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第1章
第4話 「華麗なる逃走劇、なお痛車 -後編-」
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「あーもうッ、やってやろうじゃねえかクソ野郎、俺のドライブテクで全員地獄送りにしてやるッ!!!」
現在の状況を簡単におさらいしよう。俺たちが乗る痛車の後ろにはまるで小判鮫の如く引っ付いている3台の馬車がある。その内、俺たちに最も近い先頭の馬車には王と遠距離攻撃っ子の魔術師が乗っているという感じ。先ほどから背後より放たれている雨の如き氷弾はその魔術師の野郎が元凶である。
さて、ここから導き出される答えは一つ。
「慎吾、掴まれ! ドリフト走行だ!」
「うぁああ、車が、俺がデコった車が悲鳴を上げてやがる!」
慎吾の悲鳴も虚しく、俺は容赦なく痛車を石畳の上でドリフトさせ、十字路を左折した。瞬間、直ぐに車をUターンさせ、元のルートに進路を修正する。
「おい、佐武郎まさかお前!?」
「そうだ、最後尾の馬車を側面から潰すッ!!」
「マジかよ、クールか!?」
ちょうどその時、右から俺たちを追ってきた最後尾の馬車が姿を現した。刹那、俺はアクセルを思いっきし踏み込み、馬車の側面へとアタックを仕掛けた。結果、痛車全体から伝わる大きな衝撃と共に馬車は道の端まで飛ばされて転倒、中にいた兵士もろともノックアウトである。心はまあ痛むが、俺たちに牙を向いた時点で覚悟はできていただろう? 覚悟してきた人なら仕方ないよなぁ、こっちも命懸けなんだ。
ひとまずこれで3台中1台ダウン、少しは逃げやすくなっただろう。だが、まだ厄介な魔術師車両と中央の馬車が残ってる。しかも、俺たちよりも早くあの馬車たちが門に着いてしまったら、すぐに鉄格子で閉門される可能性がある。そしたら、俺たちは一巻の終わりだ。未だ油断できない状況であることには変わりない。そのため直ぐにバックで痛車の体勢を整え、今度は馬車の後方からあいつらを追跡していく。最短ルートはこの道しかないのだ。
「おい、佐武郎! 今度は中央の馬車から樽のプレゼントだ! 俺の感だが、当たったら結構やばそうだぞ」
「そんなド⚪︎キーコ⚪︎グみたいな」
確かに馬車から兵士たちが必死に樽をこちらに投げつけている。一番最初に投げられた樽はコロコロと一定時間転がったのち、痛車の後方で大爆発した。石畳の舗装道路が抉れて、土煙を上げる。
「なんと、国王は乱心か!?」
一つ二つと続け様に投下されていく爆弾樽をなんとか蛇行運転で回避していく。
さっきからタイヤが擦れまくって耐久どうこうの心配が募るばかりであるが、やっぱり命には代えられん。持ってくれよ、痛車のタイヤ!
……にしても市街地で爆弾樽投下とか反乱待ったなしだろ。
「あ“あ“ぁ、いつまで俺はこのリアル弾幕ゲーをやらにゃならんのだ! ゲームオーバーが死とかS⚪︎Oみたいな展開笑えんぞ!」
「おっとぉ、そんな佐武郎君に朗報だ。ここから先は急な下り坂っぽいぜ?」
次の瞬間、少しだけ車体が確かに浮き、間も無くガタンッという音と共に着地する。どうやら、慎吾の言う通り急な勾配の坂道ステージに入ったようだ。あちらもそれを理解して、爆弾樽投げをストップした。これはチャンスだ、下り坂ならあの馬車に追いつける!
「よっしゃッ、フリーフォールでダイレクトアタック決めてやラァ!」
爆弾樽の攻撃がないおかげで馬車の左サイドを通過し、容易く中央馬車と魔術師様ご一行の馬車の間に侵入できた。ふとサイドミラーを確認してみると、真っ青な顔して運転してる御者と兵士の姿が目に入る。
うーん、でもあなたたち、覚悟してきた人ですよね?
