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第4章 2人の戦い
4章 第2話
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撮影の中断とともに、張り詰めていた空気が一瞬にして緩んで、俺も息を吐くと⋯⋯ガツッという音と共に、俺の右足に激痛が走った。
いきなり右足をおもっきり踏まれたのだ。玲華に。
「イッ⋯⋯!? は!? なにすんの!?」
周りに迷惑をかけないように声を潜めながらピョンピョンし、精一杯玲華に抗議の視線を送る。
本当は大声で叫びたいくらい痛かった。
「あら失礼。なんか”優菜”の気持ちになって見てたらムカついたから」
「それでなんで俺なんだよ!?」
陽介さんに怒れよ、陽介さんに。
「さあ?」
いつもの不機嫌な誤魔化し方をする。
更に抗議をしようと思っていると、凛と陽介さんが俺たちを見つけて寄ってきた。
「⋯⋯なにしてるの?」
凛が怪訝そうにつま先を押さえている俺を見ている。
「いきなりこいつが足を踏んできやがった」
「翔くんが何かしたの?」
「なーんも」
明るくにっこりと即答しやがった。
凛も呆れている。
「ただ、『あー、鈍感男がドロボウ猫にちょっかい出されてるときの女の気持ちってこんな感じなのかしら?』って思いながら見てたら、なんか腹立ってきちゃったから、つい♪」
なんだかすごく棘のある言葉だった。それは”沙織”ではなくまるで凛本人に言ってるような口ぶりだ。
この”ドロボウ猫”というフレーズは、”優菜”が”沙織”に抱いている感情で、作中では”優菜”が女友達との会話中に”沙織”をドロボウ猫と表する場面がある。女子同士の井戸端会議もしっかり表記しているあたりは、さすが少女漫画が原作だと言えよう。
ただ、今の流れでこのフレーズは全く必要ない。明らかに他意を含んでいる物言いだった。
「待て、それならどうして俺に当たるんだよ、絶対陽介さんだろ」
変な空気になるのが嫌だったので、とりあえず陽介さんを巻き込んでみた。
「さあ?」
しかし、玲華はさっきと同じ対応をする。
陽介さんは苦笑いでその様子を見ていた。
「大丈夫?」
凛が心配そうにこちらを覗き込む。
こうして近くで見ると、凛もヘアメイクさんにしっかりとメイクされており、いつもより大人っぽく見える。女子高生というより、女子大生みたいだ。
「大丈夫、ありがとう」
痛みが引いてきたので、両足で立ってみた。
まだじんじんしている。絶対内出血起こしてそう。
「うーん、きっと大切な人を大切にしなかったから、”ドロボウ猫”に盗られちゃうんじゃないかなぁ。そのままの彼を受け入れてあげなかったり、とかね?」
意外にも、今度は凛のほうがまるで玲華本人に対して挑発するように、言葉を返す。
あの、凛さん? どうしたの? 君そんなこと言う人じゃないでしょ?
なんだか不穏な空気を感じつつあった俺は、背中あたりがひやっとしてくる。
「ほー? 言うじゃない」
そんな凛に対して、更に好戦的な視線を向ける玲華。
(あ、あの⋯⋯これは⋯⋯?)
ちょっと待って。今カメラ回ってませんよね? 演技はやめてもいいんですよ?
今あなた達は”優菜”と”沙織”にならなくていいんですよ? ね?
背中に冷や汗が垂れてくる。
「陽介さん⋯⋯」
助けを求めて陽介さんを見ていると、ふむふむと俺を見て何かに納得している様子だった。
「なるほどなるほど。俺はそういう表情をすればいいのか」
「あんたね⋯⋯」
この野郎⋯⋯ほんとに観察対象にして演技に使う気だ。
「あの、玲華さん、そろそろ出番では?」
とりあえず何か場を和ませないと。全然流れわかってないけど適当にぶっこんでみよう。
「ちゃう、次もリン。あ、でもブランク空きすぎて疲れちゃった? おねんねの時間かな? 私から監督に言って休憩取ってあげよっか?」
「ぜーんぜん? なんだったら夜通し撮影でもできるよ?」
バチバチッと2人の視線が交わったところに火花が見えた気がした。
おいおい、さっきさすが凛だとかなんだとか言ってたくせに、何でそんなに喧嘩売ってるんだ。
「RINさーん、メイクちょっとだけ直させてください」と少し遠くからヘアメイクさんから声がかかり、凛は「はーい」と明るく返事を返した。
助かった。救世主となったヘアメさんに俺はこころから感謝した。
「あ、翔くん。次のシーン終わったら少し休憩だから、それまで待ってて?」
凛がまるでさっきの火花散らしがなかったかのように、微笑んだ。
そこにいたのは、いつもの凛。俺にだけ見せてくれる笑顔。それに少しだけ安心して、わかった、と頷いてやる。
すると、彼女も安心したように、凛はヘアメさんのところに向かった。
「ほー⋯⋯?」
凛の背中を見守ると、玲華は意味ありげな視線を送ってくる。
「なるほど、ね」
そして、冷めた視線で何かに納得した。
「なに」
「さあ? 私ちょっとロケバスで寝てくる」
こっちの声など全く聞き入れない様子で、さっさと立ち去ってしまった。
そして、ぽつんと俺と陽介さんだけが取り残される。
「⋯⋯初日から思った以上に効果が出すぎてて怖いな」
陽介さんはぽそりともらした。
「朝からこんなんだったんですか?」
「いや、君が来るまでは普通に仲よかったんだけどね」
「⋯⋯⋯」
「いやー、あの2人の間に挟まれんのかー! 役でよかった~」
ぽんぽん、と俺の肩を叩いて、面白そうな陽介さん。
あの、俺もうスタッフやめていいかな?
