上 下
5 / 19
第1章

第5話 「いいか、痛車は愛なんだよッ!!!!」

しおりを挟む
「何と禍々しい姿、、、あれは悪魔なのか?」
「皮膚に人の魂が憑依しておる。悪霊の類ではないだろうか?」
「と、ともかくギルドのものを呼んでこよう。戦いになるかもしれない」
「それもそうだな」



 エルソルシア。
 それは勇者が生まれ育った農業の街であり、魔王の支配領域からかなり離れているため比較的平和だとされている場所である。

 うん、俺の記憶の中ではそうなのだが、なぜ俺の目の前にいる人々は殺意むき出しで鍬やら斧やらを掲げているのだ? これでは外界の人間を隔絶する蛮族じゃないか。

「あのクソ野郎ッ! バンパーのカルたんに松明投げやがったぞ!? 生かしちゃおけねえ、轢き殺せッ!」

「まあ、待て慎吾。ここは大人しく相手の話を聞いてみよう」

 正直、魔女狩り装備を身につけた人間と話せば火炙りになりそうだが、ここはリスクを取ってでもコミュニケーションを図らなければならない。ガソリンの残量が別の街まで持ちそうにないのだ。

「中から人が出てきたぞ。交戦するつもりかもしれん。皆の衆、武器を構えよ! ギルドの者は最前線で街を守れ!」

 町長っぽいのか知らんが、偉そうなやつが群衆から出てきた。しかも老人。これは厄介なことになりそうだ。

「いや待てッ! 俺はここに戦いに来たのではないッ! 武器を納めるんだッ!」

「何を言う、その禍々しいものを街に持ち込んでおいて何を言うのだ!」

 喋るたびに相手の口から唾が飛び出す。やけに好戦的なジジイだ。久しぶりに楽しい楽しいディベート大会ができそうである。

「禍々しいだとッ、聞き捨てならねえ、やはり轢き殺さなければッ!」

「おい、あいつ今轢き殺すって言ったぞ、やっぱりこの街を侵略しにきた魔族かなんかに違いねえ!」

「慎吾ォオオオオオ、一度黙れえええええええええええええッ!!!!」

 俺の声でざわついていた周囲の奴らが静かになった。

「いいか、俺たちは平和の使者なのだッ! 決して戦いに来たのではないッ!」

「ではお前たちの持ち込んだその得体の知れぬものは一体何なのだ!?」

「得体が知れぬだと? よく見てみろ、これは痛車というただの鉄の塊の上に絵を描いたものだ。触ってみてもいいぞ?」

「そんなものになど触れるか、お前が触ってみせろ!」

 なぜこいつらはこんなにも痛車を怖がるんだ? 王は普通にプロモーションしてたし、『王』に関しては普通に乗り込んできたんだぞ? 全く、こういう時代はすぐにご近所さん経由で悪い噂がすぐに広まったのだろうな。

「ほら、触っても何もない。いいか、これは俺たちが愛する女の子たちの絵を描いただけのものなのだッ!」

「何ッ、言われてみればあれはただの絵だ。別に禍々しいものじゃ、、、というか、あれなんか可愛くね?」
「確かに可愛いわ」
「俺なんか欲しくなってきたかも……」

「ええい、惑わされるなッ! そもそもお前たちは愛​を語ってはいるが、それには複数の女の子の絵が描かれているではないか! 恋人が複数いるなどもってのほか、浮気ではないかッ!?」

「浮気だとッ! いつから人は愛すべきものを複数持ってはならないと定められたのだッ!? そもそも愛に壁などあってはならぬッ! 愛するものを愛し、全てを大切にするッ! これこそが人間として大切なことではないのかッ!」

「な、何とふしだらな思想、、、」

「フッ。それって、あなたの感想、ですよね? (ゲス顔)」

「ナニィ!?」

「箱推し上等、関連商品全買いコンプリート、同人誌もD⚪︎siteで一括購入。これの何が悪いッ!? そもそも浮気とは愛が偏るからダメなのだッ! だが、俺たちは全てを平等に愛するッ!! その証明がこの痛車ッ!!! いいか、痛車は愛なんだよッ!!!!」

「グフッ!!!」

「さ、佐武郎ッ! お前あんなに痛車をボロクソに言ってたくせに、本当は愛してくれてたんだなッ! 感動したぜッ、その演説ッ!!」

 決まった。
 完璧なる勝利ッ!
 インターネットの糞溜め御三家、Yo⚪︎tu⚪︎eのコメント欄、Y⚪︎hoo知恵袋、そして最高峰最長老たる2ch、5chで鍛え上げられた俺の論破力を舐めるんじゃねえッ!