容赦なく痛車を減速し、馬車の動力源である馬を潰す。すると間も無く馬車はバランスを崩し始め、名も知れぬ家にぶつかって爆発四散した。グッバイ、ド⚪︎キーコ⚪︎グブラザーズ、お前たちのことは忘れないぜ。
「これで残りは王の乗る先頭車両のみだな、佐武郎!」
「おう、ただ残された時間はあまりなさそうだ」
そう、先ほどからチラチラと見えてはいたのだが、この下り坂の先には王都の外へと繋がる門がある。あれが俺たちの唯一知る脱出口であり、そこからの脱出チャンスを逃したら多分迷っているうちに包囲されて詰む。従って、必ず俺たちはあの門をくぐり抜けなければならない。
……しかも結構な条件付きで、だ。
これは門の構造によるところが大きい。某アニメ第一話で描かれている南門の種類は落とし格子。その特徴は兎に角開閉が早いこと。閉める時なんてシンプルに名前の通り落下させるだけだからまあ早い。閉めろと王や兵士が命令したら直ぐに閉めることが可能なのである。つまり、先頭車両よりも早く潜るか、先頭車両のノックアウトがここを脱出する際に必要となる条件だ。
しかし前者の条件達成は難しいだろう。なんて言ったって声は痛車より速い。だから俺たちに残された選択肢は限られている。俺たちの前にいる馬車を事故らせるという事に。
「よし、慎吾、走って馬車の御者に日⚪︎タックルだ!」
「無理」
「よし、慎吾、たいあたりだ!」
「技名変えても変わらねえよッ!」
いい加減先頭車両のほうも後ろの馬車がいつの間にか痛車に入れ替わっていたことに気づいたらしく、魔術師が攻撃を再開してきた。変な茶番をしている間に氷弾が車体にガリっと嫌な音を立てて傷をつけていく。参ったな、これでは痛車タックルはできそうにない。制限時間も近いってのにまだまだ問題がさッ!
しかし現実は非常であり、時は刻々と過ぎていき、それと共に痛車の傷は増えていく。まだ幸いフロントガラスとかは割れていないが、それも時間の問題だろう。
「ああぁ、側面のホムンちゃんとフラエルちゃんが削られてくぅうううう!!!!!!!!!!」
「黙れクソ野郎、思考の邪魔だッ!!」
どうにか解決策はないのか?
いや、思いつかない。
最悪だ。
酒でも飲んで思考を放棄したい。
……いや、酒?
酒、酒、酒。
何か引っ掛かる。
ふと、事故る前に立ち寄ったスーパーのことを思い出す。
あの時、俺が買ったものはストゼロと、、、スピリタス。
っは!
スピリタス!
大学生が勢い余って飲んだが故に毎年救急車で運ばれるという闇の酒、そのあまりに高いアルコール度数から消防法より灯油とガソリンと同じ扱いを受けているあの度数96%のスピリタス!
今俺の足元で瓶が転がってるスピリタス!
許せ王よ、もう門まで距離がない、これしかないんだ!
「おい慎吾、ハンカチとライターは持ってるか?」
「勿論だ。農家の三種の神器、ハンカチ、ライター、蚊取り線香は常備してるぞ」
「いいセンスだな、この世界から帰れたら親に感謝しとけ!」
「オッケーボス。で、思いついたお前のイカしたアイディアを聞かせてくれよ」
「よし、それじゃあな……」
説明後、慎吾はニヤッと笑い、素早く俺の計画を実行に移した。そう、その計画とはモロトフ・カクテル計画!火炎瓶を作って馬車のみんなに振る舞おう!という内容だ。この火炎瓶であるが、結構な破壊力がある割に簡単に作れるという優れもの。レシピは単純、瓶に燃料を入れて火種となる布で栓をする。
以上。
後は投げれば瓶が割れ、火種の布で燃料が発火し炎上する。
言っておくがこいつは某空港事件で使われ死者も出たやべえ武器だ。良い子も悪い子も絶対に作るんじゃないぞ。佐武郎にいちゃんとのお約束だ。
「できたで工藤、みんな大好きモロトフ・カクテルだ!」
「よし、馬車に投擲しろ! 一時的に接近する!」
被弾覚悟でアクセルを踏み、肉薄する。結果、運転席側のサイドミラーが氷弾によって破損。痛車のライフはもうゼロよッ!
「いけぇえええええええええ、慎吾! モロトフ・カクテルだぁああああああああああ!!!」
「イエッサー!!!!!!! 地獄の業火に焼かれて死ねぇえええええええ!!!!」
窓より火炎瓶が投げられ馬車に被弾!スピリタスの瓶が割れ、馬車にアルコールが飛び散る。直後、揮発したアルコールに引火し、爆発的に燃え上がった。乗車していた王と魔術師は急いで魔法で呼び出した水で消化しようとするが、時既に遅し。もう勝負は決まったのだ。
そう、お前らが馬車に火薬樽を常備しちまった時点でなぁ!
前方で見事なまでの花火が打ち上がる。魔術師、王、その他諸々が炎とともに爆散! 馬車は姿勢を崩し左側に倒れ込むようにしてスライディング! 再び名も知れぬ家が爆発! これぞ正しく、死の3点セット!