いきなり右足をおもっきり踏まれたのだ。玲華に。
「イッ⋯⋯!? は!? なにすんの!?」
周りに迷惑をかけないように声を潜めながらピョンピョンし、精一杯玲華に抗議の視線を送る。
本当は大声で叫びたいくらい痛かった。
「あら失礼。なんか”優菜”の気持ちになって見てたらムカついたから」
「それでなんで俺なんだよ!?」
陽介さんに怒れよ、陽介さんに。
「さあ?」
いつもの不機嫌な誤魔化し方をする。
更に抗議をしようと思っていると、凛と陽介さんが俺たちを見つけて寄ってきた。
「⋯⋯なにしてるの?」
凛が怪訝そうにつま先を押さえている俺を見ている。
「いきなりこいつが足を踏んできやがった」
「翔くんが何かしたの?」
「なーんも」
明るくにっこりと即答しやがった。
凛も呆れている。
「ただ、『あー、鈍感男がドロボウ猫にちょっかい出されてるときの女の気持ちってこんな感じなのかしら?』って思いながら見てたら、なんか腹立ってきちゃったから、つい♪」
なんだかすごく棘のある言葉だった。それは”沙織”ではなくまるで凛本人に言ってるような口ぶりだ。
この”ドロボウ猫”というフレーズは、”優菜”が”沙織”に抱いている感情で、作中では”優菜”が女友達との会話中に”沙織”をドロボウ猫と表する場面がある。女子同士の井戸端会議もしっかり表記しているあたりは、さすが少女漫画が原作だと言えよう。
ただ、今の流れでこのフレーズは全く必要ない。明らかに他意を含んでいる物言いだった。
「待て、それならどうして俺に当たるんだよ、絶対陽介さんだろ」
変な空気になるのが嫌だったので、とりあえず陽介さんを巻き込んでみた。
「さあ?」
しかし、玲華はさっきと同じ対応をする。
陽介さんは苦笑いでその様子を見ていた。
「大丈夫?」
凛が心配そうにこちらを覗き込む。
こうして近くで見ると、凛もヘアメイクさんにしっかりとメイクされており、いつもより大人っぽく見える。女子高生というより、女子大生みたいだ。
「大丈夫、ありがとう」
痛みが引いてきたので、両足で立ってみた。
まだじんじんしている。絶対内出血起こしてそう。
「うーん、きっと大切な人を大切にしなかったから、”ドロボウ猫”に盗られちゃうんじゃないかなぁ。そのままの彼を受け入れてあげなかったり、とかね?」
意外にも、今度は凛のほうがまるで玲華本人に対して挑発するように、言葉を返す。
あの、凛さん? どうしたの? 君そんなこと言う人じゃないでしょ?
なんだか不穏な空気を感じつつあった俺は、背中あたりがひやっとしてくる。
「ほー? 言うじゃない」
そんな凛に対して、更に好戦的な視線を向ける玲華。
(あ、あの⋯⋯これは⋯⋯?)
ちょっと待って。今カメラ回ってませんよね? 演技はやめてもいいんですよ?
今あなた達は”優菜”と”沙織”にならなくていいんですよ? ね?
背中に冷や汗が垂れてくる。
「陽介さん⋯⋯」
助けを求めて陽介さんを見ていると、ふむふむと俺を見て何かに納得している様子だった。
「なるほどなるほど。俺はそういう表情をすればいいのか」
「あんたね⋯⋯」
この野郎⋯⋯ほんとに観察対象にして演技に使う気だ。
「あの、玲華さん、そろそろ出番では?」
とりあえず何か場を和ませないと。全然流れわかってないけど適当にぶっこんでみよう。
「ちゃう、次もリン。あ、でもブランク空きすぎて疲れちゃった? おねんねの時間かな? 私から監督に言って休憩取ってあげよっか?」
「ぜーんぜん? なんだったら夜通し撮影でもできるよ?」
バチバチッと2人の視線が交わったところに火花が見えた気がした。
おいおい、さっきさすが凛だとかなんだとか言ってたくせに、何でそんなに喧嘩売ってるんだ。
「RINさーん、メイクちょっとだけ直させてください」と少し遠くからヘアメイクさんから声がかかり、凛は「はーい」と明るく返事を返した。
助かった。救世主となったヘアメさんに俺はこころから感謝した。
「あ、翔くん。次のシーン終わったら少し休憩だから、それまで待ってて?」
凛がまるでさっきの火花散らしがなかったかのように、微笑んだ。
そこにいたのは、いつもの凛。俺にだけ見せてくれる笑顔。それに少しだけ安心して、わかった、と頷いてやる。
すると、彼女も安心したように、凛はヘアメさんのところに向かった。
「ほー⋯⋯?」
凛の背中を見守ると、玲華は意味ありげな視線を送ってくる。
「なるほど、ね」
そして、冷めた視線で何かに納得した。
「なに」
「さあ? 私ちょっとロケバスで寝てくる」
こっちの声など全く聞き入れない様子で、さっさと立ち去ってしまった。
そして、ぽつんと俺と陽介さんだけが取り残される。
「⋯⋯初日から思った以上に効果が出すぎてて怖いな」
陽介さんはぽそりともらした。
「朝からこんなんだったんですか?」
「いや、君が来るまでは普通に仲よかったんだけどね」
「⋯⋯⋯」
「いやー、あの2人の間に挟まれんのかー! 役でよかった~」
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