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第1章

第10話 「進撃のレインボーユーカリ」

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「なんだよもおおおおおおおおお! またかよぉおおおおお!」

 走れども走れども後ろから虹色の木が迫ってくる。正しくその姿はスターを手に入れた配管工のおっちゃんであり、やつに触れた木やら石やらは簡単に吹き飛んでいく。これでは進行ルートを変えようが何しようが途端にやつに追いつかれてしまう。

「ミラーゼぇ、ししょぉーーーー! なんとかしてやーーー!?」

「無理だよ、あんなの無理だってぇええッ!!!」

「ししょおおおおおおおおお!!!!」

「いやぁああああああああああああああああ!!!」

 ここは地獄だ。地獄なんだ。痛車で逃げようかとも思ったが、木々が多すぎてどうしようもない。無論、七光虹色肉を使って痛車を無敵化できるなら話は別なのだが、残念ながら肉が手元に残っていない。

「助けてアン⚪︎ンマーンッ!!!!!!!!!」

「助けてチェー⚪︎ソーマーンッ!!!!!!!!!!!」

「助けて勇者クゥうううううううううん!!!!!!!!!!!!」

 クソッ、どうすればいい?
 こういうツリー系敵には斧が効くと昔から相場が決まってはいるが、本当にそう言えるか? 虹色に輝いている木に普通のダメージが効くとは思えない。いや、まあ全ての元凶である七光鹿自体は痛車で轢き殺せるくらいの耐久性だったが、いずれにせよ触ったら即死しそうな敵に近接戦闘を仕掛けるのはあまり得策でないことくらいスライムでもわかる。

 ん?

 スライム?

 そういえばスライムってよく燃えるよな。イノシシャの肉に付着していた分だけでも面白いくらいに長い時間火柱が立っていた。相手は一応木なのだから火には弱いのではないか? 

 いや、でも待て。

 そもそもスライム自体もうないじゃないか。さっき慎吾が懐から取り出したデフォルメ肉についていた分しかない。いや、、、しかし、、、

「ッハ! 慎吾、お前の身につけている服をよこせッ! 付着したスライムを発火させて投げつけるぞッ!!!」

「何ッ!? デジャブか!? とりあえず農家の三種の神器は持っているぞ?」

「ならばよしッ! じゃあさっさと裸になれッ!!!」

 慎吾はその指示に従ってすぐにシャツを脱いでこちらに投げてよこす。確かに気持ち悪いほどにスライムの粘液でぐちょぐちょしている。燃やすにはちょうどいいだろう。

「クソッ! 佐武郎、走ってるとズボンとパンツが脱げねえッ!!!」

「何ッ!? お前そっちにもスライムついてるのか?」

「ああ、あの粘液デフォルメ肉は俺の股間の中に収納してたからな。そっちの方が湿ってんだ」

「な、な、なんだって!? う、ボクは何てものを食べてしまったんだ……ッ!!!」

 突如としてミラーゼが口を抑えて今にも吐き出すんじゃないかってくらい腰を丸めた。まあ、無視無視。いつかそんなの気にならなくなる日が来るだろうから。少なくとも俺はそうである。

「それにしてもお前の股間異次元だな」

「そうだろ? 俺自慢の四次元空間だ」

 ともかく今ある資源だけでも最大限活用していこう。とは言ってもやることはシンプル。服に火をつけて投げるだけだよッ!

「これでも喰らえや木偶の坊ッ!!!」

 少し火傷しながらも火の玉になった慎吾の服を後方に投擲する。それは見事に進撃のレインボーユーカリに着弾し、大きな火柱を発生させた。みるみるうちに木の皮が色鮮やかな虹色からどんどん炭化して黒色になっていく。だが、、、

「駄目だッ! 表面だけが炭化しただけで対して効果が出ちゃいないッ!!!」

「やはり同じ手は通用せんということですな……」

「じゃ、じゃあどうするんだよ君たちッ!?」

「いやあんたも考えろや! 先輩だろ?」

「うえぇええええええええ?」

 とりあえず第一の手は潰された。もう一度試すこともできなくはないが、その場合代償として森の中を全裸で走る変態を召喚してしまう。そして、やったところで表皮を炭化させる以上の効果は望めそうにもない。さて、どうしたものか、、、

「佐武郎ッ! スキルだよ、お前にはあのスキルがあったじゃないか!」

「何ッ? 何のことだ?」

「あれだよッ! 『痛車召喚』だ!」

 その言葉を聞いた瞬間、ギルドの禍々しい水晶玉によって出力された俺唯一のスキルを思い出す。



 《痛車召喚Ⅰ》
 半径10km以内に存在する特定の痛車を呼び寄せる。最新の自動運転技術を適用することにより、事故率を最大30%まで抑えることに成功した(当社比)なお、走行距離が増加するごとに事故確率が上昇する。