「さあ、道が開けたぞ! 南門を潜り抜けようじゃないか!」
「おうッ!」
そして10秒後、俺たちは門を潜り抜けた。もう痛車はボロボロ、俺と慎吾もボロボロ。だが、確かに俺たちはあの王都から脱出したッ!俺は喜びでハンドルを強く握りしめる。
「勝ったぞ、俺たちの勝利だ!」
「FOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!!(歓喜)」
慎吾は頭を高速で痛車にぶつけることによって喜びを表しているようだ。まあ、今は許そう。命の危機から脱したのだから。そのくらいのことはどうでも良く感じる。
しかし、しばらくたった後、興奮がだんだんと抜け冷静さが戻ってきた。いい加減、慎吾がうざったくなってきたので叩いて直した。
「痛ッ! 何すんだテメェ、こっちは生の喜びを噛み締めてんだよ!」
「それはこっちのセリフだ、俺の愛車にフレンドリーファイアすんじゃねえ!」
その言葉で、慎吾も少しは冷静さを取り戻したらしく、直ぐにシラフの顔つきになった。よしよし、これだったら質問ができそうだ。そういうことで、落ち着いてきたらなんとなく頭に浮かんだ言葉をぶつけてみる。
「んで、俺たちこれからどうすればいいんだ、専門家の慎吾先生?」
慎吾は少し考えた後、こう一言告げた。
「それなら始まりの街、エルソルシアに行くぞッ!」
この時の俺たちは知らなかった……
この後あんなことが起きるなんて。そしてその元凶が、白い体毛につぶらなお目目の気品あるあの『王《お犬様》』がこの車に乗車していたからだったなんて……
ま、別に実際起きるかなんて知らんがな。
だって今気づいたんだもん。
「嘘、だろ?」
「やっちまったなぁ、こりゃ」
俺たちは後部座席に乗車していた『王』を見てそう呟いた。
現在判明している佐武郎一行が犯した犯罪一覧:
・飲酒運転
・田中んちを爆破
・不法侵入
・不敬罪
・痛車による人身事故
・牢獄からの脱出
・公務執行妨害
・ドリフト走行
・王城の破壊
・スピード違反
・カーチェイスによる市街地の破壊
・馬車との交通事故
・所有馬への攻撃
・王と魔術師への殺人未遂
・『王』の誘拐
以上15項目。
現在の状況を簡単におさらいしよう。俺たちが乗る痛車の後ろにはまるで小判鮫の如く引っ付いている3台の馬車がある。その内、俺たちに最も近い先頭の馬車には王と遠距離攻撃っ子の魔術師が乗っているという感じ。先ほどから背後より放たれている雨の如き氷弾はその魔術師の野郎が元凶である。
さて、ここから導き出される答えは一つ。
「慎吾、掴まれ! ドリフト走行だ!」
「うぁああ、車が、俺がデコった車が悲鳴を上げてやがる!」
慎吾の悲鳴も虚しく、俺は容赦なく痛車を石畳の上でドリフトさせ、十字路を左折した。瞬間、直ぐに車をUターンさせ、元のルートに進路を修正する。
「おい、佐武郎まさかお前!?」
「そうだ、最後尾の馬車を側面から潰すッ!!」
「マジかよ、クールか!?」
ちょうどその時、右から俺たちを追ってきた最後尾の馬車が姿を現した。刹那、俺はアクセルを思いっきし踏み込み、馬車の側面へとアタックを仕掛けた。結果、痛車全体から伝わる大きな衝撃と共に馬車は道の端まで飛ばされて転倒、中にいた兵士もろともノックアウトである。心はまあ痛むが、俺たちに牙を向いた時点で覚悟はできていただろう? 覚悟してきた人なら仕方ないよなぁ、こっちも命懸けなんだ。
ひとまずこれで3台中1台ダウン、少しは逃げやすくなっただろう。だが、まだ厄介な魔術師車両と中央の馬車が残ってる。しかも、俺たちよりも早くあの馬車たちが門に着いてしまったら、すぐに鉄格子で閉門される可能性がある。そしたら、俺たちは一巻の終わりだ。未だ油断できない状況であることには変わりない。そのため直ぐにバックで痛車の体勢を整え、今度は馬車の後方からあいつらを追跡していく。最短ルートはこの道しかないのだ。
「おい、佐武郎! 今度は中央の馬車から樽のプレゼントだ! 俺の感だが、当たったら結構やばそうだぞ」
「そんなド⚪︎キーコ⚪︎グみたいな」
確かに馬車から兵士たちが必死に樽をこちらに投げつけている。一番最初に投げられた樽はコロコロと一定時間転がったのち、痛車の後方で大爆発した。石畳の舗装道路が抉れて、土煙を上げる。
「なんと、国王は乱心か!?」
一つ二つと続け様に投下されていく爆弾樽をなんとか蛇行運転で回避していく。
さっきからタイヤが擦れまくって耐久どうこうの心配が募るばかりであるが、やっぱり命には代えられん。持ってくれよ、痛車のタイヤ!