 フッ、日本の八百万の神々よ。
 日本のプライドは俺たちが守りましたぜ。

「うおーーーーーーー、痛車は愛ッ! 痛車は愛ッ!」
「この愛すべき訪問者たちを歓迎するんだッ!」
「うッう、そこに痺れる憧れるぅッ!」
「俺、今日好きな女の子全員に告るわ」
「俺も、だぜ。兄弟」

 こうして俺たちは始まりの街エルソルシアに愛の使徒として足を踏み入れることを許可されたのである。





 △▼△▼△





「お嬢さん、冒険者ギルドってどこにあるか分かりますかね? (キリッ)」

「あ、噂の愛の使徒様御一行ですね! この道をまっすぐ進んで右に曲がればありますよ」

「感謝する」

「いえいえ、このくらい当然のことです!」

 大演説をぶちかました後、後々やってきた羞恥心を押しつぶしつつ、済ました顔でドライブを続ける。やべえ、思い返すと心臓が握りつぶされて死にそうだ。ハンドルも握りつぶしそう。

「いやぁ、俺たち愛の使徒だってよ? 俺の痛車改造も役になったな!」

「あ“? 今から死にたいだぁ?」

「お、おい。佐武郎なんでそんな殺気だってんだ」

「これが酒を飲まずにやっていられるかッ! 羞恥心で死ぬわ」

「佐武郎……」

「なんだ」

「羞恥心なんか捨てろ。恥じらいというものは人を時に縛りつけ、せっかくのチャンスを台無しにする。恥じていいのは可愛い女の子だけなんだ」

「なっ、お前珍しくいいことを」

「だから俺は、夜中に家の前の路上を全裸で彷徨くという厳しく、そして興奮するような修行を重ねた」

「今、お前が恥じらいを捨てたせいでせっかくのイメージ修正機会を失ったぞ」

「何だとッ!?」





 △▼△▼△





「なんか聖地巡礼みたいな気分だな」

「わかるそれ」

 ギルド。
 それは中世ファンタジーを語るには欠かせない存在。いかついキャラクターから可愛い女の子という多種多様な人々が集うロマンの場所。人種のサラダボウルとはまさにこの場所であろう。

 まあひとまずマイ痛カーを路上駐車し、ブラックな木材で作られた入り口からギルドに入る。

「いらっしゃいませ。ご用件は何でしょ↓うぉ↑って!?」

「ほ、本物の受付嬢ッ! 感謝ッ、この出会いに感謝ッ!」

 慎吾が入った瞬間にカウンターまで駆け寄って受付嬢の手を握る。流石だな、屋外で全裸になれる無敵の人の思想は分かんねえわ。

 あ、そういえばだけど最近のアニメで受付嬢めっちゃやってる声優さん居るよな。誰だっけか。

「あ、あのぉ~、そんなに手を握られても困るのですが」

「いえ、後もう少し、ほんのもう少しでいいのでッ!」

「やめろ慎吾、周りからの視線が痛すぎる」

 このギルド、クエスト受付のコーナーもあるがほとんどのスペースが酒場として使われている。昼間っから飲みまくってるゴツい奴らの視線は殺人級だ。

「ところで受付嬢さん、ギルドに登録する方法を教えてもらってもいいですか?」

「登録ですね。そしたらまずはお二人分の登録料、1000ラム支払っていただけますか?」

「ああ、1000ラムね。ええと確か、、、おい、ラムってなんだ慎吾。ラム肉のことか? この受付嬢は大食いなのか?」

「何ッ!? あなたは大食い属性も持っているのか!? 俺の性癖にグサグサ突き刺さってくるぞッ!」

「すみません、お金払っていただけないとこの先は、、、」

「何ッ!? ここはそういうお店なのか!? 今すぐ払うぞ、いくらなんだ?」

「いや、だから1000ラム、、、」

 まいったな。俺の財布にはクレジットカードと10万円くらいは入っているがラムなんて通貨は持ち合わせていない。クソが、これが電子化の遅れの弊害だというのかッ!?

「佐武郎、俺にいい案がある」

「何だと、また碌でもない案じゃないだろうな?」

「いいから少し待ってるんだ」

 そう言って慎吾は一度痛車の中に戻り白い何かを抱き抱えて戻ってきた。

「すまんが現金支払いはできん。その代わりにこの『王』で一括支払いできるだろうか?」

「ワンッ!」

 慎吾が持ってきたのは例の王城から連れてきてしまったデカくて白い犬、『王』だった。

 こいつ、イカれてんのか?











しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

家族内ランクE~とある乙女ゲー悪役令嬢、市民堕ちで逃亡します~

りう
ファンタジー
「国王から、正式に婚約を破棄する旨の連絡を受けた。 ユーフェミア、お前には二つの選択肢がある。 我が領地の中で、人の通わぬ屋敷にて静かに余生を送るか、我が一族と縁を切り、平民の身に堕ちるか。 ――どちらにしろ、恥を晒して生き続けることには変わりないが」 乙女ゲーの悪役令嬢に転生したユーフェミア。 「はい、では平民になります」 虐待に気づかない最低ランクに格付けの家族から、逃げ出します。