 確かにこのスキルは現状を打開する手札になる可能性がある。だがッ___あの木々をも容易く薙ぎ払い、石を砕くあの化け物に痛車でどう対抗すればいい。それに……

「もしも痛車を失ったら、俺たちはこれからどう生きていけばいいというんだッ!?」

 この過酷な異世界を生きるにあたって痛車は俺たちの唯一で最大の武器である。この戦いで痛車が使い物にでもならなくなったら残るのは無職と痛車なし痛車マスター。例えるならばポ⚪︎モン世界で無職とポ⚪︎モン無しポ⚪︎モンマスターがバディを組んで世界一のポ⚪︎モンマスターを目指すようなものである。

 え? そもそもお前たちはどこを目指してこの世界を生きているのかだって?

 黙れYO⭐︎


「佐武郎……」

「なんだ慎吾」

「馬鹿かお前!?」

「何だと単細胞!?」

「、、、いいか、ここで俺たちが死んだら元も子もねえだろ!? 現状いい手が見つからないんだったらもう痛車を賭けて戦うしかねえじゃねえかッ!!!」

「そ、それもそうだが、、、」

 いずれにせよ俺たちが走り続けるのにも限界がある。体力が尽きる前にこの状態をどうにかしなければならないし、時間が経つにつれてそれを実行するための体力も減っていく。とにかく今できる最善策を取り続けるべきだというのは正しい。

「それにだ。痛車を失ったら本当にそれで最後だと思うか? よく思い出してみろ、《痛車召喚》の説明文を。あそこには、ある範囲内に存在する“特定の痛車“という記述があった。つまり、特定の痛車という言葉を使うからには複数の痛車を手に入れる機会が用意されているという解釈ができる!」

「なッ、、、お前多細胞生物だったのか、、、」

「しかもッ! この状況、進撃のレインボーユーカリ様がお優しいことに痛車が全力かつ安全に走行できるような道まで作ってくれている! ここまでお膳立てされたシチュはなかなかないぜッ!」

「、、、たまにはいいこと言うじゃねえか」

「だろ?」

 上裸の男に感心したくはないが、そのアイディア自体に罪はない。ありがたく使わせていただこう。一番最初の頃の、あの時の感覚を想起する。頭の中の白いキャンバスに痛車の輪郭からペイントされたキャラまで、全てを詳細に思い描く。さあ、今こそ見せてやろう。痛車マスターの真の力をッ!!

「《痛車召喚》ッ!! 俺たちの痛車よ、ここまで全速力で走ってこいッ!!!」

 その瞬間、遠くの方からエンジン音が微かに聞こえた。その音は段々と走行音にかき消され、次第に近くまで迫ってくる。そして、背後から強い光が差し込んだ。まるで希望のような光。それはまさしく痛車のヘッドライトから発せられた光だった。

「おお、夜なのにすごい明るいっ!」

「俺がデコした車舐めんなッ!!」

 ついには痛車が進撃のレインボーユーカリの背後に迫る。次の瞬間、まるでムカデの足のように動く木の根っこがタイヤに巻き込まれてブチブチと根っこが切れていく。それにつれて進撃のレインボーユーカリの進行速度が遅くなり、最後には後方にバタンと倒れる。その表皮は虹色からだんだんと色を失って普段の落ち着いた色に戻り、そうなる頃には完全に沈黙した。

「俺の痛車ぁあああああああああああああああ!!!!!!!」

「俺の嫁ぇええええええええええええええええ!!!!!!!」

 それぞれ大切なものがある俺たちは直ぐに倒れた木の後ろに回り込んで痛車の安否を確認する。幸いなことに、左バンパーの破損とヘッドライトが故障しただけでそれ以上の傷は見当たらない。これならまだ使えそうだ。それがわかって俺はほっとする。ただ、横のやつは少しダメそうである。

「あぁあああああ!!! か、か、カルたんの足が複雑骨折ッ!!!!!!!」

「だ、大丈夫慎吾くん?」

「う、嘘だ、嘘だと言ってくれえええええええええッ!!!!!」

「嘘だ⭐︎」



 翌日、普通に森の中をドライブしてたら街に帰って来れた。





 △▼△▼△ おまけ △▼△▼△

「なあ、あの後レインボーユーカリからずり落ちたらしい虹色肉を拾って持ってきたんだけどどうすればいいと思う?」

「そんな触れただけで命を与えるような特級呪物なんざさっさと捨てちまえ」

 最終的に防腐処理してから乾燥させてミイラにすることが決定した。








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