慌てて顔を背けると、後ろにいたキキが「キュン」と邪魔そうに鳴く。頭の上に手をやりキキを宥めるように撫でるが、嫌がって床に逃げてしまった。
ガイアがぎゅっと抱きしめてくる。
「愛している」
囁くようなガイアの声は甘く少し掠れている。
結婚したのだから、キスもその後の行為もおかしくはないのだが、俺にも心の準備というものがあって……正直に言うと少し怖い。ガイアに一度抱かれたとはいえ、記憶がないのではじめても同然だ。
「君と結婚出来て本当に嬉しい」
俺なら恥ずかしくて言えない言葉もガイアは驚くほど率直に口にする。彼はそういう男なのだ。
「好きだ」
熱がこもる声にまた唇を塞がれて、今度は逃げずに受け止める。
好かれていること自体に嫌悪はなく、キスも悪い気はしない。ガイアの迸る情熱を受け止めるように、体から力を抜いて唇を開いた。
「シノ」
はじめて名前を呼ばれてどきっとする。
「シノ」
確かめるようにキスの合間に何度も呼ぶ声は熱く、服越しに伝わるガイアの大きな体からも欲望が伝わってくる。
体に触れられて、至るところに口づけを受けて、俺の体は次第に蕩けていく。
はじめは優しく、羽毛に包まれるかのように優しく抱かれた。
二度目は少しだけわがままに、背後から一つになった。
三度目は情熱的に、炎が燃え上るように激しく貫かれた。
四度目はもう覚えていない。
抱きしめる腕の逞しさやしっかりと受け止めてくれる胸板の厚さに体を預けたまま、ほとんど気絶寸前で抱き付いていたような気がする。
体力も精力も尽きることがなく、その絶倫さに最後は声も出なかった。
「愛してる。シノ」
何度も言われたその言葉を最後に俺は目を閉じたのだ。
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