……にしても市街地で爆弾樽投下とか反乱待ったなしだろ。
「あ“あ“ぁ、いつまで俺はこのリアル弾幕ゲーをやらにゃならんのだ! ゲームオーバーが死とかS⚪︎Oみたいな展開笑えんぞ!」
「おっとぉ、そんな佐武郎君に朗報だ。ここから先は急な下り坂っぽいぜ?」
次の瞬間、少しだけ車体が確かに浮き、間も無くガタンッという音と共に着地する。どうやら、慎吾の言う通り急な勾配の坂道ステージに入ったようだ。あちらもそれを理解して、爆弾樽投げをストップした。これはチャンスだ、下り坂ならあの馬車に追いつける!
「よっしゃッ、フリーフォールでダイレクトアタック決めてやラァ!」
爆弾樽の攻撃がないおかげで馬車の左サイドを通過し、容易く中央馬車と魔術師様ご一行の馬車の間に侵入できた。ふとサイドミラーを確認してみると、真っ青な顔して運転してる御者と兵士の姿が目に入る。
うーん、でもあなたたち、覚悟してきた人ですよね?
容赦なく痛車を減速し、馬車の動力源である馬を潰す。すると間も無く馬車はバランスを崩し始め、名も知れぬ家にぶつかって爆発四散した。グッバイ、ド⚪︎キーコ⚪︎グブラザーズ、お前たちのことは忘れないぜ。
「これで残りは王の乗る先頭車両のみだな、佐武郎!」
「おう、ただ残された時間はあまりなさそうだ」
そう、先ほどからチラチラと見えてはいたのだが、この下り坂の先には王都の外へと繋がる門がある。あれが俺たちの唯一知る脱出口であり、そこからの脱出チャンスを逃したら多分迷っているうちに包囲されて詰む。従って、必ず俺たちはあの門をくぐり抜けなければならない。
……しかも結構な条件付きで、だ。
これは門の構造によるところが大きい。某アニメ第一話で描かれている南門の種類は落とし格子。その特徴は兎に角開閉が早いこと。閉める時なんてシンプルに名前の通り落下させるだけだからまあ早い。閉めろと王や兵士が命令したら直ぐに閉めることが可能なのである。つまり、先頭車両よりも早く潜るか、先頭車両のノックアウトがここを脱出する際に必要となる条件だ。
しかし前者の条件達成は難しいだろう。なんて言ったって声は痛車より速い。だから俺たちに残された選択肢は限られている。俺たちの前にいる馬車を事故らせるという事に。
「よし、慎吾、走って馬車の御者に日⚪︎タックルだ!」
「無理」
「よし、慎吾、たいあたりだ!」
「技名変えても変わらねえよッ!」
いい加減先頭車両のほうも後ろの馬車がいつの間にか痛車に入れ替わっていたことに気づいたらしく、魔術師が攻撃を再開してきた。変な茶番をしている間に氷弾が車体にガリっと嫌な音を立てて傷をつけていく。参ったな、これでは痛車タックルはできそうにない。制限時間も近いってのにまだまだ問題がさッ!
しかし現実は非常であり、時は刻々と過ぎていき、それと共に痛車の傷は増えていく。まだ幸いフロントガラスとかは割れていないが、それも時間の問題だろう。
「ああぁ、側面のホムンちゃんとフラエルちゃんが削られてくぅうううう!!!!!!!!!!」
「黙れクソ野郎、思考の邪魔だッ!!」
どうにか解決策はないのか?
いや、思いつかない。
最悪だ。
酒でも飲んで思考を放棄したい。
……いや、酒?
酒、酒、酒。
何か引っ掛かる。
ふと、事故る前に立ち寄ったスーパーのことを思い出す。
あの時、俺が買ったものはストゼロと、、、スピリタス。
っは!
スピリタス!
大学生が勢い余って飲んだが故に毎年救急車で運ばれるという闇の酒、そのあまりに高いアルコール度数から消防法より灯油とガソリンと同じ扱いを受けているあの度数96%のスピリタス!
今俺の足元で瓶が転がってるスピリタス!
