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第3章 大切なもの

玲華の狙い④

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「それにしても、サヤカちゃんは心配だな。かなりマネージャーに泣き言を言っているみたいだしね」

 昨日も辞めたいと泣いていた、と田中マネージャーが言う。

(マネージャーの知らないところで、玲華も結構キテたと思うんだけどな)

 田中の言葉を聞きながら、俺はふと思う。
 彼女が一人だけマンスリーアパートを借りていたから気付けなかっただけかもしれないが、おそらく、玲華も相当やばかったはずだ。あくまでも、昨日の玲華が嘘をついてなければ、の話だが。

「今朝撮った私との絡みがあるシーンも全部NGだってさ。はぁー⋯⋯」

 玲華がガックリと肩を落として大きく溜息を吐いた。撮り直し、ということだろう。大変そうだ。
 そこに、怒り終えた犬飼監督がノシノシとやってきた。後ろでは、サヤカちゃんとやらが泣いている。そのままサヤカちゃんとやらは、マネージャーっぽい人に連れられてどこかに行ってしまったが⋯⋯さすがに可哀想だな。

「お疲れ様です」

 玲華が恭しく頭を下げたので、俺もぺこっとだけ頭を下げる。
 犬飼監督は俺達をじろっと見ていた。こえええ。何もしてないのに怒られそうだ。

「⋯⋯ご無沙汰しております」

 凛も続いて犬飼監督に深々と頭を下げた。
 犬飼監督は、凛がいたことに驚いたのか、目を大きく見開いた。そして、一瞬何か言おうと口ごもったが、フンと鼻を鳴らしただけだった。
 犬飼監督も、自分のせいでRINが引退し、大きな騒動になってしまったことに関しては、少しは罪悪感でもあるのだろうか。
 もしかすると、気まずいのはRINだけでなく、犬飼監督も同じなのかもしれない。

(まあ、自業自得だよな)

 ロリコン映画監督と思われても仕方ない。俺だって、玲華から話を聞いてなければ、ロリコンだと思っていたわけだし。
 なんだか、すごく色んな問題をはらんでいる撮影現場なんだな、というのだけは、素人の俺でもよくわかった。
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