異世界転生したオタク、本気で鬱展開無しの魔法少女を育てる〜悪の組織と魔法少女達を束ねたら、魔王軍の戦力を超えてました〜

ネリムZ
ファンタジー
 異世界転生をした僕はオタクである。  皆様は異世界だと何を思い浮かべますか?  僕の転生した異世界はタワマンはあるしエアバイクもある⋯⋯だが奴隷は存在するし魔法もある。そんな世界だ。  インフラがしっかりしてテレビもある。しかし、日本アニメと同じクオリティのアニメは存在しない。  退屈の極み。無駄にある時間を魔法訓練に費やしていた。  そんなある日、父に奴隷のサシャを与えられた。運命的な出逢いだと思う。  彼女に魔法を教えていると夢ができた。  無いのなら、作れば良いのだと。  魔法があり基本なんでもできる世界だから想像力が欠如した世界に作る。オタクの夢を。オタクの憧れを。  『この世界に魔法少女を降臨させる』  崇高で尊き夢を実現するために僕は紛争する事にした。  魔法少女を輝かせるには当然敵がいる。それも簡単だ。  『自分達で悪の組織を作れば良い』  僕は魔法少女の組織と悪の組織を作り上げて戦わせる事にした。  王道というテンプレを意識しオタクの憧れを叶える  目標は深夜アニメの魔法少女であり、何故か多い鬱展開は絶対に起こさない。  そのせいで世界は困惑と混乱の渦に叩き落とされ、人間の怨敵の魔王軍の戦力を越えてしまう力を手に入れた。  世界が魔法少女と悪の組織に悪戦苦闘している事など僕は知る由もなく、ただ夢のために少女達を育てていた。  世界最高の魔法少女が活躍する白熱の王道ストーリーが今、始まらんとす! 注意事項 ※魔法少女の登場は数話かかります ※文字数は2000〜3000を目安にしてますが、オーバーする時があります ※奴隷が存在します ※暴れます ※犯罪行為は犯罪なのでしてはいけません ※作者の癖及び偏見が出て来る時がありますが、気にしないでください ※『他視点』を多用します ※感想をいただけると作者は喜びます ※注意事項は後々増える可能性があります

そんなにホイホイ転生させんじゃねえ!転生者達のチートスキルを奪う旅〜好き勝手する転生者に四苦八苦する私〜

Open
ファンタジー
就活浪人生に片足を突っ込みかけている大学生、本田望結のもとに怪しげなスカウトメールが届く。やけになっていた望結は指定された教会に行ってみると・・・ 神様の世界でも異世界転生が流行っていて沢山問題が発生しているから解決するために異世界に行って転生者の体の一部を回収してこい?しかも給料も発生する? 月給30万円、昇給あり。衣食住、必要経費は全負担、残業代は別途支給。etc...etc... 新卒の私にとって魅力的な待遇に即決したけど・・・ とにかくやりたい放題の転生者。 何度も聞いた「俺なんかやっちゃいました?」       「俺は静かに暮らしたいのに・・・」       「まさか・・・手加減でもしているのか・・・?」       「これぐらい出来て普通じゃないのか・・・」 そんな転生者を担ぎ上げる異世界の住民達。 そして転生者に秒で惚れていく異世界の女性達によって形成されるハーレムの数々。 もういい加減にしてくれ!!! 小説家になろうでも掲載しております

神霊さんの不協和音な三兄妹、それと周りの人たち

砂樹
ファンタジー
 東を遠浅の海、他の方角は闇属性の魔物満載な森や険しい岩山に囲まれたその国では、闇属性は恐れられ嫌われていた。  闇属性の少女シシャルは、出自も本名も知らずに最辺境の底辺で生きてきた。そばにいてくれたおじさんが行方不明となった後、空腹で倒れていたところを自称半神霊な若者ドレに拾われ、その妹カユシィーと共に三人で暮らしている。  表面上は仲良くやっていたが、借家への器物損壊事件がきっかけで、それぞれの抱える問題が目につき始め……。  警戒心強いくせに餌付けに弱いシシャル、邪霊なる存在が視える恐怖で暴走するカユシィー、異父妹を守ることに全力を捧げるドレ。  そして、そんな三人に関わったがために苦労に巻き込まれたり愉快なことになったり利益を得たり不利益を被ったりする……勇者と姫と勇者パーティと町の人たちに魔族のみなさん。  同じ方向なんて見ていない三人と周りの人たちの、日常半分、コメディ二割、シリアス二割、その他一割くらいのお話です。 ※報告(2021年8月27日までの変更分)  タイトルを『神霊さんちの三兄妹』から『神霊さんの不協和音な三兄妹、それと周りの人たち』に変更しました。  あらすじを変更しました。本編とのズレが気になってきたため、本編準拠にするための変更です。  各話に通し番号をつけました。  誤字脱字修正と改行位置調整を行いました。  一部表現を修正しました。登場人物や立場ごとに変わる呼称や、明らかな説明不足描写の修正です。本編の流れや登場人物の関係性に変更はありません。  タグを設定しました。  感想受付を「あり」に変更しました。  表紙イラスト(厳密には設定画ラフを加工して大まかな彩色をしたもの)を追加しました。いつになるか未定ですが、後で完成品に差し替えます。

処理中です...