許せ王よ、もう門まで距離がない、これしかないんだ!
「おい慎吾、ハンカチとライターは持ってるか?」
「勿論だ。農家の三種の神器、ハンカチ、ライター、蚊取り線香は常備してるぞ」
「いいセンスだな、この世界から帰れたら親に感謝しとけ!」
「オッケーボス。で、思いついたお前のイカしたアイディアを聞かせてくれよ」
「よし、それじゃあな……」
説明後、慎吾はニヤッと笑い、素早く俺の計画を実行に移した。そう、その計画とはモロトフ・カクテル計画!火炎瓶を作って馬車のみんなに振る舞おう!という内容だ。この火炎瓶であるが、結構な破壊力がある割に簡単に作れるという優れもの。レシピは単純、瓶に燃料を入れて火種となる布で栓をする。
以上。
後は投げれば瓶が割れ、火種の布で燃料が発火し炎上する。
言っておくがこいつは某空港事件で使われ死者も出たやべえ武器だ。良い子も悪い子も絶対に作るんじゃないぞ。佐武郎にいちゃんとのお約束だ。
「できたで工藤、みんな大好きモロトフ・カクテルだ!」
「よし、馬車に投擲しろ! 一時的に接近する!」
被弾覚悟でアクセルを踏み、肉薄する。結果、運転席側のサイドミラーが氷弾によって破損。痛車のライフはもうゼロよッ!
「いけぇえええええええええ、慎吾! モロトフ・カクテルだぁああああああああああ!!!」
「イエッサー!!!!!!! 地獄の業火に焼かれて死ねぇえええええええ!!!!」
窓より火炎瓶が投げられ馬車に被弾!スピリタスの瓶が割れ、馬車にアルコールが飛び散る。直後、揮発したアルコールに引火し、爆発的に燃え上がった。乗車していた王と魔術師は急いで魔法で呼び出した水で消化しようとするが、時既に遅し。もう勝負は決まったのだ。
そう、お前らが馬車に火薬樽を常備しちまった時点でなぁ!
前方で見事なまでの花火が打ち上がる。魔術師、王、その他諸々が炎とともに爆散! 馬車は姿勢を崩し左側に倒れ込むようにしてスライディング! 再び名も知れぬ家が爆発! これぞ正しく、死の3点セット!
「さあ、道が開けたぞ! 南門を潜り抜けようじゃないか!」
「おうッ!」
そして10秒後、俺たちは門を潜り抜けた。もう痛車はボロボロ、俺と慎吾もボロボロ。だが、確かに俺たちはあの王都から脱出したッ!俺は喜びでハンドルを強く握りしめる。
「勝ったぞ、俺たちの勝利だ!」
「FOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!!(歓喜)」
慎吾は頭を高速で痛車にぶつけることによって喜びを表しているようだ。まあ、今は許そう。命の危機から脱したのだから。そのくらいのことはどうでも良く感じる。
しかし、しばらくたった後、興奮がだんだんと抜け冷静さが戻ってきた。いい加減、慎吾がうざったくなってきたので叩いて直した。
「痛ッ! 何すんだテメェ、こっちは生の喜びを噛み締めてんだよ!」
「それはこっちのセリフだ、俺の愛車にフレンドリーファイアすんじゃねえ!」
その言葉で、慎吾も少しは冷静さを取り戻したらしく、直ぐにシラフの顔つきになった。よしよし、これだったら質問ができそうだ。そういうことで、落ち着いてきたらなんとなく頭に浮かんだ言葉をぶつけてみる。
「んで、俺たちこれからどうすればいいんだ、専門家の慎吾先生?」
慎吾は少し考えた後、こう一言告げた。
「それなら始まりの街、エルソルシアに行くぞッ!」
この時の俺たちは知らなかった……
この後あんなことが起きるなんて。そしてその元凶が、白い体毛につぶらなお目目の気品あるあの『王《お犬様》』がこの車に乗車していたからだったなんて……
ま、別に実際起きるかなんて知らんがな。
だって今気づいたんだもん。
「嘘、だろ?」
「やっちまったなぁ、こりゃ」
俺たちは後部座席に乗車していた『王』を見てそう呟いた。
現在判明している佐武郎一行が犯した犯罪一覧:
・飲酒運転
・田中んちを爆破
・不法侵入
・不敬罪
・痛車による人身事故
・牢獄からの脱出
・公務執行妨害
・ドリフト走行
・王城の破壊
・スピード違反
・カーチェイスによる市街地の破壊
・馬車との交通事故
・所有馬への攻撃
・王と魔術師への殺人未遂
・『王』の誘拐
以上15項目。
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