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第3章 大切なもの

女が最も嫌うもの

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「いやぁ⋯まさかあのREIKAと話せるとは思わなかったぜ⋯⋯こんな田舎にいても人生何が起きるかわかんないもんだ」
「さすがに私も心臓止まった」
「翔といると、なんかすごい経験できるよな。RINと友達になれてREIKAとも話せたって、すごくね?」
「どっちもコイツの女だけどな」

 愛梨がとんでもない事を言う。

「あのな、そういう誤解を生むことは」
「元カノと今カノだろ」

 ぐうの音も出ない。その通りだった。

「ぐっ⋯⋯忘れてた」

 純哉は表情を一転させて、拳をプルプル握りしめる。

「どうしてお前ばっかり!」
「しらねーよ! こっちも迷惑してんだよ」

 いい加減にしてほしかった。
 こっちは凛のことを話したくてここにきただけなのに、こうしてまた凛のいないところで玲華と会っている。
 そして、一瞬で昔みたいに話している自分にも嫌気が指す。俺が流されやすいのか? いや、それもあるけども⋯⋯あいつが上手すぎるのだ。

「大方、あんたが撮影に参加するってのもそのへんが原因なんだろ」

 愛梨はタバコを1本出して、ライターに火を灯した。
 玲華がいる前では、遠慮していたようだ。こういった気遣いができるので、こいつは良い元ヤンなのだと思う。

「あの2人がバトりそうで、その監視、もしくは仲裁が目的⋯⋯ってとこか?」

 少し吸って、フーッと天に煙を吐き出した。

「まあ、そんなとこ」
「だと思ったよ。お前が撮影に参加したがるようなミーハーだとも思えないしな」
「ええ、まじかよ。俺なら超参加したい。何なら今から参加したい」
「純哉はミーハーだからな」
「うっせえ」

 そんな2人のやり取りに安心感を覚えつつ、どこか愛梨の言葉に棘を感じていた。
 愛梨からすれば凛は友達なわけで⋯⋯友達の彼氏の元カノがこうして堂々と現れているのは、やはり気にくわないことなのだろう。

「で、今度は何が問題なんだ? あの学祭か? いや、違うな。もっと根本的なことだ」
「⋯⋯⋯」
「アンタに未練タラタラな元カノが、今カノを猛烈に敵視してるってとこか?」

 愛梨の追求は厳しい。きっと玲華は敵視はしていないと思う。
 少し前までは敵視していたけれど、今は違う。それは昨日の撮影を見ていても明らかだった。
 敵視していれば、あそこで舞台に上げる真似はしない。

「そこまでじゃ⋯⋯ないとは思うけど」
「でも、決着はつけたがってる」

 相変わらず勘がいい女だった。そこは間違いないと思っている。

「⋯⋯⋯」
「どうして男ってのはそんなに昔の女が好きかねぇ」

 愛梨は呆れたように、大袈裟に溜息を吐いた。
 別に⋯⋯決して好きなわけじゃない、と思う。もちろん、嫌いなわけでもないのだけれど。

「何をどうしたら一番話がうまくまとまって、誰もがあるべき場所に落ち着くなんてことは、ちょっと考えたらわかるだろ。まー⋯⋯それができないのが、男ってものなのかもな」

 そうして、煙を天井に向けて吹かす。

「あ? どういう事だよ?」
「童貞にはわかんねー話だよ」
「なっ!?」

 純哉が顔を赤くしているが、それ以上追撃はしなかった。逆襲されることがわかりきっているのだろう。
 この手の話では、愛梨は純粋無垢な男心を粉みじんのように砕く。こいつの悪い癖だった。

「あたしは凛の友達だから、REIKAと今日会った事は言わない。で、きっとアイツも言わない」

 マスターを指差して言う。

「あのね、愛梨ちゃん⋯⋯僕、一応年上なんだけど」

 マスターが文句を言うが、愛梨は無視だ。マスターが溜息を吐くが、お構いなしだった。

「だから純哉、アンタも今日の事は黙ってな」
「は? なんで」
「凛が傷つくからだろ。わかれよ、ボケナス」

 ああ、愛梨はやっぱりよくわかっているんだな。
 きっと、ある程度今日のやり取りで関係性も見抜かれているのかもしれない。
 凛と玲華が水面下でバトっていて⋯⋯その状況で俺たちと仲良く過ごしていた事を知ると、きっと凛は傷つく。
 もちろん、凛は傷ついていることを表面には出さない。
 いつものように、少し眉根を寄せて、困ったように笑うだけだろう。
 愛梨は凛のことをしっかりと理解していて⋯⋯こう見えて、優しい女なのだ。

「え、じゃあ、俺奢り損じゃ⋯⋯」
「まあ、そういうことだな」
「⋯⋯⋯」

 純哉がずーんと暗くなる。

「いや、俺から言っておくよ」

 胃が重くなるけど、凛を傷つけることが分かっているけど、きっと隠すよりは言ったほうがいい。
 玲華のことだ。
 撮影現場で話題に出すことも考えられる。
 その時に凛が今日の事を知って傷つき、俺たちに隠されていたことも知って傷つくのであれば、きっと先に言っておいたほうがいい。

「お前なぁ⋯⋯」
「先に言っておきたいんだ。あとから知って嫌な思いするより、俺が言っておいた方がいいだろ」

 少なくとも、そのほうが誠意があるように思えた。
 言うと、その事情もわかるのだろう。愛梨が大きく溜め息をして、頭を掻いた。

「あのな、相沢。女が一番嫌いなもの、知ってるか?」
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